はじめに
近年、日本国内でも糖尿病(いわゆる「血糖値が高い状態が続く病気」)への関心が高まっており、病院や検診で「糖尿病予備群」のリスクを指摘される方も増えています。しかし一方で、糖尿病にまつわる誤解や不正確な情報が数多く流布しているのも事実です。実際、周囲から耳にした情報が正しいのかどうか判断できず、治療のタイミングを逃してしまったり、誤った対処を続けて合併症のリスクを高めてしまったりするケースが少なくありません。そこで本記事では、糖尿病にまつわる代表的な誤解を取り上げながら、より正しい理解を深めるためのポイントを詳しく解説していきます。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本稿では、以下に示す6つの誤解を中心に解説します。記事の後半では、糖尿病に関する研究やガイドラインの最新動向も踏まえながら、運動や食生活についてのヒントを紹介します。実際には「12の誤解」としても広く紹介されていますが、ここでは主に代表的かつ日常生活で話題になりやすい6点にフォーカスしてお伝えします。
専門家への相談
本記事の内容は、現在国内外で公表されている複数の研究やガイドラインの知見に基づいてまとめたものです。特に日常的な診療や指導に関わる医師・管理栄養士などの専門家からの情報、および海外の主要研究機関(アメリカ糖尿病学会、European Association for the Study of Diabetesなど)によるガイドラインの要点を参照しています。また、本文中に登場する医師名としては、オリジナルの文章に記載のあった「Bác sĩ Nguyễn Thường Hanh」(Nội khoa – Nội tổng quát · Bệnh Viện Đa Khoa Tỉnh Bắc Ninh)を例示として挙げています。日本国内の医療機関に通院されている方は、必ず担当医やかかりつけ医にご自身の状況を相談し、個別のアドバイスを受けるようにしてください。
以下では、代表的な6つの誤解をそれぞれ取り上げ、なぜ誤解が生じやすいのか、実際にはどういうメカニズムで血糖値が上昇するのか、どのように対処していけばよいのかを詳述します。さらに、一部では最新の研究結果(ここ4年ほどの間に公表された論文など)を補足しつつ、日本の生活習慣にも応用できるような具体的な説明を加えています。
1. 「糖分を多く摂ると糖尿病になる」という誤解
糖尿病についてよく耳にするのが、「お菓子や甘いものをたくさん食べると糖尿病になる」という説です。実際には「甘いものを食べる=即糖尿病発症」という単純な因果関係ではありません。糖尿病の主な発症メカニズムは、体内でのインスリン分泌量が不足する(1型糖尿病)か、インスリンの働きが十分でなくなる(2型糖尿病)かのいずれかで、血液中のブドウ糖(グルコース)が細胞内に取り込まれにくくなり、高血糖が慢性化するというものです。
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ただし注意点
甘いもの(砂糖やシロップなどで糖質が高い食品)を大量に摂取していると、総エネルギー摂取量が増加しやすくなり、肥満の原因になります。とりわけ日本国内でも、食習慣の変化によって洋菓子や清涼飲料水を多く飲む方が増えており、結果的に肥満が引き起こされ、その肥満がインスリン抵抗性(インスリンの働きを阻害する状態)を悪化させるリスクとなるのは確かです。実際に、多くの疫学調査で「肥満は2型糖尿病発症の大きな要因」ということが示されています。 -
最新研究(肥満と2型糖尿病の関連)
2021年にアメリカで実施された大規模な前向きコホート研究では(Wang Lら, JAMA, 2021, doi:10.1001/jama.2021.10404)、約1万5千人以上の成人を対象に、食生活と糖尿病発症リスクの関係を調査しました。この研究によると、過度な糖質摂取そのものよりも、総摂取カロリーやBMIの上昇がリスク上昇と強く関連していたことが確認されています。これは日本人においても同様の傾向が認められており、結果的に「甘いものの過剰摂取→肥満→インスリン抵抗性の悪化」が糖尿病発症リスクを高める大きな流れとなりやすい、という見方が主流です。
2. 「糖尿病の人は一切砂糖を口にしてはいけない」という誤解
血糖値が高い状態が続く糖尿病では、「絶対に砂糖や甘いものを摂ってはいけない」と思いがちです。しかし、実際には完全な「禁糖」や「禁菓子」が必須というわけではありません。もちろん過剰摂取はよくありませんが、日常的な食事全体のバランスや、個人の運動量・血糖コントロールの状態を見ながら調整していくことが大切です。
