はじめに
日々の健康管理を考えるうえで、心臓の鼓動がどのように動いているかを把握することはとても重要です。その指標のひとつである心拍数は、身体がどれほど活動しているか、あるいはストレスやリラックスなどの感情面での影響をどのように受けているかを知るうえで大きな手がかりとなります。とくに、運動習慣や生活習慣病の予防・改善、さらには体調管理全般にも深くかかわってくるため、心拍数を正しく理解しておくことが大切です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本稿では、心拍数の基本的な仕組みから測定方法、そして健康維持や運動にどのように活かしていくかについて、科学的エビデンスを交えながら詳しく解説します。JHO編集部として、できるだけ最新の知見や研究結果も踏まえながらお伝えしますので、ぜひ日常生活の中で役立ててください。
専門家への相談
本記事では、心拍数や運動強度の考え方について、複数の公的機関や専門家が発信する情報を参考にまとめています。例として、Mayo ClinicやCleveland Clinic、Harvardの医学系情報、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)などが示す指標や基準は、国際的にも評価の高い信頼できるものです。しかし、心疾患や糖尿病などの既往症がある方、あるいは高齢の方や妊娠中の方など、特別な身体的事情がある場合は、必ず医師や専門家に相談のうえ、個々の状況に合わせた判断を行ってください。ここで紹介する内容はあくまで一般的な情報であり、個別の医療アドバイスを代替するものではありません。
心拍数とは?
心拍数とは、1分間あたりに心臓が拍動する回数のことを指し、通常はbpm(beats per minute)という単位で表されます。たとえば、何らかの運動をしているときや強いストレスを感じているときは心拍数が上昇し、リラックス状態や睡眠中には心拍数が低くなるのが一般的です。身体が置かれている状況や環境への反応が、心拍数として可視化されるわけです。
心拍数は以下のようなさまざまな要因によって変動します。
- 年齢
- 運動や活動水準
- 喫煙習慣
- 心疾患やコレステロール値、糖尿病の有無
- 環境温度
- 体の姿勢(立っているか、横になっているか)
- 感情的状態(緊張、不安、興奮など)
- 体重
- 服用中の薬
これらの要因が組み合わさることで、個々人の心拍数には大きな幅が生まれます。基準の目安はあれど、実際には個人差が大きいため、「自分自身の心拍数の傾向」を把握しておくことが大切です。
安静時心拍数
安静時心拍数(Resting Heart Rate, RHR)とは、身体が安静にしている状態で測定した心拍数のことです。一般的には60〜100 bpmが健康的な成人の範囲とされていますが、これはあくまでも目安であり、年齢や体力レベルで個人差があります。また、定期的に運動をしている人やアスリートのように心肺機能が高い人では、安静時心拍数が60 bpmよりもさらに低くなるケースもあり、40 bpm前後になる人も存在します。
安静時心拍数が高いほど心臓に負担がかかりやすく、高血圧や心疾患などのリスクが高まる可能性があると指摘されています。逆に、長年適度な運動習慣を積み重ねてきた人は安静時心拍数が低めになりやすく、心臓の効率的な働きが期待できるといわれています。
最大心拍数とは
最大心拍数(Maximum Heart Rate, MHR)とは、運動などによって心臓が限界に近い負荷を受けたときに達する最大の拍動数を指します。一般的には、「220 – 年齢」という簡易公式で概算値を算出できます。たとえば50歳の人であれば、
最大心拍数 = 220 – 50 = 170 bpm
という具合です。しかし、実際には個人の体力や遺伝的要因、体調、運動の種類によってばらつきがあるため、この公式はあくまでも目安になります。専門的には運動負荷試験などで正確に測定する方法もありますが、まずは概算でも自分の最大心拍数を知っておくことが、運動強度を調整する際の大切な指標となります。
心拍数を計算するための簡単な方法
日常生活の中で、自分の心拍数をどのように計測すればよいのでしょうか。最も簡単な方法は、起床直後の安静な状態で脈拍を60秒間測るというものです。特に以下の手順は初心者にもわかりやすいでしょう。
- 頸動脈(首の横あたり)か手首(橈骨動脈)など脈拍を触れやすい部分に指を当てる。
- 1分間(60秒)じっと測定し、拍動回数をそのまま数える。
ここで測った拍動数が、そのまま安静時心拍数になります。朝起きた直後は外部刺激も少なく、姿勢の影響や食事の影響なども受けにくいため、より正確な値を把握しやすいとされています。
最大心拍数を計算する方法
