メンタルヘルス(精神疾患)の完全ガイド:症状・原因から最新治療、公的支援まで
精神・心理疾患

メンタルヘルス(精神疾患)の完全ガイド:症状・原因から最新治療、公的支援まで

心の不調を感じたとき、まず知りたいのは受診先、治療の選択肢、そして費用支援ではないでしょうか。本ガイドは日本の診療ガイドラインと公的情報にもとづき、休養・薬物療法・心理療法といった基本から、新しい治療法であるrTMS、そして自立支援医療制度までを、科学的根拠を重視してやさしく整理します。世界保健機関(WHO)の2025年更新報告によれば、世界の約7人に1人が何らかの精神障害を抱えているとされ(1)、これは決して他人事ではありません。この記事が、あなたが一人で抱え込まず、希望への一歩を踏み出すための確かな道しるべとなることを目指します。

この記事の信頼性について

本記事は、日本の公的機関・学会が発行するガイドラインや、国際的に評価の高い査読付き学術論文を最優先の典拠(Tier A/B)としています。数値や事実は「値・年・対象集団」を明確に示し、科学的根拠の確実性や限界点も可能な限り併記します。本記事はJHO編集部がAIを活用して編集・検証しました。外部の医師・専門家の関与はありません。

主な参照情報源

  • 厚生労働省(MHLW)&国立精神・神経医療研究センター(NCNP): 日本の公的制度(自立支援医療など)や疾患の定義に関する記述は、これらの国内最高権威機関の公式情報に準拠しています(2)(3)。
  • 日本うつ病学会(JSMD)&日本精神神経学会(JSPN): うつ病や不安症の標準治療(薬物療法・精神療法)に関する推奨は、各学会の最新診療ガイドラインに基づいています(4)(5)。
  • 世界保健機関(WHO): メンタルヘルスの定義や国際的な有病率の統計は、WHOの公式ファクトシートや報告書を典拠としています(1)。
  • 国際的な学術誌(JAMA Psychiatry, Lancet Psychiatryなど): 治療法の有効性に関する記述は、信頼性の高い査読付き学術誌に掲載された研究(ネットワークメタ解析など)を根拠にしています(6)(21)。

この記事の要点

  • 定義の整理:メンタルヘルスは誰もが持つ「心の状態」を指し、精神疾患は国際診断基準(ICD-11など)を満たす「医学的な病気」です(10)。
  • 日本の標準治療:基本は「休養・薬物療法・心理療法」の三本柱です。うつ病ではSSRIやSNRIが第一選択薬の一つとされています(4)。
  • 先進治療の選択肢:薬で改善しないうつ病に対し、rTMS(反復経頭蓋磁気刺激法)が2019年6月から保険適用となっています(22)。
  • 費用支援制度:「自立支援医療(精神通院医療)」を利用することで、医療費の自己負担が原則1割に軽減され、所得に応じた月額上限も設定されます(27)。
  • 世界の現状:WHOの2025年更新によれば、世界の約7人に1人が何らかの精神障害を抱えています。以前の「8人に1人」という表現は更新が必要です(1)。

もしかして…?こころの不調を感じているあなたへ

仕事のプレッシャーや人間関係、将来への漠然とした不安など、私たちの心は日常的に様々なストレスにさらされています。気分が沈む、食欲がわかない、物事に集中できないといった経験は、誰にでもある自然な反応です。しかし、これらの「こころの不調」が長期間続いたり、学業や仕事、家事といった日常生活に支障をきたしたりするようになった場合、それは単なる「気のせい」や「気合が足りない」といった精神論で片付けられる問題ではないかもしれません。

日本では、困難に黙って耐える「我慢」が美徳とされる文化的背景があり(8)、精神的な問題を他者に打ち明けることに強い抵抗感、すなわち「スティグマ(社会的な偏見や恥の意識)」が根強く存在します(9)。この見えない壁が、専門家への相談をためらわせる大きな要因となっています。しかし、体の病気と同様に、心の不調も早期に専門家の助けを求めることが、回復への最も確実で安全な道です。このセクションが、ご自身の状態を客観的に見つめ直し、次の一歩を踏み出すためのきっかけとなることを願っています。

「メンタルヘルス」と「精神疾患」の違いとは?

