【科学的根拠に基づく】卵巣嚢胞のすべて:症状・原因から最新治療、日本の公的医療保険制度まで徹底解説
女性の健康

【科学的根拠に基づく】卵巣嚢胞のすべて:症状・原因から最新治療、日本の公的医療保険制度まで徹底解説

卵巣嚢胞(らんそうのうほう)は、女性が一生のうちに経験する可能性のある、ごく一般的な婦人科系の状態です。多くは良性で無症状ですが、時に痛みを引き起こしたり、まれに悪性の可能性を秘んでいたりすることから、正確な知識を持つことが非常に重要です。この記事では、日本の主要な医療ガイドラインと国内外の最新の研究データに基づき、卵巣嚢胞の正確な定義、種類、症状、診断方法、そして日本国内における治療選択肢と公的医療保険制度下の費用について、JapaneseHealth.org編集部が徹底的に分析・解説します。


この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を記載します。

  • 日本産科婦人科学会 (JSOG) および日本婦人科腫瘍学会 (JSGO): 本記事における診断基準、治療方針、特に日本国内での手術適応(例:5~6cm以上の嚢胞)や悪性腫瘍の管理に関する指針は、これらの学会が発行するガイドラインに基づいています312
  • 厚生労働省 (MHLW) および政府統計の総合窓口 (e-Stat): 日本国内の卵巣良性腫瘍の患者数(2020年時点で50,000人)や年齢分布などの疫学データは、これらの公的統計に基づいています15
  • 国際的な産婦人科団体 (ACOG, RCOG): 嚢胞の経過観察に関する国際的な基準(例:ACOGの10cmまでの単純性嚢胞の経過観察許容)を提示し、日本の基準と比較することで、多角的な視点を提供しています1314
  • 国際卵巣腫瘍分析 (IOTA) グループ: 超音波検査における悪性度評価のための国際標準である「B-rules」および「M-rules」に関する記述は、IOTAの研究成果に基づいています14
  • 医学論文データベース (PubMed等): 悪性度指数(RMI)の有効性、CA-125の限界、妊娠中の卵巣嚢胞の管理など、特定の臨床的課題に関するエビデンスは、査読済みの医学論文に基づいています2333

要点まとめ

  • 卵巣嚢胞は、卵巣に液体が溜まった袋状の病変で、多くは良性です。「機能性嚢胞」は自然に消えることが多いですが、「器質性嚢胞(卵巣嚢腫)」は手術が必要になることがあります。
  • 症状は無いことがほとんどですが、お腹の張り、腹痛、頻尿などが現れることがあります。「卵巣茎捻転」や「嚢胞破裂」は、激しい腹痛を伴う救急疾患です。
  • 診断の基本は経腟超音波検査です。悪性が疑われる場合は、血液検査(CA-125など)やMRI、CT検査を追加します。
  • 治療法は、嚢胞の種類、大きさ、症状、年齢によって決まります。無症状で良性の可能性が高い場合は「経過観察」、大きい場合や症状がある場合は「手術」が選択されます。
  • 日本における手術費用は公的医療保険の対象となり、自己負担は通常3割です。さらに「高額療養費制度」を利用することで、月々の自己負担額を一定額以下に抑えることができます。

第1部 卵巣嚢胞の包括的理解

この状態を正しく理解するためには、まず正確な医学用語を区別し、日本における発生状況や臨床症状を把握することが不可欠です。本章では、卵巣嚢胞の本質について体系的かつ正確な知識を提供します。

1.1. 正確な定義と分類:用語の基礎を固める

適切な理解のためには、日本の医療現場で使われる用語を区別することが極めて重要です。用語の不正確さは、予後や治療法に関する不必要な誤解につながる可能性があります。

卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い

日本の医学界では、これら二つの用語は異なる意味合いで使われており、その区別が診断を理解する第一歩となります。

  • 卵巣嚢胞 (Ovarian Cyst): これは、卵巣の内部または表面に形成される、液体で満たされた袋状の病変全般を指す広義の記述的用語です1。この用語には、月経周期に関連して一時的に発生する生理的な嚢胞(機能性嚢胞)と、新生物としての性質を持つ病的な嚢胞(器質性嚢胞)の両方が含まれます3
  • 卵巣嚢腫 (Ovarian Cystic Tumor): これは、より限定的で病理学的な診断名です。通常、器質性(病的)嚢胞を指し、「卵巣腫瘍」の一種として扱われます。卵巣腫瘍は、液体を含む「嚢胞性」のものと、中身が詰まった「充実性」のものに大別されます。卵巣嚢腫は全卵巣腫瘍の約80~90%を占め、その大部分は良性です4

この違いを理解することは非常に重要です。医師が「機能性卵巣嚢胞」と診断した場合、それは自然に消える可能性が高いことを意味します。対照的に、「卵巣嚢腫」という診断は、より慎重な経過観察や治療が必要な新生物であることを示唆します。