激しい運動を行った直後に脈拍を測れば、そこから最大心拍数を推定することも可能ですが、一般に初心者や中高年層にはリスクが伴います。心肺機能に不安がある場合は、無理に最大心拍数を自力で測定しようとせず、医療機関での検査などを検討してください。
上述した「220 – 年齢」で求める簡易計算式はあくまで目安ですが、日々の運動プランを立てる上では参考になります。たとえば40歳であれば、単純計算で
最大心拍数 = 220 – 40 = 180 bpm
となりますが、実際には体調や運動習慣によってプラスマイナス10程度の誤差は生じ得ます。
目標心拍数を計算する方法
日々の運動で心臓を適度に鍛えるには、最大心拍数をずっと維持するのではなく、目標心拍数(Target Heart Rate, THR)を設定して、その範囲内でトレーニングを行うのが一般的です。目標心拍数は運動強度に応じて、最大心拍数の50〜95%まで幅広く設定されます。
- 低〜中強度:最大心拍数の50〜65%
- 中強度〜やや高強度:最大心拍数の65〜80%
- 高強度:最大心拍数の80〜95%
たとえば50歳の方を例にとると、最大心拍数の目安は 220 – 50 = 170 bpm です。
その場合、目標心拍数を64%(中程度)とすると、
170 × 0.64 = 108.8 bpm(約109 bpm)
また、やや強度を上げて76%を狙うなら、
170 × 0.76 = 129.2 bpm(約129 bpm)
となります。つまり、中強度~やや高強度の運動をするときには109〜129 bpm程度を目安にすると、安全かつ効果的な運動が期待できるというわけです。これを目安にウォーキング、ジョギング、サイクリング、水泳など、さまざまな有酸素運動を組み合わせることが多くの専門家によって推奨されています。
なお、心拍数を常時測定できるスマートウォッチや心拍計などの機器も普及しており、デジタル計測によって手軽に自分の運動強度を把握することも可能になりました。しかし数値にとらわれすぎると、オーバーワークやモチベーションの低下につながる恐れがあるため、「自分の体調を客観的にみるひとつの基準」と考えるくらいが適度でしょう。
心拍数が示す健康状態
心拍数は、私たちの健康状態をうかがううえで重要なバロメーターとなります。たとえば、以下のような場合は注意が必要です。
- 安静時心拍数が継続的に100 bpm以上
- 安静時心拍数が60 bpm未満で、かつめまいや意識消失、息切れなどの症状を伴う
もちろん、ただ安静時心拍数が高い・低いだけでは即座に何かの疾患と結びつくわけではありません。しかし、高血圧、心臓疾患、不整脈、甲状腺の異常などが潜んでいる可能性も否めないため、気になる場合は専門医への相談を検討することが大切です。
また、運動時に心拍数が極端に上がりすぎる、あるいは思ったほど上がらないといった場合も、心臓や血管の状態を示すサインのひとつになることがあります。たとえば心血管系の疾患リスクは運動時や回復期の心拍数上昇・下降の仕方とも関連する可能性があり、定期的に心拍数を測ることで病気の早期発見や予防につながることが示唆されています。
実際に、定期的な心拍数モニタリングを行いながら運動を継続すると、血管の健康状態を維持しやすくなると考えられています。2021年に発表された高強度インターバルトレーニング(HIIT)の効果を検証した研究(Suhら、Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 31(3), 446-457, doi:10.1111/sms.13878)では、週数回のHIITプログラムを継続することで心拍変動(HRV: Heart Rate Variability)が改善し、心疾患リスクの低減に寄与する可能性が報告されました。心拍変動とは拍動間隔の揺らぎを指し、副交感神経と交感神経のバランスをうかがう指標として注目されています。この研究では健常成人を対象にしたメタ解析(複数の研究を統合して統計解析したもの)だったため、比較的信頼性の高いエビデンスといえます。ただし、個人差があるため、運動強度を急激に高める際は必ず専門家に相談し、無理のない計画を立てる必要があります。
さらに2021年に発表された別の研究(Qinら、Medicine & Science in Sports & Exercise, 53(2), 335–342, doi:10.1249/MSS.0000000000002480)では、同じく高強度インターバルトレーニングが血圧や心拍数にも好影響を与え得るという報告がなされています。この研究は高強度インターバルトレーニングを含む運動プログラムを行う集団と、通常の有酸素運動を行う集団を比較する形式で実施されており、総合的な解析の結果、高強度トレーニングを取り入れた群では安静時心拍数や血圧の改善幅が大きかったとされています。しかし、高強度トレーニングは心肺に負荷が大きくかかるため、継続的な運動習慣がなかった方や基礎疾患のある方にはリスクを伴うことがあり、やはり専門家による個別指導が望ましいという意見が多くの医療従事者から示されています。
