この記事の科学的根拠
本記事は、ご提供いただいた研究報告書に明示的に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、参照された実際の情報源の一部と、それらが本記事で提示される医学的指針にどのように関連しているかの概要です。
- 厚生労働省(MHLW): 日本における急性腎盂腎炎の基本的な定義や一般的な情報に関する指針は、厚生労働省の公開資料に基づいています1。
- 日本感染症学会(JAID)/日本化学療法学会(JSC): 日本国内の薬剤耐性状況を考慮した抗菌薬の選択など、日本の実臨床に即した治療戦略は、JAID/JSCの感染症治療ガイドラインに基づいています5。
- 日本泌尿器科学会(JUA)/欧州泌尿器科学会(EAU): 非複雑性および複雑性腎盂腎炎の分類、診断アプローチ、治療期間に関する国際的な標準治療は、これらの学会が発行するガイドラインに基づいています618。
- 米国感染症学会(IDSA): 抗菌薬の治療期間の短縮化など、最新の国際的な動向やエビデンスは、IDSAの最新ガイドラインを参照しています7。
- 厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS): 日本における大腸菌のフルオロキノロン系抗菌薬などに対する具体的な薬剤耐性率のデータは、JANISの公開サーベイランス報告に基づいています24。
要点まとめ
- 急性腎盂腎炎は、腎臓と腎盂の細菌感染症であり、膀胱炎とは区別される重篤な状態です。主な原因菌は大腸菌です。
- 管理の第一歩は「非複雑性」と「複雑性」の鑑別です。この分類が、入院の要否、抗菌薬の選択、画像検査の必要性を決定します。
- 日本の大腸菌はフルオロキノロン系抗菌薬への耐性率が非常に高い(地域により25-40%超)ため、経験的治療(原因菌が特定される前の治療)での第一選択には推奨されません。これは国際的なガイドラインとの大きな違いです。
- 診断の基本は尿検査ですが、改善しない場合や合併症が疑われる場合は、超音波検査やCT検査などの画像診断が必要になります。
- 治療期間は従来10〜14日間でしたが、近年のエビデンスでは、非複雑性の場合はより短い期間(5〜10日)の治療も有効とされています。
第I部 急性腎盂腎炎の基礎的理解
1. 臨床的実体の定義
1.1. 生物病理学的枠組み
急性腎盂腎炎は、腎臓の実質(機能的な組織)と腎盂(尿が集まる場所)における感染症および炎症と定義されます。これは、膀胱と尿道に限定される膀胱炎のような下部尿路感染症とは明確に区別される必要があります1。主な感染経路は上行性感染であり、腸内細菌叢に由来する尿路病原体が尿道周囲に定着し、尿道を遡って膀胱に侵入し、その後、尿管を介して腎臓まで達します。この経路が症例の大部分を占めます2。より稀な経路として、遠隔の感染部位からの血行性伝播(免疫不全患者や腹腔内膿瘍など特定の臨床状況で考慮)や、隣接する感染臓器からの直接的な広がりも存在します。
1.2. 疾患スペクトラム:非複雑性 対 複雑性
臨床管理において極めて重要なのは、健康で妊娠していない成人女性で、尿路に構造的または機能的な異常がない場合に発生する「非複雑性急性腎盂腎炎」と、「複雑性急性腎盂腎炎」を区別することです。
複雑性腎盂腎炎は、治療の失敗や重篤な転帰のリスクを増加させる因子を持つ患者において発生するものと定義されます。これらの危険因子には以下が含まれます。
- 男性であること6
- 尿路の解剖学的または機能的異常(例:結石、腫瘍、前立腺肥大による尿路閉塞、神経因性膀胱、膀胱尿管逆流)2
- 留置カテーテルや最近の泌尿器科的処置の存在3
- 宿主の全身的な免疫低下因子(例:糖尿病、免疫抑制療法、悪性腫瘍、腎移植)1
