外痔核（いぼ痔）のすべて：症状・原因から市販薬、手術、費用まで専門医が徹底解説

このためらいは十分に理解できるものですが、専門家の助けを求めることを遅らせると、状態が悪化し、後の治療がより複雑になる可能性があります³。この記事の目的は、あなたに包括的で正確、かつ確固たる科学的根拠に基づいた情報源を提供することです。私たちは、外痔核の定義、症状、原因、自宅でできるセルフケアの選択肢から、専門的な医療、そして関連費用に至るまで、あらゆる側面を一緒に探求していきます。

本稿は、国内外の主要な医学会の最新の診療指針に基づき、専門の医師による評価を経て構成されています。この情報が、ご自身の健康について賢明な決断を下し、あなたにふさわしい安らぎを見出す一助となることを心から願っています。

外痔核とは？内痔核との違いと原因

「痔」とは、肛門周辺の問題を指す一般的な言葉です。その中でも「痔核（じかく）」、通称「いぼ痔」は最も一般的なタイプで、肛門の病気の半数以上を占めると言われています³⁸。痔核は、できる場所によって「内痔核」と「外痔核」の2つの主要なタイプに分類されます。

外痔核と内痔核の基本的な違い

内痔核と外痔核の根本的な違いは、肛門管内部にある「歯状線（しじょうせん）」と呼ばれる解剖学的な境界線のどちら側にできるかという点にあります¹²。

• 外痔核 (External Hemorrhoids): 歯状線より下に、肛門の縁の敏感な皮膚部分にできます。この皮膚には痛覚神経が豊富に通っているため、外痔核は通常、はっきりとした痛みの症状を引き起こします⁴⁰。
• 内痔核 (Internal Hemorrhoids): 歯状線より上に、直腸の粘膜内にできます。この粘膜部分には痛覚神経がないため、初期段階の内痔核は通常痛みを伴いません。内痔核の主な症状は、痛みのない出血や排便時の脱出（脱肛）です。痛みは、内痔核が脱出して戻らなくなり、締め付けられた状態（嵌頓痔核）になった場合にのみ現れます⁴¹。

この違いを正しく理解することは、自身の状態を把握し、適切な治療法を選択するための最も重要で最初のステップです。

外痔核の主な症状

外痔核の症状は、痛みと肛門の外側にできる腫瘤感によって、比較的認識しやすいことが多いです。

• 痛みと腫れ: これは最も特徴的な症状です。特に座っている時や排便中に痛みを感じることがあります。肛門の縁に触れると、柔らかく腫れたしこりを一つまたは複数感じることがあります¹。
• 血栓性外痔核: これは外痔核の急性の、そして非常に痛みを伴う状態です。痔核内に血の塊（血栓）が形成されることで起こり、突然の激しい痛みと、肛門の縁に硬く、暗紫色の腫れを引き起こします²。これが、患者が緊急で医療機関を受診する主な理由となることがよくあります。
• かゆみと刺激感: 肛門周囲の皮膚がかゆくなったり、ヒリヒリしたりすることがあり、清潔を保つのが難しくなることがあります⁴²。
• 出血: 外痔核も出血することがありますが、通常は内痔核に比べて少量です。血液は鮮やかな赤色で、拭いた後のトイレットペーパーに付着することが多く、便器に滴り落ちることは稀です⁴²。

なぜ外痔核になるのか？主な原因とリスク要因

外痔核は、肛門周辺の静脈にかかる圧力が増加し、それが腫れて拡張することによって形成されます。主な原因とリスク要因には以下のものが含まれます。

• 排便習慣: 慢性的な便秘や長引く下痢が最も一般的な原因です。排便時に強くいきむことは、肛門の静脈への圧力を著しく高めます²。
• 生活習慣:
  • 長時間の座位・立位: オフィスワークや長時間の立ち仕事に従事する人々は、骨盤周辺に血液がうっ滞しやすいため、リスクが高まります²。
  • トイレでの長居: トイレで読書をしたりスマートフォンを使用したりする習慣は、肛門部が圧力を受ける時間を長くします¹⁷。
  • 過度な運動: 重い物を頻繁に持ち運んだり、高強度の運動をしたりすると、腹圧が上昇し、肛門の静脈に影響を与える可能性があります²。
• 食生活: 食物繊維の少ない食事や不十分な水分摂取は、便を硬くし、排便を困難にして強くいきむ原因となります⁴⁴。香辛料の多い食事やアルコールの過剰摂取も、症状を悪化させる可能性があります²。
• 妊娠と出産: 胎児の重みが骨盤内の静脈に圧力をかけ、また、分娩時のいきみも女性にとって大きなリスク要因となります³。
• その他の要因: 加齢により肛門周辺の支持組織が弱くなることや、遺伝的な要因も一定の役割を果たすことがあります⁴⁷。