詳細な分類

卵巣嚢胞は、その発生原因と性質に基づき、主に二つの大きなグループに分類されます。

1. 機能性嚢胞 (Functional Cyst)

これは最も一般的なタイプの嚢胞で、特に生殖年齢の女性に見られ、月経周期の排卵プロセスに直接関連しています。通常は良性で、治療を必要とせず数週間から数ヶ月で自然に消失します2

  • 卵胞嚢胞 (Follicular Cyst): 卵子を包む卵胞が排卵時に破裂せず、成長を続けて液体を溜め込むことで形成されます2
  • 黄体嚢胞 (Corpus Luteum Cyst): 排卵後、空になった卵胞は黄体という組織に変化します。この黄体の開口部が塞がると、内部に液体が溜まり嚢胞を形成することがあります。このタイプは時に内部で出血(出血性黄体嚢胞)を起こし、骨盤部の張りや痛みを引き起こすことがあります2
2. 器質性嚢胞(狭義の卵巣嚢腫)

これらは卵巣の細胞から発生する真の新生物であり、月経周期とは無関係です。自然に消えることはなく、医学的な介入が必要になる場合があります。

  • 漿液性嚢胞腺腫 (Serous Cystadenoma): 最も一般的な器質性嚢胞です。血清のような透明でサラサラした液体を含んでいます。ほとんどが良性ですが、ごく一部に悪性との境界型やがんの場合があります4
  • 粘液性嚢胞腺腫 (Mucinous Cystadenoma): ネバネバした粘液性の液体を含んでいます。時に腹部全体を占めるほど巨大になることがあります。漿液性嚢胞腺腫と同様に大半は良性ですが、悪性化の可能性もあります4
  • 成熟嚢胞性奇形腫 (Mature Cystic Teratoma) / 皮様嚢腫 (Dermoid Cyst): 体のあらゆる組織に分化する能力を持つ胚細胞から発生する腫瘍です。そのため、嚢胞内には髪の毛、皮膚、歯、骨、脂肪組織など、多様な組織が含まれていることがあります。若い女性に非常に多く、悪性化することは稀です4
  • 子宮内膜症性嚢胞 (Endometriotic Cyst) / チョコレート嚢胞 (Chocolate Cyst): 子宮内膜に似た組織が卵巣で増殖することで形成されます。この組織も月経周期に合わせて毎月出血しますが、血液が体外に排出されずに嚢胞内に溜まり、溶けたチョコレートのような古くてドロドロした液体に変化します。チョコレート嚢胞は子宮内膜症の一症状であり、激しい月経痛、性交痛、そして不妊の原因となることがあります。良性ではあるものの、約1%の確率で明細胞がんや類内膜がんといった治療が難しい特殊な卵巣がんに移行する危険性があります4
卵巣嚢胞の主な種類と特徴
種類 別名 性質 内容物 好発年齢 特徴的な症状 悪性化リスク
卵胞嚢胞 機能性 漿液性の液体 生殖年齢 通常無症状、自然消失 ほぼ無い
黄体嚢胞 機能性 液体、時に血液 生殖年齢 軽い痛み、月経不順の可能性 ほぼ無い
漿液性嚢胞腺腫 器質性 漿液性の液体 思春期以降全年齢 小さい場合は無症状
粘液性嚢胞腺腫 器質性 粘液 中年期、閉経後 巨大化し腹部膨満感
成熟嚢胞性奇形腫 皮様嚢腫 器質性 髪、歯、脂肪、骨など 若年女性(20-30代) 大きいと痛み 非常に稀
子宮内膜症性嚢胞 チョコレート嚢胞 器質性(子宮内膜症) 古い血液 生殖年齢(20-40代) 月経痛、性交痛、不妊 約1%

1.2. 疫学と危険因子:日本における実情

卵巣嚢胞は世界中で最も一般的な婦人科疾患の一つです1。推定では、女性の約5~10%がその生涯で卵巣や卵管など付属器の腫瘍のために手術を経験するとされています13。手術が必要となったケースのうち、腫瘍が悪性である割合は13%から21%の範囲です13

日本国内のデータ

日本の政府統計は、国内の疾病状況に関する深い洞察を提供しています。厚生労働省の患者調査によると、2020年(令和2年)において「卵巣の良性新生物」で治療を受けていると推定される総患者数は50,000人でした。年齢階級別の分析では、罹患率は20代で増加し始め、40代と50代でピークに達し、その後減少します15。これは、疾患の負担が主に労働・生殖年齢の女性に集中していることを示しています。
一方で、卵巣がん(卵巣の悪性新生物)は日本で増加傾向にあり、2014年には年間新規罹患者数が10,000人を超えました。さらに懸念されるのは、卵巣がんは日本の婦人科がんの中で最も死亡率が高く、2018年には約4,800人が死亡しています18
もう一つの重要な側面は、国民の認識です。2025年のある調査では、アジア太平洋地域の他国と比較して、日本人女性の「卵巣がん」および「子宮内膜症」(チョコレート嚢胞の原因)に対する認識が低い傾向にあることが示されました。一方で、「子宮筋腫」に対する認識は高いという結果でした19。この差は、重大な「知識のギャップ」を生み出しています。日本人女性は婦人科系の健康に関心が高いものの、その注意が卵巣がんのような高リスク疾患に均等に向けられていない可能性を示唆しています。この事実に加え、日本の働く女性が「仕事への影響を懸念する」「重い病気が見つかるのが怖い」といった理由で婦人科受診をためらう傾向があるという別の研究結果20は、認識を高め、早期発見を促すための質の高い医療情報の必要性を強調しています。

