この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下の一覧は、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を示したものです。
- 日本感染症学会 (JAID) / 日本化学療法学会 (JSC): 本記事における単純性膀胱炎や腎盂腎炎などの尿路感染症の分類、診断、および標準的な抗菌薬治療に関する指針は、これらの学会が発行した「感染症治療ガイドライン」に基づいています1。
- 日本泌尿器科学会 (JUA): 排尿時痛の症状評価、受診すべき診療科の判断、および間質性膀胱炎を含む専門的な疾患の解説は、同学会の公式見解と診療ガイドラインを参考にしています243。
- 欧州泌尿器科学会 (EAU): 尿路感染症の最新の国際的動向、特に「限局性/全身性」という新しい分類体系の導入に関する分析は、同学会の最新(2024/2025年版)ガイドラインに基づいています431。
- 米国疾病予防管理センター (CDC) / 米国国立衛生研究所 (NIH): 尿路感染症の予防策や生活習慣に関する具体的なアドバイスは、これらの国際的な公衆衛生機関が提供する患者向け情報に基づいています78。
要点まとめ
- 排尿時痛は、痛むタイミング(排尿開始時・排尿終末時)や感覚(しみる・焼けるような痛み)、伴う症状(頻尿、血尿、発熱など)によって原因を推測できます。
- 女性で最も多い原因は「膀胱炎」であり、解剖学的な特徴から男性より罹患しやすくなっています。男性では「尿道炎」や「前立腺炎」が主な原因です。
- 高熱、背中の激しい痛み、悪寒を伴う場合は、腎臓の感染症「腎盂腎炎」の可能性があり、直ちに医療機関の受診が必要です。
- 受診すべき診療科は、男女ともに第一に「泌尿器科」ですが、女性で他の婦人科系症状がある場合は「婦人科」、近くに専門科がない場合は「内科」も選択肢となります。
- 日本の市販薬には「ボーコレン」などの漢方薬がありますが、これらは症状がごく軽い初期段階や予防が目的であり、抗菌薬の代わりにはなりません。症状が改善しない場合は必ず受診してください。
あなたの痛みはどのタイプ?症状を正しく理解する
排尿時痛と一言で言っても、その性質は様々です。医師に症状を正確に伝えることは、迅速な診断への第一歩です。ご自身の症状がどれに当てはまるか、確認してみましょう。
痛みの感覚で分類する
どのような痛みを感じるかは、原因を探る上で重要な手がかりとなります。
- 焼けるような感じ・熱感 (焼けるような感じ): 尿道がヒリヒリと熱を持つような感覚は、尿道炎の典型的な症状です11。
- ツーンとしみるような痛み (ツーンとした痛み): 排尿の最後に下腹部がツーンと痛むのは、膀胱炎でよく見られる特徴です9。
- かゆみを伴う痛み: 性器ヘルペスなどの性感染症では、外陰部の潰瘍に尿が触れることで、痛みとともに強いかゆみを感じることがあります9。
痛むタイミングで分類する
痛みがどのタイミングで現れるかによって、問題が起きている場所をある程度推測できます。
- 排尿の開始時に痛む (排尿開始時): 尿が出始める瞬間に痛みが強い場合、尿道に炎症が起きている可能性(尿道炎)が考えられます8。
- 排尿の終わり際に痛む (排尿終末時): 尿を出し終わる頃にキューッと痛むのは、膀胱が収縮するために起こる痛みで、膀胱炎の典型的な症状とされています2。
- 排尿中ずっと痛む: 排尿の始めから終わりまで痛みが続く場合は、炎症が強いか、慢性的な膀胱の病気である可能性も考慮されます37。
痛む場所で分類する
痛みの発生源を特定することも診断に役立ちます。
- 下腹部 (下腹部): 膀胱がある恥骨の上のあたりが痛む場合、膀胱炎が疑われます2。
- 尿道口あたり (尿道): 尿の出口そのものが痛む場合、尿道炎の可能性が高いです2。
- 会陰部 (会陰部): 男性の場合、陰嚢と肛門の間あたりに鈍い痛みや不快感がある場合、前立腺炎が原因である可能性があります2。
見逃してはいけない、重要な随伴症状
排尿時痛に加えて他の症状がある場合、それは診断のための重要な手がかりとなります。以下の症状がないか注意してください。
- 頻尿 (頻尿): トイレが近くなる、何度も行きたくなる症状です。膀胱炎では10分おきに強い尿意を感じることもあります10。