まずは自分でできることから：市販薬と生活習慣の改善

軽度から中等度の外痔核の症状に対しては、生活習慣の変更と市販薬（OTC医薬品）の使用を組み合わせることで、多くの場合、顕著な効果が得られます。これは最初の防衛線であり、長期的な疾患管理の基盤となります。

生活習慣の見直し：再発予防の鍵

生活習慣の改善は、現在の症状を和らげるだけでなく、再発を防ぐための最も重要な手段です。国内外の診療ガイドラインは、以下の対策の重要性を強調しています。

• 食事における食物繊維の強化: 食物繊維は便を柔らかくし、その量を増やすことで、排便を容易にし、いきむ必要性を減らします。1日に25グラムから35グラムの食物繊維を摂取することを目標とします¹⁸。食物繊維が豊富な食品には、緑黄色野菜、果物（リンゴ、梨、ラズベリー）、豆類、全粒穀物などがあります¹⁸。腹部膨満感を避けるため、食物繊維の摂取は徐々に増やすべきです⁵¹。
• 十分な水分摂取: 1日に6杯から8杯の水または他の液体（アルコールを含まない）を飲むことは、食物繊維が効果的に機能するために不可欠です⁵⁰。
• 健康的なトイレ習慣の確立: 便意を感じたらすぐにトイレに行き、我慢しないようにしましょう。強くいきんだり、息を止めたりすることは避けてください。特に、便座に長時間座り続けないことが重要です²。
• 座浴（Sitz bath）: 温かいお湯（何も加える必要はありません）に肛門部を10分から15分ほど浸します。これを1日に2〜3回行うことで、痛みを和らげ、腫れを抑え、刺激された部分を鎮静させるのに非常に効果的です²。
• 衛生管理と適度な運動: 常に肛門部を清潔で乾燥した状態に保ちましょう。重量挙げなど、肛門部に圧力をかける過度なスポーツは避けてください。アルコールや香辛料の多い食事は症状を悪化させる可能性があるため、一時的に控えましょう²。

市販薬（OTC医薬品）の上手な選び方と使い方

日本の市販痔疾用薬市場は非常に多様です。症状に適した薬を正しく選ぶことが非常に重要です。

• 主な剤形: 主に軟膏、坐薬、注入軟膏、内服薬の4つの剤形があります¹¹。
• 外痔核への選択: 外痔核は肛門の外側にあるため、軟膏が最も適しており、効果的です。患部に直接塗布することで、局所的な痛み、腫れ、炎症を和らげます³。注入軟膏を外用に使うことも可能です。
• 有効成分の分析:
  • ステロイド: プレドニゾロン酢酸エステルやヒドロコルチゾン酢酸エステルなどの成分は強力な抗炎症作用を持ち、腫れ、かゆみ、出血を効果的に抑えます⁵²。市販薬には通常、弱いランクのステロイドが含まれており、短期間（通常10日以内）の使用であれば安全とされています³。
  • 局所麻酔成分: リドカインは一般的な成分で、患部を一時的に麻痺させることで、痛みやかゆみを迅速に緩和します⁸。
  • 血管収縮剤: 塩酸テトラヒドロゾリンは、腫れ上がった血管を収縮させる作用があり、腫れを抑え、出血を止めるのに効果的です。急な出血症状に特に有用です⁵³。
  • その他の支援成分: アラントインは傷の治癒と組織の修復を促進し、ビタミンE（トコフェロール酢酸エステル）は局所の血行を改善し、うっ血状態を緩和します⁸。
• 使用上の重要な注意: 外用薬は通常、7日から10日程度の使用が推奨されます。この期間を過ぎても症状が改善しない、あるいは悪化する場合には、使用を中止し、医師の診察を受ける必要があります¹。

利用者が賢明な選択を下せるよう、以下の比較表では、成分と使用目的に基づいて一般的な製品を分析しています。

病院へ行くべき？受診の目安と診療科の選び方

多くの外痔核は自宅で管理できますが、タイムリーな受診のための警告サインを認識することは非常に重要です。これは、より効果的な治療を可能にするだけでなく、他の深刻な病状を除外するためでもあります。