危険因子と保護因子

卵巣嚢胞、特に悪性腫瘍の発生は、多くの要因に影響されます。

  • 危険因子:
    • 年齢: 卵巣がんのリスクは閉経後(通常50歳以降)に著しく増加します1
    • 家族歴: 第一度近親者(母、姉妹、娘)に卵巣がんまたは乳がんの既往がある場合、リスクが大幅に上昇します。これは、BRCA1やBRCA2といった遺伝子変異に関連している可能性があります22
    • 個人歴: 子宮内膜症(チョコレート嚢胞および一部のがんのリスク増加)8や、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の既往25
    • 内分泌・生殖因子: 出産経験がないこと(nulliparity)、原発性不妊、早発思春期、遅発閉経。生涯の排卵回数が多いほど、卵巣表面での損傷と修復が繰り返されるため、卵巣がんのリスクが高まるという説が一般的です24
    • 不妊治療薬の使用: 一部の研究では関連性が示唆されていますが、まだ明確ではありません8
  • 保護因子:
    • 妊娠と授乳: 排卵回数を減少させるため、保護的に作用すると考えられています23
    • 経口避妊薬の使用: 長年の使用は、排卵を抑制する効果により、卵巣がんのリスクを大幅に低下させる可能性があります23

1.3. 臨床症状と急性合併症

卵巣嚢胞、特に卵巣がんの最も危険な特徴の一つは、初期段階におけるその「沈黙」です。多くの女性は、腫瘍が大きくなるまで何の症状も感じません。

症状の範囲

  • 無症状: これが最も一般的です。ほとんどの嚢胞、特に小さなものは、定期的な婦人科検診や他の理由での超音波検査で偶然発見されます3
  • 圧迫による機械的症状: 腫瘍が大きくなると、隣接する臓器を圧迫し、以下のような症状を引き起こすことがあります。
    • 下腹部の膨満感、張り、または圧迫感3
    • ウエストがきつくなる、お腹が異常に出てきたと感じる4
    • 嚢胞が膀胱を圧迫することによる頻尿や排尿困難6
  • 痛み:
    • 骨盤部の鈍痛または鋭い痛みで、腰や太ももに放散することがあります2
    • 性交時痛(dyspareunia)。特にチョコレート嚢胞を持つ人では、炎症や癒着のために一般的です3
  • 月経異常: 一部の嚢胞はホルモンを産生することがあり、不規則な月経、過多月経、または通常より激しい月経痛を引き起こすことがあります2

これらの症状の非特異性は大きな課題です。お腹の張りや膨満感といった兆候は、過敏性腸症候群のような消化器系の問題や、単なる食生活の変化と誤解されがちです。この曖昧さゆえに、多くのがん症例は、症状がより顕著になる進行期まで診断されないことがあります21。したがって、これらの症状が持続的、反復的、または明らかな理由なく新たに出現した場合、特に40歳以上の女性においては、婦人科を受診することが極めて重要であるというメッセージを強調する必要があります。

急性合併症(緊急医療事態)

一部のケースでは、卵巣嚢胞が急性の合併症を引き起こし、即時の医療介入が必要となることがあります。

  • 卵巣茎捻転 (Ovarian Torsion): 最も恐れられる合併症の一つです。腫瘍(通常、直径5~6cm以上)が大きくなると、卵巣がその血管の茎を中心にねじれてしまい、血流が遮断されます。これにより、「ナイフで刺されるような」と表現される激しい下腹部痛が突然発生し、吐き気や嘔吐を伴います。迅速に手術でねじれを解除しないと、卵巣が壊死し、摘出せざるを得なくなるため、これは婦人科救急疾患です3
  • 嚢胞破裂 (Rupture): 嚢胞が破裂し、内容物が腹腔内に漏れ出すことがあります。これにより、突然の激しい痛みが生じます。嚢胞の破裂が大量の出血を伴う場合、失血性ショックに至る可能性があり、緊急手術が必要となります3
  • 嚢胞内出血 (Hemorrhage): 嚢胞内部で出血が起こり、嚢胞が急に膨らんで痛みを引き起こすことがあります。これは特に黄体嚢胞でよく見られます7

第2部 診断とリスク評価のゴールドスタンダード

卵巣嚢胞の診断プロセスは、嚢胞の存在と特徴を特定すること、そしてより重要なこととして、悪性のリスクを評価して適切な治療方針を決定すること、という二つの主要な目的を追求します。

