はじめに
日常生活の中で、急に血圧が下がり、めまいや立ちくらみ、失神などを引き起こす「低血圧」の症状に悩む方は少なくありません。特に、朝起きるときや長時間同じ姿勢で過ごしたあとに体を動かすときなどに、血圧が一気に下がってしまい、ふらつきを感じることがあるでしょう。多くの場合、症状は軽度で一過性ですが、何度も繰り返すようになると仕事や日常生活へ支障をきたし、将来的には心血管系リスクなども懸念されます。そのため、低血圧を軽視せず、正しい知識を身につけて対策を講じることが大切です。本稿では、低血圧に関する基礎知識とともに、症状が出たときにすぐに実践できる対策や予防のコツを詳しく解説します。日々の生活を快適に保つためのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事は信頼できる医療・健康情報をもとに作成していますが、最終的な診断や治療方針の決定は専門家の判断が必要です。なお、本記事内で言及されている専門家としては医師・内科総合診療科の Nguyễn Thường Hanh氏が挙げられます。低血圧について症状が長引く、改善しない、あるいは生活に支障をきたすほどの異常がみられる場合は、早めに医療機関を受診して、医師に相談してください。
低血圧の症状は一見軽く見られがちですが、繰り返すと生活の質に大きく影響します。日頃から血圧を記録し、症状や生活習慣との関係を把握しておくと、医療機関を受診する際に役立ちます。
低血圧とは何か?基本的な理解
一般的に、成人の血圧は最高血圧(収縮期血圧)120〜129mmHg、最低血圧(拡張期血圧)80mmHg前後が標準的とされます。しかし、個人差が大きく、必ずしも「数値が低い=危険」というわけではありません。低血圧とは、一般的に血圧が上(収縮期血圧)で90mmHg以下、または下(拡張期血圧)で60mmHg以下になる状態を指すことが多いですが、日常的に低めの血圧を保っていても症状が出ない人もいます。
低血圧の主な症状
- めまい、ふらつき
- 立ちくらみ
- 意識が遠のくような感覚
- 倦怠感や疲労感
- 視界がぼやける
- 息切れ、呼吸が浅くなる感じ
- 吐き気
急性の低血圧は、血液が一時的に全身へ十分巡らず、特に脳への血流が低下することで起こります。食事後や起床時など、特定のタイミングで血圧が大きく低下する場合は「体位性低血圧(起立性低血圧)」や「食後低血圧」が考えられます。こうした症状を繰り返す方は、放置せず早めに対策を講じることが推奨されます。
1. 食事を小分けにする(食後低血圧の予防)
なぜ食後に血圧が下がるのか?
食べ物が胃に入ると、消化のために血液が消化管に集中します。その結果、脳やその他の臓器への血液量が一時的に減少し、血圧が下がりやすくなるのです。特に食後に眠気やだるさを感じる方は多く、血圧がもともと低い人や高齢者は、これが顕著に表れることがあります。
具体的な対策
- 1日3回の食事を4〜5回に分ける
1回の食事量を少なめにして、食後の急激な血圧低下を防ぎます。 - 食後すぐの運動を避ける
食後30分から1時間程度はゆったり過ごし、消化を優先させます。急な運動はさらなる血圧低下を招きかねません。 - 炭水化物を控えめにする
一度に大量の炭水化物を摂取すると血糖値が急上昇し、その反動で血圧が乱れやすいといわれます。なるべくバランスのよい食事を心がけましょう。
2. 炭水化物の量と質を見直す
炭水化物の中でも、白米や白パン、精製された小麦粉製品(パスタなど)は血糖値の変動を大きくしやすく、食後低血圧の一因となる場合があります。血圧が不安定な方は、全粒粉パンや玄米、オートミールなど、食物繊維を多く含む複合炭水化物を中心にすると、食後の血糖値および血圧の急変を緩和しやすくなります。
また、炭水化物の種類だけでなく、食べ方にも注意しましょう。たとえば、野菜やたんぱく質を先に食べてから主食を口にすると、血糖値の急上昇を抑えられます。栄養バランスと食べる順番の工夫によって、低血圧の症状緩和が期待できます。
3. 塩分を適度に補給する
なぜ塩分が関係するのか?
塩分に含まれるナトリウムは、体内の水分量を保持し、血圧を上昇させる一助になります。そのため、もともと血圧が低めの方にはやや多めの塩分補給が勧められることがあります。ただし、過剰摂取は高血圧や心臓・腎臓への負担を招きかねません。必ず医師に相談のうえで調整しましょう。
どの程度が目安か?