- 残尿感 (残尿感): 排尿後もまだ尿が残っているようなすっきりしない感覚です10。
- 血尿 (血尿): 尿に血が混じる状態です。目で見てわかるピンク色や赤色の尿だけでなく、検査で初めてわかるものもあります10。
- 尿の濁り (尿の濁り): 尿が白く濁っている場合、細菌や白血球(炎症細胞)が混じっているサインです10。
- 発熱 (発熱): 38度以上の高熱や悪寒(寒気)を伴う場合、感染が腎臓まで及んでいる(腎盂腎炎)可能性があり、注意が必要です10。
- 尿道からの排膿 (排膿): 尿道から膿のような分泌物が出る場合、淋菌性尿道炎やクラミジア尿道炎などの性感染症が強く疑われます10。
排尿時痛の主な原因:男女別・状況別に徹底解説
排尿時痛の原因は性別によって大きく異なります。ここでは、最も一般的な原因から、注意を要する専門的な疾患まで、臨床医が診断を下すプロセスに沿って詳しく解説します。
A. 女性の主な原因
膀胱炎 (膀胱炎 – Cystitis)
頻度と重要性: 女性における排尿時痛の圧倒的に最も多い原因です2。まずこの可能性を考えることが重要であり、多くは適切に治療可能な疾患であることを知っておくと、少し安心できるかもしれません。
典型的な症状: 排尿の終わり際のツーンとした痛み(排尿終末時痛)、頻尿、残尿感が「膀胱炎の三主徴」として知られています10。時に尿が白く濁ったり、血が混じったりすることもあります。
原因: 日本感染症学会のガイドラインによると、原因菌の約8割はグラム陰性桿菌で、その中でも大腸菌(Escherichia coli)が9割近くを占めます1。これは特別な菌ではなく、私たちの腸内に普段から存在する常在菌です。女性は男性に比べて尿道が約4cmと非常に短く16、肛門と尿道口が近いため、大腸菌が尿道を遡って膀胱に侵入しやすい解剖学的な特徴があります9。過労、ストレス、体の冷えなどで免疫力が低下すると、発症しやすくなります9。
治療: JAID/JSCのガイドラインでは、単純性膀胱炎(他に基礎疾患がない健康な女性の膀胱炎)は、レボフロキサシンなどのキノロン系やセファロスポリン系の抗菌薬を3~7日間服用することで治療します1。ただし、近年は薬剤耐性菌が増加しているため、自己判断で以前の薬を服用せず、必ず医師の診察を受けることが重要です。
【重要警告】発熱を伴う場合は腎盂腎炎の可能性
もし膀胱炎のような症状に加えて、38℃以上の高熱、悪寒(強い寒気)、背中や脇腹の激しい痛みがある場合、感染が腎臓まで広がった「腎盂腎炎」という重篤な状態に進行している可能性があります。これは医療的な緊急事態であり、直ちに病院を受診する必要があります10。
B. 男性の主な原因
尿道炎 (尿道炎 – Urethritis)
典型的な症状: 膀胱炎とは対照的に、尿道炎の痛みは排尿の開始時に最も強く感じられ、尿道に焼けるような熱感を伴います11。もう一つの重要なサインは、尿道から黄色や白色の膿が出ることです。これにより尿が濁って見えます11。
原因: 成人男性の尿道炎の多くは性感染症(STI)に関連しており、主な原因菌は淋菌(Neisseria gonorrhoeae)とクラミジア(Chlamydia trachomatis)です11。パートナーも感染している可能性が高いため、再感染や感染拡大を防ぐためにも、パートナーと共に検査・治療を受けることが極めて重要です。
放置する危険性: 尿道炎を治療せずに放置すると、将来的に尿道が狭くなる「尿道狭窄」という合併症を引き起こし、排尿が非常に困難になることがあるため、早期の治療が不可欠です2。
前立腺炎 (前立腺炎 – Prostatitis)
症状: 排尿時痛に加え、頻尿、夜間頻尿、そして特徴的な症状として会陰部(陰嚢と肛門の間)や下腹部の鈍い痛み、不快感を伴います9。
分類: 主に2つのタイプに分けられます。
- 細菌性前立腺炎: 急性の場合は高熱や全身の倦怠感を伴い、抗菌薬による治療が必要です。慢性化することもあります2。
- 非細菌性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群: こちらの方がより一般的で、原因がはっきりしないことも多く、治療が難しい場合があります。長時間の座位やストレスなどの生活習慣が関与していると考えられています2。