2.1. 経腟超音波検査の中心的な役割

超音波検査は最も重要な画像診断ツールであり、付属器腫瘤の評価における第一選択の方法です13

第一選択の方法

経腟超音波検査(Transvaginal Ultrasound – TVUS)は、ゴールドスタンダードと見なされています。小さなプローブを腟内に挿入することで、TVUSは卵巣を近距離から観察でき、経腹超音波よりもはるかに高解像度で詳細な画像を提供します13。この方法により、医師は以下の要素を正確に評価できます。

  • 嚢胞の大きさと位置
  • 内部の成分:漿液性(無エコー)、血液や膿を含む液体(低エコー)、または固形成分(充実性部分)の有無
  • 嚢胞壁の特徴:薄く滑らかか、厚く不整か
  • 隔壁(septations)や乳頭状増殖(papillary excrescences)の存在

超音波による悪性リスクの評価

画像の特徴に基づき、医師は腫瘍の悪性リスクを分類できます。国際卵巣腫瘍分析(IOTA)グループのような国際的な研究グループは、この評価を標準化するためのルールシステムを開発しました14

  • 良性を示唆する所見 (IOTAの “B-rules”):
    • 単房性嚢胞(隔壁のない単一の空洞)22
    • 薄く、滑らかな嚢胞壁22
    • 充実性部分や乳頭状増殖がない22
    • カラードップラーで腫瘍内部に血流信号がない22
    • 音響陰影(acoustic shadowing)の存在(奇形腫でよく見られる)23

    一般的に、壁が薄く、内部が漿液性で、直径10cmまでの単純性嚢胞は、悪性リスクが極めて低いと見なされます13

  • 悪性を疑う所見 (IOTAの “M-rules”):
    • 不整な充実性腫瘍4
    • 少なくとも4つ以上の乳頭状増殖の存在23
    • 最大径が10cmを超える不整な多房性充実性腫瘍23
    • 腹水の存在22
    • カラードップラーで腫瘍内部に非常に豊富な血流信号22

2.2. バイオマーカーと高度画像診断

超音波検査で不確定または疑わしい所見が示された場合、追加の検査が指示されます。

腫瘍マーカー CA-125

CA-125は、卵巣がん患者の血液中で高値を示すことがあるタンパク質です。しかし、これは完璧なスクリーニング検査ではありません。

  • 役割: この検査が最も有用なのは閉経後の女性です。この集団では、CA-125値の上昇(通常 > 35 U/mL)が疑わしい超音波所見と組み合わさると、がんのリスクは非常に高く、患者は直ちに婦人科腫瘍専門医に紹介されるべきです22
  • 限界: 閉経前の女性では、CA-125の価値は大幅に制限されます。CA-125値は、子宮内膜症、子宮筋腫、骨盤内炎症性疾患(PID)、妊娠、さらには通常の月経周期中といった多くの良性疾患でも上昇する可能性があります22。さらに、CA-125は初期(ステージI)の卵巣がんの約50%でしか上昇しません35。したがって、閉経前の女性におけるCA-125の正常値は、がんを否定するものではありません。

悪性度指数 (RMI – Risk of Malignancy Index)

リスク評価の精度を向上させるため、医師はしばしば悪性度指数(RMI)を使用します。これは、3つの重要な要素を組み合わせた、シンプルで効果的なスコアリングツールです23

  • 閉経状態 (M): 閉経前は1点、閉経後は3点
  • 超音波スコア (U): 疑わしい特徴(多房性、充実性部分、転移、腹水、両側性)ごとに1点、最大3点
  • 血中CA-125濃度(絶対値)

計算式は $RMI = U \times M \times CA-125$ です。RMIが200を超えるという閾値が、手術や治療のために婦人科腫瘍専門施設に紹介する必要がある高リスク患者を特定するためによく用いられます23

高度画像診断 (MRI/CT)

MRIやCTは、コストが高く、ほとんどのケースで不要であるため、全ての卵巣嚢胞の初期スクリーニングには使用されません13。これらは特定の状況で指示されます。

  • 超音波検査の結果が不明確または結論が出ない場合
  • 超音波での全体像把握が困難な非常に大きな嚢胞(通常 > 7-10 cm)の場合32
  • 悪性の疑いが強い場合、手術計画を立てる前に、肝臓、肺、リンパ節など他の臓器への転移の有無を評価するため、腹部および胸部のCTスキャンが病期診断(staging)に用いられます3

卵巣嚢胞の診断と評価のプロセス

  1. ステップ1: 臨床診察と初期超音波検査
    症状がある、または偶然嚢胞が発見された患者に対し、婦人科診察と経腟超音波検査(TVUS)を実施します。
  2. ステップ2: 超音波による分類
    グループA: 無症状の単純性嚢胞
    • 閉経前女性: 嚢胞 < 5 cm → 追加のフォローアップ不要23。5-7 cm → 年1回の超音波でフォロー32。> 7 cm → MRIまたは手術を検討32
    • 閉経後女性: 嚢胞 < 1 cm → フォローアップ不要37。1-7 cm → 年1回の超音波でフォロー37。> 7 cm → MRIまたは手術を検討37

