摂食障害の究極ガイド:症状・原因・治療法を専門家が徹底解説
この記事でわかること
目次
- 要点まとめ
- 第1節: 摂食障害とは何か?―その定義と日本の現状
- 1.1. 摂食障害の医学的定義:食行動の異常を本質とする精神疾患
- 1.2. 日本における摂食障害の現状:統計データで見る患者数と近年の動向
- 1.3. なぜ摂食障害は生命を脅かすのか?:精神疾患で最も高い致死率
- 第2節: 摂食障害の主な種類と国際的な診断基準
- 2.1. 神経性やせ症 (Anorexia Nervosa, AN)
- 2.2. 神経性過食症 (Bulimia Nervosa, BN)
- 2.3. 過食性障害 (Binge-Eating Disorder, BED)
- 2.4. 回避・制限性食物摂取症 (Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder, ARFID)
- 第3節: 摂食障害のサインと症状―こころとからだに現れる変化
- 3.1. 行動面のサイン(ご家族や周囲が気づきやすい変化)
- 3.2. 心理・情緒面の症状(本人が抱える苦しみ)
- 3.3. 身体面の症状(生命を脅かす医学的合併症)
- 第4節: 摂食障害の原因―なぜ、人は摂食障害になるのか?
- 4.1. 複雑に絡み合う要因:生物・心理・社会モデル
- 4.2. 生物学的要因:遺伝的素因
- 4.3. 心理的要因:パーソナリティ特性と併存する精神疾患
- 4.4. 社会・文化的要因:「痩せ礼賛文化」とメディアの影響
- 第5節: 科学的根拠に基づく治療法―回復への道のり
- 5.1. 治療の基本方針:多職種チームによる包括的アプローチ
- 5.2. 身体的治療と栄養療法:生命の安全確保
- 5.3. 心理療法:回復の核となるアプローチ
- 5.4. 薬物療法:補助的な役割
- 5.5. 入院治療が必要となる基準
- 日本と国際基準(APA/WHO)のガイドラインの比較
- 第6節: 日本国内の相談先と支援リソース
- 6.1. 最初のステップ:どこに相談すればよいか?
- 6.2. 公的機関と専門施設
- 6.3. 孤立を防ぐために:患者会・家族会・自助グループ
- 6.4. 職場・学校との連携
- 第7節: ご家族と周りの方々へ―正しい理解とサポート
- 7.1. 本人への望ましい関わり方と避けるべき対応
- 7.2. 治療を支える上での家族の役割
- 7.3. 支援者自身の心の健康を保つために
- よくある質問
- 第8節: 再発と長期的な回復のプロセス
- 第9節: SNS・メディアとの付き合い方
- 結論
- 参考文献
摂食障害は「わがまま」や「意志の弱さ」ではなく、専門的な治療で回復できる精神疾患です。日本国内の推計患者数は約22万人とされ、精神疾患の中でも神経性やせ症の標準化死亡比(SMR)は5.86倍と、特に致死率が高いことが知られています。(厚生労働省)[2](Arcelus らのメタ解析)[7]
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性別・年齢を問わず誰にでも起こりえます。低体重や電解質異常が疑われる場合、あるいは「消えてしまいたい」という気持ちが強いときは、自己判断で様子を見ず、今すぐ本記事末尾の相談窓口・受診の目安を確認してください。
出典:厚生労働省・国立精神・神経医療研究センターの公開資料をもとにJHO編集部が作成。
要点まとめ
- メタ解析(Arcelus et al.)によれば、摂食障害は意志の弱さではなく、精神疾患の中で最も死亡率が高い疾患のひとつです(神経性やせ症のSMR 5.86倍)(Arcelus らのメタ解析)[7]。
- 摂食障害全国支援センターの解説によれば、主な種類には、極端に痩せる「神経性やせ症」、過食と排出を繰り返す「神経性過食症」、過食のみの「過食性障害」などがあります[8]。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、原因は一つではなく、遺伝的素因、心理的特性、社会文化的な要因が複雑に絡み合って発症します(NCNP)[4]。
- 摂食障害全国支援センターの解説によれば、治療は医師・心理士・管理栄養士などの多職種チームで行い、心理療法(CBT-Eなど)が中心です[35]。
- 摂食障害全国支援センターによれば、今すぐ苦しい・死にたい気持ちがあるときは、よりそいホットライン(0120-279-338)や摂食障害相談ほっとラインに電話してください[12]。
一人で抱え込まないでください——今すぐ相談できる窓口
- よりそいホットラインの案内によれば、「消えてしまいたい」「死にたい」という気持ちが強いときは、よりそいホットライン 0120-279-338(全国共通フリーダイヤル、電話・チャット・SNS対応)にすぐ電話してください(よりそいホットライン)[51]。
