「最近ずっと背中や腰が痛いけれど、年齢のせいかな……」「がんの治療中に背骨が痛くなってきて、不安だけど、どこに相談したら良いかわからない」。そんな不安を抱えて、このページにたどり着いた方も多いのではないでしょうか。
脊椎腫瘍(せきついしゅよう)・椎体腫瘍(ついたいしゅよう)は、背骨そのものにできる腫瘍の総称で、まれな「原発性脊椎腫瘍」と、乳がん・前立腺がん・肺がんなど他のがんが骨に転移してくる「転移性脊椎腫瘍」に大きく分けられます。日本脊髄外科学会によると、脊椎腫瘍の半分以上は、もともと他の臓器にあったがんが背骨に転移したものだとされています1。
脊椎腫瘍は、早期には「しつこい腰痛」「寝ているときに強くなる背中の痛み」だけのこともありますが、進行すると脊髄(せきずい)や神経を圧迫し、歩けなくなったり、排尿・排便のコントロールができなくなったりすることがあります。イギリスのNICE(National Institute for Health and Care Excellence)のガイドラインでは、転移性脊髄圧迫(metastatic spinal cord compression: MSCC)は「がんの緊急事態」と位置づけられ、24時間以内のMRI検査などが推奨されています2。
一方で、「脊椎に腫瘍がある」と聞くと、「必ず手術になるのでは」「もう仕事は続けられないのでは」と過度に不安になる方も少なくありません。実際には、腫瘍の種類や広がり方、もともとのがんの状態、全身の体力などによって、取るべき治療や生活上の工夫は大きく変わります。
本記事では、日本の学会や大学病院の情報、NICEガイドラインやランダム化比較試験などのエビデンスをもとに、脊椎腫瘍・椎体腫瘍の基礎知識から症状の見分け方、検査・治療の流れ、日常生活で気をつけたいポイントまでを、日本語でわかりやすく整理します。記事の後半では、「いつ受診すべきか」「どの診療科に相談すればよいか」「仕事や介護とどう両立させるか」といった現実的な悩みについても触れます。
一人で不安を抱え込む前に、まずは情報を整理し、「自分や家族の状況では、どのような可能性があり得るのか」「今、何をすべきか」を一緒に考えていきましょう。
Japanese Health(JHO)編集部とこの記事の根拠について
Japanese Health(JHO)は、健康と美容に関する情報を提供するオンラインプラットフォームです。膨大な医学文献や公的ガイドラインを整理し、日常生活で活用しやすい形でお届けすることを目指しています。
本記事の内容は、日本脊髄外科学会や日本脊椎脊髄病学会、国立国際医療研究センター病院、慶應義塾大学病院KOMPASなどの解説ページ1,3,4、日本臨床腫瘍学会(JSMO)の骨転移診療ガイドライン5、イギリスのNICEガイドライン「Spinal metastases and metastatic spinal cord compression」2、Lancet誌に掲載されたランダム化比較試験などの査読付き論文6をはじめとする一次情報源に基づいて、JHO編集部がAIツールのサポートを受けつつ、最終的には人の目で一つひとつ確認しながら作成しています。
- 厚生労働省・自治体・公的研究機関:日本人向けの公式情報や統計資料、医療制度に関する一次情報を優先して参照しています。
- 国内外の医学会ガイドライン・査読付き論文:日本臨床腫瘍学会、日本脊髄外科学会、日本脊椎脊髄病学会などの学会資料や、WHO、NICE、Cochraneレビュー、主要医学雑誌に掲載されたレビュー・メタアナリシス等をもとに、科学的に検証されたエビデンスを整理しています1,2,5–11。
- 大学病院・専門病院・NPOによる一次資料:慶應義塾大学病院KOMPAS、国立国際医療研究センター病院、都立駒込病院などの解説ページを参考に、日本の医療現場で実際に行われている検査・治療・リハビリの流れを把握しています3,4,12。
AIツールは、文献の要約や構成案作成の「アシスタント」として活用していますが、公開前には必ずJHO編集部が原著資料と照合し、重要な記述を一つひとつ確認しながら、事実関係・数値・URLの妥当性を検証しています。
私たちの運営ポリシーや編集プロセスの詳細は、JHO(JapaneseHealth.org)編集委員会の紹介ページをご覧ください。
要点まとめ
- 脊椎腫瘍(椎体腫瘍)は、背骨の骨(椎体)やその周囲にできる腫瘍の総称で、原発性脊椎腫瘍と、乳がん・前立腺がん・肺がんなどからの転移性脊椎腫瘍に分けられます1,3,5。
- 成人の脊椎腫瘍の多くは転移性であり、日本脊髄外科学会は「脊椎腫瘍の50%以上が転移性」と説明しています1。世界的にも、がん患者さんのおよそ15〜20%前後で臨床的な脊椎転移がみられると報告されています7,9。
- 「夜中に強くなる背中・腰の痛み」「安静にしても続く痛み」「脚のしびれ・脱力」「排尿や排便のコントロールが効きにくい」などは、脊髄圧迫のサインであり、NICEガイドラインでは緊急受診と24時間以内のMRI検査が推奨されています2。
- 治療は、痛みを抑え、神経の機能を守り、背骨を安定させることを目標に、「放射線治療」「手術(減圧・脊椎固定)」「骨セメント注入(PVP/椎体形成術)」「ラジオ波焼灼術」「全身治療(抗がん剤、分子標的薬、ホルモン療法など)」を組み合わせて行われます5,6,8,10。