    グループB: 複雑性嚢胞、症状あり、または非典型的な特徴を持つ嚢胞
    ステップ3へ進みます。

  3. ステップ3: 詳細なリスク評価
    血液検査CA-125を実施します。
    • 閉経前女性: 超音波、症状、CA-125値(非常に高い場合は価値あり)を総合的に評価します13
    • 閉経後女性: 悪性度指数(RMI)を計算します23
  4. ステップ4: 治療方針の決定
    • 低リスク (例: RMI < 200): 経過観察を続けるか、一般の婦人科病院での手術(通常は腹腔鏡)を検討します36
    • 高リスク (例: RMI ≥ 200 または明らかな悪性所見): 病期評価のためCT/MRIを撮影。婦人科腫瘍専門医へ速やかに紹介し、手術(通常は開腹)の計画を立てます18

第3部 根拠に基づく治療法と臨床ガイドライン

卵巣嚢胞の治療法の選択は、嚢胞の種類、大きさ、症状、患者の年齢、閉経状態、挙児希望、そして最も重要な悪性リスクなど、多くの要因に依存します。

3.1. 経過観察:積極的な戦略

多くの卵巣嚢胞、特に機能性嚢胞や良性の単純性嚢胞の場合、「何もしないこと」が最善の治療法となることがあります。これは放置ではなく、積極的な経過観察という戦略です。

対象者

経過観察は、画像評価に基づき悪性リスクが非常に低いと判断された無症状の嚢胞を持つ患者に適用されます3。具体的には以下の通りです。

  • ほとんどの機能性嚢胞(卵胞嚢胞、黄体嚢胞)
  • 小〜中程度の大きさの単純性嚢胞(壁が薄く、内部が漿液性で、充実性部分がないもの)

ガイドラインに基づく基準

国内外の主要な医学会は具体的な推奨事項を提示していますが、若干の違いがあります。

  • 日本のガイドライン (日本産科婦人科学会 – JSOG): より慎重な傾向があります。JSOGは、嚢胞の直径が5~6cmを超える場合、サイズが増大傾向にある場合、または症状を引き起こしている場合に手術を検討することを推奨しています3。より小さく、疑わしい特徴のない嚢胞については、定期的な経過観察が適切です3
  • 国際的なガイドライン (ACOG, RCOG): これらのガイドラインは、より大きな単純性嚢胞の経過観察を許容することが多いです。
    • ACOGは、閉経後の女性であっても、直径10cmまでの単純性嚢胞は手術介入なしに、繰り返し超音波検査で安全に経過観察できるとしています32
    • RCOGは、閉経前の女性における直径5cm未満の単純性嚢胞は、通常2~3回の月経周期で自然に消失するため、経過観察を推奨しています14

フォローアップのスケジュール

超音波検査を繰り返す間隔は、嚢胞の種類や疑いの程度によります。例えば、出血性嚢胞が疑われる場合、6~12週間後の再検査でその消失を確認できます37。閉経後の単純性嚢胞の場合、4~6ヶ月後の再検査で安定性を確認するのが妥当です32。1~2年の経過観察で変化がなければ、それ以上のフォローアップは不要となる場合もあります。

3.2. 手術の選択:温存から根治まで

手術は、嚢胞が問題を引き起こしているか、将来的に引き起こす可能性がある場合に適応となります。

手術の適応

  • 嚢胞が大きい(通常、ガイドラインや症状に応じて > 5~10 cm)3
  • 痛みなど、持続的または重度の症状を引き起こしている
  • 経過観察中に急速に増大する傾向がある
  • 超音波検査などで悪性または境界悪性を疑う所見がある3
  • 茎捻転や破裂といった急性合併症が発生した

手術の方法

  • 腹腔鏡手術 (Laparoscopy): 良性の卵巣腫瘍の治療における「ゴールドスタンダード」と見なされています14。腹部にいくつかの小さな切開(5~12mm)を加え、カメラ(腹腔鏡)と手術器具を挿入します。この方法の利点は、術後の痛みが少なく、回復が早く、入院期間が短く、傷跡が小さいことです3
  • 開腹手術 (Laparotomy): 腹部に大きな切開を加える方法です。非常に大きな腫瘍、悪性の疑いが強い場合(腫瘍を破綻させてがん細胞を播種するのを避けるため)、または腹腔鏡での操作が困難な高度な癒着がある場合に適応されます12
  • vNOTES (経腟的内視鏡手術): 腟の後壁に小さな切開を加え、そこから腹腔内に器具を挿入する先進的な腹腔鏡技術です。最大の利点は、腹壁に全く傷が残らないこと、術後の痛みが軽減されること、そして非常に早い回復が期待できることです。選ばれた良性嚢胞の症例に適しています5

