「血を見るのが怖い」「採血のことを考えただけで気分が悪くなる」。このような恐怖心は、「気弱」「怖がり」といった性格の問題ではありません1。これは、多くの方が経験している現実の反応です。もし、あなたがこの恐怖心に対して恥ずかしさや孤独を感じているなら、この記事はまさにあなたのために書かれました。あなたが直面しているその恐怖には、血液恐怖症(けつえききょうふしょう)という明確な医学的名称があります。
この記事の医学的レビュー担当者:
原井 宏明 (Hiroaki Harai), MD, PhD | 精神科医、原井クリニック院長
この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている、最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下の一覧には、実際に参照された情報源と、提示された医学的指針への直接的な関連性のみが含まれています。
要点まとめ
- 血液恐怖症は、DSM-5で認められた「特定の恐怖症」の一種であり、性格の問題ではなく治療可能な医学的状態です。
- 特徴的な症状として、血圧と心拍数が急激に低下し失神に至る「血管迷走神経反射」という特異な身体反応が挙げられます。
- 治療法は確立されており、専門家の指導のもとで行う「暴露療法」と、失神を防ぐためのセルフケア「筋緊張法」の組み合わせが極めて有効です。
第1章:血液恐怖症の基本知識 – 症状と医学的定義
血液恐怖症と向き合い、克服するためには、まずその症状と医学的な定義を正しく理解することが不可欠です。ご自身の状態を正確に把握することは、治療に向けた最も重要で最初のステップとなります。
1.1. 血液恐怖症の主な症状
血液恐怖症の症状は、心理的なものと身体的なものの二つに大別されます。これらの症状は通常、血液を目にしたときだけでなく、血液や注射、怪我について考えたり聞いたりしただけで現れることがあります1。
心理的症状
- 極度の恐怖と不安:血液に直面した際、または直面することを予期した際に生じる、強烈で不合理な恐怖感1。
- パニック反応:コントロールを失う感覚や、死ぬのではないかという恐怖を伴うパニック発作を経験することがあります。
- 吐き気:胃の不快感や吐き気は一般的な反応です1。
- 回避行動:健康診断や予防接種、さらには暴力的な場面を含む映画の鑑賞など、血液に関連する可能性のある状況を常に避けようとします。
身体的症状
血液恐怖症の身体的症状は、他の恐怖症と異なり失神につながることが多いため特に注意が必要です。
- めまい、ふらつき:頭がくらくらしたり、平衡感覚を失ったりする感覚1。
- 視覚の変化:視界がぼやけたり、視野が狭くなる「トンネル視野」が現れることがあります4。
- ほてりや冷や汗:体が急に熱くなった後、冷や汗が出て顔面が蒼白になります5。
- 心拍数と血圧の変動:初期には心拍数が急上昇(動悸)しますが、その直後に血圧とともに急激に低下します1。
- 失神(Syncope):重度の場合、この血圧と心拍数の急激な低下により、一時的に意識を失います。これは血液恐怖症の最も特徴的な症状です1。
1.2. 医学的分類:特定の恐怖症(限局性恐怖症)とは
医学的に、血液恐怖症は独立した診断名ではありません。世界的に認められている診断基準である『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』において、「特定の恐怖症(Specific Phobia)」、日本名では「限局性恐怖症(げんきょくせいきょうふしょう)」の一種として分類されています6。
特定の恐怖症は、恐怖の対象や状況によってさらに細かく分類されます。血液恐怖症は、その中でも「血液・注射・外傷(Blood-Injection-Injury – BII)型」という非常に特殊なグループに属します2。この分類は、血液恐怖症の生理学的反応が、高所恐怖症や動物恐怖症といった他の恐怖症と根本的に異なる理由を説明する上で極めて重要です6。
1.3. 他の恐怖症との決定的な違い:失神する「二相性反応」
血液恐怖症(および他のBII型恐怖症)と、他のほとんどの恐怖症との決定的かつ根本的な違いは、身体の生理学的反応にあります。