一般的に、日本人の食事摂取基準では、1日の塩分摂取量は男性7.5g未満、女性6.5g未満が推奨されています。しかし、低血圧の方の場合、個人差が大きいため、医療機関でアドバイスをもらいながら調節することが望ましいです。
4. 弾性ストッキング(着圧ソックス)の活用
下半身の血液プール(血液が溜まる状態)を軽減するために「弾性ストッキング」や「着圧ソックス」を利用する方法も有効です。脚部に程よい圧力をかけ、静脈還流を助けることで、脳への血流確保がしやすくなります。とくに立ち仕事の多い方や、長時間座りっぱなしの職業の方は、着用を検討してみるとよいでしょう。
5. 立ち上がるときはゆっくりと
体位性低血圧とは?
座位や臥位(横になった状態)から急に立ち上がるときに、血圧が急落してめまいやふらつきを起こす現象を「体位性低血圧」と呼びます。これは、高齢者だけでなく若い人でも起こり得ます。
対策のポイント
- 体を動かす前に足を動かす
横になっているときは、起き上がる前にゆっくり足首や膝を曲げ伸ばしして血流を高めてから体を起こすと、ふらつきを予防できます。 - 大きく深呼吸をしてから立ち上がる
酸素を十分に取り込み、呼吸循環を一度整えるとスムーズに体勢を変えられます。 - 膝を軽く曲げてから立つ
まっすぐ急に立ち上がるよりも膝のバネを使ってゆっくりと起き上がるほうが、血圧の急低下を防ぎやすいとされています。
万一、立ち上がったときに急なめまいやふらつきを感じたら、すぐに安全な場所に腰を下ろし、転倒を防止しましょう。数秒から数十秒ほど休むと症状が和らぐことが多いです。
6. 水分補給をしっかり行う
水分不足と血圧の関係
体内の水分が不足すると血液量が減り、血圧がさらに下がりやすくなります。したがって、低血圧の方にとって水分補給はとても大切です。特に夏場や運動後は意識的にこまめに水分を摂りましょう。
具体的な飲み物
- 水や麦茶
カフェインが含まれず、利尿作用も弱いため、こまめに補給できるのが利点です。 - 野菜ジュースや果汁100%ジュース
ビタミンやミネラルも補給できますが、糖分が多すぎないように量に注意が必要です。 - 朝のキャロットジュース+ハチミツ
低血圧改善の民間的な方法として知られ、心臓や腎臓の機能をサポートする可能性があるといわれます。ただし、医学的エビデンスは限定的なので、あくまでも補助的に取り入れてください。
カモミールや甘草(リコリス)のお茶
甘草(リコリス)に含まれる成分がコルチゾール(ストレスホルモン)の代謝に影響を与え、血圧の安定に寄与する可能性が示唆されています。毎日大量に摂取すると健康リスクも懸念されるため、適量を守ることが大切です。
7. アルコールは控えめに
アルコールには利尿作用があり、体内の水分を排出して血圧をさらに下げる場合があります。特に、ビールやワインなどを習慣的に多量に摂取する方は要注意です。低血圧の方はなるべく控えめにする、または飲まない選択肢を検討してみてください。
8. カフェインで一時的に血圧を上げる
コーヒーや紅茶、緑茶などに含まれるカフェインは、短時間ではありますが交感神経を刺激して血圧を上昇させる作用があります。そのため、低血圧を自覚している方は朝の1杯のコーヒーが有効と感じることがあります。ただし、カフェインには利尿作用や睡眠障害を引き起こす可能性もあるため、夜遅い時間帯の摂取は控えましょう。
カフェイン摂取時の注意点
- 1日あたりのコーヒー摂取量は2〜3杯程度を目安にする。
- カフェインなしの飲料と合わせて、こまめに水分補給を行う。
- 妊娠中・授乳中の方や心疾患のある方は、医師に相談のうえ摂取量を調整する。
低血圧を放置するとどうなる?
