はじめに
腎臓がん(腎がん)は、早期に発見できれば治療効果が期待できる一方、症状が見られにくい場合や検査を受ける機会が少ない場合など、見逃されがちな側面があります。今回の記事では、腎臓がんに関連するさまざまな検査や診断方法について、なるべく詳しく解説します。普段から定期健診を受けていて、たまたま画像検査で腎臓に異変が見つかったという方も少なくありませんが、症状が疑われる場合や心配がある場合は、医療機関での専門的な評価が欠かせません。本記事では、腎臓がんの検査の流れや目的、各検査方法の特徴、検査結果からわかる病期(ステージ)の考え方などを整理しつつ、腎臓がんの理解を深めることをめざします。
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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事の内容は、腎臓がんに関する様々な研究や医療機関の推奨事項を踏まえています。特に、Thạc sĩ – Dược sĩ – Giảng viên Lê Thị Mai(大学教員・薬学分野)からの監修・助言も考慮してまとめています。ただし、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、診断や治療方針の決定は必ず専門医にご相談ください。
腎臓がんの基礎:検査が重要な理由
腎臓がんは、腎臓の細胞に生じた悪性腫瘍を指します。早期発見が困難な場合もありますが、最近では健康診断や画像検査技術の進歩により、無症状の段階でも偶然に見つかるケースが増えてきました。
- 血尿:腎臓がんによる代表的な症状の一つとして血尿が挙げられますが、必ずしも肉眼でわかる形で出るとは限りません。
- 腰背部の痛みや圧迫感:腎臓付近の鈍痛や圧迫感がみられるケースもありますが、別の要因による腰痛と区別がつきにくいことがあります。
- 検診での偶然の発見:健康診断の腹部エコーやCT検査で、腎臓に疑わしい影が発見されることも少なくありません。
こうした症状や所見がある場合には、より正確な検査を行い、がんの有無や進行度を確認する必要があります。
腎臓がん診断に用いられる主な検査
1. 尿検査
腎臓がんの最も典型的なサインの一つに、血尿(尿中に血液が混入する状態)があります。とくに、肉眼で確認できないほど微量の血液混入であっても、尿検査によって調べることが可能です。
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潜血反応
ごく微量の血液でも陽性となることがあります。実際、腎臓がん患者の半数ほどに血尿がみられると言われています。ただし、潜血反応が陽性の場合でも、腎臓がん以外の原因(感染症や結石など)があり得るため、追加検査が必要です。 -
細菌や蛋白の有無
感染症が疑われるときは、尿中に細菌や白血球が増加する場合があります。腎臓がんによる炎症の有無と区別するためにも、尿検査は基本的なスクリーニングとして重要です。
2. 血液検査
腎臓がんを直接「血液検査だけで」確定診断できるわけではありませんが、血液データから治療方針や病状把握の手がかりとなる指標を得ることができます。
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赤血球数の増減
腎臓がんの一部はエリスロポエチン(赤血球産生を促すホルモン)を過剰に産生し、赤血球数が多くなる「多血症」を引き起こすことがあります。逆に、慢性的に貧血(赤血球数が少ない)を呈するケースもあります。 -
クレアチニン値
腎機能の指標です。クレアチニン値が高ければ腎機能の低下を示唆し、手術や治療法の選択を検討する際の重要情報となります。 -
カルシウム値
腎臓がんが骨へ転移すると、血中カルシウム濃度が上昇する場合があります。また、高カルシウム血症は疲労感や倦怠感、意識障害などを伴うリスクもあるため、検査で早期発見が大切です。 -
肝機能酵素(AST、ALTなど)
腎臓がんが肝臓へ転移しているかどうかの目安になることがあります。これらの値が高い場合には、追加の画像検査を行い、転移の有無を確認する流れが一般的です。
3. 画像検査
腎臓がんの診断や進行度の評価においては、画像検査が非常に大きな役割を果たします。
3-1. 腹部超音波(エコー)
超音波を用いるため放射線被曝がなく、安全性が高いスクリーニング手段です。
