この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている、最高品質の医学的・科学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性のみが含まれています。
- 内閣府『男女共同参画白書』: 日本の若年層における恋愛・結婚に関する現状、未婚率、交際経験の欠如といった統計的背景に関する指針は、内閣府が公表した公式データに基づいています1。
- コロラド大学ボルダー校の研究 (Horwitz, T. A., et al.): 「正反対の性格だから惹かれ合う」という神話を否定し、「類似性」が長期的な関係の安定に重要であるという指針は、学術誌『Nature Human Behaviour』に掲載されたこの大規模なメタ分析に基づいています3。
- ゴットマン研究所 (The Gottman Institute) の研究: 記事全体の中核をなす「黙示録の四騎士」「魔法の比率(5対1の法則)」「健全な関係の家」といった概念や、対立管理、コミュニケーションに関する指針は、ジョン・ゴットマン博士の40年以上にわたる数千組のカップルを対象とした追跡調査に基づいています6。
要点まとめ
- 長期的に幸せな関係を築くのは「正反対の性格」ではなく、価値観や経歴が「類似した」相手であることが大規模研究で示されています。
- 「喧嘩をしないこと」が幸せの証なのではなく、「批判」「侮辱」「防御」「逃避」を避け、建設的に対立を管理する技術が関係の寿命を決めます。
- 「言わなくてもわかるはず」という期待は誤解の元です。相手のささいな呼びかけに気づき、明確に応答するコミュニケーションの積み重ねが信頼を築きます。
- 恋愛初期の燃えるような情熱は長続きしませんが、それは関係の終わりではありません。信頼と絆に基づく穏やかな「愛着」への移行こそが、成熟した関係の証です。
- 結婚や出産は、既存の関係の問題を解決する特効薬にはなりません。むしろ、脆弱な関係にさらなる負荷をかけ、破綻の危険性を高めます。
第1部:あなたの恋愛を蝕む「5つの神話」の科学的解体
あなたが信じている「常識」は、科学的には間違いかもしれません。まずは、関係を誤った方向へ導く危険な神話を、最新の研究データで解体することから始めましょう。
神話1:「正反対の性格だから惹かれ合う」という幻想
「自分にないものを持っている人に魅力を感じる」という考えは、多くの人が一度は耳にしたことがあるでしょう。心理学ではこれを「相補性の法則」と呼び、自分に欠けている部分を相手に求める心理として説明されることがあります2。この直感的に理解しやすい神話は、数々の物語やドラマでロマンチックに描かれてきました。
しかし、長期的な関係の安定性という観点から見ると、この神話は危険な誤解である可能性が高いことが、最新の科学研究によって示されています。
コロラド大学ボルダー校の研究チームが2023年に権威ある学術誌『Nature Human Behaviour』で発表した研究は、この神話に決定的な反証を突きつけました。この研究は、過去199件の研究をメタ分析し、さらに約8万組ものカップルを対象に、政治的・宗教的態度から知能、物質使用、性格特性に至るまで130種類以上の特性を網羅的に分析した、前例のない大規模なものです3。
その結果は驚くべきものでした。分析された特性のうち、実に82%から89%において、カップルは正反対ではなく「類似」する傾向が明確に認められたのです3。特に、政治的価値観や教育レベル、宗教観といった根源的な部分での類似性は、非常に強い相関を示しました4。一方で、「正反対の者同士が惹かれ合う」という相補性を裏付ける証拠は、ごく一部の特性(例えば、朝型か夜型か、心配性かどうかなど)でわずかに見られたものの、全体としてはほぼ皆無でした3。
この研究が示す結論は明確です。惹かれ合う「きっかけ」は一時的な違いや目新しさにあるかもしれませんが、関係を長期的に安定させ、幸福なものにするのは、価値観や生活様式といった根源的な部分での「類似性」なのです。自分とは全く異なる相手に過度な期待を抱くことは、将来的な対立の火種を自ら蒔いていることに他なりません。