専門医への相談を検討すべきサイン

以下のいずれかの状況に当てはまる場合は、専門医の診察を受けるべきです。

• 自宅での治療が効果ない: 市販薬の使用と生活習慣の変更を1週間続けても症状が改善しない¹。
• 激しい痛みと大きな腫れ: 重度で持続的な痛み、または肛門の腫れが日に日に大きくなり、引かない場合。特に血栓性外痔核の症状¹。
• 異常な出血: 出血が長引く、量が多い、または血液が黒っぽい、便に混じっている場合。これは上部消化管の問題の兆候である可能性があります³。

スクリーニングに関する重要な警告
直腸からのいかなる出血も、慎重な医学的評価が必要です。特に、40歳以上の方や、大腸がんの家族歴などのリスク要因がある方の場合、悪性疾患を除外するための内視鏡検査が非常に重要であり、国際的な医学ガイドラインでも推奨されています⁴⁴。

何科を受診すればいい？

適切な診療科を選ぶことで、最も正確な診断と治療を受けることができます。

• 第一選択: 肛門科または肛門外科が、肛門・直腸領域の疾患に関する最も専門的な診療科です³。ここの医師は、効果的な診断と治療のための経験と専門的な設備を備えています。
• 代替選択: 近くに肛門専門のクリニックがない場合は、消化器外科または外科を受診することもできます³。
• 特別な場合: 妊娠中や産後の痔に悩む女性の場合、一部の産婦人科でも初期の相談や治療を提供していることがあります³。

診察への不安を乗り越えるために

恐怖心や羞恥心は大きな心理的障壁です。診察の流れを理解することで、これらの不安を和らげることができます。

• 診察の体位: 患者は通常、診察台に横向きに寝て、膝を胸に引き寄せる体位（シムス位）をとります。医師はあなたの背中側に位置するため、対面での接触が最小限に抑えられ、気まずさが軽減されます。専門クリニックでは、患者のプライバシーを最大限に確保するために、タオルなどで適切に体を覆う配慮がなされています³⁰。
• 女性医師の検索: 多くの女性は、女性医師による診察をより快適に感じます。現在、女性医師が在籍するクリニックや、女性専用の診察日・時間帯を設けているクリニックが増えています³¹。これらの情報はクリニックのウェブサイトなどで検索できます。
• 医師の専門的な態度: 肛門科の専門医にとって、この領域の疾患の診察と治療は日常業務です。彼らはこれらの問題をプロフェッショナルかつ敬意をもって、偏見なく扱うように訓練された専門家です³⁰。早期に受診することは、あなたが自身の健康に責任を持っている証です。

専門医による治療法：日帰り手術から入院まで

セルフケアで効果が不十分な場合、専門医は医学的な治療法を提案することがあります。どの方法を選択するかは、痔の種類、症状の重症度、および患者の全体的な健康状態によって決まります。

保存的治療と外来処置

市販薬より強力な薬を処方する以外に、医師はクリニックでいくつかの低侵襲な処置を行うことがあります。これらは主に内痔核に対して行われますが、全体像を理解するために知っておくべきです。これらの処置には、ゴム輪結紮療法、硬化療法（注射療法）、赤外線凝固法などがあります³。これらの方法は、症状のある外痔核には通常直接適用されません。

外痔核の手術：いつ、どのような方法が選ばれるか

手術は通常、外痔核が激しい痛みを引き起こす場合、内科的治療に反応しない重症例、または血栓性外痔核の場合に適用されます。

• 血栓摘出術 (Thrombectomy): これは血栓性外痔核に対して行われる小さな処置です。医師は局所麻酔を行い、痔核に小さな切開を加えて血栓を取り除きます。この処置はほぼ即座に痛みを緩和し、通常、症状が現れてから最初の48〜72時間以内に行うことが推奨されます²。
• 結紮切除術 (Hemorrhoidectomy): これは重症または再発性の外痔核を治療するための「ゴールドスタンダード」と見なされる最も根治的な方法です³。外科医が余分な痔核組織を完全に切除します。
  • 利点: 再発率が非常に低く、問題を根本的に解決します³。
  • 欠点: 術後の痛みが最大の懸念事項です。回復には休養期間が必要で、数日間の入院が必要になる場合もあります³。

近年注目の低侵襲治療：ALTA療法とは？

ALTA療法（ジオン注射）は、硫酸アルミニウムカリウム水和物・タンニン酸を有効成分とする硬化療法剤を用いた治療法です。これは日本の痔治療における革命的な進歩であり、主に脱出を伴う内痔核に適応されます⁴³。

