脂質異常症(旧称:高脂血症)は、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉)や中性脂肪が高すぎる、あるいはHDLコレステロール(いわゆる善玉)が低すぎる状態を指します。厚生労働省のe-ヘルスネットでは、LDLコレステロール140mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL未満、中性脂肪150mg/dL以上(空腹時)が脂質異常症の診断基準の一例として示されています1。
脂質異常症そのものはほとんど自覚症状がありませんが、長年放置すると動脈硬化を進め、心筋梗塞や脳梗塞、閉塞性動脈硬化症など命に関わる病気の大きな危険因子になります1,5,7。2019年の国民健康・栄養調査では、総コレステロール240mg/dL以上の人が男性12.9%、女性22.4%と報告され、日本では約2,000万人以上が脂質異常症に該当すると推計されています6,11。
本記事では、日本のガイドラインや公的資料をもとに、脂質異常症の仕組み・原因・診断基準・治療薬・生活習慣の整え方・受診の目安までを、できるだけ具体的なイメージを交えながら解説します。自分や家族がどのような状態にあるのか、今後どのタイミングで医療機関に相談すべきかを考えるうえでの「地図」として活用してください。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、厚生労働省e-ヘルスネットや国民健康・栄養調査、日本動脈硬化学会(Japan Atherosclerosis Society: JAS)の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」、世界保健機関(WHO)の心血管疾患に関する情報などの一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています1,2,4,7。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:e-ヘルスネット、国民健康・栄養調査、患者調査など、日本人の生活実態に即した公式統計・解説を優先して参照しています1,2,3,6,8。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本動脈硬化学会のガイドラインやQ&A、日本糖尿病学会の食事・脂質管理に関する提言、JASガイドライン2022を解説した英文論文など、科学的に検証されたエビデンスをもとに要点を整理しています4,5,10。
- 教育機関・医療機関・国際機関:大学病院や健診センターの解説ページ、WHOや世界心臓連合(World Heart Federation)が公開する心血管リスクに関する情報を補助的に利用しています7,11。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会の運営者情報ページをご覧ください。
要点まとめ
- 脂質異常症は、LDLコレステロール高値・中性脂肪高値・HDLコレステロール低値など、血液中の脂質バランスが崩れた状態で、放置すると動脈硬化を進めます1,5。
- 日本では総コレステロール240mg/dL以上の人が約2,000万人と推計され、特に中高年女性で割合が高いことが報告されています6,11。
- 診断には血液検査が用いられ、LDLコレステロール140mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL未満、中性脂肪150mg/dL以上(空腹時)などが判定の目安とされています1,5。
- 治療の基本は食事・運動・禁煙・減量など生活習慣の改善であり、心血管リスクに応じてスタチンなどの脂質低下薬が追加されます2,3,4,8。
- 胸の締めつけるような痛み、突然の息切れ・片麻痺・ろれつが回らないなどの症状は、心筋梗塞や脳梗塞のサインの可能性があり、迷わず119番通報や救急受診が必要です4,7。
- 家族性高コレステロール血症など遺伝性の脂質異常症は、日本でも一般人口の約300人に1人とされ、若い世代でも心筋梗塞リスクが高くなるため、早期発見・積極的な治療が重要です10。
- この記事を通して、自分の検査値の見方、生活でできる対策、どのタイミングでどの診療科に相談すべきかを具体的にイメージできるようになることを目指します。
