卵巣がん治療法の全貌とは?| 最新ガイドラインで見る治療戦略
がん・腫瘍疾患

卵巣がん治療法の全貌とは?| 最新ガイドラインで見る治療戦略

はじめに

卵巣がんの治療は、早期に発見されればされるほど良好な経過が期待できるとされています。しかし、実際には発見が遅れることが多く、症状が進行してから診断される場合も珍しくありません。そこで重要になるのが、適切な治療法を選択し、専門家と十分に相談したうえで総合的な治療計画(いわゆる「治療プロトコル」)を立てることです。本記事では、代表的な治療選択肢として知られる手術・化学療法(抗がん剤)を中心に、放射線治療やホルモン療法、標的治療、免疫療法、そして緩和ケアなどを含む包括的な卵巣がんの治療戦略について解説します。さらに、最新の研究知見も踏まえながら、それぞれの治療がどのような場合に選択されるか、またどのような点に注意が必要かなどを、できるだけわかりやすくご紹介します。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

専門家への相談

本記事で取り上げる治療法は、さまざまな学会や病院の情報、臨床研究などをもとにまとめていますが、個々の患者さんの病状や背景、合併症の有無などにより最適な治療法は異なります。そのため、必ず医師をはじめとする専門家に相談し、自身の状況に合わせた治療方針を決定することが大切です。本記事の内容はあくまで参考情報であり、最終的な判断は担当医と協議しながら進めてください。なお、本記事では医師としてBác sĩ Trần Kiến Bìnhが専門的なアドバイスを行ったとされる情報を参考に、一部内容を補足しています。

卵巣がんとは

卵巣がんは、卵巣にできる悪性腫瘍の総称であり、組織型や進行度によって症状や治療方針が異なります。早期の段階では明確な自覚症状が少ないため、進行してから見つかることも少なくありません。一般的には、下腹部の痛みや膨満感、不正出血、月経異常などをきっかけに受診し、画像検査や腫瘍マーカー(CA125など)の測定を行って診断されます。

がんの進行度はⅠ~Ⅳ期に分けられますが、治療は「病期(ステージ)」「がんの組織型」「全身状態(体力・合併症)」「遺伝子変異(BRCA変異など)の有無」などさまざまな要素を考慮して決定されます。さらに、患者さん本人の年齢、ライフプラン、経済的背景なども治療選択に影響することがあります。

卵巣がん治療の主なポイント

卵巣がんの治療プロトコルは一般に、手術を中心に化学療法(抗がん剤)を組み合わせる形が最もよく行われます。補助的に、放射線治療、標的治療、ホルモン療法、免疫療法、そして症状を和らげるための緩和ケアなどを選択する場合があります。以下では、それぞれの治療法について詳しく解説します。

  • 腫瘍の大きさ・種類
  • 腫瘍の位置
  • 転移・浸潤の有無
  • 患者さんの全身状態や基礎疾患
  • 遺伝子変異(BRCAなど)の有無
  • 患者さんの希望・経済的事情

これらの要素を総合的に考慮して、主治医が最適な治療方針を検討します。

手術療法

1. 片側卵巣切除術

卵巣がんがⅠ期で、腫瘍が片方の卵巣にとどまっている場合、片側の卵巣と卵管のみを切除する手術が選択されることがあります。比較的若い方や将来的に妊娠を希望される方には、片側卵巣の温存手術が選択肢となることもあります。ただし、がんの種類や進行度によっては、妊孕性(妊娠能力)を優先して温存できるかどうかはケースバイケースです。

2. 両側卵巣切除術

がんが両側の卵巣に認められる場合は、両側卵巣と両側卵管を摘出することが多いです。この場合、自然妊娠は不可能になりますが、あらかじめ卵子や受精卵を凍結保存しておくことで将来的に妊娠の可能性を残す方策をとる場合もあります。

3. 子宮・両側付属器切除術

腫瘍がさらに進行している場合(例:子宮や腹膜などへの広がりが疑われる場合)は、子宮と両側卵巣・卵管、さらに腹部のリンパ節、腹膜(大網)などを広範囲に切除することがあります。これにより、がん組織をできる限り取り除き、再発を抑制することが目的です。子宮および卵巣がすべて摘出されるため、妊娠・出産は不可能になります。

4. 進行・再発時の減量手術

Ⅲ~Ⅳ期の進行がんや再発例では、手術でがん組織を「可能な限り」減らしたうえで、化学療法を組み合わせることがあります。これを「減量手術」と呼び、がん組織を大幅に減らすことで、抗がん剤による治療効果を高める目的があります。ただし、あまりにも広範に転移している場合や患者さんの体力が十分でない場合は、手術が難しい場合もあります。

化学療法(抗がん剤)

