【科学的根拠に基づく】耳から膿?「耳だれ(耳漏)」の原因・症状・治療法を徹底解説
耳鼻咽喉科疾患

【科学的根拠に基づく】耳から膿?「耳だれ(耳漏)」の原因・症状・治療法を徹底解説

お子様の耳から突然、膿のような液体が出てきたら、誰でも心配になるものです。あるいは、ご自身の耳に違和感や不快な臭いを感じて、不安に思われているかもしれません。この症状は「耳だれ(耳漏:じろう)」と呼ばれ、様々な耳の病気のサインです。この記事では、日本耳科学会などが策定した診療ガイドラインや最新の国際的な研究に基づき、耳だれの正体から、原因となる病気、そして最も信頼できる治療法まで、専門家の視点から徹底的に解説します。患者様やご家族が抱える具体的なお悩みにもお答えし、耳の健康を守るための確かな情報をお届けします。

この記事の科学的根拠

この記事は、最高品質の医学的根拠として明確に引用された情報源にのみ基づいています。以下は、提示された医学的指導に直接関連する、実際に参照された情報源の一部です。

  • 日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会: 本記事における小児の急性中耳炎および滲出性中耳炎の診断、重症度評価、治療方針に関する記述は、同学会らが策定した「小児急性中耳炎診療ガイドライン」および「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン」に準拠しています12
  • コクラン・ライブラリー (Cochrane Library): 急性中耳炎に対する抗菌薬の有効性に関する記述は、世界で最も信頼性の高い医学研究レビューの一つであるコクラン・レビューのシステマティックレビューに基づいています3
  • The Lancet Commission: 中年期以降の難聴が認知症の修正可能な最大のリスク因子であるという重要な指摘は、京都大学の大森孝一教授らが紹介するThe Lancet誌の報告に基づいています4
  • 厚生労働省 (MHLW): 日本における耳鼻咽喉科疾患の罹患状況に関するデータは、厚生労働省が実施した患者調査を情報源としています5

要点まとめ

  • 耳だれ(耳漏)は、急性中耳炎、滲出性中耳炎、外耳炎など様々な耳の病気のサインであり、自己判断は危険です。
  • 液体の性状(膿、透明、血が混じるなど)や臭いは、原因疾患を推測する重要な手がかりとなります。
  • 子供の中耳炎治療、特に抗菌薬の使用は、日本の診療ガイドラインに基づき、重症度に応じて慎重に判断されます1
  • 痛みのない滲出性中耳炎は、聞こえにくさから子供の言葉の発達に影響を与える可能性があるため、注意が必要です2
  • 悪臭を伴う耳だれは、骨を破壊する真珠腫性中耳炎の可能性があり、早期の専門医受診が不可欠です6
  • 中年期以降の難聴は、修正可能な認知症の最大のリスク因子であることが科学的に示されており、耳の健康維持は将来の認知機能保護に繋がります4

「耳だれ」とは?膿や液体の種類でわかること

耳だれ、医学的には耳漏(じろう)とは、耳の穴(外耳道)から液体が流れ出てくる状態を指します7。この液体は、炎症によって作られた膿や滲出液、あるいは血液など様々です。その色や粘り気、臭いといった性状は、耳の中で何が起きているのかを知るための重要な手がかりとなります。

性状による鑑別:膿性、漿液性、粘液性、血性

耳だれの性状を観察することで、原因となっている病気にある程度の見当をつけることができます。ただし、これはあくまで目安であり、正確な診断は必ず専門医に委ねる必要があります。

表1: 耳だれの性状と鑑別疾患8
性状 色・粘度 主な随伴症状 考えられる主な疾患
膿性(のうせい) 黄色〜緑色、ドロリとしている、悪臭を伴うことがある 強い耳の痛み、発熱、耳閉感 急性中耳炎9、慢性化膿性中耳炎10、真珠腫性中耳炎6
漿液性(しょうえきせい) 透明〜淡黄色、水のようにサラサラ 痛みは軽度または無し、耳閉感、聞こえにくさ 滲出性中耳炎2、外耳炎8、急性中耳炎の治癒期
粘液性(ねんえきせい) 白〜褐色、ニカワのように粘り気が強い 強い難聴、耳閉感、気管支喘息の合併 好酸球性中耳炎6
血性(けっせい) 血液が混じり、赤〜褐色 強い耳の痛み、外傷の既往 重症急性中耳炎(鼓膜穿孔)11、外傷性鼓膜穿孔、悪性腫瘍(稀)