- がんの脊椎転移による脊髄圧迫では、適切な患者さんに対して「手術+放射線治療」を行うと、「放射線のみ」と比べて歩行能力の回復率が大きく向上することが、Lancet誌のランダム化比較試験で示されています6。
- 仕事や家事、介護との両立が難しくなることも多く、早期からリハビリテーション、介護保険制度、障害年金などの社会的支援を含めた「生活全体のサポート」を検討することが、QOL(生活の質)を守る上で重要です5,10,12。
- 本記事を読むことで、「どのような腰痛が要注意なのか」「どの検査や治療があるのか」「いつ・どこに相談すべきか」が段階的に理解できるようになります。自己判断で放置せず、不安があれば医療機関に相談することをおすすめします。
「単なる腰痛だと思っていたのに、もし腫瘍だったらどうしよう」「がんの治療中なので、背骨の痛みが骨転移なのか心配」という不安は、誰にでも起こり得るものです。一方で、すべての腰痛が脊椎腫瘍によるものではなく、多くは筋肉や関節の疲れ、姿勢、加齢性変化などによるものです。
そこで本記事では、まず「背骨の構造と脊椎腫瘍の基本」からスタートし、「一般的な腰痛と何が違うのか」「がんの骨転移で起こりやすいサインは何か」を順番に整理していきます。そのうえで、画像検査や病理検査、予後予測スコア(TokuhashiスコアやSINSなど)の役割を解説し、どのような基準で手術や放射線治療が選ばれるのかを紹介します5,8,11。
また、「できるだけ体に負担の少ない治療はないか」「仕事を続けながら治療できるのか」「介護や生活費の不安をどうすればよいか」といった、医療情報だけでは見落とされがちな悩みにも触れ、リハビリテーションや介護保険制度など、日本で利用できる支援制度のイメージもお伝えします。
必要に応じて、JHO内の関連する総合ガイドや、脊椎疾患やがん治療に関する詳細解説記事へのリンクもご紹介しながら、「自分の状態をどう理解し、いつ・どこで・誰に相談すべきか」を具体的にイメージできるように構成しています。
読み進める中で、「ここが自分の状況に近い」と感じた部分があれば、そのタイミングでメモをとったり、家族と共有したりしながら、ご自身やご家族の次の一歩を一緒に考えてみてください。
第1部:脊椎腫瘍・椎体腫瘍の基本と「普通の腰痛」との違い
最初のステップとして、「背骨のどこに腫瘍ができるのか」「脊椎腫瘍があると、どのような痛みや症状が出やすいのか」を整理しておきましょう。ここを押さえることで、「これは様子を見てよい痛みなのか」「早めに検査すべきサインなのか」を、自分なりに整理しやすくなります。
1.1. 背骨の構造と脊椎腫瘍の種類
私たちの背骨(脊椎)は、首の部分の頚椎、胸の部分の胸椎、腰の部分の腰椎、骨盤につながる仙骨からなる、積み木のような骨の列です。1つひとつの骨を「椎体(ついたい)」といい、その後ろ側にはアーチ状の骨(椎弓)があり、その中を脊髄(神経の束)が通っています1,3。
脊椎腫瘍・椎体腫瘍は、この椎体や椎弓、あるいはその周囲の組織にできる腫瘍の総称です。日本脊髄外科学会や日本脊椎脊髄病学会は、脊椎腫瘍を大きく次の2つに分類しています1,11。
- 原発性脊椎腫瘍(げんぱつせいせきついしゅよう):背骨そのものから発生する腫瘍で、骨から生じる骨腫瘍(骨芽細胞腫、骨肉腫など)や、軟骨由来の腫瘍(軟骨肉腫)、血管由来の椎体血管腫、脊髄を包む膜や神経から発生する髄膜腫・神経鞘腫などが含まれます。発生頻度は非常に低く、Kameda病院の解説では「人口10万人あたり1〜2人程度」と推計されています9。
- 転移性脊椎腫瘍(てんいせいせきついしゅよう):乳がん、前立腺がん、肺がん、腎がん、甲状腺がん、多発性骨髄腫など、他の臓器に発生したがんが血液や静脈叢(Batson静脈叢)を通じて背骨に移動し、椎体などに「転移巣」として増殖した状態です5,7,10。
成人の脊椎腫瘍は、このうち転移性脊椎腫瘍が圧倒的に多いとされています。日本脊髄外科学会の一般向け解説では、「脊椎腫瘍の50%以上が転移性」であり、原発性脊椎腫瘍は稀な疾患であると説明されています1。海外のシステマティックレビューでも、がん患者さん全体のうち15〜20%前後で臨床的な脊椎転移がみられると報告されています7,9。
1.2. 脊椎腫瘍による痛みの特徴と「普通の腰痛」との違い
「腰が痛い=すぐに脊椎腫瘍」というわけではありません。多くの腰痛は、筋肉の疲労や姿勢、椎間板の変性、加齢性の変化などによるもので、適切な休息や運動、リハビリなどで改善します。
一方で、慶應義塾大学病院KOMPASや専門クリニックの解説では、脊椎腫瘍による痛みには次のような特徴があるとされています3,13。
- 夜間・安静時に強くなる痛み:寝ているときや、じっとしているときに痛みが強くなりやすく、「眠っている途中で痛みで目が覚める」こともあります。筋肉痛や疲労性の腰痛は、休むとむしろ楽になることが多いため、こことの違いが一つの目安になります。
- 数週間〜数カ月続く、徐々に悪化する痛み:湿布や市販の鎮痛薬で一時的に軽くなっても、根本的には良くならず、少しずつ痛みが強くなっていく傾向があります。
