はじめに
私たちの体内には、血液を運ぶ多くの血管(動脈・静脈・毛細血管)があります。これらの血管に損傷が生じると、血管壁を通じて血液が周囲の組織に漏れ出し、血液のかたまり(血腫、以下「血腫」)を形成することがあります。血腫は小さな点状出血のようなものから、大きく腫脹して生活に支障が出るほどのサイズになる場合までさまざまです。場所や大きさによっては、痛みや腫れ、炎症などを引き起こし、血管周囲の組織にも影響を及ぼします。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本稿では、血腫がどのように発生し、どのような症状や危険因子があるのか、そして治療や日常生活での注意点などを詳しく解説します。記事の内容は医療情報としての正確性を高めるために、複数の研究や専門家の知見を踏まえたうえでまとめていますが、あくまで参考情報であり、個々の状態に応じた最適な治療については必ず医師など専門家にご相談ください。
専門家への相談
この記事の内容をまとめるにあたり、医療分野における信頼性の高い情報源や文献を参照しています。とくに、血腫(Hematoma)に関する基礎的知見は長年にわたり研究・報告が行われており、今もなお新しい知見が蓄積されています。また、医療ネット情報サイトの医学記事や専門医の総説などをもとに、血腫発生メカニズムや症状、原因、治療法について再確認を行いました。加えて、本稿では医師 Lê Thị Mỹ Duyên(内科全般の臨床経験を有する専門家)による監修情報が元の文献に含まれており、その内容を反映しています。記事中ではこの専門家のお名前のみを言及し、それ以外の医療専門家の具体的氏名は言及していません。
なお、本記事で扱う血腫は外傷や病状によって生じるさまざまなケースを総合的に示していますが、個別の病状には異なる要因や併発症が存在する可能性もあります。自己判断ではなく、必ず医療機関や専門家に相談するようにしてください。
血腫(および関連症状)の概要
血腫とは何か
血腫とは、体内の血管に傷や破れが生じた結果、血液が血管外へ漏れ出て周囲組織にたまった状態を指します。多くの場合、以下のような特徴があります。
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血管壁の損傷
動脈・静脈・毛細血管など、いずれかの血管壁に亀裂や破れが生じると、そこから血液が漏れ出ます。血圧が高い動脈側の損傷ほど、血液の漏れ出す量が多くなる可能性があります。 -
血液の固まり(血栓・凝固)
漏れ出した血液は、体の自然な止血機能によって固まりやすくなります。固まった血液のかたまり(血栓)が形成されると、より大きな“しこり”や“腫れ”として触知される場合があります。 -
炎症反応
漏出した血液は組織を刺激し、体内で炎症反応を引き起こします。そのため、痛みや腫れ、発赤(赤み)、発熱感などの症状が現れやすくなります。
血腫は皮膚のすぐ下に起きる場合もあれば、筋肉や臓器内部などの深い組織で生じる場合もあります。深部に血液がたまると、外見上はわかりにくいものの、腫れや局所的な圧迫によって重大な症状を引き起こす可能性があります。
新しい研究による知見
近年では、血腫が形成される過程やその影響について、より詳細なメカニズム解明が進んでいます。たとえばChang, F. ら(2021, Clinical Neurology and Neurosurgery, 207, 106763, doi:10.1016/j.clineuro.2021.106763)は、大きな慢性硬膜下血腫に対して複数の治療戦略を比較し、内科的管理と外科的管理のどちらを選択するかによって予後が大きく異なることを報告しています。日本国内での受診・治療方針を選択する際も、患者一人ひとりのリスクや状態に合わせた判断が重要と考えられます。
主な症状
血腫でよくみられる症状
血腫ができると、しばしば以下のような症状が現れます。これは血液が周囲の組織を刺激したり、局所的な炎症を引き起こしたりするためです。
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発赤
血液成分による刺激が加わり、皮膚や組織が赤みを帯びることがあります。 -
圧痛・触れると痛い
漏れ出た血液や炎症反応によって神経が刺激され、触ると痛みを感じやすくなります。 -
腫れ(腫脹)
血液がたまることで、周辺組織が浮腫のように腫れ上がる場合があります。大きな血腫になると、目で見たり触ったりしてわかるほど顕著になります。 -
熱感(ほてり)
炎症が起きている部位は、体温より高く感じることがあります。 -
痛み(自発痛)
患部を動かさなくてもじんじんと痛む場合があり、深部組織での血腫では内部から強い痛みを訴えることもあります。
これらの症状は血腫の大きさや部位によって強弱があり、必ずすべてがそろうとは限りません。もし痛みや発赤がひどい、または腫れが急激に大きくなるなどの異常を感じる場合は、放置せず早めに受診しましょう。
受診のタイミング
- 痛みが激しく、日常生活が困難になる場合
- 腫れが急激に拡大している場合
- 痛みや赤みが広範囲に及び、他の症状(発熱、倦怠感など)を伴う場合
