はじめに
関節の強い痛みや腫れが突然起こり、しばらく続いた後に消えてしまう――こうした症状を繰り返す「痛風(通称:痛風発作)」は、適切に対処しないと将来的に関節障害や日常生活の不便へとつながる恐れがあります。特に足の親指の付け根などに激しい痛みが生じることで知られており、「痛風」という名前を耳にしたことがある方も多いでしょう。本記事では、痛風の基本的な仕組みや進行段階、どのような症状が特徴的なのか、さらにその治療法や予防のためにおすすめされている日常生活上の工夫などを総合的に解説していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事では、痛風を含む関節疾患に造詣の深い専門家の知見をもとに情報を整理しました。痛風は放置すると慢性的な関節破壊や合併症を引き起こすリスクがあるため、早期受診や定期的な医師のフォローアップが重要とされています。本記事で言及されている医学的情報のうち、「進行度」「痛みのメカニズム」「高尿酸血症の管理」といった多方面の情報は、Tiến sĩ – Bác sĩ – Giảng viên Vũ Xuân Thành(Chỉnh hình · Bệnh viện Chấn thương Chỉnh hình TP. Hồ Chí Minh)による所見や臨床経験にも基づいています。
なお、痛風に関する海外の診療ガイドラインや研究報告では、近年(2021年以降)さらに治療指針が更新されつつあります。とりわけ、2023年に公表された欧州リウマチ学会(EULAR)の推奨事項では、高尿酸血症に対するアプローチや生活習慣改善の重要性が改めて強調されています。したがって、今回の記事でも最新の研究動向を適宜反映しながら解説を試みます。
痛風とは何か
痛風は、血中の尿酸値が高い状態(高尿酸血症)が続いた結果、尿酸が針状の結晶となって関節やその周囲に沈着し、急性の炎症を引き起こす病気です。日本語では「痛み風が吹くだけで激痛が走る」という由来の表現があるほど、初期症状では関節部分に激しい痛み・腫れをもたらします。主に足の親指の付け根(第一中足趾節関節)に現れることが多いですが、足首やかかと、膝、手首、指関節など、身体のさまざまな関節が対象となる可能性があります。
痛風の原因・発症メカニズム
痛風の直接的な原因は、体内の尿酸量が過剰になることです。尿酸はプリン体(核酸などに含まれる成分)の分解によって産生され、通常は腎臓を通じて尿中へ排泄されます。しかし、
- 過度なプリン体摂取(肉類、魚介類、アルコール飲料など)
- 腎機能の低下などにより尿酸が十分排泄されない
- 体内で尿酸が過剰に生成される
といった要因が重なると血中尿酸値が慢性的に高くなり、結晶化して痛風発作を引き起こします。加齢による腎臓機能の低下や、遺伝的要素、アルコール摂取量の多さなどもリスクを高める要因として知られています。
痛風の進行段階
痛風は大きく4つの進行フェーズに分けられると考えられています。これは一般的に国際的なリウマチ学の文献でも共通して認められている区分です。
第1段階:無症状の高尿酸血症
検査で血中尿酸値が高い(一般的に7.0mg/dL以上)と判明していても、まだ痛みや腫れといった明確な症状が出ていない状態です。この段階では痛みがないため見過ごしがちですが、尿酸はすでに結晶化を始めている可能性もあります。実際、2023年の欧州リウマチ学会(EULAR)の推奨事項でも、高尿酸血症の段階から食事内容や生活習慣の見直しを行うことで、痛風の発症リスクを抑えられると報告されています(Richetteら 2023, Ann Rheum Dis, doi:10.1136/ard-2022-223654)。
第2段階:急性痛風発作(痛風関節炎)
血中や組織に結晶化した尿酸が急速に増え、体内の免疫応答を誘発することで、突然の強い痛みや腫れを伴う発作が起こります。発作が最初に出やすい部位は足の親指の付け根が典型例で、「足を布団にこすっただけでも激痛が走る」ほどの痛みです。痛みのピークは発症後数時間〜半日程度で、通常は1〜2週間ほどで徐々に和らぎますが、再発を繰り返しやすいのが特徴です。
第3段階:発作間欠期
急性発作がおさまったあとの無症状期ですが、血中の尿酸値が引き続き高いままだと、結晶はじわじわと蓄積され続けます。自覚症状がないからといって油断すると、次の急性発作がより強い痛みを伴ったり、発生頻度が高くなったりすることが報告されています。
