肝臓がんという厳しい診断に直面した際、患者さんやご家族が希望を求め、あらゆる選択肢を探るのは自然な心理です。標準的な医療に加え、補完代替医療(CAM)に関心を寄せることは、免疫力の向上や生活の質(QOL)の維持を目的として広く見られます1。スピルリナのような「スーパーフード」が注目を集める背景には、消化の改善や活力の向上といった、使用者による肯定的な体験談が存在します2。本レポートの目的は、肝臓がんに対するスピルリナの役割を医学的・科学的に厳格に評価することにあります。基礎研究段階での期待と、臨床現場における現実とを明確に区別し、患者さんやご家族が治療チームと情報に基づいた対話を行うための一助となることを目指します。本レポートは「奇跡の治療法」を提示するものではなく、氾濫する情報の中から真実を見極め、明確な知見を提供するためのものです。
この記事の科学的根拠
本記事は、日本の公的機関・学会ガイドラインおよび査読済み論文を含む高品質の情報源に基づき、出典は本文のクリック可能な上付き番号で示しています。
要点まとめ
第1章:スピルリナの理解 — 「スーパーフード」から科学的検証の対象へ
「スーパーフード」として知られるスピルリナですが、その正体や法的な位置づけを正確に理解することは、特に健康への影響を考える上で最初の重要な一歩となります。多くの方がその栄養価の高さに期待を寄せますが、その気持ち、とてもよく分かります。科学的には、スピルリナは藍藻類(らんそうるい)と呼ばれる微細な生物で、その栄養価の背景には豊富なタンパク質やビタミンがあります34。この生物学的な特徴は、体内でどのように作用するかのヒントを与えてくれます。だからこそ、まずはその科学的プロファイルと、日本国内外での規制上の扱いを冷静に見ていきましょう。
1.1. 生物学的・栄養学的プロファイル
スピルリナは、一般に藍藻類と呼ばれる微細な螺旋形(らせんけい)のシアノバテリアであり、生物学的にはArthrospira(アルスロスピラ)属に分類されます3。伝統的な意味での植物とは異なります。その栄養価の高さは特筆に値し、乾燥重量あたり最大65~70%という高濃度のタンパク質を含み、人間にとって必須のアミノ酸をすべて含有するため、そのタンパク質の品質は非常に優れていると評価されています4。さらに、プロビタミンA(β-カロテン)やビタミンB群などのビタミン、鉄、カルシウム、マグネシウムといったミネラルも豊富です。植物細胞に見られる硬い細胞壁(セルロース)を持たないため、消化吸収率が高いという特徴もあります。
科学的研究において特に注目されているのは、スピルリナ特有の生物活性化合物です。中でもC-フィコシアニンは、強力な抗酸化作用と抗炎症作用を持つ青色のタンパク質-色素複合体であり、多くの研究の中心となっています5。その他、多糖類やフェノール化合物も重要な機能性成分として知られています6。
1.2. 日本および世界における法規制上の位置づけ
スピルリナの摂取を検討する上で、その法的な位置づけを理解することは極めて重要です。日本では、スピルリナは「いわゆる健康食品」というカテゴリーに分類されます。このカテゴリーには法的な定義が存在せず、病気の診断、治療、予防を目的とする「医薬品」とは明確に区別されます。したがって、宮崎県などが注意喚起しているように、がんや肝機能障害といった特定の疾患に対する効果効能を標榜して販売することは、医薬品医療機器等法(旧薬事法)で固く禁じられています7。
注目すべき点として、スピルリナ由来のフィコシアニンを機能性関与成分とする特定の製品が、「機能性表示食品」として消費者庁に届出されています。しかし、その表示内容は「肌のバリア機能(保湿力)を高め、肌のうるおいを保つのに役立つ」という、皮膚の健康に限定されたものです8。日本健康・栄養食品協会の示す制度の通り、事業者の責任で科学的根拠を提出する必要がありますが9、肝臓やがんに関する機能性表示の届出がないという事実は、質の高い臨床的エビデンスが現時点では規制当局の基準を満たしていないことを示唆しています。