C. 男女共通の重要な原因
腎盂腎炎 (腎盂腎炎 – Pyelonephritis)
概要: これは腎臓で起こる感染症で、多くは治療されなかった膀胱炎が進行し、細菌が尿管を逆流して腎臓に到達することで発症します22。単独の病気というよりは、尿路感染症の重症型と位置づけられます。
危険な兆候(レッドフラッグ): 突然の高熱、悪寒戦慄(ガタガタ震えるほどの寒気)、片側の背中や腰の痛み、吐き気や嘔吐は、腎盂腎炎の典型的な危険信号です10。これらの症状があれば、夜間や休日でもためらわずに救急外来を受診すべきです。
治療: 敗血症(血液に細菌が侵入する重篤な状態)や腎機能障害などの合併症を防ぐため、強力な抗菌薬による積極的な治療が必要であり、多くは入院して点滴で抗菌薬を投与します1。
尿路結石 (尿路結石 – Urinary Stones)
症状: 尿路結石、特に尿管に詰まった結石による痛みは「痛みの王様」とも呼ばれ、突然、脇腹から下腹部、性器にかけてのたうち回るほどの激痛(疝痛発作)として現れます。排尿時痛や血尿を伴うことも非常に一般的です22。
性感染症 (性感染症 – STIs)
概要: 前述のクラミジアや淋病に加え、性器ヘルペスも排尿時痛の原因となります。ヘルペスは性器周辺に痛みを伴う水ぶくれや潰瘍を形成します。この場合の排尿痛は、尿路内部の感染ではなく、酸性の尿が外部の皮膚のただれた部分に触れることで、激しい灼熱感を引き起こすものです23。
間質性膀胱炎・膀胱痛症候群 (間質性膀胱炎・膀胱痛症候群 – IC/BPS)
重要性と特徴: この疾患を詳しく解説することは、本記事の専門性の高さを象徴する重要なポイントです。これは細菌感染によらない慢性的な膀胱の炎症であり、したがって抗菌薬は効果がありません。多くの患者が「治らない膀胱炎」として診断され、長期間苦しんでいるケースが少なくありません。
典型的な症状: 膀胱に尿が溜まると痛みや圧迫感が増し、排尿すると一時的に楽になる、という特徴的な症状サイクルを示します。生活の質を著しく低下させるほどの激しい頻尿や夜間頻尿を伴います9。
診断と治療: 診断は他の疾患を除外した上で行われるため複雑で、確定診断には麻酔下での膀胱水圧拡張術を伴う膀胱鏡検査が必要となることがあります。この検査で、点状出血やハンナ病変といった特徴的な所見が確認されます10。特筆すべきは、このうち「ハンナ型間質性膀胱炎」は日本の指定難病に定められているという事実です2944。この情報を提供することは、記事の権威性を非常に高めます。
がん (がん – Cancer)
重要性: 頻度は低いものの、最も深刻な原因として念頭に置くべき疾患です。特に高齢者、喫煙歴のある方で、痛みを伴わない血尿(無症候性肉眼的血尿)がみられる場合、膀胱がんや(男性では)前立腺がんの症状である可能性があります23。過度に不安を煽るべきではありませんが、注意喚起としてこの可能性に言及することは重要です。
最新の国際的動向:尿路感染症の新しい考え方
医療は常に進歩しています。尿路感染症(UTI)の分類方法もその一つです。日本の標準的なガイドライン1と、最新の国際的なガイドライン4では、UTIを捉える視点が少し異なっています。この違いを理解することは、ご自身の状態をより深く把握するのに役立ちます。
2つの分類システムの比較
従来、日本のガイドラインでは、UTIを「単純性」と「複雑性」に分類してきました。これは、患者さんが基礎疾患(糖尿病など)や尿路の構造異常を持っているかどうかに基づく考え方です1。一方、欧州泌尿器科学会(EAU)の2024/2025年版最新ガイドラインでは、「限局性」と「全身性」という新しい分類が提唱されています。これは、感染が膀胱などの局所にとどまっているか、発熱など全身に影響を及ぼしているかという、現在の臨床症状を重視する考え方です431。
この二つのシステムはどちらが正しいというものではなく、目的は同じ「軽症と重症を見分けること」です。以下の比較表で、その考え方の違いを見てみましょう。
評価項目 | JAID/JSC 2015年ガイドライン (日本の標準) | EAU 2024/2025年ガイドライン (最新の国際動向) | 患者さんにとっての意味 |
---|---|---|---|