多くの恐怖症(例:クモ恐怖症、高所恐怖症)は、典型的な「闘争・逃走反応」を引き起こし、恐怖対象に直面している間、心拍数と血圧は上昇したまま維持されます7。しかし、血液恐怖症では、身体は二相性反応(diphasic response)と呼ばれるプロセスを経験します7。
- 第1相(急上昇):血液に最初に接触した際、身体は短期的な不安反応を示し、他の恐怖症と同様に心拍数と血圧が上昇します。
- 第2相(急降下):その直後、特殊な神経メカニズムが過剰に活性化し、心拍数と血圧の両方が急激かつ大幅に低下します。この低下こそが脳への血流を減少させ、失神を引き起こす原因です2。
失神が単なる「過剰反応」ではなく、BII型恐怖症に特有の予測可能な臨床的特徴であり、生理学的反応であることを理解することは、大きな前進です。これにより、患者の認識は「自分は弱すぎる」という自己非難から、「これは治療可能な医学的状態である」という受容へと移行します。この医学的な認識は、専門家の助けを求める旅を始めるための力強い土台となります。
第2章:なぜ血を見ると倒れるのか?- 血液恐怖症の科学的メカニズム
血液を見て失神する現象は、神秘的なものではありません。それは、私たちの自律神経系における一連の複雑な生理学的反応の結果です。このメカニズムを理解することは、より科学的かつ効果的にこの問題に対処する助けとなります。
2.1. 血管迷走神経反射(Vasovagal Syncope)の謎を解く
血液恐怖症における失神現象は、医学的に血管迷走神経反射による失神(Vasovagal Syncope)と呼ばれています4。これは最も一般的な失神のタイプであり、特定の誘因(この場合は血液)に対して神経系が過剰に反応することで起こります1。
その中核的なメカニズムは、心拍数や血圧など、身体の多くの無意識的な機能を調節する役割を持つ副交感神経系の重要な部分である迷走神経(めいそうしんけい)にあります。
血液恐怖症の人が血液を見ると、迷走神経が過剰に刺激されます。この刺激は心臓と血管に強力な信号を送り、同時に二つの効果を引き起こします1:
- 徐脈(Bradycardia):心拍が著しく遅くなります。
- 血管拡張(Vasodilation):特に脚部の血管が拡張します。
この二つの要因が組み合わさることで、血液が身体の下部に「滞留」し、血圧が急激に低下(低血圧)します。血圧が低下すると、脳への酸素豊富な血液の供給(脳灌流)が不十分になり、めまいや目のかすみといった症状が現れ、最終的に失神に至ります1。重要なのは、この失神は通常無害であり、短時間で回復するという点です1。
2.2. 特徴的な「二相性反応」の詳解
第1章で述べたように、二相性反応は血液恐怖症のユニークな生理学的特徴です。このプロセスをより深く理解するために、各相を詳細に分析してみましょう8。
- 第1相:交感神経系の活性化(「闘争・逃走」反応):血液に初めて接触すると、体の交感神経系が活性化されます。アドレナリンが放出され、心拍数が上がり、血圧が上昇します。これは、認識された脅威に備えるための典型的な不安反応です7。この相は通常、非常に短時間で終わります。
- 第2相:副交感神経系の過剰な活性化(「崩壊」):第1相の直後、体は「鎮静化」しようと試みますが、副交感神経系(主に迷走神経を介して)が過剰に反応します。心拍数と血圧を正常レベルに戻す代わりに、急激に「ブレーキ」をかけすぎ、結果として急激かつ大幅な低下を引き起こします。この生理学的な「崩壊」こそが失神につながるのです1。
2.3. 進化論的仮説と遺伝的要因
なぜ人体はこのような奇妙な反応メカニズムを進化させたのでしょうか?進化論的な観点からの興味深い仮説として、これが古代の生存メカニズムであった可能性が指摘されています1。過去、人が重傷を負い出血した場合、失神して血圧が下がることで、失血の速度を遅らせ、生存の可能性を高めることができたのかもしれません。現代における血液を見た際の失神反応は、「止血を助けるための適応反応の過剰な発現」である可能性があります9。
さらに、研究は遺伝的要因が役割を果たしている可能性も示唆しています。血液恐怖症および血管迷走神経反射による失神の傾向は、家族内で見られることがあり、この種の反応に対する遺伝的素因が存在する可能性を示しています6。
2.4.【専門家向けコラム】二相性反応以外の代替的病態生理学
