【科学的根拠に基づく】生理用ナプキンの完全ガイド:産婦人科医・皮膚科医が教える正しい使い方、選び方、健康リスクの全知識
女性の健康

【科学的根拠に基づく】生理用ナプキンの完全ガイド:産婦人科医・皮膚科医が教える正しい使い方、選び方、健康リスクの全知識

月経は、多くの女性が人生の約半分にわたって経験する自然な生命現象です。しかし、その付き合い方は時代と共に進化し、単なる「処理」から「健康管理」へとその意味合いを深めています。現代において、月経は女性の健康状態を映し出す重要な「バイタルサイン(生命の兆候)」の一つと見なされるようになりました。この考え方は、米国産科婦人科学会(ACOG)のような権威ある医療機関によっても支持されており、月経周期を記録し、そのパターンを理解することが、自身の健康を把握する第一歩であると推奨されています1。この健康リテラシーへの関心の高まりは、世界的な潮流とも一致します。世界保健機関(WHO)や国連(UN)は、「月経衛生管理(Menstrual Health and Hygiene, MHH)」を、健康、尊厳、そしてジェンダー平等を保障するための基本的人権であると位置づけています2,3。安全な水や衛生施設へのアクセス、手頃な価格の生理用品、そして正確な情報が、すべての月経のある人々に保障されるべきであるという考え方が、国際社会の共通認識となりつつあります。このグローバルな視点は、日本国内の取り組みにも深く関連しています。近年、経済的な理由で生理用品の入手に困難を抱える「生理の貧困」問題が社会的に認知され、多くの自治体が無料配布などの支援策を講じています4。また、災害時における避難所での衛生環境確保の一環として、生理用品の備蓄と配布の重要性が政府のガイドラインでも強調されています5。これらの動きは、月経が個人的な問題ではなく、社会全体で支えるべき公衆衛生上の課題であることを示しています。しかし、製品が手元にあっても、その「正しい使い方」を知らなければ、快適性を損なうだけでなく、かぶれや感染症といった健康上の危険性を高める可能性があります。インターネット上には情報が溢れていますが、その質は玉石混交であり、断片的な知識や誤った情報に惑わされることも少なくありません。本稿は、こうした状況を踏まえ、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会が提供する、生理用ナプキンに関する唯一無二の決定版ガイドです。その目的は、日本の厚生労働省、日本産科婦人科学会(JAOG)、日本皮膚科学会(JDA)といった国内の専門機関の指針と、WHOや米国疾病予防管理センター(CDC)などの国際的な健康機関が示す科学的根拠に基づき、生理用ナプキンの使い方、選び方、そして関連する健康上の危険性のすべてを、比類なき深度で網羅的に解説することにあります。この記事を通じて、読者の皆様が自身の身体をより深く理解し、自信を持って月経期間を健やかに過ごすための、信頼できる知識と実践的なツールを提供します。

この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下のリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。

  • 米国産科婦人科学会 (ACOG): 月経を健康の指標(バイタルサイン)と見なす考え方は、ACOGの推奨に基づいています1
  • 世界保健機関 (WHO) / 世界銀行 (World Bank): 月経衛生管理 (MHH) を基本的人権と位置づけ、その重要性を強調する指針は、WHOおよび世界銀行の報告に基づいています2,3
  • 米国疾病予防管理センター (CDC): 手洗いの重要性やデリケートゾーンの洗浄方法など、衛生に関する具体的な実践方法は、CDCのガイドラインに基づいています6
  • 日本産科婦人科学会 (JAOG) / 日本産婦人科医会: 正常な月経の定義や、過多月経・月経困難症などの婦人科受診の目安は、JAOGの診療ガイドラインに基づいています22,44
  • 日本皮膚科学会 (JDA): ナプキンかぶれ(接触皮膚炎)の原因、分類、および治療に関する医学的解説は、JDAの診療ガイドラインに基づいています32
  • 厚生労働省: 日本国内における生理用品の法的分類(医薬部外品)や安全性基準、トキシックショック症候群(TSS)に関する警告表示の義務付けは、厚生労働省の通知および承認基準に基づいています34,45,47

要点まとめ

  • 基本は「2〜3時間ごとの交換」:経血量に関わらず、衛生と肌トラブル予防のために、2〜3時間ごとのナプキン交換が最も重要です。交換前後の手洗いも徹底しましょう。
  • 選び方は「量・シーン・肌質」で決まる:経血量(多い日/夜用)、活動量(スポーツ時は羽つき)、肌質(敏感肌はコットン素材)に応じて製品を使い分けることが、快適さの鍵です。
  • かぶれ・かゆみは予防できる:ナプキンかぶれの主な原因は「ムレ・摩擦・化学的刺激」です。こまめな交換と正しい洗浄で予防し、症状が続く場合は皮膚科や婦人科を受診しましょう。
  • 日本の生理用品は安全基準が厳しい:国内のナプキンは「医薬部外品」として厚生労働省の厳格な基準で管理されており、安全性は非常に高い水準にあります。
  • 月経は健康のバロメーター:周期の乱れ、ひどい痛み、経血量の異常は、子宮筋腫や子宮内膜症などのサインかもしれません。我慢せず産婦人科医に相談することが大切です。