結論と提言
本記事では、心拍数の基本的な概念から測定法、運動時や健康管理への応用法について総合的に解説しました。以下のポイントを踏まえることで、より安全かつ効果的な健康維持に近づくと考えられます。
- 安静時心拍数を日頃から測っておく
- 朝起きてすぐの測定がおすすめ
- 目安は60〜100 bpmだが、低いから健康、あるいは高いから不健康とは限らない
- 体調不良を感じる場合や著しく基準を外れる場合は医師に相談
- 最大心拍数を知り、運動強度の調整に役立てる
- 「220 – 年齢」で簡易的に把握できる
- 実測値を得るには医療機関での負荷試験などを検討
- 個人差が大きいのであくまで“目安”と捉える
- 目標心拍数(THR)を設定して安全な運動を行う
- 運動強度に応じて最大心拍数の50〜95%を使い分ける
- 初心者は低〜中強度(50〜65%)から始め、慣れてきたら段階的に強度を上げる
- 無理せず継続することが重要
- 運動と心拍数の関連研究を参考にする
- 高強度インターバルトレーニング(HIIT)の効果を示す研究が近年増えている
- ただし、心血管系リスクを考慮し、医療者の指導や自身の体調を踏まえた計画を
- 定期的な検診や医師のアドバイスを活用する
- 心拍数の異常や生活習慣病のリスクを早期に把握できる
- 自己判断だけでなく、公的機関や専門家の情報を総合的に取り入れることが大切
- 十分な臨床的エビデンスがまだ不確定な部分もあることを認識する
- 個々の疾患リスクや遺伝的背景、生活環境の違いなどにより効果は多様に変化
- 安静時心拍数や運動時の心拍数だけで判断できないケースも多い
最後に、心拍数の情報を健康管理や運動習慣の見直しに活用することは非常に有用です。しかし、これはあくまで一般的な情報提供であり、個人の体質・疾患・環境を無視した画一的なアプローチは禁物です。気になる症状がある場合や、新たに運動を始める方、特に高強度の運動に挑戦しようと考えている方は、必ず医師や専門のトレーナーに相談し、適切な検査やカウンセリングを受けるようにしてください。健康増進や病気予防を目的とした運動は、心拍数を意識することでより安全性と効果を高めることができますが、最終的には「自分の身体の声を聴く」ことも大切です。
免責事項:本稿の内容はあくまで一般的な情報を提供することを目的としており、特定の医療行為や診断を推奨するものではありません。具体的な治療や健康相談が必要な場合は、必ず医師や専門家にご相談ください。
参考文献
- What’s a normal resting heart rate?(Mayo Clinic)アクセス日: 1/12/2022
- Pulse & Heart Rate(Cleveland Clinic)アクセス日: 1/12/2022
- What your heart rate is telling you(Harvard Health)アクセス日: 1/12/2022
- Target Heart Rate and Estimated Maximum Heart Rate(CDC)アクセス日: 1/12/2022
- Target Heart Rates Chart(American Heart Association)アクセス日: 1/12/2022
- Suh S, Jeong HK, Kim KJ, et al. (2021). The effect of high-intensity interval training on heart rate variability in healthy adults: a systematic review and meta-analysis. Scandinavian Journal of Medicine & Science in Sports, 31(3), 446-457. doi:10.1111/sms.13878
- Qin Z, Bainter J, Blair M, et al. (2021). High-intensity interval exercise and blood pressure: a systematic review and meta-analysis. Medicine & Science in Sports & Exercise, 53(2), 335–342. doi:10.1249/MSS.0000000000002480