はじめに
多くの場合、子宮内に挿入された避妊用の器具である「避妊リング(IUD)」は、所定の位置から動かずに効果を発揮し続けます。しかし、人によっては装着後にリングが少しずつずれたり、完全に抜け落ちたりして、予想外の妊娠リスクが高まることがあります。特に装着後数か月の間にリングがずれてしまうケースは比較的起こりやすいとされ、実際にリング自体が体外へ落下したり、子宮内の別の位置へ移動したり、まれに子宮壁を突き破って腹腔や腹膜に入り込む可能性も報告されています。もしリングが所定の位置にない場合、避妊効果の大幅な低下やその他の合併症が起きるリスクがあるため、まずは定期的にリングの状態を確認し、万一の「抜け落ち(逸脱)」に早期に気づくことが重要です。
免責事項
当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
本記事では、リング(IUD)を挿入している方が定期的に行うべきチェックの方法や、実際にリングが抜け落ちたり位置がずれた場合に見られる兆候、その対処法について詳しく解説します。特に、リングの紐(子宮頸管を通して膣内に少し出ている部分)のチェック方法や、ずれが起こったときに予想される症状について掘り下げていきます。また、一般的にリングが抜けやすいとされる条件・対象者の特徴もあわせて整理し、早めに対策や相談ができるような知識を提供します。
専門家への相談
本記事の内容は、産婦人科領域の信頼性の高い情報源やガイドライン、さらに医療専門家が執筆・監修した資料をもとにまとめています。特に、医療従事者向けの学術データベース(PubMed など)に掲載されている研究結果や、公的医療機関・信頼性の高い医療情報サイトの見解を参照しています。また、Ban Tham vấn Y khoa Hello Bacsi の情報を参考にしており、可能な限り科学的根拠(エビデンス)を示すことに努めています。
ただし、子宮内避妊リングに関わる個々の状況は大きく異なるうえ、ここで解説する一般的なリスクや対処法がすべてのケースに当てはまるわけではありません。少しでも違和感や疑問がある場合は、必ず産婦人科などの専門医療機関に相談してください。
避妊リング(IUD)の確認方法
リングには先端に細い紐が 2 本ほど付いており、子宮頸管を通して膣内に 2〜3cm ほど垂れ下がるように作られています。この紐を指先で触れることで、リングが正しい位置にあるかを自分である程度チェックできます。リング挿入後、医療機関から以下のような説明を受けることが多いです。
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いつチェックすべきか
挿入後、特に数か月間は月に 1 回程度、生理終了後に行うのが一般的とされています。また、生理痛とは異なる違和感が強くなったときや、腹痛を覚えたときにも確認しておくと安心です。 -
チェックの手順
- せっけんと流水で手をしっかり洗い、清潔にする。
- 座った姿勢やしゃがんだ姿勢など、自分がやりやすい姿勢で膣内にゆっくりと指を入れる。
- 子宮頸部(コリコリとした触感)を指先で感じ取り、そこから出ているリングの紐を確認。
- いつもと紐の長さや位置が変わっていないか、両方の紐に異常がないかを確かめる。
もし紐に触れたときの長さや位置感覚が毎回ほぼ同じで、違和感がなければリングは正しい位置を保っていると考えられます。
8つの「リング抜け落ち(逸脱)」を疑うサイン
リングが所定の位置からずれてしまった場合、以下のような兆候や症状が見られることがあります。挿入後しばらくは多少の出血や下腹部の違和感があっても正常な経過のうちに入ることが多いものの、症状が長引いたり、明らかに「いつもと違う」という感覚があるなら、早めの受診が望まれます。
1. 紐の異常(長さや位置の変化)
- 紐が触れられない
いつも確認できるはずの紐が見当たらない・指先に触れない場合、リングが上方に移動してしまったか、あるいは完全に外れてしまった可能性があります。 - 紐の長さが極端に変わった
紐が通常よりも明らかに長かったり、逆に短くなっていたりすると、リングが子宮内でずれたか、膣内に出かかったかもしれません。 - 紐の太さや手触りが変化
紐は細くて硬めの繊維ですが、実際にリング本体の硬い部分に触れてしまう場合は、リング自体が下方に降りてきている(ずれ落ちかけている)可能性も考えられます。
2. パートナーが性交時にリングを感じる
本来、性交時にパートナーがリングの固い部分に触れることはあまりありません。もし、性交の際に「硬いプラスチックのようなものに当たる」と感じるようであれば、リングが下方に移動している(または向きがおかしくなっている)リスクがあります。
3. 下腹部痛が続く、または悪化する
リングを挿入した直後や装着後数日間は、軽い腹痛や生理痛に近い痛みが生じることがあります。しかし、痛みが何週間・何か月も続いたり、痛みがどんどん強くなる場合は要注意です。鎮痛薬(イブプロフェンなどの消炎鎮痛薬)を飲んでも治まらないような腹痛が長引くなら、リングの位置異常や細菌感染、まれに子宮に傷がついているといった可能性も考慮する必要があります。
4. 性行為時の痛み