第1章:生理用ナプキンの基本 — 初めてでも安心のステップバイステップ解説

生理用ナプキンの使用は、多くの人にとって月経との付き合いの始まりです。ここでは、最も基本的ながら最も重要な、ナプキンの正しい付け方、交換タイミング、そして捨て方について、医学的な衛生観点を交えながら、誰にでも分かりやすく解説します。これらの基本を習得することが、モレの不安を解消し、肌の悩みを防ぐための第一歩となります。

1.1 正しい付け方:モレとズレを徹底的に防ぐ技術

ナプキンを正しく装着することは、経血のモレや不快なズレを防ぐための基本中の基本です。一見単純な作業に見えますが、いくつかの要点を押さえることで、その効果は格段に向上します。

準備:感染予防の第一歩は「手洗い」から

米国疾病予防管理センター(CDC)などの国際的な衛生機関は、ナプキンを交換する前と後には、必ず石鹸と水で手を洗うことを強く推奨しています6。手指には目に見えない細菌が付着しており、手洗いを怠ると、デリケートゾーンに細菌を持ち込んでしまい、感染症の危険性を高める可能性があります。これは、公衆手洗い所だけでなく、自宅の洗面所であっても同様に重要です。清潔な手で清潔なナプキンを取り扱う、この習慣を徹底しましょう。

ステップバイステップの装着方法

ナプキンの前後を確認する
多くのナプキンは、お尻側を広く、前側をやや狭く設計されています。これは、就寝時や座っている時にお尻側で起こりやすい「伝いモレ」を防ぐための工夫です7。個包装を開封したら、まずナプキンの形状を確認し、幅の広い方がお尻側に来るように向きを合わせます。製品によっては、個包装を剥がすためのテープが付いている側が前を示す目印となっている場合もあります8
下着への貼り付け
ナプキンを下着に貼り付ける際の最も重要な点は、ナプキンの最も細くなっている部分を、下着のクロッチ(股布)の最も幅が狭い部分に正確に合わせることです8。これにより、ナプキンが身体の中心に正しくフィットし、前後左右へのズレを最小限に抑えることができます。貼り付ける際は、ナプキンが曲がったり、しわになったりしないよう、まっすぐに貼り付けましょう。
より高いフィット感と防漏性を求めるなら、身体にフィットし、ナプキンを安定させやすい「生理用ショーツ」の使用が推奨されます。特に、クロッチ部分が二重構造になっているタイプは、後述する羽(ウィング)をきれいに隠して固定できるため、ズレ防止に非常に効果的です8
羽(ウィング)の正しい処理
羽つきタイプのナプキンは、その羽を下着のクロッチの外側に折り返し、裏側にしっかりと貼り付けて固定します7。この羽がナプキンを左右から挟み込むように支えることで、歩行や運動時のズレを強力に防ぎ、横からのモレをブロックする防波堤の役割を果たします。特に活動量の多い日中や、寝返りをうつ夜間には、羽つきタイプが安心です。

1.2 交換の最適なタイミング:医学的根拠に基づく推奨時間

ナプキンをどのくらいの頻度で交換すべきか、という問いは多くの人が抱く疑問です。これには、単なる快適性だけでなく、医学的な理由に基づいた明確な指針が存在します。

「2〜3時間規則」とその医学的根拠

日本の製品製造業者や情報提供ウェブサイトでは、一般的に「2〜3時間に1回の交換」が目安として推奨されています7。これは、経血の量に関わらず、衛生を保つための重要な指針です。
その医学的な理由は、デリケートゾーンの環境にあります。ナプキンを着用している間、経血や汗によってデリケートゾーンの湿度は著しく上昇します。ある調査では、湿度が20%も高くなることが示されています12。この「高温多湿」な環境は、皮膚に常在する細菌や真菌(カビ)が繁殖するための絶好の条件となります6
長時間同じナプキンを使用し続けると、繁殖した細菌が原因で不快な臭いが発生するだけでなく、肌への刺激となってかぶれ(接触皮膚炎)を引き起こしたり、さらには腟炎や尿路感染症といった感染症の危険性を高める可能性があります12。したがって、たとえナプキンが汚れていないように見えても、2〜3時間を目安に交換することが、これらの危険性を予防する上で極めて重要です。

経血量に応じた調整

もちろん、この「2〜3時間」はあくまで一般的な目安です。経血量が特に多い日(月経開始から2〜3日目など)は、ナプキンの吸収量を超えてモレてしまう前に、より頻繁に交換する必要があります6。逆に、経血量が少ない日でも、衛生的な観点から長時間(例えば6〜8時間以上)同じナプキンを着用し続けることは避けるべきです6。朝起きた時、日中2〜3回、入浴後、就寝前など、生活様式に合わせて交換のタイミングを決めておくと良いでしょう。

1.3 スマートな捨て方:マナーと衛生管理の両立

使用済みナプキンの処理は、衛生管理と社会的な礼儀の両方が求められる行為です。次に使う人や清掃する人、そして家族への配慮を忘れず、スマートな捨て方を身につけましょう。

