【専門医が科学的根拠と徹底解説】あなたの近視、失明原因1位の緑内障リスクを何倍にするか?早期発見の鍵は「眼圧」ではなかった
眼の病気

【専門医が科学的根拠と徹底解説】あなたの近視、失明原因1位の緑内障リスクを何倍にするか?早期発見の鍵は「眼圧」ではなかった

あなたの「近視」、それは単に見え方の問題だと思っていませんか?もしそうなら、この記事はあなたの視力の未来を守るために、今すぐ読むべき最も重要な情報かもしれません。近視は、実は日本における失明原因第1位である「緑内障」の極めて強力な危険因子であることが、最新の科学によって次々と明らかにされています1。しかし、多くの人がその深刻なつながりを知らないまま、あるいは「眼圧さえ正常なら大丈夫」という危険な誤解を抱いたまま過ごしています。本稿では、JapaneseHealth.org編集委員会が、日本緑内障学会の公式ガイドライン、日本の大規模疫学研究(多治見スタディ)、そして国際的な最新のメタアナリシス(複数の研究を統合・分析した最も信頼性の高い科学的根拠)を徹底的に分析し、近視を持つすべての日本人にとって「必読」の知識と、今日から始めるべき具体的な行動計画を提示します。


この記事の科学的根拠

この記事で提示される医学的指導は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、それらが医学的指導にどのように関連しているかのリストです。

  • 日本緑内障学会 (JGS) 診療ガイドライン: 本記事における緑内障の定義、診断基準、および標準的な治療方針に関する記述は、日本の眼科医療における最高権威である同学会の公式ガイドラインに準拠しています2
  • 多治見スタディ (The Tajimi Study): 「40歳以上の20人に1人が緑内障」という、日本の緑内障有病率に関する根幹的なデータは、この大規模疫学研究の結果に基づいています3
  • 国際的なメタアナリシス (2024年版): 強度近視が緑内障リスクを最大12倍にまで高めるという衝撃的な定量的データは、複数の質の高い研究を統合した最新のメタアナリシスから引用しており、本記事の科学的信頼性を担保しています4
  • 厚生労働省 (MHLW) の報告: 緑内障が日本における中途失明原因の第1位であること、また患者の大多数が未診断・未治療であるという事実は、国の公式統計に基づいています5

要点まとめ

  • 近視は、日本人の失明原因第1位である緑内障の最大の危険因子の一つです。最新の研究では、強度近視の場合、緑内障リスクが最大12倍にもなると報告されています4
  • 日本の緑内障患者の7割以上は、眼圧が正常範囲内にある「正常眼圧緑内障(NTG)」です3。したがって、健康診断などで「眼圧が正常」と言われても全く安心はできません
  • 近視の人の目は、眼球が前後に引き伸ばされることで視神経が構造的に弱くなっており、正常な眼圧でもダメージを受けやすくなっています。これが、日本でNTGが多い一因と考えられています6
  • 早期発見の鍵は、眼圧検査だけでなく、眼底検査と、視神経の厚みを精密に測定する「OCT検査」を組み合わせた総合的な眼科検診です。
  • 近視の方は、特に40歳を過ぎたら、症状がなくても定期的に眼科専門医による緑内障の精密検査を受けることが、生涯にわたる視力を守るために極めて重要です。

1. 基本の理解:近視と緑内障は「違う病気」だが、「危険な関係」にある

まず、近視と緑内障は異なる病態です。しかし、この二つが結びついたとき、視力にとって極めて深刻な脅威となります。

1.1. 緑内障とは?:静かに視野を奪う病

緑内障は、日本緑内障学会(JGS)の診療ガイドラインにおいて、「視神経と視野に特徴的変化を有し、眼圧を十分に下降させることにより視神経障害の改善あるいは進行を阻止しうる疾患」と定義されています2。簡単に言えば、目から脳へ情報を送るケーブルの役割を果たす「視神経」が傷つき、それによって見える範囲(視野)が徐々に欠けていく病気です。初期から中期にかけては自覚症状がほとんどなく、静かに進行するため「サイレント・シーフ(静かなる泥棒)」とも呼ばれます。そして、一度失われた視野は二度と元に戻らない、不可逆的な疾患であることが最大の特徴です。

