はじめに
男性の精巣(いわゆる「睾丸」)に発生する悪性腫瘍である精巣がんは、15歳から35歳前後の若い男性に比較的多くみられると報告されています。医療の進歩に伴い、精巣がんは早期に発見し適切に治療できれば、非常に高い治癒率が期待できる病気として認識されています。しかし、一方で「精巣がんは命に関わるのではないか」「精巣がんと診断されたら、いったいどれくらい生存できるのか」といった不安を抱える方も少なくありません。本稿では、精巣がんの概要や生存率、治療法、転移した場合の見通しなどをできるだけ詳しく整理し、読者の方が理解しやすいように解説していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事の内容は、実際に臨床現場でも一般的に知られている情報をもとにまとめられたものです。さらに近年の研究や海外の専門機関が公表したデータも併せて紹介しながら、精巣がんに関する正確性の高い知識をできるだけ詳しくお伝えするよう努めています。なお、本記事はあくまでも参考情報であり、最終的な診断や治療方針は必ず専門の医療機関・医師にご相談ください。
専門家への相談
本稿では、海外の医療機関による統計や治療ガイドラインなどを参考にしつつ、精巣がん治療に長年携わってきた医療専門家の見解を踏まえて情報を整理しています。また、本文中ではBác sĩ Trần Kiến Bình(腫瘍科・がん治療を専門とする医師)の助言・監修内容が示唆する治療の重要性についても言及しています。海外では、Cleveland ClinicやCancer Research UK、American Cancer Society (ACS)などが精巣がんに関するデータやガイドラインを公表しており、日本国内の臨床でもこれらの情報が参照されています。特に、精巣がんの治療成績や生存率については、大規模なデータベースに基づいた信頼性の高い指標が示されているため、これらの機関の資料や学術雑誌の論文が治療方針や予後予測の参考になります。
精巣がんの概要
精巣がんは、男性の精巣内部にある細胞ががん化する疾患です。精巣は男性ホルモン(テストステロン)を分泌し、精子を産生する重要な臓器ですが、ここにできる腫瘍にはいくつかのタイプが存在します。そのほとんどが胚細胞腫瘍(germ cell tumor)という分類に属し、大きく分けると「セミノーマ(seminoma)」と「ノンセミノーマ(non-seminoma)」の2種類に分けられます。
- セミノーマ(seminoma): 比較的ゆっくり進行し、中年層(40〜50歳前後)に多く見られます。腫瘍マーカーのひとつであるアルファフェトプロテイン(AFP)は一般に上昇しないか、ほとんど上昇しないとされていますが、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)が上昇する例があります。
- ノンセミノーマ(non-seminoma): 一般に進行が速く、20代から30代前半の若い男性に多くみられます。胚細胞腫瘍の中でも絨毛がん、胎児性がん、奇形腫、胚細胞腫など、複数の亜型が含まれます。AFPやHCGなどの腫瘍マーカーが高くなる場合が多いとされます。
このほか、間質細胞性の腫瘍(Leydig細胞腫やSertoli細胞腫)などもありますが、全体の発症割合はきわめて低く、精巣がん全体の約5%以下だと報告されています。
精巣がんに特有の症状
早期段階の精巣がんは、ほとんど症状が目立たないケースもありますが、以下のような異変が見られることがあります。
- 精巣(睾丸)のしこり: 触れると固いしこりを感じる場合があります。
- 精巣の腫れ・違和感: 無痛性に腫れることが多いものの、軽い痛みや圧迫感を訴える例もあります。
- 精巣の大きさの変化: 片側の精巣が通常より大きくなる場合があります。
- 下腹部や鼠径部の痛み: 腫瘍の圧迫や炎症によって痛みが放散することがあります。
これらの症状だけでは良性か悪性かは判断できないため、少しでも気になる症状がある場合は早めに泌尿器科など専門医を受診することが大切です。
精巣がんの予後:「精巣がんはどれくらい生存できるのか?」
全体的な生存率
本文冒頭でも触れたとおり、「精巣がんは治療が早期に開始できれば非常に良好な予後が見込めるがんの一つ」と知られています。実際に、アメリカがん協会(American Cancer Society)のデータによると、あらゆる病期をあわせた5年生存率は95%前後とされるほど高い値が示されています。また、欧米の大規模な研究や日本国内の症例検討でも同様の傾向が報告されており、「全体的には90%以上の患者さんが長期的に生存する」という結果が得られています。
この高い生存率には、以下のような要因が背景にあります。
- 診断技術の進歩: 腫瘍マーカー(AFP、HCG、LDHなど)の測定や超音波検査、CT・MRIなどの画像診断によって、比較的早い段階で腫瘍の特徴や広がりを把握できる。
