精索静脈瘤とは|原因・症状と手術基準を学会ガイドラインで解説
この記事でわかること
目次
- 精索静脈瘤とは?なぜ起こるのか、そしてなぜ左側に多いのか
- 症状と見た目——グレード分類は医師が診察で使うものです
- ほかの陰嚢の病気とどう違うか
- 精索静脈瘤と男性不妊の関係——どこまで分かっているか
- 何科を受診する?診断はどう進むか——触診と超音波検査
- 手術は必要か?経過観察との境界を日本と海外のガイドラインで比べる
- 思春期・若い年代に見つかった場合
- 非閉塞性無精子症(NOA)に精索静脈瘤が重なっている場合
- 男性ホルモン(テストステロン)との関係
- 手術の方法と保険——高位結紮術・低位結紮術・顕微鏡下手術
- 手術後の経過について——「体験談」で語られやすい内容をガイドラインの数字で見る
- 子作りを考えている方へ——パートナーと一緒に考えたいこと
- よくある質問
- 参考文献
精索静脈瘤は、精巣から心臓へ戻る静脈の血液が逆流し、陰嚢の中の細い静脈がこぶ状に拡張した状態で、日本泌尿器科学会と日本生殖医学会がまとめた「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」では、原因が特定できる男性不妊症のうちもっとも頻度が高い疾患とされています[1]。
この症状、いつ受診すべきか確認しますか?
回答に合わせて必要な質問だけを表示します。診断は行いません。
症状はいつから続いていますか?
回答により質問数が変わります・途中でいつでも記事に戻れます
健康な成人男性の15〜20%にみられ、ほとんどが左側に起こるありふれた状態で、それ自体が命に関わることはありません[1]。同ガイドラインは、医師の診察で精索静脈瘤を触知でき(グレード2以上)、かつ精液検査の結果が良くない場合に手術を推奨する一方、触っても分からない小さなものや精液検査が正常な場合は、安易に手術を勧めるべきではないという立場を示しています[1]。見た目や痛みだけで手術の要不要は決まらず、まずは泌尿器科(男性不妊を診る施設)を受診して確認することが出発点になります。
要点まとめ
編集方針: JHO編集部がAIツールの支援を受け、公的機関・学会ガイドライン・大学病院の解説と照合して作成。最終確認は人の目。医師による個別診断の代わりにはなりません。数値・分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点)。
受診前セルフチェックリスト——これは精索静脈瘤の自己診断ツールではありません。そのグレード(重症度)は医師が診察で判定するものであり[1]、以下は「受診したほうがよいか迷っている方」が状況を整理するための確認リストです。
- 陰嚢の左側(まれに両側)に、鈍い違和感・重だるさ・軽い痛みがあるか
- 立った状態のときに症状が強くなり、横になると軽くなるか
- お腹に力を入れる(いきむ)と、陰嚢の血管が張るような感じがあるか
- 1年以上、子どもを希望して自然な性生活を送っているが妊娠に至っていないか
- 過去の健康診断や精液検査で「異常」を指摘されたことがあるか
1つでも当てはまれば、男性不妊症診療ガイドラインが示す手順にならい、泌尿器科(可能であれば男性不妊を診療する施設)での触診と、必要に応じた陰嚢超音波検査を受けることをおすすめします[1]。
精索静脈瘤とは?なぜ起こるのか、そしてなぜ左側に多いのか
精索とは、精子の通り道である精管や血管、リンパ管、神経などが束になったものです。県立広島病院は、「精巣から流出した細かな静脈(つる状静脈叢)は次第に合流して内精索静脈となります。精索静脈瘤は、この内精索静脈を血流が逆流し、陰のうやそけい菅内のつる状静脈叢に血液がうっ滞した(異常にふくらんだ)状態のことです」と説明しています[3]。県立広島病院の解説によれば、本来、精索静脈の中には血液の逆流を防ぐための弁がありますが、この弁の働きが不十分になると、静脈血が精巣に向かって逆流してしまいます[3]。
男性不妊症診療ガイドラインは、精索静脈瘤について「解剖学的に左側に多いとされており、両側例は10%程度とされる」と述べています[1]。右側だけに起こることはまれです[1]。なお、米国泌尿器科学会(AUA)は、右側だけの精索静脈瘤があるというだけの理由で一律に腹部の画像検査を行うことは勧めていませんが、新しく気づいた場合や、横になっても小さくならない場合、大きい場合には、念のため他の原因がないか腹部の画像検査を検討することがあるとしています[5]。ただしAUA自身、この推奨の根拠は強くない(Expert Opinion、質の高い研究による裏付けは乏しい)としており、約4,000例を対象とした調査では、片側か両側かによる悪性腫瘍の診断率に差はみられなかったとも報告されています[5]。この左右差には解剖学的な理由があり、県立広島病院は「左精巣静脈は右よりも長く、左の腎臓の静脈に直角に合流し、さらに左腎静脈が大動脈と上腸間膜動脈の間にはさまれて圧迫される(ナットクラッカー現象:クルミ割り器のように血管がはさまれる)ことがあり、静脈の圧力が高くなる」ことを、原因の一つとして挙げています[3]。県立広島病院の解説を踏まえると、右側の精巣静脈は下大静脈に比較的まっすぐ合流するのに対し、左側は遠回りのうえ圧迫を受けやすい構造になっているため、左側の静脈のほうが逆流を起こしやすいと考えられます[3]。