国際的な状況を見ると、米国食品医薬品局(FDA)はスピルリナを「Generally Recognized as Safe(GRAS)」、すなわち「一般的に安全と認められる食品」として認定しています4。また、その抽出物は天然の着色料としても使用が許可されています10。このGRAS認定は、食品としての安全性を認めるものですが、いかなる治療効果を保証するものではありません。このように、国内外の規制は一貫してスピルリナを「医薬品」ではなく「食品」として位置づけています。
このセクションの要点
- スピルリナはタンパク質やビタミンが豊富な藍藻類ですが、日本の法律では病気の治療を目的としない「いわゆる健康食品」に分類されます。
- 米国では安全な食品(GRAS)とされていますが、これも治療効果を保証するものではなく、世界的に「食品」としての位置づけは一貫しています。
第2章:一般的な肝臓の健康に対するスピルリナの科学的エビデンス
肝臓がんそのものではなく、より広い意味での肝臓の健康について、スピルリナに何らかの良い影響があるのではないかと考える方もいらっしゃるでしょう。そのお気持ちは、ご自身の体を大切にしたいという思いの表れであり、とても自然なことです。科学の世界では、この疑問に答えるための研究が少しずつ進んでいます。例えば、肝臓の細胞がダメージを受ける仕組みは、体の中で小さな火事(炎症)が起きるようなものと例えられます。スピルリナに含まれる抗酸化成分は、この「火の勢いを弱める消防士」のような役割を果たす可能性が、動物実験などで示唆されています11。だからこそ、まずはがんの前段階ともなりうる肝臓の状態に対して、どのような科学的データがあるのかを見ていきましょう。
2.1. 肝保護作用と非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
動物モデルを用いた複数の基礎研究において、スピルリナが様々な毒物から肝臓を保護する可能性が示されています。例えば、四塩化炭素(CCl4)やアルコールといった肝毒性物質を投与した動物にスピルリナを事前に与えると、肝障害の指標となる血中酵素(ALTやAST)の上昇が抑制されることが報告されています11。この作用の主なメカニズムは、フィコシアニンやβ-カロテンなどの豊富な抗酸化成分が、肝細胞における酸化ストレスや炎症反応を軽減することにあると考えられています。
さらに、肝硬変や肝臓がんへと進行する可能性のある非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)に対するスピルリナの効果を検証した、小規模ながらも重要なヒト臨床研究が存在します。ギリシャで行われたパイロット研究では、NAFLDと診断された15人の患者に、1日6gのスピルリナを6ヶ月間投与しました。その結果、ALT、ASTといった肝機能マーカーに加え、中性脂肪や悪玉コレステロール(LDL-C)の有意な低下が認められました。ただし、これはあくまで予備的な小規模研究であり、より大規模な検証が不可欠です12。この知見を支持するように、NAFLDを誘発させたラットを用いた研究では、スピルリナの補給が脂肪肝の状態や腸内細菌叢を改善したことが報告されています13。
2.2. 肝線維化および肝硬変(研究の最前線)
科学的エビデンスの探求は、より進行した肝疾患へと向かっています。現在、中国の浙江大学がスポンサーとなり、肝線維症および肝硬変の患者を対象としてスピルリナ錠剤の有効性を検証する臨床試験(NCT06770283)が進行中です。この試験の背景には、肝線維症が肝硬変、そして最終的には肝細胞がんへと至る重要な前駆段階であるという認識があります14。研究者らは、スピルリナが持つ作用が、この線維化の進行を食い止める新たなアプローチになるのではないかと期待しています。
特に重要なのは、この臨床試験が「腸肝相関」という概念に着目している点です。これは、腸内環境の悪化が、炎症性物質を肝臓に送り込み、肝疾患の進行に関与するという考え方です15。この試験は、スピルリナが腸内細菌叢に有益な変化をもたらすことで、間接的に肝臓の状態を改善できるかどうかを検証しようとしています。この研究の存在自体が、現代医学がスピルリナに期待する役割が、確立された「がんの治療」ではなく、がんに至る前の「前がん病態の進行抑制」にあることを明確に示しています。
このセクションの要点