• メカニズム: 薬剤が内痔核の根元に注射され、炎症と線維化を引き起こすことで、痔核を収縮させ、直腸壁に癒着させます。これにより、痔核の脱出がなくなります³。
• 外痔核への応用: ALTAは激しい痛みを引き起こすため、外痔核に直接注射されることはありません。しかし、内外痔核（内痔核と外痔核の合併）の場合に、外痔核の切除手術と組み合わせて用いられることがよくあります。医師は外痔核部分を切除し、内痔核部分にALTAを注射します³。
• 利点: 従来の切除手術に比べて痛みが大幅に少なく、回復期間も短く、多くの場合日帰り手術として実施できます³⁵。
• 欠点: 切除手術に比べて再発率が高い、特に長期的に見るとその傾向があります。一部の研究では、ALTA後の再発率は時間とともに10〜16%以上に達する可能性があるのに対し、切除手術の再発率は約1〜2%に過ぎないと報告されています⁴³。

これらの多様な治療選択肢の存在は、患者が慎重に検討する必要がある状況を生み出します。彼らは、根治的だが痛みを伴う方法（切除手術）と、痛みは少ないが再発リスクが高い方法（ALTA療法）との間でトレードオフに直面します。この記事の役割は、「どちらが最善か」という単一の答えを提示するのではなく、患者と医師が共同で意思決定を行うプロセスを支援するために、明確で客観的な情報を提供することです。

治療費はどのくらい？保険適用の範囲

良いニュースとして、手術を含む痔の診断と治療のほとんどは、日本の国民健康保険の適用対象となります⁶。患者は通常、費用の一部（年齢や所得に応じて通常1割、2割、または3割）を支払うだけで済みます。
以下は、自己負担割合3割の患者を想定した参考費用です。

• 日帰り手術: 手術の複雑さ（血栓摘出術、結紮切除術など）に応じて、費用は20,000円から60,000円程度で変動します⁷。
• ALTA療法（ジオン注射）: この手技の費用は、通常15,000円から30,000円程度です⁶⁴。
• 入院を伴う手術: 数日から1週間の入院が必要な複雑な手術の場合、保険適用後の総費用は、手術費、ベッド代、その他のサービスを含めて100,000円から200,000円、あるいはそれ以上になることがあります⁶。

以下の比較表は、主要な外科的治療法間のトレードオフをより深く理解するのに役立ちます。

治療後の生活と再発予防

治療の成功は大きな安堵をもたらしますが、戦いはまだ終わりではありません。再発の予防は、健康的な生活習慣を維持するという長期的なコミットメントを必要とします。
前述の生活習慣に関するすべてのアドバイス—食物繊維の豊富な食事、十分な水分補給、良い排便習慣、適度な運動—は、生涯にわたって一貫して維持されるべきです。日本大腸肛門病学会のガイドラインは、便秘や下痢のコントロールができないことが再発の主な原因であると強調しています⁴³。
治療が成功した多くの患者は、生活の質（Quality of Life – QOL）が著しく改善したと報告しています³⁶。彼らはもはや持続的な痛み、出血の不便さ、あるいは不安や羞恥心に苦しむことはありません。ある患者は血栓摘出術後にこう語っています。「切除後の生活は本当に楽になりました…。今までの悩みが嘘のように消え、本当に快適な排便ができています」³⁴。また、ALTA療法を受けた別の患者は、「一番うれしかったのは、脱肛がなくなったこと、そして排便がすごく楽になったことです」と喜びを語っています³⁵。
これらの体験談は、治療の過程が困難であるかもしれませんが、最終的な結果はそれに見合う価値があることの力強い証明です。

よくある質問

結論

外痔核は一般的な疾患でありながら、多くの人が口に出せずに悩んでいます。しかし、本記事で解説したように、その原因と対処法は明確です。

軽度な症状であれば、食物繊維を豊富に含む食事、十分な水分摂取といった生活習慣の改善と、適切な市販薬の使用でコントロールが可能です。しかし、自己判断で放置することは禁物です。1週間経っても改善しない、耐えがたい痛みがある、出血が続くといったサインは、専門家による介入が必要な合図です。特に、出血は他の深刻な消化器疾患の可能性も示唆するため、決して軽視してはいけません⁴⁴。

幸いなことに、現代の医療には、痛みの少ない日帰り治療から根治を目指す手術まで、個々の症状とライフスタイルに合わせた多様な選択肢があります。その多くは健康保険の適用範囲内であり、経済的な負担も考慮されています。

私たちが最も伝えたいメッセージは、「一人で抱え込まないでください」ということです。羞恥心は克服すべき現実的な障壁ですが、あなたの健康は何よりも大切です。専門医への相談は、不快な日常から解放され、生活の質を取り戻すための、勇気ある最も重要な一歩なのです。