- 動作と関係なく痛む、あるいは軽い動作で激痛が走る:屈伸や前かがみで悪化する腰痛もありますが、脊椎腫瘍では「何をしていなくても痛い」「ちょっとした動きで背骨に激痛が走る」など、骨そのものの脆弱さを反映した痛み方をすることがあります。
- がんの既往がある人の新たな背部痛:乳がん、前立腺がん、肺がん、腎がん、甲状腺がん、骨髄腫などの治療中または治療歴がある方で、新しく背中や腰の痛みが出てきた場合、骨転移・脊椎転移を疑う重要なサインとされています5,7,10。
もちろん、これらの特徴があっても必ず脊椎腫瘍とは限りませんが、「いつもの腰痛とは違う」「がんの治療中なのに痛みが続く」という場合には、早めに主治医や整形外科などに相談することが大切です。
1.3. 悪化させてしまうNG習慣と日常で気をつけたいポイント
脊椎腫瘍の有無にかかわらず、背骨への負担が大きい生活習慣は、痛みの悪化や骨折のリスクを高めます。日本の骨転移診療ガイドラインやリハビリテーションの解説では、次のような点に注意することがすすめられています5,10。
- 重い荷物を片手で持ち続ける:通勤時のビジネスバッグや買い物袋を常に片側だけで持つと、背骨に偏った負担がかかります。可能であればリュックサックを活用し、荷物を左右バランスよく持つことが大切です。
- 長時間の同じ姿勢:デスクワークで何時間も同じ姿勢のままでいると、背骨周りの筋肉が固まり、痛みを感じやすくなります。1時間に1回は立ち上がって伸びをする、短い散歩を挟むなど、小さな工夫が重要です。
- 自己判断での激しい運動:骨転移がある可能性があるときに、自己判断で筋トレや激しいストレッチ、ジャンプを伴う運動を行うと、病的骨折(弱くなった骨が折れてしまうこと)のリスクが高まります。がん治療中の方は、主治医やリハビリスタッフと相談しながら、運動メニューを調整しましょう。
- 過度の飲酒や喫煙:アルコールやタバコは、骨密度の低下や血流悪化を通じて、骨の弱さやがん治療の副作用を悪化させることがあります。可能な範囲で減らす・やめる方向を考えることが、長期的な骨の健康にもつながります。
| 症状・状況 | 考えられる背景・注意すべきポイント |
|---|---|
| 夜寝ている時に痛みが強くなり、目が覚めるような背中・腰の痛みが続く | 腫瘍性病変を含む「炎症性の痛み」の可能性。脊椎腫瘍・感染症なども念頭に、医療機関での相談が必要3,13。 |
| 乳がん・前立腺がんなどの治療中に、新しい背部痛が数週間以上続く | 骨転移・脊椎転移のサインとなることがあり、画像検査(X線・CT・MRIなど)を検討する目安5,7。 |
| 突然の激しい背中の痛みとともに、立てない・動かせないほどの痛みが出た | 病的椎体骨折(腫瘍で弱くなった椎体の骨折)などの可能性があり、救急受診を含めた早急な評価が必要5,8。 |
| 腰痛に加えて、脚のしびれ・脱力、排尿や排便の異常が出てきた | 脊髄圧迫(MSCC)の緊急サイン。NICEガイドラインなどで、24時間以内のMRIと専門診療科への緊急紹介が推奨されている2。 |
第2部:がんと骨転移・脊椎転移 — 誰に起こりやすいのか
生活習慣や姿勢だけでは説明できない背部痛の背景には、「がんの骨転移・脊椎転移」が隠れていることがあります。この部では、どのような人に脊椎転移が起こりやすいのか、どの臓器のがんが背骨に転移しやすいのかを整理します。
2.1. 背骨に転移しやすいがんの種類
日本脊髄外科学会や脊椎腫瘍専門施設の解説、日本臨床腫瘍学会の骨転移診療ガイドラインなどによると、次のようながんは骨、とくに脊椎に転移しやすいことが知られています1,5,10。
- 乳がん:女性に多いがんで、骨転移の好発部位として脊椎・肋骨・骨盤などが挙げられます。病理解剖の研究では、乳がん患者さんの約75%に背骨への転移がみられたとする報告もあります10。
- 前立腺がん:男性高齢者に多く、骨転移が非常に起こりやすいがんです。日本臨床腫瘍学会が紹介するデンマークの大規模研究では、骨転移を伴う前立腺がん患者さんでは5年生存率が大きく低下しており、骨転移の有無が予後を左右する重要な因子であるとされています5。
- 肺がん:脊椎を含む骨や脳など、さまざまな臓器に転移しやすく、骨転移の症状として背部痛が現れることがあります10。
- 腎がん・甲状腺がん:骨に溶骨性(骨を溶かすタイプ)の転移を起こしやすく、背骨の破壊・骨折をきっかけに発見されることもあります10。
- 多発性骨髄腫・骨髄疾患:血液のがんの一種で、骨全体に多発性の溶骨性病変を生じ、脊椎に多数の病変を形成します5。
国際的なレビューでは、がん患者さんの40〜70%程度で病理学的には脊椎転移が存在し、そのうち10〜20%で脊髄圧迫や強い痛みなど臨床的な合併症が起こると推計されています9。
2.2. 脊椎転移が起こりやすい人の特徴とリスク因子
「自分も脊椎転移になってしまうのでは」と不安に感じる方も多いと思いますが、個々のリスクはがんの種類やステージ、治療歴、年齢などによって大きく異なります。骨転移・脊椎転移に関連するとされる要因として、各種研究やガイドラインでは次のようなポイントが挙げられています5,7,9,10。
- 骨転移を起こしやすいタイプのがん:前述の乳がん・前立腺がん・肺がん・腎がん・甲状腺がん・多発性骨髄腫などは、骨転移の頻度が高いことが知られています。