手術と並んで、卵巣がんの治療において非常に重要な位置を占めるのが化学療法です。抗がん剤は、腫瘍細胞の増殖を抑えたり死滅させたりする効果があります。以下のような場面で使われることが一般的です。

  • 術後補助化学療法(アジュバント療法)
    手術後に残っているかもしれない微小ながん細胞を叩くために行います。再発を予防する目的が大きいです。
  • 術前化学療法(ネオアジュバント療法)
    腫瘍が大きい、あるいは広範囲にわたる場合、手術の前に抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術を行うことがあります。
  • 再発時の化学療法
    一度寛解した後にがんが再発した場合、再度化学療法が行われることがあります。再発までの期間や前回使用した薬剤への反応状況によって治療薬を変える場合があります。

代表的な薬剤としては、プラチナ製剤(カルボプラチンなど)とタキサン系薬剤(パクリタキセルなど)の併用が多く用いられています。最近では、分子標的薬を併用したり、遺伝子変異(BRCA1/2)の有無に応じて選択的に使用する薬剤を検討したりと、治療の個別化が進んでいます。

放射線治療

卵巣がんにおいては、他の婦人科がん(子宮頸がんなど)に比べると放射線治療が主流になるケースは少ないですが、以下のような場合に選択されることがあります。

  • 局所的な症状緩和
    痛みや出血、臓器圧迫による症状を軽減するため、局所的に放射線を照射して腫瘍を縮小させる目的があります。
  • 脳転移や骨転移など特定部位の治療
    転移先が脳や骨などで限定的な場合は、ピンポイント照射を行い、症状を緩和または腫瘍を制御することがあります。

放射線治療は化学療法と組み合わせるよりも、どちらかというと「症状緩和」や「局所制御」を狙うことが多いです。ただし、患者さんの状態によっては大きな効果が得られる場合もあります。

標的治療

標的治療薬は、がん細胞の特異的な増殖経路や血管新生経路を狙い撃ちする薬剤です。がん細胞が持つ特定の変異やタンパク質をターゲットにするため、正常細胞への影響をある程度抑えながら効果を期待できます。卵巣がんでは、以下のような標的治療薬が検討されることがあります。

  • VEGF(血管新生因子)を抑える薬剤
    がん細胞が新たな血管を作って栄養を得るのを阻害し、腫瘍の成長を抑制します。
  • PARP阻害薬
    BRCA1/2変異を持つ卵巣がんを中心に効果が認められ、がん細胞のDNA修復機能を阻害して細胞死を促します。

特にBRCA1/2変異陽性の方では、PARP阻害薬による維持療法が治療効果を高める可能性があると報告されています。最近では、PARP阻害薬と抗血管新生薬(Bevacizumab など)を組み合わせた治療が研究されており、再発予防や生存率延長に関する多くの臨床試験が行われています。

なお、2021年にESMO Open誌に掲載された国際共同研究では、OlaparibとBevacizumabを併用した維持療法が、特にBRCA変異を有する卵巣がんの初回治療後の再発リスクを有意に低減させるという結果が示されました(Ray-Coquard I, Pautier P, Pignata S, et al. 2021, ESMO Open, 6(5):100278, doi:10.1016/j.esmoop.2021.100278)。日本国内においても卵巣がん患者に対するこのような分子標的薬併用の試みが進んでおり、今後も研究が継続的に行われる見込みです。

ホルモン療法

特定のタイプの卵巣がんの中には、女性ホルモン(エストロゲン)を利用して成長するものがあります。こうしたタイプのがんに対しては、エストロゲン作用をブロックする薬剤(例:タモキシフェンなど)を使うホルモン療法が選択肢となる場合があります。進行度や組織型にもよりますが、化学療法との併用や再発後の治療として検討されることがあります。

ホルモン療法の副作用は、化学療法に比べると比較的軽度とされることが多い一方、すべての卵巣がんに有効なわけではありません。腫瘍のホルモン受容体の有無を調べ、適切かどうかを判断する必要があります。

免疫療法

免疫療法は体の免疫システムを活性化し、がん細胞を攻撃させるアプローチです。卵巣がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬(PD-1阻害剤やPD-L1阻害剤など)の使用が研究・開発されています。ただし、現在のところ卵巣がんでの免疫療法単独効果は限定的とされ、再発例や進行例で他の治療法(化学療法や標的治療薬など)との併用が検討される段階です。

がん細胞は免疫監視をすり抜けるためにさまざまな仕組みをもっていますが、免疫チェックポイント阻害薬はその“隠れ蓑”をはがし、免疫細胞ががん細胞を再認識して排除できるようにします。今後の研究進展次第では、より効果的な免疫療法の併用法が生まれる可能性もあります。

