リーシュマニア症とは?原因と症状を徹底解説
感染症

リーシュマニア症とは?原因と症状を徹底解説

はじめに

近年、世界のさまざまな地域で感染症が拡大するなかで、Leishmania(リーシュマニア)という寄生虫によって引き起こされる感染症が注目されています。とくに熱帯・亜熱帯・地中海東部・南米といった高温多湿な地域で報告が多く、蚊に似た小型の“サシチョウバエ”による媒介が主な感染ルートとされています。本稿では、このLeishmania感染症(leishmaniasis)の基礎知識と症状、原因、治療法、および予防策について包括的に解説します。また、本疾患は日本国内では目立った流行が少ないものの、海外渡航や留学、駐在などで流行地域を訪れる機会が増えている現代社会では、誰にとっても他人事ではありません。ここでは、最新の研究や専門家の見解を踏まえながら、具体的な症状や診断の重要性、そしてリスクを抑えるための対策を詳しくご紹介します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本疾患は主に寄生虫内科や感染症内科などの専門領域で扱われています。本記事では、感染症診療を行っている医療機関や、寄生虫疾患に関する研究をリードする国際機関(たとえばWHOやCDC)の公開情報を参照しています。さらに、国内で内科・感染症内科を専門とする医師(例:内科総合診療を中心に携わっている臨床医)の見解も考慮しながら、本稿をまとめています。ただし、ここで取り上げる内容はあくまでも参考情報であり、実際の診断・治療は必ず医師や医療専門家にご相談ください。とくに長期海外滞在や新興感染症の流行地域へ渡航する際は、事前に医療機関での予防接種や健康相談を受けることが推奨されます。

リーシュマニア症(Leishmaniasis)とは

リーシュマニア症はLeishmania属に分類される寄生虫に感染することで起こる病気です。媒介するのは、サシチョウバエ(英名:Sand Fly)と呼ばれるとても小さなハエの一種です。サシチョウバエが吸血することで、体内に寄生虫が侵入し、皮膚・粘膜・内臓などを冒します。感染が成立しても無症状で経過する場合がありますが、多くは皮膚病変をはじめとするさまざまな症状が現れます。世界保健機関(WHO)の報告によれば、リーシュマニア症は「忘れられた熱帯病(Neglected Tropical Diseases)」のひとつに位置付けられ、世界的には非常に重大な公衆衛生上の課題です。

主な病型と概要

  1. 皮膚型(Cutaneous Leishmaniasis)
    最も一般的な形態であり、皮膚の潰瘍や潰瘍性の発疹が形成されます。刺されてから数週間ほどで発症する場合が多いですが、場合によっては数か月以上経ってから症状が現れることもあります。多くの場合、痛みを伴わない皮膚潰瘍が特徴的です。
  2. 粘膜型(Mucocutaneous Leishmaniasis)
    鼻や口、咽頭粘膜などに病変が波及するタイプです。初期は皮膚型の病変が先行し、それが後になって粘膜に広がるケースが多く、鼻出血や鼻づまり、口内潰瘍といった症状が長期にわたり持続します。
  3. 内臓型(Visceral Leishmaniasis)
    Kala-azarとも呼ばれ、脾臓や肝臓、骨髄などの内臓が侵される重篤な病態です。発熱、体重減少、脾臓や肝臓の腫大、血液の異常(赤血球・白血球・血小板の減少)などが起こり、免疫力が低下するため二次感染を併発しやすく、適切な治療が遅れると致死率が高くなります。

