はじめに
JHO編集部より、腎臓に関する重要な感染症である急性腎盂炎について、より深く理解を深めるための情報をお届けします。この感染症は特に女性に多く見られ、初期の段階で適切な対応と治療が求められます。日々の生活では、尿路感染症を単なる軽い症状として放置しがちですが、急性腎盂炎は放置すれば深刻な合併症へと進行する可能性があり、さらに妊娠中の女性においては早産や重篤な状態を招くこともあります。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本稿では、原因・症状・診断・治療法などを丁寧に解説し、理解を深めることで読者が自分自身や家族の健康管理に役立てられるよう、わかりやすく、かつ専門性を損なわない形で情報を整理しています。日常生活で気づくべき初期症状や、発症後に早期対応するための知識を得ることで、深刻な状態を回避し、健康な暮らしを維持するための指針を得ていただければ幸いです。
専門家への相談
この情報は、腎臓内科領域で権威ある専門家や医療機関が提供するガイドラインや最新知見をもとにしています。具体的には、日本腎臓学会が示す信頼性の高い治療指針に沿った内容を基盤とし、記事中で示す感染経路や治療法、リスク評価は、各種学術論文や臨床研究に裏打ちされたものです。
また、参考資料として末尾に掲載している複数の学術的リンク(Acute pyelonephritis (radiopaedia.org)やAcute Pyelonephritis (ncbi.nlm.nih.gov)など)により、より専門的な情報を直接参照することが可能です。これらの信頼できる国際的な医療情報源は、長年にわたり医療従事者や研究者によって評価され、更新されてきています。そのため、ここで提供する知識は常に一定の基準を満たしており、読者が安心して理解を深められるような内容となっています。こうした背景により、本記事の内容は経験豊かな専門家による知見と、国際的な医学的根拠を組み合わせた信頼性の高い情報として提供されます。
急性腎盂炎とは何か
急性腎盂炎は、腎臓内部である腎盂や腎杯、さらには腎の実質部や尿管に細菌が入り込み、急性の炎症を引き起こす感染症です。特に若い女性に多く、適切な治療がなされなければ再発するリスクが高まり、さらには急性腎不全や慢性腎盂炎、慢性腎不全へと進行する恐れがあります。
合併症として、腎臓の囊胞形成、腎周囲膿瘍、敗血症、腎静脈血栓症、腎乳頭壊死などが挙げられます。妊娠中であれば、感染によるショック状態や、さらには早産の危険性も否めません。こうした深刻な影響を避けるためには、早期発見と適切な治療が不可欠です。
日常生活であまり耳慣れないこの病気ですが、排尿時の違和感や微熱程度の段階で軽視せず、しっかりと症状を理解しておくことが、重症化を防ぐ大きなポイントとなります。特に、既往症として尿路感染症を繰り返している場合は、軽度の症状でも早めに受診し、悪化を防止することが重要です。
症状
急性腎盂炎の症状は、数時間から1日以内に急速に発症することが多く、特に高熱、脇腹の痛み、背中の痛み、吐き気、嘔吐、排尿時の灼熱感、頻尿、急な排尿欲求などが典型的です。高熱と脇腹痛は特徴的で、一方の腎臓のみが影響を受ける場合は片側性の痛み、両側の場合は左右両方に痛みが及ぶことがあります。こうした疼痛は、体位を変えても改善しにくい場合があり、体温の急上昇や全身倦怠感を伴いやすいという特徴があります。
症状の現れ方は年齢や性別によって異なり、以下のような特徴があります。
- 女性の場合:特に生殖年齢の女性では、血尿や排尿痛が顕著となることがあります。例えば、日頃から軽度の膀胱炎になりやすい場合、頻尿や排尿時痛が現れたら見過ごさず注意深く症状を観察することが有効です。日常的にこまめに水分を摂り、排尿後に清潔ケアを心がけることで、感染リスクを減らせます。
- 2歳以下の乳幼児:この年齢層では言葉で症状を訴えることが難しいため、発育不良、発熱、哺乳困難といった一見わかりにくい症状として現れます。親御さんは機嫌の悪さや食欲不振、いつもより母乳やミルクの飲みが悪いといった微細な変化に注意を払い、専門医に相談することが重要です。
- 高齢者:精神状態の変化、発熱、衰弱、他の体の部位への影響などが生じる場合があります。高齢者では、典型的な腹痛や背部痛がはっきりしないまま発熱や全身倦怠感だけが続くことがあるため、普段との様子の違いに早めに気づくことが重要です。定期的な健康診断や早期受診によって重症化を回避できます。
こうした多様な症状表現から、急性腎盂炎は見落とされがちですが、違和感を覚えたら早めの受診と検査が望まれます。特に高齢者や乳幼児では、初期症状が曖昧になりやすいため、体のわずかな異変でも注意深く観察し、医療機関への相談を行うことが鍵です。
原因
