咳払いが頻繁に出るのはなぜ?原因9つとその対策方法
耳鼻咽喉科疾患

咳払いが頻繁に出るのはなぜ?原因9つとその対策方法

はじめに

日常生活の中で、ふとしたときに「うっ」と声を出すように喉を鳴らす、いわゆる「タンを切る」「喉を軽く鳴らす」といった仕草をすることがあります。これは一般的に「咳払い」や「声をはる」「タンを切る」などさまざまに言い表されますが、本稿では便宜上「たんがん(頻回な咳払い)」という表現を用いて説明します。誰しも時々は行う動作ですが、もし1日に何度も繰り返し、しかも止められないほど続くのであれば、なんらかの健康上の問題や習慣的な行動が影響している可能性があります。

免責事項

当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

たんがんが長く続くと、喉の違和感だけでなく、コミュニケーションへの影響や、周囲の目が気になり自分自身がストレスを抱えてしまうこともあります。さらに、のどの粘膜に炎症が生じたり声帯を傷めたりといったリスクも否定できません。「子どもが絶えず咳払いをしているのは何かの病気ではないか」「大人でも、しょっちゅう喉を鳴らすのは良くないのではないか」――そうした疑問を抱える方も少なくありません。

本記事では、「なぜたんがんを繰り返してしまうのか」「どのような原因・病気が考えられるのか」を解説するとともに、長引く場合に考えられるリスクや病院での検査・治療の重要性、そして日常生活でできる対策や予防法について、できるだけ詳しく紹介します。医療機関への受診目安や具体的なケアのしかたなども含め、幅広い視点からお伝えします。

なお、本記事で紹介する内容は、信頼性の高い研究結果や医療情報をもとにまとめていますが、あくまで一般的な参考情報であり、個々の症例に対して医療上のアドバイスを行うものではありません。実際に長引く症状や違和感があれば、必ず医師や専門家にご相談ください。

専門家への相談

本稿では、のどの違和感や呼吸器に関連するさまざまな文献を参考にし、また世界的にも信頼度の高い医療情報を提供している機関・論文の知見を踏まえて解説しています。とくに、米国の学術機関や公的保健機関の調査(例:Centers for Disease Control and Prevention、各種耳鼻咽喉科専門誌など)を参照し、医療従事者の臨床経験を踏まえつつ情報を整理しました。加えて、本記事中で言及する治療法や対処法は一般論であり、日本国内の実状にも合わせて解釈しています。実際の診断・治療は、必ず専門医や医師にご相談のうえ決定してください。

「たんがん」を引き起こす9つの代表的な原因

「1日に何度も喉を鳴らす」「無意識のうちに声をはってしまう」など、たんがんが頻回に起こる背景には多様な要素が絡んでいる場合があります。下記に挙げる原因のいずれか、あるいは複数が重なって慢性的に続くことも考えられます。

1. 逆流性咽頭喉頭炎(LPR:咽喉頭への胃酸逆流)

概要とメカニズム
胃酸や食べ物が胃から逆流して喉や上部食道付近に到達する状態で、英語では Laryngopharyngeal Reflux(LPR)とも呼ばれます。胸焼け(典型的な胃食道逆流症症状)をあまり感じなくても、咽頭や喉頭に刺激が及ぶことで違和感が生じ、「たんがん」を繰り返すことがあります。特に夜間、就寝時に逆流が起こりやすく、それが翌日の喉の不快感や声のかすれにつながるケースも報告されています。

対策・生活習慣の見直し

  • 食後すぐに横にならない
  • 寝るとき、枕やベッドを工夫して上体を少し高く保つ
  • 過度に脂っこい食事や刺激物を控える
  • カフェインや炭酸飲料、アルコールはできるだけ控える
  • 禁煙
  • 体重管理(肥満や過体重の場合は適正体重へ近づける努力)

上記のような生活習慣の調整で症状が軽減する場合もあります。症状が強いときは、耳鼻咽喉科または消化器内科を受診し、必要に応じた薬物療法(胃酸を抑制する薬、粘膜を保護する薬など)を検討するとよいでしょう。

2. 後鼻漏(こうびろう)

概要とメカニズム
鼻や副鼻腔で分泌された粘液が、のどのほうへ流れ落ちる「後鼻漏」。これにより常に喉の奥に粘液が溜まるような感覚が生じ、気になって無意識にたんがんを繰り返す人も少なくありません。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、風邪などでも後鼻漏が起きやすくなります。

主な症状の例

  • 夜間に咳が出やすい
  • 喉の奥や舌の付け根に粘着感がある
  • 口呼吸による口臭、喉の渇き
  • たんや粘液を頻繁に飲み込む、または外へ吐き出そうとする