- がんの診断から長期間が経過している場合:治療の進歩により多くのがんで生存期間が延びている一方、その分、時間をかけて骨転移が出てくるケースも増えています。Neuro-Oncology Advances誌の解析では、2008年から2019年にかけて脊椎転移の発生率が人口100万人あたり229件から302件へと増加していると報告されています8。
- 高齢・男性であること:一部の疫学研究では、特に下位腰椎において、60〜69歳で発症のピークがあり、男性に多い傾向があると報告されています8。
- 既に他の骨や臓器への転移がある場合:骨盤や肋骨、肺や肝臓などに転移がある場合、背骨への転移も同時にある可能性が高くなります。
これらはあくまで「リスクの傾向」であり、「条件に当てはまるから必ず脊椎転移になる」わけではありません。また、リスクが低い人でも脊椎腫瘍が見つかることはあります。そのため、「自分は大丈夫」と決めつけるのではなく、「気になる症状があるときには相談する」という姿勢が大切です。
2.3. 原発性脊椎腫瘍の種類と特徴
原発性脊椎腫瘍は稀な病気ですが、若年〜中年で発症するものもあり、「がんではない良性腫瘍」も存在します。Kameda病院や国際的なレビューによると、主な原発性脊椎腫瘍には次のようなものがあります9,10,11。
- 椎体血管腫(けっかんしゅ):椎体内の血管が増殖した良性腫瘍で、多くは無症状のまま経過し、画像検査で偶然見つかります。ただし、一部は椎体の脆弱化や神経圧迫を起こすことがあります。
- 骨芽細胞腫・類骨骨腫:骨から発生する良性腫瘍で、局所の痛みが主な症状です。若い世代に多く、夜間痛を特徴とすることがあります。
- 軟骨肉腫・骨肉腫などの悪性骨腫瘍:骨や軟骨から発生する悪性腫瘍で、背骨に発生した場合には広範な切除や再建が必要になることがあります。
- 脊索腫(しそくしゅ:chordoma):胎生期の「脊索」という組織の名残から発生すると考えられている、稀な悪性腫瘍です。仙骨や頭蓋底に多く、外科的切除と高精度放射線(重粒子線・陽子線など)が検討されます10。
原発性脊椎腫瘍の種類や治療方針は非常に多様であり、日本でも専門性の高い医療機関や脊椎腫瘍センターでの検討が行われています12。診断名を聞いて不安になったときは、主治医に「自分の腫瘍は良性か悪性か」「どのくらいのスピードで進行するタイプか」「治療の目的は何か(完治・再発予防・症状を抑えることなど)」を確認してみると、全体像が見えやすくなります。
第3部:脊椎腫瘍が疑われるときの診断・検査と「危険なサイン」
生活習慣の見直しや一般的な腰痛対策では改善せず、「いつもの腰痛と何か違う」「がん治療中で心配」という場合には、医療機関での専門的な診断が必要になります。この部では、脊椎腫瘍が疑われるときにどのような検査が行われるのか、どのサインが「救急レベルの危険信号」なのかを整理します。
3.1. 脊髄圧迫(MSCC)の危険なサイン
イギリスNICEのガイドラインや日本臨床腫瘍学会の資料では、がん患者さんにおいて次のような症状がある場合、転移性脊髄圧迫(MSCC)を強く疑い、速やかな評価が必要だとされています2,5,7。
- 新たに出現した、持続する背部痛・頚部痛(特に夜間・安静時に悪化する)
- 歩行が不安定になる、足がもつれる、階段が登りにくいなどの下肢の筋力低下
- 下半身のしびれ・感覚の低下、帯状の違和感(胸の周りやお腹をベルトで締め付けられたように感じるなど)
- 排尿障害(尿が出にくい、尿意がわからない、失禁するなど)や排便障害(便秘や便失禁)
- 突然の激しい背中の痛みとともに、立てないほどの痛みや下肢麻痺が出た場合
これらの症状がある場合、NICEガイドラインでは24時間以内のMRI検査と、脊椎外科・整形外科・放射線治療科・腫瘍内科などへの緊急紹介が推奨されています2。日本の骨転移診療ガイドラインや専門施設の解説でも、同様に「がん患者の新たな背部痛は要注意」「脊髄圧迫は時間との勝負」と強調されています5,10,12。
もしご自身やご家族ががんの治療中で、上記のような症状が急に出た場合は、夜間や休日であっても救急外来への相談や119番通報を含め、早急な対応を検討してください。
3.2. 診察と画像検査の流れ
脊椎腫瘍が疑われる場合、医療機関では次のようなステップで診断が進められます。ここでは、慶應義塾大学病院KOMPAS、国立国際医療研究センター病院、NICEガイドラインなどの情報をもとに、日本で一般的に行われる流れをイメージしやすく整理します2–4。
- 問診・神経学的診察:いつから痛いのか、どの姿勢で痛むか、夜間痛の有無、がんの治療歴、これまでの検査結果などを詳しく尋ねます。そのうえで、筋力・感覚・反射・歩き方などを確認し、脊髄圧迫の有無をチェックします。
- X線(レントゲン)検査:背骨の全体のラインや骨折の有無、大まかな骨破壊の程度を確認します。ただし、骨の変化がある程度進行しないと映らないため、「正常だから安心」とは言い切れません3。
- CT(コンピュータ断層撮影):骨の状態を詳しく見るのに優れており、椎体の後壁の破壊や椎弓の浸潤、骨折の形態などを立体的に把握できます。手術の計画や骨セメント注入などの手技にも役立ちます5,8。