1.2. 近視とは?:単なる「視力の問題」ではない構造的変化

一方、近視は多くの場合、眼球が前後に伸びる「軸性近視」を指します。これは単に「遠くが見えにくい」という屈折異常の問題だけではありません。眼球がラグビーボールのように引き伸ばされることで、眼球の後ろ側にある網膜や視神経が物理的に薄く、弱くなってしまうという「構造的変化」を伴います。この構造的な脆弱性こそが、緑内障との危険な関係の根源となります。

1.3. 正常眼圧緑内障(NTG):日本で最も多い「隠れた」緑内障

日本の緑内障を語る上で決定的に重要なのが、正常眼圧緑内障(Normal Tension Glaucoma, NTG)の存在です。日本の疫学調査である多治見スタディによれば、緑内障患者の実に72%が、眼圧が統計的な正常範囲(10〜21mmHg)に収まっているNTGであることが判明しています3。これは、多くの日本人にとって、健康診断などで行われる一度の眼圧測定だけでは、緑内障を見逃す危険性が非常に高いことを意味します。なぜ眼圧が正常なのに視神経が傷つくのか?その有力な答えの一つが「近視」の存在なのです。

2. 科学が示す真実:近視が緑内障リスクを爆発的に高めるメカニズムと証拠

なぜ近視の人は緑内障になりやすいのでしょうか。その理由は、物理的なメカニズムと、数多くの大規模研究によって裏付けられています。

2.1. なぜリスクが高まるのか?:眼球の「引き伸ばし」が視神経を弱める

近視によって眼球が前後に引き伸ばされると、視神経が眼球壁を貫く部分である「視神経乳頭」に機械的な伸展ストレスがかかります。視神経線維を支える篩状板(しじょうばん)という網目状の構造が薄くなり、変形することで、神経線維そのものが圧迫や血流障害に対して非常に脆弱になります6。その結果、多くの人にとっては全く問題のない「正常な眼圧」であっても、構造的に弱くなった視神経は耐えきれずに傷つき、脱落していってしまうのです。これが近視の人にNTGが多いメカニズムです。

2.2.【定量的リスク】あなたの近視はどれほど危険か?最新メタアナリシスからの答え

このリスクは、感覚的なものではなく、具体的な数値として示されています。過去の研究でも、近視の人は緑内障リスクが2〜3倍高いとされてきました。しかし、2024年に国際的な学術誌に発表された、15の研究を統合した最新かつ最大規模のメタアナリシスは、さらに衝撃的な結果を報告しています。それによると、特に-6ディオプターを超える「強度近視」の場合、緑内障を発症するリスクは、近視でない人と比べて最大で12.0倍にも達することが示されたのです4。この数値は、強度近視が緑内障にとって、もはや無視できない極めて深刻な危険因子であることを明確に物語っています。

2.3. なぜ発見が難しいのか?:近視が緑内障のサインを「隠す」

さらに厄介なことに、近視は緑内障の発見そのものを困難にします。近視の目では、視神経乳頭が傾いたり変形したり、乳頭の周りに萎縮が起きたりといった特有の変化が見られます。これらの変化が、緑内障による初期の損傷と非常によく似ているため、熟練した眼科医でも診断に迷うことがあります6。最新の画像診断装置であるOCT(光干渉断層計)でさえ、近視の目の特殊な形状によって、実際には損傷がないのにあたかも視神経線維が薄くなっているかのような「偽の欠損(pseudodefects)」として表示されることがあり、診断をより複雑にしています6

3. あなたが今すぐやるべきこと:未来の視力を守るための具体的アクションプラン

では、近視を持つ私たちは、この静かなる脅威から視力を守るために、具体的に何をすればよいのでしょうか。

3.1.「眼圧検査だけ」では不十分:本当に必要な検査とは?

繰り返しになりますが、眼圧検査だけでは不十分です。信頼性の高い緑内障検診には、以下の3つの検査を組み合わせることが不可欠です。

  1. 眼底検査:医師が直接、視神経乳頭の形、色、陥凹(へこみ)の状態を観察します。これは最も基本的ながら、非常に重要な検査です。
  2. OCT(光干渉断層計)検査:網膜の視神経線維層の厚さ(RNFL)や神経節細胞複合体の厚さ(GCIPL)をμm(マイクロメートル)単位で精密に測定します。緑内障の最も初期の変化を捉えることができる、現代の緑内障診断に不可欠な検査です4
  3. 視野検査:実際に「見えていない部分(暗点)」がどこに、どの程度存在するかを調べる検査です。自覚症状がない段階での視野の欠けを発見できます。

これら3つの検査を総合的に評価することで、初めて緑内障の正確な診断が可能になります。

3.2. 推奨される検診スケジュール:いつ、どのくらいの頻度で?

