免疫性血小板減少症(ITP)のすべて:原因、症状、最新治療、そして希望ある生活への完全ガイド
血液疾患

免疫性血小板減少症(ITP)のすべて:原因、症状、最新治療、そして希望ある生活への完全ガイド

ある日突然、身に覚えのないあざが増えたり、鼻血が止まりにくくなったりして、不安に感じたことはありませんか。それはもしかしたら、免疫性血小板減少症(Immune Thrombocytopenia、略してITP)のサインかもしれません。ITPは、自身の免疫システムが誤って血液を固める役割を持つ「血小板」を攻撃してしまう自己免疫疾患です1。この記事では、JapaneseHealth.org編集委員会が、国内外の最新の医学的知見に基づき、ITPという病気の正体、正確な診断方法、日本における最新の治療選択肢、そして病気と向き合いながら希望ある生活を送るための具体的な情報を、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。ご自身や大切なご家族がITPと診断された方々の不安を和らげ、前向きな一歩を踏み出すための一助となることを心から願っています。

この記事の科学的根拠

この記事は、引用されている信頼性の高い医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下に、本稿で提示される医学的指導の根拠となった主要な情報源とその関連性を示します。

  • 日本小児血液・がん学会: 本記事における小児ITPの診断基準、病期分類、および「無治療経過観察」を原則とする治療方針に関する記述は、同学会が発行した「小児免疫性血小板減少症診療ガイドライン2022年版」に基づいています2
  • 厚生労働省研究班: 成人ITPに関する診断・治療戦略、特に日本独自の治療法であるヘリコバクター・ピロリ除菌療法の位置づけや、治療目標に関する解説は、厚生労働省の指定難病政策研究事業「血液凝固異常症等に関する調査研究班」が公開している「成人免疫性血小板減少症診断参照ガイド」および「成人特発性血小板減少性紫斑病治療の参照ガイド」を典拠としています3
  • 米国血液学会(American Society of Hematology – ASH): 日本の治療法と国際標準を比較し、読者の理解を深めるための記述(ステロイドの投与期間や治療開始基準など)は、同学会が発行した「2019年版 免疫性血小板減少症ガイドライン」に基づいています4
  • 難病情報センター: 日本におけるITPの疫学データ(患者数、好発年齢など)や、患者さんが利用できる公的支援制度である「指定難病医療費助成制度」に関する具体的な情報は、同センターが提供する公式情報に基づいています5

要点まとめ

  • ITPは、自分の免疫が血小板を攻撃してしまい、血が止まりにくくなる自己免疫疾患です。がんではありません。
  • 子どもでは急に発症し自然に治ることが多いですが、大人では慢性化しやすい傾向があります。
  • 診断は、血液検査で血小板の数を確認し、他の病気ではないことを確かめる「除外診断」という方法で行われます。
  • 治療の目標は、血小板数を正常値に戻すことではなく、危険な出血を防ぐ安全なレベル($20,000-30,000/\mu\text{L}$以上が目安)まで回復させ、生活の質を保つことです。
  • 治療法は、経過観察、ピロリ菌除菌(成人の陽性者)、ステロイド、TPO受容体作動薬、脾臓摘出など多様な選択肢があり、医師と相談して決定します。
  • ITPは日本の「指定難病」であり、重症度などの条件を満たせば医療費の助成が受けられます。

1. 免疫性血小板減少症(ITP)とは?まず知っておきたい基本

このセクションでは、ITPという病気の全体像を、専門用語をできるだけ避け、分かりやすい言葉で解説します。ご自身やご家族がITPと診断されたばかりの方々が、病気を正しく理解し、不安を和らげるための一歩となることを目指します。

1.1. 自分の体を攻撃してしまう「自己免疫疾患」

ITPは「自己免疫疾患」の一つです。通常、私たちの体を細菌やウイルスから守ってくれる「免疫」システムに異常が生じ、自分自身の健康な「血小板」を誤って敵とみなし、これを破壊する抗体(自己抗体)を作ってしまう病気です1。この攻撃には、主に2つのメカニズムが関わっています。一つは、自己抗体が血小板に結合し、その結果、主に脾臓(ひぞう)で血小板が破壊されてしまうこと。もう一つは、自己抗体が血小板の製造工場である骨髄にも影響を与え、新しい血小板の生産を妨げてしまうことです1