神話2:「幸せなカップルは喧嘩しない」という嘘
「あのカップルはいつも仲が良くて、喧嘩なんてしなさそう」という言葉は、しばしば理想のカップル像として語られます。しかし、この「喧嘩をしない=幸せ」という考え方もまた、関係の本質を見誤らせる危険な神話です。
40年以上にわたり数千組のカップルを追跡調査し、その関係が成功するか失敗するかを90%以上の精度で予測するモデルを構築したワシントン大学のジョン・ゴットマン博士の研究は、喧嘩の「有無」ではなく、喧嘩の「仕方」こそが関係の運命を決定づけることを明らかにしました5。
実際、一見穏やかに見えても、互いに本音を言えず不満を溜め込んでいるカップルが、ある日突然、修復不可能な形で破綻するケースは少なくありません7。ゴットマン博士は、関係を確実に破滅へと導く、特に破壊的な4つのコミュニケーション様式を「黙示録の四騎士」と名付けました6。
- 批判(Criticism): 特定の行動への不満ではなく、相手の人格そのものを攻撃すること。「あなたが皿洗いを忘れた」ではなく、「あなたはいつもだらしがない」と言うのが批判です。
- 侮辱(Contempt): 相手を見下し、軽蔑する言動。皮肉、冷笑、悪口、非言語的な軽蔑の表情などが含まれます。ゴットマン博士の研究では、この「侮辱」が離婚の最も強力な予測因子であることが示されています。
- 防御(Defensiveness): 相手の不満に対して、責任を認めずに自己正当化や反撃に終始すること。「あなたの言い方が悪いからだ」と責任転嫁するなどが典型例です。
- 逃避(Stonewalling): 対話から完全に撤退し、壁を作ってしまうこと。無視、沈黙、その場からの立ち去りなどが含まれます。これは、過度なストレスから身を守るための反応ですが、相手には拒絶と受け取られます。
これらの「四騎士」が蔓延する関係は、たとえ表面的な喧嘩が少なくても、確実に崩壊へと向かいます。
対照的に、長続きする幸せなカップルは、対立を恐れません。彼らは怒りや不満を表現しますが、その対話の中での肯定的なやり取り(共感、ユーモア、愛情表現など)と否定的なやり取りの比率が「5対1」に保たれていることが分かっています。これをゴットマン博士は「魔法の比率」と呼びました8。否定的なやり取りが1回あったら、それを打ち消すために5回の肯定的なやり取りが必要なのです。
結論として、怒りや対立そのものは関係にとって毒ではありません。むしろ、問題を健全に解決するための機会となり得ます。真の毒となるのは、相手への敬意を欠いた破壊的なコミュニケーションなのです。
神話3:「言わなくてもわかるはず」という期待の罠
親密な関係において、「言葉にしなくても、相手は自分の気持ちを察してくれるはずだ」と期待することは、深刻な誤解とすれ違いを生む元凶です。この期待の裏には、「透明性の錯覚」と呼ばれる心理的な偏りが潜んでいます。
ある心理学実験では、被験者に自分の考えや態度を相手に伝えるよう指示しました。その結果、伝える側の被験者は「自分の意図の60%は相手に伝わったはずだ」と考えましたが、実際に受け手側が正しく理解していたのは、わずか26%に過ぎませんでした9。私たちは、自分が考えていることや感じていることが、実際よりもずっと他者に伝わっていると過信してしまう傾向があるのです。
特に日本では「空気を読む」「以心伝心」といった文化が重んじられるため、この傾向はより強まるかもしれません。しかし、親密な関係においてこそ、「察してほしい」という一方的な期待は、「なぜわかってくれないんだ」という失望と、「何も言ってくれないからわからない」という相手の困惑を生み、負の循環を引き起こします9。
ゴットマン博士の理論では、関係の健全性を測る重要な指標として「相手に寄り添う」という概念があります。これは、パートナーからのささいな「呼びかけ」に気づき、応答する行為を指します10。例えば、パートナーが窓の外を見て「きれいな月だね」と呟いたとします。これが「呼びかけ」です。この時、携帯端末から顔を上げて「本当だね」と応じることが「寄り添う」行為です。逆に、無視したり、「別に」と一蹴したりすることは「背を向ける」行為となります。
