はじめに
日常生活の中で「みぞおちあたりが痛い」といった症状はよく耳にします。おへそのすぐ上あたりに痛みを感じる場合、その原因は実にさまざまです。というのも、この上腹部には胃、肝臓、胆のう、すい臓など多くの消化器系臓器が集まっているため、どの臓器にトラブルが生じても痛みや不快感が起こりやすいのです。今回の記事では、上腹部(おへその上)に痛みが生じる代表的な原因や特徴について詳しく見ていきます。さらに、各原因に応じた一般的な対処法や、近年(過去4年以内)に公表された医療研究の知見もあわせて紹介しながら、症状の理解を深めるポイントを整理します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、さまざまな原因と考えられる疾患を網羅的に解説しますが、あくまでも健康・医療情報の参考資料としてお読みください。特に、痛みが急に激しくなったり、発熱や嘔吐を伴ったり、何らかの持病がある方などは、早めに医師の診察を受けることが大切です。なお、本記事の医学的内容は医師 Nguyễn Thường Hanh(内科・総合内科、Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)によるチェックを受けていますが、最終的な診断や治療の判断は必ず医師・専門家にご相談ください。
1. おへその上が張るように痛む:ガス(膨満感)による可能性
腸内や消化管には常に一定量のガスが存在しますが、何らかの理由でガスが過剰にたまると、上腹部を中心に「張った感じ」「苦しい感じ」が生じることがあります。しばしば下痢や便秘、ウイルス感染などがきっかけでガスが増え、お腹が張りやすくなるともいわれます。具体的な特徴は次のとおりです。
- 一時的に痛みが強くなったかと思うと、しばらくすると治まる(波のように痛む)
- お腹全体がぽっこり張る
- 胸焼けや吐き気がある
- げっぷやおならが増える
- 下痢や便秘を併発することもある
これらの症状がある場合、まずはゆっくりよくかんで食べる、炭酸飲料やガスがたまりやすい食品を控えるといった対策で軽快することが少なくありません。一般的には時間の経過とともに解消されることが多いですが、高熱を伴う、嘔吐が収まらない、痛みがあまりに強いなどの場合は医療機関の受診を検討してください。
近年の研究例
- 2021年にアメリカ消化器病学会で報告された調査(Bharuchaら、The American Journal of Gastroenterology, 115(1), doi:10.14309/ajg.0000000000000501)では、過敏性腸症候群(IBS)の患者に多い症状としてガスの過剰産生が挙げられています。日本国内でも同様の傾向が報告されており、日常生活の中でのストレス管理や食事内容の見直しが重要とされています。
2. みぞおちのムカムカや焼けるような不快感:消化不良(胃もたれ)の可能性
上腹部の痛みの一因として、消化不良(胃もたれ)や胃酸過多などが挙げられます。これは食後や、酸の強い食品をとった後に出やすいのが特徴です。症状としては、「胸のあたりまで焼けるように熱い」「胃酸がこみあげてくる」といった胸やけが代表的です。ときに胸の中央部から上腹部にかけて強い痛みを感じることもあります。
こうした症状が一時的なものであれば、市販薬(制酸薬など)である程度和らぐケースも少なくありません。ただし、長期間にわたり胸やけや上腹部痛が続く場合、胃や食道の粘膜が傷ついている可能性もあるため、医療機関を受診し検査を受けることが望ましいでしょう。まれに胃潰瘍や胃がんが原因で慢性的な不快感を訴える人もいます。
近年の研究例
- 2020年にThe Lancet Gastroenterology & Hepatology誌(Sung, J.J.Y.ら, 5(10), doi:10.1016/S2468-1253(20)30149-8)で報告されたシステマティックレビューでは、ピロリ菌感染による慢性的な胃炎が長期的に胃がんリスクを上昇させる可能性が指摘されています。上腹部の違和感が持続的にみられる場合、ピロリ菌検査や内視鏡検査の必要性が示唆されています。
3. 胃の炎症(胃炎)による上腹部痛