- MRI(磁気共鳴画像)検査:脊髄・神経・椎間板・周囲の軟部組織を詳細に評価でき、脊髄圧迫の有無や程度を判断するうえで最も重要な検査とされています。NICEガイドラインでは、脊椎転移が疑われるがん患者さんに対してMRIが第一選択として推奨されています2。
- 骨シンチグラフィ・PET/CT:全身の骨や臓器の転移の有無を評価する検査です。骨シンチでは骨の代謝が活発な病変を広く拾い上げ、PET/CTでは腫瘍細胞の糖代謝が高い場所を画像化できます5。
3.3. 生検(バイオプシー)と病理診断
画像検査だけでは腫瘍の種類を完全に判別できないため、必要に応じて「生検(バイオプシー)」と呼ばれる組織検査が行われます。CTガイド下で椎体に細い針を刺し、腫瘍組織の一部を採取して顕微鏡で確認する方法が一般的です10,11。
生検は、特に次のような場合に検討されます5,10。
- まだ原発臓器のがんが見つかっておらず、「脊椎腫瘍が最初のサイン」の場合
- 画像所見が典型的ではなく、感染症や炎症性疾患、骨粗しょう症性骨折などと区別がつきにくい場合
- 治療法の選択(手術・放射線・薬物)が、腫瘍の種類によって大きく変わると予想される場合
一方で、すでに乳がんや前立腺がんなどの原発巣が明らかで、画像から明らかに骨転移と判断できる場合には、「治療方針が変わらない」として生検を省略することもあります5。最終的な判断は、主治医や多職種カンファレンス(腫瘍内科・整形外科・放射線科など)で行われます。
3.4. 予後予測スコアと脊椎の安定性評価(Tokuhashiスコア・SINSなど)
転移性脊椎腫瘍の治療方針を決める際には、「どのくらいの期間、生存が見込まれるか」「背骨がどの程度不安定になっているか」を評価することが重要です。日本や海外の多くの研究では、次のような評価ツールが利用されています5,8,11。
- Tokuhashiスコア(徳橋スコア):原発巣の種類、転移の程度、麻痺の有無、全身状態などを点数化し、「3カ月未満」「6カ月以上」「1年以上」などの生存予測を行うスコアです。スコアに応じて、大掛かりな手術が妥当かどうかを検討する目安になります11。
- SINS(Spinal Instability Neoplastic Score):腫瘍による脊椎の不安定性を評価するスコアで、病変の部位、痛みの性質、骨破壊のタイプ(溶骨性・硬化性など)、椎体の変形、椎弓・椎体後壁の破壊などを点数化します。一定以上の点数であれば、「外科的な固定やコルセットが必要な不安定性がある」と判断されます8。
これらのスコアはあくまで「目安」であり、必ずしも個々の患者さんの経過を完全に予測できるわけではありません。しかし、日本の脊椎外科や腫瘍内科では、治療方針の検討に広く利用されており、「なぜ自分には手術がすすめられたのか」「なぜ別の人には手術ではなく放射線や薬物療法が中心なのか」といった疑問を説明するうえで役立っています5,11。
第4部:脊椎腫瘍の治療オプションと今日からできる生活の工夫
診断がついたあとに多くの方が悩むのは、「どの治療を受けるべきか」「今の生活はどこまで続けられるのか」という点です。この部では、代表的な治療法と、今日からできるセルフケアや生活の工夫を、レベル別に整理します。
4.1. 手術+放射線治療と放射線治療のみの違い
がんの脊椎転移による脊髄圧迫(MSCC)がある場合、「手術+放射線治療」が検討されることがあります。Lancet誌に掲載されたPatchellらのランダム化比較試験では、手術と放射線治療を組み合わせたグループと、放射線治療のみのグループを比較し、歩行能力の回復や痛みの改善を評価しています6。
この研究によると、<すでに歩けない状態になっていた患者さん>のうち、手術+放射線治療を受けたグループでは約62%が再び歩けるようになったのに対し、放射線治療のみのグループでは約19%にとどまりました6。この差から、おおまかに「2〜3人の患者さんに手術を追加することで、1人分の『歩けるようになる』利益が得られる(NNT≒2〜3)」と計算されています。
もちろん、すべての患者さんが手術の対象となるわけではありません。原発巣の種類、全身のがんの状況、予測される余命、年齢や体力、麻酔のリスク、患者さん自身の希望などを総合的に考慮したうえで、手術のメリットとデメリットを比較して判断されます5,8,11。
4.2. 放射線治療・高精度放射線(SBRT/SRS・陽子線など)
放射線治療は、脊椎転移の痛みを和らげ、腫瘍を縮小させるうえで重要な位置を占めます。日本臨床腫瘍学会の骨転移診療ガイドラインや肺がん診療ガイドラインでは、骨転移に対する外照射が強く推奨されています5,10。
- 通常の放射線治療(3D-CRTなど):数Gyの線量を数回〜十数回に分けて照射する方法で、痛みの軽減や脊椎転移の局所制御に有効です。外来通院で行われることが多く、全身状態が悪い方にも比較的行いやすい治療です。
- 定位放射線治療・定位放射線手術(SBRT/SRS):CyberKnifeなどの装置を用いて、腫瘍に高い線量をピンポイントで照射する方法です。一部の研究では、痛みのコントロールや局所制御率が向上する可能性が示されていますが、脊椎の骨折リスクなどに注意が必要であり、日本のガイドラインでは限られた症例に対する選択肢として位置づけられています10。
