【管理栄養士監修】赤ちゃんのビーツはいつから？後期（9ヶ月頃〜）を推奨する科学的理由と硝酸塩リスク、安全なレシピまで徹底解説

結論から：日本の赤ちゃんには「離乳食後期（生後9ヶ月頃）」からの開始を推奨

インターネット上には様々な情報が溢れていますが、JAPANESEHEALTH.ORGが最も重視するのは、日本の公的機関が示す指針と、国際的な科学的コンセンサスです。これらを総合的に判断し、私たちは日本の赤ちゃんへのビーツの導入を**「離乳食後期（生後9ヶ月～11ヶ月頃）」**から始めることを強く推奨します。この時期は、赤ちゃんが舌で食べ物をつぶせるようになり、消化機能もより成熟してくる大切な段階です⁴。

なぜ海外の情報と違うの？（6ヶ月からOKではない理由）

多くの保護者様が、「海外のブログでは生後6ヶ月からビーツを与えても良いと書いてあったのに…」と疑問に思われることでしょう。この違いの背景には、離乳食の進め方における文化的・医学的なアプローチの違いがあります。欧米で人気のBLW（Baby-Led Weaning：赤ちゃん主導の離乳食）では、早期から固形物を手づかみで与えることが推奨される場合があります。しかし、日本の厚生労働省が示す「授乳・離乳の支援ガイド」では、赤ちゃんの月齢ごとの発達段階（飲み込む力、噛む力、消化能力）に合わせて、食品の形状や固さを段階的に進めていく体系的なアプローチが基本とされています⁸。この日本独自のきめ細やかな指針こそが、赤ちゃんの安全を最優先に考えた場合に、私たちが従うべき最も信頼できる道標となるのです。

厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」から見る適切な時期

厚生労働省のガイドでは、離乳食後期（生後9～11ヶ月頃）の赤ちゃんは、「舌で歯ぐきの上に乗せてつぶせる」ようになるとされています。この時期の食事の固さの目安は「バナナ程度」です⁴⁹。ビーツは加熱すると柔らかくなりますが、繊維質も含むため、初期や中期の赤ちゃんがうまく飲み込むには難しい場合があります。消化機能の発達と、安全に食べ物を咀嚼・嚥下する能力の両方を考慮すると、9ヶ月以降という時期が最も合理的であると言えます。

ビーツが赤ちゃんの成長にもたらす健康効果

ビーツは「食べる輸血」とも呼ばれるほど、赤ちゃんの健やかな発育に貢献する栄養素が豊富に含まれています。適切に取り入れることで、多くの健康効果が期待できます。

• 鉄分が豊富：貧血予防と脳の発達をサポート
  生後6ヶ月を過ぎると、赤ちゃんは母体から受け継いだ鉄分を使い果たし、食事からの摂取が重要になります¹¹。ビーツは非ヘム鉄を豊富に含み、鉄欠乏性貧血の予防や、脳の正常な発達をサポートします。
• 葉酸：細胞の成長に不可欠なビタミン
  葉酸はビタミンB群の一種で、赤血球の形成や細胞の分裂・増殖に不可欠です¹²。急速に成長する赤ちゃんの体を支える上で、非常に重要な役割を果たします。
• 食物繊維とオリゴ糖：お腹の調子を整える
  ビーツに含まれる食物繊維と、ラフィノースなどの天然のオリゴ糖は、腸内の善玉菌のエサとなり、腸内環境を整えるのを助けます¹³。便秘がちな赤ちゃんのスムーズなお通じをサポートする効果が期待できます。
• カリウム：体内のバランスを調整
  カリウムは、体内の余分なナトリウムを排出し、細胞内外の水分バランスや血圧を正常に保つ働きがあります³。
• ベタシアニン：強力な抗酸化作用
  ビーツの鮮やかな赤紫色は、ベタシアニンというポリフェノールの一種によるものです³。この成分には強力な抗酸化作用があり、細胞の損傷を防ぎ、赤ちゃんの免疫システムを健康に保つのに役立ちます。

【最重要】ビーツの硝酸塩とメトヘモグロビン血症のリスク管理

ビーツの離乳食利用において、保護者様が最も理解しておくべき科学的知見が「硝酸塩」のリスクです。これは不安を煽るためではなく、正しく知ることで安全にビーツの恩恵を受けるために不可欠な知識です。

メトヘモグロビン血症とは？なぜ乳児はリスクが高いのか

メトヘモグロビン血症は、血液中のヘモグロビンが酸素を運べなくなる状態のことで、重症化すると体内の組織が酸欠状態に陥ります。このメカニズムは以下の通りです⁵⁷。

1. ビーツなどの野菜に含まれる「硝酸塩」を摂取する。
2. 口内や胃腸の細菌によって、硝酸塩が毒性の高い「亜硝酸塩」に変換される。
3. 亜硝酸塩が血液中に入り、酸素を運ぶはずのヘモグロビンを「メトヘモグロビン」に酸化させる。
4. メトヘモグロビンは酸素を運搬できないため、体への酸素供給が不足する（チアノーゼなど）。

特に乳児（とりわけ生後3ヶ月未満）がこのリスクに脆弱な理由は、生理学的な特徴にあります⁵¹⁴。

• 胃酸の酸性度が低い：大人の強酸性の胃の中では硝酸塩を亜硝酸塩に変える細菌は繁殖しにくいですが、乳児の胃は酸性度が低いため、これらの細菌が活発に働きやすい環境です。
• 特殊なヘモグロビン：胎児期のヘモグロビン（ヘモグロビンF）は、成人型ヘモグロビンよりも酸化されやすい性質を持っています。
• 還元酵素の未熟性：酸化されてしまったメトヘモグロビンを、正常なヘモグロビンに戻すための酵素（シトクロムb5還元酵素）の働きが、乳児ではまだ未熟です。