重要なのは、この「呼びかけ」は非常に些細で、非言語的なものも多いということです。「言わなくてもわかる」のではなく、「小さな合図に気づき、明確に応答する」というコミュニケーションの地道な積み重ねこそが、信頼関係の土台を築くのです。
神話4:「情熱が冷めたら終わり」という短期的な視点
恋愛の初期段階に経験する、胸が焦がれるような激しい情熱や心臓の高鳴り。この感覚が薄れてくると、「もう好きじゃないのかもしれない」「関係は終わりだ」と不安に駆られる人は少なくありません。しかし、これもまた、愛の生物学的な性質を理解していないことから生じる誤解です。
人類学者のヘレン・フィッシャー博士をはじめとする多くの研究者が指摘するように、脳内でドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が大量に放出されることによって生じる燃えるような「恋」の感情は、生物学的に長期間持続するようにはできていません11。その期間は、一般的に3年から4年程度とされています11。
しかし、これは関係の「終わり」を意味するものではありません。むしろ、より穏やかで、深く、持続可能な「愛(愛着)」への「移行」の始まりなのです13。この段階では、ドーパミンに代わって、信頼、安心感、絆を司る「オキシトシン」や「バソプレッシン」といったホルモンが主役となります12。
この「情熱から愛着へ」という自然な移行過程を理解していないと、関係の安定期を「飽き」や「マンネリ」、「愛情の消滅」と誤解し、自ら関係を終わらせてしまうという悲劇が起こり得ます13。
長期的な関係における満足度は、情熱の激しさよりも、むしろオキシトシンの分泌を促す行動の頻度と深く関連しています。手をつなぐ、抱きしめるといった身体的な触れ合い、感謝や賞賛の言葉を交わすこと、相手の話に共感的に耳を傾けること。これらの地道な行動こそが、ドーパミンの嵐が過ぎ去った後も、二人を固く結びつける真の「愛」を育むのです14。
神話5:「結婚や子供が関係を修復する」という危険な賭け
二人の関係がうまくいっていない時、「結婚すれば何かが変わるかもしれない」「子供ができれば、絆が深まるはずだ」という考えに一縷の望みを託したくなることがあります。しかし、これは数ある神話の中でも最も危険な賭けと言えるでしょう。
これまでの議論を振り返れば、その理由は明らかです。もし二人の間に「黙示録の四騎士」が蔓延し、肯定的な対話の比率が「5対1」を大きく下回り、互いの内面世界への関心も薄れているような関係に、結婚や育児という人生で最大級のストレス要因が加わったら何が起こるでしょうか15。
答えは明白です。結婚や出産は、既存の問題を解決する魔法の杖ではありません。むしろ、睡眠不足、経済的な重圧、価値観の対立といった新たな火種を大量に投下し、すでに脆弱な関係の基盤を根底から揺るがす強力な起爆剤となり得るのです1。
日本の現状を見ても、その危険性は明らかです。近年の婚姻件数に対する離婚件数の割合は約3分の1で推移しており、決して他人事ではありません16。
結論として、関係の基盤が健全でない限り、人生の段階を進めることは問題の先送りにしかならず、より深刻な破綻を招く危険性を増大させるだけです。家が傾いているのに、その上にさらに重い荷物を載せるようなものです。まず取り組むべきは、新たな人生の出来事に飛び込むことではなく、関係の土台そのものを修復し、強固にすることなのです。
第2部:科学的根拠に基づく「持続可能な関係」の構築法
良い関係は偶然の産物ではありません。それは、科学的に検証された原則に基づき、日々の努力によって築かれる「家」のようなものです。ここでは、その設計図と建築方法を学びましょう。
ジョン・ゴットマン博士が提唱する「健全な関係の家」
神話を解体した今、私たちはより建設的な段階へと進みます。ゴットマン博士は、40年以上にわたる膨大な研究データを基に、幸福で長続きするカップルに共通する要素を体系化し、「健全な関係の家」という非常に実践的なモデルを提唱しました6。この家は、7つの階層を積み重ね、それを2本の強固な柱が支える構造になっています。この設計図を理解し、一つ一つの要素を築き上げていくことが、持続可能な関係を構築する鍵となります。