耳だれの主な原因疾患:お子様から大人まで

耳だれは、様々な病気の一症状として現れます。ここでは、お子様から大人まで、耳だれを引き起こす代表的な疾患を、一般的なものから順に解説します。

最も多い原因:急性中耳炎

急性中耳炎(AOM: Acute Otitis Media)は、特に子供において耳だれの最も一般的な原因です。風邪などをきっかけに鼻や喉の細菌が、耳と鼻をつなぐ管(耳管)を通って中耳に入り込み、急性の炎症を引き起こします1。子供の耳管は大人に比べて短く、太く、傾きが水平に近いため、細菌が侵入しやすい構造になっています1。欧米のデータでは、3歳までに83%の子供が少なくとも一度は急性中耳炎を経験すると報告されており、非常にありふれた病気です12。主な症状は、突然の激しい耳の痛み、発熱、そして耳だれです。まだ言葉で症状を訴えられない乳幼児の場合、理由なく泣き続けたり、不機嫌になったり、頻繁に耳を触ったりすることが重要なサインとなります1

痛みのない耳だれ:滲出性中耳炎と言葉の発達への影響

滲出性中耳炎(OME: Otitis Media with Effusion)は、痛みや発熱といった急性の炎症症状を伴わずに、中耳に液体(滲出液)が溜まる病気です2。急性中耳炎が治癒する過程で、炎症は治まったものの滲出液だけが残り続けることで発症することが多くあります13。主な症状は「聞こえにくさ(難聴)」と「耳の詰まった感じ(耳閉感)」です。痛みが無いため、特に幼児では発見が遅れがちになります14。ここで極めて重要なのは、この病気が子供の言葉の発達に影響を与える可能性があるという点です。音が聞こえにくい「伝音難聴」の状態が長期間続くと、言葉の聞き取りや発音の学習が妨げられる危険性があることが、日本の診療ガイドラインでも指摘されています215。ご家族が「呼びかけへの反応が鈍い」「テレビの音を大きくする」といった変化に気づくことが、早期発見の鍵となります。

繰り返す耳だれ:慢性化膿性中耳炎

慢性化膿性中耳炎(CSOM: Chronic Suppurative Otitis Media)は、急性中耳炎などが治りきらずに鼓膜に穴(穿孔)が開いたままになり、そこから断続的に耳だれが続く状態を指します16。一般的に、6週間以上耳だれが続く場合に診断されます10。痛みはほとんど伴いませんが、悪臭を伴う耳だれや、鼓膜の穴による伝音難聴が主な症状となります17

危険な耳だれ:真珠腫性中耳炎のサイン

真珠腫性中耳炎は、数ある中耳炎の中でも特に注意が必要な、進行性の病気です。鼓膜の一部が中耳の奥側へと窪んで袋状になり、そこに耳垢などが溜まって塊(真珠腫)を形成します。この真珠腫が、周囲の骨を破壊しながら徐々に大きくなっていくのです18。特徴的なサインは「悪臭の強い耳だれ」です6。治療せずに放置すると、難聴や顔面神経麻痺、めまい、さらには髄膜炎や脳膿瘍といった生命に関わる深刻な合併症を引き起こす危険性があるため、手術による摘出が必要となります19

耳の入り口のかゆみと耳だれ:外耳炎

外耳炎は、耳の穴の入り口から鼓膜までの「外耳道」に炎症が起こる病気です20。中耳炎との大きな違いは炎症の場所であり、耳かきのしすぎや、プール・入浴後に耳に水が入ることなどが主な原因です。耳たぶを引っ張ると痛みが強くなるのが特徴で(中耳炎では痛みはあまり変わりません)、強いかゆみや、漿液性の耳だれが見られます21

日本の診療ガイドラインに基づく診断と重症度評価

耳だれで医療機関を受診すると、専門医はどのように診断を下すのでしょうか。そこには、医師の個人的な経験だけでなく、日本の学会が定めた客観的な基準が存在します。そのプロセスを知ることは、ご自身の受ける医療への理解と信頼を深める助けとなります。

専門医による鼓膜の観察(画像で見る鼓膜所見)

診断の基本は、耳鏡や内視鏡を使って鼓膜を直接観察することです。医師は、ガイドラインで定められた項目、すなわち鼓膜の発赤(赤み)、膨隆(腫れ)、そして耳だれそのものの有無などをチェックします1。正常な鼓膜が半透明の真珠色であるのに対し、急性中耳炎では赤く腫れあがり、滲出性中耳炎では内部に溜まった液体が透けて見えるなど、特徴的な所見があります22