- 陽子線・重粒子線治療:脊索腫や軟骨肉腫など、手術で完全切除が難しい原発性脊椎腫瘍に対して、腫瘍に集中的に線量を届ける目的で用いられることがあります10。
4.3. 椎体形成術(PVP/バルーンカイフォプラスティ)・ラジオ波焼灼術(RFA)
「できるだけ体に負担の少ない治療はないか」という声に応える選択肢として、経皮的椎体形成術(PVP)やバルーンカイフォプラスティ、ラジオ波焼灼術(RFA)といった低侵襲治療があります。日本IVR学会のPVPガイドラインやNICEのエビデンスレビューでは、これらの治療による痛みの軽減や生活の質の改善が報告されています8,14,15。
- PVP(経皮的椎体形成術):局所麻酔や静脈麻酔下で、細い針を椎体に挿入し、骨セメントを注入して椎体を内側から固める治療です。脊椎転移による病的骨折で強い痛みがある場合に、痛みの軽減と局所的な安定性の向上を期待して行われます14。
- バルーンカイフォプラスティ:椎体内に小さなバルーンを入れて膨らませ、つぶれた椎体をある程度持ち上げたうえで骨セメントを注入する方法です。椎体の高さを部分的に回復させることで、変形や疼痛の改善を図ります8。
- RFA(ラジオ波焼灼術)+骨セメント補強:ラジオ波の熱で腫瘍を焼灼し、その後骨セメントで補強する治療です。2024年のメタアナリシスでは、痛みの強い脊椎転移に対して短期的な疼痛軽減効果が高く、合併症も比較的少ないことが示されています15。
ただし、これらの低侵襲治療は「脊髄圧迫がない、または軽度であること」が前提となることが多く、すでに脊髄が強く圧迫されている場合には、手術や放射線治療が優先されることがあります。治療選択の際には、画像所見・神経症状・全身状態を総合的に見たうえで、多職種チームで検討されます5,8,14。
4.4. 全身治療(抗がん剤・ホルモン療法・分子標的薬など)と骨保護薬
脊椎転移は、全身のがんの一部として起こることが多いため、局所治療だけでなく、原発がんに対する全身治療も重要です。日本臨床腫瘍学会のガイドラインなどでは、脊椎転移を含む骨転移に対して、次のような治療が検討されます5,10。
- 全身化学療法・ホルモン療法・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬:原発がんの種類(乳がん、前立腺がん、肺がんなど)や分子生物学的なサブタイプに応じて選択されます。これらの治療により、骨転移や脊椎転移の進行を抑えることが期待されます。
- 骨修飾薬(ビスホスホネート・デノスマブ):ゾレドロン酸などのビスホスホネート製剤や、デノスマブといった骨吸収抑制薬は、骨転移による骨折や脊髄圧迫などの骨関連事象(SRE)の発生を減らす効果が示されており、ガイドラインでも推奨されています5。
| 治療 | 主な目的 | ポイント |
|---|---|---|
| 手術+放射線治療 | 脊髄圧迫の解除、歩行・排尿機能の温存、背骨の安定化 | 適切な症例では、歩行能力の回復率が放射線単独より高いことが示されている6。 |
| 放射線治療(通常照射・SBRTなど) | 疼痛緩和、腫瘍の縮小、神経障害の進行抑制 | 外来でも行いやすく、多くの骨転移に対して基本的治療とされている5,10。 |
| PVP・カイフォプラスティ | 病的骨折に伴う痛みの軽減と局所安定化 | 短時間の低侵襲治療で、痛みの早期改善が期待できるが、適応には注意が必要8,14。 |
| RFA+骨セメント | 疼痛コントロールと局所腫瘍制御 | 最近のメタアナリシスで有効性と安全性が示されているが、実施施設は限られる15。 |
| 全身治療(化学療法・ホルモン療法など) | 原発がんと全身の転移の制御 | 局所治療と組み合わせることで、QOLと生存期間の両方を意識した治療が可能になる5,10。 |
4.5. 今日からできるセルフケアと生活の工夫
治療の内容にかかわらず、日常生活の中でできる工夫には共通点があります。慶應義塾大学病院KOMPASやリハビリテーションの解説などを参考に、実践しやすいポイントをまとめます3,5,10。
- 痛みを我慢しすぎない:痛みを我慢して動きすぎると、骨折や転倒のリスクが高まります。処方された鎮痛薬を適切に使用し、痛みが強いと感じたら遠慮せずに医療者に伝えましょう。
- 背骨に優しい動き方を身につける:膝を曲げてしゃがむ、体の近くで荷物を持つ、ねじる動きを避けるなど、背骨への負担を減らす動作を意識しましょう。
- 転倒予防の工夫:部屋の段差やコード類を整理する、滑りにくいスリッパを選ぶ、夜間のトイレまでの動線に照明をつけるなど、細かな工夫が骨折予防につながります。
- 栄養と休養を確保する:十分なタンパク質・カルシウム・ビタミンDの摂取と、良質な睡眠は、骨と筋肉の健康に不可欠です。食欲が落ちている場合は、栄養補助食品や管理栄養士への相談も検討しましょう。
- 一人で抱え込まず、家族や支援制度を活用する:介護保険、障害年金、医療費助成制度など、利用できる制度は少なくありません。主治医や医療ソーシャルワーカーに相談しながら、自分と家族の負担を分かち合う仕組みを整えていきましょう10,12。
第5部:受診の目安と医療機関へのかかり方 — いつ・どこで・どのように?
