本記事の科学的根拠
本記事は、引用元として明示された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針との関連性を示すものです。
- 厚生労働省 / 国立成育医療研究センター: 本記事における、子どもを亡くした家族への支援に関する指針は、同機関が発行した「子どもを亡くした家族への支援の手引き」に基づいています1。
- 世界保健機関(WHO) / 米国精神医学会(APA): 遷延性悲嘆障害(PGD)の定義と診断基準に関する記述は、それぞれが発行する国際的な診断マニュアル「ICD-11」および「DSM-5-TR」の勧告に準拠しています34。
- 国立精神・神経医療研究センター(NCNP): PGDの神経科学的メカニズム、特に「共感性の偏り」に関する分析は、同センターが発表したfMRI研究の画期的な発見に基づいています5。
- 日本トラウマティック・ストレス学会(JSTSS): 悲嘆の現代的理解、特に「対処の二重プロセスモデル」に関する解説は、同学会が公開している専門家向け資料を参考にしています6。
要点まとめ
- 悲嘆は、大切な人を失った後の自然で健康的な反応であり、感情的、身体的、認知的、行動的な変化を伴います。
- 悲嘆のプロセスは直線的ではなく、「5段階説」のような固定的なモデルは現代では支持されていません。「対処の二重プロセスモデル」がより現実的な理解を提供します。
- ほとんどの場合、悲嘆は時間と共に和らぎますが、一部の人では日常生活に深刻な支障をきたす「遷延性悲嘆障害(PGD)」という病的な状態に移行することがあります。
- PGDは、故人への তীব্রしい思慕や囚われを特徴とし、脳機能の変化も確認されている、専門的な治療が必要な精神疾患です。
- 回復への道筋には、セルフケア、社会的支援(わかちあいの会など)、そして専門的治療(心理療法や薬物療法)といった段階的なアプローチが有効です。
第1部:悲嘆のプロセスを理解する
愛する人が亡くなると、私たちは「悲嘆」と呼ばれる一連の反応を経験します。これは、心と体が大きな喪失に適応するために必要な、ごく自然なプロセスです。「正しい」あるいは「間違った」悲嘆の形はなく、その反応は人によって実に多様であることを認識することが重要です1。これらの反応は、主に以下のグループに分類できます。
1-1. 悲嘆の正常な道のり:心と身体の反応
- 感情的反応: 最も顕著な悲嘆の表出です。深い悲しみ、怒り(自分、他人、あるいは故人に対してさえも)、罪悪感や自責の念、将来への不安、極度の孤独感、無力感、そして時にはショックや感情の麻痺などが含まれます。中核的な感情の一つに、故人に再び会いたいと切望する「思慕の念」があります3。
- 身体的反応: 精神的な苦痛は身体に強く影響します。多くの人が、極度の疲労感、吐き気、不眠または過眠、食欲の変化(食欲不振または過食)、頭痛、胸の圧迫感、騒音への過敏などを経験します7。これらの症状は他の身体疾患と間違われることもありますが、実際には悲嘆プロセスの一部です。
- 認知的反応: 喪失は思考を混乱させることがあります。一般的な反応として、事実への不信感や否認(悪い夢を見ているかのような感覚)、混乱、集中困難、そして故人のイメージや記憶への絶え間ない囚われが挙げられます。意思決定もまた、以前より難しくなることがあります8。
- 行動的反応: 人の行動も著しく変化します。頻繁に泣く、社会的な交友から引きこもる、故人を想起させる場所や物を避けるといった行動が見られます。逆に、故人をより身近に感じるために、それらの品々を大切に保管する人もいます。日常の活動レベルも、落ち着きなくじっとしていられない状態から、完全に意欲を失った状態まで、様々に変化します6。
これらの反応全体と向き合い、処理していくプロセスは「グリーフワーク(悲嘆の作業)」と呼ばれます。これは、喪失という現実を徐々に受け入れ、生き続けるための方法を見出すために必要な道のりです9。
1-2. 悲嘆のモデル:「5段階説」の誤解と現代的な理解
悲嘆に関する最も有名なモデルの一つに、キュブラー=ロスの「5段階モデル」(否認、怒り、取引、抑うつ、受容)があります10。このモデルは一般社会に広く浸透しました。しかし、このモデルを喪失体験者に対して硬直的に適用することは、有益であるどころか有害にさえなり得ます。