小児急性中耳炎の重症度スコアリング

特に小児の急性中耳炎では、診断の客観性を高めるため、日本耳科学会などが策定した診療ガイドラインに「重症度スコア」が定められています1。これは、鼓膜の状態や発熱、耳の痛み、不機嫌さといった項目を点数化し、合計点で重症度を「軽症」「中等症」「重症」の3段階に分類するものです。このスコアに基づいて、その後の治療方針(経過観察か、抗菌薬の投与かなど)が決定されます。

表2: 小児急性中耳炎 重症度スコア(日本耳科学会ガイドライン準拠)1
評価項目 0点 1点 2点
鼓膜所見
発赤 正常 軽度 著明
膨隆 なし 軽度 著明
耳漏 なし あり
臨床症状
耳痛 なし あり 激しい
発熱 37.5℃未満 37.5℃以上 38.5℃以上
啼泣・不機嫌 なし あり 激しい
合計スコアによる重症度分類
軽症:5点以下 / 中等症:6〜11点 / 重症:12点以上

このスコアリングの存在は、診断が医師の主観だけでなく、標準化された手法に基づいていることを示しており、医療の透明性を高める上で非常に重要です。

治療法の選択肢:科学的根拠に基づく徹底比較

耳だれの原因となる病気の治療法は多岐にわたります。ここでは、患者様やご家族が最も知りたいであろう主要な治療法について、それぞれの利点と欠点を、国内外の最高レベルの科学的根拠に基づいて公平かつ詳細に解説します。

抗菌薬(抗生物質)は本当に必要?―国際的根拠と日本の現状

「中耳炎になったら抗菌薬」というのは、かつての常識でした。しかし現在、その考え方は世界的に見直されています。まず、世界で最も信頼性の高い医学研究レビューの一つであるコクラン・レビューの結論を紹介します。それによると、「高所得国の小児急性中耳炎の多くは自然治癒するため、抗菌薬は24時間以内の痛みには効果がなく、その後の痛みへの効果も限定的である」とされています3。さらに、抗菌薬を服用した子供は14人に1人の割合で下痢などの有害事象を経験するというリスクも報告されています23

一方で、日本の「小児急性中耳炎診療ガイドライン」では、前述の重症度スコアに基づき、「軽症例では抗菌薬を投与せず経過観察」、「中等症・重症例では抗菌薬の投与を推奨」としています1。これら二つの情報は一見矛盾しているように見えるかもしれませんが、そうではありません。国際的な研究でも、「2歳未満で両側性の急性中耳炎」や「耳だれを伴う急性中耳炎」といった特定の高リスク群では、抗菌薬の有効性が明確に示されています23。日本のガイドラインも、これらのリスクを考慮した上で重症度を判断しており、考え方の方向性は一致しています。結論として、抗菌薬は全ての症例で必要なわけではなく、医師がガイドラインに基づいて個々の患者さんの状態を慎重に評価し、本当に利益が見込まれる場合にのみ処方されるのです。この慎重な姿勢は、不必要な薬剤の使用を避け、薬剤耐性(AMR)菌の出現を防ぐという世界的な課題にも貢献するものです24

鼓膜切開:メリット・デメリットと適応

鼓膜切開は、鼓膜をごく小さく切開し、中耳に溜まった膿や滲出液を排出させる処置です25。最大のメリットは、膿を排出することで、激しい痛みや高熱が劇的に改善する即効性です26。日本のガイドラインでは、重症例や、抗菌薬治療で改善しない中等症例に対して推奨されています26。一方で、子供にとっては恐怖を伴う侵襲的な処置であるというデメリットもあります26。一部の医師からは、ほとんどの症例は切開しなくても自然に治癒するため、その必要性は限定的であるとの意見も存在します27。切開した穴は、通常数日で自然に閉鎖します28

繰り返す中耳炎への対策:鼓膜チューブ留置術

鼓膜チューブ留置術は、何度も中耳炎を繰り返す場合や、滲出性中耳炎が長引く場合に行われる小手術です2。鼓膜に数ミリの小さなチューブを留置することで、中耳内の換気を保ち、液体が溜まりにくい状態を作ります。滲出性中耳炎が3ヶ月以上続き、難聴や鼓膜の病的変化、言葉の遅れなどが見られる場合や、頻繁に急性中耳炎を繰り返す「反復性中耳炎」が主な適応となります2。チューブは通常、6ヶ月から1年程度で自然に脱落し、穴も自然に閉じることがほとんどですが、稀に穿孔が残ることもあります12

