はじめに
思春期の子どもが日々感じる不安や緊張は、多くの場合一時的なもので、時間が経てば徐々に解消されることがあります。しかし、不安が長期にわたって持続し、強いストレス反応や身体症状をともなうようになると、いわゆる「不安障害(不安症)」として専門的なケアを要する可能性が高まります。とくに、学校や将来の進路、対人関係、初めての恋愛感情といった「子どもから大人になる前段階」で直面する問題は、思春期の心を大きく揺さぶりやすく、適切なサポートを受けられないまま不安が慢性化すれば、集中力の低下や生活リズムの乱れなどにより学業や健康に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、思春期の子どもに多く見られる不安障害の典型的な症状や、医療機関での受診・治療に加え、自宅でも保護者が取り入れやすい8つの自然なアプローチについて詳しくご紹介します。食事内容や生活習慣の見直し、心身両面から緊張をほぐすケアを組み合わせることで、治療効果を高められる可能性があります。実際に日本国内でも、不安障害への理解とサポートが以前より求められており、適切な情報を把握しながら家庭でのサポートを工夫することは大変重要です。
専門家への相談
不安障害は心の問題ではありますが、見過ごすと脳内の神経伝達物質やホルモン分泌にも影響し、思春期の子どもに限らず誰しもが日常生活に支障をきたす恐れがあります。日本国内においては、学校のスクールカウンセラーや、心療内科・精神科医などに相談できる体制が整ってきていますので、症状が強い場合は専門家の診断や治療を受けることを検討するのが望ましいでしょう。なお、本記事はあくまでも情報提供を目的としており、専門的な医療行為を代替するものではありません。必要に応じて早めに医療機関へ相談し、専門的なアドバイスを受けるようおすすめします。
不安障害の代表的な症状:思春期に現れやすいサインとは
思春期の子どもは、大人と比べて視野が限られていたり経験値が少なかったりする分、小さな問題でも深刻に捉えやすく、悩みが頭から離れなくなることがよくあります。しかし、それが単なる一過性の心配ごとではなく、「不安障害」に分類される状態に至ると、以下のような特徴的症状が持続的にみられることがあります。
-
批判に対して過敏に反応したり、集団活動の場面で強い苦手意識をもったりする
友人や先生からのちょっとした指摘・アドバイスにも強く落ち込み、「自分はダメだ」と思い詰めるケースがあります。緊張や人目を気にするあまり、学校行事や地域のイベントなどの参加を避けるようになることも少なくありません。 -
新しい環境やチャレンジに対して過度に不安を抱き、回避する行動をとる
例えば、新しい習い事を始める、クラスで初めての役割を引き受ける、試験や受験に挑むといった場面で過剰な不安が生じ、前に進めず引きこもりがちになってしまうことがあります。 -
常に落ち着きを失ったように見え、ソワソワ・イライラが続く
何もしていないのに汗をかく、心拍数が上がる、呼吸が浅くなる、肩や背中がこわばるなどの身体的な反応が起こりやすくなり、周囲の人からも「様子がおかしい」と心配されることがあります。 -
気分が沈んでいるわけではないのに、物事に集中できない、頭が整理できない
宿題やテスト勉強に取り組んでも集中力が続かず、成績が低下することでさらに自己評価を下げ、ますます不安を強めてしまうという悪循環に陥りがちです。 -
頭から離れない思考やイメージ(強迫的な思考)が反復してしまう
「失敗したらどうしよう」「嫌われているのではないか」といった不安がしつこく頭にこびりつき、夜になっても思考を止められない状態が続くケースもあります。
これらの症状は少なくとも6か月以上持続し、日常生活や学業に明らかな支障を及ぼす場合に、「不安障害(不安症)」と診断されることがあります。日本国内においても、思春期の不安障害が長期化すると成人期になってからのメンタルヘルスリスクが高まるとの報告があり、保護者が早期に気づいて適切なケアを始めることはとても大切です。
8つの自然なアプローチ:家庭で取り組めるサポート方法
思春期の子どもが不安障害の治療を受ける場合、医療機関でのカウンセリングや投薬療法が行われることもあります。一方、家庭で取り入れることのできる自然なアプローチによって、治療効果をサポートし、心身の回復力を高めることが期待できます。以下では、実践しやすい8つの方法について詳しく解説します。
1. 食事バランスの見直し
不安障害が長引くと、食欲不振や夜更かしなどが重なり、栄養バランスが乱れがちです。思春期の子どもはまだ身体的にも成長途中なので、糖質・タンパク質・脂質といった三大栄養素を偏りなく摂取することが大切です。特に、鉄分やビタミンB群、マグネシウムなどのミネラル類は神経の機能維持やエネルギー代謝を助け、ストレス耐性向上に寄与する可能性が示唆されています。カフェインを多く含むエナジードリンクやチョコレートは、一時的に覚醒度を上げる反面、かえって不眠やイライラ感を助長する可能性があるため、摂取しすぎには注意が必要です。
さらに、海外の研究として、2021年に行われた複数文献のメタ分析(RacineらによるJAMA Pediatrics掲載、doi:10.1001/jamapediatrics.2021.2482)によれば、コロナ禍での子どもや思春期の不安・抑うつ症状が世界的に上昇しており、栄養不足や偏食が症状悪化の一因となる可能性が示されています。日本においてもコンビニ食品やジャンクフードが手軽に手に入る環境ではありますが、家族でいっしょに自炊をするなど、少し工夫して栄養価の高い献立を意識するとよいでしょう。