基本原則:衛生的かつ他者への配慮

使用済みナプキンの処理における基本原則は、経血が見えないように小さくまとめ、衛生的に廃棄することです。これは、日本の文化に根差した他者への「思いやり」の精神の表れでもあり、多くの製品包装や情報提供ウェブサイトで詳細な手順が紹介されている背景には、この文化的な価値観があります8。単に廃棄物を捨てるという行為ではなく、公共の場や家庭内の清潔を保ち、誰もが気持ちよく過ごせるようにするための礼儀作法と捉えることが大切です。この考え方は、世界保健機関(WHO)が推進する、尊厳を保った月経衛生管理の理念とも通底しています2

ステップバイステップの廃棄方法

  1. 下着から使用済みナプキンを剥がします。羽つきの場合は、まず羽を下着の裏側から剥がしてから、本体を剥がします8
  2. 経血が付着した面が内側になるように、ナプキンの端からくるくると固く巻いていきます7
  3. 巻き終えたナプキンを、新しく使用するナプキンの個包装ラップで包みます。個包装ラップには通常、テープが付いているため、それで留めればきれいにまとまります。もし個包装ラップがない場合は、トイレットペーパーで数回包んで代用します8
  4. 包んだナプキンは、洗面所内に設置されている「サニタリーボックス(汚物入れ)」に捨てます7。サニタリーボックスがない場合は、ビニール袋などに入れて持ち帰り、自宅で処分するのが礼儀です。

絶対的な禁止事項:便器には流さない

生理用ナプキンは、高分子吸収ポリマーや不織布など、水に溶けない素材で作られています。そのため、絶対に便器に流してはいけません7。便器に流すと、排水管の詰まりや浄化槽の故障の深刻な原因となり、大規模な修理が必要になる場合があります。

廃棄物としての分別

使用済み生理用品の廃棄方法は、地方自治体の条例によって定められています。一般的には「可燃ごみ」として処理されることが多いですが、お住まいの地域の規則を必ず確認してください16。日本衛生材料工業連合会は、衛生上の観点から焼却処理が最も適切であるとの見解を示しています19

第2章:あなたに最適な一枚を見つける — プロが教えるナプキンの選び方

市場には多種多様な生理用ナプキンが溢れており、どれを選べばよいか迷ってしまうことも少なくありません。しかし、自身の経血量、活動場面、そして肌質という3つの軸で考えることで、最適な一枚を見つけることができます。この章では、「使い方」から一歩進んで、「選び方」の専門家になるための知識を提供します。

2.1 経血量・場面・体質に合わせた製品選びの法則

ナプキン選びは、画一的な正解があるわけではなく、個々の状況に合わせて最適な製品を使い分ける「個別対応」のアプローチが重要です。

経血量に合わせる

月経周期の中で経血量は変動します。一般的に、月経開始から2〜3日目が最も多く、その後は徐々に減少していきます22。この変動に合わせてナプキンを使い分けることが、モレを防ぎ、快適に過ごすための鍵です。

  • 軽い日用・おりもの用: 月経の始まりかけや終わりかけの時期に適しています。
  • ふつうの日用: 経血量が比較的安定している期間に使用します10
  • 多い日の昼用: 経血量が多い日中の活動時間帯に安心感を与えてくれます。
  • 多い日の夜用: 就寝中は長時間交換できないため、吸収量が多く、お尻まで広く覆う長さのある夜用ナプキンが必須です。多くの夜用製品は、寝姿勢での伝いモレを防ぐための立体ギャザーや特別な構造を備えています(例:「ソフィ 超熟睡ガード」)23

時間と活動場面に合わせる

日中の活動内容によっても、最適なナプキンは異なります。

  • スポーツや活発に動く日: 身体の動きにフィットし、ズレにくい「羽つき」タイプが断然おすすめです11。羽が下着にしっかりと固定されることで、ナプキンがヨレたりズレたりするのを防ぎます。
  • デスクワークなど動きの少ない日: 比較的ズレにくいため、羽なしタイプでも対応可能です。ただし、フィット感や安心感を重視するなら羽つきを選ぶと良いでしょう。
  • タイトな服装の日: 服装に響きにくい「スリムタイプ」が適しています。近年のスリムタイプは薄くても高い吸収力を持つ製品が多く、ファッションを楽しみながら快適に過ごせます。

肌質に合わせる

デリケートゾーンの肌は非常に敏感であり、ナプキンによるかぶれ(接触皮膚炎)は多くの人が経験する悩みです。肌が弱い、またはかぶれやすいと感じる方は、素材に注目して製品を選ぶことが重要です。

  • 敏感肌向け製品: 表面シートに天然コットンやオーガニックコットンを使用した製品は、化学繊維に比べて肌への刺激が少ないとされています13。肌触りが柔らかく、通気性に配慮した設計のものが多いため、かぶれの危険性を低減する効果が期待できます。

2.2 表1: 日本の主要生理用ナプキンブランド 性能・特徴比較

日本の市場には、優れた特徴を持つ多くのブランドが存在します。ここでは、主要3大ブランドであるユニ・チャームの「ソフィ」、花王の「ロリエ」、大王製紙の「エリス」を中心に、代表的なシリーズの特徴を比較し、製品選びの参考に供します。この比較は、各社の公開情報や消費者評価などに基づいています23