以前は「特発性(とくはつせい)血小板減少性紫斑病」と呼ばれていました。「特発性」とは「原因がわからない」という意味ですが、研究が進み、病気の正体が免疫システムの異常であることが明らかになったため、現在では「免疫性血小板減少症」という名称が国際的に使われています2。この名前の変更は医学の進歩を反映したものですが、診断や治療の方法が大きく変わったわけではないので、ご安心ください5

1.2. 子どもと大人で違うITPの特徴

ITPは、発症する年齢によってその特徴や経過が大きく異なります。

小児ITP

お子さんのITPは、多くの場合「急性型」です。日本小児血液・がん学会によると、症例の約75-80%がこのタイプで、発症から6ヶ月から1年以内に自然に治ることが多いのが特徴です5。ウイルス感染(風邪など)や予防接種の後に突然発症することがよくあります1。ある日突然、お子さんの体に原因不明のあざが増え、心配になって病院を受診したところITPと診断された、というケースが少なくありません。あるお母さんの体験談では、「ドッジボールで遊んだ後、息子の腕に強く掴まれたような大きなあざができていました。本人も痛くないと言うし、心当たりもない。それが病気に気づく最初のきっかけでした」と語られています6

成人ITP

大人のITPは、子どもとは対照的に「慢性型」が多く、症状が長期間続く傾向があります1。厚生労働省研究班のデータによると、日本における発症のピークは20代から40代の若い女性と、60代から80代の高齢者の二つに分かれています。特に若い世代では、女性の患者数が男性の約3倍と多くなっています5

1.3. 病気の経過:新しい分類法

医療の現場では、病気の経過をより正確に把握するため、国際的な基準に基づいた新しい分類法が使われるようになっています。これにより、患者さんと医師が今後の見通しを共有しやすくなりました7

  • 新規診断 (Newly diagnosed): 診断されてから3ヶ月以内。
  • 持続性 (Persistent): 診断から3ヶ月以上12ヶ月未満で、血小板減少が続いている状態。
  • 慢性 (Chronic): 診断から12ヶ月以上経過しても、血小板減少が続いている状態。

この分類は、病気が必ずしもすぐに「慢性」になるわけではないことを示しており、特に新規診断の患者さんにとっては、今後の経過を見守る上での一つの目安となります。

2. もしかしてITP?気になる症状と受診のタイミング

ITPの症状は出血に関連するものが主ですが、見た目には分かりにくい「隠れた症状」も存在します。ここでは、どのようなサインに注意すべきか、そしていつ病院へ行くべきかを具体的に解説します。

2.1. 体からのサイン:出血の症状

血小板は血液を固める働きがあるため、数が減ると出血しやすくなります。

皮膚の症状

  • 点状出血 (Petechiae): 赤や紫色の、針で刺したような小さな点々が、特に足などに出現します8
  • 紫斑 (Purpura): ぶつけた覚えがないのに、青あざや紫色のあざ(紫斑)ができます。これは皮下での内出血です1

粘膜の出血

  • 鼻血が出やすい、止まりにくい1
  • 歯磨きの際に歯ぐきから血が出る1
  • 女性の場合、月経の量が増えたり、期間が長引いたりする(月経過多)1
  • まれに、便に血が混じる(血便)や尿に血が混じる(血尿)こともあります1

重篤な出血(まれですが重要)

ITPで最も注意すべき合併症は、頭蓋内出血(脳出血)です。これは命に関わる非常に危険な状態ですが、頻度は極めてまれ(1%未満)と報告されています1。しかし、血小板数が極端に低い場合は危険性が高まるため、頭を強くぶつけたりしないよう注意が必要です。

2.2. 見過ごされがちな「隠れた症状」:倦怠感と心の負担

ITPの影響は、目に見える出血症状だけではありません。多くの患者さんが、生活の質(QOL)を大きく左右する「隠れた症状」に悩まされています。これらの症状を理解することは、病気と向き合う上で非常に重要です。

倦怠感

ITP患者さんの約半数が、原因不明の強い疲労感や倦怠感を訴えることが国際的な調査「I-WISh」で報告されています9。この倦怠感は、血小板数が安定しているときでも続くことがあり、日常生活や仕事に大きな影響を与えます7。これは単なる「疲れ」ではなく、病気そのものに関連する症状として認識することが大切です。