急性腎盂炎の原因菌として最も多いのはグラム陰性菌であり、その代表が大腸菌(Escherichia coli)です。他にもプロテウス・ミラビリス、クレブシエラ、エンテロバクターなどが感染源となり得ます。これらの細菌は以下の3つの経路で腎盂に達します。
- 逆行性感染:最も一般的な感染経路で、尿道から膀胱、さらに尿管を逆行して腎盂へと達します。日常的な排尿の習慣や、性行為後の適切な排尿と清潔対策がこの経路による感染予防に重要です。
- 血行性感染:全身の血液循環を通じて細菌が腎臓に達するパターンですが、頻度は低めです。この経路は特に免疫力が低下している方や尿管閉塞など既存のリスク要因がある方に見られます。体力や免疫状態の低下があると、血液中の菌が腎臓へ到達しやすくなるため、基本的な体調管理やバランスの良い食生活が重要となります。
- 隣接臓器からの感染:虫垂炎や胆嚢炎、大網炎、腹膜炎などの隣接する臓器から感染が波及するケースも稀ながら存在します。この場合、腸内環境の乱れや周辺臓器の炎症に伴い、菌が広がってしまうことがあります。
また、膀胱尿管逆流と呼ばれる尿の逆流を引き起こす先天的異常も、尿路内に菌を押し戻し、感染を引き起こしやすくする要因です。こうした先天的因子がある場合、幼少期から尿路感染を繰り返すケースが見られ、早期の診断と適切な対策が求められます。たとえば、専門外来で早期に検査を受けることで、逆流の程度や腎機能への影響を評価し、長期的なフォローアップを行うことが重要です。
リスク要因
急性腎盂炎は誰でもかかり得ますが、とりわけ下記の人々でリスクが高まります。
- 若い女性:性行為が活発になる思春期以降、女性の感染率は男性のおよそ5倍に達します。これは尿道が短く、肛門に近い位置にあるため、細菌が膀胱や尿管へ進入しやすい構造的背景があります。またホルモン変化も粘膜環境に影響を与え、感染を助長することがあります。日常的な清潔ケアや、水分摂取、適度な尿意のコントロールなどを意識することでリスク軽減が期待できます。
- 高齢者・乳幼児:高齢者は免疫機能が低下しがちで、また生活習慣病や加齢変化による排尿障害などが背景にあり、感染リスクが上昇します。幼児は自覚症状を明確に訴えられず、気づくのが遅れるため、保護者による細かな健康チェックが欠かせません。
- 糖尿病患者や免疫抑制状態の人、持続する腎疾患を抱える方:これらの方々は免疫力低下や基礎疾患による尿路機能の変調があり、菌が増殖しやすい環境となります。血糖コントロールや基礎疾患治療、専門医との連携による定期的な経過観察が鍵です。
- 妊娠中の女性:妊娠中は子宮の増大で尿管が圧迫され、尿の流れが滞りがちになり、約20〜30%の妊婦が第二または第三期に急性腎盂炎を発症する可能性が示されています。妊娠経過中には定期的な尿検査や専門医のアドバイスを受け、軽微な異常でも見逃さないことが重要となります。
さらに、2022年にBMC Infectious Diseases誌に掲載されたFaeziらによる前向き観察研究(DOI: 10.1186/s12879-022-07523-9)でも、複雑性尿路感染症を有する成人患者の中で急性腎盂炎を発症するリスク要因として、糖尿病や解剖学的異常、免疫力低下などが顕著に関連していることが報告されています。この研究は数百名規模の患者を対象とし、急性腎盂炎の発症予測においてこれらの要素が有意に影響することを示しています。日本の臨床現場でも、同様のリスク要因が日常的に観察されるため、こうした要因を抱える方々は早期に医療機関へ相談することが勧められます。
診断と治療
診断には臨床症状はもちろん、精密な検査が欠かせません。以下は一般的な検査手順と治療法です。
- 尿培養検査:感染細菌の種類を特定し、最適な抗生物質選択に役立ちます。日常的には気軽に行うことが難しい検査ですが、疑われる場合は必ず受診し、適切な培養検査を受けることが肝要です。
- 血液検査:白血球数などを調べ、体内の炎症反応を把握します。急性期には白血球が増加することが多く、重症度の指標としても用いられます。特に敗血症の兆候が疑われる場合や、重症感がある場合には重要な診断根拠となります。
- 画像診断(腹部X線、腹部超音波検査、CTスキャン、MRI):腎臓や尿管の形態的異常や膿瘍の有無を確認します。超音波では腎臓の腫れや尿路結石などを確認し、CTスキャンやMRIではより詳細な内部構造を可視化し、重症度や合併症を的確に把握できます。とくに腎周囲膿瘍の疑いがある場合はCTやMRIが有用です。
治療は、患者の健康状態や合併症の有無により異なります。若く健康な非妊娠女性は、10日から14日間の抗生物質服用で改善が見込まれます。一方で高齢者、免疫力低下がある方、糖尿病患者、妊婦、経口摂取困難な方は、入院治療が望まれ、静脈内抗生物質投与や点滴治療、症状に応じた鎮痛剤、解熱剤などが組み合わされます。