この「非複雑性」と「複雑性」への分類は、単なる学術的なものではありません。これは臨床管理における最初の、そして最も基本的なステップです。この分類が、入院の決定、経験的抗菌薬の選択と投与期間、画像診断の必要性といった、その後の全プロセスを決定づけます。日本のガイドラインと国際ガイドラインの両方で強調されているこの枠組みは5、本報告書の中心的な構成原理をなします。臨床現場での真の問いは「急性腎盂腎炎とは何か?」ではなく、「これはどの種類の急性腎盂腎炎か?」です。この鑑別こそが、あらゆる臨床アルゴリズムにおける主要な分岐点であり、同じ診断名を持つ二人の患者がなぜ異なる治療アプローチを受けるのかを説明するものです。
2. 原因と疫学
2.1. 尿路病原体の微生物学的背景
原因菌としては、大腸菌(Escherichia coli)が主要な病原体として同定されており、非複雑性症例の80%以上、そして複雑性症例の大部分を占めています1。その他、臨床的に重要なグラム陰性菌には、Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)、Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)、Enterobacter属(エンテロバクター属)などがあります3。グラム陽性菌、例えばEnterococcus属(腸球菌)や、特に性的に活動的な若い女性におけるStaphylococcus saprophyticus(腐生ブドウ球菌)の役割も、頻度は低いものの臨床的に関連のある病原体として議論されます5。
2.2. 高リスク集団の分析
- 若年女性: 女性は解剖学的要因(尿道が短い、尿道口が肛門に近い)と行動的要因(性行為、殺精子剤の使用)の組み合わせにより、男性の最大5倍も罹患しやすいとされています3。
- 妊婦: 妊娠は特有の危険状態です。妊娠子宮による尿管の機械的圧迫が尿の停滞を引き起こし、ホルモンの影響(プロゲステロンによる平滑筋の弛緩)が尿管の蠕動運動を低下させるため、腎盂腎炎を発症しやすくなります。妊婦の20-30%がこの状態を発症する可能性があり、国際ガイドラインでも主要な危険因子として強調されています6。
- 高齢者と乳児: これらの集団は、非典型的な症状を呈するため、診断と管理が困難です。高齢者では、高熱や局所的な痛みがなく、錯乱、脱力、転倒といった非特異的な症状のみが現れることがあります11。乳児は発熱、易刺激性、哺乳不良のみを示すことがあります。そのため、高度な警戒心(高い疑いの指標)が不可欠です。
- 糖尿病・免疫不全患者: これらの状態は宿主の防御機構を損ない、感染しやすい環境を作り出します。高血糖は好中球の機能を低下させ、細菌の増殖を促進します。これらの患者は、気腫性腎盂腎炎や腎膿瘍といった重篤な合併症のリスクも高まります3。Faeziらによる2022年の研究では、糖尿病と免疫不全が複雑性尿路感染症患者における腎盂腎炎発症の重要な危険因子であることが強く示唆されています。
第II部 臨床評価と診断戦略
3. 臨床症状と症候学
3.1. 古典的な症状
典型的には、症状は数時間から1日という急激な発症を示し、高熱(しばしば38℃以上、時に40℃に達する)、悪寒・戦慄、そして片側の側腹部痛または肋骨脊柱角(CVA)の叩打痛という古典的な三徴候を含みます1。腎盂腎炎はしばしば上行性の膀胱炎から生じるため、排尿困難、頻尿、尿意切迫といった関連する下部尿路症状(LUTS)も一般的です2。悪心、嘔吐、倦怠感といった全身症状も頻繁に報告されます1。
3.2. 集団別の特異的な症状
高リスク群における非典型的な症状は、臨床上の重要性をさらに強調します。もし医師が「古典的な三徴候」のみを探している場合、高齢患者の診断を見逃す可能性があります。以下の表は、患者ごとに合わせた柔軟な診断アプローチの必要性を示しています。
特徴 | 若年成人女性 | 妊婦 | 高齢患者 | 乳児 |
---|---|---|---|---|
発熱・悪寒 | 一般的、高熱(>38°C)、著明な悪寒 | 一般的、重篤化しうる | 無熱または微熱のことも。錯乱が唯一の兆候の場合も。 | しばしば主症状、単独の発熱のことも。 |