- 動物実験や小規模なヒト試験では、スピルリナが一般的な肝臓の保護や、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)の指標を改善する可能性が示唆されています。
- 現在、肝線維症や肝硬変といった、より進行した肝疾患への効果を検証する臨床試験が進行中であり、研究の焦点は「がん治療」ではなく「前がん病態の進行抑制」にあります。
第3章:スピルリナと肝臓がん — エビデンスの批判的吟味
スピルリナが直接、肝臓がんに効くかもしれないという期待を抱くのは、藁にもすがりたい状況では無理からぬことです。その期待の根拠となる研究結果があるのも事実です。基礎研究では、スピルリナががん細胞の増殖を抑えるといった有望なデータが報告されており、期待が寄せられるのは理解できます617。科学の世界では、実験室での有望な発見が、実際の人間で同じ効果を示すとは限らない「死の谷」と呼ばれる大きな壁が存在します。これは、新しい薬の開発で常に起こる課題です。だからこそ、期待と現実を分けるために、どのような種類のエビデンスが存在するのかを冷静に見極めることが極めて重要になります。
3.1. 基礎研究(実験室レベル)での知見
実験室レベルでは、スピルリナが肝臓がんに対して有望な生物活性を示すことが数多く報告されています。例えば、ヒト肝細胞がん由来の培養細胞株(HepG2など)の増殖を抑制することが示されています。また、ジブチルニトロサミン(DBN)という発がん物質を用いて肝臓がんを誘発したラットのモデルでは、スピルリナの投与によってがんの発生率が80%から20%へと劇的に低下したという報告があります17。さらに、進行した肝細胞がんを移植したマウスのモデルでは、スピルリナの投与が生存率を改善し、腫瘍マーカーであるAFPの値を低下させることが報告されています18。
これらの基礎研究から、スピルリナが持つとされる抗がん作用のメカニズムとして、がん細胞に自死を促す「アポトーシスの誘導」、がん組織への栄養補給路を断つ「血管新生の抑制」、そして免疫細胞の攻撃能力を高める「免疫賦活作用」などが示唆されています111819。
研究モデル | スピルリナの投与形態 | 主要な抗がん作用に関する知見 | 出典 |
---|---|---|---|
進行肝細胞がんマウスモデル | スピルリナ(250, 500 mg/kg)経口投与 | 生存率改善、AFP低下、腫瘍結節の数・サイズ減少、p53活性化、アポトーシス誘導、VEGF(血管新生)抑制 | 48 |
DBN誘発ラット肝がんモデル | スピルリナ含有食 | 肝腫瘍発生率の低下(80%→20%)、細胞増殖抑制、アポトーシス誘導 | 47 |
ヒト肝細胞がん細胞株(HepG2) | スピルリナ水抽出物 | 細胞増殖抑制、細胞毒性 | 46 |
ヒト肝細胞がん細胞株(SMMC-7721) | スピルリナ由来タンパク質 | 細胞増殖抑制 | 15 |
胆管がん細胞株+免疫細胞 | スピルリナ多糖類抽出物 | 免疫細胞のがん細胞殺傷能力を増強、化学療法薬との相乗効果 | 49 |
3.2. ヒト臨床試験(臨床現場)でのエビデンス
基礎研究で示されたこれらの有望なメカニズムが、ヒトの肝臓がん患者さんにおいて実際に治療効果をもたらすかどうかが最も重要な問いです。しかし、ClinicalTrials.govやjRCTといった主要な臨床試験登録データベースを網羅的に調査した結果、スピルリナがヒトの肝細胞がんを治療する、あるいは生存期間を延長するといった有効性を証明した、質の高いランダム化比較試験(RCT)は一報も完了・公表されていないのが現状です20。
さらに、スピルリナの作用機序とされる「抗酸化作用」に焦点を当てた、より広範な研究結果は、むしろ警鐘を鳴らしています。信頼性の高いエビデンスを統合・評価するコクランが行った大規模なレビューでは、β-カロテンやビタミンEなどの抗酸化サプリメントが、消化器系のがんを予防するという説得力のあるエビデンスは見出せず、それどころか死亡率をわずかに増加させる可能性も指摘されています21。これは「抗酸化物質ががんに良い」という単純な考え方に疑問を投げかける重要な知見です。
このセクションの要点