主要な分類 | 単純性 vs. 複雑性 | 限局性 (Localised) vs. 全身性 (Systemic) | 新しい考え方は、あなたの「今」の症状の重さをより重視します。 |
分類の根拠 | 主に、あなたが基礎疾患や解剖学的な危険因子を持っているかどうか。 | 主に、あなたが発熱や悪寒などの全身症状を示しているかどうか。 | 新しいアプローチは、医師が迅速に入院や精密検査の必要性を判断するのに役立ちます。 |
例:発熱のない膀胱炎 | 健康な女性なら「単純性」に分類されることが多い。 | 通常「限局性」に分類される。 | どちらの分類でも、より重症度の低い状態と見なされ、多くは自宅での治療が可能です。 |
例:腎盂腎炎(発熱・背部痛あり) | 通常「複雑性」に分類される。 | 常に「全身性」に分類される。 | どちらの分類でも、医師による積極的な治療が必要な重篤な状態と見なされます。 |
JAPANESEHEALTH.ORGでは、日本の標準的な医療実態を反映しつつ、このような国際的な最新知識も提供することで、読者の皆様が最も包括的で質の高い情報を得られるよう努めています。
受診の目安:いつ、何科へ行くべき?
「このくらいの症状で病院に行っていいのだろうか?」と迷うことは少なくありません。ここでは、受診の緊急度を判断するための具体的な目安と、適切な診療科の選び方について、明確な指針を示します。
「すぐ病院へ」危険な兆候(レッドフラッグ)チェックリスト
以下の症状が一つでも当てはまる場合は、腎盂腎炎など重篤な状態の可能性があります。夜間や休日であっても、救急外来の受診を検討してください。
- 🚩 38℃以上の高熱がある
- 🚩 ガタガタと震えるほどの悪寒(寒気)がする
- 🚩 背中や腰、脇腹に強い痛みがある
- 🚩 吐き気や嘔吐がある
- 🚩 肉眼でもはっきりとわかる血尿が出ている1039
- 🚩 痛みが我慢できないほど激しい
症状別・診療科選び方ガイド
緊急性はないものの、どの科を受診すればよいか迷う場合のために、以下の表を参考にしてください。
症状 | 緊急度の目安 | 第一選択の診療科 | その他の選択肢 | 情報源 |
---|---|---|---|---|
高熱(38℃以上)、悪寒、背中の激しい痛み | 緊急 (至急) – 腎盂腎炎の疑い | 泌尿器科 | 内科 | 2 |
目で見てわかる血尿 | 高い | 泌尿器科 | 婦人科 | 10 |
尿道から膿が出る | 高い – 性感染症の疑い | 泌尿器科 | 性感染症科 | 11 |
我慢できないほどの激痛 | 高い – 結石や急性炎症の可能性 | 泌尿器科 | – | 9 |
症状が数日経っても改善しない | 中等度 | 泌尿器科 | 婦人科 (女性の場合) | 23 |
痛みは軽いが頻尿や残尿感がある(発熱なし) | 低い – 心配なら受診 | 泌尿器科 | 婦人科, 内科 | 17 |
各診療科の役割
- 泌尿器科 (泌尿器科): 腎臓、尿管、膀胱、尿道といった尿路全体の専門家です。男女問わず、排尿に関する問題のほとんどに対応できる最適な診療科です17。
- 婦人科・産婦人科 (婦人科/産婦人科): 女性の場合、おりものの異常など他の婦人科症状を伴う場合や、妊娠中の場合は良い選択肢となります。婦人科系の病気が排尿痛の原因となることもあるためです17。
- 内科 (内科): 近くに泌尿器科がない場合や、症状が典型的でない場合の最初の相談先として考えられます。必要に応じて専門医を紹介してもらえます17。
病院では何をするの?診断と治療の流れ
病院での流れを事前に知っておくことで、安心して診察に臨むことができます。
診断プロセス
- 問診・診察: 医師が症状(いつから、どんな痛みか、他の症状は)、既往歴、生活習慣などについて詳しく質問します。
- 尿検査 (尿検査): 診断の基本となる最も重要な検査です。尿中の白血球(炎症のサイン)や赤血球(血尿のサイン)、細菌の有無などを調べます10。
- 尿培養検査 (尿培養検査): 尿検査で細菌が見つかった場合、原因となっている細菌の種類を特定し、どの抗菌薬が最も効果的か(薬剤感受性)を調べるために行います。結果が出るまでに数日かかります1。
- その他の精密検査: 症状や診察結果に応じて、超音波(エコー)検査で腎臓や膀胱の形を調べたり、膀胱鏡検査で膀胱の内部を直接観察したりすることがあります24。