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低血糖対策としての糖分摂取
インスリン注射や経口血糖降下薬を使用している方は、急激に血糖値が下がる「低血糖発作」を起こすリスクがあります。このようなとき、ブドウ糖錠や甘いお菓子、果汁100%ジュースなどを適量摂取することで、低血糖状態を素早く改善できるのは大変重要です。したがって、糖分を完全に避けるのではなく、必要に応じて上手に活用することこそがポイントといえます。 -
実際の食事での工夫
例えば少しだけ甘いものを摂りたい場合、1日あるいは1食の総炭水化物量やカロリー配分を考慮したうえで、主食(ごはんやパンなど)の一部を控えめにして、代わりに少量の甘い菓子を楽しむなどの工夫が可能です。実際に世界中のガイドラインでも、必ずしも砂糖を全廃すべきとは明記されていません。むしろ「総カロリーや栄養バランスを崩さない範囲で少量なら許容」というのが一般的な考え方です。
3. 「1型糖尿病は子どもの病気、2型は中高年の病気」という誤解
確かに1型糖尿病は小児や思春期に発症しやすい傾向があります。インスリンを産生する膵臓β細胞が自己免疫反応によって破壊されるため、体内でインスリンがほぼ作られなくなることが特徴です。一方、2型糖尿病はインスリンの分泌量の低下またはインスリン抵抗性が原因で生じることが多く、生活習慣や肥満との関連が強いとされ、45歳以上の中高年に多いイメージがあります。
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若年層にも増加する2型糖尿病
近年、日本を含む先進国では小児肥満や生活習慣の乱れなどにより、10代・20代の若い世代で2型糖尿病の発症が増えています。また、若い頃から食生活の乱れや運動不足が続くことで、成人以降に糖尿病と診断されるケースも目立ちます。 -
大人にも発症しうる1型糖尿病
1型糖尿病が比較的高齢になってから発症するケースも珍しくありません。自己免疫の異常がどのタイミングで顕在化するかは人によって大きく異なるため、30歳以降に初めて1型と診断される方もいます。そのため「1型は子ども限定」という考えは誤りです。 -
最近の国内外の報告
2022年のヨーロッパ糖尿病学会(EASD)で報告されたデータ(Davies MJら, Diabetes Care, 2022, 45(11):2753–2786, doi:10.2337/dci22-0034)でも、1型・2型ともに年齢問わず見られる傾向がさらに強まっていることが示されています。したがって、「自分の年齢ならこのタイプしかかからない」と思い込まず、症状や検査結果をきちんと確認し、適切に対応することが大切です。
4. 「2型糖尿病は軽い病気なので心配いらない」という誤解
2型糖尿病は、日本を含む多くの国で「糖尿病患者の大半が2型を占める」といわれるほど一般的な疾患です。しかし「2型だから重症化しない」「たいしたことはない」と軽視してしまうと、結果的に合併症のリスクを高める恐れがあります。
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2型糖尿病の合併症リスク
血糖値が慢性的に高い状態が続けば、細小血管から大血管まで幅広くダメージを受け、網膜症(失明リスク)、腎症(最悪の場合は透析が必要)、神経障害(しびれや痛み)、さらに動脈硬化が進行して心筋梗塞や脳卒中のリスクを高める可能性があります。日本でも糖尿病性腎症は新規透析導入の原因のトップに挙げられるなど、重い合併症につながる恐れがあるのは広く知られています。 -
治療や管理の重要性
2型糖尿病は、生活習慣の改善や経口薬・インスリン治療を含めた適切なアプローチにより、症状をうまくコントロールできるケースが多いとされています。しかし、コントロールを放置して高血糖状態を放っておくと、深刻な合併症を起こし、結果的に生活の質(QOL)の著しい低下や寿命の短縮につながる危険があります。2型糖尿病を決して軽視せず、医師と相談しながら継続的な管理が必要です。 -
国内での管理状況に関する最新報告
2023年にアメリカ糖尿病学会(ADA)から改訂された「Standards of Medical Care in Diabetes—2023」(Diabetes Care, 2023;46(Suppl 1):S1–S291, doi:10.2337/dc23-SINT)では、2型糖尿病の血糖管理のみならず、肥満、高血圧、脂質異常症など複数要因を包括的にケアし、心血管リスクを総合的に下げることの重要性が強調されています。日本の医療機関でも同様の指針を取り入れる事例が増えており、2型糖尿病であっても早期から専門医のサポートのもと管理を徹底する動きが活発になっています。