- 腎臓の腫瘤(しゅりゅう)の発見
水様性の嚢胞(のうほう)か、実質性の腫瘍かをある程度判別しやすい特徴があります。 - 組織採取(バイオプシー)のガイド
腫瘍の部位や性状を把握し、必要に応じて超音波ガイド下に針生検を行うこともあります。ただし、腎臓がんにおいては針生検を行わずに治療方針が決まるケースも多いです。
3-2. CT(コンピュータ断層撮影)
放射線を使って身体の断面画像を詳細に描出する検査です。腎臓や周囲臓器の状態を立体的に把握できるのがメリットです。
- 腫瘍の大きさ・形状・位置
腎臓がんがどの程度の大きさか、腎臓のどの部分に発生しているかを正確に捉えられます。 - 周囲組織やリンパ節への浸潤
腎臓周辺やリンパ節、ほかの臓器への転移が疑われる場合、造影剤を用いたCTでより正確に評価します。
3-3. MRI(磁気共鳴画像)
強力な磁場と電波を利用するため、X線被曝がありません。CTよりさらに細かな軟部組織の描出が可能です。
- 血管や脊髄への浸潤評価
腎臓周囲の大きな血管(腎静脈や下大静脈など)へ腫瘍が進展していないか、また脊髄や脳への転移が疑われる場合など、MRIが有用です。 - 造影剤によるリスク回避
一部の患者ではCT用の造影剤にアレルギーがあることもあり、そのようなケースでは造影MRIが検討されることがあります。
3-4. PET(陽電子放射断層撮影)
がん細胞の代謝の高さを利用して、全身のがん病変を映し出す検査です。腎臓がんの転移を評価する目的で行われることがありますが、腫瘍の種類によっては必ずしも高い集積を示さないケースもあるため、結果の解釈には注意が必要です。
3-5. 骨シンチグラフィ(骨シンチ)
骨への転移の有無を調べる検査です。腎臓がんは進行すると骨へ転移することがあるため、骨痛がある場合や血中カルシウム値が上昇している場合に行われることがあります。
4. 内視鏡検査(膀胱鏡)
尿路全体を観察するために、尿道から膀胱鏡を挿入し、膀胱や尿管の内部、必要に応じて腎盂(じんう)まで観察することがあります。ただし、画像検査で腎臓に腫瘍が明確に確認されれば、膀胱鏡は省略される場合も多いです。
5. 針生検(生検)
ほかの臓器のがんでは、腫瘍の確定診断に細胞や組織を採取して顕微鏡で検証する生検が一般的ですが、腎臓がんの場合は、画像検査によって高い確率で悪性が疑われるときには、そのまま外科的治療(腎部分切除など)に進むことが少なくありません。
- 腎臓がんで生検を行う例
腫瘍の良悪性が画像上で判別困難な場合や、転移巣への対処方針を決めるために転移巣の生検を行うことがあります。 - リスクとメリット
生検には出血や感染などのリスクがあるため、行う意義がはっきりしているときに限定されます。
腎臓がんの病期(ステージ)分類
腎臓がんと確定診断されたあと、治療方針を決めるうえでもっとも重要なのが病期(ステージ)の評価です。以下の要素を総合的に判断し、I期からIV期までに分類されます。
- 腫瘍の大きさや腎臓内での広がり
- 腎臓周囲組織やリンパ節への浸潤
- 遠隔転移(他臓器への転移)の有無
ステージI
- 腫瘍の大きさが7cm以下
- 腎臓内にとどまっており、リンパ節や周辺組織への浸潤はない
ステージII
- 腫瘍の大きさが7cmを超える
- ただし腎臓の範囲内にとどまっており、リンパ節や周辺組織への浸潤はない
ステージIII
- 腫瘍が腎静脈や下大静脈といった大血管に入り込んでいる場合
- あるいはリンパ節への転移が確認される場合
- 腎臓の被膜を超える浸潤があるが、まだ遠隔臓器には及んでいない
ステージIV
- 腫瘍が腎臓を大きく越えて、隣接する副腎や周囲臓器にまで達している場合
- 遠隔転移(肺、肝臓、骨、脳など)をきたしている場合
- リンパ節転移が広範囲に及んでいる場合
ステージが進むほど、治療の難易度が上がります。一般に、I期やII期など早期発見であれば外科的切除(腎部分切除または腎全摘除)によって根治が期待できるケースが多いです。III期以降になると、周囲組織や血管、さらにはリンパ節転移を考慮した追加治療が必要になることがあり、IV期になると転移先の臓器にも治療の目が向くため、薬物療法や放射線療法を含めた複合的アプローチが検討されます。
腎臓がんの治療方針に影響する検査結果
腎臓がんの疑いがある場合、あるいは確定診断後には、さまざまな追加検査が行われることがあります。ここでは治療方針を決めるうえで注目される検査結果や観点を挙げます。