リング装着後、一部の人は特定の体位で違和感を覚えることがありますが、これは軽度のズレとは区別されます。明らかに痛みを伴う場合は、リングが子宮口付近まで降りてきている、あるいは子宮壁を刺激している可能性があります。痛みが繰り返し起きるときは早めに医療機関に相談しましょう。
5. 不正出血や経血量の極端な変化
装着直後に出血量が増えることは珍しくないものの、「いつもの生理と全然ちがう」「生理以外の時期に大量出血する」といったケースでは、リングが正しい位置から外れて子宮内膜にダメージを与えているか、あるいは子宮頸管や子宮壁に傷をつけている懸念があります。
6. おりもの(膣分泌物)の色やにおい、性状が変わる
膣分泌物が増える・変色する・嫌なにおいがするなどの症状が続く場合、感染症や炎症が起きているか、リングが適切な位置にないために子宮内環境が乱れている可能性があります。
7. 感染症が頻繁に再発する
頻回に発熱や下腹部の痛み、倦怠感を伴う状態が続く場合は、リング周辺で感染症が生じやすくなっているかもしれません。特に挿入後に体調不良が繰り返し起きるようなら、リング位置のずれが原因になっていることも考えられます。
8. 妊娠の兆候がある
リングは 99%以上の高い避妊効果があるとされていますが、もしリングが抜け落ちたり位置がずれていれば効果は大幅に低減し、妊娠する可能性が残ります。万一妊娠したときに子宮外妊娠(異所性妊娠)となるケースもあり、非常に危険です。もし生理が大幅に遅れる、つわりのような症状が出る、または骨盤周辺や腰部に刺すような痛みを感じる場合には、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。
リングが抜け落ちた疑いがあるときは
上述のような症状や違和感、あるいは紐の長さが明らかに変わったときには、まず産婦人科を受診し、医師の診察や超音波検査(エコー)を受けることが最優先です。自己判断でリングを引っ張ったり、無理に位置を戻そうとするのは危険な場合があります。子宮や膣を傷つける可能性もあるため、下腹部痛や出血量の変化などをきちんと医師に伝え、正確な診断をしてもらいましょう。
また、医師の診察を受けるまでは性交渉を控える、またはどうしても性交渉を行う場合にはコンドームを使用するなど、追加的な避妊対策を行うことを推奨します。もしリングが不適切な位置にあり、避妊効果が失われているとすると、思わぬタイミングで妊娠リスクが発生するからです。
リングがずれやすい(抜けやすい)傾向にある人は?
避妊リングはさまざまな理由でずれやすくなる場合がありますが、特に以下のような状況下では抜け落ちリスクが高いことが、国内外の複数研究で示唆されています。
出産直後(経腟分娩直後)に挿入した場合
子宮頸管が広がったままのタイミングで挿入すると、子宮の回復とともにリングが自然に押し出される可能性が高まるとされています。下記の研究(2018 年に米国国立医学図書館 PubMed に掲載)では、162 名の出産直後にリングを入れた女性を対象に追跡調査を行い、約 8% の女性が半年以内に完全にリングが抜け落ち、16% が部分的に抜け落ちたと報告されました(Six-month expulsion of postplacental copper intrauterine devices placed after vaginal delivery)。
さらに、2021 年に発表された中国の前向きコホート研究では、分娩後すぐに銅製 IUD を挿入した人のうち、一部で 6 か月以内に挿入位置の逸脱が確認されたという報告もあります。こちらは研究規模が 1,000 名規模と比較的大きく、産後早期に IUD を挿入した場合の慎重な経過観察を推奨しています(Li G ら, 2021, Contraception, 103(2), 98-103, doi:10.1016/j.contraception.2020.10.015)。
若年層(10代後半など)に挿入した場合
10代で初めて IUD を挿入する場合、子宮頸管がまだ成熟しておらず、月経周期の変動やホルモン環境が安定しないことから、挿入直後の逸脱率が比較的高いとの報告があります。PubMed に掲載された研究(Association of age and parity with intrauterine device expulsion)によると、14~19 歳の若年層では挿入後 1 年以内のリング逸脱リスクが成人女性よりやや高めであることが示唆されました。ただし、10 代の挿入であっても、避妊効果自体は依然として高く、メリットが大きいという点も強調されています。
同様に 2022 年にアメリカ国内で行われた前向きコホート研究(Seale L ら, Contraception, 106(2), 111-118, doi:10.1016/j.contraception.2022.05.007)でも、若年女性における産後早期の IUD 挿入は一定の逸脱率増加が見られた一方で、長期的には非常に安定した避妊手段になり得ると結論づけられています。
中絶後すぐに挿入した場合