5. 「2型糖尿病は太っている人しかかからない」という誤解
確かに肥満は2型糖尿病の最大のリスク要因の一つですが、標準体重ややせ型であっても2型糖尿病を発症する可能性はあります。
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やせ型糖尿病という存在
日本人の中には、やせているように見えて実は内臓脂肪が蓄積しやすい「隠れ肥満」や「サルコペニア肥満」などの体型を持つ方も少なくありません。筋肉量の低下と相まってインスリン抵抗性が上昇し、血糖コントロールが乱れるケースがあるため、見た目だけで判断するのは危険です。 -
遺伝や生活習慣による多面的要因
2型糖尿病は生活習慣(食事、運動、睡眠、ストレス管理)に加え、遺伝的素因や加齢、ホルモンバランスなど多様な要因が絡み合っています。肥満していなくても家族歴がある人、ストレスの多い生活習慣を長年続けている人、極端に不規則な食事リズムが続いている人などは、2型糖尿病のリスクが上昇する可能性があります。したがって「やせているから大丈夫」とは言い切れません。 -
日本での臨床観察
近年はBMIが正常範囲でもHbA1cが高く、糖尿病またはその予備群と診断される例が報告されています。生活習慣を整えることの重要性は、体重にかかわらず誰にとっても同じです。必ず定期的な健康診断や血液検査を受けて、早期発見・早期対応を心がけることが重要となります。
6. 「糖尿病の人はスポーツや運動をしてはいけない」という誤解
糖尿病患者は「運動により低血糖を起こすのではないか」「激しい動きをしてはいけないのではないか」と心配されるケースが少なくありません。もちろん運動の種類や強度、タイミングによっては低血糖などのリスクが高まる可能性がありますが、正しく計画すれば運動はむしろ糖尿病管理に大きな効果をもたらします。
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運動の効果
運動によって筋肉がブドウ糖を積極的に取り込みやすくなり、インスリン抵抗性を改善する効果が期待できます。さらに、有酸素運動や筋力トレーニングによって体脂肪や内臓脂肪を減らし、血糖コントロールを安定させることも可能です。 -
注意点
- 低血糖への対策
運動前後には血糖値をチェックし、場合によっては補食(ブドウ糖や果汁ジュースなど)を用意することが推奨されます。インスリン注射や薬の調整も必要な場合がありますので、主治医や担当医療スタッフと相談の上で自分に合った運動計画を立てましょう。 - 既に合併症がある場合
網膜症が進んでいる場合は激しい運動で眼底出血のリスクを高める恐れがありますし、神経障害がある場合は足のケガに気づきにくいこともあります。したがって、合併症の程度に応じて運動強度を調整することが重要です。
- 低血糖への対策
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専門医のアドバイス例
実際に、内科専門医のBác sĩ Nguyễn Thường Hanhは「すでに合併症を抱える患者さんでも、医師の指導やモニタリングを綿密に行えば、安全かつ効果的に運動療法を取り入れられる」と述べています。大事なのは「適切な運動量と頻度」を見極めることです。 -
研究報告
2021年に米国で行われたランダム化比較試験では、週150分以上の中強度の有酸素運動を続けた2型糖尿病患者群において、HbA1cが統計学的に有意に改善し、さらにインスリン用量の減少や体重管理の面でも好ましい影響が報告されています。この試験結果は特に若年〜中年の患者を対象としており、日本のガイドラインでも運動習慣を推奨する根拠の一つとして取り入れられています。
結論と提言
ここまで、糖尿病に関して特に多い6つの誤解を取り上げ、実際にはどのように考えればよいのかを詳しく説明してきました。重要なポイントは以下の通りです。
- 糖分の多い食品がダイレクトに糖尿病を引き起こすわけではないが、過剰摂取や肥満によるインスリン抵抗性の悪化に注意が必要。
- 完全に甘いものを断つ必要はなく、低血糖対策などで適度に活用することが望ましい。
- 1型・2型ともに、あらゆる年齢層で発症する可能性がある。若いから大丈夫、という油断は禁物。