精神的な影響

いつ出血するかわからないという恐怖や不安は、常に患者さんの心に重くのしかかります7。突然のあざに対する周囲の視線が気になったり、活動が制限されることによる孤立感や抑うつ気分を経験する方も少なくありません9。ある患者さんは、「一番つらかったのは、病気のことよりも、私のせいで母が自分を責めてしまうのではないか、悲しませてしまうのではないか、ということでした」と、その心情を吐露しています10

2.3. いつ病院へ行くべきか

もし、以下のような症状に気づいたら、まずはかかりつけ医や内科、可能であれば血液内科(血液専門の診療科)を受診することをお勧めします。

  • ぶつけた覚えのないあざが、複数できたり、だんだん増えたりする。
  • 皮膚に細かい赤い点々が広がっている。
  • 鼻血や歯ぐきからの出血が頻繁に起こる、または止まりにくい。

早期に専門医の診察を受けることが、正確な診断と適切な対応への第一歩です。

3. ITPの診断プロセス:何が行われるのか

ITPの診断は、一つの検査で確定するものではなく、いくつかのステップを経て慎重に行われます。

3.1. 基本となる血液検査と問診

血液検査

まず行われるのが、血液中の血球成分を調べる「血算(全血球計算)」です。この検査で、血小板の数が基準値である$150,000/\mu\text{L}$を下回り、特に$100,000/\mu\text{L}$未満($10 \times 10^4/\mu\text{L}$)であるかを確認します2。ITPの典型的な特徴は、赤血球や白血球といった他の血液細胞の数は正常であることです11

問診

医師は、出血症状の具体的な内容、最近の感染症の有無、服用中の薬、過去の病歴、家族の病歴などを詳しく尋ねます。これらの情報は、他の病気の可能性を考える上で重要な手がかりとなります12

3.2. 他の病気ではないことを確認する「除外診断」

ITPの診断で最も重要なのが、この「除外診断」です。これは、血小板減少を引き起こす可能性のある他のすべての病気を一つずつ除外していくプロセスです1。鑑別すべき主な病気には、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群といった血液を作る骨髄の病気、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病、薬剤による副作用、特定のウイルス感染症(HIVやC型肝炎など)があります12

日本の診断ガイドライン2023年版の新しい視点

最新の日本の成人向け診断ガイドラインでは、この除外診断をより正確に行うため、血漿中の「TPO(トロンボポエチン)」というホルモンの濃度や、「幼若血小板比率(IPF)」という新しい指標を参考にすることが提唱されています13。これらの検査は、ITPと、骨髄での血小板生産能力が低下している他の病気とを区別するのに役立ちます。特に、日本では欧米に比べて再生不良性貧血の患者さんが多いため、この鑑別は非常に重要です13。ただし、2024年現在、これらの検査はまだ保険適用外である点に注意が必要です14

3.3. 骨髄検査は必要?

骨髄検査(骨髄穿刺・生検)は、腰の骨から骨髄液や組織を少量採取して調べる検査です。ITPの診断に必ずしも全員が必要なわけではありません。しかし、高齢で発症した場合、血液検査で血小板以外の異常が見られる場合、あるいは標準的な治療に反応しない場合など、他の骨髄の病気を確実に除外するために行われることがあります1

4. ITPの治療法:あなたに合った選択肢を見つける

ITPの治療は、近年大きく進歩しました。多様な選択肢の中から、患者さん一人ひとりの状態やライフスタイル、価値観に合った最適な治療法を医師と一緒に見つけていくこと(共同意思決定)が重要です。

4.1. 治療の目標:数を増やすことだけが目的ではない

まず理解しておきたい最も重要なことは、ITP治療の第一目標は「血小板の数を正常値に戻すこと」ではないという点です。真の目標は、「生命を脅かすような重篤な出血を防ぎ、患者さんが安心して日常生活を送れるようにすること」です2。具体的には、血小板数を安全なレベル(一般的に$20,000-30,000/\mu\text{L}$以上)に維持し、治療による副作用を最小限に抑えながら、生活の質(QOL)を改善することを目指します715