「甘いものや揚げ物が好きだから仕方ない」「歳をとれば誰でもコレステロールは上がる」と諦めてしまっていませんか。脂質異常症は、確かに年齢や遺伝の影響もありますが、日々の食事や運動、喫煙習慣など、生活の積み重ねで大きく変わる部分もあります1,2,3。
この記事ではまず、睡眠不足や食べ過ぎ・飲み過ぎ、運動不足といった身近な要因から原因を探り、それでも改善しない場合に考えるべき「ホルモンの変化」「糖尿病や腎臓病」などの背景疾患、そして家族性高コレステロール血症のような遺伝性の病気までを、段階的に理解できるよう整理します1,4,5,10。
必要に応じて、生活習慣病に関する総合ガイドや、コレステロール・中性脂肪の詳しい解説ページなど、JHO内の関連記事に自然な文脈で橋渡しを行います。
読み進めるうちに、「まずはどの検査結果をチェックすれば良いか」「今日から食事や運動をどう変えるか」「どのタイミングでどの診療科に相談すべきか」を、ご自身の状況に重ね合わせて考えられるようになることを目指します。
第1部:脂質異常症の基本と日常生活の見直し
ここではまず、「脂質異常症とは何か」「なぜ放置すると危険なのか」といった基礎から、食事・運動・喫煙習慣など、誰もが今日から見直せるポイントを整理します。専門的な検査や薬の話に進む前に、日常生活の中でできる対策をイメージしておきましょう。
1.1. 基本的なメカニズムと体の仕組み
血液の中には、コレステロールや中性脂肪といった「脂質」が含まれています。脂質そのものは悪者ではなく、細胞膜を作ったり、ホルモンの材料になったり、エネルギーとして利用されたりする、私たちの生命維持に欠かせない成分です1,5。
脂質はそのままでは水に溶けないため、「リポタンパク」という粒子に乗って血液中を運ばれます。代表的なものが、LDLコレステロール(悪玉)とHDLコレステロール(善玉)です1,5。
- LDLコレステロール(悪玉):肝臓から全身の細胞にコレステロールを運ぶ役割がありますが、血液中に多すぎると余分なLDLが血管の内側(内膜)に沈着し、コレステロールの塊(プラーク)を作ります。これが動脈硬化の原因になります1,5。
- HDLコレステロール(善玉):血管壁にたまったコレステロールを回収して肝臓に戻す「掃除屋」のような役割を持ちます。HDLが少ないと、血管の掃除が追いつかず、動脈硬化が進みやすくなります1,5。
- 中性脂肪(トリグリセライド):余ったエネルギーを脂肪として蓄える形で、必要なときに分解されエネルギーとして使われます。高すぎる状態が続くと、動脈硬化のリスクに加え、急性膵炎の危険性も高まります1,5。
厚生労働省e-ヘルスネットでは、日本人向けの脂質異常症診断基準として、空腹時採血でLDLコレステロール140mg/dL以上、HDLコレステロール40mg/dL未満、中性脂肪150mg/dL以上、non-HDLコレステロール170mg/dL以上などを示しています1。これらの基準を超える状態が長く続くほど、将来の心筋梗塞や脳梗塞のリスクが高まると考えられています4,5,7。
1.2. 悪化させてしまうNG習慣
脂質異常症は、遺伝や年齢の影響に加え、日々の生活習慣が大きく関わります。厚生労働省や日本動脈硬化学会の資料では、次のような習慣が脂質異常症のリスクを高めるとされています1,2,3,4,5,8。
- 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い食事:脂身の多い肉、バター・ラード、生クリーム、菓子パン、スナック菓子、揚げ物、ショートニングや一部のマーガリンなどはLDLコレステロールや中性脂肪を上げやすくなります2,8。
- 食べ過ぎ・飲み過ぎ:摂取エネルギーが消費エネルギーを大きく上回る状態が続くと、体脂肪が増え、中性脂肪やLDLコレステロールが高くなります2,8。
- 運動不足・長時間座りっぱなし:中強度以上の有酸素運動が不足するとHDLコレステロールが下がりやすく、内臓脂肪も増えやすくなります3。
- 喫煙:タバコはHDLコレステロールを下げ、LDLコレステロールを酸化させて動脈硬化を進めることが知られています4,5,7。
- アルコールの飲み過ぎ:適量を超える飲酒は中性脂肪の上昇につながり、肝臓への負担も増やします1,2,3。
特に、日本糖尿病学会と日本動脈硬化学会は、飽和脂肪酸をエネルギー比で7%未満、コレステロール摂取を1日200mg未満に抑えることを推奨しており、卵黄やレバーなどコレステロールの多い食品は量と頻度に注意することが勧められています2,8。
| こんな症状・状況はありませんか? | 考えられる主な背景・原因カテゴリ |
|---|---|
