この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。
- 日本眼科学会 (Japanese Ophthalmological Society – JOS): 本記事における感染性角膜炎に関する指導、特にコンタクトレンズ装用に関連する危険因子や診断・治療の基準に関する記述は、同学会が発行した「感染性角膜炎診療ガイドライン」に基づいています1。
- 米国眼科学会 (American Academy of Ophthalmology – AAO): 細菌性角膜炎に関する国際的な診療基準や症状の解説は、同学会が定める「細菌性角膜炎優先診療パターン」を参考にしています2。
- 欧州皮膚科学フォーラム (European Dermatology Forum – EDF): 帯状疱疹ウイルスによる眼疾患(眼部帯状疱疹)の治療に関する記述は、欧州の専門家によるコンセンサスに基づくガイドラインに基づいています3。
- 米国国立医学図書館 (National Library of Medicine – StatPearls): 急性緑内障発作や眼の神経因性疼痛など、緊急性の高い疾患や特殊な病態に関する解説は、同館が提供する査読済み医学文献データベースの情報を基にしています45。
要点まとめ
- 片目の痛みには、コンタクトレンズの使用が原因となる感染性角膜炎や、失明の危険がある急性緑内障発作など、多様な原因が存在します。
- 突然の激しい痛み、頭痛・吐き気を伴う、急な視力低下などの症状は、直ちに医療機関を受診すべき危険なサインです。
- 診断の手がかりとして、目が充血している「目が赤い」場合と、充血していない「目が赤くない」場合で、考えられる病気は大きく異なります。
- 自己判断で市販の目薬を使用する前に、特に痛みが続く場合や他の症状を伴う場合は、必ず眼科専門医の診察を受けることが極めて重要です。
緊急!これらの症状があれば、すぐに救急外来または眼科へ
片目の痛みの中には、迅速な治療がなければ視力に永続的なダメージを与えかねない、医学的な緊急事態を示すものがあります。以下の症状が一つでも当てはまる場合は、自己判断で様子を見るのではなく、直ちに救急外来を受診するか、時間外対応のある眼科専門医に連絡してください。
症状 | 考えられる病気 | 推奨される行動 |
---|---|---|
突然の激しい目の痛み、頭痛、吐き気、目がかすむ、光の周りに虹の輪が見える | 急性緑内障発作6 | 直ちに救急外来を受診 |
目に化学薬品が入った | 眼化学熱傷(化学薬品によるやけど) | すぐにきれいな流水で15分以上目を洗い続け、その後救急外来へ |
コンタクトレンズ装用中の激しい痛み、充血、光をまぶしく感じる | 角膜潰瘍2 | 24時間以内に眼科を受診 |
突然、視野の一部が欠ける、またはカーテンがかかったように見えなくなる | 網膜中心動脈閉塞症または網膜剥離76 | 直ちに救急外来を受診 |
あなたの症状は?「目が赤い」か「赤くない」か
痛みの原因を特定する上で、目が充血しているかどうかは非常に重要な手がかりとなります。この臨床的なアプローチは「充血した目(red eye)」対「静かな目(quiet eye)」として知られており8、ご自身の状態を理解するのに役立ちます。ここでは、この分類に従って考えられる主な病気を解説します。
A. 目が赤く、痛みを伴う場合
目の表面に明らかな炎症や感染が起きている可能性が高い状態です。
1. 感染性角膜炎
感染性角膜炎は、目の黒い部分(角膜)に細菌やウイルス、真菌、アメーバなどが感染して炎症を起こす病気です。特にコンタクトレンズ装用者に多く見られ、片目の痛みを伴う充血の最も一般的かつ危険な原因の一つです。早期の診断と治療が、角膜の瘢痕化や視力低下といった深刻な合併症を防ぐ鍵となります。
- 主な症状: 痛み、異物感(ゴロゴロする感じ)、充血、光への過敏(羞明)、涙が出る、目やにが増えるといった症状が現れます9。
- 最大の危険因子: 日本眼科学会が2023年に公開した「感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版)」では、コンタクトレンズの使用が最も重要な危険因子であると明確に指摘されています1。特に、レンズを装用したまま眠ることや、不適切なレンズケアは感染の危険性を著しく高めます。米国眼科学会(AAO)も同様の警告を発しています2。
- 原因となる病原体: 細菌が最も一般的ですが、アメーバの一種であるアカントアメーバによる角膜炎は、激しい痛みを引き起こすことで知られています10。
2. ぶどう膜炎
ぶどう膜炎は、目の中にある「ぶどう膜」という組織に炎症が起こる病気です。目の痛みや充血だけでなく、全身の自己免疫疾患のサインである可能性もあります。
- 主な症状: 鈍い痛み、充血(特に黒目の周りが赤くなる「毛様充血」)、羞明、かすみ目、飛蚊症(黒い点が飛んで見える)などが特徴です11。
- 全身疾患との関連: 関節リウマチやサルコイドーシスといった自己免疫疾患が原因でぶどう膜炎が発症することがあります9。原因を特定するため、東京大学医学部附属病院12のような専門施設では、目の中の液体を採取して遺伝子検査を行うなど、高度な診断が必要となる場合があります。
3. 強膜炎
強膜炎は、目の白目部分(強膜)の深層に起こる重度の炎症です。しばしば激しい痛みを伴います。
- 特徴的な痛み: 「えぐられるような」「突き刺すような」と表現されるほどの深部の激しい痛みが特徴で、顔面に放散したり、夜間や目を動かしたときに悪化したりすることがあります911。
