要点まとめ
第1章:毛巣洞とは?―多くの人が混同する「粉瘤」や「毛嚢炎」との違い
そのお尻のしこり、本当に「おでき」ですか? 読者の皆様が抱える最初の疑問に答えるため、まずは毛巣洞がどのような疾患であるかを正確に定義し、よく混同される他の皮膚疾患との違いを明確にします。
毛巣洞の正確な医学的定義
毛巣洞(Pilonidal Disease)とは、仙骨部(お尻の割れ目の上部)の皮膚に慢性的な炎症や感染を繰り返す疾患です。その名の通り「毛の巣」が原因となり、臀部の正中線上(割れ目の部分)に一つまたは複数の小さな穴(瘻孔:ろうこう)が開いているのが特徴です6。この穴から体毛が皮膚の下に侵入し、異物反応としての炎症を引き起こします。初期段階では無症状のこともありますが、感染を起こすと赤く腫れあがり、強い痛みを伴う膿瘍(のうよう)を形成します。そして、一度症状が治まっても再発を繰り返すことが多く、患者の生活の質(QOL)を著しく低下させる可能性があります1。
なぜ起こるのか?「先天性」ではなく「後天性」が現在の定説
かつて毛巣洞は、胎児期に皮膚が形成される過程で生じる先天的な異常と考えられていました。しかし現在では、その説はほぼ否定され、「後天性疾患」であるという考えが医学界の定説となっています1。現代の医学で最も支持されているのは、ギリシャの外科医Karydakisが提唱した「毛髪、力、皮膚の脆弱性」の3つの要素が組み合わさることで発症するという理論です1。具体的には、以下のプロセスで発生すると考えられています。
- 抜け落ちた硬い毛髪が、お尻の割れ目の皮膚にある毛穴や汗腺の開口部に突き刺さる。
- 座る、歩くといった日常的な動作による摩擦や圧力が、毛髪をさらに皮膚の奥深くへと押し込む。
- 体は侵入してきた毛髪を「異物」と認識し、排除しようとして炎症反応を起こす。この反応が袋状の空洞(嚢胞)を形成し、内部に毛髪や角質、膿が溜まっていく。
このように、毛巣洞は生まれつきのものではなく、生活習慣や体質が絡み合って後天的に発生する病態なのです。
【重要】毛巣洞 vs. 粉瘤 vs. 毛嚢炎:見分け方のポイント
毛巣洞は、同じく皮膚のできものとして知られる「粉瘤(アテローム)」や「毛嚢炎」と間違われやすい疾患です。しかし、原因も治療法も異なるため、正確な鑑別が非常に重要です。以下の比較表で、それぞれの特徴を確認してみましょう。
特徴 | 毛巣洞 (Pilonidal Cyst) | 粉瘤 (Atheroma/Epidermal Cyst) | 毛嚢炎 (Folliculitis) |
---|---|---|---|
好発部位 | 仙骨部(お尻の割れ目)にほぼ限定される | 顔、首、背中など全身どこにでも発生しうる | 毛穴のある場所ならどこでも(顔、頭皮、四肢など) |
主な原因 | 皮膚への毛髪の侵入(後天性)1 | 毛穴の出口が詰まり、角質や皮脂が袋に溜まる | 毛穴への細菌感染(主に黄色ブドウ球菌)7 |
外観・特徴 | 正中線上に複数の小さな穴(瘻孔)を伴うことが多い | 半球状のしこり。中央に黒い点(開口部)が見られることがある | 毛穴に一致した赤いブツブツや、膿を持った小さな膿疱 |
典型的な経過 | 慢性的に炎症を繰り返し、膿瘍形成を繰り返す | ゆっくりと大きくなる。感染すると赤く腫れて痛む | 数日で自然に治ることが多いが、重症化することもある |
第2章:あなたは大丈夫?毛巣洞のリスク要因とセルフチェック
毛巣洞は誰にでも起こりうるわけではなく、特定の要因を持つ人に発症しやすいことが知られています。ご自身がリスク要因に当てはまるかを確認し、早期発見につなげましょう。
毛巣洞になりやすい人の特徴
複数の質の高い医学研究から、以下のような特徴を持つ人は毛巣洞を発症するリスクが高いことが示されています28。
- 年齢と性別: 思春期から40歳代の若年層に多く、特に男性は女性の3~4倍発症しやすいとされています。
- 体質・体型:
- 多毛な体質: 硬く、太い毛が多い人は、毛髪が皮膚に侵入しやすくなります。
- 肥満(BMIが高い): 体重が増加すると、お尻の割れ目が深くなり、湿度が高まり、摩擦が強くなるため、毛が潜り込みやすい環境が作られます。
- 深い臀裂(お尻の割れ目が深い): 解剖学的に割れ目が深いと、毛髪が溜まりやすく、皮膚への圧力が集中しやすくなります。
