妊娠初期症状、まったくない人も2割。データとACOGガイドラインで見る「稽留流産」との正しい見分け方
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妊娠初期症状、まったくない人も2割。データとACOGガイドラインで見る「稽留流産」との正しい見分け方

妊娠おめでとうございます。期待と同時に、ご自身の体の変化に敏感になるこの時期、「妊娠したはずなのに、つわりや眠気などの“よくある症状”が全くない」という事実に、大きな不安を感じていらっしゃるかもしれません。インターネットで検索すればするほど、「症状がないのは流産の兆候?」といった情報に触れ、心配が募るばかりではないでしょうか。JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、そのような不安を抱える方々のために、最新かつ最も信頼できる医学的証拠に基づき、この記事を作成しました。本稿では、妊娠初期に症状がないことが決して珍しいことではないという事実を具体的なデータで示し、多くの方が最も恐れている「稽留流産(けいりゅうりゅうざん)」との科学的な見分け方を、産婦人科領域で世界的な権威を持つ米国産科婦人科学会(ACOG)のガイドラインを基に、どこよりも詳しく、そして分かりやすく解説します。


この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的証拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源とその医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。

  • 米国産科婦人科学会 (ACOG): 本記事における「稽留流産」の正確な診断基準に関する解説は、同学会が発行する診療指針「Practice Bulletin No. 200: Early Pregnancy Loss」に基づいています。これは、症状の有無によらない客観的な診断の根幹をなすものです。1
  • Benesse (たまひよ)の調査: 「妊娠初期に症状がない人が約2割存在する」という具体的なデータは、日本の妊婦を対象としたこの調査結果を引用しており、体験の正常性を裏付けています。2
  • Nature Reviews Disease Primers / Paediatric and Perinatal Epidemiology誌の論文: 妊娠悪阻(NVP)の有病率に関する国際的な疫学データは、これらの学術論文に基づいており、症状がないことが世界的に見ても一定の割合で存在することを示しています。34
  • 日本産科婦人科学会 (JSOG) / 厚生労働省 (MHLW): 日本国内の妊婦に向けた公式な勧告や健康情報(注意すべき症状、葉酸摂取の重要性など)は、これらの国内最高権威機関の情報に基づいています。56

要点まとめ

  • 妊娠初期に典型的な症状(つわり、眠気など)が全くないことは、異常ではありません。日本の調査では約2割、国際的なデータでも1~3割の妊婦が経験する「正常な個人差」です。
  • 「症状がない=流産」という考えは医学的根拠のない誤解です。初期流産の主な原因は胎児の染色体異常であり、母体の症状の有無とは直接関係ありません。
  • 妊娠が正常に継続しているかどうかの最も確実な証拠は、妊婦健診での超音波検査による胎児心拍の確認です。症状の有無で自己判断することはできません。
  • 米国産科婦人科学会(ACOG)は、稽留流産(症状のない流産)の診断には、超音波検査における客観的な計測値(胎児の大きさや胎嚢の直径など)に基づく厳密な基準を定めています。

1. 妊娠初期に症状がないのは珍しい?データで見る「普通のバリエーション」

多くの方が「妊娠したら必ずつわりがあるもの」と思い込んでいますが、医学的なデータはその認識が必ずしも正しくないことを示しています。日本の大手教育・生活関連企業ベネッセの調査によると、実に約2割の母親が「つわりを経験しなかった」と回答しています。2 これは、妊娠した5人に1人はつわりがないことを意味し、決して稀なケースではないことが分かります。

この傾向は国際的な研究でも裏付けられています。権威ある医学雑誌に掲載された複数の疫学研究を総合すると、妊娠中の吐き気や嘔吐(Nausea and Vomiting of Pregnancy, NVP)を経験しない女性は、全妊婦の約10%から30%にのぼると報告されています。34 つまり、あなたが今、特に目立った症状を感じていなかったとしても、それは世界中の多くの妊婦が経験する「正常な妊娠経過のバリエーションの一つ」なのです。

2. なぜ症状は人それぞれ?ホルモンと体質が関わる医学的背景

では、なぜこれほどまでに症状の現れ方に個人差があるのでしょうか。その鍵を握るのは、妊娠を維持するために不可欠なホルモンと、それに対する個人の体質です。

妊娠が成立すると、女性の体内ではhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)やプロゲステロンといった妊娠ホルモンが急激に増加します。米国産科婦人科学会(ACOG)の報告によれば、つわりや眠気、胸の張りといった妊娠初期症状は、主にこれらのホルモンの変動に対する体の「反応」と考えられています。78

しかし、ホルモンの分泌量のピークや、その変化に対して体がどれだけ敏感に反応するかは、遺伝的な要因や元々の体質によって大きく異なります。9 したがって、症状が強く出る人もいれば、非常に軽い人、そして全く感じない人がいるのは、極めて自然な生理現象と言えるのです。