明確にすべき重要な点は、このモデルが元々、遺された人々のためではなく、自らの死と向き合う末期患者へのインタビューに基づいて開発されたという事実です10。現代の研究では、悲嘆のプロセスは誰もが経験しなければならない一連の連続的で固定的な段階ではないことが示されています。「正しい」悲嘆のやり方があるという考えは不要なプレッシャーを生み、人々が順序通りに段階を「進めない」ことに不安を覚えたり、特定の段階で「行き詰まっている」と感じさせたりする可能性があります。これは、ただでさえ苦しい時期に、さらなる不安や自己不信を増大させかねません7。
その代わりに、現代の心理学者は、悲嘆の複雑な現実をより正確に反映した、より柔軟なモデルを提唱しています。広く認められているモデルの一つが、日本トラウマティック・ストレス学会(JSTSS)の資料でも言及されている、ストルーブとシュットによる「対処の二重プロセスモデル」です6。このモデルは、健康的な悲嘆のプロセスが、二つの対処志向の間を絶えず揺れ動くことを描写します。
- 喪失志向 (Loss-Orientation): 悲しみと直接向き合い、思い出に浸り、泣き、思慕の念や空虚感を感じることを自分に許す時期です。これは悲しみを処理する上で不可欠な部分です。
- 回復志向 (Restoration-Orientation): 喪失から生じる現実的な問題(例:経済問題、家庭内の役割変化)に対処し、新しい技能を学び、自己のアイデンティティを再構築し、新しい活動や人間関係に参加するために、一時的に悲しみから離れる時期です。
このモデルによれば、人生の他の側面に集中することで悲しみから「休息する」ことは、逃避ではなく、癒やしのプロセスの重要かつ必要な一部です。このような理解は、悲嘆にくれている人を、早く「乗り越えなければならない」というプレッシャーから解放し、彼らのユニークで非直線的な経験が、完全に正常で健康的であることを保証します。
第2部:遷延性悲嘆障害(PGD):専門的な支援が必要なとき
2-1. 遷延性悲嘆障害とは何か?
ほとんどの人にとって、急性期の悲嘆の強さは、愛する人のいない生活に適応することを学ぶにつれて、時間と共に徐々に和らいでいきます。しかし、一部の少数派にとっては、この悲しみは長く、 তীব্রしく、心身を衰弱させるほどのままであり続け、日常生活を送る能力を著しく妨げます。この状態は、独立した臨床的障害として医学的に認識されており、「遷延性悲嘆障害(Prolonged Grief Disorder – PGD)」と呼ばれています2。
PGDは現在、世界の二大診断マニュアルである世界保健機関(WHO)の「国際疾病分類第11版(ICD-11)」と、米国精神医学会の「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版改訂版(DSM-5-TR)」の両方で公式に承認されており、これは精神保健分野における重要な進歩です11。この承認は、患者の苦しみを正当なものとし、彼らが正式な診断と治療を受ける道を開くものです。
研究によると、喪失を経験した一般人口におけるPGDの有病率は2.4%から4.8%の範囲であり、特定の集団ではさらに高くなる可能性があります11。PGDは現在公式な診断名であるため、「複雑性悲嘆」や「持続性複雑死別障害」といった古い、あるいは関連する用語と区別し、混乱を避けることが重要です12。
2-2. 診断基準:セルフチェックのための視点
診断基準を提示する目的は、読者が自己診断を行うことではなく、自らの経験が専門家の助言を必要とする可能性がある時期を認識するための知識を提供することにあります。PGDの診断基準は、以下の核心的要素を中心に構成されています。
- 出来事基準: 親しい人の死を経験したこと3。
- 分離 distress (中核症状): PGDの中心的な症状です。以下のいずれか、または両方が含まれます:(1) 故人に対する তীব্রしく持続的な思慕や切望、および/または (2) 故人に関する思考や記憶への絶え間ない囚われ3。
- 付随症状: 中核症状に加え、患者は一定数の付随症状を示す必要があります。これらには、以下のような認知的、感情的、行動的表出が含まれます。