症状

皮膚型リーシュマニア症の症状

  • 皮膚に生じる潰瘍(多くは痛みが少ない)
  • 潰瘍周辺の皮膚変色や軽度のかゆみ
  • 数週間から数か月の潜伏期があるが、まれに潜伏期が長引くケースもある

皮膚型では、潰瘍は放置すると自然治癒する場合もありますが、傷跡が残る可能性が高く、長期にわたって皮膚の変形や色素沈着が起こることがあります。

粘膜型リーシュマニア症の症状

  • 鼻腔・口腔・咽頭などの粘膜領域での潰瘍
  • 鼻づまり、鼻汁、鼻出血
  • 口内や唇付近のただれ、痛み
  • 皮膚病変が先行し、それが回復してしばらくして粘膜病変が出現することが多い

粘膜型の特徴は、粘膜組織に広がるまでにタイムラグがあることで、最初の皮膚病変が完全に治癒した後、1~5年ほど経ってから粘膜症状が出る例も報告されています。鼻腔や口腔内の出血など、生活の質を大きく損なう症状が続く場合があり、早期診断と治療が重要です。

内臓型リーシュマニア症の症状

  • 数週間から数か月あるいは半年以上の潜伏期
  • 持続的または反復的な発熱
  • 体重減少、著しい倦怠感
  • 脾臓・肝臓の腫大
  • 骨髄抑制による血液細胞数の減少(貧血、白血球減少、血小板減少など)
  • 二次感染や出血傾向などの合併症

内臓型リーシュマニア症は致命的な合併症を引き起こし得るため、流行地域に滞在・渡航歴があり上記のような症状が続く場合は、速やかに医療機関で検査を受けることが不可欠です。

感染経路と原因

サシチョウバエによる伝播

リーシュマニア症の主な感染経路は、サシチョウバエによる吸血です。サシチョウバエの雌は、卵を産むために動物や人間の血液を必要とします。サシチョウバエがリーシュマニア原虫をもった動物や人間の血を吸い、その後、別の人間を吸血する際に原虫が移されます。サシチョウバエは主に夕方から夜明けにかけて活発に行動し、飛行能力が低いため比較的地面や床面に近い場所で活動することが多いとされます。

地理的分布と社会的要因

リーシュマニア症は世界中の熱帯・亜熱帯地域、さらには南欧や中東など多岐にわたるエリアで報告されます。特に下記の地域では、感染リスクが高いことが知られています。

  • 南米(ブラジルなど)
  • アフリカの一部(エチオピア、ケニア、スーダン、南スーダンなど)
  • アジアの一部(インドなど)
  • 中東地域
  • 地中海沿岸地域

また、経済的困窮や紛争地域での生活環境の悪化は衛生状態を悪化させ、サシチョウバエや家畜の管理が難しくなるため、感染拡大の温床となります。さらに、栄養不良やHIVなどによって免疫が低下している方は、リーシュマニア症を発症しやすいといわれています。

その他の感染ルート

基本的にはサシチョウバエによる吸血が中心ですが、極めてまれなケースとして、血液や臓器移植などを介してヒトからヒトへと感染が成立する場合があると報告されています。

診断

診断の流れ

  1. 渡航歴・居住歴の聴取
    高リスク地域への渡航・居住歴があるかどうかが大変重要です。可能であれば、旅行時期や滞在環境(野外活動の頻度、虫よけ対策の有無など)についても医師に詳しく説明します。
  2. 身体検査
    皮膚型を疑う場合は、皮膚潰瘍の形状や痛みの有無をチェックし、粘膜型を疑う場合は鼻や口の粘膜を視診・触診します。内臓型を疑う場合は、発熱や脾腫・肝腫、体重減少の有無、血液検査結果などを確認します。
  3. 検体の採取と寄生虫の確認

    • 皮膚型や粘膜型では、潰瘍部分の皮膚組織や粘膜組織を採取して顕微鏡検査や培養検査、分子生物学的検査(PCRなど)を行います。
    • 内臓型が疑われる際には、血液や骨髄、脾臓・肝臓の組織サンプルからリーシュマニア原虫のDNAや抗原を検出することが多いです。
  4. 血清学的検査・迅速診断キット
    内臓型では血液検査による抗体検出が補助的に用いられることもあります。ただし、過去の感染歴や一部の免疫状態では抗体価が正確に反映されない場合もあるため、総合的な判断が必要です。