3.【最も重要なポイント】「症状なし=流産」は医学的根拠のない不安です

多くの方が抱く最大の不安は、「症状がないのは、お腹の赤ちゃんが育っていないサイン、つまり流産なのではないか?」というものでしょう。しかし、JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、「症状の有無と流産を直接結びつける考えには、医学的な根拠がない」という事実を強くお伝えしたいと思います。

ACOGの診療指針によると、妊娠12週までに起こる早期流産の約80%は、受精卵そのものの染色体異常が原因とされています。1 これは、残念ながら妊娠成立の段階で運命づけられている偶発的な事象であり、お母さんの行動や症状の有無とは全く関係がありません。2 言い換えれば、妊娠の継続を左右するのは、お母さんの「気分の悪さ」ではなく、赤ちゃん自身の生命力なのです。症状がないことを、ご自身や赤ちゃんの健康状態と結びつけて悩む必要は全くありません。

4. 稽留流産(症状のない流産)との違いと、ACOG推奨の正確な診断方法

「でも、出血や腹痛といった症状がないまま進行する『稽留流産』というものがあると聞いた」と、さらに不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。その通りですが、ここでも重要なのは、稽留流産の診断が「症状の有無」という主観的な感覚によってではなく、「超音波検査による客観的な所見」によってのみ下されるという点です。

不必要な不安や誤った自己判断を避けるため、ACOGは経腟超音波検査を用いて早期妊娠の失敗(流産)を診断するための、非常に厳密な基準を定めています。110 これは、世界中の産婦人科医が用いる「世界標準」の考え方です。以下にその要点をまとめます。

表:ACOGが推奨する早期流産の確定診断基準(経腟超音波検査)
超音波検査での所見 診断
胎児の頭殿長(CRL)が7mm以上で、心拍が確認できない 流産と確定診断
胎嚢の平均直径(MSD)が25mm以上で、胎芽(赤ちゃんのもと)が確認できない 流産と確定診断
初回の検査で卵黄嚢のない胎嚢を確認後、2週間以上経過しても心拍を伴う胎芽が確認できない 流産と確定診断
初回の検査で卵黄嚢のある胎嚢を確認後、11日以上経過しても心拍を伴う胎芽が確認できない 流産と確定診断

この表からお分かりいただけるように、診断はすべて「ミリメートル単位の計測値」や「心拍の有無」といった客観的な指標に基づいています。リストの中に「母親のつわりの有無」といった項目は一切ありません。この事実を知ることは、不確かな症状に一喜一憂するのではなく、次の健診で医師が確認する客観的な情報こそが重要であると理解する助けとなります。

5. 症状よりも確実!妊娠を確認する「客観的なサイン」の階層

不安を解消するためには、信頼性の低い主観的な「症状」から、信頼性の高い客観的な「サイン」へと意識を切り替えることが大切です。妊娠の確実性は、以下のような階層で確認されていきます。

  1. レベル1(参考程度):主観的な症状
    眠気、だるさ、胸の張り、吐き気など。月経前の症状と酷似しており、個人差も大きいため、妊娠の指標としては最も信頼性が低いものです。11
  2. レベル2(信頼性・中):自己観察によるサイン
    予定日を過ぎても月経が来ない「月経の遅れ」と、高温期が16日以上続く「基礎体温の維持」。これらは、より客観的な妊娠の可能性を示唆します。12
  3. レベル3(信頼性・高):妊娠検査薬での陽性反応
    市販の検査薬で陽性が出た場合、尿中のhCGホルモンを検出しており、妊娠している確率は非常に高いと言えます。13
  4. レベル4(確定診断):医師による臨床的確認
    産婦人科での超音波検査により、子宮内に胎嚢が確認され、さらに胎児の心拍が確認されること。これが、妊娠が正常に継続していることを示す唯一の確実な証拠(ゴールドスタンダード)です。1

6. それでも不安なあなたへ:専門家が推奨する具体的な対処法と相談窓口

知識として理解しても、感情的な不安がすぐに消えるわけではないかもしれません。そのような時には、以下の具体的な行動をとることをお勧めします。

  • 記録をつける:最終月経日や基礎体温を記録しておくと、医師が正確な妊娠週数を把握し、適切な時期に検査を行う助けになります。
  • 適切な時期に受診する:妊娠検査薬で陽性が出たら、早めに産婦人科の予約を取りましょう。早すぎると超音波でまだ何も確認できず、かえって不安が増すこともあります。多くのクリニックでは、最終月経から数えて5週目後半から6週目以降の受診を推奨しています。
  • 質問を準備する:健診の際に、不安に思っていることを正直に医師に伝えましょう。「症状がないのですが、心配ありませんか?」と直接尋ねることで、あなたの状況に合わせた専門的な説明を受けられ、安心につながります。
  • 信頼できる情報源にあたる:インターネットの情報に振り回されず、日本産科婦人科学会5や厚生労働省6といった公的機関が発信する情報を参考にしましょう。

日本の研究では、特に妊娠中の女性がインターネットやSNSを通じて情報を得る中で、不安が増大する傾向も報告されています。1415 信頼できる情報源を選び、いたずらに不安を煽る情報からは距離を置くことも大切です。

よくある質問

妊娠初期症状が急に消えたら、流産のサインですか?

