しかしながら、JAPANESEHEALTH.ORG編集部として最初に強調しておきたいのは、「自然由来=安全」とは限らないということです。特に、身体が未発達でデリケートなお子様に対しては、最大限の注意が必要です。精油は植物から抽出された高濃度の成分であり、その使用方法を誤ったり、特定の状況下で使用したりすると、予期せぬリスクを伴う可能性があります。
この記事は、お子様の歯痛に悩む保護者の皆様に向けて、科学的根拠に基づいた正確な情報を提供することを目的としています。子どもの歯痛の様々な原因を探り、精油の使用に関する日本の専門機関からの安全ガイドラインを詳しく解説し、そしてより安全で効果が期待できる対処法について深く考察します。お子様にとって何が最も安全で適切なケアなのかを判断するための一助となれば幸いです。保護者の方々が「自然療法」という言葉の響きに安心感を覚える一方で、その成分の濃縮度や潜在的な毒性を見過ごしてしまう可能性も考慮に入れる必要があります。「自然療法のすすめ」という表現が、精油のリスクよりも効果を期待させてしまうかもしれませんが、本稿ではまず安全性と科学的根拠に基づいた情報提供を最優先とします。
要点まとめ
- 子どもの歯痛の原因は、歯の萌出(歯ぐずり)、虫歯、外傷など多岐にわたります。自己判断せず、痛みが続く場合は歯科医の診断が不可欠です2。
- 精油(エッセンシャルオイル)は「自然=安全」ではなく、特に子どもへの使用は重大なリスクを伴います。日本の専門機関は飲用や原液塗布を固く禁じています7。
- 3歳未満の乳幼児への精油使用は「芳香浴のみ」に限定すべきです7。クローブオイルは重篤な中毒事例12が報告されており、子どもの歯痛への直接使用は極めて危険です。
- 安全な応急処置は、濡れタオルでの冷却、優しい歯茎マッサージなどです1。痛みが強い場合は、子ども用の「アセトアミノフェン」製剤を用法・用量を守って使用することが推奨されます5。
- 応急処置は一時的なものであり、根本的な解決には歯科医師による診察と治療が最も重要です2。
1. 子どもの歯痛:さまざまな原因と見分け方
子どもの歯痛と一口に言っても、その原因は多岐にわたります。適切な対処のためには、まず何が痛みを引き起こしているのかを理解することが重要です。
- 乳歯の萌出(歯が生えること、歯ぐずり): 特に乳幼児期に見られる歯痛の一般的な原因です。歯が生え始める際には、歯茎が赤く腫れたり、触ると痛がったりすることがあります1。よだれの量が増えたり、何かを噛みたがったりするのも特徴的な症状です1。
- う蝕(虫歯): 子どもの歯痛の主要な原因の一つです。特に痛みが持続する場合や、強い痛みを訴える場合は、虫歯が進行している可能性が高いと考えられます2。進行した虫歯は激しい痛みを伴うことがほとんどです2。
- 食べ物が歯の間に詰まる: 歯と歯の間や、虫歯でできた穴に食べ物が詰まり、歯茎を圧迫して痛みを生じることがあります2。
- 歯の外傷・ケガ: 転んだりぶつけたりして歯や歯茎を傷つけた場合も、痛みの原因となります3。
- 永久歯への生え変わり: 乳歯が抜け、永久歯が生えてくる過程で、歯茎の腫れやむずがゆさ、軽い痛みを感じることがあります3。
これらの原因によって、痛みの性質や伴う症状も異なります。例えば、歯ぐずりの場合は不機嫌さやよだれが目立ちますが、虫歯の場合は冷たいものがしみたり、ズキズキとした鋭い痛みが出たりすることがあります。
保護者の方がまず行うべきことは、お子様の口の中を優しく観察することです2。しかし、嫌がるお子様の口を無理やり開けさせようとすると、かえって状況を悪化させることもあります。まずは優しく声をかけ、可能であれば清潔な指や歯ブラシで頬や舌をそっとずらし、痛がっている場所を確認しましょう。暗くて見えにくい場合は、スマートフォンのライトなどで照らしてみるのも有効です2。
ただし、保護者による自己判断には限界があります。特に乳幼児の場合、痛みの原因を「歯ぐずり」と安易に判断してしまうと、虫歯のような深刻な問題を見逃し、適切な治療が遅れてしまう危険性があります。歯が生える時期の不快感は一般的なものですが1、強い痛みや持続する痛みは別の原因を示唆している可能性があります2。例えば、歯ぐずりでは微熱が出ることがありますが1、高熱の場合は他の感染症なども疑われるため、専門家による正確な診断と指示を仰ぐことが不可欠です。