- アイデンティティの混乱(例:自分の一部が故人と共に死んでしまったように感じる)。
- 死に対する明白な不信感。
- その人が亡くなったことを思い出させるものを避ける。
- 死に関連した তীব্রしい感情的苦痛(例:怒り、苦々しさ、悲しみ)。
- 死後、人間関係や活動に再び関わることが困難。
- 感情の麻痺(感情体験がない、または著しく減少している)。
- 死後、人生が無意味だと感じる。
- 死後、 তীব্রしい孤独感を覚える3。
二つの主要な診断体系はいずれもPGDを認識していますが、特に期間や付随症状の数において、その基準にはわずかな違いがあります。これらの違いを明確にすることで、読者はなぜ臨床的見解が異なる場合があるのかを理解し、情報の信頼性を高めることができます。
基準 | DSM-5-TR | ICD-11 |
---|---|---|
出来事基準 | 親しい人の死 | 親しい人(配偶者、親、子など)の死 |
期間基準 | 死別から少なくとも12ヶ月(子どもと青年は6ヶ月)が経過 | 悲嘆反応が異常に長い期間、最低でも死別後6ヶ月以上持続 |
中核症状(分離 distress) | 2つの症状のうち少なくとも1つ:(1) তীব্রしい思慕・切望、(2) 故人への思考・記憶への囚われ | 2つの症状のうち少なくとも1つ:(1) 思慕・切望、(2) 故人への囚われ |
付随症状 | 8つの認知的・感情的・行動的症状のうち少なくとも3つ | তীব্রしい感情的苦痛(悲しみ、罪悪感、怒り、死の受容困難など)の追加症状。具体的な数は規定されていない。 |
機能障害 | 社会的、職業的、その他の重要な領域で臨床的に意味のある苦痛または障害を引き起こしている | 個人的、家庭的、社会的、教育的、職業的、その他の重要な領域で著しい機能障害を引き起こしている |
文化的・規範的基準 | 反応の期間と重症度が、期待される社会的、文化的、宗教的規範を明らかに超えている | 悲嘆反応が、期待される社会的、文化的、宗教的規範を明らかに超えている |
出典: 参考文献3より情報を統合。
2-3. 悲嘆の脳科学:なぜ悲しみは長引くのか
PGDの理解に役立つ最も画期的な発見の一つは、日本の国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の研究からもたらされました5。機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、研究者たちはPGDが脳機能の特定の変化、すなわち「共感性の偏り」と表現できる状態に関連していることを発見しました。
具体的には、この研究はPGD患者が以下のような脳反応を示すことを明らかにしました。
- 故人の苦痛に関連する画像を見ると、共感に関連する脳領域がより活発に活動する(共感性の増強)。
- しかし、生存している家族や見知らぬ人の苦痛に関連する画像を見ると、これらの共感回路の活動が弱まる(共感性の減弱)5。
この発見は、社会的引きこもりや孤立感といったPGDの中核症状に対する強力な生物学的説明を提供します。それは、この孤立が単なる選択や行動症状ではなく、神経学的な基盤を持つことを示唆しています。PGD患者の脳は、生存者とのつながりや共感を実感することを真に困難にさせる状態にある一方で、故人との記憶や絆に対しては過敏になっているのかもしれません。
この理解は、私たちがPGDをどのように見るかを変える可能性があります。「もっと人と関わる努力をすべきだ」と考える代わりに、「彼らの脳が、人と関わることを非常に困難にさせているのだ」と理解することができます。これは、家族や社会からの思いやりと忍耐を促し、これらの特定の悲嘆メカニズムを対象とした専門的な治療法の重要性を強調するものです。
2-4. PGDの危険因子と他の精神疾患との関連
誰もが同じようにPGDを発症する危険性があるわけではありません。研究により、この状態を発症する可能性を高めるいくつかの要因が特定されています。
- 死の性質: 突然の、暴力的な、または予期せぬ死(例:事故、自死、災害)や、子どもの死は、より高いPGDリスクにつながることが多い3。