- 摂食障害そのものについて専門的に相談したいときは、摂食障害相談ほっとライン 047-710-8869(火曜日・木曜日 9時〜15時、摂食障害全国支援センターがNCGM国府台病院心療内科に委託して運営)が利用できます[12]。
- NCNPの摂食障害情報ポータルサイトによれば、意識障害、脈が異常に遅い・速い、けいれん、吐血などがあるときは、ためらわず救急要請(119番)または救急外来を受診してください[33]。
編集方針:本記事はJHO編集部がAIツールの支援を受けながら、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)、厚生労働省、日本精神神経学会など公的機関・学会の一次資料と照合して作成し、最終確認は人の目で行っています。医師による個別の診断・治療の代わりにはなりません。摂食障害は生命に関わる疾患です。数値や分類はガイドライン改定により変わることがあります(2026年7月時点の情報)。記事内容に誤りをお気づきの場合は、ページ下部の更新日表記付近からお問い合わせください。
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これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
第1節: 摂食障害とは何か?―その定義と日本の現状
1.1. 摂食障害の医学的定義:食行動の異常を本質とする精神疾患
摂食障害は、食事摂取における持続的な異常行動と、それに伴う体重や体型に対する過度なこだわりや歪んだ考えを特徴とする精神疾患の一群です。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)の「こころの情報サイト」によると、具体的には、極端に食事量を制限する、コントロールを失って大量に食べてしまう、食べたものを意図的に吐いてしまうといった行動が挙げられます[4]。これらの行動は、心身の健康に深刻な、時には生命を脅かす影響を及ぼします。
極めて重要なのは、摂食障害が本人の「わがまま」や「意志の弱さ」に起因するものではないという点です。NCNPの摂食障害情報ポータルサイトが説明するように、その発症には生物学的、心理的、そして社会的な要因が複雑に絡み合っており、本人の力だけでコントロールすることは極めて困難です(NCNP)[26]。したがって、回復には専門的な医学的治療と心理的支援が不可欠となります。
1.2. 日本における摂食障害の現状:統計データで見る患者数と近年の動向
厚生労働省の報告によれば、日本国内における摂食障害の推計患者数は約22万人とされています[2]。しかし、この数字は医療機関を受診している患者を中心としたものであり、実態を完全には反映していない可能性があります。
実際に、2014年から2015年にかけて行われた全国の病院を対象とした厚生労働科学研究の調査では、1年間に摂食障害で受診した患者数の推計値が約2万6千人(内訳:神経性やせ症12,674人、神経性過食症4,612人など)と報告されています[13]。この受診患者数と全体の推計患者数との間には大きな隔たりが存在し、摂食障害に苦しむ多くの人々が専門的な医療につながれていない「治療ギャップ」の存在を強く示唆しています。スティグマ(偏見)、病気であるという認識の欠如、相談先がわからない、専門医療機関の不足といった、さまざまな障壁がその背景にあると考えられます(NCNP)[26]。
近年の動向として、COVID-19パンデミックの影響も無視できません。国立成育医療研究センターの調査によると、パンデミック期間中に学校閉鎖や生活様式の急激な変化といったストレス要因が重なり、特に若年層の神経性やせ症の新規発症が増加したことが報告されています[15]。学術誌『JAMA Network Open』に掲載された日本の研究でも、パンデミック以前は減少傾向にあったものが増加に転じ、特に男子やより低年齢の層での増加が顕著であったというデータが示されています[16]。
1.3. なぜ摂食障害は生命を脅かすのか?:精神疾患で最も高い致死率
摂食障害、とりわけ神経性やせ症は、すべての精神疾患の中で最も死亡率が高い疾患の一つとして知られています。追跡研究36件を統合したシステマティックレビュー(Arcelus et al., 2011)によると、一般人口と比較した死亡のしやすさを示す標準化死亡比(SMR)は、神経性やせ症で5.86倍、神経性過食症で1.93倍と、著しく高いことが明らかになっています[7]。これは、神経性やせ症の患者が一般人口に比べて約6倍死亡しやすいことを意味します。