この状態が精子の濃度や運動率の低下を引き起こす仕組みについて、男性不妊症診療ガイドラインは「精索静脈瘤が精子濃度や運動率の低下を引き起こす原因は明らかではないが、血液のうっ滞による精巣温度の上昇、静脈圧上昇に伴う精巣内の低酸素状態、精巣内酸化ストレスの上昇などが考えられている」としており、まだ完全には解明されていないことを認めています[1]。県立広島病院も同様の仕組みを説明しており、「精索静脈瘤は精巣の温度上昇、副腎からの内分泌物質(ホルモン)の逆流、免疫状態の変化などにより、精細管の障害や精子の成熟をさまたげるとされ」ているとしています[3]。いずれも「〜と考えられている」という推定の域を出ていない点に注意が必要です。なお、県立広島病院は、この状態があるからといって全身の健康状態そのものに影響するわけではないと考えられているとも述べています[3]。
今の血圧・脈拍を確かめる
数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。
身長と体重からBMIも調べる
血圧手帳(この端末に保存)
これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
症状と見た目——グレード分類は医師が診察で使うものです
県立広島病院によると、精索静脈瘤の多くは無症状のまま見つかりますが、陰嚢やそけい部の不快感、鈍い痛みが主訴になることもあります[3]。立っている時間が長いほど症状が強くなり、横になると軽くなる傾向があります。見た目については、進行すると陰嚢の皮膚ごしに血管の拡張が分かるようになり、川崎医科大学総合医療センターの泌尿器科医は「見た目は、大きくなるとブドウの房ぐらいになる方もいらっしゃいます」と述べています[6]。ただし同医師は「見た目の症状だけでは手術適用にはなっていません」とも述べており、見た目の大きさだけで手術の必要性は決まらないことを強調しています[6]。
医療機関では、男性不妊症診療ガイドラインが示す次のグレード分類を使ってその程度を診察します。これは医師が立位での視診・触診によって判定するものであり、自分で判定するための基準ではありません[1]。
| 分類 | 診察での所見 | 備考 |
|---|---|---|
| サブクリニカル | 立位・視診・触診では分からないが、超音波検査で静脈の拡張が確認できる | 治療の対象にはならない[1] |
| グレード1 | 立位で腹圧をかけた(いきんだ)ときのみ触診で分かる | 軽度[1] |
| グレード2 | 立位で腹圧をかけなくても触診で分かる | 手術適応の目安になりうる[1] |
| グレード3 | 立位での視診だけで分かる(血管の膨らみが見える) | 比較的重度[1] |
出典:日本泌尿器科学会・日本生殖医学会「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」(2024年)[1]
すぐに受診が必要なサイン
- 陰嚢に急に強い痛みや腫れが起こった場合——精索静脈瘤ではなく精巣捻転など緊急性の高い病気の可能性があるため、様子を見ずに泌尿器科や救急外来を受診してください
- 発熱を伴う陰嚢の痛みや腫れがある場合
- 手術後に、傷の周囲が赤く腫れる、膿が出る、発熱が続くなどの症状がある場合
- 手術後、陰嚢が急激に大きく腫れてきた場合(血腫や陰嚢水腫の可能性)
ほかの陰嚢の病気とどう違うか
陰嚢の違和感や腫れは、この病気以外の原因でも起こります。自己判断で決めつけず、鑑別のためにも受診が大切です。たとえば、急な強い痛みを伴う場合は精巣捻転(精巣がねじれて血流が止まる緊急疾患)の可能性があり、時間との勝負になるため様子を見てはいけません。発熱や陰嚢の腫れ・痛みを伴う場合は精巣炎や精巣上体炎の可能性もあります。当サイトの「精巣炎(睾丸炎)の症状・原因・治療法」の記事や、「精巣のすべて」の記事もあわせて参考にしてください。また、水がたまって腫れる陰嚢水腫のように、痛みを伴わずゆっくり大きくなる病気もあります。男性不妊症診療ガイドラインが示す診察の手順にあるように、いずれも見た目や自覚症状だけで判別するのは難しく、立位・臥位(横になった状態)での触診や超音波検査によって医師が鑑別します[1]。「ただの静脈の膨らみだろう」と自己判断せず、一度は泌尿器科で確認してもらうことが安全です。