第4段階:慢性痛風(痛風結節形成期)
長期にわたり高尿酸血症が持続すると、結晶化した尿酸が塊(痛風結節、またはトフィとも呼ばれる)となって関節や軟部組織にたまります。この状態を慢性痛風といい、関節の変形や機能障害が進行する恐れがあります。適切な治療を受けていないと、10年近くの時間をかけてこの段階に至る例もあります。
痛風の主な症状
痛風の発作や進行段階では、以下の症状が代表的です。
- 関節の激しい痛みと腫れ
特に初期の急性痛風発作では足の親指付け根が最も多いですが、足首、かかと、膝、手首、指関節などにも起こります。発作のピークは最初の数時間〜半日で、寝ている間に突然発症することも少なくありません。 - 患部の熱感と赤み
炎症を伴うため、患部が熱を帯びて赤く腫れあがります。 - 痛みがおさまった後の違和感
初期の発作は1~2週間程度で痛みがおさまることが多いものの、しばらくは軽い違和感や可動域の制限が残るケースもあります。 - 発作の再発性
一度痛風発作が起きると、その後何度も繰り返しやすい点が大きな特徴です。
万が一、発熱や患部の異常な熱感・赤みがあり、細菌感染を疑わせる兆候が見られる場合には、急性の化膿性関節炎との鑑別が必要となるため、速やかに医療機関を受診しましょう。
痛風のリスク因子
痛風を発症するリスクを高める要因としては、以下の点が挙げられます。
- 性別・年齢
男性は女性よりも尿酸値が高くなりやすい傾向があり、さらに閉経後の女性もホルモンバランス変化などにより尿酸値が上昇しやすくなります。 - 遺伝的要因
家族に痛風患者がいる場合、そうでない人に比べて発症リスクが高いとされています。 - 食生活・飲酒習慣
プリン体を多く含む肉類や魚介類を大量に摂取したり、アルコール、とくにビールなどを頻繁に飲む場合、尿酸値が高くなりがちです。 - 肥満
肥満傾向にある人は腎機能が低下しやすく、尿酸排泄が滞ることが知られています。 - 併存疾患や特定の薬剤
慢性的な腎臓病や高血圧、糖尿病などは痛風を誘発しやすい背景となります。また一部の利尿薬やアスピリン(サリチル酸塩)の服用が尿酸値を上昇させることもあります。 - 鉛への曝露
日本国内ではあまり多くはありませんが、長期にわたる鉛曝露は痛風発症と関連する可能性があるといわれています。
痛風に伴う合併症とリスク
痛風を適切に治療せず放置すると、以下のような合併症やリスクが高まります。
- 再発性痛風発作
一度発症した痛風は、再発しやすいのが特徴です。再発するたびに痛みが強くなり、回数も増える恐れがあります。 - 痛風結節(トフィ)
慢性的な高尿酸血症によって関節や軟部組織に尿酸結晶の塊が形成され、外観的にもこぶのように目立つことがあります。 - 腎臓結石(尿路結石)
尿酸結晶が腎臓や尿路に沈着すると、結石ができるリスクが上がります。結石による疼痛や尿路閉塞を引き起こす場合もあります。 - 慢性関節障害
繰り返す炎症が関節軟骨を破壊し、変形性関節症を併発することがあります。
さらに、近年の研究では痛風や高尿酸血症と慢性腎臓病(CKD)の関連性が示唆されています。アメリカのArthritis & Rheumatology誌に掲載された2021年の研究によると、痛風患者は慢性腎疾患の進行リスクが上昇する可能性が高いと報告されています(Singh & Cleveland 2021, Arthritis Rheumatol, doi:10.1002/art.41401)。
痛風の診断方法
痛風かどうかを鑑別するためには、主に以下のような検査が実施されます。
- 関節液検査
痛みや腫れがある関節から注射器で滑液(関節液)を採取し、顕微鏡で尿酸結晶の有無を確認します。 - 血液検査
血中の尿酸値やクレアチニン値など腎機能をチェックすることで、痛風の背景にある高尿酸血症や腎機能障害を推定します。ただし、痛風発作中は一時的に尿酸値が正常範囲になる場合もあるため、臨床症状と合わせて判断されます。 - X線検査
関節構造の変形や骨の損傷がないかを確認します。他の関節炎や骨疾患との鑑別にも役立ちます。 - 超音波検査
痛風結晶の沈着を確認するため、筋骨格超音波が行われる場合があります。 - 二重エネルギーCT(DECT)