まず、多くの方が混同しがちな基本的な言葉の意味を明確に区別することから始めましょう。この二つの用語を正しく理解することは、ご自身の状態を客観的に把握し、適切な情報を得る上で非常に重要です。

「メンタルヘルス」(Mental Health)は「心の健康」と訳され、特定の病気を指す言葉ではありません。WHOはこれを「個人が自らの可能性を認識し、日常のストレスに対処でき、生産的かつ有益な仕事ができ、さらに地域社会に貢献できる、良好な状態」と定義しています(7)。つまり、絶好調な状態から不調な状態まで、連続的に変化する心の状態そのものを包括する幅広い概念です。

一方で「精神疾患」(Mental Illness/Disorder)は、メンタルヘルスの不調が一定のレベルを超え、WHOのICD-11などの国際的な診断基準で定められた明確な基準を満たした、医学的な「病気」を指します(10)。「うつ病」や「不安症」といった診断名がこれにあたります。さらに、精神疾患が原因で日常生活や社会活動に著しい制約が生じている状態を「精神障害」(Mental Disability)と呼び、福祉サービスの対象となる場合があります(11)。

一目でわかる用語比較表

表1: 関連用語の比較
用語 意味 性質 具体例
メンタルヘルス 心の健康(状態) 健康か不調かという、連続的な心の状態そのもの 仕事でストレスを感じる。少し気分が落ち込んでいる。
メンタルヘルス不調 心の健康が良くない状態 過度なストレス等による不調で、まだ病気とは診断されていない段階 ストレスが続き、不眠や集中力低下が生じている。
精神疾患 心の病気 国際的な診断基準を満たす、明確な医学的診断名 うつ病、不安症(不安障害)、統合失調症など。
精神障害 精神の障害 疾患の結果として、日常生活や社会参加に持続的な制約がある状態 うつ病が原因で、仕事を続けることが困難になっている。

知っておきたい代表的な精神疾患

日本では、国民の健康に大きな影響を与えるとして、がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病と並び、「精神疾患」が「5大疾病」の一つに位置づけられています(12)。これは、精神疾患が誰にとっても身近な健康問題であることを国が公式に認めている証です。ここでは、厚生労働省の公式情報などを基に(2)、代表的な疾患をいくつかご紹介します。

  • うつ病: 持続的な気分の落ち込みや、興味・喜びの喪失が中核症状です。不眠、食欲不振、疲労感といった身体症状も伴います。世界精神保健日本調査(WMHJ)などによれば、日本国内で生涯に一度でもうつ病を経験する人の割合は5~7%程度と推定されています(12)。
  • 双極性障害: 気分が著しく落ち込む「うつ状態」と、気分が異常に高揚し活動的になる「躁状態」を繰り返す疾患です。
  • 不安症(不安障害): 日常生活に支障をきたすほどの過剰な不安や恐怖を感じる疾患群です。人前での強い緊張を特徴とする「社交不安症」、突然の動悸や息苦しさに襲われる「パニック障害」、様々な事柄へ常に不安を感じる「全般性不安障害(GAD)」などを含みます。
  • 強迫性障害(OCD): 自分の意思に反して不快な考え(強迫観念)が浮かび、その不安を打ち消すための行動(強迫行為)を繰り返さずにはいられなくなる疾患です。
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD): 命の危険を感じるような出来事(トラウマ)を体験した後、その記憶がフラッシュバックしたり、悪夢を見たり、過度に警戒したりする状態が続く疾患です。
  • 統合失調症: 考えや感情をまとめることが難しくなり、幻覚や妄想といった現実との区別がつきにくい症状(陽性症状)が現れることがある疾患です。
  • 摂食障害: 食事や体重、体型に対する極端な考えや行動を特徴とし、極端な食事制限をする「神経性やせ症」や、過食と排出行動を繰り返す「神経性過食症」などがあります。
  • 発達障害: 生まれつきの脳機能の発達の偏りに起因する障害で、不注意や多動性を特徴とする「注意欠如・多動症(ADHD)」や、対人コミュニケーションの困難さなどを特徴とする「自閉スペクトラム症(ASD)」が含まれます(13)。
  • 依存症: アルコールや薬物などの特定の物質、またはギャンブルなどの特定の行為へのコントロールを失い、心身に悪影響が出ているにもかかわらず、やめられない状態になる疾患です。
  • 睡眠障害(不眠症): 寝つきが悪い(入眠障害)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)といった問題が続き、日中の活動に支障をきたす状態です。他の精神疾患の症状として現れることも少なくありません。