| 夕食後についデザートやスナックを追加で食べてしまうことが多い | 総エネルギー過多、中性脂肪の上昇リスク |
| 平日はデスクワーク中心で、1日ほとんど歩かない・階段を使わない | 運動不足によるHDLコレステロール低値、内臓脂肪の増加 |
| ストレス発散のために毎晩アルコールを飲み、量も増えがち | 中性脂肪高値、肝機能障害、体重増加 |
| 喫煙歴が長く、なかなか禁煙に踏み出せない | HDL低値、LDL酸化促進による動脈硬化リスク増加 |
| 家族(親や兄弟姉妹)に若くして心筋梗塞や脳梗塞になった人がいる | 家族性高コレステロール血症など遺伝的要因の可能性10 |
第2部:身体の内部要因 — 遺伝・ホルモン・隠れた病気
生活習慣を丁寧に見直してもコレステロール値がなかなか改善しない場合、その背景には遺伝、ホルモンバランスの変化、糖尿病や甲状腺機能低下症、腎臓病など、身体の内側の問題が隠れていることがあります1,4,5,10。
2.1. ライフステージとホルモンバランス【特に女性】
日本の統計では、総コレステロール240mg/dL以上の割合は、更年期以降の女性で特に高いことが報告されています6,11。これは、女性ホルモン(エストロゲン)には動脈硬化を抑える保護的な働きがあり、更年期を境にその働きが弱くなるためと考えられています4,5。
- プレ更年期〜更年期:月経の乱れ、ホットフラッシュとともに、LDLコレステロールが徐々に上昇することがあります。
- 閉経後:エストロゲンの減少により、LDLコレステロールの上昇とHDLコレステロールの低下が進みやすくなり、動脈硬化のリスクが男性に近づきます4,5。
同じ検査値でも、年齢・性別・他の病気の有無によって心血管リスクは大きく異なります。日本動脈硬化学会ガイドライン2022では、年齢・糖尿病・喫煙・高血圧などを組み合わせた総合的なリスク評価に基づいて、LDLコレステロールの管理目標値を決めることが推奨されています4。
2.2. 遺伝的要因 — 家族性高コレステロール血症(FH)
家族性高コレステロール血症(Familial Hypercholesterolemia: FH)は、LDL受容体などの遺伝子異常により、生まれつきLDLコレステロールが非常に高くなる病気です。日本動脈硬化学会は、ヘテロ接合体性FHが日本の一般人口の約300人に1人存在すると報告しています10。
典型的には、次のような特徴がみられます4,5,10。
- 治療前のLDLコレステロールが180mg/dL以上、ときに250mg/dLを超えることもある。
- 親や兄弟姉妹に若くして心筋梗塞や狭心症になった人がいる(男性55歳未満、女性65歳未満など)。
- アキレス腱の肥厚や皮膚の黄色腫(コレステロールが沈着した黄色いしこり)がみられる場合がある。
FHを放置すると、若い年代から心筋梗塞のリスクが高くなりますが、スタチンなどの薬物療法を早期から行い、LDLコレステロールをしっかり下げることでリスクを大きく減らせることが研究で示されています4,10。家族歴が気になる方は、一度医師に相談し、必要に応じて専門的な評価を受けることが大切です。
2.3. 糖尿病・甲状腺機能低下症・腎臓病などの合併症
脂質異常症は、糖尿病、甲状腺機能低下症、慢性腎臓病など、他の病気と深く関わっています。例えば、糖尿病では中性脂肪が高くなりHDLコレステロールが低くなる「糖尿病性脂質異常症」がしばしば見られます4,8。
- 糖尿病:血糖コントロール不良は中性脂肪高値とHDL低値を引き起こしやすく、動脈硬化を加速させます。日本糖尿病学会は、糖尿病患者に対してより厳格なLDL目標(70mg/dL未満など)を推奨しています4,8。
- 甲状腺機能低下症:甲状腺ホルモンが不足すると、LDLコレステロールが上がりやすくなります。脂質異常症を指摘された際には、必要に応じて甲状腺機能検査が行われます4,5。
- 慢性腎臓病:腎機能低下は高トリグリセライド血症とHDL低値を引き起こし、心血管リスクをさらに高めます4,5。
このような背景疾患を持つ場合、単に数字だけで判断するのではなく、ガイドラインに沿って総合的なリスク評価と治療方針の検討が必要です4。
第3部:専門的な診断・治療が必要な状態と検査のすすめ
脂質異常症は、健診などの血液検査によって初めて見つかることがほとんどです。「症状がないから大丈夫」と自己判断せず、検査結果を正しく理解し、必要に応じて医療機関で精査を受けることが大切です1,4,5。
3.1. 脂質異常症の診断基準と検査項目
日本で広く用いられている脂質異常症の診断基準は、日本動脈硬化学会のガイドラインと厚生労働省e-ヘルスネットに基づいています1,4,5,13。代表的な基準は次の通りです。