精索静脈瘤と男性不妊の関係——どこまで分かっているか
この病気は男性不妊症の原因のうち、原因が特定できるものの中では最も頻度が高いとされています。厚生労働省の平成27年度全国調査を引用した男性不妊症診療ガイドラインによると、この病気は「全男性不妊症患者の30.2%を占め、造精機能障害のうち精索静脈瘤が36.6%を占めていた」と報告されています[1]。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインも、精索静脈瘤は健常な男性のおよそ15%にみられ、精液所見に異常がある男性の25%、不妊を主訴に受診する男性の35〜40%にみられるとしており、日本のデータとおおむね近い範囲を示しています[4]。
| 集団 | 日本泌尿器科学会ガイドライン | 欧州泌尿器科学会(EAU)ガイドライン |
|---|---|---|
| 健常な成人男性 | 15〜20%[1] | 約15%[4] |
| 男性不妊症患者 | 全体の30〜35%(厚労省調査30.2%)[1] | 35〜40%[4] |
| 左右差 | 左側約90%、両側10%程度、右側単独はまれ[1][3] | 約85%が左側単独、片側単独では左が多い[5] |
出典:日本泌尿器科学会・日本生殖医学会「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」[1]/European Association of Urology「Guidelines on Sexual and Reproductive Health」[4]/American Urological Association/American Society for Reproductive Medicine ガイドライン[5]
ここで誤解しやすいのは、「精索静脈瘤がある=不妊になる」でも「手術をすれば必ず子どもができる」でもないという点です。男性不妊症診療ガイドラインが分析したコクラン共同計画のシステマティックレビューでは、13件のランダム化比較試験を解析した結果、その治療によって妊娠率が改善したと報告されていますが、生児獲得率(実際に子どもが生まれた割合)が向上するかどうかは「不明である」とされています[1]。ガイドラインは「精索静脈瘤治療は妊娠率、生児獲得率を改善する可能性が示唆される」という慎重な表現を用いており、精液所見が不良で触知可能な精索静脈瘤、特にグレード2以上の症例で恩恵が大きいと考えられるとまとめています[1]。つまり手術は妊娠の可能性を高めうる選択肢の一つであって、確実に授かることを保証するものではありません。
何科を受診する?診断はどう進むか——触診と超音波検査
精索静脈瘤やそれに伴う男性不妊が疑われる場合は、泌尿器科、できれば男性不妊症を専門とする泌尿器科(男性不妊外来・リプロダクションセンターなど)の受診が基本になります[2]。診断は、暖かい部屋で立った状態での視診・触診を基本とし、必要に応じて陰嚢超音波検査(カラードプラ超音波検査を含む)を組み合わせて行います[1]。
実際の受診では、まず問診で症状がいつから続いているか、子どもを希望しているか、これまでの妊活の経過などを聞かれます。そのうえで、ガイドラインが示す手順に沿って、立った状態でお腹に力を入れる・入れないの両方で陰嚢を触診し、必要と判断されれば横になった状態や超音波検査でも確認します[1]。子どもを希望している場合は、精液検査をあわせて勧められることが一般的です。触診だけで痛みを伴うことはほとんどなく、その場で結果や今後の方針について説明を受けられることが多いため、過度に身構える必要はありません。
興味深いことに、超音波検査をどこまで日常的に使うべきかについては、日本・欧州・米国のガイドラインで力点が異なります。男性不妊症診療ガイドラインは、欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインが「精索静脈瘤の管理は依然として主に身体診察に基づいている」としつつも、「身体診察が信頼できない」場合や「再発や持続が疑われる」場合には超音波検査を推奨し、「超音波検査による静脈径と逆流の確認は、治療方針の決定に利用される可能性がある」と述べていることを紹介しています[1]。一方で同ガイドラインは、米国泌尿器科学会(AUA)のガイドラインが「精索静脈瘤の診断をするために、超音波検査を定期的に実施することは推奨しない」とし、「精索静脈瘤は身体診察のみに基づいて診断し、身体診察が困難な場合にのみ超音波検査を推奨する」としている点を挙げ、「推奨事項が異なっている」と明記しています[1]。実際に現行のAUA/米国生殖医学会(ASRM)ガイドラインも、不妊症男性の初期評価において陰嚢超音波検査を日常的には行わないことを推奨しています(Expert Opinion)[5]。