なぜこころの病気になるの?考えられる原因

精神疾患は、単一の原因で発症することは極めて稀であり、「心の弱さ」や「性格の問題」といった単純な理由で説明できるものでは決してありません。現代医学では、「ストレス脆弱性モデル」が有力な考え方とされており、様々な要因が複雑に絡み合って発症すると理解されています。主な要因は以下の三つに大別されます。

  • 生物学的要因: 脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミンなど)のバランスの乱れや、遺伝的に受け継がれた気質などが関与することが科学的に示されています(14)。
  • 心理的要因: 物事の捉え方の癖(例:完璧主義、悲観的思考)、ストレスへの対処スキル(コーピング)、過去のトラウマ体験などが、発症のしやすさに影響します。
  • 社会的・環境的要因: 過重労働、失業、経済的困窮、人間関係のトラブル、近親者との死別、社会的孤立といった、個人を取り巻く環境からの強いストレスが発症の直接的な引き金となることが多くあります。

これらの要因が、その人が元々持っている脆弱性と相互に影響し合うことで、発症に至ると考えられています。

病院へ行くべき?心療内科と精神科の選び方

「専門家に相談した方が良いかもしれない」と感じた時、多くの方が「心療内科と精神科、どちらを受診すべきか?」という疑問に直面します。この二つの診療科は密接に関連していますが、対象とする症状の重心に違いがあります。一般的な目安は以下の通りです。

  • 心療内科: ストレスなどの心理的要因が主な原因となり、身体に症状が現れている状態(心身症)を専門とします。例えば、「ストレスで胃がキリキリ痛む」「緊張すると頭痛やめまいがする」「理由なく動悸がする」といった身体の不調が中心の場合は、心療内科が適していることが多いです(15)。
  • 精神科(精神神経科): 気分の落ち込み、強い不安、不眠、幻覚、妄想といった、心の症状そのものを専門的に診断・治療します(16)。うつ病、統合失調症、不安症、双極性障害など、精神疾患全般が対象となります。

ただし、実際には両科の対象範囲は重なる部分が多く、厳密な区別が難しいケースも少なくありません。もし迷った場合は、どちらかに相談すれば、必要に応じて適切な科を紹介してもらえます。最も大切なのは、一人で抱え込まずに専門家への扉を叩くことです。厚生労働省の「こころの耳」など、電話やSNSで相談できる窓口もあります。

日本の診療ガイドラインに基づく主な治療法

精神疾患の治療は、科学的根拠(エビデンス)に基づいた標準的なアプローチが確立されています。ここでは、日本の専門学会が公表する診療ガイドラインに沿って、治療の全体像と主な選択肢をご紹介します。

基本となる3つの柱:休養・薬物療法・精神療法

治療は通常、以下の3つの要素を患者さん一人ひとりの状態や希望に合わせて、柔軟に組み合わせて進められます。

  1. 休養: 特に症状が強く心身が疲弊している急性期において、最も重要かつ基本的な治療です(17)。ストレスの原因から物理的・心理的に距離を置き、心と体を十分に休ませる環境を確保することが、回復のためのエネルギーを蓄える第一歩となります。
  2. 薬物療法: 脳内の神経伝達物質のアンバランスを調整することで、つらい症状の緩和を目指します(14)。例えば、日本うつ病学会(JSMD)のガイドラインでは、うつ病治療の第一選択薬として、副作用が比較的少なく効果が期待できるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が推奨されています(4)。薬は医師の指示通りに適切な量を十分な期間服用し、自己判断で中断しないことが再発防止のために極めて重要です(4)。
  3. 精神療法(心理療法): 専門家との対話を通じて、物事の捉え方や行動パターンを見直し、ストレスへの対処能力を高めていく治療法です(18)。
    • 認知行動療法(CBT): 感情的な苦痛につながる思考の癖(認知の歪み)に気づき、それをより現実的でバランスの取れた考え方に修正していくことで、気分や行動の改善を目指します。2023年のJAMA Psychiatry誌のメタ解析では、全般性不安障害(GAD)に対しCBTが有効な傾向が示されましたが(6)、2024年には同解析に対する方法論的な課題も指摘されており、解釈には慎重さが求められます。
    • 対人関係療法(IPT): 主にうつ病を対象とし、現在の対人関係(家族、職場など)の問題に焦点を当て、コミュニケーションスキルを改善することで症状の回復を目指す治療法です。