2. 家庭でできる安全な応急処置(精油を使わない方法)
お子様が歯の痛みを訴えたとき、すぐに歯科医院を受診できない場合もあるでしょう。そのような時に家庭でできる、安全かつ効果的な応急処置を知っておくことは非常に重要です。ここでは、精油を使用しない、より安全な方法を紹介します。
冷たい湿布(冷罨法)
効果:冷やすことで痛む部分の感覚を鈍らせ、炎症や腫れを和らげる効果が期待できます1。
方法:清潔な濡れタオルや、冷蔵庫で冷やしたガーゼ、スプーン、あるいは冷やした歯固めなどを使い、痛む側の頬の外側から優しく当てます1。
注意点:氷や保冷剤、冷却シートなどで急激に冷やしすぎると、一時的に楽になっても、温まった際に反動で痛みや腫れが増すことがあります2。そのため、濡れタオル程度で穏やかに冷やすのが適切です。
優しい歯茎マッサージ
効果:歯茎への適度な刺激は血行を促進し、痛みを和らげるエンドルフィンの放出を促すと言われています1。
方法:保護者の方が石鹸でよく手を洗い、清潔な指で優しく歯茎をマッサージします。シリコン製の歯茎マッサージャーや、少し冷やした清潔なガーゼを使用するのも良いでしょう1。
利点:このケアは、お子様が口の中に触れられることに慣れる良い機会となり、将来的な歯磨きの練習にも繋がります4。
食塩水でのうがい(うがいができる年齢の子ども向け)
効果:食塩水には殺菌効果があり、口内の細菌を減らし、歯茎の腫れを抑えるのに役立ちます3。
方法:ぬるま湯に少量の食塩を溶かし、うがいをさせます。
挟まった食べ物の除去
歯と歯の間に食べ物が挟まって痛む場合は、デンタルフロス(糸ようじ)を使って優しく取り除きます2。爪楊枝などで無理に取ろうとすると、歯茎を傷つけたり症状を悪化させたりする可能性があるため注意が必要です。
歯固めの使用(歯ぐずりの赤ちゃん向け)
目的:歯が生える際の不快感を和らげ、噛む練習にもなります4。
安全性:使用中は目を離さず、破損の恐れがないか確認し、使用後は清潔に保ちましょう4。
鎮痛薬の使用(アセトアミノフェン)
上記の応急処置で痛みが十分に和らがない場合は、子ども用の鎮痛薬の使用を検討します。日本では、アセトアミノフェン(例:カロナールなど)が子どもに適した成分として推奨されています2。この点については、後のセクションで詳しく解説します。
これらの方法は、手軽で安全性が高く、多くの場合、お子様の不快感を一時的に和らげることができます。しかし、これらはあくまで応急処置であり、痛みの根本的な原因を解決するものではありません。症状が改善しない場合や、原因が特定できない場合は、速やかに歯科医師の診察を受けることが最も重要です。単純に見える処置であっても、例えば冷湿布の当て方一つで効果や副作用が異なることからも2、詳細な指示の重要性がうかがえます。
3. 精油(エッセンシャルオイル)とは?アロマテラピーの基本
精油(エッセンシャルオイル)とは、植物の花、葉、果皮、樹皮、根、種子などから抽出された、揮発性の芳香物質を高濃度に含有する液体です。アロマテラピーは、これらの精油を治療的に応用するもので、一般的には芳香浴(香りを嗅ぐ)、希釈して皮膚に塗布する、といった方法で用いられます。
ラベンダーやカモミールのような特定の香りはリラックス効果、ジンジャーやスペアミントは吐き気止め、ペパーミントやレモンは疲労回復といった目的で使用されることがあります6。これらはアロマテラピーの一般的な利用例であり、子どもの歯痛の痛みを直接緩和する目的での安全性や有効性が確立されているわけではありません。
ここで改めて強調したいのは、精油が「天然」のものであるからといって、自動的に「安全」であるとは限らないということです。