- 腎機能の状態(eGFRやクレアチニン)
片側の腎臓を部分的に切除しても、もう片側の腎臓が正常に機能していれば問題ない場合もあります。もともと腎機能が低下している患者では、腎温存手術を優先するなど治療法を工夫する必要があります。 - 腫瘍の位置や数
腫瘍が腎臓のどこにあるか(中心部、周辺部、血管付近など)で手術の難易度が変わり、腎臓全摘か部分切除かの判断に影響します。また、多発性腫瘍の際は腫瘍の数や分布に合わせた治療戦略が求められます。 - 転移巣の有無と部位
肺や骨、肝臓、脳などへの転移が確認された場合、外科的治療に加え、全身療法(分子標的薬や免疫療法など)の適応を検討します。
最近の腎臓がん治療研究と検査の重要性
腎臓がん治療においては、近年、分子標的薬や免疫療法を組み合わせた治療法が注目され、さらに臨床試験に基づく新しいアプローチが検討されています。検査で腫瘍の特徴や進行度を正確に評価することが、治療方針を決めるカギとなります。
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免疫チェックポイント阻害薬を含む併用療法
ここ数年で承認や試験が相次ぎ、ステージIV(転移性腎臓がん)など進行例でも延命効果や腫瘍縮小が期待できる報告があります。- たとえば、2021年に権威ある医学誌であるNew England Journal of Medicineに掲載された研究では、進行性腎細胞がんに対するレボチニブ(Lenvatinib)+ペムブロリズマブ(Pembrolizumab)の併用療法が有望であるとの結果が示されました(Motzer RJほか, N Engl J Med. 2021;384(14):1289-1300, doi:10.1056/NEJMoa2035716)。この研究は多施設共同の第3相試験で、対象患者数も大きく、信頼度が高いとされています。日本人患者も含まれており、治療効果の向上が期待できる可能性があると報告されています。
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再発・転移リスクの評価
術前術後の画像検査を繰り返し行い、転移の有無を確認することで、必要に応じて早期に追加治療へ移行できます。近年のシステマティックレビューでは、転移巣の早期発見と迅速対応が長期生存率の向上に寄与するという報告が多く見られます(Powles Tら, JAMA Oncol. 2021;7(6):815-824, doi:10.1001/jamaoncol.2021.0318)。
腎臓がん検査を受けるタイミングと注意点
1. 自覚症状がある場合
血尿や腰背部痛、腫瘍を触れるなど、腎臓がんが疑われる症状がある場合はもちろん、すみやかに泌尿器科や内科を受診し、必要な検査を受けることが推奨されます。
2. 定期健診や人間ドック
無症状であっても、腹部超音波などを通じて偶然発見される例は決して少なくありません。
- 年に1回程度の定期健診
一般的な腹部エコー検査が含まれるコースであれば、腎臓に異変がないかをチェックできます。 - リスク要因のある方
喫煙歴、高血圧、肥満、特定の遺伝性疾患などがある場合は、より定期的なチェックが望ましいとされます。
3. 検査を受ける前に確認すべきこと
- 造影剤アレルギー
CTやMRIで造影を行う際、アレルギーがある場合は事前に医師へ伝え、造影方法を変更したり別の検査を検討する必要があります。 - 妊娠の可能性
妊娠中は放射線被曝を避けるべき検査があるため、検査前に医療スタッフへ必ず伝えるようにします。 - 腎機能評価
造影剤を使用すると腎機能が一時的に悪化することがあり、クレアチニン値などが高い患者では慎重な検討が必要です。
腎臓がんの早期発見に向けた予防的アプローチ
検査の話題とは直接的には異なりますが、腎臓がんのリスク低減には生活習慣の改善も重要です。
- 禁煙:喫煙歴は腎臓がんのリスク上昇と関連しています。
- 適正体重の維持:肥満やメタボリックシンドロームを避けることで、腎臓への負担を軽減できます。
- 高血圧管理:血圧のコントロールは腎機能を守るうえでも重要であり、高血圧が腎臓がんリスクを高めるとの報告もあります。
- バランスのよい食生活:塩分過多を避け、緑黄色野菜・果物・魚などを適度に取り入れることが推奨されます。
こうした予防的アプローチに取り組むとともに、定期的な健康診断の受診が早期発見につながりやすくなります。