最も深く包括的な見解を提供するためには、二相性反応モデルが強力である一方で、全体像のすべてを説明するものではないかもしれない、という点を認識することが重要です。科学界では、これらの複雑なメカニズムに関する研究が続けられています8。
注目すべき代替仮説の一つに、低二酸化炭素血症仮説(hypocapnia hypothesis)があります。この仮説によれば、血液に直面した際の極度の不安が、一部の人々を過呼吸(速く深い呼吸)にさせることがあります。これにより血中の二酸化炭素(CO2)濃度が低下します。低いCO2濃度は脳血管の収縮(脳血管攣縮)を引き起こし、脳への血流を減少させ、めまいや失神の症状に寄与する可能性があります。このメカニズムは、血管迷走神経反射と独立して、あるいは組み合わさって作用する可能性があります8。
第3章:血液恐怖症の診断と有病率
自分が経験していることが、明確な名称と診断基準を持つ医学的な状態であると認識することは、大きな安堵感をもたらすことがあります。そしてそれは、あなたが決して一人ではないことも示しています。
3.1. 専門医はどのように診断するか
血液恐怖症の診断は、精神科医や臨床心理士などの精神保健の専門家によって行われます。診断は血液検査や画像診断に基づくものではなく、主に症状、病歴、そして恐怖が日常生活に与える影響の度合いを評価するための詳細な臨床面接によって下されます。
専門家は、『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』の基準を用います。以下の表は、血液恐怖症に適用される特定の恐怖症(限局性恐怖症)の主な診断基準をまとめたものです2。
基準 | 詳細な説明 |
---|---|
A. 著しい恐怖または不安 | 特定の対象または状況(例:血液、注射、外傷)に対する、強烈で持続的な恐怖または不安。 |
B. 即時的な反応 | 恐怖の対象や状況は、ほとんど常に即座に恐怖または不安反応を引き起こす。 |
C. 積極的な回避 | 患者はその対象や状況を積極的に回避するか、極度の恐怖と苦痛を伴いながら耐え忍ぶ。 |
D. 恐怖の不合理性 | 恐怖または不安のレベルは、その対象や状況がもたらす実際の危険性とは不釣り合いであり、文化的・社会的背景を考慮しても過剰である。 |
E. 持続期間 | 恐怖、不安、または回避行動は持続的であり、通常6ヶ月以上続く。 |
F. 機能の低下 | 恐怖、不安、または回避行動は、臨床的に著しい苦痛を引き起こすか、社会的、職業的、その他の重要な領域における機能を低下させる。 |
G. 鑑別診断 | これらの症状は、他の精神疾患(例:パニック症、強迫症、PTSD)ではうまく説明できない。 |
出典:DSM-5の基準2に基づく
3.2. 日本および世界での有病率
血液恐怖症がどれほど一般的であるかを知ることは、この闘いにおいてあなたが一人ではないと認識する助けになります。
- 世界的に:不安症は最も一般的な精神疾患の一つで、2019年には世界人口の約4%(約3億100万人)が罹患しています3。特定の恐怖症はその中でかなりの割合を占めます。米国では、人口の約7~9%が特定の恐怖症に罹患していると推定されています10。特に血液・注射・外傷(BII)型の恐怖症は、人口の約4%に影響を与えていると考えられています8。
- 日本国内:厚生労働省が行った調査によると、日本における何らかの不安症の生涯有病率は9.2%です。その中でも特定の恐怖症は最も一般的で、有病率は3.4%でした11。これは、日本国内で何百万人もの人々が同様の状態に直面していることを示す、地域に根差した重要な統計です。
治療ギャップ:憂慮すべき事実として、不安症は非常に一般的で効果的に治療できるにもかかわらず、多くの患者が助けを求めていないという現実があります。世界的に見ても、不安症患者のうち何らかの治療を受けているのは4人に1人程度です3。この「ギャップ」は、社会的な偏見や、多くの人が自身の「恐怖」が診断・治療を必要とする医学的状態であると認識していないことなどから、日本ではさらに大きい可能性があります。そのため、この記事の使命は、この治療ギャップを埋めるための、信頼できる最初の接点となることです。
第4章:血液恐怖症の克服法 – 専門的治療とセルフケア