術式の選択

病状と患者の希望に応じて、医師は二つの主要な術式から選択します。

  • 嚢腫摘出術 (Cystectomy): 嚢胞のみを摘出し、正常な卵巣組織は温存します。これは、将来的に妊娠を希望する生殖年齢の女性にとって第一選択となります5
  • 付属器切除術 (Oophorectomy/Salpingo-oophorectomy): 腫瘍のある側の卵巣全体(通常は卵管も含む)を摘出します。この術式は、閉経後の女性(生殖機能の温存が不要で、がんのリスクを完全に取り除くため)、腫瘍が大きすぎて正常組織が残っていない場合、または悪性の疑いが強い場合にしばしば行われます5

3.3. 内科的治療:補助的な役割

重要な点として、器質性嚢胞(漿液性嚢胞腺腫、奇形腫、チョコレート嚢胞など)を消失させたり治癒させたりできる薬は現在存在しないことを強調しなければなりません。内科的治療の役割は、主に補助と予防です。

  • ホルモン性避妊薬(ピル): ピルが嚢胞を「治す」ことができるという一般的な誤解があります。実際には、臨床試験で、ピルが既存の機能性嚢胞をより速く消失させる効果はないことが示されています24。しかし、排卵を抑制することで、将来的の新たな機能性嚢胞の形成を効果的に予防することができます。そのため、機能性嚢胞を頻繁に繰り返す女性に処方されることがあります29
  • チョコレート嚢胞の治療: チョコレート嚢胞(子宮内膜症)に対しては、ホルモン療法(ピル、プロゲスチン、GnRHアゴニストなど)が痛みの症状を軽減し、嚢胞の成長を遅らせたりサイズを縮小させたりするのに役立つことがありますが、腫瘍を完全に取り除くことはできません12。手術が最も根治的な治療法です。

内科的治療の限界を明確にすることは、患者が現実的な期待を持ち、なぜ手術が時に必要な選択肢であるかを理解する助けとなります。

第4部 特殊な臨床状況の管理

卵巣嚢胞の管理は、特に妊婦、閉経後の女性、小児といった特殊な集団や、悪性の可能性のある腫瘍に直面した場合、個別化されたアプローチを必要とします。

4.1. 妊娠中の卵巣嚢胞

妊娠中に卵巣腫瘍が発見されると多くの不安を引き起こしますが、ほとんどのケースは安全に管理できます。

  • 頻度と種類: 付属器腫瘤は妊娠の約5~6%で発見されます33。これらの大部分(特に妊娠初期に見つかる5cm未満の嚢胞)は、妊娠黄体嚢胞(lutein cysts)です。これは妊娠中に高濃度になるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)ホルモンによって形成される機能性嚢胞です。通常は治療を必要とせず、hCG濃度が低下する妊娠初期の終わりには自然に縮小または消失します9
  • 管理: ほとんどの良性に見える無症状の嚢胞に対する主な戦略は、妊娠期間中の慎重な超音波検査による経過観察です9
  • 手術適応: 外科的介入が検討されるのは、分娩を妨げるリスクのある非常に大きな嚢胞(通常 > 10cm)、卵巣茎捻転を示唆する急性の痛み、または超音波で悪性の疑いが強い所見がある、といった稀なケースに限られます33
  • 手術の時期: 手術が必要な場合、最も理想的で安全な時期は妊娠中期(通常14~20週)です。この時期の手術は、妊娠初期に比べて手術関連の流産リスクを最小限に抑え、妊娠後期に比べて子宮が大きすぎることによる技術的な困難を避けることができます33。最近の研究では、経験豊富な外科医によって腹腔鏡手術が妊娠中に安全に実施できることが証明されています39
  • 妊孕性と妊娠への影響: ほとんどの種類の卵巣嚢胞は受胎能力に影響しません。主な例外はチョコレート嚢胞で、骨盤内の炎症や癒着を引き起こし、卵管を閉塞させて受精を妨げることがあります。嚢胞を持つ女性が妊娠した場合、ほとんどのケースで妊娠は正常に経過します44

4.2. 閉経後の女性の卵巣嚢胞

閉経後には、卵巣腫瘍が悪性であるリスクが著しく上昇します。そのため、診断と管理のアプローチはより積極的かつ慎重になります。

  • より高い悪性リスク: 閉経後の女性に新たに発見された卵巣腫瘍は、反対の証拠が得られるまで悪性の可能性があると見なすべきです1
  • 評価戦略:
    • 血液検査CA-125は、この集団では閉経前の女性よりもはるかに高い診断価値を持ちます22
    • 悪性度指数(RMI)は非常に有用なツールであり、リスク層別化に広く使用されます23
  • 管理:
    • 小さな単純性嚢胞(例: > 1~3 cm)であっても、年1回の超音波検査による定期的な経過観察が必要です37
    • 複雑な特徴を持つ、サイズが増大する、またはRMIが高い(≥ 200)嚢胞は、評価と手術のために婦人科腫瘍専門医に紹介されるべきです。これらの場合の手術は通常、開腹手術であり、リスクを根治的に取り除くために両側の卵巣と卵管(両側付属器切除術)および子宮の摘出を含むことがあります34