日本と欧米、どちらが正しいというより、立場の違いとして理解するのが適切です。男性不妊症診療ガイドラインは、超音波検査のみで見つかるサブクリニカル(触知できない)精索静脈瘤に対する手術は、EAU・AUAの両ガイドラインで推奨されていないとしたうえで、身体診察が困難なケース(陰嚢手術の既往、皮膚の肥厚、肥満、水腫の合併など)では超音波検査を補助的に用いることが実務上必要になるとしています[1]。臨床経験が豊富な泌尿器科医でも、身体診察とカラードプラ超音波検査で精索静脈瘤の診断や等級付けが完全には一致しなかったという報告もあり、的確な診断には身体診察のみでは不十分な場合があると考えられています[1]。
手術は必要か?経過観察との境界を日本と海外のガイドラインで比べる
「手術をすべきかどうか」は、この病気についてもっとも多く聞かれる質問の一つです。日本泌尿器科学会・日本生殖医学会の男性不妊症診療ガイドラインは、CQ7「精索静脈瘤に対する手術は推奨されるか?」という設問に対し、次の2つの回答(Answer)を示しています[1]。
| 状況 | 推奨 | 推奨グレード/エビデンスレベル |
|---|---|---|
| 精索静脈瘤を触知し(グレード2以上)、精液所見が不良な症例 | 手術を推奨する | 推奨グレードA/エビデンスレベルⅠ[1] |
| 非閉塞性無精子症(NOA)に合併した精索静脈瘤 | 手術でSRR(精子回収率)が上昇する有効なエビデンスは存在しないことを説明し、個別に対応する | 推奨グレードC/エビデンスレベルⅡ[1] |
出典:日本泌尿器科学会・日本生殖医学会「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」CQ7[1]
この「グレード2以上を触知し、かつ精液所見が不良」という条件は、静脈瘤を触知しない症例や精液所見が正常な症例に「安易に手術を勧めるべきではない」という考え方とセットになっています[1]。
海外のガイドラインも大枠では同じ方向を向いていますが、条件の書き方には違いがあります。欧州泌尿器科学会(EAU)は、「Treat infertile men with a clinical varicocele, abnormal semen parameters and otherwise unexplained infertility in a couple where the female partner has good ovarian reserve to improve fertility rates.」(触知可能な精索静脈瘤があり、精液所見に異常があり、他に原因の説明がつかない不妊で、女性パートナーの卵巣予備能が良好なカップルに対して、妊娠率を改善するために治療する)という推奨を、同学会はStrong(強い推奨)として示しています[4]。米国泌尿器科学会(AUA)とASRMは、「Clinicians should consider surgical varicocelectomy in males attempting to conceive who have palpable varicocele(s), infertility, and abnormal semen parameters, except for azoospermic males.」(挙児を希望し、触知可能な精索静脈瘤、不妊、精液所見の異常がある男性に対して、無精子症の男性を除き手術を検討すべきである)という推奨を、同学会はModerate Recommendation(Evidence Level:Grade B)としています[5]。
3つのガイドラインを並べると、共通しているのは「触知できる精索静脈瘤+精液所見の異常」という2条件です。一方で、日本のガイドライン[1]が「グレード2以上」という具体的な触診上の等級を条件に明記しているのに対し、EAUガイドライン[4]とAUAガイドライン[5]の推奨文には数値化されたグレードの指定は見当たらず、「clinical(臨床的に触知できる)」という表現にとどまっています。また、EAUガイドラインは「女性パートナーの卵巣予備能が良好であること」を推奨の文言そのものに明記していますが[4]、日本の男性不妊症診療ガイドラインのCQ7の回答文にはこの条件は明示されていません[1]。これらは学会ごとに推奨の強さを表す言葉や基準そのもの(日本の「推奨グレードA〜C」、EAUの「Strong/Weak」、AUAの「Strong/Moderate Recommendation+Evidence Level」)が異なるために生じる違いでもあり、単純にどちらが厳しい・緩いと比べられるものではありません。