    日本では、一定の施設要件を満たした医療機関において、医師や専門の研修を受けた公認心理師などによる認知行動療法は保険適用となります(19)。

主な疾患の標準治療まとめ

表2: 主な疾患に対する標準治療の選択肢
疾患 推奨される薬物療法 推奨される精神療法 備考
うつ病 SSRI, SNRI (JSMDガイドライン(4)) 認知行動療法 (CBT), 対人関係療法 (IPT) 十分な休養が基本。重症例や難治例では電気けいれん療法 (ECT) も有力な選択肢です(17)。
社交不安症 SSRI, SNRI (JSPNガイドライン(5)) 認知行動療法 (CBT)(5) 患者さんの希望や症状によっては、精神療法が薬物療法よりも優先されることがあります。
パニック障害 SSRI, SNRI (WFSBPガイドライン(20)など) 認知行動療法 (CBT) ベンゾジアゼピン系薬剤は依存性のリスクから、長期使用は慎重に検討されます。
精神病性うつ病 抗うつ薬と抗精神病薬の併用(21) 電気けいれん療法 (ECT) が非常に有効とされます 抗精神病薬の単剤治療は推奨されません(21)。

メンタルヘルス治療の最前線:新しい選択肢

従来の治療法で十分な効果が得られない場合でも、新たな希望となる先進的な治療法が登場しています。ここでは、日本で利用可能、あるいは実用化に向けた研究が進む選択肢を紹介します。

  • rTMS(反復経頭蓋磁気刺激法): 薬物療法で効果が不十分な中等症以上の成人のうつ病患者さんを対象とした治療法です。磁気コイルを用いて、気分の調節に関わる脳の特定領域(背外側前頭前野など)を非侵襲的に刺激し、脳神経の活動を調整します。日本では2019年6月から保険適用となっており、治療の選択肢として着実に広がりを見せています(22)。
  • デジタル認知行動療法 (Digital CBT): スマートフォンアプリなどを介して認知行動療法を提供する新しい治療形態です。医療機関への通院が難しい方でも、時間や場所を選ばずに治療を受けられる利点があります。日本では、不眠症を対象としたアプリ「サスメド Med CBT-i」が医薬品医療機器等法(薬機法)に基づき医療機器として承認されるなど(23)、デジタル治療の領域は今後さらに発展が期待されています。
  • サイケデリック治療: シロシビン(マジックマッシュルームの有効成分)といった幻覚作用を持つ物質を、厳格に管理された医療環境下で精神療法と組み合わせて用いる治療法です。海外の研究では、難治性のうつ病やPTSDに対し、迅速かつ持続的な改善効果が報告されています(24)。日本ではまだ研究段階ですが、2025年5月には大塚製薬が慶應義塾大学と共同で臨床研究を開始することを発表しており(25)、将来の革新的な治療法として大きな注目を集めています。

【重要】知っておきたい公的支援制度:申請手順・必要書類・費用負担

精神疾患の治療は長期にわたることがあり、経済的な負担は大きな懸念材料です。しかし、日本には治療費の負担を大幅に軽減できる公的な制度があります。その代表格が「自立支援医療(精神通院医療)」制度です。

自立支援医療(精神通院医療)制度とは?

これは、精神疾患の治療のため、継続的に通院が必要な方の医療費自己負担を軽減する制度です。統合失調症、うつ病、双極性障害、不安症、発達障害など、てんかんを含むほとんどの精神疾患が対象となります(26)。

  • 主なメリット: 通常、公的医療保険による自己負担は3割ですが、この制度を利用すると自己負担が原則1割に軽減されます(27)。さらに、世帯の所得(市町村民税の課税状況)に応じて1ヶ月あたりの自己負担額に上限が設けられるため、経済的な不安を和らげ、安心して治療に専念できます(28)。
  • 申請と更新: 申請は、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で行います。有効期間は原則1年間で、継続して利用する場合は更新手続きが必要です。更新は有効期間終了の3ヶ月前から申請できます。