ブランド 代表的シリーズ 主な特徴 こんな人におすすめ
ソフィ (Sofy) はだおもい 肌へのやさしさ:独自の「ドロッと経血吸収シート」で、粘度の高い経血も肌に残さず、サラサラ感を維持。肌との接触時間を減らし、かぶれの一因となる刺激を低減。 敏感肌の方、経血が肌に残る不快感が気になる方。
  ボディフィット フィット感:身体の丸みに合わせた「まん中フィット構造」で、動いても隙間ができにくく、モレを防止。基本的な性能と価格の均衡が良い。 日常使いで安定したフィット感を求める方。
  超熟睡ガード 夜用・モレ防止:お尻をすっぽり包むワイドな形状と、寝返りしてもフィットし続ける「寝返りフィット吸収体」で、夜間の伝いモレを徹底防御。ショーツタイプも人気。 経血量が特に多い方、夜間のモレが心配な方。
ロリエ (Laurier) しあわせ素肌 通気性・肌触り:独自の「低刺激設計ふわポコ表面シート」で、肌との接触面積を最小限にし、空気を通すことでムレを軽減。摩擦による刺激を和らげる。 ムレやかゆみが気になる方、ふんわりとした肌触りを好む方。
  スリムガード 薄さ・吸収力:わずか1mmの薄さにもかかわらず、内部の吸収体が瞬時に経血を閉じ込める。衣服に響きにくく、持ち運びにも便利。 タイトな服装をしたい方、持ち物の小型化を重視する方。
  肌きれいガード 表面のサラサラ感:「フルスピード吸引シート」が経血を表面に残さず、長時間サラサラ感を維持。逆戻りによる不快感を防ぐ。 デスクワークなどで座っている時間が長く、経血のじっとり感が気になる方。
エリス (Elis) 素肌のきもち こすれにくい設計:肌との摩擦を低減する「新・うるさらシート」と、足まわりに優しいギャザーで、快適なつけ心地を追求。 ナプキンの摩擦によるかぶれが気になる方、なめらかな使用感を求める方。
  コンパクトガード デザイン性・小型さ:持ち歩きたくなるような洗練された個包装デザイン。スリムでポーチにすっきり収まる。 機能性だけでなく、デザインや携帯性も重視する方。
  朝まで超安心 夜用・吸収力:後方までしっかり覆う「後ろモレストッパー」が特徴。通常の夜用ナプキンの約2倍の吸収力を持つ製品もあり、量が多い夜も安心。 経血量が非常に多く、夜用ナプキンでも不安を感じることがある方。

この表は、製品選びの出発点です。同じブランド内でも様々なシリーズが展開されているため、自身のその時々の必要性に合わせて、最適な製品を組み合わせて使用することが、月経期間を快適に過ごすための賢い戦略と言えます。

2.3 素材(コットン、高分子吸収ポリマー等)の違いと肌への影響

ナプキンの性能と肌への影響を左右するのが、使用されている素材です。主な素材の特徴を理解することで、より自分に合った製品選びが可能になります。

  • 高分子吸収ポリマー (Superabsorbent Polymers, SAP): 現代の使い捨てナプキンの中心的な素材であり、自重の数百倍もの水分を吸収し、ゲル状に固める能力を持っています。この素材のおかげで、ナプキンは薄くても高い吸収力を実現できています。しかし、その高い密閉性は、一方でデリケートゾーンの湿度を高め、「ムレ」の原因となる可能性もあります11
  • コットン(綿)、オーガニックコットン: 肌に直接触れる表面シートに使用されることが多い素材です。天然素材であるコットンは、化学繊維に比べて肌への刺激が少なく、アレルギー反応を起こしにくいとされています。そのため、かぶれやすい敏感肌の方には、コットン素材を使用した製品が第一の選択肢となります26。特にオーガニックコットンは、栽培過程で農薬や化学肥料の使用が制限されているため、より肌への優しさを追求する方に選ばれています。この選択は、接触皮膚炎の原因となりうる刺激物を物理的に避けるという医学的アプローチとも合致しています32
  • 布ナプキン: 化学繊維や高分子吸収ポリマーを避けたい方、環境への配慮を重視する方に選ばれている選択肢です。綿や麻などの天然繊維で作られており、通気性が良く、下着に近い感覚で使用できるため、かぶれにくいという利点があります31。ただし、使用後は自身で洗浄・乾燥させる必要があり、衛生管理には手間がかかります。外出先での交換や処理にも工夫が必要です。

2.4 ナプキン以外の選択肢:タンポン、月経カップ、吸水ショーツの基礎知識

ナプキンは最も一般的な生理用品ですが、生活様式や好みに応じて他の選択肢も利用できます。この記事はナプキンを主眼としていますが、包括的な月経衛生の観点から、他の主要な製品についても基礎知識を紹介します。