- LDLコレステロール:140mg/dL以上 → 高LDLコレステロール血症
- HDLコレステロール:40mg/dL未満 → 低HDLコレステロール血症
- 中性脂肪(トリグリセライド):150mg/dL以上(空腹時)または175mg/dL以上(随時) → 高トリグリセライド血症1,4,12,13
- non-HDLコレステロール:170mg/dL以上 → 高non-HDLコレステロール血症1,13
検査では、総コレステロール値だけでなく、LDL、HDL、中性脂肪、non-HDLコレステロール(総コレステロール−HDL)などの項目を総合的に判断します。空腹時か随時採血かも結果の解釈に影響するため、検査時の条件を確認しておきましょう1,4,12,13。
3.2. 「沈黙のリスク」— 症状が出にくいからこその注意点
脂質異常症は、血圧のように日常的な自覚症状が現れにくく、かなり進行するまで違和感を感じないことが多い病気です1,5。しかし、血管の内側では少しずつ動脈硬化が進み、ある日突然、血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞として現れることがあります4,5,7。
日本動脈硬化学会Q&Aでも、脂質異常症は長年の積み重ねで動脈硬化を進行させるが、適切な治療介入により心筋梗塞や脳梗塞の予防が可能であると説明されています5。言い換えると、「症状がないからこそ、検査と予防が重要な病気」と言えます。
3.3. すぐに受診・救急相談すべき危険なサイン
脂質異常症自体は無症状ですが、その結果として起こる心筋梗塞や脳梗塞には、次のような警告サインがあります4,7。
- 突然出現する胸の締めつけ感、押しつぶされるような痛み(数分〜20分以上続く)
- 肩・腕・背中・あご・首に広がる痛みや圧迫感
- 冷や汗、吐き気、強い息切れ、極度のだるさ
- 片側の手足や顔の麻痺、突然のろれつ障害、視野の一部が見えない
- 突然立てない、ふらついて歩けない、強い頭痛
これらの症状が急に出現した場合は、「脂質異常症だから仕方がない」と我慢せず、すぐに119番通報や救急外来の受診を検討してください。時間との勝負になるケースが多く、早期の対応が命や後遺症に大きく影響します。
第4部:今日から始める改善アクションプラン
脂質異常症の治療は、「生活習慣の改善」が根幹であり、薬物療法中であっても生活習慣の見直しは続けるべきだと厚生労働省や日本動脈硬化学会は強調しています2,3,4,13。ここでは、今日から取り組める具体的なステップを、レベル別に整理します。
| ステップ | アクション | 具体例 |
|---|---|---|
| Level 1:今夜からできること | 飽和脂肪酸と中性脂肪を減らす選択をする | 夕食の肉は脂身の少ない部位を選ぶ、揚げ物を煮物・蒸し料理に変える、ビールの量を1杯減らすなど2,8 |
| Level 2:今週末から始めること | 有酸素運動の習慣をつくる | 1日合計30分以上を目標に、早歩きやサイクリングを週5日程度行う。通勤時に一駅分歩く、エレベーターではなく階段を使うなど3 |
| Level 3:1〜3か月かけて取り組むこと | 体重の3〜5%減量を目指す | 食事の量を少しずつ減らし、夜遅い食事を控える。間食や甘い飲料を見直し、週1回は体重を記録するなど2,3,10 |
| Level 4:長期的に続けたいこと | 禁煙とストレスマネジメント | 禁煙外来や相談窓口を活用しながら段階的に本数を減らす。ストレス時の「やけ食い・やけ酒」の代わりに、散歩や深呼吸、趣味の時間を取り入れる3,4,7 |
運動に関して、厚生労働省e-ヘルスネット「脂質異常症を改善するための運動」では、中強度以上の有酸素運動を中心に、毎日合計30分以上を目標として定期的に行うことが推奨されています3。息が少し弾む程度の速歩や軽いジョギング、サイクリング、水中ウォーキングなど、自分が続けやすい活動を選ぶとよいでしょう。
食事については、「飽和脂肪酸を減らす」「魚やナッツ、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸を増やす」「食物繊維を意識して摂る」ことがポイントとされています2,8。白米・白いパンだけでなく、雑穀や全粒粉、豆類、野菜・海藻・きのこ類を意識的に増やすことで、コレステロールの吸収を抑えたり、血糖値の急上昇を防いだりする効果が期待できます。
第5部:専門家への相談 — いつ・どこで・どのように?