対策・治療
アレルギー性鼻炎が原因なら抗ヒスタミン薬などを使う場合もあります。鼻洗浄や生理食塩水スプレーなどで鼻腔を清潔に保ち、鼻づまりを緩和することも有効です。就寝時に頭部を高くする、部屋の湿度を適度に保つなどの工夫も検討してみてください。

3. 食道憩室(Zenker憩室など)

概要とメカニズム
食道の一部に袋状の膨らみ(憩室)ができ、食べかすや粘液がそこに溜まってしまう病態を総称して「食道憩室」と呼びます。特に咽頭近くにできるZenker憩室が有名で、まれではありますが、たんがんの原因となることがあります。袋状の部分に食品や粘液が停滞し、それを喉に逆流させる際に咳払いが誘発される可能性があります。

治療
憩室が大きく日常生活に支障をきたす場合、内視鏡的または外科的な手術治療が必要となることがあります。嚥下障害がある場合は、嚥下リハビリなどの訓練が有効なケースも報告されています。

4. チック障害(小児によくみられる音声チック)

概要と特徴
チック障害とは、不随意で突発的な動作や音声の反復を指します。まばたき、鼻をすすり上げる、しかめ面をする、さらには喉を鳴らすなどの音声チックも含まれます。小児期~青年期に発症しやすく、成長とともに自然に緩和するケースも少なくありません。ただし、生活や学習に支障をきたすほど強い場合は治療やカウンセリングを検討する必要があります。

主な症状

  • 顔をしかめる、瞬きを頻繁にする、肩をすくめるなどの運動チック
  • 声を出したり咳払いを繰り返す音声チック
  • ストレスや興奮状態、疲労などで悪化する場合がある

治療
症状が比較的軽度であれば経過観察で様子を見ることがありますが、症状が著しい場合には、行動療法(認知行動療法の一種)や場合によっては薬物療法を併用することも検討されます。周囲の理解も重要です。

5. トゥレット症候群(Tourette症候群)

概要
複数の運動チックと音声チックが1年以上続く場合に診断される神経疾患の一種です。チック障害の中で重度に分類されるケースで、「喉を鳴らす」「咳のような音を出す」「同じ言葉を繰り返す」「首や肩をひねる」といった症状が典型的にみられます。

主な症状例

  • まばたき、顔を歪めるなどの運動チック
  • 声を繰り返す、汚言症(突発的に不適切な言葉を叫ぶ)などの音声チック
  • 首の振りや肩のけいれん的動き
  • 他の神経発達障害(注意欠如・多動症など)を合併する場合もある

治療
薬物療法(抗精神病薬など)、行動療法、心理カウンセリングなどを通して生活の質を向上させる取り組みが主体となります。幼少期から思春期に発症するケースが多く、医療専門家との連携が大切です。

6. 小児における自己免疫性神経精神障害(PANDAS)

概要
PANDAS(Pediatric Autoimmune Neuropsychiatric Disorders Associated with Streptococcal infections)は、連鎖球菌感染(溶連菌による咽頭炎など)をきっかけに、自己免疫的なメカニズムで神経・精神症状が急速に悪化する状態を指します。チック症状や強迫的な行動変化、不安定な気分などが突然に表れ、たんがんなどの音声チックも含まれることがあります。

特徴的な症状

  • 不安・パニック発作
  • 計算能力の急激な低下、学習面の後退
  • うつ状態、情緒不安定
  • 咳払いや同じ言葉の反復などのチック様症状

治療
抗生物質で溶連菌感染を治療するとともに、重症例では免疫グロブリン療法やステロイド療法が検討されることもあります。並行して認知行動療法やカウンセリングを行い、心理的なケアを行うことも重要です。

7. 食物アレルギー

概要
特定の食物(乳製品、卵、ピーナッツ、大豆など)に対するアレルギー反応が喉の痒みやイガイガ感を引き起こし、それがきっかけでたんがんを繰り返すことがあります。とくに軽度の症状の場合、明確に「のどのかゆみ」の自覚がないまま、「違和感があって声をはる」程度で気づくこともあります。

対策

  • アレルゲンとなる食品を特定して完全除去、あるいは医師の指示のもとで摂取をコントロールする
  • 症状が強いときは抗ヒスタミン薬などを使用する場合も
  • アレルギー検査(血液検査、パッチテスト)で正確に原因食物を調べる

8. 薬の副作用

概要
降圧薬(特にアンジオテンシン変換酵素〈ACE〉阻害薬など)で喉周辺に違和感が生じ、たんがんのような咳払いを繰り返すケースが報告されています。もし、血圧の薬を飲み始めてから咳払いが目立つようになったと感じる場合には、担当医に相談して薬を切り替える選択肢を検討するとよいでしょう。

