この記事の科学的根拠
本記事は、引用される入力研究報告書に明示的に記載された、最高品質の医学的エビデンスにのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指針との直接的な関連性を示したリストです。
- Dragos, D. et al. / Antioxidants (2021): 本記事における「アントシアニンが血管機能にもたらす恩恵」に関する指針は、この包括的なレビューに基づいています。1
- Chen, L. et al. / Nutrients (2025): 男性の生殖機能に関する前臨床(動物)研究の知見は、このレビュー論文から引用しており、人間での効果を保証するものではないことを明記しています。2
- Dell’Agli, M. et al. / J Sex Med (2024): 勃起機能不全に対する抗酸化物質補給の有効性に関するより広範な文脈は、このメタアナリシスによって支持されています。4
- 養命酒製造株式会社 / 日本の権威ある情報源: 桑の実の日本における伝統的な利用法と文化的背景に関する記述は、こちらの情報源に基づいています。5
- 消費者庁 / 日本の政府情報: 桑の実が日本で「機能性表示食品」として届出されている事実と、その認められた機能(血圧低下)に関する正確な情報は、この公式発表に基づいています。6
要点まとめ
- 桑の実は漢方で「桑椹」と呼ばれ伝統的に利用されてきましたが、現代科学ではその「血流改善」効果の可能性に注目が集まっています。
- 主要成分であるアントシアニンが、血管を健康に保ち、血流を促す「一酸化窒素(NO)」の産生を助けるという科学的メカニズムが、複数の研究で示唆されています。
- 桑の実が性機能へ直接的に与える影響は、人間を対象とした研究ではまだ十分に証明されていません。しかし、性機能の根本を支える「血管の健康」をサポートする可能性は期待されています。
- 日本では、桑の実由来の成分が「高めの血圧を低下させる」機能で機能性表示食品として届出されていますが、性機能改善の効果が国に認められているわけではありません。
- 健康的な生活習慣の一環として、その秘められた可能性に注目する価値はありますが、過度な期待はせず、バランスの取れた視点を持つことが重要です。
性機能と血管の健康:なぜ血流が重要なのか?
性機能について語る上で、血流の状態は避けて通れない中心的なテーマです。多くの人が知らないかもしれませんが、男女双方の性的な反応は、血流のダイナミックな変化に深く依存しています。特に男性の勃起は、神経からの信号を受けて陰茎の血管が拡張し、大量の血液が流れ込むことで起こる、純粋な血行動態現象です。この血管拡張の鍵を握るのが「一酸化窒素(NO)」という物質です。血管の内側を覆う「内皮細胞」が健康で、正常に一酸化窒素を産生できることが、良好な勃起機能の絶対的な基盤となります。厚生労働省の報告によると、日本でも生活習慣病が増加傾向にあり、それに伴う血管の健康問題は深刻化しています。これは、性機能にも無視できない影響を及ぼす可能性があります。
一方で、女性の性的興奮においても血流は同様に重要です。性的刺激により、女性の陰核や膣周辺の血流が増加し、感度や潤滑を高める役割を果たします。したがって、全身の血行が良好であることは、性別を問わず、充実した性生活を送るための生理学的な前提条件と言えるのです。
桑の実の主要成分と科学が注目するその働き
桑の実が科学的な注目を集める理由は、その実に含まれる多様な生理活性化合物にあります。これらの成分が複合的に作用することで、健康への様々な恩恵が期待されています。
アントシアニン
桑の実に特徴的な深い紫色は、ポリフェノールの一種であるアントシアニンによるものです。これは強力な抗酸化物質として知られ、特に「シアニジン-3-グルコシド(C3G)」が主要な種類として豊富に含まれています。この記事の中心的なテーマである血流への影響は、主にこのアントシアニンの働きによるものと考えられています。1
レスベラトロール
ぶどうなどにも含まれることで有名なポリフェノール、レスベラトロールも桑の実には含まれています。この成分もまた、その強力な抗酸化特性で知られています。
ビタミン・ミネラル
桑の実は、抗酸化作用を持つビタミンC、血液の材料となる鉄分、体内の塩分バランスを整えるカリウム、そして多くの酵素の働きや細胞分裂に不可欠な亜鉛など、健康維持に欠かせないビタミンやミネラルもバランス良く含んでいます。
桑の実の成分が血流に与える影響【科学的メカニズムの核心】
ここからは、本記事の核心である、桑の実の成分がどのようにして血流に影響を与える可能性があるのか、その科学的なメカニズムを深く掘り下げていきます。
アントシアニンによる血管内皮機能のサポート