こうした症状を感じたら、早めに医師に相談してください。特に血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を服用中の方は、小さな打撲でも大きな血腫ができる可能性があるため、注意が必要です。
原因・発生要因
血腫を引き起こす主な原因
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外傷や衝撃
転倒や打撲、交通事故、スポーツなどで強い外力が加わると、血管壁が破損して血腫が形成されやすくなります。大きな事故を想定しがちですが、くしゃみや突然の捻転動作といった軽度の衝撃でも、体調や血管の脆弱性によっては出血が起こることがあります。 -
血管の病変(動脈瘤や奇形など)
動脈瘤(ふくらみ)や血管奇形がある場合、血管壁が通常よりも弱くなっているため、軽度の圧力変化でも破れやすくなります。特に脳内動脈瘤などでは、破裂時に重篤な症状(くも膜下出血など)を引き起こすことがあります。 -
薬剤性の要因
ワルファリンやアスピリン、クロピドグレルなどの抗凝固薬は血液の凝固を抑制するため、わずかな出血でも血が止まりにくく、血腫ができやすくなります。日本でも高齢化に伴い、心臓病や脳卒中予防のためにこれらの薬剤を処方される方が増えています。投与量の管理が重要です。 -
その他の疾患・体質
ウイルス感染症(HIV、肝炎など)や自己免疫疾患、ビタミン不足、長期のアルコール乱用、血液疾患などにより血小板の数や働きが低下すると、出血傾向が高まり血腫が生じやすくなります。
リスクが高まる人
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抗凝固薬を服用している方
転倒などの軽微な外力でも血腫を起こしやすい傾向にあります。自己判断で服薬を中断するのは危険なので、医師と相談のうえ、日常生活でのリスクを最小限にする工夫が求められます。 -
動脈瘤や血管奇形がある方
血管そのものが弱くなっているため、定期的な検査や経過観察が必要です。 -
高齢者
加齢に伴い血管が脆くなり、転倒のリスクも増すため、大きな血腫を起こしやすい傾向があります。
治療と対処法
血腫の基本的な治療アプローチ
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安静(R:Rest)
血腫ができた部位に負担がかからないように安静を保ち、過度な刺激を避けます。 -
冷却(I:Ice)
損傷直後は冷やすことで血管を収縮させ、出血量を抑えるとともに、炎症を軽減させます。氷や保冷材をタオルでくるんで数分おきに当てるのが一般的です。 -
圧迫(C:Compression)
適度な圧迫で内出血を抑え、腫れを軽減します。ただし、強く締めすぎると血行不良を招くため注意が必要です。 -
挙上(E:Elevation)
腕や脚などの末端に血腫ができた場合は、心臓より高い位置に患部を保つと腫れがひきやすくなります。
内科的治療・外科的治療
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内科的治療
多くの皮下出血や小さな血腫の場合、自然に吸収されていくケースが大半です。痛み止めや抗炎症薬を使用して経過観察する方法があります。ただし、抗凝固薬を服用中の場合、別の鎮痛薬が禁忌となることがあるため、自己判断は危険です。主治医や薬剤師に必ず確認しましょう。 -
外科的治療
大きな血腫、もしくは深部組織(脳や内臓など)に血がたまっているケースでは、穿刺排液や外科的ドレナージが必要となることがあります。血腫が周囲の神経や臓器を圧迫している場合は早急な処置が求められます。
新しい研究による知見
脳内出血を含む重度の血腫に関しては、Jiang, Y. ら(2022, Frontiers in Neurology, 13, 832644, doi:10.3389/fneur.2022.832644)が行った調査研究で、早期治療と血腫拡大抑制の重要性が示唆されています。この研究では、内科的なアプローチと外科手術を組み合わせるタイミングが予後改善に大きく寄与する可能性があることも指摘されています。日本国内でも類似した傾向が観察されており、血腫の種類や患者の持病、全身状態に応じて柔軟に治療方針を決めることが大切です。
日常生活での注意点
血腫悪化を防ぐポイント
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けがのリスクを減らす
転倒や打撲を防ぐために、床の段差をなくす、手すりを設置するなど日常環境を整えましょう。特に抗凝固薬を服用している方や高齢者は、つまずきやすい場所を再点検することが重要です。 -
適度な運動
血液循環を良くし、体重管理や筋力向上を図ることで、血管や骨の健康維持にもつながります。ただし、激しいスポーツは外傷リスクを伴うため、ウォーキングや軽い筋力トレーニングなど安全性の高い運動を選びましょう。 -
バランスの良い食生活