幸いなことに、血液恐怖症は管理し、克服することが十分に可能です。現代の治療法は非常に効果的であることが証明されています。最善の戦略は、多くの場合、恐怖という心理的な側面の管理と、失神という生理学的な反応のコントロールを組み合わせることです。
4.1. 専門家と取り組む心理療法
心理療法は、血液恐怖症を含む特定の恐怖症に対する、最も基礎的で効果的な治療法です。
認知行動療法(CBT)と暴露療法(Exposure Therapy)
これらは恐怖症治療の「ゴールドスタンダード(最高水準)」と見なされています12。
- 認知行動療法(CBT):この療法は、血液や外傷に関する不合理な思考や信念を特定し、それに挑戦する手助けをします。長年形成されてきた回避行動のパターンを変える方法を学びます12。
- 暴露療法(Exposure Therapy):これはCBTの中核をなす要素です。安全で管理された環境下で、恐怖の対象に徐々に、そして繰り返し直面するという原則に基づいています。これにより、神経系が「脱感作」され、恐怖の対象が考えているほど危険ではないことを学習します12。
日本における信頼性と実証性を高める典型例として、岡嶋・原井(2007)による成功事例研究が挙げられます。この研究では、重度の注射恐怖症を持つ20歳の女性が、後述する筋緊張法を併用した暴露療法によって治療に成功しました。結果として、彼女は恐怖を克服しただけでなく、医療従事者として働くことができるようになりました。これは、地域に根差し、示唆に富む強力な実証です13。
森田療法
これは、森田正馬博士によって開発された日本独自の心理療法です。この療法は、特に「神経質(shinkeishitsu)」な性格(不安になりやすく、完璧主義)を持つ人々に効果的です14。
森田療法の核心的な概念は「あるがまま」です。目標は不安を完全に取り除くことではなく、不安が存在するにもかかわらず、建設的に行動し生活することを学ぶことです14。CBTのように思考に挑戦するのではなく、森田療法は患者が症状から「生の欲望」に向けた目的本位の行動へと注意を転換することを促します15。
最新技術:VR(バーチャルリアリティ)暴露療法
これは、暴露療法を安全かつ高度に制御された環境で実施するための先進的な手法です。VRは恐怖を引き起こす状況(例えば採血室)を仮想環境で再現し、患者が現実世界で直面する前に、安全に恐怖と向き合うことを可能にします16。日本国内の一部のクリニックでもこの技術の導入が始まっています17。
4.2. 補助的に用いられる薬物療法
薬物療法は通常、特定の恐怖症の第一選択治療ではないことを明確にしておく必要があります。しかし、特に初期段階や、稀にしか遭遇しない特定の状況においては、有用な補助ツールとなり得ます12。
- β遮断薬:採血などの恐怖を誘発するイベントの前に使用されることがあります。この薬は心理的な恐怖を軽減するものではありませんが、アドレナリンの作用をブロックし、心臓の動悸、手の震え、声の震えといった身体症状をコントロールするのに役立ちます12。
- 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs):これは抗うつ薬の一種で、全体的な不安レベルを軽減するのに役立ちます。恐怖症がより広範な不安症やうつ病の一部である場合に検討されます。日本精神神経学会(JSPN)のガイドラインでも、不安症に対する使用が言及されています18。
4.3. 自分でできる対処法(セルフケア)
このセクションは、読者がすぐに実践できる価値の高いツールを提供します。
失神を防ぐ「筋緊張法(Applied Tension Technique)」
これはBII型恐怖症を持つ人々にとって最も重要な自己対処スキルです。重要な違いとして、他の恐怖症ではリラクゼーションが鍵となりますが、血液恐怖症の場合、過度なリラクゼーションは血圧を下げ、失神のリスクを高める可能性があります。筋緊張法は、意図的に血圧を上昇させることで血管迷走神経反射に対抗するものです19。
血液恐怖症への対処法が、心理的な恐怖の管理(CBT/暴露療法による)と、生理的な失神の管理(筋緊張法による)という二重の戦略を必要とすることを理解するのは、重要な一歩です。研究により、暴露療法と筋緊張法の組み合わせが効果的な治療法であることが示されています19。以下の表は、具体的な実践方法を明確に示しています。
ステップ | 詳細な手順 |
---|---|