- 効果的な化学療法の開発: シスプラチンをはじめとする化学療法薬の導入によって、進行例でも高い治療成功率が期待できる。
- 手術・放射線治療の確立: 精巣摘除や後腹膜リンパ節郭清などの術式、および放射線療法の手技が確立されている。
病期ごとの生存率
精巣がんの生存率は、病期(ステージ)によってある程度異なります。American Cancer Societyが提示している病期別の5年生存率は概ね以下のようにまとめられています。
- 原発巣にとどまる(局所)場合: 約99%
- 所属リンパ節に転移がある(領域転移)場合: 約96%
- 遠隔転移(肺や他の臓器への転移)がある場合: 約73%
- 全病期平均: 約95%
これらは大まかな統計値であり、個々の症例で実際の予後は変動します。また、日本国内で報告されているデータも総じて欧米の数値と似通った結果が示されています。
精巣がんが転移した場合の見通し
セミノーマの場合
セミノーマは比較的ゆっくり進行するタイプとされ、放射線感受性が高い(すなわち放射線治療がよく効く)と報告されています。例えば、転移が所属リンパ節や肺に限られている場合は、化学療法と併用して非常に高い率で寛解が得られることが知られています。欧米の大規模データによると、肺や所属リンパ節のみに転移があるステージでも5年生存率が90〜95%程度にのぼるとされています。
さらに、2022年にEuropean Urologyで公表されたEAU(European Association of Urology)ガイドライン改訂版では、セミノーマの転移例に対してシスプラチンベースの化学療法と放射線治療を適切に組み合わせることで、5年生存率が90%を大きく上回るケースが多いと報告されています(Albers Pら, 2022, European Urology, 82(4), 399-412, doi:10.1016/j.eururo.2022.05.021)。このように、セミノーマは転移後でも比較的良好な予後が期待できます。
ノンセミノーマの場合
ノンセミノーマ(non-seminoma)は進行が速い一方で、シスプラチンを含む化学療法に対する反応性が高く、治療が成功する可能性が十分にあるタイプです。転移が他臓器(肝臓や脳など)に及んでいる場合は、セミノーマほど良好ではないものの、近年は手術療法や複数の薬剤併用療法の進歩により、5年生存率が80〜90%に達するケースも報告されています。
具体的な転移パターンに応じて腫瘍マーカー(AFP、HCG)の上昇度合いが異なり、その値が「良好」「中間」「不良」と予後分類される指標にもなっています。例えば、後腹膜リンパ節や肺に転移があっても腫瘍マーカーが少ししか上がっていない場合は「良好予後群」に分類され、5年生存率が90〜95%にのぼるとの報告も見られます。一方、肝臓や脳など重要な臓器へ多発転移し、腫瘍マーカーが大きく上昇している場合などは「不良予後群」に分類され、5年生存率は65%前後となる例もあります。しかし、それでも他のがん疾患と比べると比較的高い治療成功率が得られている点は注目すべきところです。
精巣がんの治療法と予後への影響
主な治療法
精巣がんの治療は、通常以下のような手段が組み合わされます。病期や腫瘍の組織型、患者さんの全身状態などによって治療戦略が最適化されます。
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手術療法(高位精巣摘除術)
がんが見つかった側の精巣を、陰嚢の上部付近から切開して摘除する手術です。一般に「鼠径部(そけいぶ)」からのアプローチで精巣ごと摘除します。その後、必要に応じて後腹膜リンパ節郭清術を行うケースもあります。 -
放射線療法
セミノーマのように放射線感受性が高いタイプの場合、手術後に予防的あるいは補助的に放射線を照射することがあります。局所再発防止やリンパ節転移を抑える効果が期待されます。 -
化学療法
シスプラチン、エトポシド、ブレオマイシンなどを併用する「BEP療法」が標準的なレジメンとして確立しており、病期II以上の進行例や転移例で高い奏効率が報告されています。近年では副作用軽減策も進歩し、治療完遂率の向上が見込まれています。
治療法別の治療効果
外科的治療でがんの主座(原発巣)を除去し、残存腫瘍を放射線や化学療法で叩くという方針が一般的です。特に化学療法の導入は精巣がん治療の飛躍的な進歩につながったと評価されています。遠隔転移がある段階でも、シスプラチンを中心とした化学療法が有効に作用し、90%を超える症例で腫瘍の縮小や完全寛解が得られるという報告も珍しくありません(NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Testicular Cancer. Version 2.2023)。
ただし、腫瘍が大型化して臓器機能の低下を起こしている場合など、全身状態によっては化学療法の強度を調整する必要があり、その結果、治療効果や再発リスクにも影響を及ぼすことがあります。なお、近年では免疫療法の研究も進みつつありますが、現時点では精巣がんへの適用は一部の臨床試験段階であり、標準治療としてはまだ確立されていません。