4.3. 小児および思春期の卵巣嚢胞

この年齢層の卵巣嚢胞は特有の特徴を持ち、生殖機能の温存に焦点を当てたアプローチが必要です。

  • 特徴: 小児および思春期の嚢胞の種類は成人と異なります。胚細胞腫瘍、特に良性の奇形腫が最も一般的な器質性腫瘍です。ホルモンの変動により、思春期周辺では機能性嚢胞もよく見られます45
  • 最優先事項: 治療における最も重要な目標は、卵巣の生殖能力と内分泌機能を温存することです。
  • 管理:
    • 多くの機能性嚢胞は自然に消失し、経過観察のみで十分です。
    • 手術が必要な場合(大きな嚢胞、症状がある、または悪性の疑い)、卵巣温存手術、すなわち腫瘍のみを摘出し、正常な卵巣組織を最大限に残す方法が優先されます。若年患者への侵襲と瘢痕を最小限に抑えるため、低侵襲の腹腔鏡手術も推奨されます45
    • 治療は、小児婦人科医、小児外科医、小児腫瘍医を含む多専門分野のチームがいる専門医療センターで行われるべきです45

4.4. 境界悪性および悪性腫瘍(卵巣がん)の管理

腫瘍が境界悪性または悪性と診断された場合、治療は複雑になり、専門家の介入が必須となります。

  • 専門家の重要性: 卵巣がんの治療は、多施設共同治療を実施できる、認可された経験豊富な医療施設で、婦人科腫瘍専門医によって行われるべきです18
  • 手術:
    • 原則: 開腹手術が卵巣がんの標準的なアプローチであり、腫瘍の破綻を避け、包括的な評価を確実にするために腹腔鏡は用いられません12
    • 目的: 手術の目的は二重です。病気の広がりを正確に知るための病期診断手術と、理想的には肉眼で見えるすべての腫瘍を除去することを目指す腫瘍減量手術です12
    • 標準術式 (Staging): 子宮全摘出術、両側付属器切除術、大網切除術、腹水細胞診、腹膜および骨盤・傍大動脈リンパ節の多部位生検を含みます12
  • 化学療法: 手術後、ほとんどの患者(ごく一部の超早期・低悪性度症例を除く)は、残存するがん細胞を破壊するために補助化学療法を必要とします12。現在の標準的な化学療法レジメンは、パクリタキセルとカルボプラチンの併用(TC療法)です12
  • 分子標的治療と免疫療法: 近年、ベバシズマブ(腫瘍への新たな血管形成を阻害する抗体薬)、PARP阻害薬(オラパリブなど、特にBRCA1/2遺伝子変異を持つ患者に有効)、免疫療法(ペムブロリズマブなど)といった新しい治療法が、卵巣がん患者の予後を大幅に改善しています12

臨床現場での課題:術前診断の難しさ

手術前に良性、境界悪性、悪性を正確に区別することは臨床的に困難です。術中迅速病理診断(手術中に腫瘍の一部を採取して検査すること)でさえ、その正診率は約70~80%であり、特に境界悪性腫瘍では最終的な診断を下せないことがあります12。このため、良性と想定して手術(例:嚢腫摘出術のみ)を行ったものの、数日後の最終病理結果で悪性と判明する状況が起こり得ます。その場合、患者はがんの病期診断手術を完遂するために、二度目の手術を受ける必要が生じる可能性があります。最初の手術の前に、この可能性について患者に明確に説明することは、透明性を示し、患者の期待を管理する上で重要な医療カウンセリングの一部です。

第5部 実践的側面とJAPANESEHEALTH.ORGのための行動計画

本章では、日本の患者が知っておくべき実践的な情報に焦点を当て、検索エンジンでの高評価とE-E-A-T基準を遵守する、優れた医療記事を構築するための具体的な行動計画を提案します。

5.1. 日本における治療費:費用の透明性

手術に直面した患者の最大の関心事の一つが費用です。日本の医療制度について明確で現実的な情報を提供することは、信頼を築く上で重要な要素です。

手術費用と公的医療保険

日本では、卵巣嚢胞の治療手術は公的医療保険(健康保険)の対象となります。これは、患者が通常、総医療費の3割(年齢や所得に応じてそれ以下)を支払うだけで済むことを意味します5

  • 腹腔鏡下手術の費用: 腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術の総医療費(保険適用前)は、通常40万円から80万円程度です。したがって、患者が病院で支払う金額(3割負担)は約12万円から24万円となります47。病院によっては、両側腹腔鏡手術で総費用約20~23万円、患者負担額6~6.9万円といった具体的な価格を提示している場合もあります49
  • 開腹手術の費用: 開腹手術の費用も同様で、総医療費約50万円の場合、患者負担額は15万円程度となります49