- 実験室レベルの研究では、スピルリナががん細胞の増殖抑制や自死誘導など、複数の有望な抗がん作用を示す可能性が示唆されています。
- しかし、これらの結果がヒトの肝臓がん患者における治療効果に結びつくことを証明した、質の高い臨床試験は一つも存在しません。
第4章:安全性、リスク、および患者が考慮すべき重要事項
「スーパーフード」や天然由来という言葉を聞くと、なんとなく安全だろうと思いがちですが、その懸念は当然です。特に、がん治療というデリケートな時期には、普段以上に慎重になるべきです。体内で起きていることは、非常に精密なバランスの上に成り立っています。そこに予期せぬものを加えることは、まるで精密機械に未知のオイルを注ぐようなものです。良い効果を期待する一方で、思わぬ不具合を引き起こす可能性も考えなければなりません。だからこそ、スピルリナの安全性と潜在的なリスクについて、具体的な情報を知っておくことが非常に重要です。
4.1. 既知の副作用と免疫系への影響
多くの人では忍容性が良好ですが、一部で吐き気、下痢といった軽度の消化器症状が報告されています2223。しかし、特に注意すべきは、日本で報告された重篤な有害事象です。日本神経学会の報告によると、49歳の女性がスピルリナ含有サプリメントを摂取後、皮膚筋炎に類似した重篤な炎症性筋疾患を発症したケースがあります24。これは、スピルリナが持つ免疫賦活作用が、遺伝的素因を持つ個人の免疫系を異常に刺激し、自己免疫疾患の引き金となった可能性を示唆しています。
この免疫調節作用は、現代の肝細胞がん治療で重要な柱となっている免疫チェックポイント阻害薬などの免疫療法と、予期せぬ相互作用を引き起こす可能性もあります。日本肝臓学会の診療ガイドラインにもあるように28、これらの薬剤は免疫系を精密に調整して効果を発揮するため、作用機序が不明確なサプリメントの併用は、治療効果を弱めたり、重篤な副作用を増強させたりする危険性があり、決して自己判断で行うべきではありません。
4.2. 最大のリスク:肝毒素(マイクロシスチン)による汚染
肝臓がん患者さんにとって、これは最も重大かつ見過ごすことのできないリスクです。スピルリナを含む藍藻類サプリメントは、培養過程で、マイクロシスチンという強力な肝毒素を産生する別の種類のシアノバクテリアに汚染される危険性があります。マイクロシスチンは、肝細胞にダメージを与えることが科学的に証明された肝毒素であり、発がんプロモーター(がんの発生を促進する物質)としても分類されています26。高濃度で摂取した場合は嘔吐や下痢を引き起こし、最悪の場合は致死的な肝出血に至ることもあります25。複数の調査研究により、市販の製品から安全基準値を超える濃度のマイクロシスチンが検出されたことが報告されており、米国食品医薬品局(FDA)もこの問題を認識し、製品リコールも発生しています2627。肝機能が低下している状態の肝臓にとって、既知の肝毒素に曝露することは、理論上の利益をはるかに上回る、容認できないリスクをもたらす可能性があります。
評価項目 | 詳細 |
---|---|
期待される利益 (基礎研究レベルのエビデンス) | がん細胞のアポトーシス誘導の可能性 17 腫瘍の血管新生阻害の可能性 18 抗酸化作用による細胞保護の可能性 21 注意: これらはいずれもヒトのがん患者で証明されたものではない。 |
文書化されたリスクと潜在的リスク (ヒトでの報告および毒物学的知見) | 高リスク: 肝毒素(マイクロシスチン)による製品汚染 26 中リスク: 自己免疫疾患の誘発または悪化 24 潜在的リスク: 標準的ながん治療(特に免疫療法)への干渉 低リスク: 軽度の消化器系副作用 23 |
受診の目安と注意すべきサイン
- 「がんに効く」「奇跡の治療法」といった非科学的な宣伝文句を謳う製品
- マイクロシスチン含有量に関する品質保証や第三者機関による検査結果を開示していない製品
- 標準治療を中止してサプリメントに切り替えることを勧める情報源
- サプリメント摂取後に原因不明の体調不良(特に消化器症状や皮膚症状)が現れた場合
第5章:標準医療との統合