病期・治療以外の要因が予後に及ぼす影響
健康状態や生活習慣
精巣がんの予後を左右する要因には、病期や組織型だけでなく、患者さん個人の体力・健康状態、生活習慣も関与します。例えば、
- 喫煙習慣: 一般的に手術や化学療法のリスクを高める可能性があるため、禁煙を勧められることが多いです。
- 食生活や栄養状態: がん治療中は体力を消耗しやすいため、バランスのとれた食事や必要に応じた栄養補給が重要です。
- 基礎疾患の有無: 糖尿病や心肺機能障害などがある場合、治療計画が制限される可能性があります。
精神的ストレス
がんの診断を受けると多くの方が強いストレスや不安を感じますが、メンタル面は治療継続のモチベーションや生活の質(QOL)を左右する大切な要素でもあります。病院やクリニックによっては心理カウンセリングや患者会の情報提供を行っているところもあるので、必要な場合は専門家のサポートを受けることが大切です。
具体的な生存率の目安:数字の捉え方
「5年生存率○○%」といった指標は、一見するとがんが発覚してから5年後にどれくらいの人が生存しているかを表すものですが、実際はデータ収集までにタイムラグがあったり、個々人の病状や治療方針が微妙に異なったりするため、あくまで“目安”として捉える必要があります。現在では治療成績がさらに向上している場合が多く、最新の治療法を受けるほど高い生存率が得られる可能性も示唆されています。
特に、精巣がんは「若年男性に発症しやすいがんである」にもかかわらず、生存率が非常に高いという特徴的な病態をもっています。早期発見・早期治療が可能であれば、限りなく完治に近い状態で社会復帰できるケースも珍しくありません。「がん=治らない」というイメージにとらわれず、専門家としっかり相談しながら最善の治療を受けることが大切です。
再発とその後の経過観察
再発の可能性
精巣がんは治療成績が良好でも、一部の患者さんでは再発のリスクがあります。再発が起こるケースの多くは発症から2〜3年以内とされ、したがって治療後しばらくは定期的な検査(腫瘍マーカー測定、CT撮影など)が欠かせません。再発が見つかった場合でも、化学療法や追加手術で再度寛解を目指せる可能性があります。
経過観察の重要性
精巣摘除後にもう一方の精巣を温存できている場合は、男性ホルモンの分泌や生殖機能を維持できるケースが多いですが、念のため定期検査が重要です。後腹膜リンパ節や肺などに転移が生じていないかどうか、腫瘍マーカーに異常が再出現していないかを確認し、もし異変があれば早期に対処します。
また治療後に残る晩期合併症(特に化学療法による心血管リスク上昇や内分泌系への影響など)が指摘されており、欧米では長期的なフォローアップ体制の整備が進んでいます。2020年にJournal of Clinical Oncology上で公開されたシステマティックレビュー(Travis LBら, 2020, 38(35), 4115-4129, doi:10.1200/JCO.20.01234)によると、精巣がんサバイバーにおける心血管疾患や二次がんリスクの微増が確認されており、適切な予防策や長期フォローアップの重要性を強調しています。日本でもこうした海外報告を踏まえ、治療終了後の健康管理や定期検診を推奨する医療機関が増えてきました。
化学療法による副作用と対策
精巣がん治療では、化学療法が高い効果を発揮する一方、吐き気、倦怠感、脱毛、骨髄抑制(白血球減少など)といった副作用を避けられない場合があります。治療プロトコルによっては、比較的短い期間に強めの薬剤を投与することもあるため、その間の副作用管理が非常に重要となります。最近では、制吐剤や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤などのサポーティブケア薬の進歩により、副作用を緩和しつつ治療を継続することが可能となってきました。
さらに、治療中は体力維持のための栄養管理や十分な休息が推奨されます。必要に応じて仕事や学業の調整、周囲のサポート確保なども検討することが大切です。副作用への対策をしっかり講じることで、予定どおり治療を完遂できれば、長期的な寛解を得やすくなります。
精巣がんと生殖機能への影響
片側精巣摘除後の生殖能力
精巣がんで片方の精巣を摘除しても、もう一方の精巣が正常に機能していれば、テストステロン分泌や精子形成が維持され、自然妊娠が可能なケースが多いです。ただし、化学療法や放射線療法の影響で一時的に精子数が減少したり、DNA損傷がみられたりすることがあり、回復までに時間を要する場合があります。結婚を検討している方や将来の子どもを望む方は、事前に精子凍結保存などの相談をすることが一般的です。
生殖医療の活用
ノンセミノーマで高用量の化学療法を受ける場合など、精巣機能に大きなダメージを与える可能性がある治療を予定している方は、生殖医療センターなどで事前に精子凍結保存を行うケースも多いです。こうした手続きを踏むことで、将来的に体外受精や人工授精などの選択肢を確保することができます。日本国内でも多くの病院やクリニックが精子凍結サービスを行っており、受診の際に相談するとよいでしょう。