2. ヨガや軽いストレッチを取り入れる
ヨガは呼吸法とゆったりした動作を組み合わせることで、身体の緊張をほどき、頭の中の不安を軽減する効果が期待されるメソッドです。深い呼吸によって酸素が身体全体に行き渡るため、血行促進やリラックス効果が得られ、思考をポジティブにする手助けにもなります。とくに思春期の子どもは運動不足や、勉強に追われるストレスで身体のコリや疲労が溜まりやすいため、親子で簡単なポーズから始めるのもおすすめです。
また、2020年にArchives of Disease in Childhoodに掲載されたCreswellらの研究(doi:10.1136/archdischild-2019-317694)でも、子どもや思春期の不安障害の介入として運動やリラクゼーションを組み合わせる手法が、認知行動療法などの治療効果をより高める可能性があると提案されています。日本でもヨガスタジオやオンラインでのレッスンが増えているので、興味があれば導入しやすいでしょう。
3. セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort)の活用
古くからヨーロッパを中心に気分障害や落ち込みの緩和を目的として使われてきたハーブ、セイヨウオトギリソウ(St. John’s Wort)は、主成分のヒペリシンやヒペルフォリンが神経伝達物質や受容体に働きかけるとされます。思春期の子どもに対しても、専門家の指導を前提にしたうえでサプリメントやハーブティーなどで取り入れることを検討してみても良いでしょう。ただし、ほかの薬との飲み合わせや副作用リスクを理解する必要があるため、必ず医師に確認してから利用してください。
4. 瞑想や呼吸法の練習
不安感が強いとき、人は呼吸が浅く早くなりがちです。瞑想や呼吸法を取り入れると、意識的に呼吸を深め、体内に多くの酸素を取り込むことで脳の興奮を鎮める効果が期待できます。具体的には、ゆったりした姿勢で背筋を伸ばし、息をゆっくり4秒かけて吸い、4秒止めて、4秒かけて吐く、といった方法があります。この間、余計な考えが浮かんでも「考えが浮かんだ」と認識し、再度呼吸に意識を戻すようにしましょう。
さらに、瞑想中に静かな音楽を流したり、ハーブティーを用意して香りを楽しんだりすると、より落ち着いた気分になりやすいです。子どもの場合は長時間の瞑想が難しいこともあるため、はじめは数分程度から始めて徐々に時間を伸ばしていくほうが続けやすいでしょう。
5. レモングラス(レモンの香りのするイネ科植物)の精油を活用する
レモングラスの精油には、シトラールやゲラニオールといった成分が含まれ、リラックス効果を高めるだけでなく、蚊などの虫除け作用もあるとされています。枕カバーやシーツに少量スプレーすると、心地よい香りが広がり、不安の高まりや緊張をやわらげてくれるでしょう。とくに思春期の子どもは睡眠の質が乱れやすく、夜遅くまでスマホを見ていると一向に脳が休まらないケースも珍しくありません。寝る前の習慣として、レモングラスの香りを楽しむ時間をつくり、視覚刺激(スマホの光)を少なくした環境でゆっくり過ごすよう促しましょう。
6. リシン(L-リシン)の積極的な摂取
リシンは体内で合成できない必須アミノ酸の一種で、タンパク質合成に欠かせない存在です。さらに、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールの分泌を抑えることが示唆されており、過剰な不安や緊張をやわらげる可能性があります。リシンは肉類や魚介、卵、豆類などに多く含まれるため、日々の食事に意識的に取り入れるとよいでしょう。思春期の発育を支える意味でも、十分なタンパク質とともにリシンを摂ることが望まれます。
7. ラベンダーの香りでリラックス効果を高める
ラベンダー精油は心地よい香りと高い鎮静作用で知られ、古くからアロマセラピーでも頻繁に利用されてきました。身体の筋肉をほぐす効果に加え、不安や緊張による心拍数や血圧上昇を穏やかにする働きが期待できます。日本国内でもラベンダーを栽培している地域はあり、その芳香成分を利用した商品も多数流通しています。お風呂にラベンダーの精油を数滴垂らして入浴したり、寝る前にこめかみ付近や耳の後ろに少量を塗布したりすると、思春期の子どもが抱えやすい頭痛やイライラを和らげ、落ち着いた眠りへと導く助けになるでしょう。
8. カモミール精油による安らぎ
カモミールはハーブティーとしても親しまれるキク科の植物で、りんごのような甘い香りが特徴です。精油を吸入したり、薄めたものを肌に塗布したりすると、不安や緊張感を和らげる効果が得られるとされます。子どもが激しい頭痛や緊張を訴えた場合、手のひらに3〜4滴程度のカモミール精油を取り、首筋や肩周辺をゆっくりマッサージしてあげると、血流が促され心も身体もほぐれやすくなるでしょう。カモミールの香りは寝つきを良くする作用も期待できるため、寝る前のリラクゼーションルーティンとしてもおすすめです。
日本での思春期不安障害ケアに関する最近の傾向