このモデルは、カップルが友情を深め、対立を建設的に管理し、共通の人生の目的を創造するための、具体的な手順を示しています6。
【土台と柱】信頼とコミットメント
この家の全ての階層を支えるのが、「信頼」と「コミットメント」という2本の柱です。信頼とは、「パートナーは常に自分の味方であり、自分の利益を最大限に考えてくれる」という確信です。コミットメントとは、「良い時も悪い時も、この関係を続けていく」という決意と、それを裏付ける行動を指します。この2本の柱がなければ、どんなに素晴らしい階層もいずれは崩れ去ってしまいます6。
第1層:愛のマップを築く(Build Love Maps)
家の土台となる最初の階層は、パートナーの内面世界に関する詳細な「地図」を持つことです。これには、相手の好きなものや嫌いなものといった基本的な情報だけでなく、現在の悩み、将来の夢、過去の重要な出来事、友人関係、価値観などが含まれます6。愛のマップを築くとは、相手に対する尽きることのない好奇心を持ち続け、常にその地図を更新し続ける過程です。
実践的助言: 日常の会話の中で、「今日はどんな一日だった?」といったありふれた質問に加えて、「最近、仕事で一番大変なことは何?」「子供の頃、一番好きだった遊びは何だった?」といった、相手の内面を探るような質問を意識的に投げかけてみましょう。
第2層:好意と賞賛を分かち合う(Share Fondness and Admiration)
第2層は、相手の良いところを積極的に認識し、それを言葉や態度で伝える文化を育むことです。これは関係における「免疫システム」のようなもので、対立やストレスといった否定的な出来事に対する抵抗力を高めます。長く一緒にいると、相手の欠点ばかりが目につきがちですが、意識的に相手の長所や感謝すべき点を探し、表現することが不可欠です6。
実践的助言: 「ありがとう」を具体的に伝えましょう。「ゴミ出ししてくれてありがとう」だけでなく、「いつも私が忘れがちなゴミ出しを気にかけてくれて、本当に助かっているよ。ありがとう」と言うことで、感謝の気持ちはより深く伝わります。
第3層:相手に寄り添う(Turn Towards Instead of Away)
第3層は、パートナーからのささいな「呼びかけ」に応答することの重要性を説きます。これは、関係における「感情の銀行口座」に預金をする行為に例えられます6。ゴットマン博士の研究室での観察によると、後に離婚したカップルは、パートナーからの呼びかけの33%にしか応答していなかったのに対し、6年後も幸せな関係を維持していたカップルは、86%もの呼びかけに積極的に応答していました6。この差は決定的です。
実践的助言: パートナーがため息をついた時、それは「どうしたの?」と聞いてほしいという「呼びかけ」かもしれません。携帯端末から顔を上げ、相手に関心を向けるという小さな行動の積み重ねが、大きな信頼の差を生むのです。
第4層:ポジティブな視点(The Positive Perspective)
これまでの3つの階層がしっかりと築かれていれば、この第4層は自然と生まれます。これは、対立が起きた時でも、相手の言動を悪意で解釈するのではなく、「何か理由があるのだろう」「私たちは敵ではなくチームだ」と肯定的に捉える傾向のことです。感情の銀行口座に十分な預金があれば、多少の引き出し(否定的な出来事)があっても、関係は揺らぎません6。
第5層:対立を管理する(Manage Conflict)
この階層では、対立への取り組み方が根本的に変わります。目的は、全ての対立を「解決」することではありません。ゴットマン博士の研究によれば、カップルが抱える問題の実に69%は、性格や価値観の違いに根差した「永続的な問題」であり、完全に解決することはありません6。重要なのは、これらの問題と「対話」し、お互いを傷つけ合う膠着状態に陥らないように「管理」することです。
実践的助言:
- 穏やかな話し合いの始め方: 「あなたはいつも!」といった批判的な言葉で始めるのではなく、「私は…と感じている」と自分の感情から話す。
- 修復の試み: 話し合いが過熱しそうになった時に、「ちょっと待って、冷静になろう」「ごめん、言い過ぎた」といった言葉で軌道修正を図る。