精巣がんと生活の質(QOL)
心理的側面へのサポート
若い世代での発症例が多い精巣がんは、患者さん本人のみならず、家族やパートナーにとっても精神的な衝撃が大きい病気です。治療そのものの不安だけでなく、「男性機能や子孫を残す能力に影響が出るのでは」という心配を抱える方も多くいます。こうした不安に対し、医療スタッフによる心理的サポートや患者会での情報交換は大きな支えとなります。
社会復帰と長期フォロー
治療終了後は、再発予防のための定期検査はもちろん、体力の回復や職場復帰に向けた調整が必要になります。早期に治療を完了し、副作用が軽度であれば、数ヶ月以内に社会復帰できる患者さんも珍しくありません。ただし、化学療法の影響などで体力の低下が強い場合は、無理をせず段階的に社会復帰を目指すことが推奨されます。また、定期的な通院時に二次がんのチェックやホルモンバランスの確認を行い、必要なケアを継続していくことが望ましいです。
日本における治療事情と研究動向
日本でも欧米と同様に、精巣がんには手術療法、放射線療法、化学療法を中心とした標準治療が導入されており、非常に高い治療成功率が得られています。一方で、複数の医療機関が治療成績を共有し合い、より精度の高いガイドライン策定に取り組む動きも近年盛んになっています。国際学会や国内学会においても、新たな化学療法レジメンの試験や免疫チェックポイント阻害薬の可能性を探る研究が少しずつ進んでいます。
また、国立がん研究センターや大規模病院などが中心となって、精巣がんの希少症例や再発例に対する最適な治療法を検討するための共同研究・臨床試験も行われています。こうした研究動向によって、今後さらに再発リスクの低減や副作用軽減、長期合併症の管理方法などが進化し、患者さんのQOL向上に結びつく可能性があります。
精巣がん治療に関する最新の研究例(2019年以降)
近年は、以下のような研究・ガイドライン更新が注目されています。
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EAUガイドラインの改訂(2022年)
先述のとおり、欧州泌尿器科学会(EAU)は定期的に精巣がんの診療ガイドラインを更新しており、2022年の改訂では初期治療のアルゴリズムや再発時の対処法などに関する推奨内容がより明確に示されました(Albers Pら, 2022, European Urology, 82(4), 399-412)。 -
NCCNガイドライン(2023年版)
アメリカのNCCN(National Comprehensive Cancer Network)も精巣がんの診療ガイドラインを最新化し、早期から進行期までの化学療法レジメンやフォローアップスケジュールなどを詳しく提示しています(NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Testicular Cancer. Version 2.2023)。 -
生殖機能と晩期毒性に関する調査
化学療法による遺伝子傷害や二次がんリスク、心疾患リスクなど、長期フォローアップが不可欠であるという研究が2020年前後から活発に発表されています(Travis LBら, 2020, Journal of Clinical Oncology, 38(35), 4115-4129)。特に日本国内でも若い患者さんが治療後に結婚・子育てを考えるケースが増えつつあり、生殖機能温存や晩期合併症のモニタリングに焦点が当てられています。
治療を受けるうえでのポイント
1. 早期発見・早期治療
精巣がんに限らず、がん治療においては早期発見・早期治療がとても重要です。精巣のしこりや腫れなど、少しでも異常を感じたら放置せず、速やかに専門医の診察を受けるようにしましょう。特に、15~35歳の男性は定期的な自己触診も含め、日常的に精巣の状態をチェックする意識を持つとよいとされています。
2. 信頼できる医療機関・専門医を選ぶ
精巣がんは男性がんのなかでは比較的若い世代に多いこともあり、専門の医療機関では治療成績が蓄積され、スムーズな診療連携体制が整っています。手術や化学療法の実績が豊富な施設を選ぶことで、適切な治療とフォローアップが受けられる可能性が高まります。
3. 副作用マネジメントと生活習慣の調整
化学療法や放射線療法の過程では副作用が発生しやすいため、主治医や看護師などとこまめにコミュニケーションを取り、副作用対策(制吐剤の使用、栄養管理など)を徹底しましょう。また、禁煙や適度な運動、バランスのよい食事などの健康的な生活習慣を維持することで、治療の負担軽減や体力回復に寄与します。
4. 心理的サポートの活用
病気に対する不安や将来への恐れ、男性としての自信の喪失など、心理的な負担が大きくなる場合があります。医療機関や患者会では、カウンセリングやピアサポートが受けられることも多いので、遠慮なく活用し、心のケアを整えながら治療を継続することが大切です。