米国小児科学会（AAP）は、これらの理由から、特に生後3ヶ月未満の乳児に対して、硝酸塩を多く含む野菜（ビーツ、ほうれん草、にんじん等）を家庭で調理して与えることは避けるべきだという画期的な報告を2005年に発表しています⁵。この報告では、主要なリスクは汚染された井戸水にあるとも指摘されています⁶。

日本の乳児における実際のリスク評価

では、日本の赤ちゃんにとってのリスクはどの程度なのでしょうか。この点に関して、日本の農林水産省は非常に重要かつ安心できる見解を示しています。日本では、離乳食の開始時期が通常生後5〜6ヶ月以降であり、生後3〜4ヶ月頃を過ぎると乳児の消化器官の機能が発達し、メトヘモグロビン血症のリスクは著しく低下します。そのため、**「日本では、離乳食として野菜を与えることによってメトヘモグロビン血症を発症したという報告は（知る限り）ない」**とし、野菜の栄養的な有用性を考慮すると、野菜中の硝酸塩に基準値を設けることは適当ではないと結論付けています¹⁵。これは、適切な時期に、適切な調理法で、適量を与えるという日本の離乳食の進め方そのものが、リスクを管理する上で非常に有効であることを示唆しています。

その他の注意点：アレルギー、シュウ酸、便や尿の変化

硝酸塩以外にも、ビーツを導入する際に知っておきたい点がいくつかあります。

• 食物アレルギーの可能性
  ビーツはアレルギーを起こしにくい食品とされていますが、可能性はゼロではありません。他の新しい食材と同様に、初めて与える際は、他の食材と混ぜずに単独で、そして病院が開いている平日の午前中に試すのが賢明です¹⁷。数日間は体調に変化がないか注意深く観察しましょう。
• シュウ酸について
  ビーツにはシュウ酸も含まれています。シュウ酸は体内でカルシウムと結合し、カルシウムの吸収を妨げたり、体質によっては尿路結石の原因になったりすることがあります³。ただし、これは大量に摂取した場合の話であり、離乳食で与える程度の量であれば過度に心配する必要はありません。シュウ酸も水溶性で加熱に弱いため、茹でる調理法はシュウ酸を減らす上でも有効です。
• 便や尿が赤くなるのは心配ない
  ビーツを食べた後、おむつを開けて赤やピンク色の便や尿が出ると、驚いてしまうかもしれません。これは「ビーツ尿」と呼ばれる現象で、ビーツの赤い色素「ベタシアニン」が体に吸収されずにそのまま排出されることによる、全く無害な生理現象です³。病気ではありませんので、慌てずに安心してください。事前にこのことを知っておくだけで、不要な心配を避けることができます。

【月齢別】安全なビーツの調理法と離乳食レシピ

赤ちゃんの成長に合わせて、適切な固さと形状でビーツを提供しましょう。

離乳初期 (5-6ヶ月)・中期 (7-8ヶ月)

推奨しません。
この時期の赤ちゃんには、前述の硝酸塩リスクと、消化・咀嚼能力の観点から、ビーツを与えるのはまだ早いと考えられます。豆腐や白身魚、かぼちゃなど、より消化しやすく安全な食材から始めましょう。

離乳後期 (9-11ヶ月) – カミカミ期

• 固さの目安：指で簡単につぶせるバナナ程度の固さ⁴。
• 量の目安：小さじ1から始め、徐々に増やします。
• レシピ例1：基本のビーツペースト¹
  1. ビーツは皮をむき、適当な大きさに切ります。
  2. 鍋にビーツとたっぷりの水を入れ、竹串がすっと通るまで30分以上、じっくりと茹でます。
  3. 茹で汁は捨て、ビーツを裏ごしするか、ブレンダーで滑らかなペースト状にします。
  4. だし汁や湯冷ましを加えて、赤ちゃんが食べやすい固さに調整します。

離乳完了期 (12-18ヶ月) – パクパク期

• 固さの目安：歯ぐきで噛める肉団子程度の固さ⁹。
• レシピ例2：ビーツと鶏ささみのポタージュ
  基本のビーツペーストに、茹でて細かくほぐした鶏ささみと、少量の牛乳または育児用ミルクを加えて温めます。栄養バランスが良く、彩りも綺麗な一品です。
• レシピ例3：手づかみ食べビーツの蒸しパン¹
  ホットケーキミックスに、細かく刻んだりすりおろしたりした茹でビーツと牛乳を混ぜ、シリコンカップに入れて蒸し器で蒸します。手づかみ食べの練習にぴったりです。

よくある質問 (FAQ)

結論：専門家の知見を参考に、安全にビーツを取り入れよう

栄養豊富なビーツは、適切な知識を持って取り入れれば、赤ちゃんの成長にとって素晴らしい食材となり得ます。本記事で解説した重要なポイント、すなわち**「①開始時期は離乳後期の9ヶ月頃から」「②硝酸塩リスクを理解し、加熱調理と茹で汁を捨てるなどの対策を徹底する」「③少量から始め、アレルギーなどの体調変化に注意する」**という三原則を守ることが、安全な導入の鍵となります。海外の情報に惑わされず、日本の厚生労働省の指針や、かかりつけの小児科医、管理栄養士などの専門家の助言を信頼し、赤ちゃんのペースに合わせて、焦らずゆっくりと離乳食を進めていきましょう。この記事が、あなたの育児における確かな羅針盤となることを心から願っています。