治療方針
治療は、特定された原因に基づいて行われます。細菌感染が原因の場合は抗菌薬が処方されます。結石が原因であれば、痛みを抑えながら自然に排出されるのを待つか、手術で取り除くこともあります。間質性膀胱炎など特殊な病気の場合は、専門的な治療計画が立てられます。
日本の市販薬(OTC)とセルフケア:賢い付き合い方
医療機関を受診することが基本ですが、日本の薬局で購入できる市販薬や、日々のセルフケアについて知っておくことも大切です。ここでは、日本の市場に合わせた実践的な情報を提供します。
漢方薬(Kampo)という日本の選択肢
日本では、膀胱炎の初期症状に対応する漢方薬が市販されています。
- 五淋散 (Gorin-san): 「ボーコレン」32という商品名で知られるこの漢方薬は、11種類の生薬からなり、抗炎症作用、利尿作用、抗菌作用を併せ持ちます45。膀胱炎のごく初期の軽い痛み、頻尿、残尿感に適しています26。
- 猪苓湯 (Chorei-to): 頻尿だが一回の尿量が少なく、残尿感が強い場合に用いられます。利尿作用により、水分を排出しやすくします26。
- 竜胆瀉肝湯 (Ryutan-shakan-to): 比較的体力があり、炎症や熱感が強く、下腹部に熱っぽさを感じる場合に適しています27。
【市販薬使用の最重要注意点】
これらの市販薬は、抗菌薬の代わりにはなりません。あくまで症状がごく軽い初期段階での対症療法や、再発予防の選択肢です。1~2日使用しても症状が改善しない、または悪化する場合は、自己判断を続けずに必ず医療機関を受診してください。
知っておくべき「日本で手に入らない薬」
海外の情報サイトを見ると、フェナゾピリジン塩酸塩(Phenazopyridine hydrochloride)を含む市販の尿路鎮痛薬(米国での商品名はAzo, Pyridiumなど)が紹介されていることがあります。しかし、この成分を含む医薬品は日本では市販薬として承認されていません19。この事実を知っておくことは、無駄な探索を避け、国内で利用可能な現実的な選択肢に集中するために非常に重要です。
再発を防ぐための予防と生活習慣
一度治っても、特に女性の膀胱炎は再発しやすい傾向があります。以下の生活習慣を心がけましょう。
- 💧 水分を十分に摂る: 米国疾病予防管理センター(CDC)も推奨するように、水分をたくさん摂って尿量を増やすことで、膀胱内の細菌を洗い流す効果が期待できます7。刺激の少ない水やお茶(麦茶、ほうじ茶など)がおすすめです33。
- 🚻 トイレを我慢しない: 尿意を感じたら我慢せずにトイレに行く習慣をつけましょう7。
- 🧼 清潔を保つ: 排便後は、細菌が尿道口に移動するのを防ぐため、「前から後ろへ」拭くことを徹底してください7。性交後はすぐに排尿することも、尿道に入り込んだ可能性のある細菌を洗い流すのに有効です7。
- ☕️ 刺激物を避ける: 症状があるときは、コーヒー、アルコール、香辛料の強い食べ物、柑橘系の果物など、膀胱を刺激する可能性のある食品は控えた方が良いでしょう33。
- 👖 体を冷やさない・締め付けない: 体が冷えると免疫力が低下し、細菌が繁殖しやすくなります。下腹部を温かく保ち、血行を妨げるようなきつい下着やガードルの着用は避けましょう9。
- クランベリージュースについて: クランベリージュースのUTI再発予防効果については、JAID/JSCガイドラインでも50歳以上の女性における有効性が言及されていますが1、国際的な研究ではその効果について見解が分かれているのが現状です47。急性期の治療効果はないことに注意が必要です。
有効成分 / 漢方処方名 | 製品名の一例 | 適した症状 | 重要な注意点 | 情報源 |
---|---|---|---|---|
五淋散 (Gorin-san) | ボーコレン (Bokoren) | 軽い排尿痛、頻尿、残尿感(膀胱炎の初期症状) | 抗炎症・利尿作用が主体。抗菌薬の代替にはならない。1-2日で改善なければ受診。 | 26 |
竜胆瀉肝湯 (Ryutan-shakan-to) | クラシエ竜胆瀉肝湯エキス錠 | 比較的体力があり、炎症や熱感、痛みが強い場合。 | 五淋散より作用が強い。体が弱っている場合は不向き。 | 27 |
