はじめに
唾液腺腫瘍として知られる病状には、大唾液腺である耳下腺に発生する腫瘍が含まれます。この腫瘍は一般的に良性とされていますが、まれに悪性に移行する可能性があり、適切な診断および治療が非常に重要です。耳下腺にできる腫瘍は、発生原因や症状、治療方法など多角的に理解しておく必要があります。本稿では、耳下腺腫瘍の概要から原因、症状、診断、治療に至るまで詳しく解説し、健康管理の観点から知っておくべきポイントを提示します。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
なお、本記事でご紹介する情報は、あくまでも医療・健康分野における一般的な知識を提供する目的でまとめたものであり、読者の方が実際に治療や検査を受ける際には、必ず医師など専門家の診断・指導を仰いでください。
専門家への相談
耳下腺腫瘍は良性・悪性を問わず、顔の見た目や神経の機能にかかわる繊細な部位の疾患です。そのため、少しでも異常を感じたら耳鼻咽喉科や口腔外科、頭頸部外科など、唾液腺の診療経験が豊富な専門医の診察を受けることが推奨されます。特に腫瘍が大きくなったり、痛み、麻痺などの症状が出た場合には、早期に専門家へ相談し、適切な検査と治療を進めることが重要です。
また、耳下腺以外の唾液腺(顎下腺や舌下腺)にも同様の腫瘍が発生する可能性があるため、顔や首回りのしこりや違和感など、少しでも気になる症状がある場合は放置せずに受診することが望ましいです。
耳下腺腫瘍とは何か
耳下腺は、顔の左右にある3対(耳下腺・顎下腺・舌下腺)の主要な唾液腺のうち、最も大きい唾液腺です。耳のすぐ前方に位置しており、唾液分泌をつかさどっています。ここに発生する腫瘍が耳下腺腫瘍と呼ばれるものです。唾液腺腫瘍全体の中でも、耳下腺に発生する腫瘍は比較的多く、良性であることが多いと報告されています。一方、悪性に移行する症例も存在しているため、定期的な観察や早期発見が望まれます。
耳下腺に腫瘍ができると、腫瘍の発育に応じて顔の輪郭や表情に影響を及ぼす場合があります。たとえば、顔の片側に腫れが生じ、次第に膨らんでくることが挙げられます。この腫れが必ずしも痛みを伴うわけではなく、腫瘍の種類や性質によって成長の速度や症状の出方は大きく異なります。腫瘍が神経を圧迫すると、顔面神経麻痺などの神経症状が引き起こされる可能性もあり、機能面での支障につながるおそれがあります。
耳下腺腫瘍の原因
耳下腺腫瘍の明確な原因は、現在の医学研究においても解明しきれていません。遺伝的要因や環境要因、生活習慣などが複雑に絡み合って発症すると考えられています。特に喫煙が腫瘍の発生率を高める可能性が示唆されているほか、皮膚がんなどが耳下腺へ転移する例も報告されています。ただし大半の症例では、明確なリスクファクターが特定されずに腫瘍が生じているのが現状です。
生活習慣との関連
- 喫煙: 喫煙はがん全般のリスクを高めることが広く認識されていますが、唾液腺腫瘍にも影響を与える可能性があります。
- 飲酒: 直接的な関連ははっきりと示されていないものの、慢性的な大量飲酒は全身のがんリスクを上昇させるともいわれており、関連性を疑う研究も少なくありません。
- 栄養バランス: 栄養バランスが崩れた食生活や肥満などは、免疫機能の低下を招く場合があり、腫瘍全般の発生リスクと関わる可能性があります。
遺伝的要因
唾液腺腫瘍の発生には遺伝的素因が関与すると考えられており、家族歴との関連を示唆する研究も存在します。ただし、一般的ながんのように特定の遺伝子変異が明確に解明されているわけではなく、まだ多くの研究が必要とされています。
いずれにしても、はっきりした原因が判明していないケースが多いため、定期的な検査による早期発見が最も大切だといえます。
耳下腺に腫瘍ができた際の症状
耳下腺に腫瘍が形成されると、以下のような症状が現れる場合があります。
- 腫れとしこり
フェイスライン周辺、特に耳の前から下顎角付近にかけて腫れやしこりが触れることがあります。多くは痛みを伴いませんが、腫瘍の種類によっては急速に大きくなり、痛みや違和感が強まることもあります。- 良性腫瘍の場合: ゆっくりと大きくなり、痛みがないことが多い
- 悪性腫瘍の場合: 比較的急速に拡大し、痛みや神経症状を伴う可能性が高い
- 顔の麻痺やしびれ
腫瘍が顔面神経を圧迫すると、顔面神経麻痺が生じ、口角の下垂や片側だけ表情が作りにくい、といった状態が起こります。麻痺の程度や部位は腫瘍の位置や大きさ、浸潤状況によって異なります。 - その他の症状