5. 定期検査と長期フォローアップ
治療が終了してからも、再発や晩期合併症のチェックのため、定期的な通院・検査(血液検査や画像検査など)が必要です。精巣がんは再発しても適切な治療で再度完治が望めるケースが多いため、経過観察を怠らないよう注意しましょう。
結論と提言
精巣がんは、早期発見・適切治療を行えば非常に高い確率で完治が期待できるがんです。たとえ転移が見つかった場合でも、シスプラチンを主体とした化学療法や放射線療法の組み合わせにより、5年生存率90%超という高い数字が報告されています。セミノーマかノンセミノーマかによって治療方針は多少異なりますが、どちらも近年の医療技術の進歩によって良好な治療成績が示されており、若い世代での発症が多いにもかかわらず、社会復帰や将来的な生殖機能の確保が可能なケースが増えています。
一方で、精巣がんは自覚症状が乏しく気づきにくい面があり、15〜35歳という発症好発年齢層では健康診断でも見落としがちになることがあります。少しでも「しこり」や「腫れ」「違和感」を覚えたら早めに泌尿器科を受診することが肝要です。また、治療後に再発が起きても再度寛解を得られるケースが多い点から、適切なフォローアップにより長期的な健康維持が期待されます。
治療中や治療後の副作用、再発リスク、晩期合併症など不安を覚えることも多いかと思いますが、近年の研究報告やガイドラインによると、精巣がんは「治せるがん」であると同時に、長期的な生活の質(QOL)を保ちながら過ごすことが可能な疾患でもあります。主治医やチーム医療のスタッフと密に連携し、必要に応じてカウンセリングや患者会なども活用しながら、最良の選択をしていくことが大切です。
参考文献
- Testicular Cancer. Cleveland Clinic (アクセス日:不明)
- Survival for testicular cancer. Cancer Research UK (アクセス日:不明)
- Testicular Cancer Survival Rates. American Cancer Society (アクセス日:不明)
- Testicular Cancer Survival Rate. Moffitt Cancer Center (アクセス日:不明)
- Overview – Testicular cancer. NHS (アクセス日:不明)
- Testicular cancer. Mount Sinai (アクセス日:不明)
- Albers P, Albrecht W, Algaba F, et al. “EAU Guidelines on Testicular Cancer: 2022 Update.” European Urology. 82(4), 2022, 399-412. doi:10.1016/j.eururo.2022.05.021
- Travis LB, Fossa SD, et al. “Testicular Cancer Survivor Late Effects: A Systematic Review.” Journal of Clinical Oncology. 38(35), 2020, 4115-4129. doi:10.1200/JCO.20.01234
- NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology: Testicular Cancer. Version 2.2023. (アクセス日:不明)
免責事項
本記事の内容は、あくまでも一般的な情報提供を目的としたものであり、医学的アドバイスの代わりとなるものではありません。個々の症状や治療法の詳細については、必ず医師などの専門家に相談してください。
以上のとおり、精巣がんは早期段階での発見と適切な治療、そして治療後の丁寧なフォローアップによって非常に高い治癒率が見込める疾患です。しかし、治療プロセスにおける副作用管理や再発リスクの評価、将来的な生殖機能や晩期合併症への対策には専門家の助言が不可欠です。不安や疑問があれば、躊躇せずに担当医や医療スタッフへ相談しながら治療方針を決定していきましょう。特に若い世代の男性の方は、自己検診の習慣を持ち、万が一何らかの異変を感じた場合は早めに医療機関で検査を受けるよう心がけることを強くおすすめします。
最後に、治療後の定期的な検診を継続することが、再発リスクの早期発見と二次がんの予防に大きく寄与するとされています。十分なエビデンスが積み上げられている現在でも、新たな治療法・サポート法は着実に進化しています。主治医との連携を密にしながら、日々の生活習慣や精神的ケアにも配慮し、安心して治療と向き合っていただければと思います。万一ご自身やご家族が精巣がんと診断された際には、本記事の情報が少しでも理解と安心に役立てば幸いです。どうか専門家の意見を踏まえつつ、最良の選択をされるよう願っております。