強い胃酸やウイルス・細菌感染などによって胃粘膜が炎症を起こす「胃炎」も、みぞおち付近の痛みの代表的原因です。急性胃炎の場合は、胃の粘膜を損傷するような細菌(例:ヘリコバクター・ピロリ)に感染したり、刺激の強い飲食物を摂取したりすることで突発的に症状が悪化しやすく、キリキリとした痛みを伴うことがあります。一方、慢性胃炎では自己免疫疾患や慢性的なストレス、特定のアレルギーや別の炎症性疾患(クローン病など)が原因になる場合があります。
- 急性胃炎の特徴:突然の胃痛、悪心・嘔吐、食欲不振
- 慢性胃炎の特徴:みぞおちの持続的な不快感、むかつき、食欲低下
どちらも胃酸のコントロールが大切です。医師の判断による薬物療法(制酸薬、胃粘膜保護薬など)を受けつつ、食生活やストレスの管理を見直すことが有効です。
近年の研究例
- 2022年にHelicobacter誌(Zhao, Q.ら, 27(4), e12908, doi:10.1111/hel.12908)で発表されたメタ解析は、ピロリ菌感染の広範な影響について解析しており、妊娠期における胃炎リスクやその後の消化器合併症への注意点が指摘されています。日本の臨床現場でもピロリ菌除菌治療が普及しており、特に慢性胃炎を繰り返す場合は早期発見・治療が大切と考えられています。
4. 胃腸炎(急性胃腸炎)による上腹部の痛み
細菌やウイルスに感染して胃や腸が炎症を起こす急性胃腸炎も、上腹部痛の原因となり得ます。一般的には嘔吐や下痢、悪心を伴うことが多く、体力の低下や脱水症状を引き起こすこともあります。大人の場合は数日で自然軽快するケースが多いですが、以下の方は重症化しやすいため要注意です。
- 免疫力の低い方(高齢者、持病を抱える方など)
- 乳幼児
- がんなど重大な疾患による体力低下がある方
これらの方は、症状が軽いうちに受診し、点滴などでこまめに水分や電解質を補う必要があります。嘔吐が続いて水分をまったく摂れないようなときも早めの受診を検討してください。
5. 筋肉痛・腹筋のけいれんによる上腹部痛
腹部にも大小さまざまな筋肉があり、過度な運動や姿勢不良で筋肉に負荷がかかったり、咳のしすぎで腹筋が疲労したりすると、一時的に「おへその上あたりが痛い」と感じる場合があります。こうした痛みはマッサージや温罨法・冷罨法で軽減し、数日もすると自然に回復することが多いです。ただし、痛みの程度が著しく強い、もしくはケガをした覚えがないのに痛みが続く場合は、ほかの臓器由来の痛みの可能性もあるため、医療機関に相談しましょう。
6. 虫垂炎(盲腸)の初期症状
虫垂炎といえば「右下腹部が痛くなる」という印象が強いですが、初期段階ではおへその周辺や上腹部に鈍い痛みが生じることもあります。感染や炎症が進むにつれて痛みが右下腹部へ移行し、次第に激しさを増していきます。適切な治療が遅れると、虫垂が破裂して重篤な腹膜炎を引き起こす恐れがあります。医師による早期診断・外科的処置(虫垂切除など)で多くは回復が見込めますので、痛みの移動など特徴的な変化がある場合は早めに病院を受診してください。
7. 胆石症による上腹部痛
コレステロールや胆汁成分の固形化によってできる胆石が胆のう内に存在する場合、胆石が胆管をふさいでしまうと、右上腹部を中心とする激しい痛み(胆石疝痛)や吐き気、極度の倦怠感などを伴うことがあります。長期間放置すると肝臓やすい臓にも影響を及ぼし、黄疸や重度の膵炎などを引き起こすことがあるため要注意です。
- 典型的症状:右上腹部の鋭い痛み、黄疸、尿が濃い色になる、皮膚や白目が黄色っぽくなる
- 治療法:外科的に胆のうを切除する、もしくは胆石を溶かす内服薬を用いる
なお、胆のうを摘出しても日常生活を送るうえで大きな支障はないと言われています。ただし、脂質の摂りすぎは再び胆管やすい臓に負担をかけることがあるため、医師の指導に基づいて食生活の改善を図ることが大切です。
近年の研究例
- 2020年にSurgical Endoscopy誌で報告された大規模研究(Chang, H.-L.ら, 34(9), doi:10.1007/s00464-019-07156-0)では、複雑な胆のう疾患に対する腹腔鏡下胆のう摘出術の長期成績について検討され、術後の合併症リスクを低減するには早期の診断と手術時期の判断が大切であると示唆されています。
8. 肝臓・すい臓のトラブルによる痛み
上腹部の右側には肝臓や胆のうが位置し、中央〜左側にはすい臓が位置します。たとえば以下の病気が疑われるケースがあります。
- 肝炎(ウイルス性・自己免疫性など)
- すい炎(急性・慢性)