科学的根拠に基づき、以下の検診スケジュールを強く推奨します。もしあなたが-6ディオプターを超える強度近視であれば、30代、あるいはそれよりも早くから、一度は眼科専門医による上記の総合的な緑内障検診を受けるべきです。リスクが特に高くないと判断された場合でも、40歳を過ぎたら、1〜2年に一度は定期的な検診を受けることが望ましいでしょう。検診の頻度は、あなたの近視の程度や他の危険因子に応じて医師が個別に判断します。

3.3. 医師との対話:診察時に確認すべき重要な質問リスト

診察の際には、以下の質問をすることで、ご自身の状態をより深く理解し、治療への主体的な参加が可能になります。

  • 「私の近視の程度を考慮すると、OCTの結果を解釈する上で特別な注意点はありますか?」
  • 「私の視神経乳頭には、近視に特有の形状の変化は見られますか?」
  • 「前回の検査結果と比較して、視神経の厚さや視野に何か変化はありますか?」

4. 治療と管理の最前線:希望はどこにあるか

緑内障と診断されても、絶望する必要はありません。治療の目的は、病気の進行を遅らせ、生涯にわたって見える生活を維持することにあります。

4.1. 現在の標準治療:眼圧管理の重要性

現在の緑内障治療の基本は、点眼薬、レーザー治療、手術によって眼圧をコントロールすることです2。眼圧を適切に下げることで、視神経へのダメージを減らし、病気の進行を遅らせることができる唯一の確実な方法です。失われた視野は戻りませんが、残された視野を守ることは十分に可能です。

4.2. 未来への光:日本の大学病院が進める革新的研究

さらに、日本の研究機関は、単なる眼圧管理を超えた未来の治療法開発の最前線に立っています。東北大学の中澤徹教授らのグループは、AIを用いて緑内障を眼科専門医レベルで早期発見する技術を開発しています7。また、東京大学の相原一教授をはじめとする専門家は、神経細胞をダメージから守る「神経保護療法」8や、iPS細胞などを用いた「再生医療」9の研究を精力的に進めており、将来的に失われた視機能を取り戻すことへの希望も生まれています。

5. 社会とのつながり:あなたは一人ではない

緑内障との付き合いは長期にわたりますが、決して一人で抱え込む必要はありません。

5.1. 患者としてのQOL(生活の質)と仕事への影響

緑内障は、日常生活や仕事にも影響を及ぼす可能性があります。定期的な通院のための時間確保や、PC作業など目を使う仕事への不安など、現実的な課題も存在します10。これらの悩みは多くの患者さんが共有するものであり、医療者や社会の理解が求められています。

5.2. 患者会と啓発活動:緑内障フレンド・ネットワークと「ライトアップinグリーン」

日本には、日本緑内障学会の支援のもと、患者自身が運営する「緑内障フレンド・ネットワーク(GFN)」という組織があります11。ここでは電話相談や交流会を通じて、同じ悩みを持つ仲間と情報を交換し、支え合うことができます。また、毎年3月の世界緑内障週間には、全国のランドマークが緑色にライトアップされる「ライトアップ in グリーン運動」が開催され12、社会全体で緑内障の早期発見の重要性を呼びかけています。

結論:あなたの「目」の未来は、今日の行動にかかっている

本稿で明らかにしてきたように、近視はもはや単なる不便さではなく、緑内障という失明原因第1位の疾患に直結する、科学的に証明された重大な危険因子です。特に眼圧が正常でも発症するNTGが大多数を占める日本では、「眼圧だけ」を基準にした自己判断がいかに危険であるかをご理解いただけたと思います。あなたの視力の未来は、遠い将来の問題ではなく、今日のあなたの行動にかかっています。この記事を読み終えた今、あなたができる最も賢明で責任ある行動は、ただ一つ。症状がなくても、眼科専門医に予約を入れ、総合的な緑内障検診を受けることです。それが、10年後、20年後のあなたの「見える世界」を守るための、最も確実な一歩となるでしょう。

よくある質問(FAQ)

軽い近視でも緑内障のリスクはありますか?