高額療養費制度

これは、患者の経済的負担を軽減するための非常に重要な制度です。この制度は、一個人が1ヶ月に支払う医療費の自己負担額が一定の上限額(自己負担限度額)を超えないように保証し、超えた分は保険から払い戻される仕組みです5

  • 自己負担限度額: この上限額は患者の年齢と所得によって異なります。例えば、70歳未満で年収が約370万円~約770万円の人の場合、1ヶ月の自己負担限度額は「$80,100円 + (総医療費 – 267,000円) \times 1\%$」という式で計算されます50
  • 具体例: 手術の総医療費が50万円だった場合、3割負担は15万円です。しかし、高額療養費制度により、実際の自己負担限度額は $80,100 + (500,000 – 267,000) \times 1\% = 82,430円$ となります。したがって、申請後、患者には $150,000 – 82,430 = 67,570円$ が払い戻されます50

その他の費用

患者は、保険で全額カバーされない以下の費用にも留意する必要があります。

  • 入院時食事療養費: 1食あたり定額(例:490円)の自己負担が必要です50
  • 差額ベッド代: 希望して個室や少人数の部屋に入院する場合、この追加料金は保険適用外となり、自己負担となります47
  • その他の雑費: 日用品や交通費など50
日本における卵巣嚢胞手術費用の概算(70歳未満、年収370~770万円の患者の場合)
費用項目 説明 金額例
A. 総医療費(例:開腹手術) 保険適用前の10割の医療費 500,000円
B. 病院窓口での支払い額(3割負担) A × 30% 150,000円
C. 高額療養費制度による自己負担限度額 80,100 + (A – 267,000) × 1% 82,430円
D. 保険からの払い戻し額 B – C 67,570円
E. 最終的な実質医療費負担額 C 82,430円
F. その他の費用(保険適用外) 入院食事代、差額ベッド代、雑費など 変動あり

よくある質問

卵巣嚢胞はがんになりますか?
ほとんどの卵巣嚢胞は良性であり、がんではありません。しかし、一部の器質性嚢胞、特に閉経後に発生したものや、超音波検査で複雑な特徴(充実性部分や乳頭状増殖など)を持つものは、悪性(卵巣がん)または境界悪性の可能性があります4。特にチョコレート嚢胞は、約1%の確率でがんに移行することが知られています4。そのため、定期的な検診と専門医による正確な診断が非常に重要です。
私の嚢胞は自然になくなりますか?
それは嚢胞の種類によります。排卵に関連する「機能性嚢胞」(卵胞嚢胞や黄体嚢胞)は、数週間から数ヶ月で自然に消失することがほとんどです2。一方で、「器質性嚢胞」(漿液性嚢胞腺腫、皮様嚢腫、チョコレート嚢胞など)は、細胞自体の増殖によってできているため、自然に消えることはありません。これらの嚢胞は、経過観察または手術による治療が必要となります4
手術は妊娠能力に影響しますか?
将来的に妊娠を希望する女性に対しては、医師は可能な限り「嚢腫摘出術」を選択し、正常な卵巣組織を温存することを目指します5。片方の卵巣を摘出する必要があった場合でも、もう一方の卵巣が正常に機能していれば、自然妊娠は十分に可能です。ただし、チョコレート嚢胞の手術は、時に正常な卵巣組織にも影響を与え、卵巣の予備能(卵子の数)を低下させる可能性があるため、手術のタイミングは慎重に決定されます。手術前に医師と挙児希望について十分に話し合うことが大切です44
卵巣嚢胞と診断されたらどうすればいいですか?
まずはパニックにならず、担当の産婦人科医の説明をよく聞くことが重要です。診断された嚢胞の種類、大きさ、そしてあなたの年齢や症状に基づいて、医師は最適な方針(経過観察、さらなる検査、または手術)を提案します。ほとんどの場合、緊急の対応は不要です。疑問や不安な点があれば、納得できるまで質問し、提案された治療計画を理解することが、次のステップに進むための鍵となります。

結論

卵巣嚢胞は、その大部分が良性であり、多くの場合、無症状で経過することから、過度に恐れる必要はありません。しかし、「沈黙の臓器」である卵巣の病変は、時に重大な状態を見逃す危険性もはらんでいます。この記事で詳述したように、鍵となるのは、経腟超音波検査を中心とした正確な診断、そして国際的および日本のガイドラインに基づいた、個々の状況に応じた適切な管理戦略です。特に、持続する腹部の張りや痛みなどの些細な症状を見逃さず、定期的な婦人科検診を受けることが、早期発見と最善の治療への第一歩となります。日本の充実した公的医療保険制度と高額療養費制度は、必要な治療を受ける上での経済的な障壁を大幅に軽減します。自身の体の声に耳を傾け、正しい知識を持って専門家と協力することが、女性の健康を守る上で最も重要なことです。

免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスを構成するものではありません。健康に関する懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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