家庭でできる痛みへの対処法:市販の解熱鎮痛薬の使い方

急性中耳炎のつらい症状は、何といっても激しい痛みです。夜間に突然痛み出した場合など、すぐに受診できない状況では、家庭での痛みの管理が最優先となります29。子供にはアセトアミノフェン、大人にはイブプロフェンやロキソプロフェンといった市販の解熱鎮痛薬が有効です30。ただし、用量・用法は必ず守り、不明な点があれば薬剤師に相談してください。

患者様とご家族の悩みにお答えします

ここでは、臨床的な情報だけでは解決できない、患者様やそのご家族が実際に抱える具体的な悩みや不安に直接お答えします。

「夜泣きがひどい」「機嫌が悪い」―親御さんのストレスと対処法

言葉を話せない乳幼児が中耳炎になると、激しい夜泣きや不機嫌といった形でサインを送ります。原因がわからず、何時間も泣き続ける我が子を前に、多くの親御さんが「うちの子だけではないか」と強いストレスや不安を感じます31。しかし、その「不機嫌」という親御さんの観察こそが、前述のガイドラインの重症度スコアにも含まれる、極めて重要な医学的所見なのです1。まずは、痛み止めを適切に使用し、お子様の苦痛を和らげてあげることが第一です。また、上半身を少し高くして寝かせると、耳への圧迫が和らぎ、痛みが軽減されることがあります。そして何より、子供の免疫機能は3歳頃から発達し、成長と共にはるかに中耳炎を起こしにくくなるという事実を知っておくことが、親御さんの心の支えとなるでしょう32

「耳だれが臭い」―原因と対策

耳だれが不快な臭いを伴う場合、それは細菌感染が起きているサインです。特に、慢性化膿性中耳炎や、骨を溶かす真珠腫性中耳炎では、強い悪臭が特徴的な症状となります617。また、外耳炎や、耳垢が固まって詰まる耳垢栓塞(じこうせんそく)が原因であることもあります33。気になって自己判断で耳の奥を綿棒などで掃除しようとすると、かえって耳垢を押し込んだり、外耳道や鼓膜を傷つけたりして症状を悪化させる危険性があります8。臭いを伴う耳だれに気づいたら、必ず耳鼻咽喉科を受診し、専門家による適切な処置を受けてください。

治療にかかる費用と公的医療保険制度

治療を受けるにあたり、費用は現実的な懸念事項です。日本の公的医療保険制度のもとでは、ほとんどの治療が保険適用となります。以下に、主な治療・手術にかかる費用の目安(3割負担の場合)を示します。

表3: 主な治療・手術の費用目安と公的保険34
治療・手術 診療報酬点数(片側) 3割負担時の費用目安 備考
初診料 288点 約860円 検査料などが別途かかります。
再診料 73点 約220円 検査料などが別途かかります。
鼓膜切開術 690点 約2,070円 麻酔料などが加算される場合があります。
鼓膜換気チューブ留置術 2,670点 約8,010円 全身麻酔の場合は入院費などが別途必要です35

なお、手術などで医療費が高額になった場合、自己負担額が一定の上限を超えた分が払い戻される「高額療養費制度」を利用できる場合があります36

難聴と認知症―聞こえの健康が未来を守る

この記事の最後に、耳の健康が単に現在の生活の質(QOL)の問題に留まらず、将来の人生そのものを左右する可能性があるという、極めて重要なテーマについて触れたいと思います。

日本における難聴の現状と補聴器の課題

近年、医学界で衝撃的な事実が明らかになりました。世界的に権威のある医学雑誌「The Lancet」の委員会報告によると、「中年期以降の難聴は、修正可能な認知症の最大のリスク因子である」ことが示されたのです437。耳からの情報入力が減ることで脳への刺激が減少し、認知機能の低下に繋がるというメカニズムが考えられています。この指摘は、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会の理事長である大森孝一教授(京都大学)らによっても、日本国内で広く啓発が進められています4

しかし、日本の現状は深刻です。日本の補聴器普及率は15.2%に過ぎず、デンマーク(55.4%)やイギリス(53.1%)といった欧米諸国と比べて著しく低い水準にあります38。その背景には、公的な購入補助が障害者手帳を持つ重度の難聴者に限定されていること39、補聴器が高価であること、そして「補聴器は老いの象徴」といった社会的な偏見(スティグマ)が存在することなどが挙げられます40

この事実は、私たちに重要な示唆を与えてくれます。子供時代の滲出性中耳炎による難聴をしっかりと治療すること、そして成人になってからの聞こえの問題を放置しないこと。それは、その人の人生におけるコミュニケーションの豊かさを守るだけでなく、将来の認知機能の健康を維持するための、最も重要な「投資」の一つなのです。

よくある質問

子供が何度も中耳炎になるのですが、どうすればよいですか?