はい、リスクは存在します。強度近視に比べれば低いものの、2011年のメタアナリシスによれば、-3ディオプターまでの軽度・中等度の近視であっても、緑内障のリスクは約1.7倍に上昇すると報告されています13。リスクは近視の度数に比例して高くなる傾向があります。

レーシック(LASIK)手術を受ければ、緑内障のリスクは減りますか?

いいえ、減りません。これは非常に重要な誤解です。レーシック手術は角膜の形状を変化させて屈折を矯正するだけで、緑内障の根本原因である眼球の長さや視神経の脆弱性は変わりません。したがって、緑内障のリスクは手術前と全く同じです。さらに、レーシック後は通常の眼圧測定値が実際よりも低く出てしまう可能性があり、問題を隠してしまう危険性さえあります。眼科を受診する際は、必ずレーシックの既往歴を医師に伝えてください。

日常生活でリスクを減らすためにできることはありますか?

現時点で、特定の食事や運動が近視による緑内障を予防するという強力な科学的根拠はありません。しかし、禁煙、血圧や糖尿病の管理といった一般的な健康的な生活習慣は、全身の血管や神経の健康に良い影響を与えると考えられます。とはいえ、最も重要で効果が証明されている予防策は、繰り返しになりますが、定期的な眼科検診による早期発見と早期治療です。

参考文献

  1. Myopia Square. 近視の方に知ってほしい、近視の目が持つ緑内障の課題. [インターネット]. 2024年11月11日 [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.myopia-square.com/2024/11/11/3402/
  2. 日本緑内障学会. 緑内障診療ガイドライン(第5版). [インターネット]. 2022年 [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/resources/member/guideline/glaucoma5th.pdf
  3. Iwase A, Suzuki Y, Araie M, et al. The prevalence of primary open-angle glaucoma in Japanese: the Tajimi Study. Ophthalmology. 2004;111(9):1641-1648. doi:10.1016/j.ophtha.2004.03.029.
  4. Al-Mugheiry TS, Al-Hinai AS, Al-Harthi N, et al. Comprehensive assessment of glaucoma in patients with high myopia: a systematic review and meta-analysis with a discussion of structural and functional imaging modalities. Int Ophthalmol. 2024. doi:10.1007/s10792-024-03321-4.
  5. 公益財団法人 長寿科学振興財団. 緑内障. 健康長寿ネット. [インターネット]. [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/ryokunaishou/about.html
  6. Park KH. Glaucoma and Myopia. Korean J Ophthalmol. 2024;38(1):1-2. doi:10.3341/kjo.2024.0007.
  7. 東北大学. 眼科専門医レベルの緑内障診断AIの開発に成功. プレスリリース. 2025年3月3日. [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/03/press20250303-02-glaucoma.html
  8. まつだアイクリニック. 緑内障における神経保護・2023年日本緑内障学会からの話題. [インターネット]. [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://matsuda-eye-clinic.com/staff-blog/4551
  9. ヒロクリニック. 緑内障再生医療の最新ニュース 2024年11月現在. [インターネット]. [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.hiro-clinic.or.jp/regeneration/glaucoma_latest_news/
  10. 日本眼科学会. 緑内障患者における日常生活困難度と両眼開放視野. [インターネット]. [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.nichigan.or.jp/Portals/0/JJOS_PDF/112_447.pdf
  11. 一般社団法人 緑内障フレンド・ネットワーク. GFNについて. [インターネット]. [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.gfnet.gr.jp/about/
  12. 日本緑内障学会. ライトアップinグリーン運動. [インターネット]. [引用日: 2025年7月28日]. 入手可能: https://www.ryokunaisho.jp/light_up/
  13. Marcus MW, de Vries MM, Junoy Montolio FG, Jansonius NM. Myopia as a risk factor for open-angle glaucoma: a systematic review and meta-analysis. Ophthalmology. 2011;118(10):1989-1994.e2. doi:10.1016/j.ophtha.2011.03.012.
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