側腹部痛/CVA叩打痛 | 典型的、片側性、激しい痛み | 一般的、側腹部痛 | 不明瞭または欠如。広範な腹痛のことも。 | 報告不可、全身の不快感として現れる。 |
下部尿路症状(LUTS) | 一般的(排尿困難、頻尿、尿意切迫) | 一般的 | 既存の泌尿器系の問題に隠れて不明瞭なことも。 | 報告不可、おむつの悪臭が兆候のことも。 |
全身症状 | 一般的(悪心、嘔吐、倦怠感) | 一般的、重篤化しうる | 脱力、食欲不振、転倒 | 哺乳不良、易刺激性、傾眠 |
非典型的/重要な症状 | 古典的な症状 | 早産のリスク、入院が必須 | 精神状態の変化、全身の衰弱 | 成長障害、遷延性黄疸 |
4. 診断アルゴリズム:尿検査から高度な画像診断まで
4.1. 検査:診断の礎
- 尿検査と尿沈渣: これは必須の初期段階です。膿尿(尿中の白血球、≥5−10 WBC/HPFと定義)の存在は尿路感染症の特徴的な兆候です8。白血球円柱の存在は腎実質の炎症(すなわち腎盂腎炎)に非常に特異的ですが、常に見られるわけではありません1。細菌尿や血尿も一般的な所見です1。
- 尿培養と感受性試験: これは確定診断と治療管理の根幹です。抗菌薬を開始する前に、疑わしいすべての腎盂腎炎の症例で尿培養検体を採取すべきです5。これにより原因菌を特定し、さらに重要なことに、その抗菌薬感受性パターンを明らかにし、広域スペクトルの経験的治療から的を絞った確定的治療(デ・エスカレーション)への移行を可能にします8。腎盂腎炎では、≥104 CFU/mLの細菌数が有意と見なされることが一般的です15。
- 血液分析: 全血球計算(CBC)では、しばしば左方移動を伴う白血球増加が見られます。C反応性タンパク(CRP)のような炎症マーカーは上昇し、治療への反応を監視するために使用できます4。特に入院患者や敗血症患者では、感染が血流に広がること(菌血症)を除外するために血液培養が推奨されます1。
4.2. 画像診断:合併症と閉塞の特定
治療に迅速に反応する若年女性の非複雑性腎盂腎炎に対して、画像診断はルーチンでは要求されません。その主な役割は、感染を「複雑性」と分類し、抗菌薬以外の介入を必要とするような状態を評価することです。画像診断の核心的な理由は、特定の臨床的問いに答えるためです。閉塞(結石など)はあるか? 膿瘍はあるか? 患者は改善していないのか? したがって、議論はこれらの適応を中心に構成されるべきです。
画像診断の適応:
- 尿路閉塞の疑い(例:尿管結石による)3
- 適切な抗菌薬治療後48〜72時間以内に臨床的改善が見られない8
- 重篤な症状(例:敗血症、急性腎障害)
- 高リスク患者(例:糖尿病、免疫不全、結石の既往、既知の尿路異常)10
- 再発性腎盂腎炎15
モダリティ | 主な適応/使用 | 主な所見 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|---|
腎超音波検査 | 初期評価、特に妊婦。閉塞の検出。 | 水腎症、大きな結石、膿瘍 | 放射線被曝なし、広く利用可能、低コスト、ベッドサイドで実施可能 | 術者依存性、小さな結石や腎実質炎に対する感度が低い |
非造影CT | 尿路結石を検出するための最良の方法。 | 結石(非造影性結石含む)、ガス、出血 | 迅速、結石に対する高感度 | 放射線被曝、腎灌流や膿瘍の評価は不可 |
造影CT | 複雑性症例、膿瘍疑い、治療不応例の評価におけるゴールドスタンダード。 | 膿瘍(造影効果のある辺縁を持つ液体貯留)、巣状腎炎(楔形の造影効果低下域)、気腫性腎盂腎炎(実質内のガス) | 腎臓の解剖と灌流の詳細な評価 | 放射線被曝、造影剤アレルギーと造影剤腎症のリスク |