その死因は大きく二つに分けられます。NCNPの解説によれば、一つは、極度の低栄養状態が引き起こす身体的合併症です。心臓の筋肉が萎縮することによる不整脈や突然死、免疫力の低下による重篤な感染症などが含まれます(摂食障害全国支援センター)[8]。もう一つは自殺であり、摂食障害に関連した死亡のうち自殺が大きな割合を占めるという指摘もあります(摂食障害全国支援センター)[8]。この事実は、摂食障害が単なる「食の問題」や「体型の問題」ではなく、生命に直接関わる、緊急性の高い医学的状態であることを明確に示しています。「消えたい」「死にたい」という気持ちが少しでもあるときは、本記事冒頭の相談窓口にすぐ連絡してください。
第2節: 摂食障害の主な種類と国際的な診断基準
摂食障害の診断は、世界的に二つの主要な診断基準に基づいて行われます。一つは米国精神医学会(APA)が発行する『精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)』、もう一つは世界保健機関(WHO)による『国際疾病分類(ICD)』です。現在、最新版としてそれぞれDSM-5-TR(2022年発行)とICD-11(2019年正式承認、2022年発効)が用いられています[9]。
これらの診断基準の改訂の歴史は、摂食障害への理解が深まってきた過程そのものを反映しています。日本精神神経学会の報告によると、かつてのDSM-IVでは、典型的な神経性やせ症や神経性過食症の基準を満たさない多様な病態が「特定不能の摂食障害(EDNOS)」という大きなカテゴリーに一括りにされていました[20]。しかし、このEDNOSが実際には摂食障害患者の半数以上を占めるという状況を踏まえ、より多くの患者の苦しみを正確に捉え、適切な治療につなげるために診断基準が見直されました。その結果、DSM-5やICD-11では、新たに「過食性障害(Binge-Eating Disorder)」や「回避・制限性食物摂取症(Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder)」が独立した疾患単位として正式に位置づけられました(日本精神神経学会)[20]。
以下に、現在の主要な摂食障害の分類について解説します。
2.1. 神経性やせ症 (Anorexia Nervosa, AN)
定義: 体重や体型に対する歪んだ認識(ボディイメージの障害)と、肥満になることへの極度の恐怖を中核とする疾患です(摂食障害全国支援センター)[8]。その結果、食事を極端に制限したり、過剰な運動をしたりするなど、著しい低体重を維持するための異常な行動がみられます。低体重が健康を害するレベルであっても、本人はその深刻さを認識できず、むしろ痩せていることに安心感や達成感を得ることが特徴です。日本では、食欲が失われるわけではないという病態の実態をより正確に反映するため、DSM-5の改訂に伴い、従来の「神経性食思不振症」に代わって「神経性やせ症」という病名が推奨されています(日本精神神経学会)[21]。
病型:
- 摂食制限型 (Restricting type): 日本精神神経学会のDSM-5病名・用語翻訳ガイドラインによると、主に食事制限、絶食、過剰な運動によって体重を減少・維持するタイプです[21]。
- 摂食障害全国支援センターの解説によれば、過食・排出型 (Binge-eating/purging type): 期間内に過食(むちゃ食い)のエピソードがあり、その後に自己誘発性嘔吐や下剤・利尿薬の乱用といった排出行動を伴うタイプです[8]。
2.2. 神経性過食症 (Bulimia Nervosa, BN)
定義: 自分ではコントロールできないと感じる反復的な過食(むちゃ食い)のエピソードと、その過食による体重増加を防ぐための不適切な代償行動(自己誘発性嘔吐、下剤・利尿薬の乱用、絶食、過剰な運動など)が繰り返される疾患です(摂食障害全国支援センター)[8]。自己評価が体重や体型に過度に左右される点は神経性やせ症と共通していますが、体重は標準範囲内か、やや過体重であることが多く、外見からは病気であることが分かりにくい場合があります。そのため、本人が長年にわたって誰にも相談できずに一人で苦しみ続けるケースも少なくありません。
ICD-11では、診断基準がより現実に即したものに改訂されました。客観的に見て食物の量が大量でなくても、本人が「コントロールを失ってたくさん食べてしまった」と感じる「主観的過食」も診断に含まれるようになり、これまで診断から漏れていた可能性のある患者も適切に評価できるようになりました(WHO ICD-11)[9]。
2.3. 過食性障害 (Binge-Eating Disorder, BED)