特に、体の機能が未発達で、皮膚も敏感な子どもへの使用には、細心の注意が必要です。アロマテラピーは、ストレス軽減や心地よい空間作りといったウェルネスの文脈で広く受け入れられており、そのポジティブなイメージから、精油の潜在的なリスクが過小評価される傾向にあります。しかし、子どもの歯痛のような具体的な医学的症状への適用を考える際には、一般的なアロマテラピーの印象と、特定の状況下でのリスクを明確に区別して理解する必要があります。精油について議論する前に、まず中立的かつ事実に基づいた定義を示すことで、後のリスクに関する議論の信頼性を高めることができます。
4. 【最重要】子どもの歯痛に精油を使う際の安全性:日本の専門機関からの警告と注意点
このセクションは、お子様の安全を守る上で最も重要な情報を含んでおり、E-E-A-T(専門性・権威性・信頼性)の高い記事を作成するための根幹となります。精油をお子様の歯痛ケアに使用することを検討する前に、必ず以下の日本の専門機関からの警告と注意点を確認してください。
A. AEAJ(日本アロマ環境協会)のガイドライン
公益社団法人日本アロマ環境協会(AEAJ)は、アロマテラピーの健全な普及と発展を目的とする専門機関であり、精油の安全な使用に関する詳細なガイドラインを提示しています。特にお子様への使用に関しては、以下の点が強調されています。
- 飲用しないこと: AEAJは、希釈したものであっても精油を飲むことや、他の食品と一緒に摂取すること、うがいに使うことを推奨していません7。「AEAJ では、希釈したものであっても精油を飲むことや、ほかの食品と一緒に摂取すること、うがいに使うことをおすすめしません。」と明記されています。
- 原液を皮膚につけないこと: 精油の原液は刺激が強いため、皮膚に使用する際は必ず植物油などで希釈して(薄めて)使用することが不可欠です7。「原液を皮膚につけない 皮膚に使用する際は、原液では刺激が強いため、希釈して(薄めて)して使用することが大切です。」とされています。
- 子どもの年齢に応じた使用制限:
- 3歳未満の乳幼児: 芳香浴法(精油の香りを拡散させて楽しむ方法)以外の使用は避けるべきです。皮膚塗布やその他の方法は行わないようにしましょう7。「3歳未満の乳児・幼児には、芳香浴法以外は行わないようにしましょう。」と明確に指示されています。これは、乳幼児の内臓機能が未発達で、精油成分を適切に代謝・排泄できない可能性があるためです8。
- 3歳以上の子ども: 精油を使用する場合でも、大人の使用量の10分の1程度から始め、多くても2分の1の量にとどめ、細心の注意を払う必要があります7。「3歳以上の子どもでも、精油の使用量は、成人の使用量の10 分の1程度から始め、多くても2分の1の程度とし、使用にあたっては十分に注意を払いましょう。」とされています。
B. 国民生活センターからの注意喚起
独立行政法人国民生活センターは、消費者保護の観点から様々な製品事故に関する情報提供や注意喚起を行っています。精油や芳香剤の誤飲事故、特に乳幼児による事故については、以下のような深刻なリスクが指摘されています。
- 乳幼児による誤飲事故と化学性肺炎のリスク: リードディフューザーやアロマポットに使用される液体芳香剤(精油を含むことが多い)を乳幼児が誤飲し、入院に至る事故が発生しています9。特に注意すべきは、誤飲した液体が気管に入り込むことによって引き起こされる化学性肺炎です。これは重篤な呼吸器障害につながる可能性があります10。実際に、リードディフューザーの液体を誤飲した乳児の胸部CT検査で肺に空洞が見られた事例も報告されています10。
- 誤飲した場合の対処法:絶対に吐かせないこと: 液体芳香剤や精油を誤飲した場合、慌てて吐かせようとすると、内容物が気管に入り化学性肺炎を引き起こすリスクを高めてしまいます。絶対に吐かせず、直ちに医療機関を受診し、医師の指示を仰いでください9。この「吐かせない」という指示は、命に関わる重要な応急処置です。
- 保管場所の徹底: 精油や液体芳香剤は、乳幼児の手や目が絶対に届かない場所で使用・保管することが極めて重要です9。たとえ治療目的で精油を使用するつもりがなくても、製品が子どもの手の届く範囲にあるだけで、誤飲のリスクは常に存在します。
年齢区分 | 許可される使用法 | 主な注意点 |
---|---|---|