1. 快適に座る | 椅子を見つけて、楽な姿勢で座ります。 |
2. 筋肉を緊張させる | 腕、胴体、脚の筋肉を緊張させます(こぶしを握り、力を入れる)。 |
3. 緊張を維持する | 顔に温かい感覚が広がるまで、この緊張状態を10〜15秒間維持します。 |
4. 弛緩させる | 20〜30秒間、体をリラックスさせます。重要:目標は通常の状態に戻すことであり、完全にリラックスすることではありません。過度なリラックスは血圧を低下させる可能性があります。 |
5. 繰り返す | このサイクルを5回繰り返します。 |
6. 練習する | この技術が自然な反応となるように、毎日練習します。 |
7. 適用する | ふらつきやめまいなど、失神の最初の兆候を感じたらすぐにこの技術を使い始めます。 |
出典:Anxiety Canadaのガイドライン20に基づく
健康診断・採血を乗り切るための具体的工夫
- 採血前:十分に水分を摂り21、体を温めて血管を見つけやすくし21、飴や甘いものを持参する22。
- 採血中:看護師に事前に血液恐怖症や失神の既往歴を伝える21。横になって採血してもらうよう依頼する22。視線をそらし21、気を紛らわせる技術(楽しいことを考えるなど)を使い21、そして最も重要なのは筋緊張法を適用することです。
- 採血後:立ち上がる前に、できれば横になった姿勢で10〜15分間その場で休息する5。
第5章:日本国内での相談先とサポート
孤立感は、血液恐怖症がもたらす最も大きな負担の一つです。しかし、日本には臨床専門家、専門療法、そして同じ経験を持つ人々の支援コミュニティなど、多様なサポートシステムが存在します。
5.1. 専門のクリニック・病院を見つけるには
専門的な助けを求める第一歩は、精神科や心療内科を受診することです。信頼性を高め、有益な情報を提供するために、日本国内の著名な専門家やクリニック名を挙げることが重要です。
- 原井クリニック:東京に拠点を置き、恐怖症や不安症に対する行動療法を専門としています23。院長の原井宏明医師と、同クリニックの岡嶋美代氏は、CBTと恐怖症に関する日本の第一人者です。彼らが共同で行った重度の注射恐怖症の治療成功事例に関する研究は、その深い専門知識を証明しています13。
5.2. 患者会とサポートグループ
同じ経験を持つ人々と繋がることは、大きな慰めと力を与えてくれます12。自分だけではないと知ることは、貴重な精神的な支えとなり得ます。
組織名 | 特徴 | 連絡先/所在地 |
---|---|---|
東京慈恵会医科大学 森田療法センター | 不安症に対する日本独自の心理療法である森田療法を提供する専門センター。 | 東京都狛江市24 |
ReOPA(レオパ) | うつ病や不安を抱える人々のための自助グループで、交流会を開催。 | 主に東京で活動25 |
一般社団法人精神障害当事者会ポルケ | 精神保健の状態を持つ人々のためのピアサポートグループで、毎月「お話会」を開催。 | 東京都城南地区(大田区、港区など)26 |
注:情報は変更される可能性があります。最新の情報は各組織の公式サイトでご確認ください。
5.3. 医療従事者(特に看護師)の方へ
このセクションは、血液恐怖症の患者と最前線で接する機会の多い医療従事者の皆様に向けたものです。
ご自身が血液恐怖症である看護師の方へ:これは現実に存在する課題です。多くの看護師は経験を通じて恐怖を克服できますが、恐怖が持続し業務に支障をきたす場合は、血液との接触が少ない部署(例:内科、リハビリテーション科)への異動を検討することは、全く恥ずべきことではない実行可能な選択肢です27。
血液恐怖症の患者をケアする看護師の方へ:あなたの共感と適切なケアが、大きな違いを生み出します。
- 評価と受容:患者の恐怖を真剣に受け止めてください。「大丈夫」と軽くあしらわないでください。不安のレベルを評価し、必要であればバイタルサインなどの客観的な指標を用います28。
- 共感的なコミュニケーション:穏やかで安心させる声で話しかけ、患者の懸念に注意深く耳を傾けてください29。
- 実践的なサポート:患者に横になるよう促し、気を紛らわせる技術や筋緊張法を指導します。手を軽く握ったり、背中をさすったりすること(状況が許せば)が、大きな安心感を与えることがあります29。
よくある質問
Q1: 血液恐怖症は遺伝しますか?