軽度の場合、経口セフェム系抗生物質やトリメトプリム・スルファメトキサゾール(TMP-SMX)が用いられ、重症例では静脈内投与によるより強力な抗生物質が必要です。近年は耐性菌の増加も懸念されており、抗菌薬選択時には地域の耐性パターンや培養検査の結果を踏まえた慎重な判断が求められます。特にESBL産生菌やカルバペネム耐性菌が問題となるケースでは、感染症専門医との連携が不可欠です。
また、尿路感染症を合併する患者では、感染コントロールと同時に腎機能への負担を最小限に抑える管理が求められ、経過観察や定期的な専門医のフォローアップが不可欠です。検査値の経時的変化や症状の持続を細かくチェックし、必要に応じて薬剤の変更や投与期間の延長などを行うことで再発を防止します。
予防
急性腎盂炎を予防するためには、日常生活でのちょっとした習慣改善が大きく寄与します。とくに過去に尿路感染症を経験した人は再発リスクが上がるため、以下の点を意識するとよいでしょう。
- 性交前後に排尿する習慣:膀胱内に残った菌が尿とともに排出されやすくなり、感染リスクを軽減できます。特に頻繁に性行為を行う場合は、このシンプルな習慣が感染防止に有効です。
- 清潔なケア:排尿・排便後には、前から後ろへ拭くようにし、外陰部を清潔かつ乾燥に保つ習慣を身につけます。日常的な入浴や下着の取り替えも、菌の繁殖を抑える一助となります。通気性の良い下着を選ぶことで、外陰部周辺の湿度を低く保ちやすくなります。
- 十分な水分摂取:適度な水分補給は尿の生成を促し、尿路を自然に洗浄します。1日を通してこまめに水やお茶を摂り、脱水を防ぐことで腎機能を安定的に保ち、感染リスクを低減します。夏場や運動時など、発汗が多いときほど意識して水分を補給しましょう。
- 定期的な健康診断:特に腎疾患を抱える方や妊婦は、定期的に健康診断や尿検査を行い、早期異常発見に努めます。早期対応により重症化を避け、後々の合併症リスクを抑えられます。高齢者も、排尿障害や慢性疾患との関連でリスクが高まるため、定期的な受診や検査が望まれます。
これらの予防法は無理なく日常生活に取り入れやすく、長期的に見ても腎臓や尿路の健康維持に貢献します。あくまでも「感染を起こさない」「軽症のうちに発見する」という意識を継続的に持つことが大切です。
結論と提言
急性腎盂炎は、日常生活の中で見過ごされがちな尿路症状から進行し、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。しかし、原因や症状、リスク要因、そして適切な診断・治療を理解し、予防策を講じることで、そのリスクは大幅に軽減できます。
特に女性や妊婦、高齢者、基礎疾患を持つ方は、日頃から予防的な行動(清潔習慣、適切な水分摂取、早期受診)を心がけることで、深刻な状態を回避できます。また、専門医との相談や定期的な検診は、早期発見・早期対応に欠かせない要素です。腎臓は私たちの体内環境を整える重要な臓器であり、その健康状態は生活の質を左右します。感染が疑われる際には、早めに医療機関を受診し、必要な検査と治療を受けることが望まれます。
本記事の情報利用について
本記事で取り上げた内容は、医療機関での診断や処方を代替するものではなく、あくまでも一般的な情報提供を目的としています。症状がある場合や疑わしい場合には、専門の医療機関や医師に相談し、適切な診察や検査を受けるようにしてください。特に合併症のリスクが高い方や妊娠中・高齢者の方は、早期受診と専門家の判断を仰ぐことが大切です。
参考文献
- Acute pyelonephritis (radiopaedia.org) アクセス日: 07/10/2021
- Acute Pyelonephritis (ncbi.nlm.nih.gov) アクセス日: 07/10/2021
- Diagnosis and Treatment of Acute Pyelonephritis in Women (aafp.org) アクセス日: 07/10/2021
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- Acute Pyelonephritis (acsearch.acr.org) アクセス日: 07/10/2021
- Pyelonephritis (acute): antimicrobial prescribing (nice.org.uk) アクセス日: 07/10/2021
- Faezi M.ら (2022) “Risk factors for acute pyelonephritis in adult patients with complicated urinary tract infection: a prospective observational study,” BMC Infectious Diseases, 22(1):1011, DOI:10.1186/s12879-022-07523-9
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