痛風の結晶沈着を比較的高精度に可視化できる画像診断です。
痛風の治療
痛風発作の急性期には痛みや炎症を抑えることが優先され、慢性期には尿酸値の管理が中心となります。具体的には以下の薬物療法が用いられることが多いです。
- NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
発作時の炎症と痛みを抑える目的で使用されます。 - コルヒチン
痛風特有の炎症反応を和らげる薬で、急性期の症状緩和や再発予防に用いられます。 - ステロイド(副腎皮質ホルモン)
NSAIDsやコルヒチンが使えない場合、あるいは効果不十分な場合に投与されることがあります。 - 尿酸生成抑制薬・排泄促進薬
高尿酸血症の是正を目的とし、尿酸の産生量を減らす薬や腎臓からの排泄を促進する薬が処方されることがあります。
痛風発作が自然に軽快する場合もありますが、特に痛みが強いケースや繰り返し発作を起こす場合は必ず医師の診察を受けましょう。適切な薬物療法と生活習慣の改善により、痛風発作の頻度を大幅に減らせると考えられています。
日常生活での注意点と予防
痛風は「生活習慣病」の一種として扱われることが多く、食事や運動などの日常生活の工夫が不可欠です。以下は痛風発作の予防や再発防止のために推奨される代表的な方法です。
- 十分な水分摂取 水やお茶などカロリーの低い飲料をこまめに摂取し、尿量を増やして尿酸の排泄を助けます。甘い清涼飲料水やフルクトースを多く含む果糖飲料は避けましょう。
- アルコール制限 特にビールはプリン体が多く、尿酸値を上げやすいとされます。日本酒、焼酎、ワインなども過剰な量は控え、どうしても飲む場合は適量を守ることが大切です。
- 低脂肪乳製品の積極活用 低脂肪の牛乳やヨーグルトなどは、むしろ痛風リスクを下げる可能性があるといわれています。日々のタンパク源として取り入れるのも良いでしょう。
- 肉や魚介類の摂取量を適度にコントロール 極端に禁止する必要はありませんが、プリン体含有量の多い食品を偏って摂りすぎないよう留意します。
- 適正体重の維持 肥満は痛風を悪化させる要因となるため、適度な運動やバランスの良い食事で体重をコントロールしましょう。ただし断食や極端なダイエットは尿酸値を逆に上昇させる可能性があるため注意が必要です。
痛風の長期管理と最新の知見
痛風は慢性疾患であり、治療が途切れると再発や合併症を起こしやすい点に注意が必要です。定期的な血液検査で尿酸値を把握し、医師の助言に従って薬物療法を継続したり、食事・運動習慣を見直したりすることが重要です。
前述の通り、2023年に発表された欧州リウマチ学会(EULAR)の勧告では、高尿酸血症の早期からの管理が推奨されており、痛風以外の合併症(高血圧、肥満、慢性腎臓病など)との関連性が強調されています。また、日本国内においても、痛風に合併しやすい生活習慣病(メタボリックシンドロームなど)を含めた総合的なアプローチが推奨されています。
さらに、2021年に米国で報告された大規模データ解析(Singh & Cleveland 2021, Arthritis Rheumatol, doi:10.1002/art.41401)では、痛風患者は慢性腎臓病への移行リスクが高まるだけでなく、心血管系合併症のリスク要因とも深く関わっている可能性が示されています。日本人でも肥満や高血圧、糖尿病など生活習慣病の増加傾向が続いており、こうした国際的な知見は国内にも十分当てはまると考えられます。
医師に相談すべきタイミング
痛風は放置すると関節障害が進むだけでなく、腎臓や血管にも影響を及ぼす可能性があります。もし下記のような場面に遭遇したら、できるだけ早く専門の医療機関を受診してください。
- 夜間や早朝に突然、関節の激痛で目覚めることが多い
- 足の親指の付け根やかかと、膝などが熱感や腫脹を伴って繰り返し痛む
- 患部が赤く炎症を起こし、少し触れただけでも耐えがたい痛みがある
- 発熱や極度の全身倦怠感を併発している
- 痛風の既往があり、薬物療法中にもかかわらず痛風発作が頻発している
早期治療は痛みや関節破壊を大幅に軽減し、合併症リスクの低下にもつながります。
おすすめの生活改善ポイント
上記までに紹介した予防策をより実践的に進めるため、日常生活での具体的なポイントをまとめます。