- 妥協: どちらか一方が我慢するのではなく、お互いが歩み寄り、双方が受け入れられる着地点を探す。
第6層:人生の夢をかなえる手助けをする(Make Life Dreams Come True)
健全な関係とは、個人の成長を妨げるものではなく、むしろ促進するものです。この階層では、お互いが個人の夢や人生の目標を安心して語り、その実現を心から応援し合える環境を築くことが重視されます6。
第7層:共通の意味世界を創る(Create Shared Meaning)
家の最上階にあたるのが、この階層です。これは、二人だけの儀式や習慣、家族としての価値観、共有された目標など、「私たち」としての独自の文化や物語を創り上げていくことを意味します6。例えば、「毎週金曜の夜は二人で映画を観る」「記念日には必ず同じレストランに行く」といった小さな儀式が、二人の絆を深め、共通の自己同一性を育むのです。
【日本の専門家の視点】自己愛の成熟の重要性
どんなに素晴らしい家の設計図を持っていても、それを建てる当人(自己)の基盤が不安定では、頑丈な家は建ちません。ここで、日本の心理学の権威である早稲田大学名誉教授、加藤諦三氏の洞察が重要となります。加藤氏は、多くの著書の中で、幼少期の経験が成人後の恋愛に与える影響を説いています1819。
加藤氏によれば、幼少期に十分な愛情を受けられなかった人は、「自分は愛される価値がない」という無意識の感覚を抱きがちです。これが、他者の評価に過度に依存したり、相手の愛情を信じられなかったりする「未成熟な自己愛」に繋がります18。このような状態では、健全な関係の家を築くことは困難です。
ゴットマン博士の方法論を実践する大前提として、まずは自分自身と向き合い、他者の承認に依存しない、安定した自己肯定感と健全な自己愛を育むことが不可欠である、という視点は、日本の読者にとって特に重要な示唆を与えてくれるでしょう。
第3部:日本における恋愛と結婚の現在地:統計データが示す実態
世界的な科学的知見を、私たちが生きる日本の現実に照らし合わせてみましょう。データは、私たちが直面している課題と、これから目指すべき方向性を示唆してくれます。
これまで見てきた科学的アプローチが、現代の日本においてどれほど重要であるかを理解するために、客観的なデータに目を向けてみましょう。内閣府が発表した『令和4年版 男女共同参画白書』は、日本の恋愛、結婚、そして家族を取り巻く実態を浮き彫りにしています1720。
年齢階級 | 性別 | 配偶者・恋人はいない | 恋人はいる | 配偶者(法律婚)がいる |
---|---|---|---|---|
20代 | 女性 | 51.4% | 29.8% | 18.8% |
男性 | 69.3% | 16.5% | 14.1% | |
30代 | 女性 | 31.3% | 6.1% | 62.6% |
男性 | 46.4% | 7.1% | 46.5% | |
出典:内閣府『令和4年版 男女共同参画白書』のデータを基に作成1 |
このデータが示す現実は衝撃的です。20代においては、男女ともに半数以上がパートナーのいない「独身」の状態であり、特に男性ではその割合が約7割に達します。
さらに深刻なのは、交際経験そのものの欠如です。
交際経験がない人の割合(20~30代・独身者):
女性: 24.1%
男性: 37.6%1
特に20代男性では、約4割が一度も恋人と交際した経験がないと回答しており、パートナーシップを築く以前の段階で大きな障壁が存在することを示唆しています。
では、なぜ人々は結婚に踏み切らない、あるいは積極的に求めないのでしょうか。同調査では、その理由についても尋ねています。
積極的に結婚したいと思わない理由(上位項目、20~30代・独身者)1
女性: 「結婚に縛られたくない、自由でいたいから」(50.8%)、「結婚するほど好きな人に巡り合っていないから」(47.8%)
男性: 「結婚生活を送る経済力がない・仕事が不安定だから」(41.6%)、「結婚に縛られたくない、自由でいたいから」(39.9%)
ここからは、男女間での意識の差が見て取れます。女性は「自由」や「理想の相手との出会い」を重視する傾向がある一方、男性は「経済的な不安」が大きな障壁となっています。実際に、独身女性が結婚相手に求める最低年収は「400万円以上」が最も多く、年収600万円以上を希望する割合も増加傾向にあります21。