4.2. 日本の成人ITP治療の特色:ピロリ菌の除菌療法

日本の成人ITP治療において非常に特徴的なのが、ヘリコバクター・ピロリ菌の検査と治療です。胃の中に生息するピロリ菌に感染しているITP患者さんが、抗菌薬を用いて除菌治療を行うと、日本の研究では40-60%のケースで血小板数が増加することが報告されています16。このため、日本のガイドラインでは、ピロリ菌陽性の成人患者さんに対して、まず除菌療法を試みることが推奨されています3。この方法は、欧米に比べて日本で特に有効性が高いとされています15。ただし、小児ITPに対する有効性は確立されていません17

4.3. 主な治療法の比較表

以下に、ITPの主な治療法の特徴、利点、そして注意点をまとめました。これは、医師との相談の際に、ご自身の希望を伝え、治療方針を共に決定していくための参考情報です。

治療法 作用機序 使用方法 主な副作用 患者さんへの留意点
経過観察 薬を使わず、体の自然な回復力や状態の安定を待つ。 定期的な血液検査と診察。 なし。 出血症状が軽微な場合に選択。特に小児では第一選択2。急な症状の変化には注意が必要。
ステロイド 免疫の働きを抑え、血小板が破壊されるのを防ぐ。 プレドニゾロンなどの経口薬。 体重増加、不眠、気分の変化、糖尿病、骨粗しょう症、感染症のリスク増加。 最も標準的な初期治療。効果は高いが副作用も多い。国際的には短期使用(6週以内)が推奨される傾向4
TPO受容体作動薬 骨髄を刺激し、血小板産生を増やす。 経口薬(エルトロンボパグ)や皮下注射(ロミプロスチム)。 頭痛、倦怠感。まれに血栓症のリスクが指摘される。 副作用が比較的少なく、長期管理の主要な選択肢。継続的な使用が必要18
リツキシマブ 自己抗体を作るBリンパ球を標的にして破壊する。 週1回、計4回の点滴静注が標準。 点滴中のアレルギー反応、感染症のリスク増加。B型肝炎の再活性化に注意。 治療終了後も効果が持続する可能性がある19。効果発現までに時間がかかることがある。
脾臓摘出 血小板が破壊される主たる場所である脾臓を外科手術で取り除く。 腹腔鏡手術が一般的。 手術自体のリスク。術後、生涯にわたり特定の細菌に対する感染症のリスクが高まる。 他の治療で効果が不十分な場合の強力な選択肢。約6割で長期的な寛解が期待できる。術前のワクチン接種が必須。
免疫グロブリン大量療法 (IVIG) 一時的に血小板の破壊をブロックする。 数時間から数日にかけて点滴静注。 頭痛、発熱、悪寒、筋肉痛。 効果発現が速く、緊急の出血時や手術前に血小板を一時的に増やす目的で使われる。効果は一過的2

4.4. 小児と成人の治療戦略の違い

子ども: 治療の基本方針は「待つこと」です。多くが自然に治るため、出血症状が軽微であれば、薬を使わずに慎重に経過を観察します2。治療が必要なのは、鼻血が止まらないなどの粘膜出血がある場合や、出血への不安から生活の質が著しく低下している場合です2。治療の目的は、病気を根治させることではなく、危険な出血が起こりうる急性期を安全に乗り越える手助けをすることです。

大人: 慢性化しやすいため、多くの場合で何らかの治療が必要になります。ピロリ菌陽性ならまず除菌療法を試みます3。それが効かない、あるいは陰性の場合は、ステロイド治療から開始するのが一般的です。ステロイドで効果が不十分、あるいは副作用が強い場合は、TPO受容体作動薬、リツキシマブ、脾臓摘出といった第二選択の治療法へと移行します。どの治療法を選ぶかは、病状だけでなく、患者さん自身のライフスタイルや価値観を医師と共有しながら決定していきます4

5. ITPと生きる:日常生活での注意点とサポート

ITPと診断されても、多くの患者さんが病気と上手く付き合いながら、自分らしい生活を送っています。ここでは、日常生活での注意点や、利用できるサポートについてご紹介します。