日本では近年、学校現場や地域保健の場で不安障害に対する認識が高まり、スクールカウンセラーによる早期発見・介入が重要視されています。また、不安の兆候を見せる子どもに対し、担任教師や保健室でこまめに声かけを行う仕組みをつくる学校も増えてきました。思春期は身体的・精神的な成長が著しく、些細なきっかけで心のバランスを崩しやすい時期です。保護者はもちろん、周囲の大人が不安症状の初期サインを捉え、安心して悩みを打ち明けられる環境を整えることが何より大切といえます。
先に触れた2021年のメタ分析(Racineら、JAMA Pediatrics)でも、世界的なパンデミックの状況下で子どもや思春期の不安や抑うつが増加していると報告されており、日本の思春期世代も例外ではありません。家族や教育現場が協力して早期に対応することで、不安障害の重症化を防ぎ、健全な成長を支援できるでしょう。
家庭でのサポートを続けるためのポイント
-
子ども自身の言葉を尊重する:
思春期の子は「自分は大丈夫」「話したくない」と気持ちを閉ざすことがよくあります。頭ごなしに「こうしなさい」と指示するのではなく、まずは「何があったの?」「どう思っているの?」といった質問で受け止め、子どもが安心して話せる雰囲気を作ることを心がけましょう。 -
責める口調を避ける:
不安が強い子どもは、自分を否定されるとさらに深く思い詰める傾向にあります。失敗しても「次はこうしてみよう」と前向きに声かけし、安心感を与えてあげると対話がスムーズになります。 -
専門家のサポートと並行する:
医師やカウンセラーの診察やカウンセリングが必要なケースも多くあります。家庭での自然なアプローチと専門家の治療方針をうまく組み合わせることで、より高い治療効果を目指すことが期待できます。 -
生活リズムを整える:
夜更かしや不規則な食事は不安を悪化させるおそれがあります。朝起きて太陽の光を浴び、決まった時間に食事・運動・勉強・趣味の時間を確保することで、子どもの心身のリズムが安定しやすくなります。 -
成功体験を積み重ねる:
小さな達成感を得られる機会を見つけて誉めてあげることは大切です。短時間でも勉強を頑張れた、嫌だと思っていた行事に少しだけ参加できたなど、一歩前進した事実を素直に評価することで自信を育みます。
結論と提言
思春期は、社会性や自立に向けて大きく変化する時期であり、それに伴う不安や心配はある意味自然な反応ともいえます。しかし、もし日常生活や学習、対人関係に支障が出るほど不安が長期化している場合は、不安障害の可能性を疑い、早めに適切なケアを始めることが重要です。医療機関による治療と同時に、食事・運動・睡眠・リラクゼーションといった自然なアプローチを取り入れることで、思春期の子どもが自らの力で回復へ向かう手助けが期待できます。
一方で、思春期の不安障害は本人も保護者も「成長の過程ではしかたない」と見過ごしがちです。日本国内でも精神的ケアの理解は進みつつあるものの、まだ十分に周知されていない面があります。子どもの言葉や表情からSOSをくみ取り、学校や医療専門家と情報を共有しながら、安心できる環境を家庭で作っていくことが大切です。
本記事は、あくまでも情報提供を目的としており、医師や専門家の診断・治療を代替するものではありません。思春期の子どもの心の不調が疑われる場合は、早めに専門家に相談し、適切な医療サービスやカウンセリングを受けるようにしてください。
参考文献
-
Anxiety in teenagers
https://raisingchildren.net.au/pre-teens/mental-health-physical-health/stress-anxiety-depression/anxiety
(アクセス日:2020/05/27) -
Anxiety in Teens is Rising: What’s Going On?
https://www.healthychildren.org/English/health-issues/conditions/emotional-problems/Pages/Anxiety-Disorders.aspx
(アクセス日:2020/05/27) -
Is Anxiety Medication Safe for Teens?
https://www.verywellmind.com/is-anxiety-medication-safe-for-teens-4140381
(アクセス日:2020/05/27) -
Creswell C, Waite P, Cooper PJ (2020) 「Assessment and management of anxiety disorders in children and adolescents」Archives of Disease in Childhood 105(11):711–717
doi:10.1136/archdischild-2019-317694 -
Racine N, McArthur BA, Cooke JE, Eirich R, Zhu J, Madigan S (2021) 「Global prevalence of depressive and anxiety symptoms in children and adolescents during COVID-19: a meta-analysis」JAMA Pediatrics 175(11):1142–1150
doi:10.1001/jamapediatrics.2021.2482