進行度や腫瘍の種類によって、まれに唾液分泌が減少し口腔内が乾燥するケースも報告されています。また、腫瘍による圧迫感や不快感で日常生活に支障をきたすこともあり、食事や会話に難しさを感じる場合があります。
これらの症状が認められる、または「いつもと違う腫れや違和感」を感じたときは、早めに専門医の診察を受けることが推奨されます。
診断方法
耳下腺腫瘍が疑われる場合、以下のようなステップで診断が進められます。
- 視診と触診
初診では、医師が顔の腫れや触診によるしこりの硬さ、輪郭の変化などを確認します。しこりの表面の性質(柔らかい、硬い、凸凹しているかなど)や大きさ、痛みの有無などを観察することから診断が始まります。 - 画像検査
- X線撮影: 一部の腫瘍ではX線撮影で特徴的な陰影が確認されることがあります。
- 超音波検査(エコー): 腫瘍の大きさや内部の性状をリアルタイムで観察でき、腫瘍内に液体成分が含まれるか、実質性の腫瘍かを把握するのに有効です。
- CTスキャン: 骨との関係や腫瘍の正確な位置関係を把握しやすく、悪性腫瘍の周辺組織への浸潤状態も評価できます。
- MRI: 顔面神経などの軟部組織との関係や腫瘍の広がりをより精密に確認することができます。
- 生検
画像検査で腫瘍が疑われる場合、より確定的な診断には生検が行われます。針生検や切除生検によって腫瘍組織の一部を採取し、病理組織学的に良性か悪性かを判断します。
正確な診断のために、複数の検査を組み合わせて評価することが多く、医師が総合的に判断して治療方針を決定します。
耳下腺腫瘍の治療
耳下腺腫瘍の治療は主に外科的手術による切除が基本です。ただし、良性と悪性では治療の範囲や術後のフォロー体制が異なります。悪性の場合は放射線療法や化学療法が追加されることがあります。
- 部分的な切除
良性と判断された場合や、腫瘍の大きさが比較的小さい場合には、腫瘍とその周辺組織のみを部分的に切除します。顔面神経に近い部位であれば、神経をできる限り温存しつつ腫瘍を取り除く高度な技術が要求されます。 - 全体的な切除
腫瘍が大きい場合や、すでに深い層まで浸潤しているときには、耳下腺全体の切除を含む広範囲な手術が検討されます。悪性が疑われる場合は、周辺リンパ節の郭清(リンパ節を取り除く操作)や周囲組織の切除を行うこともあります。 - 追加療法
悪性腫瘍と確定診断された場合、再発リスクを低減するために手術後に放射線療法や化学療法を行うことがあります。特に周囲への浸潤が認められるケースや組織型によっては、放射線療法を併用することで治療成績を向上させる可能性が報告されています。 - 術後のリハビリテーション
耳下腺周辺には顔面神経が走行しており、手術操作で神経が刺激や損傷を受けると、顔の動きに支障が出ることがあります。そのため、術後は理学療法や作業療法を中心としたリハビリテーションが重要となります。発声や表情筋の訓練などを行い、機能の回復や左右差の軽減を図ります。
最近の研究動向と補足
過去数年にわたって、唾液腺腫瘍の診断・治療に関する研究はさらに進歩してきています。たとえば、2021年にActa Oto-Laryngologica誌で報告されたZhanらの後ろ向き研究では、耳下腺腫瘍を含む唾液腺腫瘍361例について手術成績を分析し、良性腫瘍と悪性腫瘍での術後合併症や再発率の違いが示されています(Zhan C ほか, 2021, Acta Oto-Laryngologica, 141(6):519-523, doi:10.1080/00016489.2021.1892923)。同研究では、術前に画像検査を念入りに行うことで、顔面神経温存や再発リスクの軽減が期待できると報告されました。これは日本国内でも同様の治療指針に応用できると考えられ、特に顔面神経温存が求められる患者への外科的アプローチにおいて有益な示唆となっています。
さらに、2021年にBraz J Otorhinolaryngolで発表されたSongらの報告では、耳下腺腫瘍の一種であるWarthin腫瘍に着目し、80例以上の患者データを解析した結果が示されています(Song CM ほか, 2021, Braz J Otorhinolaryngol, 87(5):580-587, doi:10.1016/j.bjorl.2020.03.007)。この研究では、腫瘍の増大速度や合併症の有無などを検討する中で、早期発見と適切な手術タイミングが長期的な経過を左右する可能性が強調されています。これらの結果は、国内外を問わず、耳下腺腫瘍の診療において非常に参考になると考えられます。