血液・血管の健康には栄養バランスの取れた食事が大切です。たとえば、ビタミンKを含む緑黄色野菜、タンパク質豊富な魚介や大豆製品などを適度に摂取するとよいでしょう。抗凝固薬を服用中の方は、ビタミンKを過剰に摂ると薬効が変化する可能性があるため、医師や管理栄養士の指導を仰いでください。 -
医師の指示を遵守する
処方薬を自己判断で中断したり、用量を変えたりしないようにしましょう。特にワルファリンや新規経口抗凝固薬(NOAC)などは血腫リスクと予防効果のバランスが非常に繊細です。
生活の中での注意点
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重い物を持ち上げる動作など、急な力の入れ方に注意
血管への圧力変化が急激に起こると出血しやすくなる場合があります。 -
温めと冷却のタイミングを把握する
怪我直後は冷却を、それ以降の回復期には温めて血液循環を促進するなど、適度な温度刺激を使い分けると回復がスムーズになることがあります。 -
服薬管理
抗凝固薬だけでなく、鎮痛薬やサプリメント、漢方薬なども含め、相互作用を十分に理解しておくことが必要です。疑問があれば専門家に相談しましょう。
血腫の予防と再発を防ぐために
血腫は多くの場合、事故などの予期せぬ外力で突然起こることが少なくありません。しかし、以下のような工夫によってリスクを下げることが可能です。
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安全な生活環境づくり
自宅の床をフラットにし、滑りにくい素材のスリッパを使用する、手すりや転倒防止マットを設置するなど、家の中での転倒・衝突リスクを減らします。 -
定期的な健康診断・血管チェック
血管瘤や脆弱な血管がある場合は、定期的に医師の診察や画像検査を受け、早期発見・早期対策を行うことが重要です。 -
運動・食生活
先述したように、適度な運動やバランスの良い食事は、血液循環を改善し、血管を健康に保つ助けとなります。 -
専門家との連携
すでに血腫を経験した方や、抗凝固薬を服用中の方は、自己判断で生活習慣を変えず、医師・薬剤師などと相談しながら最適なリスクコントロールを図りましょう。
結論と提言
血腫(Hematoma)は、血管壁が何らかの理由で損傷した際に起こる血液の溜まりで、外傷や病変、あるいは抗凝固薬の使用など、多岐にわたる原因で発生します。皮膚のすぐ下にできる小さな血腫は自然吸収されるケースも多い一方、脳内出血などの重篤な合併症となる場合もあります。
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症状や原因の多様性
軽度なものは冷却や圧迫で経過観察可能ですが、大きく腫れたり神経を圧迫したりする場合は外科的処置が必要となることがあります。痛みや発赤が強い場合、または拡大がみられる場合は早めに専門家に相談しましょう。 -
日常生活上の注意
抗凝固薬を服用している方や高齢者は特に注意が必要です。転倒対策や運動習慣、食生活の改善を通して血管を守り、血腫のリスクを低減することが大切です。 -
早期対応の重要性
血腫は放置すると周囲組織に大きな炎症を引き起こしたり、重度の場合は機能障害を残したりする恐れがあります。何か異変を感じたら、自己判断せずに医師の診察を受けることが基本です。
血腫に関する研究は新しい手術手法や内科的治療法に至るまで継続的に進められていますが、それらのアプローチがすべての人に最適とは限りません。個々の健康状態、既往症、服薬状況などを踏まえた上で、必要に応じて専門家へ相談し、早期発見・早期治療・再発予防につなげることが望まれます。
参考文献
- Hematoma. http://www.medicinenet.com/hematoma/page14.htm (アクセス日: 2017年3月12日)
- Hematoma. https://en.wikipedia.org/wiki/Hematoma (アクセス日: 2017年3月12日)
- Hematoma. http://www.medicinenet.com/hematoma/article.htm (アクセス日: 2017年3月12日)
- Chang, F. ら (2021)「Clinical outcomes associated with different management strategies for large chronic subdural hematomas: A retrospective study」Clinical Neurology and Neurosurgery, 207, 106763, doi:10.1016/j.clineuro.2021.106763
- Jiang, Y. ら (2022)「Hematoma expansion in spontaneous intracerebral hemorrhage: Predictors and prevention」Frontiers in Neurology, 13, 832644, doi:10.3389/fneur.2022.832644
本記事はあくまで情報提供を目的としたものであり、医療行為の指針を示すものではありません。実際の治療やケアについては、必ず医師や薬剤師などの専門家にご相談ください。