また、超音波検査だけで見つかるサブクリニカル精索静脈瘤については、3つのガイドラインとも治療を積極的には勧めていません。男性不妊症診療ガイドラインは、サブクリニカル精索静脈瘤の治療効果を検討したメタアナリシスについて「これらの解析結果からsubclinical varicoceleの治療によって精液所見は改善される可能性はあるものの、妊娠率を改善するというエビデンスは乏しく、合併症やコストなどの問題も考慮すると治療は推奨されない」と、同ガイドラインは結論づけています[1]。AUAも「Clinicians should not recommend varicocelectomy for males with non-palpable varicoceles detected solely by imaging.」(画像検査のみで見つかった触知不能な精索静脈瘤に対して手術を推奨すべきではない)とStrong Recommendationで示しています[5]。
EAUのガイドラインには、これらに加えてもう一つの推奨があります。「Varicocelectomy may be considered in men with raised sperm DNA fragmentation with otherwise unexplained infertility or who have suffered from failure of assisted reproductive techniques, including recurrent pregnancy loss, failure of embryogenesis and implantation.」(精子のDNA断片化の上昇があり他に原因の説明がつかない不妊の男性、または体外受精・顕微授精など生殖補助医療の失敗(反復流産、受精や着床の失敗を含む)を経験した男性に対しては、精索静脈瘤の手術を検討してもよい)というもので、同学会はこれをWeak(弱い推奨)として位置づけています[4]。体外受精や顕微授精を繰り返しても結果が出ない場合や、原因不明の流産を繰り返している場合には、この点も泌尿器科医や生殖医療の専門医に相談する際の材料になり得ます。ただし「Weak」は「Strong」より根拠の確実性が低い推奨であり、この条件だけで手術が決まるわけではない点には注意してください。
思春期・若い年代に見つかった場合
精索静脈瘤は10歳未満ではほとんどみられず、10代前半から増加し始めます[3]。若い年代で見つかると、保護者はすぐに手術を検討すべきか迷いがちですが、欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインは「there is a significant risk of over-treatment because most adolescents with a varicocele have no problem achieving pregnancy later in life」(大半の思春期の患者は、将来の妊娠に問題を抱えることがないため、過剰治療のリスクが大きい)と明記しています[4]。そのうえで、「Prophylactic treatment is only advised in case of documented testicular growth deterioration confirmed by serial clinical or Doppler US examinations and/or abnormal semen analysis」(予防的な治療は、複数回の診察やドプラ超音波検査で確認された精巣発育の悪化、または精液所見の異常が記録された場合にのみ勧められる)としています[4]。具体的な推奨としては、「offer surgery for varicocele associated with a persistent small testis (size difference of > 2mL or 20%), which should be confirmed on two subsequent visits performed six months apart」(体積差が2mLまたは20%を超える精巣の萎縮を伴い、6か月あけた2回の受診で確認された場合に手術を提示する)という強い推奨(Strong)を示しています[4]。つまり見た目やグレードだけで若い世代の手術を急ぐのではなく、精巣の発育を複数回にわたって確認したうえで判断するのが国際的な考え方です。県立広島病院も、小児では精巣の発育障害や萎縮がある場合に手術適応が検討されるとしつつ、「症状が緩和するか、将来の不妊症を予防するかは不明です」と述べ、不妊症以外の場面では明確な基準が定まっていないことを認めています[3]。