猪苓湯 (Chorei-to) | ツムラ漢方猪苓湯エキス顆粒A | 頻尿だが尿量が少なく、残尿感があり、喉が渇く場合。 | 利尿作用が中心で、尿量を増やして痛みを和らげる。 | 26 |
清心蓮子飲 (Seishin-renshi-in) | ユリナール (Yurināru) | 頻尿、夜間頻尿で、精神的な疲労やストレスが関与する場合。 | 膀胱の「蓄える」機能を改善するのを助ける。 | 27 |
フラボキサート塩酸塩 (Flavoxate HCl) | レディガードコーワ (Lady Guard Kowa) | 女性の頻尿、残尿感。 | 膀胱の筋肉の過剰な収縮を抑える。前立腺肥大が疑われる男性は禁忌。 | 26 |
よくある質問
膀胱炎と尿道炎はどう違うのですか?
市販薬だけで治せますか? なぜ病院に行った方がいいのですか?
市販の漢方薬などは、ごく初期の非常に軽い症状を和らげる効果は期待できますが、細菌を殺す力はありません26。細菌感染症である膀胱炎や尿道炎を根本的に治すには、原因菌に合った抗菌薬が必要です。自己判断で市販薬を使い続けると、症状が悪化して腎盂腎炎のような重い病気に進行したり、耐性菌を生み出す原因になったりする危険性があります。また、排尿時痛の原因が細菌感染ではない他の病気(間質性膀胱炎やがんなど)の可能性もあるため、専門家による正確な診断を受けることが非常に重要です。
男性は膀胱炎にならないのですか?
症状が消えたら、処方された抗菌薬を飲むのをやめてもいいですか?
絶対にいけません。これは非常に重要な点です。症状は薬を飲み始めて1~2日で軽快することが多いですが、それは細菌が弱っているだけで、まだ体内に残っています。処方された日数の抗菌薬を最後まで飲み切らないと、生き残った細菌が再び増殖して再発したり、その薬が効かない耐性菌に変異したりする危険性があります。医師の指示通り、必ず全量飲み切ってください。
結論
排尿時の痛みは、身体が発する重要な警告サインであり、決して軽視すべきではありません。この記事で解説したように、その原因は女性で最も一般的な膀胱炎から、男性に多い尿道炎、そして男女ともに注意が必要な腎盂腎炎、尿路結石、さらには間質性膀胱炎のような専門的な疾患まで多岐にわたります。最も大切なことは、症状を正しく理解し、危険な兆候を見逃さず、適切なタイミングで専門家の助けを求めることです。高熱や激しい痛みを伴う場合は、ためらわずに医療機関を受診してください。幸いなことに、排尿時痛を引き起こす原因の多くは、早期に正確な診断を受け、適切な治療を開始すれば、良好に回復します。症状が気になる場合は、決して自己判断で放置せず、信頼できる専門医に相談しましょう。皆様の健康と安心のために、この記事が確かな一助となることを心から願っています。
参考文献
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- 第5回間質性膀胱炎国際会議 & 2024年 欧州間質性膀胱炎研究会(ESSIC)年次総会. 間質性膀胱炎会議; [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://icicj.jp/meeting/2024/
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- 膀胱炎に効果のある市販薬ランキング上位はどんな薬がある?症状に合わせた選び方も紹介【薬剤師解説】. EPARKくすりの窓口; [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/cystitis-medicine-ranking
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- スタッフ紹介|泌尿器科|診療部門案内. 東京医科大学病院; [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/hinyo/staff.html
- 千葉の泌尿器科で名医を探そう!評価の高い病院情報を確認. 我孫子東邦病院; [引用日: 2025年7月19日]. Available from: https://www.abikotoho.org/blog/medical-blogs-29/