- ライフスタイル:
- 長時間の座位: デスクワークや長距離ドライバーなど、座っている時間が長い職業は、臀部への圧迫と摩擦が持続的にかかるため、最大のリスク要因とされています。
- 不衛生な状態: 臀部を清潔に保てていないと、細菌感染のリスクが高まります。
- 家族歴: 直接的な遺伝病ではありませんが、体質(多毛、骨格など)が似るため、家族内で複数人が発症することがあります。
日本の特殊事情:「ジープ病」から海上自衛隊員の事例まで
毛巣洞のリスク要因である「長時間の座位」を象徴するのが、この病気の歴史的な俗称である「ジープ病(Jeep Disease)」です9。これは第二次世界大戦中、悪路を長時間ジープで走行する兵士に多発したことから名付けられました。硬い座席での持続的な振動と圧迫が、臀部の毛髪を皮膚に押し込む理想的な条件を作り出してしまったのです。
この歴史的な背景は、現代の日本においても無関係ではありません。非常に興味深いことに、2006年に発表された海上自衛隊横須賀基地の隊員を対象とした研究では、毛巣洞患者が艦艇乗組員に有意に多く見られることが報告されています10。この研究では、11人の男性患者が報告されており、長時間の座位や限られたスペースでの生活といった、艦艇乗組員特有の生活様式が発症の重要な要因であることが強く示唆されています。これは、「ジープ病」が形を変えて現代日本の特定の職業環境にも存在することを示す、具体的で共感を呼びやすい事例と言えるでしょう。
第3章:患者さんの道のり(A Patient’s Journey)
毛巣洞という診断名は、多くの患者さんにとって聞き慣れないものであり、戸惑いや不安を伴います。ここでは、典型的な患者さんが経験する道のりを辿ることで、この疾患がもたらす身体的・精神的な負担への理解を深めます。これは特定の個人の話ではなく、多くの臨床報告や患者コミュニティで見られる共通の経験を統合したものです11。
- 初期の気づきと混乱:「お尻の割れ目のあたりに、ニキビのようなものができた。痛いけど、そのうち治るだろう。」最初は多くの人がそう考えます。しかし、しこりは消えることなく、時折ズキズキと痛み、腫れを繰り返します。座るのが辛くなり、仕事や学業に集中できなくなります。
- 診断への長い道のり:皮膚科を受診すると、「おでき」「粉瘤」と診断され、抗生物質を処方されたり、簡単な切開排膿を受けたりすることがあります。一時的に症状は改善しますが、根本的な原因は解決されていないため、数ヶ月後、あるいは数年後に必ず再発します。「なぜ治らないんだ?」という焦りと不信感が募ります。
- 「毛巣洞」という真実:やがて、肛門科や形成外科の専門医にたどり着き、「毛巣洞」という確定診断を受けます。初めて聞く病名に戸惑いながらも、長年の不調の原因が分かったことに安堵する一方で、「手術が必要」と告げられ、新たな不安に直面します。
- 手術への恐怖と決断:「手術は痛いのか?」「傷跡は大きく残るのか?」「仕事はどのくらい休まなければならないのか?」手術方法の説明を受けても、その侵襲性や長い治癒期間、そして再発の可能性に恐怖を感じます。しかし、このまま痛みを繰り返し続ける生活から解放されたいという強い思いが、手術への決断を後押しします。
- 術後のケアという試練:手術が無事に終わっても、本当の戦いはそこから始まります。特に、切開開放法のような従来の手術では、数ヶ月にわたる毎日のガーゼ交換が必要となり、患者さん自身や家族に大きな負担がかかります3。痛みや浸出液、いつ治るか分からない不安との長い付き合いが続きます。
- 再発への懸念:ようやく傷が癒えても、「また再発するのではないか」という不安は常につきまといます。生活習慣の改善や、臀部の衛生管理、そして長期的な脱毛など、再発予防への意識的な取り組みが求められます。
この道のりは、毛巣洞が単なる皮膚のトラブルではなく、患者の人生に深く影響を及ぼす慢性疾患であることを物語っています。JAPANESEHEALTH.ORGは、このような患者さんの苦痛に寄り添い、正確な情報を提供することで、最適な治療への一歩を踏み出す手助けをすることを目指しています。
第4章:毛巣洞の症状と診断