  • タンポン: 腟内に挿入して経血を吸収するタイプの生理用品です。身体の内部で吸収するため、活動中の違和感が少なく、水泳や温泉などの場面でも使用できるのが最大の利点です。ただし、後述するトキシックショック症候群(TSS)という稀な健康上の危険性との関連が知られており、正しい知識に基づいた使用が不可欠です12
  • 月経カップ: 医療用シリコーンなどで作られたカップ状の器具を腟内に挿入し、経血を溜めるタイプの製品です。繰り返し洗浄して使用できるため、経済的で環境負荷が低いという特徴があります。使用前後には煮沸消毒などの適切な衛生管理が求められます6
  • 吸水ショーツ: 下着自体に吸収体と防水布が組み込まれており、ナプキンなしで経血を吸収できる比較的新しい選択肢です23。下着と同じ感覚で着用でき、ズレやゴワつきの心配がないのが魅力です。製品によって吸収量が異なるため、経血量に合わせて他の製品と組み合わせて使うこともあります。布ナプキンと同様に、使用後は洗浄が必要です。

これらの選択肢を知ることで、生理期間中の活動や体調に合わせて、最も快適で安全な方法を柔軟に選ぶことができます。

第3章:デリケートゾーンの悩みと医学的解決策

月経期間中、多くの女性がデリケートゾーンのかゆみ、かぶれ、臭いといった不快な症状に悩まされます。これらの悩みは「仕方ないこと」と我慢されがちですが、その多くは医学的な知識に基づいて適切に予防・対処することが可能です。この章では、皮膚科および産婦人科の専門的知見に基づき、これらの悩みの原因を科学的に解明し、具体的な解決策を提示します。

3.1 ナプキンかぶれ(接触皮膚炎)の科学:皮膚科医が解説する原因と予防・対処法

「ナプキンかぶれ」は、医学的には「接触皮膚炎」と呼ばれる皮膚の炎症です。これは、ナプキンという外部からの刺激によって引き起こされるもので、日本皮膚科学会の診療指針によると、その仕組みによって大きく二つの種類に分類されます32

接触皮膚炎の2つの種類

  • 刺激性接触皮膚炎 (Irritant Contact Dermatitis): こちらがナプキンかぶれの最も一般的な原因です。アレルギー反応ではなく、物理的・化学的な刺激が皮膚の防御機能を傷つけることで発生します32。主な刺激源は以下の3つです。
    • ムレ(湿潤): 経血や汗によってナプキン内部が高温多湿の状態になると、皮膚の角質層がふやけて防御機能が低下し、外部からの刺激を受けやすくなります13
    • 摩擦: 歩行や動作によるナプキンと皮膚との物理的なこすれが、防御機能の低下した皮膚に損傷を与え、炎症を引き起こします14
    • 化学的刺激: 経血や汗に含まれるアンモニアなどの成分が、アルカリ性に傾くことで皮膚を刺激します。
  • アレルギー性接触皮膚炎 (Allergic Contact Dermatitis): こちらは比較的稀ですが、ナプキンに含まれる特定の物質に対して身体の免疫システムが過剰に反応する、いわゆる「アレルギー」です32。原因物質(アレルゲン)としては、ナプキンに使われている香料、接着剤、素材自体(化学繊維など)が考えられます。一度感作が成立すると、原因物質に触れるたびに炎症を繰り返します。

かぶれの予防と自己処置

かぶれを予防するための鍵は、上記の刺激源をできるだけ取り除くことです。

  • こまめなナプキン交換: これが最も効果的で重要な予防策です。2〜3時間ごとを目安にナプキンを交換し、ムレや摩擦、化学的刺激の原因となる経血や汗が長時間皮膚に接触するのを防ぎます6
  • 優しい洗浄: デリケートゾーンを洗う際は、ゴシゴシこすらず、ぬるま湯で優しく洗い流すのが基本です。石鹸やボディソープは刺激が強い場合があるため、使用する場合はデリケートゾーン専用の低刺激性のものを選びましょう。洗浄後は、清潔なタオルで優しく押さえるようにして水分を拭き取ります6
  • 適切な製品選択: 肌が敏感な方は、通気性の良い素材や、表面シートに天然コットンを使用した無香料の製品を選ぶと良いでしょう6。自分に合わないと感じたら、別のブランドや素材の製品を試してみることが大切です。
  • 通気性の良い衣類: ぴったりとした化学繊維の下着やズボンは、熱や湿気を閉じ込め、ムレを助長します。月経期間中は、通気性の良いコットン素材の下着や、ゆったりとした服装を心がけると快適です6

3.2 表2: ナプキンかぶれの症状と自己処置・受診の目安

かぶれの症状が現れた時、自分で対処できるのか、それとも医療機関を受診すべきか、判断に迷うことがあります。以下の表は、日本皮膚科学会の指針などを参考に、症状の程度に応じた適切な対応を判断するための一助となるものです14

症状 考えられる状態 自己処置 受診の目安
軽度のかゆみ・赤み 軽度の刺激性接触皮膚炎 ・ナプキンをよりこまめに交換する
・ぬるま湯で優しく洗浄し、清潔に保つ
・市販のデリケートゾーン用非ステロイド系クリームを試す
自己処置を2〜3日続けても改善しない、または悪化する場合。
強いかゆみ、ヒリヒリ感、腫れ、じゅくじゅくした浸出液、小さな水ぶくれ 中等度〜重度の刺激性接触皮膚炎、またはアレルギー性接触皮膚炎の可能性 ・原因と思われる製品の使用を直ちに中止する
・患部を掻かないように注意する
・市販薬の使用は控え、速やかに医療機関を受診する
症状が強い場合は、我慢せずに直ちに皮膚科または婦人科を受診してください。
特定の製品を使うたびに症状を繰り返す アレルギー性接触皮膚炎の可能性が高い ・原因と疑われる製品の使用を完全に避ける
・成分表示を確認し、類似の製品も避ける
原因物質を特定するためのパッチテストを受けるため、皮膚科の受診が推奨されます。
かゆみ・おりものの変化(カッテージチーズ状、泡状、黄緑色など)、悪臭 カンジダ腟炎や細菌性腟症などの感染症の可能性 自己処置での改善は困難です。不適切な市販薬の使用は症状を悪化させる可能性があります。 速やかに婦人科を受診してください。接触皮膚炎と感染症の合併も考えられます。