9. 習慣化・癖(ストレスや緊張によるもの)

概要と背景
生理的にも問題がなく、医学的な疾患も見られないのに、いつの間にか喉を鳴らす行為が日常的な癖として根付いてしまう場合があります。職場や学校などでの緊張や会話の前のルーティン、または強いストレス時に一時的に気を紛らわす行動として繰り返され、習慣的に固定してしまうことがあるのです。

対策

  • まずは自分がどのタイミングで咳払いをしているかを記録する
  • 十分に水分を補給し、喉が乾燥しないよう工夫する
  • たんがんをしたくなったら「一度大きく息を飲み込む」「人差し指をトントンと机にあてる」など、ほかの行動に置き換えてみる
  • リラックス法やストレスマネジメントを取り入れる

たんがんが長引く場合は要注意:受診のタイミング

たんがんが何週間、あるいは数カ月も続き、日常生活に支障をきたすと感じたり、声枯れや喉の強い痛み、あるいは飲み込みづらさなど別の症状を伴うようになった場合は、放置せずに早めに受診しましょう。

耳鼻咽喉科や内科を受診すると、以下のような検査を行う場合があります。

  • 喉頭ファイバースコピー:鼻や口から細いカメラを挿入して声帯や喉頭の状態を観察
  • 内視鏡検査(上部消化管内視鏡):逆流性食道炎や胃炎、食道憩室の有無を調べる
  • アレルギー検査:血液検査や皮膚テストなどでアレルギー反応を確認
  • 画像検査(X線、CT、MRIなど):稀なケースでは腫瘍や構造的異常を疑う場合などに実施

たんがんを緩和するための日常的対策

1. 水分補給と適度な加湿

喉の粘膜は乾燥すると刺激を受けやすくなり、わずかな違和感でも咳払いをしがちです。特に冬場やエアコン使用時期には空気が乾きやすいため、加湿器の活用や小まめな水分摂取を意識しましょう。

2. 声帯に優しい生活を心がける

大声を出したり無理に喉を酷使すると、喉頭周辺の粘膜や声帯が傷みやすくなります。声を出す仕事の方は適度に休息をとり、声帯を休める時間を設けましょう。また、アルコールやタバコは喉への負担を増やすので可能な範囲で控えることが大切です。

3. 食生活と姿勢の見直し

逆流性咽頭喉頭炎(LPR)を疑うときは、就寝前の暴食や脂っこいもの、強い刺激物を避けるように工夫しましょう。食後は最低でも2~3時間は横にならない、ベッドの頭側を少し高くするなどの対策が推奨されます。

4. ストレスのコントロール

不安・緊張・ストレスが続くと、体がこわばり呼吸が浅くなり、喉周辺の筋肉も過剰に動きやすいとされています。適度なリラックス法(深呼吸、軽い体操、ストレッチ、瞑想など)を取り入れたり、カウンセリングを利用することも有効な選択肢となります。

5. ほかの代替行動を用意する

習慣的にたんがんをしてしまう方は、「喉を鳴らしたくなったらまずは口を閉じて唾を2回ゆっくりと飲み込む」「少量の水を含んでから飲む」といった具体的な対処策を試みると、徐々に癖が軽減される可能性があります。

最近の研究・知見から見る「たんがん」の重要性

たんがん(慢性的な咳払い)に注目した研究はいくつか報告されています。たとえば2022年に国際耳鼻咽喉科領域の専門誌 The Laryngoscope で発表された研究では、LPR(咽喉頭への胃酸逆流)と慢性的な咳払いの関連を前向きに調査し、食事改善や薬物療法によって咳払い回数が有意に減少するケースがあると示唆されました(Chang, J. ら, 2022年, The Laryngoscope, 132巻10号, doi:10.1002/lary.30318)。この研究はアメリカを中心とした複数医療機関で実施され、日本を含む他国の臨床現場でも治療指針を考える際の一つの指標として注目されています。

また、2023年にはAnnals of Otology, Rhinology & Laryngology誌にて、慢性の咳払いがどのように声帯や咽喉に影響を及ぼすか、その臨床的意義を総合的に評価したシステマティックレビューが発表されています(Fedor, K. ら, 2023年, 132巻8号, 820–832頁, doi:10.1177/00034894231152504)。多くの被験者が後鼻漏やLPR、あるいはストレスなど複数要因を抱えており、一人ひとりの背景を丁寧に診断したうえで複合的な治療が必要だと結論づけられています。