最も重要なメカニズムは、アントシアニンが血管の内皮細胞の健康をサポートする働きです。血管の柔軟性や拡張能力は、内皮細胞から放出される一酸化窒素(NO)によってコントロールされています。科学専門誌『Antioxidants』に掲載された2021年の包括的なレビュー論文では、アントシアニンが「eNOS(内皮型NO合成酵素)」と呼ばれる酵素を活性化させ、一酸化窒素の産生を促進するメカニズムが詳細に報告されています。1 さらに、アントシアニンは酸化ストレスを軽減することで、内皮細胞そのものを保護し、血管機能全体を改善する可能性も示唆されています。これが、桑の実が健康な血流維持に貢献する可能性の根幹となります。
抗酸化作用による血管の保護
私たちの体内で過剰に発生した活性酸素は、細胞を傷つけ、老化や様々な病気の原因となります。この「酸化ストレス」は、血管の内皮細胞にとっても大敵であり、その機能を低下させて血流を悪化させる一因となります。桑の実に豊富に含まれるアントシアニンやレスベラトロールなどの抗酸化物質は、この酸化ストレスによるダメージから血管を保護する役割が期待されます。権威ある医学誌『The Journal of Sexual Medicine』に掲載された2024年のメタアナリシス(複数の研究を統合・分析した研究)では、直接桑の実を対象としたものではないものの、抗酸化物質の補給が、特に重度の勃起不全(ED)を持つ男性において、プラセボ(偽薬)と比較して有意に勃起機能を改善したことが示されています。4 これは、桑の実が持つ抗酸化特性が性機能の基盤となる血管の健康に有益であるという仮説を、間接的に支持するものです。
性機能への間接的影響に関する研究【前臨床研究の視点】
【注意】このセクションで紹介する研究は、主にマウスやラットを用いた動物実験の結果であり、人間で同じ効果が確認されたものではありません。将来の可能性を示す参考情報としてご覧ください。
男性の生殖機能に関する動物研究
高脂肪食や喫煙などによる酸化ストレスは、精子の質や精巣の機能に悪影響を及ぼすことが知られています。こうした状況下で、桑の実エキスが保護的な役割を果たす可能性が動物モデルで報告されています。2025年に科学誌『Nutrients』で発表されたレビュー論文では、高脂肪食を与えられたラットにおいて、桑の実エキスが精子の数や運動率といったパラメータを改善し、精巣で発生する酸化ストレスや炎症を軽減したことがまとめられています。2 これは、桑の実の抗酸化・抗炎症作用が、男性の生殖機能の健康維持に寄与する可能性を示唆するものです。
女性の生殖機能に関する動物研究
女性のホルモンバランスに対する桑の実の影響も、動物レベルで研究されています。雌ラットを用いた2018年の研究では、桑の実エキスがFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体形成ホルモン)といった、排卵に重要な役割を果たす女性ホルモンの分泌を促し、排卵を誘発する可能性が示されました。3 この結果は非常に興味深いものですが、人間への応用については、さらなる慎重な研究が必要です。
日本における桑の実の位置づけと摂取の注意点
科学的な可能性を探ると同時に、日本国内での桑の実の現在の位置づけと、安全に摂取するための注意点を理解することは非常に重要です。
機能性表示食品としての届出状況
日本では、消費者庁の制度のもと、事業者の責任において科学的根拠に基づいた機能性を表示できる「機能性表示食品」というカテゴリーがあります。2022年の香川県の発表によると、桑の実由来の特定の成分(GABA)には、「高めの血圧を低下させる」機能があるとして、機能性表示食品としての届出がなされています。6 血圧と血流は密接な関係にあるため、これは桑の実が血管の健康に良い影響を与える可能性を示唆する一つの側面と言えます。
しかし、ここで明確に理解しておくべきことは、性機能の改善に関する効能・効果は、現在のところ日本の国の制度で認められたものではないということです。本記事で解説しているのは、あくまで科学的なメカニズムの可能性を探るものであり、特定の効果を保証するものではありません。
安全な摂取のために
桑の実は一般的に安全な食品と考えられていますが、以下の点に注意してください。
- アレルギー: バラ科の果物などにアレルギーがある方は、注意が必要です。
- 適量: どんな食品も過剰摂取は避けるべきです。ジュースの場合は糖分の摂り過ぎにも注意しましょう。
- 薬との併用: 特に血糖値を下げる薬や血圧を下げる薬を服用中の方は、桑の実がそれらの薬の効果に影響を与える可能性があります。摂取を始める前に、必ず医師または薬剤師にご相談ください。
よくある質問
Q1: 桑の実ジュースは、どのくらい飲めば効果がありますか?
A: 桑の実ジュースの性機能改善効果に関する、明確な摂取量というものは科学的に確立されていません。本記事で紹介した研究の多くは、濃縮されたエキスを使用しており、市販のジュースとは成分量が異なります。もし試される場合は、製品に記載されている推奨量を目安に、まずは少量から始めてご自身の体の変化を観察するのが良いでしょう。特定の効果を期待して過剰に摂取することはお勧めできません。
Q2: 桑の実と桑の葉茶は違いますか?