- 故人との関係性: 故人への依存度が高い、または非常に親密な関係であったことは、重大な危険因子です3。
- 個人的な既往歴: 喪失以前に、うつ病や不安障害などの精神保健上の問題を抱えていた人は、より脆弱である可能性があります3。
- 社会的背景: 社会的支援の欠如、孤立感、または強固な支援ネットワークがないこともリスクを高めます3。
PGDは独立した診断ですが、大うつ病性障害や心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった他の障害と併存することがあります。しかし、PGDは、故人への তীব্রしい思慕や囚われという独特の中核症状と、前述のような特定の脳機能の変化を持つ点で異なります。このことが、専門的な治療法を必要とする独立した診断としてのPGDの位置づけを正当化しています6。
第3部:回復へのアクションプラン
喪失からの回復は個人的な旅ですが、悲しみを乗り越え、再びバランスを見出すのに役立つ具体的なステップがあります。この行動計画は、自己管理から専門的支援まで、複数のレベルで構成されており、読者が自分のニーズに合った支援レベルを見つけられるようになっています。
3-1. Tier 1: セルフケア ― 自分自身を慈しむための具体的な方法
悲嘆の時期には、自分自身のケアが後回しにされがちですが、これこそが回復の基盤です。
- 感情を認め、表現する: 最も重要なことは、判断せずに湧き上がるすべての感情を感じることを自分に許すことです。「間違った」感情などありません。信頼できる友人に話す、泣く、書き出すなど、健康的な方法で感情を表現しましょう。根拠に基づく手法の一つに「筆記開示」があり、これは毎日15〜20分、自分の最も深い思考や感情を書き出すものです。研究によれば、この方法はストレスを軽減し、精神的健康を改善するのに役立つとされています13。
- 日常の習慣を維持する: すべてがひっくり返ったように思える世界で、安定した生活リズム(決まった時間に起き、寝る、食事をきちんととる、軽い運動をする)を保つことは、正常さと安心感をもたらします。これは体の体内時計を調整し、混乱期における確かな構造を提供します14。
- 自責の念を管理する: 「もし自分が…していれば」といった後悔や自責の念は非常によく見られ、痛みを伴います。これが悲嘆の自然な一部であることを認識しつつも、それが自分を支配する物語にならないようにしましょう。目標は、これらの考えを絶対的な真実として受け入れることなく、認めることです1。
- 健全な絆を維持する: 癒やしとは忘れることではありません。意味のある場所を訪れる、写真を見返す、小さな儀式を作るなど、故人を偲ぶ健康的な方法を見つけましょう。これは、故人との関係を、いつまでも続く苦痛ではなく、内なる永続的な絆へと変えるのに役立ちます15。
- マインドフルな気晴らし: 趣味、仕事、または一時的な安らぎをもたらす活動に参加することで、悲しみから「休息する」時間を持つことを自分に許しましょう。これは「対処の二重プロセスモデル」における「回復志向」に対応し、癒やしの不可欠な一部です13。
3-2. Tier 2: 社会的サポート ― 孤立しないために
人間は社会的な生き物であり、つながりは強力な癒やしの薬です。
- 身近な輪を活用する: 家族や友人に助けを求めることをためらわないでください。判断せずに話を聞いてくれる人、家事を手伝ってくれる人、あるいはただ静かにそばにいてくれる人など、何が必要かを伝えましょう。
- ピアサポートの力(わかちあいの会): 日本では、「わかちあいの会」と呼ばれるピアサポートグループが非常に重要な役割を果たしています。同じような喪失体験を持つ人々と経験を分かち合うことは、孤独感や「自分だけがおかしいのではないか」という感覚を著しく軽減することができます16。安全で共感的な環境の中で、経験したことのない人には話しにくいことも打ち明けられます。これらのグループは、しばしば地方自治体や非営利団体(NPO)によって運営されています。
3-3. Tier 3: 専門的治療と支援 ― 専門家と共に歩む
時には、セルフケアや社会的支援だけでは不十分なこともあります。専門家の助けを求めることは勇気ある行動であり、回復に向けた重要な一歩です。