最後に、「どのタイミングで受診すべきか」「何科に相談すればよいか」「診察の際にどのような情報を伝えるとよいか」をまとめます。特にがん治療中の方や、家族を支える立場の方は、受診の目安を知っておくことで「もう少し様子を見てもいいのか」「今すぐ行くべきか」の判断がしやすくなります。
5.1. 受診を検討すべき危険なサイン
- がんの治療中または治療歴があり、新しい背部痛・腰痛が2週間以上続いている
- 夜間・安静時に痛みが強くなり、眠れないほどの痛みが続く
- 歩行が不安定になる、階段の昇り降りが急に難しくなった、つまずきやすくなった
- 脚のしびれ・脱力、帯状の感覚異常(胸やお腹を締め付けられるような感覚)がある
- 排尿が出にくい、尿意が分からない、失禁してしまう、便秘や便失禁が急に起こった
- 突然の激痛とともに、背中や腰が動かせなくなった
これらの症状がある場合は、できるだけ早く受診することが重要です。特に、足が動かしづらい、排尿・排便の異常がある場合は、脊髄圧迫の緊急サインであり、夜間や休日であっても救急外来に相談することがすすめられます2,5,7。
5.2. 症状に応じた診療科の選び方
- すでにがんの治療中の方:まずは主治医(腫瘍内科、外科、婦人科、泌尿器科など)に連絡し、症状を伝えましょう。必要に応じて、整形外科、脊椎外科、放射線治療科などに紹介されます。
- がんの診断は受けていないが、気になる背部痛がある方:整形外科や脊椎脊髄外科、総合診療科などが窓口になります。「夜間痛」「体重減少」「倦怠感」などが同時にある場合は、その旨も伝えましょう。
- どこに相談したらよいか迷う場合:かかりつけ医や地域の保健所、がん相談支援センターなどに相談すると、適切な医療機関を案内してもらえることがあります。
5.3. 診察時に持参すると役立つものと費用の目安
- 症状メモ:いつから痛いのか、どの部位が痛いのか、どのような動きや時間帯で悪化するのか、夜間痛やしびれ、排尿・排便の変化があるかなどをメモしておくと、診察がスムーズになります。
- これまでの検査結果・画像CD:すでに別の医療機関で画像検査を受けている場合は、レポートやCDを持参すると、重複検査を減らし、診断の一貫性を保つのに役立ちます。
- お薬手帳:現在服用している薬(鎮痛薬、抗がん剤、ホルモン薬、骨粗しょう症の薬など)を一覧できるようにしておきましょう。
- 費用の目安:日本では多くの場合、公的医療保険により自己負担は3割となりますが、高額療養費制度や限度額適用認定証などの制度を利用することで、一定額を超える医療費の負担を軽減できます。詳しくは、加入している健康保険組合や市区町村の窓口、病院の医療ソーシャルワーカーに相談してください。
治療が長期に及ぶ場合、医療費だけでなく、通院交通費や仕事の休業による収入減少など、さまざまな負担が生じます。一人で抱え込まず、早期から主治医や看護師、医療ソーシャルワーカー、地域包括支援センターなどに相談し、介護保険や障害年金などの制度を活用することが、生活を支える大きな力になります10,12。
よくある質問
Q1: 腰痛が続いています。全部が脊椎腫瘍やがんのサインなのでしょうか?
A1: 腰痛の大部分は、筋肉や関節、椎間板などの加齢性変化や姿勢、運動不足などによるもので、脊椎腫瘍やがんではありません。ただし、「夜間や安静時に強くなる痛み」「数週間続いて徐々に悪化する痛み」「がんの治療中に新たに出てきた痛み」「脚のしびれや脱力、排尿・排便異常を伴う痛み」は要注意サインとされています2,3,5。不安な場合は、我慢せずに医療機関で相談してください。
Q2: がんの治療中ですが、いつMRIを受けた方がよいのでしょうか?
A2: NICEガイドラインや日本の骨転移診療ガイドラインでは、がん患者さんで新たな持続的背部痛が生じた場合、特に夜間痛や神経症状(しびれ・脱力・排尿障害など)があるときは、早期のMRI検査が推奨されています2,5,7。MRIは脊髄や神経の状態を詳しく評価でき、脊髄圧迫(MSCC)の有無を判断するうえで最も重要な検査です。まずは主治医に症状を伝え、必要な検査のタイミングを相談しましょう。
Q3: 脊椎腫瘍と診断されました。必ず手術が必要ですか?
A3: 必ずしも全員が手術になるわけではありません。腫瘍の種類(原発性か転移性か)、脊髄や神経の圧迫の有無、背骨の安定性、原発がんの状態、予測される余命、年齢や体力などを総合的に判断して、手術・放射線・薬物療法・低侵襲治療(PVP・RFAなど)の組み合わせが決められます5,8,10,14。脊髄圧迫が強く、歩行機能を守ることが重要な場合には手術+放射線がすすめられることがありますが、全身状態が悪い場合や多発転移がある場合には、放射線や薬物療法が中心になることもあります。
Q4: 脊椎腫瘍や骨転移があっても、仕事を続けることはできますか?