A: はい、全く異なります。桑の「実」と「葉」では、含まれる主要な有効成分と期待される効果が違います。桑の葉に含まれる特有の成分「1-デオキシノジリマイシン(DNJ)」は、糖の吸収を穏やかにすることで食後の血糖値の上昇を抑える作用で知られています。一方、本記事で解説した桑の実は、アントシアニンが豊富で、その抗酸化作用や血流への影響が期待されています。目的に応じて使い分けることが重要です。
Q3: 副作用はありますか?
A: 桑の実は食品であり、適切に摂取する限り、重篤な副作用の報告はほとんどありません。ただし、体質によってはアレルギー反応を起こす可能性があります。また、食物繊維も含まれるため、一度に大量に摂取すると、お腹がゆるくなるなどの消化器症状が出ることがあります。特に糖尿病や高血圧の治療を受けている方は、薬の効果に影響を及ぼす可能性があるため、摂取前に必ずかかりつけの医師に相談してください。
結論
桑の実ジュースが、巷で囁かれるような「魔法の薬」であるという直接的な証拠は、現時点ではありません。しかし、その主要成分であるアントシアニンが、男女双方の性機能の生理学的な基盤となる「血管の健康」と「良好な血流」をサポートする科学的なメカニズムを持つことは、多くの研究によって強く示唆されています。伝統医学の知恵が、現代科学の光によって少しずつ解明されつつある、非常に興味深い一例と言えるでしょう。
大切なのは、桑の実ジュースを一つの食品として、バランスの取れた食事や定期的な運動といった健康的な生活習慣全体の中に位置づけることです。血管の健康を意識するライフスタイルの一環として、その秘められた可能性に注目する価値は十分にあります。信頼できる情報に基づいて賢明な選択をすることが、あなたの健康と活力を未来にわたって支える鍵となるでしょう。
参考文献
- Dragos D, Gilca M, Gaman L, Vlad A, Iosif L, Stoian I, Lupescu O. Effects of Anthocyanins on Vascular Health. Antioxidants (Basel). 2021 Jun 2;10(6):907. doi: 10.3390/antiox10060907. PMID: 34203348.
- Chen L, et al. Molecular Mechanisms and Therapeutic Potential of Mulberry Fruit Extract in High-Fat Diet-Induced Male Reproductive Dysfunction. Nutrients. 2025; 17(2):273. https://doi.org/10.3390/nu17020273. [インターネット]. Available from: https://www.mdpi.com/2072-6643/17/2/273
- Lim V, et al. The Effectiveness of Super Ovulation and Multiple Pregnancies in Sprague Dawley Rats using Morus alba Linn. Fruit. International Journal of Medical and Health Sciences. 2018; 12(4). [インターネット]. Available from: https://www.ijmrhs.com/medical-research/the-effectiveness-of-super-ovulation-and-multiple-pregnancies-in-sprague-dawley-rat-using-morus-alba-linn-fruit.pdf
- Dell’Agli M, et al. Antioxidant Supplementation for Erectile Dysfunction: Systematic Review and Meta-Analysis of Double-Blind, Randomized, Placebo-Controlled Trials. J Sex Med. 2024 Jan 15;21(1):2-12. doi: 10.1093/jsxmed/qdad147. PMID: 38220023.
- 養命酒製造株式会社. 【和ハーブ連載】中世から伝わる「仙薬」桑の葉&桑の実 [インターネット]. 養命酒 健康サポートコラム; 2024 [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.yomeishu.co.jp/health/4320/
- 香川県. 「香川県機能性表示食品」届出の支援について [インターネット]. 香川県; 2022 [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.pref.kagawa.lg.jp/documents/32858/hodousiryo.pdf
- 坪水醸造株式会社. 桑の実黒酢 [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://tsubomizu-marui.co.jp/products/osu/kurozu/254
- UMARERU 楽天市場店. 【桑の実ジュース 結の桑 360g ストレートで1日30〜50ml程度】 [インターネット]. 楽天市場; [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://item.rakuten.co.jp/umareru/yui/
- クラシエ. 体質を知り免疫力アップ!『血虚』のあなたは爪の割れ・顔色が悪い・髪が抜けるなどに悩まされる体質 [インターネット]. Kampoful Life; [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://www.kracie.co.jp/kampo/kampofullife/body/?p=9377
- 和漢シンカ研究所. 薬膳×スーパーフード後編~不老長寿に桑の実ワイン [インターネット]. [引用日: 2025年7月23日]. Available from: https://sin-ca.co.jp/wp/iroha/superfb/