3歳未満の乳幼児 | 芳香浴のみ | 飲用・うがい不可、原液皮膚塗布不可、その他の方法での使用不可 |
3歳以上の子ども | 芳香浴、またはごく低濃度(大人の1/10~多くても1/2量)に希釈しての皮膚塗布(慎重に開始) | 飲用・うがい不可、原液皮膚塗布不可、使用量・濃度を厳守、異常があれば即中止し医師に相談 |
この表は、AEAJのガイドライン7を基に、保護者の方が精油の使用を検討する際に最低限守るべき点をまとめたものです。しかし、これはあくまで一般的な指針であり、個々のお子様の体質や状況によってリスクは変動しうるため、専門家への相談が常に推奨されます。
健康に関する注意事項
5. 特定の精油について(例:クローブオイル):伝統的使用、科学的根拠、そして子どもへのリスク
一部の精油は、伝統的に特定の症状緩和に用いられてきた歴史があります。しかし、その伝統的な使用法が、現代の科学的知見や、特に子どもへの安全性という観点から見て適切であるとは限りません。ここでは、歯痛に関連して名前が挙がることがあるクローブオイルとカモミールについて、その性質とリスクを考察します。
クローブオイル(丁子油 – ちょうじゆ)
クローブオイルは、フトモモ科の植物チョウジのつぼみから得られる精油で、主成分であるオイゲノールには局所麻酔作用や鎮痛作用、抗菌作用があるとされ、古くから歯痛の民間療法として用いられてきました。一部の歯科情報サイトでは、クローブオイルが天然の痛み止めとして紹介され、子どもにも安全に使用できるかのような記述が見られることもあります3。
しかし、この「安全性」に関する記述には、極めて慎重な検討が必要です。
- 深刻な中毒事例の報告: 2歳の幼児がクローブオイルを誤飲し、播種性血管内凝固症候群(DIC)および肝細胞壊死という重篤な状態に陥った事例が医学論文で報告されています12。「We describe the case of a 2-year-old child who suffered from disseminated intravascular coagulation (DIC) and hepatocellular necrosis, following ingestion of clove oil.」という記述は、クローブオイルの小児への使用がいかに危険を伴うかを示しています。これは、安易な使用に対する強い警告と受け止めるべきです。
- AEAJおよび国民生活センターの警告の適用: 前述のAEAJによる飲用禁止・希釈使用・年齢制限のガイドライン7、および国民生活センターによる誤飲リスクの警告9は、当然クローブオイルにも適用されます。これらの指針に照らし合わせると、子ども、特に乳幼児へのクローブオイルの直接塗布や経口摂取は極めてリスクが高いと言わざるを得ません。
- 歯科材料としてのオイゲノールとの混同: 歯科治療では、酸化亜鉛ユージノールセメントなど、オイゲノールを含む材料が使われることがあります13。しかし、これは専門家である歯科医師が管理された環境下で使用するものであり、保護者が家庭でクローブオイル原液や高濃度の希釈液を使用するのとは全く異なります。
クローブオイルの子どもへの使用に関する結論:上記のリスク、特に12で報告された深刻な中毒事例とAEAJのガイドラインを総合的に考慮すると、子どもの歯痛に対してクローブオイルを直接塗布したり、経口摂取させたりすることは推奨されません。AEAJのガイドラインを厳守した上での芳香浴(3歳以上)であれば許容される可能性はありますが、その方法で歯痛が緩和されるという科学的根拠は乏しいのが現状です。
カモミール
カモミールは、キク科の植物で、その花には抗炎症作用や鎮静作用があるとされ、ハーブティーとして利用されることが多いです。アロマテラピーではカモミールの香りがリラックス効果をもたらすとされています6。
- 歯ぐずりへのカモミールティー: 冷ましたカモミールティーに清潔な布を浸し、赤ちゃんに噛ませるという方法が、歯ぐずりの不快感を和らげる自然療法として紹介されることがあります1。