緩和ケア(症状緩和)

進行期の卵巣がんや再発例では、生活の質(QOL)の改善を目的に緩和ケアを積極的に取り入れることが重要です。緩和ケアは「終末期のみのケア」と誤解されがちですが、実際には診断時から取り入れることが推奨される場合もあります。痛みや吐き気、腹水による苦痛など、多様な症状を薬物療法や支持療法でコントロールし、患者さんができるだけ快適な生活を送れるようサポートします。

緩和ケアは、他の治療(手術や化学療法など)と併用可能であり、体力の消耗を軽減することで主治医が行う治療の効果を高める効果も期待できます。患者さんやご家族のメンタル面に対するケアも大切な要素です。

治療後のフォローアップと再発

卵巣がんの治療が終了した後も、定期的なフォローアップが必要となります。画像検査(CTやMRIなど)や腫瘍マーカー(CA125など)の測定を行い、再発の兆候がないかを確認します。治療が終了してから数年経過しても、再発は起こりうるため、主治医の指示を守りながら定期的な検査を受けることが大切です。

もし再発が判明した場合は、前回の治療歴再発の時期腫瘍の遺伝子変異などを考慮して、再度化学療法や分子標的薬、免疫療法などを組み合わせた再発治療が検討されます。

卵巣がん治療に関する最新研究

近年、卵巣がんの個別化治療が大きく進歩しており、特に分子標的薬やPARP阻害薬を中心に、多くの臨床研究が進んでいます。2021年以降の国際学会の報告などでは、免疫療法とPARP阻害薬の併用、あるいは分子標的薬と従来の化学療法の同時併用など、さまざまな新規治療戦略が検討されてきました。日本国内でも、こうした最新アプローチを取り入れる専門施設が増えており、保険適用の拡大が期待されています。

さらに、BRCA変異のほかにも、さまざまな遺伝子変異を対象とした治療薬の開発が世界規模で行われているのが現状です。治療効果を正確に予測し、副作用を最小限に抑える「プレシジョン・メディシン(精密医療)」の概念が、卵巣がん領域においても広く浸透しつつあります。

推奨される生活習慣とサポート

卵巣がん治療の過程や治療後の生活では、下記のような生活習慣やサポートが推奨される場合があります。

  • 栄養バランスのとれた食事
    消化力が低下したり、免疫力が落ちたりしやすいため、主治医や栄養士の指導を受けながら適切な栄養を摂取しましょう。
  • 適度な運動・リハビリ
    体力の維持・回復や血行促進、むくみ予防などに効果的です。ただし、無理をせず、医療スタッフと相談しながら行うことが大切です。
  • 心理的サポート
    不安やストレスを抱えやすいため、必要に応じてカウンセリングやメンタルケアの専門家に相談しましょう。
  • 定期受診と検査
    再発や合併症の早期発見のため、指示されたペースで検診を受けましょう。

結論と提言

卵巣がんの治療は、手術と化学療法を基本としながら、進行度や組織型、遺伝子変異などに応じて放射線治療・標的治療・ホルモン療法・免疫療法・緩和ケアなどを組み合わせていく包括的なアプローチが鍵となります。特に進行した段階で見つかった場合でも、がん組織を可能な限り減らす「減量手術」や高度化した抗がん剤・分子標的薬・免疫療法などをうまく組み合わせることで、治療効果を高められる可能性があります。

また、最近の研究ではPARP阻害薬やVEGF阻害薬などの新規治療薬の併用が注目されており、再発率の低減や生存期間の延長が期待されています。ホルモン受容体やBRCA変異、その他の分子生物学的特性をふまえた個別化治療(プレシジョン・メディシン)の流れが加速することで、今後さらに効果的かつ副作用の少ない治療選択が拡大していく可能性があります。

ただし、どのような先進的治療であっても、実際には患者さんの全身状態や合併症、心理的負担などを総合的に考慮しなければなりません。主治医や看護師、薬剤師など、多職種チームとの密な連携と、患者さん自身やご家族の理解と協力が欠かせません。

最後に、本記事で取り上げた内容は、あくまで一般的かつ最新の研究動向を含む参考情報です。治療を行うかどうか、またどの治療法を選択するかは、患者さんが抱えるさまざまな背景と医療者側の専門的判断によって変わります。必ず担当医や専門家に相談したうえで、自分に合った最善の治療法を選ぶようにしてください。

免責事項・受診のすすめ

本記事は健康や医療に関する一般的な情報提供を目的としており、医師などの専門家による診察や治療の代わりとなるものではありません。気になる症状がある場合や治療法に疑問がある場合は、必ず医師や医療専門家にご相談ください。状況に応じて最適な治療計画を立てることが望まれます。

参考文献

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