「どのタイミングで病院に行けばよいのか」「どの診療科を選べばよいのか」は、多くの方が悩むポイントです。ここでは、日本のガイドラインや診療体制を踏まえながら、受診の目安と準備について整理します1,4,5。
5.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- 健診や検査で、LDLコレステロール140mg/dL以上、中性脂肪150mg/dL以上が続いている、あるいは医師から「要受診」と指摘されている1,4,13。
- 糖尿病・高血圧・腎臓病などの持病があり、コレステロール値も高めと言われている4,8。
- 親や兄弟姉妹に若くして心筋梗塞・脳梗塞になった人がいる、あるいは家族性高コレステロール血症を指摘された人がいる10。
- 階段や坂道で息切れや胸の違和感を感じることが増えてきた、歩くと足が痛くなり休むと楽になる、といった症状がある4,7。
これらに心当たりがある場合、「様子を見る」よりも、かかりつけ医や内科・循環器内科などに一度相談することをお勧めします。特に、胸の痛みや突然の神経症状を感じた場合は、救急受診をためらわないでください4,7。
5.2. 症状・状況に応じた診療科の選び方
- 自覚症状はなく、健診で初めて指摘された場合:まずは地域の内科・総合内科、かかりつけのクリニックで相談し、再検査や生活指導を受けることが一般的です1,4。
- すでに糖尿病・高血圧・腎臓病などで通院している場合:主治医(内科、糖尿病内科、腎臓内科など)にコレステロール値も含めた総合的な管理を相談します4,8。
- 胸の痛み・息切れ・歩行時の足の痛みなどがある場合:循環器内科や血管外科など、心血管領域を専門とする診療科での評価が勧められます4,7。
- 家族性高コレステロール血症が疑われる場合:日本動脈硬化学会が推奨するように、脂質異常症やFHを専門とする医療機関・専門医への紹介が検討されます4,10。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 過去の検査結果:健診結果表、これまでの血液検査のコピーがあれば、数値の推移を確認しやすくなります1,4。
- 現在服用している薬の情報:お薬手帳やサプリメントの一覧。既にスタチンや他の脂質低下薬を飲んでいる場合、その内容が治療方針の検討に重要です4,9。
- 生活習慣のメモ:食事の傾向、飲酒量、喫煙本数、運動量、睡眠時間などを簡単にメモしておくと、医師や栄養士が具体的なアドバイスをしやすくなります2,3,4。
日本では公的医療保険が適用されるため、脂質異常症の診察・検査・薬物療法の多くは3割負担で受けられます(高齢者や所得に応じた負担割合の違いあり)。正確な費用は医療機関によって異なりますが、初診料・血液検査・薬代を合わせて数千円〜1万円前後となることが一般的です。
よくある質問
Q1: 脂質異常症は自覚症状がなくても治療した方がよいのでしょうか?
A1: はい、症状がなくても、検査値や心血管リスクによっては治療が必要と考えられます。脂質異常症は、静かに動脈硬化を進め、ある日突然心筋梗塞や脳梗塞として現れることがあるためです4,5,7。日本動脈硬化学会ガイドラインでは、年齢・喫煙・高血圧・糖尿病などを合わせてリスク評価を行い、その結果に応じてLDLコレステロールの目標値や薬物療法の要否を判断することが推奨されています4。
Q2: 「LDLコレステロール140mg/dL以上」と言われました。すぐに薬を飲むべきですか?
A2: LDLコレステロール140mg/dL以上は、脂質異常症(高LDLコレステロール血症)の診断基準の一つですが1,4,13、すべての人がすぐに薬を飲むべきというわけではありません。喫煙・高血圧・糖尿病・家族歴などを含めた総合的なリスクに応じて、「まずは生活習慣の改善を重点的に行うのか」「早期からスタチンなどの薬を併用するのか」が決まります2,3,4,8。具体的な判断は、主治医と相談しながら行うことが重要です。
Q3: 食事だけでコレステロール値を正常に戻すことはできますか?
A3: 生活習慣に起因する軽度〜中等度の脂質異常症であれば、適切な食事・運動・減量により、LDLコレステロールや中性脂肪を改善できるケースが少なくありません2,3,8。飽和脂肪酸やトランス脂肪酸を減らし、魚・ナッツ・オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸を増やし、食物繊維を意識して摂ることが推奨されています2,8。
一方で、家族性高コレステロール血症など遺伝的要因が強い場合や、糖尿病・腎臓病などの合併症がある場合には、食事療法だけでは十分な改善が難しいこともあり、スタチンなどの薬物療法が併用されます4,5,10。
Q4: スタチンなどのコレステロールを下げる薬は、一度飲み始めたら一生続けないといけませんか?