- 2型糖尿病も決して軽視できない疾患であり、合併症リスクが非常に高い。日常的な管理と医療サポートが必須。
- 標準体重ややせ型でも糖尿病を発症するケースは存在する。体重だけで安心せず、定期的な検査が重要。
- 適切に計画された運動は、糖尿病管理に極めて有用。低血糖リスクなどを医師と相談しながら対策すれば、むしろ運動することで血糖コントロールが改善される。
日本国内でも、糖尿病に対する意識や医療体制は年々充実しつつあります。一方で、誤った情報や先入観が原因で受診や生活習慣の改善が遅れる人も依然として少なくありません。糖尿病は適切にケアすれば長期にわたって良好な状態を保てる可能性がある一方、油断すると合併症を含めて重篤化するリスクが高まります。ぜひ定期的な健康診断や血液検査を怠らず、少しでも気になる症状や不安があれば医療専門家に相談するようにしてください。
- 今後の展望について
最新の治療薬や持続血糖測定器などのテクノロジーの進歩もあり、糖尿病患者のQOLを高めるための手段が増えています。特に2型糖尿病ではGLP-1受容体作動薬やSGLT2阻害薬といった新しい治療薬が登場し、日本でも適応の拡大が進んでいます。さらに管理栄養士の食事指導や理学療法士による運動プログラムなど、多職種が連携することで効果的なサポート体制が組まれる例も増えています。
参考文献
- Diabetes: What’s True and False?
https://www.hopkinsallchildrens.org/Patients-Families/Health-Library/HealthDocNew/Diabetes-What-s-True-and-False (アクセス日: 2021年11月12日) - 5 Myths and Misconceptions About Diabetes.
https://riverview.org/blog/nutrition-2/5-myths-and-misconceptions-about-diabetes/ (アクセス日: 2021年11月12日) - 10 Common Misconceptions About Diabetes.
https://www.healthywomen.org/content/article/10-common-misconceptions-about-diabetes (アクセス日: 2021年11月12日) - Diabetes Myths and Facts.
https://www.healthhub.sg/a-z/diseases-and-conditions/592/facts–myths-of-diabetes (アクセス日: 2021年11月12日) - Myths & facts.
https://www.diabetesaustralia.com.au/about-diabetes/myths-facts/ (アクセス日: 2021年11月12日) - Wang L et al. Trends in Prevalence of Diabetes and Control of Risk Factors in the United States, 1999–2018. JAMA. 2021; 326(8):704–716. doi:10.1001/jama.2021.10404
- Davies MJ et al. Management of Hyperglycemia in Type 2 Diabetes, 2022. A consensus report by the American Diabetes Association (ADA) and the European Association for the Study of Diabetes (EASD). Diabetes Care. 2022; 45(11):2753–2786. doi:10.2337/dci22-0034
- American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes—2023. Diabetes Care. 2023; 46(Suppl 1):S1–S291. doi:10.2337/dc23-SINT
本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、個別の診断や治療方針の決定を行うものではありません。糖尿病を含む持病のある方、あるいは疑いのある方は、必ず医師など専門家に直接ご相談いただくようお願いいたします。