MRI | CTの代替、特に妊婦やヨード造影剤アレルギー患者。 | 造影CTと同様(膿瘍、炎症の検出) | 電離放射線なし、優れた軟部組織解像度 | 高コスト、撮像時間が長い、常には利用できない、一部の金属製デバイスでは禁忌 |
第III部 治療管理とガイドラインに基づくプロトコル
5. 管理の原則と患者の層別化
5.1. 治療場所選択のためのリスク層別化:外来 対 入院
患者を外来で管理するか、入院させるかという重要な決定について詳述します。
- 外来管理の基準(通常は非複雑性症例): 血行動態が安定、敗血症の兆候なし、経口での水分補給と薬剤が許容可能、重大な併存疾患なし、フォローアップが確実であること4。
- 入院の適応:
5.2. 支持療法
治療環境にかかわらず、支持療法は極めて重要です。これには、良好な尿量を確保するための十分な水分補給(経口または点滴)と、側腹部痛に対する鎮痛薬、そして解熱薬が含まれます1。
6. 抗菌薬療法:ガイドラインに基づく比較アプローチ
6.1. 経験的治療:最初の重要な選択
急性腎盂腎炎に対する経験的抗菌薬の選択は、日本のガイドラインと国際的なガイドラインの間で最も顕著な違いの一つであり、この違いはほぼ完全に地域の薬剤耐性パターンに起因します。
この違いの背景にある論理は次のように説明できます:
- 2010年代の国際ガイドライン(IDSA/EAU)は、地域の大腸菌の耐性率が10%未満であれば、外来腎盂腎炎の経口第一選択薬として伝統的にフルオロキノロン系(例:シプロフロキサシン、レボフロキサシン)を推奨していました10。
- 日本のサーベイランスデータ(第7節で詳述)は、大腸菌のフルオロキノロン耐性率がはるかに高く、多くの地域でしばしば25-40%を超えていることを示しています19。
- したがって、日本でのフルオロキノロン系の経験的使用は、治療失敗の高い危険性を伴います。
この高い耐性率が、日本のガイドライン(JAID/JSC)がより慎重であり、外来治療に対して経口第3世代セファロスポリン系、あるいは初期の注射抗菌薬の単回投与を推奨し、フルオロキノロン系を感受性が判明している場合に限定する理由を直接説明しています5。これは単なる好みの問題ではなく、エビデンスに基づいた、公衆衛生上必要な適応なのです。
特徴 | JAID/JSCガイドライン(日本) | IDSA/EAUガイドライン(国際、旧データに基づく) |
---|---|---|
推奨される第一選択経口薬 | 第3世代セファロスポリン系(例:セフポドキシム) | 地域の耐性率が <10% であればフルオロキノロン系。そうでなければ、感受性 >80%が判明していればTMP-SMX。 |
推奨される注射薬(初期投与または入院) | セフトリアキソン(筋注または静注)後、経口薬へ移行。 | セフトリアキソンの単回投与後、経口薬(フルオロキノロン系含む)のコース。 |
慎重に使用すべき薬剤(耐性のため) | フルオロキノロン系(感受性判明時にのみ使用)。 | フルオロキノロン系(耐性率 >10%の地域)。TMP-SMX(耐性率 >20%の多くの地域)。 |
相違の主な理由 | 日本における大腸菌のフルオロキノロン耐性率が非常に高く、経験的使用が信頼できないため。 | 歴史的にフルオロキノロン耐性率が低かった地域で開発されたが、地域の耐性データの重要性を強調している。 |
6.2. 確定的治療と治療期間
培養と感受性の結果が得られたら(通常48-72時間後)、治療は可能な限り最も効果的で、最も狭域スペクトルの薬剤にデ・エスカレーションされるべきです8。薬剤耐性(AMR)と戦うために、より短い抗菌薬コースへと向かう世界的な傾向があり、これは最近の国際ガイドラインにも反映されています。
- 腎盂腎炎の伝統的な治療期間は10〜14日間です1。これは提供された日本の多くの情報源にも反映されています5。
- しかし、最近のランダム化比較試験では、非複雑性腎盂腎炎に対して、より短いコース(例:フルオロキノロン系で7日間、β-ラクタム系で7-10日間)が同等に効果的であることが示されています237。