毛巣洞の症状は、病気の進行度(急性期か慢性期か)によって大きく異なります。正しい治療のためには、まず正確な診断が不可欠です。
急性膿瘍期:突然の激しい痛みと腫れ
毛巣洞の内部で細菌感染が急激に悪化すると、「急性膿瘍」という状態になります。これは、非常に強い症状を伴います。
- 激しい痛み: 座ることはもちろん、歩くことさえ困難になるほどの強い、拍動性の痛みが生じます。
- 腫れと赤み: 臀部の割れ目周辺が赤く、熱をもって硬く腫れあがります。
- 発熱: 感染が広がると、38度以上の高熱が出ることがあります。
- 膿の排出: 膿瘍が自壊(自然に破れること)したり、瘻孔から膿が排出されたりすることがあります。
この状態は緊急の処置を要するため、速やかに医療機関を受診する必要があります。
慢性期:繰り返す不快な症状
急性期の激しい症状が落ち着いた後、あるいは急性膿瘍を経ずに、慢性的な症状が続くことがあります。
- 持続的な痛みや違和感: 激痛ではないものの、鈍い痛みや座った時の違和感が続きます。
- 分泌物: 瘻孔から、膿や血液の混じった漿液性の分泌物が下着に付着することがあります。
- かゆみや悪臭: 慢性的な炎症や分泌物により、臀部のかゆみや不快な臭いが生じることがあります。
- 複数の瘻孔: 時間の経過とともに、皮膚の開口部(瘻孔)が増え、複雑なトンネルを形成することがあります。
慢性期の症状は、生活の質をじわじわと蝕んでいきます。
専門医による診断方法
毛巣洞の診断は、主に専門医による視診と触診によって行われます。仙骨部の正中線上に特徴的な瘻孔(小さな穴)を認めることが、診断の最も重要な手がかりとなります6。医師は、瘻孔からゾンデと呼ばれる細い金属の棒を挿入し、皮下の空洞の広がりや方向を確認することがあります。
通常、画像検査(超音波、CT、MRI)は必須ではありませんが、膿瘍の範囲が広い場合や、骨への影響が疑われるような複雑な症例では、手術計画を立てるために行われることがあります12。
第5章:【治療法の完全ガイド】あなたに最適な選択肢は?
毛巣洞の治療は、病状のステージや患者の希望に応じて選択されます。残念ながら、この疾患が自然に治癒することはほとんどなく4、根治を目指すには何らかの外科的介入が必要となります。
緊急対応:急性膿瘍の応急処置(切開排膿)
急性膿瘍で来院した場合、まず最優先されるのは、痛みを和らげ、感染をコントロールすることです。これは「切開排膿(せっかいはいのう)」と呼ばれる処置で、局所麻酔の下で膿が溜まっている部分の皮膚を小さく切開し、中の膿を排出します3。これにより、痛みや熱といった症状は劇的に改善します。しかし、これはあくまで応急処置であり、毛巣洞そのものを治す治療ではありません。原因となっている毛髪や嚢胞組織は残っているため、ほとんどの場合、いずれ再発します。根治のためには、炎症が治まった後に改めて根治手術を計画する必要があります。
従来法と問題点:切除・開放療法と一次縫合閉鎖
歴史的に行われてきた根治手術には、主に2つの方法があります。
- 切除・開放療法 (Open Healing/Excision and leaving open): 疾患部をすべて切除した後、傷を縫わずに開いたままにし、肉が盛り上がってくる(肉芽形成)のを待つ方法です。感染のリスクは低いですが、傷が完全に治癒するまでに数週間から数ヶ月という非常に長い時間がかかります。その間、毎日のガーゼ交換などの処置が必要となり、患者の身体的・精神的負担が非常に大きいのが最大の欠点です3。
- 一次縫合閉鎖 (Midline Closure/Excision and primary closure): 疾患部を切除した後、傷をすぐに縫い合わせる方法です。治癒期間は短いですが、お尻の割れ目の正中線上で傷を縫合するため、傷に強い張力がかかり、非常に治りにくい場所です。そのため、創部離開(傷が開くこと)や感染の発生率が高く、再発率も15~45%と非常に高いことが報告されています3。このため、2020年のドイツのガイドラインでは、「行うべきではない」と強く勧告されており (推奨度A)3、欧州大腸肛門病学会(ESCP)のガイドラインでも同様に回避することがコンセンサスとなっています4。
低再発率を目指す皮弁術(Flap Surgery)の比較