非閉塞性無精子症(NOA)に精索静脈瘤が重なっている場合
射出精液の中にまったく精子が見つからない非閉塞性無精子症(NOA)に精索静脈瘤が合併しているケースは、判断がより難しい特別な状況です。男性不妊症診療ガイドラインが引用するメタアナリシスでは、NOAに合併した精索静脈瘤を治療した場合、手術による精子回収率(SRR)が向上したと報告されていますが、「このメタアナリシスで解析した研究は後ろ向きおよび観察研究しか含まれておらず、RCTは含んでいない」として、エビデンスの質には限界があると明記されています[1]。ガイドラインは、「精索静脈瘤治療によりTESE、ひいてはその後のICSIが遅延することなども考慮すると、現状では精索静脈瘤術によるメリット、デメリットを説明し、個別に対応することが望ましい」と結論しています[1]。米国のAUA/ASRMガイドラインも、「For males with clinical varicocele and non-obstructive azoospermia, clinicians should inform couples of the absence of definitive evidence supporting varicocele repair prior to surgical sperm retrieval with assisted reproductive technologies.」(NOAを伴う触知可能な精索静脈瘤の男性には、手術による精子採取の前に、精索静脈瘤治療を支持する決定的なエビデンスが存在しないことをカップルに説明すべきである)とExpert Opinionで示しており、日本のガイドラインの慎重な立場と方向性は近いといえます[5]。この場合は、泌尿器科医と生殖医療の専門家がチームで、手術を先に行うか、直接TESE(精巣内精子採取術)に進むかを個別に相談することになります。
男性ホルモン(テストステロン)との関係
この病気は精子だけでなく、男性ホルモンの分泌にも関わる可能性が報告されています。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインは、手術前後のテストステロン値を比較した複数の研究を統合したメタアナリシスとして、「the combined analysis of seven studies demonstrated that the mean postoperative serum testosterone improved by 34.3ng/dL」(7件の研究を統合した解析では、術後の平均血清テストステロン値が34.3ng/dL改善した)ことを紹介しています[4]。性腺機能低下症(倦怠感や性欲の低下などを伴うホルモン低下の状態)がある男性でも、治療によってテストステロン値が改善する可能性が示唆されていますが、同ガイドラインは「patients must be advised that the full benefits of treatment in this setting must be further evaluated with prospective RCTs」(この場面での治療の効果全体は、今後の前向きランダム化比較試験でさらに評価される必要があることを患者に伝えるべきである)とも述べており、まだ結論は出ていない部分が残ることを認めています[4]。倦怠感や性欲の低下といった症状が気になる場合は、精液検査だけでなく血液検査によるホルモン評価もあわせて相談するとよいでしょう。
手術の方法と保険——高位結紮術・低位結紮術・顕微鏡下手術
精索静脈瘤の手術は、逆流している精巣静脈を結紮(縛る)・閉塞させることで、うっ血を改善させることを目的としています[1]。結紮する位置によって、鼠径管より上方で処理する高位結紮術(開放手術・腹腔鏡手術)と、鼠径管より下方で処理する低位結紮術に大きく分けられます[1]。男性不妊症診療ガイドラインによると、高位結紮術は静脈の本数が少なく精巣動脈を温存しやすい一方、低位結紮術に比べて再発率や術後の陰嚢水腫が多いとの報告が多く、近年では第一選択として選ばれる機会は減ってきているとされています[1]。現在の主流は、手術用顕微鏡を用いて動脈やリンパ管、神経を温存しながら逆流している静脈だけを処理する顕微鏡下低位結紮術(多くは外鼠径輪の下を数センチ切開するsub-inguinalアプローチ)です[1]。東邦大学医療センター大森病院も、この手術について「手術用顕微鏡を使用して動脈、静脈、神経、リンパ管を1本1本丁寧に確認して分離し、逆流静脈だけを結紮します」と説明しています[2]。