A4: 仕事を続けられるかどうかは、痛みや神経症状の程度、仕事内容(立ち仕事かデスクワークか、重い荷物を持つかどうか)、通勤の負担、治療のスケジュールなどによって大きく異なります。日本の脊椎転移に関する研究やQOL調査では、痛みのコントロールやリハビリテーション、仕事の調整(時短勤務・在宅勤務など)により、「働きながら治療を続ける」ケースも少なくないことが報告されています10,12。主治医や勤務先の産業医、人事担当者と相談しながら、自分の体調に合った働き方を模索することが大切です。
Q5: もし歩けなくなってしまったら、その後の生活はどうなりますか?
A5: 脊髄圧迫で歩行が難しくなった場合でも、リハビリテーションや福祉用具、介護サービスを利用することで、自分らしい生活を続けるための工夫が可能です。脊椎転移に関するQOL研究では、痛みの軽減や介護支援制度の活用により、移動や排泄などの日常生活動作(ADL)が改善することが示されています8,10,12。日本には介護保険や障害年金、高額療養費制度などの公的支援もありますので、医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センターに早めに相談することをおすすめします。
Q6: 椎体形成術(PVP)やカイフォプラスティは、安全な治療ですか?
A6: 日本IVR学会のPVPガイドラインやNICEのエビデンスレビューでは、適切な適応のもとで行われたPVPやカイフォプラスティは、痛みの軽減や生活の質の改善に有用であり、合併症の頻度も比較的低いと報告されています8,14。ただし、骨セメントが血管や脊柱管内に漏れるリスクや、隣接椎体の骨折リスクなどもゼロではないため、画像所見や症状を踏まえて慎重に適応が検討されます。
Q7: 原発性脊椎腫瘍はどのくらい珍しいのですか?
A7: 原発性脊椎腫瘍は非常に稀な疾患です。Kameda病院の解説では、人口10万人あたり1〜2人程度と推計されています9。脊椎腫瘍全体のうち、多くは他の臓器からの転移性腫瘍であり、原発性脊椎腫瘍は少数です1,10,11。診断名を聞いて不安になった場合は、その腫瘍が良性か悪性か、進行スピードや再発リスクはどの程度か、どの治療法が標準的なのかを、主治医に確認してみるとよいでしょう。
Q8: 自分や家族が不安なとき、どこに相談すればよいですか?
A8: まずは主治医やかかりつけ医に相談することが基本ですが、それ以外にも相談窓口があります。各都道府県のがん診療連携拠点病院には「がん相談支援センター」が設置されており、治療や生活、仕事やお金の悩みについて、無料で相談することができます。また、地域包括支援センターや保健所、患者会・家族会なども、情報共有や心の支えとして役立ちます10,12。一人で抱え込まず、利用できる支援を積極的に活用しましょう。
結論:この記事から持ち帰ってほしいこと
脊椎腫瘍・椎体腫瘍は、決して頻度の高い病気ではありませんが、特にがんの骨転移として起こる場合には、歩行や排尿・排便など、日常生活の根幹に関わる重大な影響を及ぼすことがあります。一方で、適切なタイミングで診断と治療が行われれば、痛みを緩和し、できるだけ長く「自分らしい生活」を続けるための選択肢も少なくありません2,5,6,10。
この記事でお伝えしたいポイントは、次の5つです。
- 脊椎腫瘍には原発性と転移性があり、成人では転移性脊椎腫瘍が多数を占めます。がんの治療歴がある人の新たな背部痛は、慎重な評価が必要です1,5,7。
- 「夜間・安静時の痛み」「数週間続く悪化傾向のある痛み」「脚のしびれや脱力」「排尿・排便の異常」は、脊髄圧迫のサインであり、NICEガイドラインなどで緊急受診が推奨されています2,5。
- 治療は手術・放射線・低侵襲手術(PVP・RFAなど)・全身治療を組み合わせて行われ、適切な症例では手術+放射線により歩行能力の回復率が高まることが示されています6,8,10,14。
- 仕事や家事、介護との両立には、痛みのコントロールに加えて、リハビリテーションや介護保険制度、障害年金などの社会的支援を組み合わせることが重要です10,12。
- 不安を一人で抱え込まず、主治医やがん相談支援センター、地域の支援窓口などを積極的に活用することで、「自分と家族にとって、今できる最善の選択」を一緒に考えていくことができます。
本記事の情報は、あくまで一般的な解説であり、個々の診断や治療方針を直接決めるものではありません。気になる症状がある場合や、治療の変更を検討する際には、必ず主治医などの医療専門職に相談してください。
この記事の編集体制と情報の取り扱いについて
Japanese Health(JHO)は、信頼できる公的情報源と査読付き研究に基づいて、健康・医療・美容に関する情報をわかりやすくお届けすることを目指しています。本記事では、日本脊髄外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本臨床腫瘍学会など国内の学会資料や、イギリスNICEガイドライン、主要医学雑誌に掲載されたレビュー・メタアナリシスなどの一次情報をもとに、脊椎腫瘍・椎体腫瘍に関する最新の知見を整理しました1–11,14,15。
原稿の作成にあたっては、最新のAI技術を活用して文献の下調べや構成案作りを行ったうえで、JHO編集部が一次資料(ガイドライン・論文・公的サイトなど)と照合しながら、内容・表現・数値・URLの妥当性を人の目で一つひとつ確認しています。最終的な掲載判断はすべてJHO編集部が行っており、記事公開後も新しいエビデンスの出現やガイドラインの改訂に応じて、必要な見直しや更新を行っています。
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