従来法、特に一次縫合閉鎖の問題点を克服するために開発されたのが「皮弁術(ひべんじゅつ)」です。これは、疾患部を切除した後、周囲の健康な皮膚と皮下組織(皮弁)を移動させて傷を覆う方法です。皮弁術の最大の目的は、①臀裂を浅くする(cleft flattening)、②縫合線を正中からずらす(off-midline closure)ことであり、これにより傷への張力を減らし、治癒環境を劇的に改善します13。皮弁術は、現在の国際的な標準治療(ゴールドスタンダード)と見なされており、再発率が0~6%と非常に低いのが特徴です3。代表的な術式には以下のようなものがあります。
- Karydakis法 / Bascom法 (Cleft-Lift): 臀裂の片側の皮膚を切除し、反対側の皮膚を引っ張ってきて縫合することで、割れ目を浅くし、縫合線を正中からずらす方法。最も広く行われている術式の一つです。
- Limberg法 (菱形皮弁): 疾患部を菱形に切除し、隣接する部分から同じ大きさの菱形の皮弁を作成して移動させる方法です。
日本で報告される術式:V-Y Plastyと造袋術(Marsupialization)
国際的な潮流に加え、日本の医療機関からも独自の工夫を凝らした術式が報告されており、患者さんにとっての選択肢は広がっています。
- V-Y Plasty (V-Y皮弁術): 久留米大学病院から報告されている皮弁術の一種です14。14人の男性患者を対象とした研究では、再発率0%という非常に良好な成績が示されています。術後合併症は42.9%に見られましたが、その多くは軽度の創部感染であり、安全で効果的な術式であると結論付けられています。
- 造袋術(ぞうたいじゅつ / Marsupialization): 健生会奈良大腸肛門病センターから、一次縫合閉鎖法との比較結果が報告されている術式です15。これは、疾患部を完全に切除するのではなく、大きく切開して内容物を掻き出した後、嚢胞の壁と皮膚の縁を縫い合わせて、浅い開放創にする方法です。この研究では、一次縫合閉鎖の再発率が23.5%であったのに対し、造袋術では0%と、こちらも極めて良好な結果でした。特に大きな病巣に対して推奨されています。
体への負担が少ない低侵襲治療(Minimally Invasive Treatments)
近年、より早い社会復帰と痛みの軽減を目指し、体への負担を最小限に抑える「低侵襲治療」が注目されています。これらは主に、まだ手術歴のない比較的単純な症例に適しています。
- Pit Picking (ピット・ピッキング): 正中にある瘻孔(ピット)のみを小さく切除し、皮下の空洞を掻き出す(掻爬:そうは)する手術です。非常に侵襲が少ないですが、再発率は他の方法より高いとされています3。
- 内視鏡手術 (EPSiT – Endoscopic Pilonidal Sinus Treatment): 瘻孔から細い内視鏡(ファイバースコープ)を挿入し、モニターで内部を観察しながら、毛髪や不良な組織を鉗子で取り除き、電気メスで焼灼する方法です16。傷が非常に小さく、日帰り手術も可能です。再発率は4~8%程度と報告されています3。
- レーザー治療 (SiLaC® – Sinus Laser-Assisted Closure): 内視鏡手術と同様に、瘻孔から特殊なレーザーファイバーを挿入し、レーザー光を照射して内部からトンネル全体を熱で焼灼・閉鎖させる治療法です5。こちらも非常に低侵襲で、術後の痛みが少なく、合併症率が低いことが報告されています。長期的な再発率は3~15%とされています517。
【保存版】治療法選択のための徹底比較表
数ある治療法の中から最適なものを選択するため、それぞれの特徴をまとめた比較表を作成しました。これは、医師と治療方針を相談する際の重要な資料となります。
治療法 | 手技の概要 | 理想的な対象 | 治癒期間の目安 | 再発率の目安 | メリット | デメリット | 日本での普及度 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
切除・開放療法 | 病巣を切除し、傷を開いたまま自然治癒を待つ。 | 複雑・再発症例。 | 非常に長い (35-70日以上)3 | 5-35% (幅あり)3 | 手技が単純、感染リスクが低い。 | 処置の負担大、治癒が遅い、QOL低下。 | 実施されている。 |