術式ごとの効果の違いについて、男性不妊症診療ガイドラインが引用するメタアナリシスでは、顕微鏡下手術は開放手術と比較して妊娠率が有意に高く、合併症の発生率・再発率がいずれも低かったと報告されています[1]。厚生労働省のNDBオープンデータによると、日本国内では顕微鏡下精索静脈瘤手術が全体の約9割を占めており、すでに主流の術式になっていることが分かります[1]。同じNDBデータでは、顕微鏡下手術3,344件のうち、外来で行われたものが1,626件、入院で行われたものが1,718件とほぼ半々であったと報告されており[1]、日帰り・外来で受けられる施設と、数日の入院を勧める施設の両方があることがうかがえます。入院の要否は、術式や施設の方針、全身麻酔か局所麻酔かなどによって変わるため、この点も受診先で確認しておくとよいでしょう。
費用については、このページでは具体的な金額を記載しません。精索静脈瘤の手術(高位結紮術・腹腔鏡下内精巣静脈結紮術・顕微鏡下精索静脈瘤手術)は、厚生労働省のNDBオープンデータで診療報酬の算定回数が集計されている、すなわち公的医療保険の診療報酬コード(Kコード)が設定された保険診療として広く行われています[1]。ただし、保険が適用されるかどうかや自己負担額は、受診する医療機関や個々の状況によって異なります。正確な金額は、実際に受診する医療機関の窓口で確認してください。
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
手術後の経過について——「体験談」で語られやすい内容をガイドラインの数字で見る
「手術体験談」を探している方の多くは、痛みの程度や、いつ効果が出るのか、再発しないかといった具体的な経過を知りたいのだと思います。ここでは特定の個人の体験談ではなく、ガイドラインや調査データに基づく一般的な経過を紹介します。個人差があることを前提にお読みください。
術後の痛みについて、欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインは、精索静脈瘤の手術後に痛みが消失する割合を48〜90%と報告しています(研究によって幅があります)[4]。精液所見の改善までにかかる時間について、EAUのガイドラインは「up to two spermatogenic cycles」(精子がつくられる周期の最大2回分)程度を目安として示しており、自然妊娠は術後6〜12か月の間に生じることが多いと報告されています[4]。厚生労働省の全国調査を引用した男性不妊症診療ガイドラインでは、精液検査を行う時期として、術後3か月後に検査している施設が48.7%ともっとも多かったとされています[1]。同じ調査では、1,387人中、治療が有効だった例は74.0%(1,026人)で、そのうち妊娠が確認できたのは316人だったと報告されています[1]。ここでいう「有効」は主に精液所見(精子濃度や運動率など)の改善を指しており、必ずしも全員が妊娠に至ったという意味ではない点には注意してください。実際、有効例1,026人に対して妊娠が確認された316人という数字からも、精液所見の改善と妊娠の成立が同じ割合では起きていないことが読み取れます。
再発や合併症の頻度は術式によって差があります。県立広島病院は、腹腔鏡下手術の場合、精索静脈瘤の術後再発や残存が5〜15%、陰嚢水腫が5〜12%で起こりうるとしています[3]。欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインが示す治療法ごとの再発率の目安では、顕微鏡下の鼠径部・鼠径下アプローチが0.4%ともっとも低く、腹腔鏡手術が3〜6%、開放性の高位結紮術(後腹膜アプローチ)は15〜29%とされており、術式による差が大きいことが分かります[4]。これらの数字からも、顕微鏡下手術が現在広く選ばれている理由がうかがえます。
子作りを考えている方へ——パートナーと一緒に考えたいこと
「子作り」を目的に精索静脈瘤の治療を検討している場合、いくつか整理しておきたい点があります。まず、その治療は男性側の精液所見を改善させる可能性がある一方、妊娠が成立するかどうかは女性パートナーの年齢や卵巣予備能など、カップル双方の要因に左右されます。欧州泌尿器科学会(EAU)が「女性パートナーの卵巣予備能が良好であること」を推奨の条件の一つに明記しているのも、この点を踏まえたものと考えられます[4]。次に、男性不妊症診療ガイドラインが示すように、手術によって妊娠率が改善する可能性は示唆されているものの、生児獲得率の向上については十分な根拠はまだ確立していない部分があり、「必ず子どもを授かる」と約束できる治療ではありません[1]。効果が出るまでに数か月単位の時間がかかることも踏まえ、体外受精や顕微授精など生殖補助医療のタイミングと合わせて、泌尿器科医と生殖医療の専門医、パートナーの婦人科医とも情報を共有しながら方針を決めていくことが望ましいといえます。特に、「妊娠率」と「生児獲得率(実際に子どもが生まれる割合)」は別の指標であり、ガイドラインが妊娠率の改善を報告していても、生児獲得率まで改善するかどうかは研究によって結論が分かれている点は、事前に知っておくと過度な期待や落胆を防げるかもしれません[1]。