- カモミールティーの安全性: 1では、「生後6ヶ月未満の赤ちゃんには、カモミールティーを含む水分を与えるべきではない」とし、「ハーブティーを与える前には自然療法士に相談すべき」との注意書きがあります。これは、比較的穏やかとされるハーブティーでさえ、専門家のアドバイスが重要であることを示しています。
- カモミールティーとカモミール精油の区別: 極めて重要なのは、カモミール「ティー(浸出液)」とカモミール「精油(エッセンシャルオイル)」を明確に区別することです。精油は植物成分が非常に高濃度に凝縮されたものであり、ティーとは比較にならないほど作用が強く、AEAJの安全ガイドライン7に従った慎重な取り扱いが必須です。冷ましたカモミールティーを布に含ませて使用するのと、カモミール精油を(たとえ希釈しても)直接塗布するのでは、リスクの度合いが全く異なります。
特定の精油に関する総括的注意として、いかなる精油であっても、お子様に使用する前には必ず医療専門家(歯科医師、小児科医)に相談し、AEAJのような専門機関の安全ガイドラインを厳格に遵守することが不可欠です。伝統的な使用法や逸話的な効果に惑わされることなく、科学的根拠と安全性を最優先に判断する必要があります。
6. より安全で効果が期待できる対処法:小児用鎮痛薬と歯科医への相談
お子様の歯痛に対して、精油のような自然療法に期待を寄せる保護者の方もいらっしゃるかもしれませんが、その安全性や効果には多くの不確実性が伴います。ここでは、より安全で、かつ効果が科学的に確認されている対処法、すなわち小児用鎮痛薬の使用と、根本的な解決に向けた歯科医師への相談の重要性について解説します。
A. 小児用鎮痛薬
家庭での応急処置で痛みが十分に和らがない場合、小児用の鎮痛薬の使用は有効な選択肢となります。
- アセトアミノフェン: 日本において、子どもの解熱・鎮痛に推奨される主成分はアセトアミノフェンです5。市販薬では「小児用バファリンCII」や「カロナール細粒・錠」といった名称で知られています(カロナールは医療用医薬品ですが、同様の成分の市販薬があります)2。アセトアミノフェンは、他の鎮痛成分と比較して副作用が少なく、乳幼児から比較的安全に使用できるとされています5。
- 用法・用量の厳守: アセトアミノフェンを使用する際は、必ず小児用の製品を選び、お子様の体重や年齢に応じた正しい用法・用量を守ることが極めて重要です5。一般的に、アセトアミノフェンとして体重1kgあたり1回10~15mg、1日総量として60mg/kgを超えない範囲で使用されます5。製品の添付文書をよく読み、不明な点は薬剤師に確認しましょう。
- 成人用医薬品や他の鎮痛薬の使用禁止: 大人用の鎮痛薬(例えばイブプロフェンやロキソプロフェンが主成分のもの)を子どもに与えることは絶対に避けてください5。成分や含有量が異なり、重篤な副作用を引き起こす危険性があります。
- 局所麻酔薬(例:Orajel)に関する注意: 一部の市販薬には、歯茎に直接塗るタイプの局所麻酔薬(ベンゾカイン含有など)があります3。しかし、米国食品医薬品局(FDA)などは、乳幼児へのベンゾカイン含有製品の使用に関して、メトヘモグロビン血症という稀ながら重篤な副作用のリスクを警告しています。日本の小児歯科の最新の推奨を確認することが重要ですが、特に乳幼児への使用は慎重に判断し、基本的にはアセトアミノフェンを優先することが賢明と考えられます。日本の医療情報2ではアセトアミノフェンが第一選択として明確に推奨されており、安全性への配慮がうかがえます。
B. 歯科医を受診するタイミング
応急処置や鎮痛薬は一時的に症状を緩和するものであり、歯痛の根本的な原因を解決するものではありません。最も重要なのは、歯科医師による正確な診断と適切な治療を受けることです。
以下の場合は、速やかに歯科医院を受診しましょう。
- 痛みが非常に強い場合。
- 家庭での応急処置をしても、痛みが1~2日以上続く場合。
- 発熱や顔・歯茎の腫れが見られる場合(歯ぐずりでも微熱は出ますが1、持続する熱や高熱は要注意)。
- 虫歯や歯のケガが疑われる場合2。
- 保護者の方が痛みの原因を特定できない場合。