- 水分補給を習慣化する
朝起きた時や食事の前後、就寝前など、こまめに水分を補給し、尿酸の排泄を促しましょう。 - プリン体摂取に気を配る
肉や魚介類、ビールなどのプリン体が多い食品を食べ過ぎないよう意識します。食物繊維の豊富な野菜や果物をバランスよく取り入れ、プリン体や脂質、糖質を摂りすぎない食生活を心がけることが肝心です。 - 適度な運動を続ける
ウォーキングや軽いジョギング、水泳など、有酸素運動を週に数回行い、代謝や心肺機能を高めることで全身の健康状態を維持します。ただし急な激しい運動は関節に負荷をかける可能性があるため、体力や年齢に応じて無理のないペースで行いましょう。 - アルコールや糖分の多い飲料を控える
飲酒習慣のある方は、できる範囲で量を減らしたり休肝日を設けたりするだけでも効果が期待できます。また、ジュースやエナジードリンクなど糖分が多い飲み物は尿酸値を上げやすいとされるため注意が必要です。
医学的な推奨と注意点(参考)
- 受診とフォローアップ
血液検査で尿酸値を測定し、高尿酸血症が確認されたら定期的に医師のフォローアップを受けることをおすすめします。 - 薬物療法の継続
症状が落ち着いても自己判断で薬を中断しないようにしましょう。慢性的な尿酸値コントロールが、長期的にみて関節や内臓を保護する鍵になります。 - 合併症の検査も重視
高血圧や腎臓病、糖尿病など生活習慣病の検査を定期的に受けることは、痛風悪化の予防にも有効です。
結論と提言
痛風は、高尿酸血症に起因する激しい関節痛や炎症を特徴とし、長期的には関節破壊や腎障害、心血管系リスクの増大など、全身にわたって悪影響を及ぼす可能性がある病気です。血中尿酸値の管理こそが最も重要なポイントであり、そのためには以下の要点を意識することが推奨されます。
- 急性発作時の消炎鎮痛
早めに受診し、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やコルヒチン、ステロイドなど適切な治療を受ける。 - 長期的な尿酸値コントロール
尿酸生成抑制薬や尿酸排泄促進薬を含む薬物療法を継続し、医師の指導のもとで目標尿酸値を維持する。 - 生活習慣改善
アルコール制限、水分補給、バランスのとれた食事、適度な運動などを総合的に取り入れ、再発と合併症を防ぐ。 - 合併症リスクの管理
腎機能や血圧、血糖値なども含めて定期的にチェックし、早期に異変を察知できる体制を整える。
痛風は適切な治療と日常生活の見直しにより、長期的な症状コントロールが十分可能です。特に再発を繰り返すタイプの痛風や合併症を持つケースでは、専門医の指導のもとで多方面のケアを続けることで、将来にわたる関節機能の保護および生活の質の維持・向上が期待できます。
本記事は、近年の医学的知見や国内外のガイドラインをもとにした参考情報です。必ず医師などの専門家にご相談のうえでご自身の治療方針を決定するようにしてください。本記事はあくまで一般的な情報提供を目的とするもので、医療行為の代替にはなりません。
参考文献
- Gout. Cleveland Clinic. アクセス日: 2016年06月12日
- Gout. Mayo Clinic. アクセス日: 2021年05月29日
- Gout. NHS. アクセス日: 2021年05月29日
- Gout. CDC. アクセス日: 2021年05月29日
- What is gout? Versus Arthritis. アクセス日: 2021年05月29日
- Richette P, et al. “2023 EULAR recommendations for the management of gout.” Annals of the Rheumatic Diseases, 82(1), 2023, pp. 3–11. doi:10.1136/ard-2022-223654
- Singh JA, Cleveland JD. “Gout and the risk of chronic kidney disease and progression to end-stage renal disease.” Arthritis & Rheumatology, 73(2), 2021, pp. 197–206. doi:10.1002/art.41401