1年間に3回以上、あるいは半年に2回以上急性中耳炎を繰り返す場合、「反復性中耳炎」と診断されます12。これは、お子様の免疫機能がまだ未熟であることや、集団生活での感染機会が多いことなどが原因です。頻繁に繰り返す場合は、根本的な対策として鼓膜チューブ留置術が検討されることがあります。主治医とよく相談してください。

耳だれが出ているとき、お風呂に入っても大丈夫ですか?

一般的に、耳だれが出ているときは、耳に水が入ると症状が悪化する可能性があるため、シャワーのみとし、入浴は控えることが推奨されます。シャワーの際も、耳に水が入らないように注意が必要です。ただし、病状によって対応は異なりますので、必ず医師の指示に従ってください。

鼓膜チューブを入れたら、プールには入れませんか?

鼓膜チューブ留置中は、耳に水が入ることで感染を起こすリスクがあるため、原則としてプールに入ることはできません。ただし、専用の耳栓を使用するなどの条件付きで許可される場合もあります。これも自己判断せず、必ず主治医の許可を得ることが重要です。

滲出性中耳炎は、大人でもなりますか?

はい、大人でも滲出性中耳炎になることがあります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎(蓄膿症)などで鼻の状態が悪い場合や、飛行機の離着陸などで耳管の機能が低下した場合に発症しやすくなります。大人の場合は、片側だけの滲出性中耳炎が長引く際に、稀に鼻の奥(上咽頭)に腫瘍が隠れていることもあるため、注意深い診察が必要です。

結論

耳だれは、子供から大人まで誰にでも起こりうる、ありふれた症状です。しかし、その背景には、軽い外耳炎から、子供の言語発達を脅かす滲出性中耳炎、さらには骨を破壊し深刻な合併症を引き起こす真珠腫性中耳炎まで、様々な病気が隠れている可能性があります。重要なのは、自己判断で放置したり、誤った対処をしたりしないことです。

現代の医療では、治療法の選択(特に抗菌薬や手術)は画一的ではありません。日本の診療ガイドラインや国際的な科学的根拠に基づき、個々の患者様の年齢、重症度、そして生活背景までを考慮して、最も適切な方針が慎重に決定されます。ご家族が気づく「何となく機嫌が悪い」「呼びかけへの反応が鈍い」といった僅かな変化も、診断における極めて貴重な情報となります。

そして、子供時代の耳の健康管理は、その子の将来の聞こえ、ひいては認知機能の健康を守るための、かけがえのない投資です。あなたやあなたの大切なご家族が耳だれを経験したら、決してためらわないでください。耳鼻咽喉科の専門医に相談し、正確な診断と、あなたに最適な治療計画を共に立ててもらいましょう。

免責事項この記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  30. EPARKくすりの窓口. 中耳炎におすすめの市販薬を紹介|受診の目安や症状に合わせた選び方や注意点も【薬剤師解説】. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/tympanitis-otc-20511/
  31. Caloo. 病気体験レポート一覧: 耳が痛い 88件. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://caloo.jp/reports/lists/s48
  32. こどもの杜. 小児急性中耳炎の基礎知識. [インターネット]. 2017年9月23日 [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://ameblo.jp/kodomo030609/entry-12313385390.html
  33. EPARKくすりの窓口. 気になる耳の中臭みやにおいに使える市販薬5選|原因や有効成分についても解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.kusurinomadoguchi.com/column/articles/odor-inside-the-ears
  34. 将監耳鼻咽喉科. 中耳炎の手術費用. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.sendai-surg.gr.jp/cost/
  35. 耳鼻咽喉科サージクリニック老木医院. 手術費用・高額療養費. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.oikiiin.com/price/
  36. 老木医院. 急性中耳炎/滲出性中耳炎の手術※日帰り手術可. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.oikiiin.com/kyusei-ope/
  37. 厚生労働省. 「聞こえる」を大切にする 「聞こえにくい」「聞こえない」に寄り添う(前編). [インターネット]. 2024年10月 [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202410_002.html
  38. ヘルシーヒアリング. 日本と世界で広がる補聴器購入費用助成の格差. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.healthyhearing.jp/hearingaid/topic-article-179
  39. Wedge. 補聴器は高過ぎる!? 動き始めた〝公的助成〟の現在地 全国から注目される「港区モデル」とは?~改善可能な危険因子・難聴⑤. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://wedge.ismedia.jp/articles/-/34266?layout=b
  40. ヘルシーヒアリング. スティグマと難聴. [インターネット]. [引用日: 2025年6月24日]. Available from: https://www.healthyhearing.jp/hearingloss/topic-article-138
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