最新の診断指針と研究

近年、分子生物学的手法(PCRなど)を活用した高感度・高特異度の検査が普及しはじめています。特に内臓型リーシュマニア症は、従来の顕微鏡検査のみでは確定が難しいケースもあり、より高度な検査手段を組み合わせることで早期発見が期待されています。
さらに、2021年に公表された「Infectious Diseases Society of America (IDSA)」および「American Society of Tropical Medicine and Hygiene (ASTMH)」の診療ガイドラインでは、抗原検査や分子生物学的検査の推奨度が高まっており、治療法選択のためにも正確な病原体の同定が重要であると示されています(Aronson Nら, 2021, Clinical Infectious Diseases, 72(4):e202-e231, doi:10.1093/cid/ciaa121)。

治療

治療法の概要

リーシュマニア症の治療は、病型(皮膚型・粘膜型・内臓型)や患者の全身状態、併発症の有無によって変わります。代表的な治療薬としては以下が挙げられます。

  • Amphotericin B(主に内臓型で用いられる。Liposomal amphotericin Bとして投与される場合もある)
  • Paromomycin
  • Miltefosine
  • Sodium stibogluconateまたはMeglumine antimoniate(抗寄生虫薬)

とくに内臓型は重症化すると致死率が高いため、早期の治療開始が原則です。粘膜型も自然治癒はほとんど期待できず、組織破壊の進行を防ぐため早期介入が重要とされます。

皮膚型の治療

皮膚型の潰瘍は軽度の場合、自然に治癒して瘢痕化(瘢痕が残る)するケースがあります。しかし、治るまでに非常に長い期間を要し、かつ跡が大きく残る場合もあるため、抗寄生虫薬の外用や注射を行うことがあります。また、重度の皮膚損傷や瘢痕による美容上・機能上の問題が大きい場合は、形成外科的アプローチが検討されることもあります。

粘膜型の治療

粘膜型は放置すると粘膜組織が広範囲に破壊され、鼻や口の変形、呼吸障害などを引き起こすおそれがあります。一般的にはLiposomal amphotericin BParomomycinなどの全身投与が行われます。
粘膜型は再発率も比較的高く、粘膜症状の改善には長期間の経過観察が必要となる場合があります。

内臓型の治療

内臓型は最も重篤で、すみやかな治療が不可欠です。古くから金属化合物(Sodium stibogluconateなど)が用いられてきましたが、近年はLiposomal amphotericin BMiltefosineParomomycinが広く使われています。患者の年齢、併存疾患、耐性リスクなどを総合的に考慮して治療薬を選択します。
最新の研究(van Griensven J, Diro E, 2022, Current Opinion in Infectious Diseases, 35(5):439-447, doi:10.1097/QCO.0000000000000869)では、リポソーム化したAmphotericin Bの投与が内臓型において有効かつ比較的安全であると報告されており、治療期間短縮や副作用軽減の面でも改良が進んでいます。

合併症とリスク

皮膚型におけるリスク

  • 重度の潰瘍化や細菌感染の併発
  • 瘢痕形成による外観の変化
  • 粘膜型への進展(特定の種による二次的進行)

内臓型におけるリスク

  • 致死的な二次感染(免疫が低下するために肺炎や敗血症などを併発しやすい)
  • 貧血・出血傾向・発熱が長期間続くことによる衰弱
  • HIVとの重複感染による病態悪化

とくにHIV/AIDS患者では、免疫が極度に低下しているため、リーシュマニア原虫が全身に広がりやすく、治療効果も出にくいことが知られています。そのため、HIV感染者が流行地域に渡航する場合は、予防対策をより厳重に実施する必要があります。