これらの統計データから導き出されるのは、現代の日本において、恋愛や結婚がもはや「自然に訪れるもの」ではなくなっているという厳しい現実です。経済的な基盤の脆弱さ、出会いの機会の減少、そして何より、パートナーシップを健全に育むための知識や技術の不足が、多くの人々を孤独へと追いやっている可能性があります23。
このような状況だからこそ、本記事で解説したような、科学的根拠に基づいた関係構築のアプローチが、個人の幸福だけでなく、社会全体の課題を解決するための一つの鍵となり得るのです。
結論
本記事を通じて、私たちは恋愛やパートナーシップを覆う数々の「神話」を解体し、その代わりに科学という信頼性の高いレンズを通して、関係の本質を探求してきました。「正反対だから惹かれ合う」のではなく「類似性が関係を支える」こと3。「喧嘩をしない」ことが理想なのではなく「喧嘩を建設的に管理する」技術が重要であること8。「言わなくてもわかる」ことはなく「明確なコミュニケーション」こそが信頼を築くこと9。そして、情熱の炎が穏やかな温もりに変わることは終わりではなく「成熟した愛」の始まりであること12。これらの知見は、恋愛が運や魔法、あるいは不可解な感情の産物ではなく、学び、実践できる一連の技術であることを力強く示しています。ジョン・ゴットマン博士が提唱する「健全な関係の家」は、そのための具体的な設計図です6。愛のマップを築き、好意と賞賛を伝え、相手の呼びかけに寄り添い、対立を賢く管理する。これらの行動を日々の生活の中で意識的に実践することによって、誰でもより幸福で、長続きする関係を築くことが可能なのです。現代の日本が直面する恋愛・結婚の厳しい現実1は、私たち一人ひとりに、より賢明なアプローチを求めています。神話に惑わされ、偶然に身を任せる時代は終わりました。今こそ、科学的根拠という羅針盤を手に、自らの手で幸福なパートナーシップを築き上げる時なのです。
よくある質問
Q1: 相手がこの記事を読んでくれません。自分一人でも関係を改善できますか?
はい、可能です。関係は相互作用のシステムであり、あなた自身の行動が変われば、関係全体の力学も変化します。例えば、あなたが一方的にでも「黙示録の四騎士」の使用をやめ、「5対1の法則」を意識して肯定的な働きかけを増やすだけでも、相手の反応は徐々に変わってくる可能性があります。ゴットマン・メソッドは、まず自分から始めることができる実践的なアプローチです。関係を変える第一歩は、常に自分自身の行動変容から始まります22。
Q2: 私たちの問題は「永続的な問題」のようです。もう諦めるしかないのでしょうか?
諦める必要は全くありません。ゴットマン博士の研究によれば、幸せで長続きしているカップルも、多くの「永続的な問題」を抱えています。重要なのは、問題を完全に「解決」しようとすることではなく、ユーモアや愛情、敬意をもってその問題と「共存」する方法を学ぶことです。対話を通じて、お互いの譲れない価値観や夢を理解し、尊重することができれば、問題は関係を破壊するものではなく、むしろお互いをより深く理解するためのきっかけとなり得ます6。
Q3: 恋愛感情が完全に冷めてしまったように感じます。もう手遅れですか?
手遅れだと判断するのは早計かもしれません。かつてのような燃える「情熱」が失われたとしても、「健全な関係の家」の土台となる階層(第1層:愛のマップ、第2層:好意と賞賛など)を意識的に再構築することで、情熱とは異なる、より深く穏やかな愛情や友情が再燃する可能性は十分にあります。特に、手をつなぐ、抱きしめるといった身体的な触れ合いは、絆を深めるホルモン「オキシトシン」の分泌を促し、二人の間に再び温かい繋がりを感じるための強力な助けとなります14。
本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的助言を構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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