自己判断でステロイド外用薬を長期間使用すると、皮膚が薄くなるなどの副作用や、感染症を悪化させる危険性があります。症状が改善しない場合は、必ず専門医に相談してください13

3.3 トキシックショック症候群(TSS):正しい知識で過度な不安を解消する

トキシックショック症候群(TSS)は、タンポンの使用に関連して語られることが多く、漠然とした不安を抱いている方もいるかもしれません。しかし、TSSは正しい知識を持つことで予防可能であり、過度に恐れる必要はありません。

TSSとは何か?

TSSは、黄色ブドウ球菌などの細菌が産生する毒素によって引き起こされる、非常に稀ですが、急激に進行し生命に関わる重篤な疾患です12。報告されているTSS発症者の約半数は月経中のタンポン使用者ですが、残りの半数はやけどや手術後の創部感染など、タンポン使用とは無関係に発症しており、男性や子供がかかる可能性もあります40

TSSの主な症状

TSSはインフルエンザ様の症状で始まることが多く、早期発見が重要です。以下の症状が突然現れた場合は、TSSの可能性があります34

  • 突然の高熱(39度以上)
  • 日焼けのような発疹・発赤
  • 嘔吐、下痢
  • めまい、ふらつき、失神(血圧低下による)
  • 強い倦怠感、筋肉痛

予防法と厚生労働省の警告

TSSの危険性は、タンポンの適切な使用によって大幅に低減できます。

  • 適切な吸収量を選ぶ: 自身の経血量に必要以上の吸収力を持つタンポン(スーパー、スーパープラスなど)の使用は避けてください。経血量に合わせた、必要最低限の吸収力の製品を選びましょう6
  • 使用時間を守る: タンポンの連続使用は最大8時間までとし、4〜8時間ごとの交換を必ず守ってください6。就寝中は8時間を超える可能性があるため、夜用ナプキンとの併用・使い分けが推奨されます。
  • ナプキンとの交互使用: 常にタンポンを使用するのではなく、ナプキンと交互に使うことで、腟内に細菌が繁殖しやすい環境が継続するのを防ぎます。

日本の規制当局である厚生労働省は、消費者の安全を確保するため、生理用品製造業者に対し、TSSに関する警告表示を製品の包装や添付文書に明記することを義務付けています34。これは、日本の生理用品が厳格な安全管理の下で製造・販売されていることの証左であり、使用者はこれらの表示をよく読み、指示に従うことが重要です。万が一、TSSが疑われる症状が現れた場合は、直ちにタンポンを取り除き、製品の添付文書を持って速やかに医療機関(産婦人科など)を受診してください。

3.4 世界基準の衛生習慣:デリケートゾーンの正しい洗浄とケア

デリケートゾーンの衛生管理は、世界保健機関(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)などの国際機関も重要視しており、世界共通の最善の実践が確立されています2

  • 拭く方向は「前から後ろへ」: 排泄後、トイレットペーパーで拭く際は、必ず「前から後ろ(尿道・腟から肛門の方向へ)」と一方向に拭きましょう。逆方向に拭くと、肛門周辺の細菌を尿道口や腟に運び、尿路感染症や腟炎の原因となる可能性があります6
  • 洗浄は「お湯(水)だけで優しく」: 腟には、内部の環境を酸性に保ち、有害な細菌の侵入や繁殖を防ぐ「自浄作用」があります。ビデ(腟洗浄)や、石鹸・ボディソープで腟の内部まで洗う行為は、この自浄作用を担う常在菌まで洗い流してしまい、腟内のpH均衡を崩す原因となります。その結果、かえってカンジダ腟炎や細菌性腟症などの感染症を引き起こしやすくなります6。洗浄は、外陰部(身体の外側)をぬるま湯で優しく洗い流すだけで十分です。
  • 十分な水分補給: 水分を十分に摂取することは、尿量を増やし、尿路に侵入した細菌を洗い流す助けとなります。これにより、膀胱炎などの尿路感染症の予防につながります6

これらの習慣は、ナプキンかぶれや感染症の予防だけでなく、デリケートゾーン全体の健康を維持するために不可欠です。日々の生活の中に、ぜひ取り入れてください。

第4章:知っておくべき「生理」と「製品の安全性」の深層

生理用ナプキンを正しく使うことは、単に月経期間を快適に過ごすためだけではありません。それは、自身の健康状態を把握し、社会の制度に守られていることを理解し、より広い公衆衛生の文脈で自身の身体を捉えることにも繋がります。この章では、月経という現象そのもの、そしてそれを取り巻く製品の安全性や社会的な仕組みについて、より深く掘り下げていきます。