- 専門家の助けを求めるべき時: 以下の兆候が見られる場合は、専門家への相談を検討してください。
- 治療に期待できること:
- 日本におけるケアへのアクセス: 日本の医療制度では、主に二種類の診療科に相談することができます。「心療内科」は、身体症状と心理状態の関連に焦点を当てており、多くの人にとって最初のステップとして敷居が低いかもしれません。「精神科」は、PGDを含む精神疾患のより専門的な診断と治療を提供します16。
第4部:日本の相談窓口と支援団体リソースガイド
苦しみのさなかに適切な助けを見つけることは、困難な場合があります。以下の一覧は、明確で、整理された、信頼できる情報源を提供するために編集されました。緊急時には、ためらわずに専門の相談窓口に連絡してください。
- 緊急および電話相談:
- いのちの電話: 日本最大の電話相談ネットワークで、24時間365日、匿名・無料で利用できます。危機的状況にあり、自殺を考えている人のための窓口です。詳細はウェブサイト https://www.inochinodenwa.org/ をご覧ください19。
- #いのちSOS: NPO法人ライフリンクが運営する無料のホットラインで、こちらも24時間365日対応しています。電話番号は 0120-061-338 です20。
- 公的情報および地域の支援:
- 厚生労働省「こころの耳」: 働く人のメンタルヘルスに関するポータルサイトで、情報提供や相談窓口の案内を行っています。特に自死遺族のためのセクションが設けられています。ウェブサイトは https://kokoro.mhlw.go.jp/ です21。
- 自治体窓口: ほとんどの市区町村には精神保健福祉センターなどの相談窓口があり、「わかちあいの会」を主催している場合も多いです。お住まいの自治体のウェブサイトでご確認ください14。
- 専門治療・研究機関:
- 国立精神・神経医療研究センター(NCNP): PGDやトラウマ関連障害に関する根拠に基づいた治療プログラムを提供する、日本の精神保健研究のトップ機関です。詳細は https://www.ncnp.go.jp/ をご覧ください5。
- NPOおよび支援団体:
- 全国自死遺族総合支援センター: 自死遺族を包括的に支援し、「わかちあいの会」やその他のリソースと結びつけます。ウェブサイトは https://izoku-center.or.jp/ です21。
- 一般社団法人 リヴオン: 自死で大切な人を亡くした経験を持つ当事者によって設立され、若者やその他の特定のグループのためのグリーフケアプログラムを実施しています。詳細は https://www.live-on.me/ をご覧ください22。
- 学術・専門家団体:
- 日本トラウマティック・ストレス学会(JSTSS): トラウマや喪失後のケアに関する根拠に基づいた資料やガイドラインを専門家や一般向けに提供しています。ウェブサイトは https://www.jstss.org/ です6。
- 日本サイコオンコロジー学会(JPOS): がん患者の家族のためのケアガイドラインを発行しており、患者の死後のケアも含まれます。詳細は https://jpos-society.org/ をご覧ください23。
よくある質問
通常の悲嘆と遷延性悲嘆障害(PGD)の違いは何ですか?
主な違いは「期間」「重症度」「機能障害」の3点です。通常の悲嘆は自然な反応で、ほとんどの人は時間と共に生活に適応していきます。一方、PGDは、死別から少なくとも6ヶ月(成人では12ヶ月)以上経過しても、故人への তীব্রしい思慕や囚われが続き、日常生活(仕事、学業、人間関係など)に深刻な支障をきたす状態です。これは専門的な治療が必要な医学的診断です3。
悲しみの「5段階説」は正しいのですか?
PGDの治療にはどのようなものがありますか?
どのような場合に専門家の助けを求めるべきですか?
死別から半年~1年以上経っても悲しみが和らがず、仕事や人間関係に深刻な影響が出続けている場合、自殺について繰り返し考えてしまう場合、あるいは重度のうつ病や不安障害の兆候が見られる場合は、専門家の助けを求めることを強く推奨します。助けを求めることは弱さではなく、回復に向けた賢明で勇気ある一歩です16。
日本ではどこに相談すればよいですか?