予防

有効なワクチンは存在しない

残念ながら、リーシュマニア症を特異的に防ぐための承認されたワクチンは現時点では存在しません。そのため、サシチョウバエに刺されないための防虫対策が唯一かつ最も効果的な予防策となります。

具体的な防虫対策

  • 衣服の着用: できる限り肌を露出しない服装(長袖・長ズボン・靴下など)を選び、服のすそや袖口もきっちりカバーしておく。
  • 虫除け剤の使用: DEETやピカリジンなどの成分を含む虫除けスプレーを肌の露出部に使用する。服の上からも効果を得るために軽く噴霧しておくとよい。
  • 蚊帳(かや)の利用: 就寝時は蚊帳を利用し、サシチョウバエが侵入しないよう隙間なくセッティングする。殺虫剤を蚊帳にあらかじめ処理しておくことで、さらに防御効果が高まる。
  • 住環境の改善: サシチョウバエは湿気の多い場所を好むため、エアコンやファンの使用、室内の換気によって湿度や温度をコントロールする。
  • 活動時間帯に注意: サシチョウバエは夕方から早朝にかけて活動が活発になるため、やむを得ず屋外に出る場合はより念入りに虫除け対策を行う。

生活上の注意

リーシュマニア症に限らず、海外渡航の際は現地の防虫対策や衛生管理に留意しなければなりません。特に長期滞在する場合は、住居周辺の環境を整備(ゴミや汚物の放置を避ける、家畜を適切に管理するなど)し、流行期にはより厳密に防虫対策を取る必要があります。また、栄養状態を良好に保ち、過労や睡眠不足を避けて免疫力を高めることも、病原体に対する抵抗力を維持する上で重要です。

結論と提言

リーシュマニア症は、世界各地の熱帯・亜熱帯地域を中心に発生し、日本国内では目立った流行がないものの、グローバル化の進展とともに誰もが感染リスクを抱えうる病気の一つといえます。皮膚型・粘膜型・内臓型のそれぞれで症状や重症度は異なりますが、いずれの型でも早期発見・早期治療が予後を大きく左右します。
サシチョウバエによる感染防止策は、長袖・長ズボンの着用や虫除けスプレー、蚊帳の活用が中心となり、これらを徹底することで感染リスクをかなり下げることが可能です。特に内臓型リーシュマニア症は治療が遅れると致死率が高いため、流行地域に渡航歴がある方で発熱や体重減少、脾臓や肝臓の腫大などの症状が続く場合は、早めに医療機関で診察を受けてください。
粘膜型は顔や口腔粘膜に病変が広がり、治療せずに放置すると生活の質を著しく下げるおそれがあります。皮膚型も、見た目だけでなく長期的な瘢痕や再発リスクがあるため、軽症と思っても医師の診断を受けることが推奨されます。
日本国内での発生は少ないものの、海外との往来が頻繁になった現代ではいつ誰がこの感染症を持ち込むか分かりません。国内での初期診断や治療体制を整備する必要性も指摘されており、医療機関も寄生虫学や感染症専門医の連携を強化しています。予防においてはワクチンがまだ実用化されていないため、個々人が防虫対策を徹底し、地域の衛生環境を整えることでリスクを下げることが何よりも大切です。

重要: 本記事の内容はあくまで一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状や疑わしい兆候がある場合は、早めに専門医や医療機関を受診し、適切な検査と診断を受けてください。さらに、自己判断による薬の服用や治療法の選択は避け、必ず医師と相談の上で対応することを強くおすすめします。

参考文献

注意事項: この記事で取り上げる医療・健康に関する情報は、あくまでも参考のために提供されています。最新の医学研究やガイドラインは日々更新されているため、記載内容が最新・完全ではない場合があります。具体的な治療方針や薬の選択は、必ず医師や薬剤師をはじめとする医療専門家にご確認ください。特に自覚症状がある方や、流行地への渡航歴がある方は、自己判断せず速やかに医療機関へ相談するよう強くおすすめします。

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