A4: スタチンはLDLコレステロールを下げ、心筋梗塞や脳梗塞の再発予防に有効であることが多くの研究で示されており、多くのガイドラインで第一選択薬とされています4,14,17。一度の治療で「完全に治る」という性質ではなく、服用している間リスクを下げるイメージに近いため、長期的な内服が勧められることが多いのは事実です。
ただし、全員が必ず一生続けなければならないというわけではなく、生活習慣の改善や体重減少、他のリスク因子の変化などに応じて、主治医と相談しながら薬の種類や量を調整することが可能です4,14。自己判断で中止せず、必ず医師と相談の上で方針を決めましょう。
Q5: 家族性高コレステロール血症(FH)が心配です。どんなときに疑うべきでしょうか?
A5: 次のような条件が複数当てはまる場合、家族性高コレステロール血症が疑われます4,5,10。
- 治療前のLDLコレステロールが180mg/dL以上(とくに250mg/dL以上)
- 親や兄弟姉妹に若くして心筋梗塞や狭心症になった人がいる(男性55歳未満、女性65歳未満など)
- アキレス腱の肥厚や皮膚の黄色腫が見られる
日本動脈硬化学会は、FHが日本でも一般人口の約300人に1人存在するとしており、専門的な診断と治療の重要性を強調しています10。心配な場合は、「家族性高コレステロール血症が気になる」と医師に伝え、必要に応じて専門医を紹介してもらいましょう。
Q6: 高齢になってからコレステロールが高いと言われました。年齢的に仕方ないのでしょうか?
A6: 年齢とともに脂質代謝が変化し、コレステロールが上がりやすくなるのは事実ですが、「年齢のせいだから放置してよい」というわけではありません4,6,11。2019年の国民健康・栄養調査では、高齢者で総コレステロール240mg/dL以上の割合が高い一方で、生活習慣の見直しや薬物療法により心血管リスクを下げる余地があることも示唆されています6,11。
高齢者では、栄養状態やフレイル、他の病気とのバランスも重要になるため、「どこまで数値を下げるべきか」は個別に検討されます4。自分にとっての最適な目標値について、主治医とよく相談することが大切です。
Q7: オメガ3のサプリメントや健康食品は、コレステロールを下げるのに効果がありますか?
A7: 魚に多く含まれるEPA・DHAなどのオメガ3脂肪酸は、中性脂肪を下げる効果があることが知られており、医薬品としてのEPA製剤は高トリグリセライド血症の治療に用いられています4。一方、市販のサプリメントや健康食品は含有量や品質がさまざまであり、医薬品と同じ効果が期待できるとは限りません。
まずは、青魚やナッツ、シソ油・菜種油などの食品としてオメガ3脂肪酸を取り入れることが勧められます2,8。サプリメントの使用を検討する場合は、現在服用している薬との相互作用も含めて、医師や薬剤師に相談すると安心です。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
脂質異常症は、ほとんど自覚症状がないまま長い年月をかけて進行し、ある日突然、心筋梗塞や脳梗塞といった重大な病気として現れる可能性がある「静かなリスク」です4,5,7。しかし、厚生労働省や日本動脈硬化学会のガイドラインが示すように、食事・運動・禁煙・減量などの日常的な取り組みと、必要に応じた薬物療法により、そのリスクを大きく下げることができます2,3,4,8。
この記事を通して、「検査結果のどこを見ればよいか」「自分はどの程度のリスクにいるのか」「今日から何を変えればよいのか」を、少しでも具体的にイメージできるようになっていれば幸いです。自分一人で抱え込まず、かかりつけ医や専門の医療機関に相談しながら、一歩ずつできることから始めていきましょう。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事は、厚生労働省e-ヘルスネット、日本動脈硬化学会のガイドライン・Q&A、国民健康・栄養調査、世界保健機関(WHO)などの一次情報源をもとに、JHO編集部が内容を整理したものです1,2,3,4,5,6,7,8,10,11。
原稿の作成にあたっては、最新のAI技術を活用して下調べと構成案を作成したうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っています。
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- 大村寛敏. 二次予防におけるリスク管理. 日本内科学会雑誌. 2023;112(2):188-195. https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/112/2/112_188/_pdf(最終アクセス日:2025-11-26)
- World Heart Federation. Cholesterol. https://world-heart-federation.org/what-we-do/cholesterol/(最終アクセス日:2025-11-26)