結論と提言
腎臓がんは、比較的初期症状が乏しいがんの一つですが、定期健診や人間ドックの普及により、偶然発見されるケースが増加傾向にあります。血尿や腰背部の痛みなど、わかりやすい症状が出る前から以下のポイントを押さえておくことが大切です。
- 尿検査や血液検査:腎臓がんを直接特定するわけではないものの、血尿や多血症・貧血、高カルシウム血症などの兆候を捉えることができます。
- 画像検査(超音波、CT、MRIなど):腎臓内の腫瘍の有無や大きさ、転移状況を評価するために欠かせません。最近ではPETや骨シンチを組み合わせて全身的に評価することもあります。
- 生検(針生検):ほかのがんと比べ、腎臓がんでは生検を行わずに診断・治療に移行することもありますが、疑わしい場合や腫瘍の性質がはっきりしない場合には行われる可能性があります。
- 病期分類:I~IV期までのステージ分類により、手術か薬物療法か、あるいは併用かといった治療方針が大きく変わります。
近年の臨床研究では、早期に診断・治療が開始できれば、外科的治療や免疫療法、分子標的薬などの組み合わせにより、長期生存が期待できるケースが増えているとされています。特に、最新の免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を併用する治療が有効な患者群では、生存率向上に関するデータが蓄積されつつあります。こうした新しい治療法を適切に選択するためにも、検査による正確な病期判定や腎機能評価が欠かせません。
最終的には、腎臓がんの検査は「早期発見・適切治療につなげるための入り口」といえます。特に腎臓がんは見逃されると進行期に至るまで症状が乏しい場合があるため、少しでも異変やリスクを感じた際には早めに受診し、必要な検査を受けることが重要です。
参考文献
- Diagnosis-Kidney cancer. NHS. アクセス日: 15/06/2022
- Kidney cancer. Mayo Clinic. アクセス日: 15/06/2022
- Kidney Cancer. Cleveland Clinic. アクセス日: 15/06/2022
- Tests for Kidney Cancer. American Cancer Society. アクセス日: 15/06/2022
- Kidney Cancer. National Kidney Foundation. アクセス日: 15/06/2022
- Diagnosing kidney cancer. Cancer Council Victoria. アクセス日: 15/06/2022
- Kidney Cancer: Diagnosis. University of Rochester Medical Center. アクセス日: 15/06/2022
- Kidney Cancer Diagnosis & Staging. Memorial Sloan Kettering Cancer Center. アクセス日: 15/06/2022
- Motzer RJ ほか. “Lenvatinib plus Pembrolizumab or Everolimus for Advanced Renal Cell Carcinoma.” N Engl J Med. 2021;384(14):1289-1300. doi: 10.1056/NEJMoa2035716
- Powles T ほか. “Survival Outcomes in Patients With Newly Diagnosed Metastatic Renal Cell Carcinoma Receiving Immunotherapy-based Combination Regimens: A Systematic Review and Meta-analysis.” JAMA Oncol. 2021;7(6):815-824. doi: 10.1001/jamaoncol.2021.0318
注意喚起と免責事項
本記事は腎臓がんに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個々の症状や検査結果によって治療法は異なります。必ず専門の医師による診察や検査を受け、適切な治療方針を相談してください。本記事の内容はあくまでも参考情報であり、最終的な医療判断は医師との対話のうえで行われるべきです。