4.1 あなたの生理は正常?産婦人科医が教える健康のバロメーター

月経は、女性ホルモンの周期的な変動によって起こる、健康状態を示す重要な指標です。日本産科婦人科学会(JAOG)は、正常な月経の目安を以下のように定義しており、これを知ることは自身の健康管理の第一歩となります22

正常な月経の臨床的指標

  • 月経周期(Cycle Length): 25日〜38日。月経が始まった日から次の月経が始まる前日までの日数。周期の変動は6日以内が目安です。
  • 持続日数(Duration): 3日〜7日間。
  • 経血量(Blood Volume): 1回の月経期間中の総量が20g〜140g(ml)。経血量が多すぎて日常生活に支障をきたす状態は「過多月経」と呼ばれます。

婦人科受診を検討すべき兆候

もしご自身の月経が、上記の基準から恒常的に外れている場合や、以下のような症状がある場合は、何らかの婦人科系疾患が隠れている可能性があります。

  • 月経困難症(Dysmenorrhea): 月経痛がひどく、鎮痛剤を飲んでも効かない、学業や仕事に支障が出るほどの痛みがある場合43
  • 過多月経(Menorrhagia): 1〜2時間でナプキンが経血でいっぱいになる、レバーのような大きな血の塊が出る、などの症状がある場合44
  • 不規則な周期や不正出血: 周期が極端に短い、長い、または月経期間以外に出血がある場合。

これらの症状は、子宮筋腫、子宮内膜症、ホルモン均衡の乱れなど、治療が必要な病気の兆候かもしれません43。ナプキンを交換するたびに経血の量や状態を観察することは、こうした変化に早期に気づくための貴重な機会です。「生理痛は当たり前」「量が人より多いだけ」と自己判断せず、気になることがあれば、ためらわずに産婦人科医に相談してください。

4.2 日本の生理用品は本当に安全か?厚生労働省の厳格な基準を徹底解剖

日々デリケートな部分に直接触れる生理用品。その安全性について、不安を感じたことがある方もいるかもしれません。結論から言えば、日本国内で正規に流通している生理用品は、世界的に見ても極めて高い安全基準の下で管理されています。その根拠は、国の厳格な法規制にあります。

「医薬部外品」という法的分類

日本では、生理用ナプキンやタンポンは、化粧品や雑貨とは異なり、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称:医薬品医療機器等法)に基づき、「医薬部外品」として規制されています45。これは、人体への作用が緩和であるものの、特定の効能効果(この場合は「生理処理用」)を謳う製品であり、その品質、有効性、安全性について、国が厳しく審査・承認することを意味します。

厚生労働省が定める厳格な品質・安全基準

厚生労働省は「生理処理用品製造販売承認基準」を定めており、製造業者はこの基準をクリアしなければ製品を販売できません47。この基準には、消費者の安全を守るための非常に詳細な規格が含まれています。

  • 原材料の純度と安全性: 製品は清潔で、皮膚への刺激やその他の有害作用がないものでなければなりません。異物の混入は許されません。
  • 有害な化学物質の排除
    • 色素: 製品を水に浸しても、色がほとんど溶け出さないこと。
    • 蛍光増白剤: 皮膚への刺激性が懸念される蛍光増白剤が使用されていないか、紫外線照射によって厳しく検査されます。特定の基準を超える強い蛍光は認められません。
    • pH値: 製品を水に浸した際の液体のpH値が、皮膚にとって安全な範囲内(pH 3.1〜9.8)に収まること34
  • 性能基準: 経血を適切に吸収し、漏れを防ぐための吸収性能や防漏性能についても、具体的な試験方法が定められています47
  • 香料の使用制限: 香料を使用する場合は、製品全体の質量に対して0.1%以下という微量に限定され、かつ皮膚や粘膜に直接触れないように配合することが義務付けられています47

さらに、環境汚染物質として知られるダイオキシン類についても、日本の生理用ナプキンを対象とした危険性評価が行われており、その含有量は極めて低く、健康への危険性は無視できる程度であることが科学的に確認されています48。このように、日本の生理用品は、原材料の選定から製造工程、最終製品の品質に至るまで、国の厳格な規制と監視の下にあります。この多層的な安全確保の仕組みが、消費者が安心して製品を使用できる基盤となっているのです。

4.3 世界の潮流:月経衛生が「基本的人権」である理由

月経は個人的な体験ですが、その管理は社会的な環境に大きく左右されます。近年、国際社会では「月経衛生管理(MHH)」が、単なる衛生問題ではなく、教育、健康、ジェンダー平等、そして人としての尊厳に関わる「基本的人権」であるという認識が急速に広がっています2

教育と尊厳への影響

世界銀行やユニセフの報告によると、発展途上国では、学校に清潔でプライバシーが守られる手洗い所や生理用品がないために、多くの女子生徒が月経期間中に学校を休まざるを得ない状況があります2,49。これは、彼女たちの教育機会を奪い、将来の可能性を狭める深刻な問題です。月経に関する正しい情報と、安心して過ごせる環境を提供することは、すべての子供たちがその能力を最大限に発揮するために不可欠なのです。