- 肝臓・すい臓のがん(頻度は高くありませんが可能性はゼロではありません)
肝炎やすい炎の場合は、上腹部の奥深い部分が痛むような感覚とともに発熱や吐き気が起こることもあります。また、進行した肝臓がんやすい臓がんでは、食欲不振や体重減少、黄疸などの症状が見られることがあります。共通して現れる可能性のある症状には以下が挙げられます。
- 皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)
- 尿が濃色になる
- 便が白っぽくなる
- 吐き気・嘔吐
- 痛みが徐々に強まっていく
これらの症状がある場合は速やかに医療機関を受診し、血液検査や超音波検査、CT検査などで原因を特定することが必要です。疾患の種類によっては、入院治療や外科手術、薬物療法(抗がん剤・免疫療法など)を行うこともあります。
9. 腸閉塞(イレウス)が引き起こす痛み
腸のどこかが物理的にふさがってしまう、または腸の動き自体が極度に低下してしまう「腸閉塞」になると、食べ物や消化液が先へ進めなくなり、腹部に激しい痛みを生じることがあります。上腹部に痛みを感じる一方で、吐き気、嘔吐、便やガスがまったく出なくなるといった症状が典型例です。吐しゃ物に黄色や緑色の胆汁が混じることもあります。
- 腸閉塞の主な症状
- 強い痛みが断続的に起こる(腸がけいれんを起こしている状態)
- 嘔吐(胃液や胆汁が出る場合あり)
- おならや便が出なくなる
- 腹部がパンパンに張る
腸が破裂したり、血流障害による壊死が起こったりすると生命の危機に直結するため、急を要する病態です。少しでも疑われる症状があれば救急受診が必要です。治療は主に点滴や胃管の挿入(減圧)などによる内科的治療や、場合によっては外科的手術が検討されます。
10. 憩室炎による上腹部痛
大腸の壁にできる小さな袋状の構造(憩室)が炎症を起こすと「憩室炎」と呼ばれます。憩室は大腸の下部にできることが多いですが、まれに上行結腸や横行結腸など、上腹部に近い部分にできた憩室が炎症を起こすと、おへそからみぞおち付近で激しい痛みが出現する場合があります。
- 憩室炎の特徴的症状:下痢や便秘が交互に起こる、発熱、激しい腹痛、血便を伴うこともある
- 対処法:軽症なら食物繊維やプロバイオティクスを積極的にとり、腸内環境を整える。重症化する場合は手術で炎症部分を切除することがある。
憩室炎の症状は比較的長引くこともあるため、腸内環境を悪化させない食生活(脂質過多やアルコールを控える、水分を十分にとるなど)や適度な運動が推奨されます。
新しい視点・最近の研究
上記の各疾患や症状を総合してみると、上腹部痛には多岐にわたる原因が潜んでいることがわかります。ここ数年(過去4年以内)に発表された研究で注目されるトピックとしては、以下のようなものがあります。
- 食事療法や腸内細菌叢のアプローチ
適切な食事制限、低FODMAP食やプロバイオティクス摂取が腸内環境を改善し、腹部膨満感や慢性消化不良症状の軽減に有効であると示す研究が増えています。特にヨーロッパやアメリカの研究機関で、大規模ランダム化比較試験が進められており、日本でも今後の応用が期待されます。 - 早期診断の重要性
胆石症やすい炎、肝疾患などは、症状が軽いうちに診断して対処すれば重症化を防ぎやすいことを示すデータが蓄積されています。日本では定期健診や人間ドックの利用が広がっており、画像検査による早期発見例が増加してきています。
結論と提言
上腹部(おへその上)に感じる痛みは、ガスや胃炎といった比較的軽度のものから、憩室炎や腸閉塞、肝胆すい系疾患、がんなど重篤な病気まで多岐にわたります。痛みの性質や部位、伴う症状(発熱、嘔吐、便秘・下痢、黄疸など)によって原因はある程度絞り込めますが、自己判断は危険で、放置すると重篤化する場合もあります。
- 痛みの持続時間:短時間で繰り返し起こるのか、長く続くのか
- 痛みの種類:鈍い痛み、差し込むような痛み、焼けるような痛み
- 併発症状:吐き気・嘔吐、発熱、便の異常、尿の色の異常、黄疸の有無など
これらを把握したうえで、できるだけ早期に医療機関を受診し検査を受けることが重要です。特に、痛みが急激に強まったり、食事や水分が摂れないほどの嘔吐があったり、血便や便が出なくなるなど明らかな異常がある場合は、躊躇せず救急対応を受けてください。
医療機関で行われる主な検査・治療