対象者、自己負担額、申請方法をわかりやすく解説

表3: 自立支援医療(精神通院医療)の概要と申請手続き
項目 内容 詳細・注意点
対象者 精神疾患により通院による治療を継続的に必要とする方 入院医療費は対象外です。指定した医療機関・薬局でのみ適用されます。
自己負担 原則1割負担 + 月額自己負担上限額 上限額は世帯所得により区分(生活保護、低所得1、低所得2、中間所得1、中間所得2、一定所得以上)が設定されます。
申請場所 お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口 申請から受給者証が交付されるまで1~2ヶ月程度かかる場合があります。
主な必要書類 ①申請書

②医師の診断書(指定様式)

③健康保険証の写し

④世帯の所得状況が確認できる書類

⑤マイナンバー関連書類

診断書は2年に1度の提出でよい場合があります。詳細は自治体にご確認ください(29)。
有効期間と更新 原則1年間 有効期間終了の3ヶ月前から更新手続きが可能です。自動更新ではないため注意が必要です。

「恥ずかしい」「我慢すべき」と思っていませんか?日本のスティグマと向き合う

ここまで様々な情報や制度について解説してきましたが、治療への最も大きな障壁は、情報不足ではなく、私たち自身の心の中にある「スティグマ」かもしれません。「精神的な問題を抱えるのは恥ずかしいことだ」「人に知られたくない」「弱音を吐かずに我慢すべきだ」。このような社会的な烙印や我慢の文化は、多くの人を孤独に追い込み、助けを求めることから遠ざけてしまいます(9)(8)。

しかし、もう一度思い出してください。精神疾患は、誰にでも起こりうる医学的な病気です。そして、適切な治療によって回復が可能な病気です。あなたが今感じている苦しみや辛さは、決してあなたの弱さや性格のせいではありません。

「うつ病と診断された時、自分の人生は終わったと感じました。でも、勇気を出して治療を受け、信頼できる人に打ち明けたことで、一人ではないと気づけました。回復への道は平坦ではありませんでしたが、今は自分を責めずに、穏やかに過ごせる日が増えました。」(30代女性・回復者(30)より引用・改変)

助けを求めることは、敗北を意味しません。それは、自分自身の健康と人生を取り戻すための、最も賢明で勇気ある一歩なのです。

よくある質問

心療内科と精神科、どちらを受診すべきですか?

身体の症状(胃痛、頭痛、動悸など)が中心なら心療内科、心の症状(気分の落ち込み、不安、不眠など)が中心なら精神科が一般的な目安です。ただし、両者の区別は曖昧な場合も多いため、迷った場合はどちらの科でも相談可能です。必要に応じて適切な専門医へ紹介してもらえます。

治療の基本は何ですか?

「休養」「薬物療法」「精神療法」の三本柱が基本です。まずは心身を十分に休ませ、必要に応じて薬で症状を和らげながら、精神療法で問題への対処法を学びます。特にうつ病の薬物療法では、SSRIやSNRIが第一選択となることが多くあります。

rTMSは保険で受けられますか?

はい、受けられます。2019年6月から、既存の薬物療法で十分な効果が得られない成人のうつ病に対して保険収載されています。ただし、実施できる医療機関や適応となるかどうかの条件があるため、まずは主治医や専門医療機関での判定が必要です(22)。

CBT(認知行動療法)は保険適用ですか?

はい、条件付きで保険適用となります。うつ病や不安症など、対象疾患が定められており、実施できる施設や人員にも要件があります。地域や医療機関によって対応が異なるため、受診を検討している病院やクリニックで事前に確認することをお勧めします(19)。

自立支援医療を使うと自己負担はいくらになりますか?

原則として、医療費の自己負担が1割に軽減されます。さらに、世帯の所得に応じて月額の上限額(例:0円, 2,500円, 5,000円など)が設定されるため、それを超える負担は発生しません。

世界の有病率はどのくらいですか?

世界保健機関(WHO)の2025年更新データによると、世界人口の約7人に1人が何らかの精神障害を抱えていると報告されています。以前使われていた「8人に1人」という表現は古い情報ですので、注意が必要です(1)。

(研究者向け)GADの心理療法の一次推奨は?