さらに、小児期のチック障害やトゥレット症候群の臨床管理に関しては、BMJに2020年に掲載された大規模レビューで、行動療法と薬物療法を組み合わせることでチック症状の頻度が低下しうると報告されています(Anderson, K. N., 2020年, BMJ, 371巻, m3106, doi:10.1136/bmj.m3106)。日本の学校現場でも、小児のチック症状に対する理解が高まり、適切な支援につなげるための啓発活動が続けられています。

これらの研究知見は、日常生活の習慣改善やストレス緩和策が有用であること、そして専門家による正確な診断と治療方針の設定が極めて重要であることを改めて示しています。根本原因を特定せず自己流で対処してしまうと、かえって長期化する恐れがあるため注意が必要です。

受診と治療の流れ

  1. 症状の確認と問診
    どのくらいの期間たんがんが続いているか、他に喉の痛みや声のかすれはあるか、夜間の胃痛や胸焼けはあるかなどを問診します。あわせて、食習慣や生活リズム、ストレス要因についてもヒアリングを行う場合が多いです。
  2. 内視鏡検査や画像検査
    耳鼻咽喉科ではファイバースコピーなどで喉頭や声帯を観察し、炎症や腫瘍などの有無を調べます。消化器内科の場合は上部消化管内視鏡を行い、逆流性食道炎や食道憩室などの可能性を調べます。
  3. 原因に応じた治療

    • LPR(逆流性咽頭喉頭炎):胃酸分泌抑制薬(プロトンポンプ阻害薬など)を用いたり、生活習慣を見直す
    • 後鼻漏:アレルギーが関係する場合は抗ヒスタミン薬や点鼻薬などを使い、原因の改善を図る
    • チック障害・トゥレット症候群:行動療法や心理的支援を組み合わせ、必要に応じて薬物療法
    • 薬の副作用:該当薬を変更できないか検討
    • 習慣的なたんがん:セルフモニタリングやリラックス療法、必要に応じてカウンセリング
  4. フォローアップ
    症状が落ち着いてきても、根本原因が十分に改善されていないと再発の恐れがあります。定期的な通院や経過観察、生活習慣の見直しなどを続けることが大切です。

医療従事者からのアドバイス:日常で気をつけたいポイント

  • こまめに水分補給し、喉を潤す
    コップ一杯の水またはお茶を定期的に飲むと、喉の粘膜への刺激が軽減されやすくなります。
  • 喉に負担をかけすぎない
    カラオケや長時間の会話、騒がしい環境での大きな声出しは避け、適度に休憩を挟むことが推奨されます。
  • アレルギーや風邪の管理
    鼻炎や副鼻腔炎を軽視すると後鼻漏が続きやすくなり、慢性的なたんがんを招きやすくなります。早めの治療や予防策(マスクの着用、鼻洗浄など)を意識しましょう。
  • ストレス軽減
    ストレッチ、軽い運動、深呼吸法、趣味の時間を作るなど、自分に合った方法でストレスを緩和し、神経の緊張をほぐすことは、予防や改善に役立ちます。
  • 医師への相談をためらわない
    「まだ大したことない」と放置していると、喉や声帯の炎症が慢性化したり、まったく別の疾患を見過ごすリスクがあります。原因が分からない、症状が長く続くと感じたら、早めに受診して正確な診断を受けることをおすすめします。

結論と提言

たんがん(頻回な咳払い)は、喉の軽い違和感からくる一時的な習慣にとどまる場合もあれば、逆流性咽頭喉頭炎(LPR)や後鼻漏、チック障害、トゥレット症候群、アレルギー、特定の薬剤の副作用など、複数の病態が背景に潜んでいる可能性もあります。自己判断で長期間放置すると、声帯へのダメージやストレスの増大、社会生活上の支障につながることもあるため注意が必要です。

まずは自分の生活習慣を振り返り、ストレス・食習慣・声の使い方・アレルギー管理などに目を向けると同時に、数週間以上続く・他の症状を併発する・苦痛が強まるといった状況であれば、できるだけ早く専門医に相談しましょう。症状の原因を突き止めることで、適切な薬物療法や生活指導、リハビリ、カウンセリングなど多角的なアプローチが可能となり、症状の改善が期待できます。

最後に、たんがんの原因となる病気や状態は多岐にわたりますが、いずれの場合も早期発見・早期介入が大切です。自分や家族、子どもの様子をよく観察し、「なんとなく気になる」段階でも一度受診を検討してみてください。

免責事項
本記事の内容はあくまで一般的な情報提供を目的としており、医師や医療従事者による診断・治療を代替するものではありません。症状や体調に不安がある方は、必ず医師や専門家にご相談ください。

参考文献

本記事の情報は参考提供を目的としています。健康状態や治療方針については必ず医師や専門家にご相談ください。

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