血圧が低い状態が慢性化すると、疲労感やめまいなどによる生活の質の低下だけではなく、転倒やケガのリスクが高まるといわれています。また、重度の場合、臓器への血流が不足して代謝機能や内臓機能の低下を招くおそれがあります。
特に高齢者や基礎疾患のある方では、低血圧に伴う脳血流量の低下が思考力や集中力、運動機能に影響し、日常の活動が制限されるリスクがあります。早めに対策を取ることで、こうした合併症の予防につながります。
追加で知っておきたい研究と新しい知見
近年、体位性低血圧や食後低血圧に関する研究が進み、高齢者以外の世代や女性、さらには運動習慣による影響など、多角的に検討が進んでいます。たとえば、以下のような研究が報告されています。
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Ray DM ほか (2020年)「Orthostatic hypotension: a narrative review of the epidemiology, pathophysiology, and approach to management」Cardiology Research and Practice, 2020: 7405319, doi:10.1155/2020/7405319
体位性低血圧に関する疫学や生理学的メカニズム、日常生活でのマネジメント法が包括的にまとめられ、若年層にも起こりうる点が強調されています。 -
Hu X ほか (2021年)「Association of orthostatic hypotension with cardiovascular and all-cause mortality: A systematic review and meta-analysis」Journal of the American Heart Association, 10(19): e021634, doi:10.1161/JAHA.121.021634
体位性低血圧が心血管リスクや総死亡リスクにどの程度関連するかを系統的に調査した研究で、長期間にわたる観察のなかで体位性低血圧が将来的な合併症リスクを高める可能性が示されています。
こうした最新の研究からは、日本国内の生活習慣においても、起床時や食後のふらつきに注意し、小さな症状の段階からケアを行うことで、健康の維持と合併症リスクの低減に効果的なことが示唆されています。
低血圧への総合的なアプローチ
- 生活リズムを安定させる
規則正しい睡眠時間、適度な運動、バランスの良い食事をとることは血圧の安定化に寄与します。 - ストレス管理
ストレスは自律神経のバランスを乱し、血圧のコントロールに影響を与えやすいです。瞑想や深呼吸、軽いストレッチなどで心身をリラックスさせる習慣を持ちましょう。 - こまめな血圧測定
特に起き抜けや食後、長時間座ったあとなど、低血圧が起こりやすいタイミングで測定し、その数値を記録しておくと、医師への相談時に大いに役立ちます。
おすすめのセルフケアと注意点
- 座位のときに脚を組まない
足の血流が滞りやすくなるため、めまいやふらつきのリスクが高まる可能性があります。 - 朝はゆっくり行動する
起床後いきなり立ち上がらず、ベッドの上で軽くストレッチや深呼吸を行ってから起き上がると安全です。 - 運動を上手に取り入れる
ウォーキングや軽い筋力トレーニングなど、無理のない範囲で行うと血管や心肺機能が強化され、血圧コントロールにも良い影響が期待できます。ただし、運動前にめまいがある場合は中止し、医師に相談しましょう。 - 急なめまいへの対処
急にふらつきやめまいを感じたら、まずは安全な場所に座るか横になるのが基本です。体位性低血圧の場合、足を上げたり膝を曲げたりして下半身の血液を心臓へ戻しやすくする体勢をとると回復が早まります。
結論と提言
低血圧は「血圧が低い」という数値的な問題だけでなく、めまいや失神、倦怠感など日常生活の質を下げる症状を引き起こす可能性があります。食事を小分けにする・炭水化物や塩分を適度に調整する・水分摂取を十分に行う・ゆっくり立ち上がる・弾性ストッキングを活用するなど、身近にできる対策を組み合わせることで症状の改善が期待できます。
ただし、これらの方法を試しても症状が改善しない場合、もしくは症状が顕著で日常生活に支障がある場合は、医療機関を受診し原因を明らかにすることが重要です。低血圧の原因が他の疾患や薬剤の副作用にある場合もあるため、専門の医師に相談することで適切な治療につなげてください。
また、高齢者や持病を抱える方では、低血圧に伴う転倒リスクなどが増大しやすい点も見逃せません。自身や家族の血圧傾向を日頃からよく観察しておき、少しでも異変が続くようであれば早めの受診を心がけることが重要です。
最後に、低血圧は個々人の体質、生活習慣、環境要因など、多くの要素が複雑に影響して起こる場合があります。自分に合った対策を見つけることが、症状のコントロールと生活の質向上につながります。
参考文献
- Low blood pressure (hypotension) – Mayo Clinic (アクセス日:2022年7月6日)
- Low blood pressure (hypotension) – NHS (アクセス日:2022年7月6日)
- Low blood pressure – MedlinePlus (アクセス日:2022年7月6日)
- Low Blood Pressure (Hypotension) – Cleveland Clinic (アクセス日:2022年7月6日)
- Low Blood Pressure (Hypotension) – nidirect (アクセス日:2023年3月14日)
- Ray DM ほか (2020年)「Orthostatic hypotension: a narrative review of the epidemiology, pathophysiology, and approach to management」Cardiology Research and Practice, 2020: 7405319, doi:10.1155/2020/7405319
- Hu X ほか (2021年)「Association of orthostatic hypotension with cardiovascular and all-cause mortality: A systematic review and meta-analysis」Journal of the American Heart Association, 10(19): e021634, doi:10.1161/JAHA.121.021634
免責事項
本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、医学的アドバイスの代替にはなりません。症状が続いたり、改善が見られない場合は、必ず医師や医療専門家にご相談ください。自分の体質や基礎疾患によっては、異なるアプローチが必要となる場合があります。必ず専門家の判断を仰ぐようにしましょう。