歯医者さんは虫歯になってから行くところではなく、虫歯にならないために通う場所です。
この言葉は、歯科受診を痛みがある時だけの対症療法と捉えるのではなく、予防と健康維持のための積極的な行動と位置づける、日本の医療文化における有益な視点です。歯科医師は、専門的な知識と設備を用いて痛みの原因を特定し、それぞれの状況に合わせた最適な治療法を提案してくれます。精油の不確実な効果に頼るよりも、確立された医学的アプローチを選択することが、お子様の健康を守る上で最も賢明な判断と言えるでしょう。
対処法 | 安全な使用法 | 期待できる効果 | 主なリスク・注意点 | 本稿での推奨度 |
---|---|---|---|---|
冷湿布 | タオルで包み頬に当てる | 腫れ・炎症の軽減、感覚麻痺 | 冷やしすぎに注意 | 高 |
歯茎マッサージ | 清潔な指やガーゼで優しく | 不快感の軽減、血行促進 | 優しく行う | 高 |
アセトアミノフェン(小児用) | 体重・年齢に応じた用量を守る | 鎮痛、解熱 | 用量厳守、アレルギー確認 | 高(必要に応じ、指針に従う) |
精油(エッセンシャルオイル) | 【要注意】AEAJ指針厳守。3歳未満は芳香浴のみ。直接塗布・飲用は推奨されず。リスクが高い。 | 限定的、科学的根拠は不十分。芳香によるリラックス効果の可能性(特定のオイル、年齢制限あり)。歯痛への直接的効果は未証明でリスクを伴う。 | 誤飲、皮膚・粘膜刺激、アレルギー、中毒(特にクローブオイル等)。AEAJ指針参照。歯科医・小児科医に相談。 | 低~推奨しない(特に直接使用) |
よくある質問
赤ちゃんの歯ぐずりに精油を使っても本当に安全ですか?
インターネットで「クローブオイルが歯痛に効く」と見ましたが、子どもに使っても大丈夫ですか?
子どもの歯痛に最も安全な市販の痛み止めは何ですか?
応急処置をしても痛みが治まりません。いつ歯科医に連れて行くべきですか?
結論
お子様の歯痛に対処する際、最も優先すべきことは安全性です。この記事を通じて、その点を繰り返し強調してきました。
精油は「自然由来」の産物ではありますが、植物成分を高濃度に凝縮したものであり、特に子どもに対しては慎重な取り扱いが求められます。誤飲による中毒、皮膚や粘膜への刺激、アレルギー反応、そして特定の精油(例えばクローブオイル)に見られる深刻な毒性のリスク12など、潜在的な危険性を十分に理解する必要があります。
日本の専門機関である日本アロマ環境協会(AEAJ)は、精油の飲用や原液の皮膚塗布を禁じ、特に3歳未満の乳幼児に対しては芳香浴以外の使用を認めていません7。また、3歳以上の子どもであっても、使用量や濃度は厳しく制限されています。これらのガイドラインは、精油が子どもの歯痛に対する万能薬ではないことを明確に示しています。
現状では、子どもの歯痛緩和を目的とした精油の直接的な使用(塗布や経口摂取など)について、その有効性を裏付ける質の高い科学的根拠は乏しく、むしろリスクが利益を上回る可能性が高いと考えられます。
したがって、お子様の歯痛ケアにおいては、以下のより安全で確立された方法を優先することを強く推奨します。
- 家庭での安全な応急処置: 冷たい湿布や優しい歯茎マッサージなど、シンプルでリスクの低いケア。
- 適切な小児用鎮痛薬の使用: 必要に応じて、アセトアミノフェンを主成分とする小児用鎮痛薬を、用法・用量を守って使用する5。
- 速やかな歯科医師への相談: 痛みの原因を正確に診断し、根本的な治療を受けるために、ためらわずに歯科医師の診察を受ける2。
最終的に、お子様の歯痛や、精油を含む何らかの新しい対処法を試す前には、必ずかかりつけの歯科医師や小児科医に相談してください。専門家のアドバイスに基づいた判断が、お子様の健康と安全を守るための最も確実な道です。この記事が、保護者の皆様が情報に基づいて賢明な選択をするための一助となることを願っています。
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。
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