一次縫合閉鎖 | 切除後、正中線上で傷を縫合する。 | (非推奨) | 短い(問題なければ) | 高い (15-45%)3 | (特になし) | 創部離開・再発率が非常に高い。 | 国際的に非推奨34 |
皮弁術 | 切除後、皮弁で覆い臀裂を浅くする。 | ほとんどの慢性期、特に再発症例。 | 比較的短い (2-4週) | 低い (0-6%)3 | 再発率が最も低い、根治性が高い。 | 侵襲が大きい、専門的な技術が必要。 | 専門施設で実施。 |
造袋術 | 切開し、嚢胞壁と皮膚を縫合し浅い開放創にする。 | 大きな病巣、再発症例。 | 開放療法より短い。 | 低い (0-10%)15 | 治癒が早い、再発率が低い。 | 創傷処置が必要。 | 専門施設で実施、良好な報告あり15。 |
内視鏡手術 (EPSiT) | 内視鏡で内部を掻爬・焼灼する。 | 未手術、複雑でない再発症例。 | 短い (約3-5週)3 | 4-8%3 | 低侵襲、痛みが少ない、日帰り可能。 | 新しい手技、実施施設が限定的、費用。 | 一部の専門施設で導入。 |
レーザー治療 | レーザーで内部から焼灼・閉鎖する。 | 未手術、複雑でない再発症例。 | 短い (約4-7週)17 | 3-15%5 | 最小侵襲、痛みが少ない、日帰り可能。 | 新しい手技、長期データ蓄積中、費用。 | 一部の専門施設で導入。 |
※治癒期間や再発率は、患者の状態や研究報告によって変動します。あくまで目安としてご参照ください。
第6章:手術後の生活と再発予防
手術が成功しても、毛巣洞との戦いは終わりではありません。術後の適切なケアと、長期的な再発予防策が極めて重要です。
術後ケアのポイント
術後のケアは選択された術式によって大きく異なりますが、共通する一般的な注意点は以下の通りです。
- 清潔の保持: 医師の指示に従い、シャワー浴などで創部を清潔に保ちます。
- 創部への負担を避ける: 長時間座ることや、創部に強い圧力がかかるような運動は、治癒が完了するまで避ける必要があります。
- 禁煙: 喫煙は血流を悪化させ、創傷治癒を著しく妨げるため、術前術後は禁煙が強く推奨されます。
再発させないための長期的な対策
毛巣洞は、その原因が「毛髪の侵入」にあるため、再発予防には臀部の毛を管理することが最も効果的です。ドイツのガイドラインでは、レーザー脱毛(医療脱毛)が再発予防に有効である可能性が示唆されており、推奨されています3。レーザー脱毛により、原因となる硬い毛を永久的に減らすことで、毛髪が皮膚に侵入するリスクを根本的に低減させることが期待できます。その他、体重管理や臀部を清潔に保つといった生活習慣の改善も再発予防に繋がります。
第7章:よくある質問(FAQ)
毛巣洞に関して、患者さんから寄せられることの多い質問にお答えします。
Q1. 毛巣洞は自然に治りますか?
Q2. 手術は痛いですか?入院は必要ですか?
Q3. 治療にかかる費用はどのくらいですか?保険は適用されますか?
Q4. 仕事や学校はどのくらい休む必要がありますか?
Q5. もし再発してしまったら、どうすればいいですか?
Q6. 傷跡は目立ちますか?
結論と専門医からのメッセージ
毛巣洞は、その診断の難しさと治療の複雑さから、多くの患者さんを長年苦しめる疾患です。しかし、本記事で解説したように、その病態は解明されつつあり、治療法も着実に進歩しています。従来法の問題点を克服した皮弁術は根治への道を大きく開きましたし、レーザーや内視鏡といった低侵襲治療は、患者さんの負担を軽減する新たな希望となっています。
最も重要なことは、お尻のしこりや痛みを「いつものこと」と放置せず、早期に専門医の診察を受けることです。そして、ご自身の状態やライフスタイルに合った最適な治療法を、医師と十分に話し合って決定することです。毛巣洞の診断と治療には、大腸肛門外科や形成外科の高度な専門知識が求められます。この記事で得た知識を羅針盤として、信頼できる専門医と共に、根治への確かな一歩を踏み出してください。
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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