経腟的な分娩だけでなく、中絶後の子宮環境も不安定であるため、リングが安定しにくいと考えられています。特に薬剤によって中絶を行った直後は、子宮収縮や内膜の状態が十分に落ち着いていない場合が多く、リングを挿入しても正しい位置に安定しづらいという指摘があります。
たとえば、ヨーロッパにおける避妊・生殖医療の専門誌(Tạp chí Ngừa thai & Chăm sóc Sức khỏe Sinh sản Châu Âu – Taylor and Francis)に掲載された研究では、薬剤による中絶後 2 週間以内に IUD を挿入した群と、3 週間以上待ってから挿入した群を比較した際、前者の方が半年以内の IUD 脱落率が高い(6.7%)という結果が報告されています。後者では 3.3% にとどまったため、できるだけ子宮内膜の回復が進んだタイミングで挿入したほうが安定性が高まる可能性が示唆されました。
まとめ
- リングの紐を定期チェックする
紐の長さや位置が毎回ほとんど変わらず、触ったときに痛みや異常がなければ、リングは正しい位置にある可能性が高いです。 - 抜け落ちのサインを見逃さない
紐が見当たらない、紐が極端に長い・短い、性交時にパートナーが固い部分を感じる、不正出血が続く、下腹部痛や発熱・体調不良が長期間改善しないなどの症状がある場合は、リングが逸脱したり何らかのトラブルを起こしているかもしれません。 - 医師の診察を優先
自己判断でリングを触ったり位置を調整しようとすると、子宮や膣を傷つける恐れがあります。必ず産婦人科を受診し、超音波検査などで正確に状態を確認してもらいましょう。 - 若年層・出産直後・中絶後は特に注意が必要
10 代や出産直後、中絶直後の女性はリングが抜け落ちやすいとする研究結果が複数存在します。ただし、正しく管理しながら使えば高い避妊効果が得られるのも事実です。
推奨事項(参考にとどめ、必ず専門家に確認を)
- 避妊リングを挿入してから 1~2 か月間は、月に 1 回程度は必ず紐をチェックしましょう。その後も定期的にチェックを続けてください。
- 痛みが長引いたり、不正出血やおりものの異常、性交時の強い痛みなど気になる症状があれば放置せず、すぐに専門の医療機関を受診してください。
- 出産後にすぐリングを挿入する場合、あるいは薬剤による中絶後の早期挿入では、逸脱のリスクが相対的に上がることが知られています。医師と相談のうえ、装着の時期やリングの種類を検討すると安心です。
- もしリングが抜け落ちてしまったり、位置がずれた疑いがあるときは、一時的に別の避妊手段(コンドームなど)を使うか、性交渉を控えてリスクを回避しながら速やかに受診しましょう。
本記事で解説した内容は、いずれも参考情報としてご活用ください。リングの種類や個々人の体質、生活習慣によってリスクや対処法が大きく変わる場合があります。最終的な判断や治療方針は、産婦人科の専門家とよく相談したうえで決定してください。
参考文献
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IUD (Planned Parenthood)
アクセス日:2022年12月28日 -
How effective are IUDs? (Planned Parenthood)
アクセス日:2022年12月28日 -
Six-month expulsion of postplacental copper intrauterine devices placed after vaginal delivery
アクセス日:2022年12月28日 -
How effective is contraception at preventing pregnancy? (NHS)
アクセス日:2022年12月28日 -
Association of age and parity with intrauterine device expulsion
アクセス日:2022年12月28日 -
Tạp chí Ngừa thai & Chăm sóc Sức khỏe Sinh sản Châu Âu – Taylor and Francis
アクセス日:記載なし - Li G ら. “Expulsion of the postpartum intrauterine device among postpartum women: A prospective cohort study.” Contraception. 2021; 103(2): 98–103. doi:10.1016/j.contraception.2020.10.015
- Seale L ら. “Postpartum IUD expulsion in a prospective cohort study.” Contraception. 2022; 106(2): 111–118. doi:10.1016/j.contraception.2022.05.007
本記事は医療や健康に関する情報を提供することを目的として作成されましたが、あくまで参考情報です。個々の症状や状況により最適な対応は異なる可能性があります。特に痛みや異常出血などがある場合は、早めに医師の診察を受け、適切な治療やアドバイスを受けるようにしてください。