日本におけるMHHの取り組み

この世界的な潮流は、日本においても具体的な形で現れています。

  • 災害対策における位置づけ: 政府の避難所運営指針では、女性や子供への配慮事項として、生理用品専用の廃棄物入れの設置や、プライバシーに配慮した物資の提供が明記されています5。これは、災害という非常時においても、月経中の人々の尊厳と衛生が守られるべきであるという考え方に基づいています。
  • 「生理の貧困」への対応: 経済的な理由で生理用品を購入できない「生理の貧困」が社会問題として認識されるようになり、全国の自治体や学校で生理用品の無料提供が進んでいます。その際、利用者が気兼ねなく受け取れるよう、窓口で専用のカードやスマートフォンの画面を提示するだけで済むなど、プライバシーに配慮した工夫が凝らされています4

これらの取り組みは、日本社会が月経を禁忌視するのではなく、誰もが直面しうる健康課題として公に捉え、社会全体で支えていこうとする姿勢の変化を示しています。日本の消費者は、厳格な国の規制によって保証された安全な製品へのアクセスと、社会的な支援の拡充という、二重の安全網の中にいると言えるでしょう。この恵まれた環境を理解し、活用することが、より質の高い自己処置に繋がります。

よくある質問

ナプキンを交換する最適な頻度はどれくらいですか?量が少ない日でも2〜3時間ごとに変えるべきですか?
はい、経血量に関わらず、2〜3時間ごとの交換が推奨されます。その主な理由は衛生面です。長時間同じナプキンを使用すると、経血や汗でデリケートゾーンが高温多湿になり、細菌が繁殖しやすくなります。これが臭いやかぶれ(接触皮膚炎)、感染症の原因となる可能性があります6,12。量が少ない日でも、衛生を保ち、肌の健康を守るためにこまめな交換を習慣にしましょう。
羽つきと羽なしのナプキンは、どのように使い分ければ良いですか?
羽つきナプキンは、羽を下着に固定することでナプキンのズレやヨレを強力に防ぎます。そのため、スポーツをする日や、仕事でよく動く日、寝返りをうつ就寝時など、活動量が多い場面に特に適しています11。一方、羽なしタイプは、デスクワークなど動きが少ない日や、羽の感触が苦手な方に選ばれることがあります。ズレにくさを重視するなら羽つき、装着の手軽さを重視するなら羽なし、と活動内容に合わせて選ぶのが賢い使い方です。
ナプキンでかぶれてしまいました。市販薬を使っても良いですか?
症状が軽度のかゆみや赤みであれば、市販のデリケートゾーン専用の非ステロイド系クリームを試すことは選択肢の一つです。しかし、かゆみが強い、じゅくじゅくしている、または症状が2〜3日以上続く場合は、自己判断で薬を使い続けずに皮膚科や婦人科を受診してください14。かぶれではなく、カンジダ腟炎などの感染症の可能性もあり、その場合は専門的な治療が必要です。不適切な薬の使用は症状を悪化させる危険性があります。
オーガニックコットンのナプキンは、なぜ肌に良いのですか?
オーガニックコットンなどの天然コットン素材は、ポリエステルなどの化学繊維に比べて繊維の刺激が少なく、アレルギー反応を起こしにくいとされています26。肌への物理的な摩擦を低減し、通気性にも優れている製品が多いため、ナプキンかぶれの主な原因である「摩擦」や「ムレ」を軽減する効果が期待できます。肌が敏感でかぶれやすい方にとっては、刺激の原因となる可能性のある物質を避けるという点で、有効な選択肢となります32
使用済みナプキンをトイレに流してはいけないのはなぜですか?
生理用ナプキンは、経血を吸収・保持するために、高分子吸収ポリマーや不織布といった水に溶けない素材で作られています7。これらを便器に流すと、家庭の排水管や下水管、浄化槽内で詰まりを引き起こし、大規模で高額な修理が必要となる深刻な故障の原因になります。使用済みナプキンは、必ず個包装ラップやトイレットペーパーで包み、サニタリーボックスに捨てるか、持ち帰って可燃ごみとして処分してください。

結論

本稿では、生理用ナプキンの使い方から選び方、健康上の注意点、そしてそれを取り巻く国内外の基準や社会的な動きまで、包括的な情報を提供してきました。最後に、明日からの月経との付き合い方をより良くするために、最も重要な要点を簡潔にまとめます。

  • 基本の徹底が最も重要:交換は2〜3時間ごと。手洗いの習慣化。正しい廃棄。これらが衛生と快適さの基盤です。
  • 自分に合った一枚を選ぶ:状況に応じた使い分け。経血量、活動、肌質に合わせて最適なナプキンを選びましょう。試すことを恐れないでください。
  • 身体の声に耳を傾ける:かぶれや痛みを我慢せず、専門医に相談してください。月経は健康のバロメーターです。
  • 正しい知識が不安を解消する:月経は自然な営みであり、日本の生理用品は国の厳格な安全基準に守られています。

月経衛生を適切に管理することは、単に不快な期間を乗り切るための作業ではありません。それは、自身の身体を尊重し、健康を守り、日々の生活の質を高めるための、積極的な自己処置の一環です。本稿で得た知識が、あなたの月経期間をより快適で、安心なものに変える一助となることを心から願っています。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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