- IDSAの2025年複雑性尿路感染症ガイドラインでは、菌血症があっても臨床的に改善している患者に対し、これらのより短い治療期間(フルオロキノロン系で5-7日、その他で7日)を明確に推奨しています7。
これは、確立された実践(より長いコース)と、抗菌薬スチュワードシップを支持する新たなエビデンス(より短いコース)との間に緊張を生み出します。本報告書では、これを実践が進化している重要な領域として強調します。
6.3. 特別な集団における管理
妊娠中: 妊娠中の腎盂腎炎は、母体(敗血症、ARDS)と胎児(早産)の両方に対する合併症のリスクが高いため、入院が必須です10。治療選択肢としては、フルオロキノロン系、テトラサイクリン系、および特定の妊娠期間におけるTMP-SMXはすべて禁忌です5。安全で効果的な選択肢には、静注β-ラクタム系(例:セフトリアキソン)やアズトレオナムが含まれます15。
7. 日本における薬剤耐性(AMR)の挑戦
7.1. 主要な耐性菌の台頭
このセクションでは、尿路感染症に関して日本で最も重要な二つの耐性問題、すなわちフルオロキノロン耐性大腸菌と基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌に焦点を当てて深く分析します9。
7.2. 日本のサーベイランスデータの分析
厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)24および薬剤耐性(AMR)ワンヘルスプラットフォーム21からのデータを統合して、具体的な数値を示します。「フルオロキノロン耐性が高い」という声明は弱いです。「日本の外来尿検体からの大腸菌におけるフルオロキノロン耐性率は2022年に約41.5%であった22」という声明は強力であり、なぜこれらの薬剤が経験的治療の選択肢として不適切であるかを即座に正当化します。
抗菌薬 | 耐性率 (%) | データソース/注記 |
---|---|---|
レボフロキサシン/シプロフロキサシン(フルオロキノロン系) | 約 35% – 45% | 各種報告から、耐性率が高く増加傾向にあり、しばしば高値とされる25%の閾値を超えている19。 |
セフォタキシム/セフトリアキソン(第3世代セファロスポリン系) | 約 5% – 15% | この率はESBL産生株の有病率の間接的な指標となる9。 |
トリメトプリム-スルファメトキサゾール(TMP-SMX) | >20% | 日本では第一選択ではないが、世界および地域での高い耐性率が使用を制限している19。 |
ESBL産生率 | 約 5% – 18% | 研究(例:非複雑性 vs 複雑性 UTI)により率は異なるが、顕著な増加傾向を示している9。 |
7.3. 抗菌薬適正使用支援(AMS)への示唆
高い耐性率は、強力な抗菌薬適正使用支援(AMS)プログラムの緊急の必要性を強調します。これには、不適切な抗菌薬の使用を避け、デ・エスカレーションを促進し、地域のアンチバイオグラム(薬剤感受性データ)に基づいたガイドラインを遵守することが含まれます。耐性の悪循環が説明されます:あるクラスの薬剤(例:フルオロキノロン系)の乱用が耐性を引き起こし、別のクラス(例:セファロスポリン系)への移行を余儀なくさせ、それが今度はそのクラスでの耐性(例:ESBL)を助長するのです。
第IV部 合併症、予防、および将来の方向性
8. 合併症の認識と管理
8.1. 全身性合併症
敗血症および敗血症性ショック: これらは最も恐れられる合併症です。腎盂腎炎は尿路性敗血症の一般的な原因です。管理には、積極的な輸液蘇生、広域スペクトルの静注抗菌薬(重症例ではしばしばカルバペネム系)、そして集中治療室(ICU)でのサポートが必要になる場合があります1。
8.2. 腎・腎周囲の合併症
これらの合併症は、非複雑性腎盂腎炎とは異なる管理モデルを必要とし、しばしば抗菌薬に加えて外科的または放射線科的介入を伴います。