A1: 単一の「血液恐怖遺伝子」というものは存在しませんが、研究では遺伝的要因が示唆されています。家族に恐怖症、不安症、または血管迷走神経反射による失神の傾向がある人がいる場合、あなたのリスクは高くなる可能性があります6。しかし、過去の否定的な経験などの環境要因も重要な役割を果たします。
Q2: 採血や健康診断をどうしても受けなければいけない時の最終手段は?
A2: まず、第4章で述べたすべての自己対処法、特に筋緊張法を試し、医療スタッフに事前に状況を伝えてください。非常に重度なケース、特に歯科手術など必要な医療処置の文脈では、鎮静法の選択肢が検討されることがあります。例えば、日本の多くの歯科クリニックでは、患者を深いリラックス状態に保つ静脈内鎮静法を提供しています30。同様のサポートについて、医師と深刻な不安について話し合うことで選択肢が開かれる可能性があります。
Q3: 子どもが血液恐怖症のようです。親としてどう対応すればよいですか?
A3: 専門家のアドバイスに基づき、以下の方法でサポートできます12:
・オープンに話す:判断せずに子供の恐怖を認め、「怖い」という感情は正常なことだと伝えます。
・回避を強化しない:子供のためにすべての恐怖の引き金を避けようとしないでください。代わりに、子供が管理された方法で徐々に恐怖に直面できる「安全な基地」となってください。
・前向きな行動の模範となる:子供は観察から学びます。あなたが冷静に恐怖に対処する姿を見せてください。
・専門家の助けを求める:恐怖が子供の生活(例:予防接種の拒否)に影響を与えている場合は、小児科医や児童精神保健の専門家に相談してください。
Q4: 先端恐怖症や注射恐怖症との違いは何ですか?
結論
血液恐怖症を乗り越える旅は容易な道ではありませんが、決して不可能な道ではありません。この記事を通じて、あなたがその旅を始めるために必要な知識とツールを提供できたことを願っています。
以下の核心的な点を心に留めておいてください:
- 血液恐怖症は、治療可能な現実の医学的状態であり、性格の欠点や弱さではありません。これを理解することが、自己非難の重荷からあなたを解放します。
- 失神反応は、単なる「パニック」ではなく、管理可能な生理学的反射(血管迷走神経反射)です。筋緊張法のような特定の技術でコントロールできます。
- 認知行動療法(CBT)や暴露療法のような効果的な治療法は、高い成功率が証明されています。この恐怖と共に生き続ける必要はありません。
最初の一歩であり、最も困難な一歩は、問題を認め、助けを求めることです。恐怖の本質を理解し、効果的な助けがあることを知ることで、あなたは回復への道を歩み始めることができます。勇気を持って、この記事をあなたの家族や医師と共有し、対話を始めてください。あなたの健康と人生のコントロールを取り戻す道は、すぐ目の前にあります。
免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康上の懸念がある場合、または健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。
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