これらの研究からも分かるように、術前の精密検査や術後のフォローアップはより重要視されてきています。特に顔面神経温存の観点からは、経験豊富なチーム医療の体制が整った病院を選択することが望ましいでしょう。
結論と提言
結論
耳下腺腫瘍は多くの場合良性ですが、潜在的には悪性化のリスクをはらんでおり、顔の形態だけでなく神経機能にも影響を及ぼす病態です。腫瘍の種類や進行度によって治療法や手術の難易度、術後のリハビリテーションの必要性は大きく変わります。したがって、早期に専門医による正確な診断を受けることが最も重要です。診断手段としては、超音波、CT、MRIなどの画像検査、そして生検による組織検査が欠かせません。特に悪性の疑いがある場合、速やかな追加治療(放射線療法や化学療法)を検討することで、予後の改善が期待できます。
提言
- 早期発見・早期治療
耳や顎の付近に腫れやしこりを感じたら、痛みの有無にかかわらず専門医を受診しましょう。腫瘍が小さい段階であれば、比較的負担の少ない治療が選択できる場合があります。 - 適切な医療機関の選択
耳下腺腫瘍の手術では顔面神経の温存が重要となるため、頭頸部外科や耳鼻咽喉科など、専門性の高い医療チームが整備された施設での治療が望まれます。 - 術後のリハビリテーションと経過観察
顔面神経の機能回復を促すためのリハビリテーションは、術後の生活の質に大きく寄与します。リハビリ方法や経過観察の頻度など、医師の指示をしっかりと守りましょう。 - 生活習慣の見直し
喫煙や過度の飲酒は全身のがんリスクを高める要因の一つとされます。腫瘍の発生リスク低減には、禁煙を検討する、栄養バランスに配慮した食生活を心がけるなどの取り組みが大切です。 - 定期健診の活用
とくにリスク因子(喫煙習慣や家族歴など)がある方は、早期発見のために定期健診や検診でチェックを受けることをおすすめします。耳下腺腫瘍は症状が出にくい場合もあり、定期的な検査が重要となります。
最後に
耳下腺腫瘍は良性例が多い一方で、悪性化の可能性や顔面神経への影響など看過できない要素が存在します。治療が必要な段階で早期介入できるかどうかが、術後の予後や生活の質に直結します。自覚症状が乏しいケースも多いため、些細な違和感でも見逃さずに医師の評価を受けることが大切です。
免責事項: 本稿で述べた内容は、医療従事者による個別の診断や治療を置き換えるものではありません。何らかの症状や疑いがある場合は、速やかに専門医へご相談ください。
参考文献
- Salivary gland tumors – Mayo Clinic(アクセス日: 2021年8月3日)
- Salivary Gland Tumor – Penn Medicine(アクセス日: 2021年8月3日)
- Benign Salivary Gland Tumors – NCBI(アクセス日: 2021年8月3日)
- Salivary Gland Disease and Tumors – Cedars-Sinai(アクセス日: 2021年8月3日)
- Salivary gland tumors – Radiopaedia(アクセス日: 2021年8月3日)
- Zhan C ほか (2021) “Surgical outcomes in parotid gland tumors: A single-center retrospective review of 361 cases.” Acta Oto-Laryngologica, 141(6):519-523. doi:10.1080/00016489.2021.1892923
- Song CM ほか (2021) “Clinical characteristics and treatment outcomes of Warthin’s tumor of the parotid gland.” Braz J Otorhinolaryngol, 87(5):580-587. doi:10.1016/j.bjorl.2020.03.007
本記事の情報はあくまで参考であり、個々の病状によって最適な治療法は異なります。少しでも気になる症状や疑問がある場合は、専門医に相談することを強くおすすめします。