受診時に持っていくとよいチェックリスト
- 症状がいつからあるか(陰嚢の違和感・痛みの開始時期)
- 症状が強くなる状況(立位・運動後・長時間の座位など)
- 子どもを希望してからの期間、これまでの妊活の経過
- 過去の精液検査・健康診断の結果(あれば持参)
- 現在治療中の病気、服用中の薬やサプリメント
- 医師に聞きたいこと(例:自分のグレードはいくつか、手術と経過観察のどちらが向いているか、費用や保険適用の範囲)
ここまでの内容を整理すると、判断のポイントは大きく3つに集約されます。1つ目は、グレード(触知の程度)と精液所見の両方を医師に確認したうえで手術の要否を検討すること。2つ目は、日本と海外のガイドラインで細かな条件の書き方は異なるものの、「触知できる」「精液所見に異常がある」という2条件が手術を検討する目安になっている点。3つ目は、手術は妊娠の可能性を高めうる選択肢であって、確実な結果を保証するものではないため、パートナーの状況もあわせて生殖医療の専門家と相談することです。迷ったときは、自己判断で様子を見続けるより、一度泌尿器科を受診して現在の状態を確認することが、遠回りに見えて実は近道になります。
日本人男性における精索静脈瘤の年齢別・地域別の詳細な発症率を継続的に追跡した大規模な国内統計や、サブクリニカル精索静脈瘤を長期間追跡した国内研究については、今回参照した資料には十分な記載が見当たりませんでした。また、日本国内における手術の術式別の再発率・合併症率を大規模に比較した公的データも、今回確認できた範囲では見つかりませんでした。この点は海外のメタアナリシスの数値を参考として紹介していますが、日本人集団でそのまま当てはまるとは限りません。同様に、抗酸化サプリメントの効果についても、研究によって結果が分かれており、どの組み合わせがどの程度有効かという点まで明確に確立しているとは言えない状況です[1]。
よくある質問
精索静脈瘤の手術は必ず受けたほうがいいのですか?
精索静脈瘤にはどんな症状がありますか?
手術の費用はいくらくらいですか?保険は使えますか?
何科を受診すればいいですか?
自分で見つけることはできますか?セルフチェックの方法はありますか?
陰嚢の腫れや違和感は、全部この病気が原因なのですか?
参考文献
- 日本泌尿器科学会(日本生殖医学会後援)「男性不妊症診療ガイドライン2024年版」2024年 https://www.urol.or.jp/lib/files/other/guideline/52_male_infertility.pdf
- 東邦大学医療センター大森病院 リプロダクションセンター(泌尿器科)「精索静脈瘤」 https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/repro/patient/vt.html
- 県立広島病院 泌尿器科「精索静脈瘤」 https://hiroshima.hpho.jp/clinic/urology/urology-intro/疾患に対する治療の説明-intro/
- European Association of Urology「Guidelines on Sexual and Reproductive Health – Male Infertility」2022年版 https://uroweb.org/guidelines/sexual-and-reproductive-health-2022/chapter/male-infertility
- American Urological Association/American Society for Reproductive Medicine「Diagnosis and Treatment of Infertility in Men: AUA/ASRM Guideline」 https://www.auanet.org/guidelines-and-quality/guidelines/male-infertility
- 川崎医科大学総合医療センター 泌尿器科「精索静脈瘤」2023年 https://g.kawasaki-m.ac.jp/data/3622/125/
更新日:2026年7月26日。本記事の内容について、誤りや古い情報にお気づきの際はお知らせください。事実を確認のうえ訂正します。
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