必ずしもそうとは言えません。妊娠週数が進むにつれて、体がホルモンの変化に慣れ、症状が自然に軽くなることはよくあります。162 ただし、症状の消失とともに出血や強い腹痛を伴う場合は、すぐに医療機関に連絡してください。最終的な判断は、医師による診察と超音波検査によってのみ可能です。

つわりがないと、男の子が生まれやすいというのは本当ですか?

これは世界中で広く信じられている俗説の一つですが、赤ちゃんの性別とつわりの有無や重症度との間に、科学的に証明された関連性はありません。赤ちゃんの性別は受精の瞬間に染色体によって決定されるものであり、お母さんの症状とは無関係です。

妊娠検査薬で陽性でしたが、症状が全くありません。妊娠していない可能性はありますか?

妊娠検査薬はhCGホルモンを非常に高い精度で検出するため、陽性であれば妊娠している可能性は極めて高いです。前述の通り、約2割の女性は症状がないまま妊娠期間を過ごします。2 今最も重要なことは、産婦人科を受診し、超音波検査で子宮内に正常に妊娠しているかを確認し、子宮外妊娠などの異常妊娠ではないことを確かめることです。17

結論

妊娠初期に目立った症状がないことは、決して異常なことではなく、むしろ多くの女性が経験する正常な経過の一つです。大切なのは、不確かな症状に一喜一憂するのではなく、定期的な妊婦健診を受け、超音波検査による客観的な「赤ちゃんが元気な証拠」を確認することです。この記事で解説した医学的データやACOGのガイドラインは、あなたの不安を和らげるための強力な知識となります。この情報を胸に、どうぞ自信を持って、穏やかな気持ちで次の健診に臨んでください。そして、どんな小さな不安でも、ためらわずに担当の医師や助産師に相談し、信頼関係を築きながら、素晴らしいマタニティライフをお送りください。

免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

  1. American College of Obstetricians and Gynecologists. ACOG Practice Bulletin No. 200: Early Pregnancy Loss. Obstet Gynecol. 2018;132(5):e197-e207. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30157093/
  2. Benesse (たまひよ). 妊娠しても“つわりがない”けどこれでいいの?つわりがない人の理由… [監修:松藤美穂助産師]. 2023. [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ninshin/content/?id=34658
  3. Fejzo MS, et al. Nausea and vomiting of pregnancy. Nat Rev Dis Primers. 2019;5(1):62. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31515515/
  4. Hinkle SN, et al. Maternal influences on nausea and vomiting in early pregnancy. Paediatr Perinat Epidemiol. 2014;28(5):441-50. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4182010/
  5. 公益社団法人 日本産科婦人科学会. [ウェブサイト]. [引用日: 2025年7月28日]. Available from: http://www.jsog.or.jp/
  6. 厚生労働省. e-ヘルスネット. [ウェブサイト]. [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/
  7. American College of Obstetricians and Gynecologists. ACOG Practice Bulletin No. 189: Nausea And Vomiting Of Pregnancy. Obstet Gynecol. 2018;131(1):e15-e30. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29266076/
  8. Khafaga A, et al. Natural Physiological Changes During Pregnancy. Cureus. 2024;16(3):e56272. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10964813/
  9. Gómez-Coronado N, et al. Ovarian Age-Related Responsiveness to Human Chorionic Gonadotropin in Women with Polycystic Ovary Syndrome. J Clin Endocrinol Metab. 2004;89(8):3769-74. Available from: https://academic.oup.com/jcem/article/89/8/3769/2844278
  10. The ObG Project. Early Pregnancy Loss: How to Make the Ultrasound Diagnosis. 2018. [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://www.obgproject.com/2018/07/19/early-pregnancy-loss-how-to-make-the-ultrasound-diagnosis/
  11. Moony. 妊娠初期症状のチェック方法とは?思い込みや生理前との違いを… [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://jp.moony.com/ja/tips/pregnancy/pregnancy/examination/pt0607.html
  12. 新宿駅前婦人科クリニック. 妊娠初期症状は性行為後いつから? [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://shinjuku-fujinka.or.jp/blog/pregnant/
  13. 小田原マタニティクリニック. 妊娠はいつ分かる?妊娠超初期症状は? [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://kensui-mc.jp/blog/infertility/309/
  14. 東北大学. 妊婦・不妊治療患者の新型コロナウイルスへの感染不安. 2021. [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20210219_01web_fear.pdf
  15. 保健指導リソースガイド. 【新型コロナ】妊婦や不妊治療患者でも感染不安が高まっている… 2021. [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2021/009872.php
  16. Mamari. 【医療監修】妊娠初期に感じる胸の張りの原因。突然なくなることはあるの? [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://mamari.jp/13755
  17. Naturaltech. 妊娠初期症状がない人の特徴とは?… [引用日: 2025年7月28日]. Available from: https://brands.naturaltech.jp/media/mitas-series/columns/noearlypregnancysymptoms-feature
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