標準治療とサプリメントをどう組み合わせればよいか、多くの方が迷われることでしょう。最善の治療を受けたいと考えるのは当然のことです。その道筋を照らす羅針盤の役割を果たすのが、科学的根拠に基づいて専門家たちが作成した「診療ガイドライン」です。これは、特定の治療法が有効であるかを判断するプロセスが、ちょうど厳格な裁判のようなものだと想像すると分かりやすいかもしれません。数多くの証拠(臨床試験データ)が提出され、専門家という裁判官たちがその証拠の信頼性を吟味し、「有罪(有効)」か「無罪(無効または証拠不十分)」かを判断します。だからこそ、このガイドラインに掲載されているかどうかが、その治療法が信頼できるかどうかの重要な基準となるのです。
5.1. ゴールドスタンダード:肝癌診療ガイドライン(2021年版)
日本における肝細胞がん治療の指針は、日本肝臓学会が作成する「肝癌診療ガイドライン」によって定められています。これは、入手可能な最も質の高い科学的エビデンスに基づいて策定された、標準治療の集大成です2829。2021年版ガイドラインでは、治療法は腫瘍の進行度、肝機能、および全身状態に応じて選択され、主要な治療法として肝切除術、ラジオ波焼灼療法(RFA)、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、そして薬物療法(分子標得薬や免疫チェックポイント阻害薬など)が挙げられています2832。この包括的かつエビデンスに基づいたガイドラインにおいて、スピルリナやその他のいかなる「健康食品」も、肝臓がんの治療法として一切記載されておらず、推奨もされていません。これが、現在の日本の標準医療におけるスピルリナの公式な位置づけです。
5.2. 不可欠な対話:主治医への相談
本レポートが最も強く推奨する行動指針は、ただ一つです。スピルリナを含むいかなるサプリメントも、開始あるいは中止する前に、必ず治療を担当する主治医や医療チームと十分に相談すること。この相談は、薬物相互作用のリスク、治療効果への影響、副作用のリスク、そして製品の品質管理に関する懸念などを共有し、安全な治療を進める上で不可欠です。全国のがん診療連携拠点病院などに設置されている「がん相談支援センター」では、補完代替医療に関する相談も無料でできますので、活用を検討するのも良いでしょう。
今日から始められること
- 現在使用中、または使用を検討しているサプリメント(スピルリナを含む)のリストを作成しましょう(製品名、成分、摂取量など)。
- 次回の診察時にそのリストを持参し、主治医、薬剤師、管理栄養士に必ず見せてください。
- なぜそのサプリメントを使いたいのか、何を期待しているのかを具体的に伝え、専門家の意見を求めましょう。
よくある質問
スピルリナは肝臓がんの治療に使えますか?
いいえ、使えません。現時点では、スピルリナがヒトの肝臓がんを治療するという科学的根拠はなく、標準的な治療法として全く推奨されていません。基礎研究レベルでの可能性は示唆されていますが、これは実際の患者さんへの効果を保証するものではありません23。
スピルリナは安全ですか?
がん治療中にスピルリナを飲んでもいいですか?
なぜ「スーパーフード」と呼ばれているのですか?
結論
本レポートで検証した科学的・医学的エビデンスを総合すると、スピルリナは実験室レベルの研究で抗がん作用の可能性が示唆されるものの、ヒトの肝臓がん患者における有効性を示す質の高い臨床エビデンスは完全に欠如しています。一方で、肝毒性を持つマイクロシスチンによる汚染のリスク、および自己免疫疾患の誘発や免疫療法への干渉といった予測不能な影響は、特に肝機能が低下しているがん患者さんにとって、具体的かつ重大な脅威です。以上のことから、現時点での科学的エビデンスに基づき、スピルリナを肝臓がんの治療法として推奨することはできません。真の希望は、未証明の療法ではなく、エビデンスに裏打ちされた標準治療、そして信頼できる医療チームとの開かれた対話の中にこそ見出されるべきです。
免責事項
本コンテンツは一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。症状や治療に関する意思決定の前に、必ず医療専門職にご相談ください。
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