結論
喪失の悲しみを乗り越える旅は、極めて個人的なものであり、決まった時間割はありません。本稿では、自然で健康的な反応から、治療が必要な臨床状態である遷延性悲嘆障害(PGD)まで、悲嘆の全体像を概説しました。心に留めておくべき要点は、あなたの悲しみは本物であり、正当なものであること、ほとんどの人はセルフケアと周囲の支援によって時間と共に徐々に適応していくこと、そして、悲しみが耐え難い重荷となった人々のためには、効果的で利用可能な専門的治療法が存在するということです。
喪失と共に生きることを学ぶのは、故人への裏切りではありません。むしろ、彼らの人生を最も豊かに称える方法です。愛する人の記憶は、決して消えない痛みとしてではなく、あなたの一部として、力づける源として、持ち続けることができます。
最後に、助けを求めることは失敗のしるしではないことを忘れないでください。それは勇気ある行動であり、自己愛の行為であり、過去が尊重され、現在が受け入れられる未来への、希望に満ちた一歩です。あなたはこの旅路で決して一人ではありません。
参考文献
- 子どもを亡くした家族への 支援の手引き. 厚生労働省. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://sukoyaka21.cfa.go.jp/media/tools/s01_huni_tebi006.pdf
- 遷延性悲嘆症とは – 長引く悲しみへの理解と支援. HOPE-AYA. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.gchope-aya.org/prolonged-grief-disorder/
- 遺族の心理的サポートに関する手引き(一般医療者用). 埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科. [インターネット]. 2022年. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://grief-care.info/wpsystem/wp-content/uploads/2022/03/guidance2022-2-15.pdf
- Killikelly C, Maercker A. Prolonged grief disorder in ICD-11 and DSM-5-TR: challenges and controversies. Front Psychiatry. 2024;15:1266132. doi:10.3389/fpsyt.2024.1266132. Available from: https://www.frontiersin.org/journals/psychiatry/articles/10.3389/fpsyt.2024.1266132/full
- 死別後に長引く悲嘆が共感性を抑制:悲嘆の脳科学的メカニズムを解明. 国立精神・神経医療研究センター. [インターネット]. 2023年7月3日. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.ncnp.go.jp/topics/2023/20230703p.html
- 【資料】「大切な人との死別による悲しみの理解と対応」の公開. 日本トラウマティック・ストレス学会. [インターネット]. 2024年3月19日. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.jstss.org/docs/2024031900014/
- 死別の悲しみをどう乗り越える?大切な人を失った方へ. いい葬儀. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.e-sogi.com/guide/18026/
- 遺族ケア外来. 柏駅前なかやまメンタルクリニック. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://kashiwanakayama-cl.com/bereaved_care.php
- グリーフの種類(予期悲嘆、通常のグリーフ、複雑性悲嘆). ナース専科. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://knowledge.nurse-senka.jp/226100/
- 深い悲しみが癒えるまでには「5つの段階」がある 愛する人を失った…. Logmi. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://logmi.jp/knowledge_culture/culture/281966
- Bago Z, Kuruc R, Kascakova N, et al. Prevalence and correlates of ICD-11-based prolonged grief disorder in a representative Slovakian sample of recently bereaved adults. Eur J Psychotraumatol. 2024;15(1):2381368. doi:10.1080/20008066.2024.2381368. Available from: https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/20008066.2024.2381368
- Ⅲ章 精神心理的苦痛が強い 遺族への治療的介入. 日本サイコオンコロジー学会. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://jpos-society.org/pdf/gl/2023family/3-1_2023-guideline-family.pdf
- 身近な人の死、その正しい乗り越え方. GAKU綜合法務事務所. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://gaku-legal.com/1225/
- 大切な人を亡くした方へ~グリーフケア. 武蔵村山市. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.city.musashimurayama.lg.jp/kosodate/todoke/1019831.html
- 大 切 な 人 を 失 っ た あ と に. ストレス・災害時こころの情報支援センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/contents/pdf/mental_info_childs_guide.pdf
- 心の痛みに寄り添うグリーフケアとは?愛する人を突然失ったときの深い悲しみを乗り越える助けに. JIJICO. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://mbp-japan.com/jijico/articles/32133/
- 遺族ケアガイドラインについて. 同友会メディカルニュース. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.do-yukai.com/medical/173.html
- 中島聡美, 伊藤正哉. 遷延性悲嘆症に対する認知行動療法. 精神医学. 2022;64(12):1429-1437. doi:10.11477/mf.1405206807. Available from: https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1405206807