- 自己免疫疾患との関連: 約半数の症例で、関節リウマチなどの全身性の自己免疫疾患が背景にあると報告されています9。
B. 目は赤くないが、痛みを伴う場合
痛みの原因が目の表面ではなく、より深い場所や神経に由来する可能性が考えられます。これらの状態は診断がより難しいことがあります。
1. 視神経炎
視神経炎は、目と脳をつなぐ視神経に炎症が起こる深刻な神経系の病気です。目の奥の痛みを引き起こし、特に多発性硬化症(MS)の初期症状として現れることがあります。
- 典型的な症状: 2015年に医学雑誌『Deutsches Ärzteblatt International』に掲載された系統的レビューによると、視神経炎患者の92%が目を動かすと痛みが悪化するという特徴的な症状を経験します13。これに加え、数日間で急速に視力が低下し、色の見え方が「色あせて」見える(特に赤色)ようになります。
- 多発性硬化症との関連: 視神経炎は、若年成人の多発性硬化症の最初の兆候であることが非常に多いです14。そのため、視神経炎と診断された場合は、脳のMRI検査など追加の評価が不可欠です。
2. 眼精疲労と関連疾患
眼精疲労は、生命を脅かすものではありませんが、現代社会において目の奥の鈍い痛みを引き起こす非常に一般的な原因です。特に、VDT(Visual Display Terminal)症候群として知られる、デジタル機器の長時間使用が背景にあります。
- 「疲れ目」と「眼精疲労」の違い: 「疲れ目」は十分な休息で改善しますが、「眼精疲労」は休息をとっても改善せず、目の痛み、かすみ、頭痛、肩こり、全身の倦怠感などの症状が慢性的に続く状態を指します15。
- 主な原因: 長時間のパソコンやスマートフォン作業、度の合わない眼鏡やコンタクトレンズの使用、ドライアイなどが挙げられます。
3. 眼窩・神経系の痛み
目の周りの痛みが、必ずしも眼球自体から生じているとは限りません。近接する構造からの関連痛である可能性があります。
- 副鼻腔炎: 鼻の周りにある空洞(副鼻腔)の炎症により、眉間や目の周りに重苦しい痛みを感じることがあります。
- 片頭痛: ズキズキと脈打つような痛みが特徴で、しばしば光や音への過敏、吐き気を伴います。
- 群発頭痛: 片方の目の奥を「えぐられるような」と表現される、耐え難いほどの激しい痛みが特徴です。
- 眼の神経因性疼痛: 角膜の神経が過敏になることで、明らかな傷や炎症がないにもかかわらず、焼けるような、あるいは刺すような慢性的な痛みを感じる状態です。「pain without stain(染色のない痛み)」とも呼ばれ、専門的な診断が必要です5。
よくある質問
ストレスで目は痛くなりますか?
はい、直接的な原因ではありませんが、ストレスは痛みを悪化させる要因となり得ます。ストレスは筋肉の緊張を高め、眼精疲労や緊張型頭痛を誘発し、結果として目の痛みとして感じられることがあります。ただし、ストレスが感染症や緑内障のような器質的な疾患を引き起こすわけではありません。
痛いとき、自分でできる応急処置は?
原因によって対処法は全く異なります。眼精疲労が原因と思われる場合は、目を休ませる、蒸しタオルで温める、部屋の照明を適切に調整するなどの対策が有効です15。しかし、絶対に目をこすらないでください。異物感や化学薬品の混入が疑われる場合、または痛みが激しい場合は、自己判断で対処せず、直ちに眼科医の診察を受けてください。不適切な自己処置は状態を悪化させる危険があります。
子供の片目が痛い場合はどうすればいいですか?
子供は症状を正確に表現できないことがあります。お子さんが目の痛みを訴えたり、頻繁に目をこすったり、光をまぶしがったり、充血したりするなどの兆候が見られた場合は、いかなる場合でも速やかに眼科専門医の診察を受けることが重要です。深刻な問題や視力発達への影響を未然に防ぐため、早期の対応が求められます。
どのタイミングで病院へ行くべきですか?
結論
片目の痛みは、決して軽視してはならない重要な健康のサインです。その原因は、十分な休息で改善する眼精疲労から、迅速な介入を怠れば恒久的な視力喪失につながる急性緑内障発作や角膜潰瘍まで、極めて広範囲にわたります。最も重要なことは、自身の症状を客観的に観察し、特に本記事で紹介した「危険なサイン」に該当する場合には、躊躇なく専門医の助けを求めることです。正確な診断は、専門的な診察と検査によってのみ可能です。この記事が、皆様の目の健康を守るための一助となることを心より願っています。
参考文献
- 日本眼科学会. 感染性角膜炎診療ガイドライン(第3版). 2023. [インターネット]. [引用日: 2025年7月18日]. Available from: https://www.nichigan.or.jp/member/journal/guideline/
- American Academy of Ophthalmology. Bacterial Keratitis Preferred Practice Pattern. 2023. [Internet]. [cited 2025 Jul 18]. Available from: https://www.aao.org/education/preferred-practice-pattern/bacterial-keratitis-ppp-2023
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