CBTが他の心理療法より優位である傾向が複数のメタ解析で示唆されてきました。しかし、2024年にJAMA Psychiatry誌上で、先行研究のネットワークメタ解析(6)に対する方法論的な課題(信頼区間の広さや長期的な持続性に関する不確実性など)が指摘されました。そのため、CBTの優位性の解釈は慎重に行う必要があります。

(臨床教育向け)精神病性うつ病の薬物戦略は?

近年のネットワークメタ解析(Lancet Psychiatry 2024(21))では、抗うつ薬と第二世代抗精神病薬の併用療法が、抗うつ薬単剤よりも有効であることが強く支持されています。また、電気けいれん療法(ECT)が薬物療法よりも効果的である可能性も示唆されています。

相談は匿名でもできますか?

はい、可能です。厚生労働省の「こころの耳」や、各自治体が運営する精神保健福祉センター、NPO法人などが提供する電話やSNSの相談窓口では、匿名で安心して相談できます。まずはそうした窓口に連絡し、必要に応じて専門機関への橋渡しをしてもらうのが良いでしょう。

外国人向けの支援はありますか?

はい、利用できる支援があります。多くの自治体や国際交流協会、NPO法人が多言語での相談窓口を設けています。例えば、東京都では「東京都多文化共生センター」で対応しています。まずはお住まいの地域の自治体窓口に問い合わせて、利用可能なサービスを確認することをお勧めします。

結論

心の健康(メンタルヘルス)は、一部の特別な人の問題ではなく、私たち一人ひとりに関わる普遍的な健康課題です。身体のコンディションが日々変化するように、心の状態も変化し、時には専門的なケアを必要とします。この記事を通じて、精神疾患が決して「心の弱さ」や「性格」の問題ではなく、科学的根拠に基づいた治療によって回復可能な医学的状態であること、そして日本にはその回復を支える多様な公的制度や新しい治療選択肢があることをご理解いただけたなら幸いです。

最も重要なメッセージは、「あなたは決して一人ではない」ということです。心身の不調を感じた時に専門家や信頼できる窓口に助けを求めることは、自分自身を大切にし、未来を取り戻すための、最も賢明で勇気ある行動です。この記事が、あなたが抱えるスティグマや我慢の文化という見えない壁を乗り越え、希望への第一歩を踏み出す一助となることを、JHO編集部一同、心から願っています。

免責事項

本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、個別の医学的助言に代わるものではありません。ご自身の健康に関する懸念や、治療に関する決定を下す前には、必ず資格を有する医師または医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  24. Goodwin GM, Aaronson ST, et al. Single-Dose Psilocybin for a Treatment-Resistant Episode of Major Depression. N Engl J Med. 2022;387(18):1637-1648. doi:10.1056/NEJMoa2206443. ↩︎
  25. 大塚製薬と慶應義塾、精神・神経疾患領域における psychedelics の国内臨床開発に向けた共同研究契約を締結. 大塚製薬株式会社. [プレスリリース]. 2025年5月14日. [引用日: 2025年10月4日]. Available from: https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2025/20250514_1.html ↩︎
  26. 自立支援医療(精神通院医療)について. 厚生労働省. [インターネット]. [引用日: 2025年10月4日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/jiritsu/index.html ↩︎
  27. 自立支援医療制度の概要. 厚生労働省. [PDF]. [引用日: 2025年10月4日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12200000-Shakaiengokyokushougaihokenfukushibu/0000146932.pdf ↩︎
  28. 自立支援医療における利用者負担の基本的な枠組み. 厚生労働省. [PDF]. [引用日: 2025年10月4日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000025tf3-att/2r98520000025tfa.pdf ↩︎
  29. 自立支援医療(精神通院)の申請手続きについて. 各市区町村のウェブサイトを参照. [引用日: 2025年10月4日]. ↩︎
  30. 体験記. こころの元気+. コンボ(地域精神保健福祉機構). [インターネット]. [引用日: 2025年10月4日]. (個別の体験談を参考に改変). Available from: https://www.comhbo.net/?page_id=8923 ↩︎
  31. 多文化精神保健. TELL(テル). [インターネット]. [引用日: 2025年10月4日]. Available from: https://telljp.com/lifeline/jp/ ↩︎
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