5.1. 日常生活で気をつけること

  • 怪我の予防: 血小板数が少ないときは、転倒や打撲のリスクが高い活動は避けるのが賢明です。例えば、サッカーや柔道といった接触の多いスポーツは、医師と相談の上で再開を検討しましょう5
  • 薬剤の注意: 市販の解熱鎮痛薬の中には、アスピリンやイブプロフェンなど、血小板の働きを弱める成分を含むものがあります。自己判断で服用せず、必ず主治医や薬剤師に相談してください5
  • 自己観察: 自分の体の変化に気を配ることが大切です。毎日、皮膚にあざや点状出血が増えていないか、口の中に血豆ができていないかなどをチェックする習慣をつけましょう5
  • 妊娠・出産: 若い女性患者さんにとって、妊娠・出産は大きな関心事です。ITPであっても妊娠・出産は可能ですが、特別な管理が必要になります。母親の自己抗体が胎盤を通じて赤ちゃんに移行し、一時的に赤ちゃんの血小板を減少させる可能性があるため、血液内科医と産科医の緊密な連携のもとで計画的に進めることが重要です2

5.2. QOL(生活の質)を維持・向上させるために

病気による倦怠感や精神的な負担を認識し、一人で抱え込まないことが大切です。家族や友人、職場の同僚など、身近な人に病気について話し、理解と協力を求めることも助けになります。ある患者さんは、「子宮頸がんの手術で入院していた時、仕事で忙しい中、友人たちが毎日のように顔を出してくれました。『あなたは一人じゃないよ』という言葉は、今も私の宝物です。力強い仲間に救われました」と、人との繋がりの大切さを語っています20

5.3. 公的支援制度と相談窓口

日本には、ITP患者さんを支えるための公的な制度や相談窓口があります。

指定難病医療費助成制度

ITPは国の指定難病です(指定難病63)21。重症度分類で一定の基準(原則としてStageⅡ以上)を満たす場合、医療費の自己負担分の一部が助成されます22。申請には、主治医が記載した「臨床調査個人票」などの書類が必要です。詳しくは、お住まいの地域の保健所や、以下の「難病情報センター」のウェブサイトでご確認ください。

患者会・サポートグループ

同じ病気を持つ人々と繋がり、情報交換や悩みの共有をすることは、大きな心の支えになります。製薬会社などが運営する患者さん向けの情報サイトも、実用的な情報を提供しています。

6. ITP研究の未来と新しい治療法

ITPの治療は、この10年で飛躍的に進歩しました。TPO受容体作動薬の登場は、多くの患者さんのQOLを改善しました。そして今、研究はさらに次のステージへと進んでいます。免疫システムのより根本的な部分に作用する新しいタイプの薬剤、例えばFcRn阻害薬やSYK阻害薬などが開発され、日本を含む世界中で臨床試験が行われています25。これらの新薬は、将来的に、より効果的で副作用の少ない治療の選択肢となることが期待されています。医学は絶えず進歩しており、ITPと共に生きる未来は、より明るいものになりつつあります。

よくある質問

Q1: ITPはがんの一種ですか?

A1: いいえ、違います。ITPは血液の病気ですが、がん(悪性腫瘍)ではありません。免疫システムの異常による自己免疫疾患です。

Q2: ITPは遺伝しますか?

A2: 通常、ITPは遺伝する病気ではありません。後天的に(生まれてから)発症する自己免疫疾患です。ただし、ごくまれに遺伝性の血小板減少症がITPと間違われることがあるため、家族に同じような症状の方がいる場合は医師に伝えることが重要です。

Q3: ワクチンを接種しても大丈夫ですか?

A3: 非常に重要な質問です。ITP自体が、ウイルス感染や予防接種をきっかけに発症・悪化することがあるため、ワクチン接種については必ず主治医と相談してください5。接種のメリットとリスクを総合的に判断し、最適なタイミングや方法を検討する必要があります。

Q4: 食生活で気をつけることはありますか?

A4: 現在のところ、特定の食べ物がITPを良くしたり悪くしたりするという科学的根拠はありません。しかし、バランスの取れた健康的な食事は、全身の健康状態を良好に保ち、治療の副作用と闘う体力を維持する上で重要です。

結論

免疫性血小板減少症(ITP)は、多くの課題を伴う病気ですが、決して一人で立ち向かうものではありません。医学の進歩により、治療の選択肢は増え、より安全で効果的な管理が可能になっています。最も重要なことは、病気を正しく理解し、信頼できる主治医と良好な関係を築き、利用可能な公的支援やサポートを活用することです。この記事が、ITPと共に歩むあなたの道のりを照らす一筋の光となり、希望を持って未来へ進むための力となることを、JHO編集委員会一同、心より願っております。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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