合併症 | 主要な病態生理 | 典型的な患者プロファイル | 主要な診断所見 | 主な管理 |
---|---|---|---|---|
腎・腎周囲膿瘍 | 腎実質内での限局的な膿の液化と形成。腎周囲腔に破裂することもある。 | 抗菌薬に反応しない患者、閉塞や糖尿病を有する患者。 | 造影CTでの辺縁が造影される液体貯留。 | 画像ガイド下経皮的ドレナージ + 静注抗菌薬3。 |
気腫性腎盂腎炎 | ガス産生菌(例:大腸菌、クレブシエラ)による壊死性感染。 | ほぼ糖尿病患者(特にコントロール不良)に限定される。 | CTでの腎実質、集合系、または腎周囲腔内のガス。 | 緊急介入:重症度に応じた経皮的ドレナージまたは腎摘出術 + 広域抗菌薬3。 |
腎乳頭壊死 | 腎乳頭の虚血性壊死。剥離して急性閉塞を引き起こすことがある。 | 糖尿病、鎌状赤血球症、鎮痛薬乱用、または閉塞のある患者。 | 画像での腎杯の充満欠損、剥離した乳頭が見えることも。 | 支持療法、抗菌薬、および閉塞があればその解除。 |
8.3. 長期的な後遺症
成人が一度の非複雑性エピソードの後に後遺症を残すことは稀ですが、再発性または重度の腎盂腎炎は、特に膀胱尿管逆流(VUR)や閉塞が存在する場合、腎瘢痕、高血圧、および慢性腎臓病(CKD)につながる可能性があります3。
9. 予防戦略と再発
9.1. 行動・生活習慣の変更
このセクションには、標準的でエビデンスに基づいたアドバイスが含まれます:
9.2. 予防的抗菌薬投与
再発性尿路感染症に対する長期・低用量の予防的抗菌薬投与の役割について議論されます。これはAMRを助長する懸念から議論のある領域です。その使用は通常、非抗菌薬戦略が失敗した後に、非常に頻繁で不快な感染エピソードを持つ選ばれた患者に限定されます。
よくある質問
急性腎盂腎炎は他人にうつりますか?
いいえ、急性腎盂腎炎は通常、空気感染や接触感染によって人から人へうつる病気ではありません4。感染は主に、自身の腸内細菌が尿路に侵入することによって起こる内因性のものです。
自宅で治療できますか? それとも入院が必要ですか?
これは「非複雑性」か「複雑性」かによります。血行動態が安定しており、経口で薬や水分を摂取でき、重篤な併存疾患がない「非複雑性」の場合は、外来での治療が可能です4。しかし、高熱が続く、嘔吐が激しい、妊娠中である、糖尿病などの「複雑化因子」がある場合は、安全のため入院して点滴による治療が必要となります。
なぜ日本の推奨する薬は、海外のウェブサイトで見た薬と違うのですか?
一度かかると、再発しやすくなりますか?
再発のリスクは個人差があります。特に、尿路に結石や解剖学的な異常がある場合、排尿を我慢する習慣がある場合、または基礎疾患がある場合は再発しやすくなる可能性があります3。予防策として、十分な水分摂取や適切な排尿習慣が重要です。頻繁に再発する場合は、根本的な原因を調べるために詳しい検査が必要になることがあります。
結論
急性腎盂腎炎の管理は、単一のアプローチでは不十分です。臨床医はまず、「非複雑性」と「複雑性」の枠組みを用いて患者を層別化し、治療戦略を決定しなければなりません。特に日本においては、地域の薬剤耐性データ、とりわけフルオロキノロン系に対する大腸菌の高い耐性率を考慮することが、効果的な経験的治療を行う上で中心的な役割を果たします。治療期間はより短期化する傾向にあり、これは抗菌薬適正使用の観点から重要な進歩です。最後に、治療に反応しない、あるいは合併症が疑われる患者に対しては、時機を逸することなく画像診断を行い、必要に応じて外科的介入を行う準備が不可欠です。将来的には、迅速診断法の開発や新規抗菌薬、非抗菌薬的な予防戦略(ワクチンなど)の研究が、このありふれた、しかし潜在的に重篤な感染症との戦いにおいて重要な鍵となるでしょう。
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