- 一般社団法人日本いのちの電話連盟. あなたがつらいとき、近くにいます。. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.inochinodenwa.org/
- 電話相談. 自殺対策 – 厚生労働省. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_tel.html
- 遺されたご家族へ ―自死遺族の方へ―. こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト. 厚生労働省. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://kokoro.mhlw.go.jp/bereaved/
- 一般社団法人 リヴオン. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.live-on.me/
- 遺族ケアガイドライン. 日本サイコオンコロジー学会. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://jpos-society.org/guideline/family-care/
- 複雑性悲嘆の心理学的探求:臨床心理士の視点から見たメカニズム. 心理オフィスK. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://s-office-k.com/personal/column/cause-of-illness/adult/complicated-grief
- 遷延性悲嘆症のための心理療法(J-PGDT). UMIN PLAZA. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://plaza.umin.ac.jp/~jcgt/pages02_1/index.html
- 遷延性悲嘆症の概念および治療の近年の動向. 武蔵野大学 学術機関リポジトリ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://mu.repo.nii.ac.jp/record/1544/files/cbtinst2_03.pdf
- Prolonged grief disorder in ICD-11 and DSM-5-TR: Challenges and controversies. PMC. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10291380/
- 遷延性悲嘆障害評価尺度(PG–13 日本語版). Center for Research on End-of-Life Care. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://endoflife.weill.cornell.edu/sites/default/files/file_uploads/pg-13-japanese.pdf
- 死別後に長引く悲嘆が共感性を抑制:悲嘆の脳科学的メカニズムを解明. 国立精神・神経医療研究センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.ncnp.go.jp/topics/docs/20230703NCNP-PR.pdf
- 親しい人との死別による「悲観」が長引くと、他者との共感性が低下-NCNP. QLifePro. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.qlifepro.com/news/20230705/bereavement.html
- 大切な人を亡くしたあなたへ。悲しみを受け止め、乗り越えるための処方箋. 家族葬のファミーユ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.famille-kazokusou.com/magazine/manner/666
- 「喪失感」が表す感情と立ち直る方法。死別時にもできる6つのこと. 家族葬のファミーユ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.famille-kazokusou.com/magazine/manner/557
- 世田谷区グリーフサポート事業. 世田谷区. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.city.setagaya.lg.jp/02244/3296.html
- 「自死遺族等を支えるために 総合的支援の手引(改訂版)」の作成にあたって. 自殺総合対策推進センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://jscp.or.jp/assets/img/%E8%87%AA%E6%AD%BB%E9%81%BA%E6%97%8F%E7%AD%89%E3%82%92%E6%94%AF%E3%81%88%E3%82%8B%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB%20%E7%B7%8F%E5%90%88%E7%9A%84%E6%94%AF%E6%8F%B4%E3%81%AE%E6%89%8B%E5%BC%95%EF%BC%88%E6%94%B9%E8%A8%82%E7%89%88%EF%BC%89_%E5%8D%98%E3%83%9A%E3%83%BC%E3%82%B8%EF%BC%88%E5%85%A8%E7%AB%A0%EF%BC%89.pdf
- PTSDの治療 – CPT. 国立精神・神経医療研究センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://cpt.ncnp.go.jp/treatment/treatment-ptsd/
- 時代の変化に対応できる組織へ〜「日本いのちの電話連盟」の今を支える. 武田薬品. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://www.takeda.com/jp/our-impact/local-stories/become-an-organization-that-can-respond-to-the-changing-times/
- こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト. 厚生労働省. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://kokoro.mhlw.go.jp/
- 遷延性悲嘆症のための心理療法(J-PGDT)への参加をご希望の皆さまへ. UMIN PLAZA. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://plaza.umin.ac.jp/~jcgt/pages03/index.html
- 繋がりのある機関・団体. グリーフ・カウンセリング・センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月25日]. Available from: https://gcctokyo.com/pr/link