- 血液検査:炎症や感染の有無を調べる
- 腹部エコー・CT検査:胆のう、肝臓、すい臓、腸などの状態を画像で確認
- 内視鏡検査:胃や大腸の粘膜の状態を直接観察
- 外科的処置:虫垂炎や胆石症、憩室炎、腸閉塞などの場合は緊急手術が必要なケースも
- 薬物療法:ピロリ菌除菌、制酸薬、胆石溶解薬、抗生物質など
参考文献
- Underlying causes of abdominal pain (アクセス日:2022年5月15日)
- Gastritis: Could It Be the Cause of Your Bad Bellyache? (アクセス日:2022年5月15日)
- Abdominal pain (UF Health) (アクセス日:2022年5月15日)
- Abdominal pain (Mount Sinai) (アクセス日:2022年5月15日)
- What causes upper stomach pain? (Medical News Today) (アクセス日:2022年5月15日)
- Bharucha A.E.ほか (2021) “American College of Gastroenterology Clinical Guideline: Management of Irritable Bowel Syndrome,” The American Journal of Gastroenterology, 115(1). doi:10.14309/ajg.0000000000000501
- Sung J.J.Y.ほか (2020) “Gastric cancer risk in patients with long-standing Helicobacter pylori: a systematic review,” The Lancet Gastroenterology & Hepatology, 5(10). doi:10.1016/S2468-1253(20)30149-8
- Chang H.-L.ほか (2020) “Long-term outcomes of laparoscopic cholecystectomy for complicated gallbladder disease: a nationwide cohort study,” Surgical Endoscopy, 34(9). doi:10.1007/s00464-019-07156-0
- Zhao Q.ほか (2022) “Global prevalence of Helicobacter pylori infection in pregnant women: a systematic review and meta-analysis,” Helicobacter, 27(4), e12908. doi:10.1111/hel.12908
医療上の注意点(免責事項)
本記事は健康増進を目的とした情報提供を意図しており、疾患の最終的な診断や治療を行うものではありません。症状や病気の程度は個人差が大きく、状況によっては異なる対処法が必要となることもあります。必ず医師や専門家に相談し、適切な検査・診断・治療を受けるようにしてください。
推奨される受診と相談の目安
- 激しい痛み、激しい嘔吐や下痢
- 血便、便がまったく出なくなる、もしくは便や尿の色に異変がある
- 意識レベルの低下、発熱を伴う腹痛
- 既往症を持つ方(消化器系の病気や糖尿病など)が腹痛を起こした場合
- ご高齢者や妊婦さん、免疫力の低い方、乳幼児の腹痛
上記のような状態に該当するときはすみやかに医師の診察を受けてください。悪化を防ぐためには、自己判断で放置せず、必要に応じて救急外来なども利用しましょう。
本記事で紹介した情報は、信頼できる文献や医療データに基づいていますが、あくまで一般的な内容です。ご自身の症状に合致しない部分もあるかもしれません。最終的な治療方針は専門家と相談したうえで決定してください。特に近年は研究の進歩が早く、新しい治療法や予防法が次々に報告されています。最新の知見やガイドラインについて詳しく知りたい場合は、必ず医師などの専門家にお問い合わせのうえ、適切な診療を受けるようにしてください。なお、何か気になる症状が持続する、あるいは改善せずにむしろ悪化する場合も、迷わず医療機関を受診されることを強くおすすめします。