定義: 神経性過食症と同様に、コントロール不能感を伴う反復的な過食エピソードを特徴としますが、その後に嘔吐や下剤乱用といった不適切な代償行動を伴わない点が決定的な違いです(日本精神神経学会)[21]。過食後に強い自己嫌悪や罪悪感、抑うつ気分に苛まれることが多く、代償行動がないために体重が増加し、過体重や肥満に至るケースが一般的です(摂食障害全国支援センター)[8]。神経性やせ症や神経性過食症と比較して、男性が占める割合が比較的高く、発症年齢も青年期後期から成人期とやや高い傾向が報告されています[8]。過食性障害についてより詳しく知りたい方は過食性障害(過食症)のすべてもご覧ください。
2.4. 回避・制限性食物摂取症 (Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder, ARFID)
定義: ICD-11の分類解説によると、体重や体型へのこだわりや肥満恐怖とは無関係に、食べること自体を避けてしまう疾患です(WHO ICD-11)[9]。その理由として、食べ物の見た目、匂い、食感といった感覚的な特徴に対する極端な嫌悪、過去の窒息や嘔吐といった経験から生じる摂食への恐怖、あるいは食事や食べることへの明らかな無関心などが挙げられます。その結果、必要量のエネルギーや栄養を摂取できず、著しい体重減少、深刻な栄養不足、成長障害(小児の場合)、心理社会的な機能の障害などが引き起こされます。厚生労働科学研究の診療ガイドラインによれば、小児期に発症することが多いですが、成人になってから診断されることもあります[25]。お子さんの摂食障害が心配な方は日本の小児における摂食障害の完全ガイドも参考になります。
| 疾患名 | 中核となる心理 | 主な食行動 | 体重の状態 | 主な身体的リスク |
|---|---|---|---|---|
| 神経性やせ症 | 強い肥満恐怖、ボディイメージの歪み、低体重の深刻さの否認 | 極端な食事制限、過剰な運動。過食・排出行動を伴う場合もある。 | 著しい低体重(成人ではBMIが18.5kg/m2未満) | 低栄養による心機能低下・不整脈、無月経、骨粗鬆症、電解質異常[8] |
| 神経性過食症 | 自己評価が体重・体型に過度に影響される、過食後の自己嫌悪 | コントロール不能な過食、自己誘発性嘔吐や下剤乱用などの代償行動 | 標準体重または過体重 | 嘔吐による電解質異常(低カリウム血症)、歯の酸蝕、唾液腺の腫脹、食道炎[8] |
| 過食性障害 | 過食に対するコントロール不能感、過食後の強い苦痛・罪悪感 | 反復する過食エピソード。不適切な代償行動は伴わない。 | 過体重または肥満が多い | 肥満に伴う生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症など)のリスク[8] |
| 回避・制限性食物摂取症 (ARFID) | 食べ物の感覚特性への嫌悪、摂食への恐怖、食事への無関心 | 特定の食物の回避、全体的な食事量の不足。体重・体型へのこだわりはない。 | 低体重、栄養不足 | 栄養失調、成長障害(小児)、心理社会的機能の障害[25] |
出典:国立精神・神経医療研究センター「摂食障害の概説と疫学」[8]/厚生労働科学研究<一般小児科医のための摂食障害診療ガイドライン>[25]の情報に基づき統合
第3節: 摂食障害のサインと症状―こころとからだに現れる変化
摂食障害は、行動、心理、そして身体の各側面に特徴的なサインや症状を現します。NCNPの摂食障害情報ポータルサイトが示すように、これらの変化に早期に気づくことが、重症化を防ぎ、回復への第一歩を踏み出すために極めて重要です(NCNP)[27]。
3.1. 行動面のサイン(ご家族や周囲が気づきやすい変化)
本人以外の人でも比較的気づきやすい行動上の変化には、以下のようなものがあります(NCNP)[27]。
- 厚生労働科学研究のガイドラインによれば、食事関連の変化: 食べる量が極端に減る、あるいは逆に隠れて大量に食べている形跡がある。炭水化物や脂質など特定の食品群を徹底的に避ける。食品のカロリーを執拗に計算する、儀式的な食べ方をする。家族や友人と食事をすることを避ける。食後に決まって長時間トイレにこもる。自室に大量の食べ物を隠し持つ(厚生労働科学研究)[25](NCNP)[27]。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、運動・活動の変化: 体重を減らす目的で、疲労困憊するまで運動をやめない(過活動)(NCNP)[4]。じっとしていることに罪悪感を覚え、常に動き回ろうとする。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、日常生活の変化: 体のラインを隠すためにゆったりとした服を好んで着る。一日に何度も体重計に乗り、わずかな増減に一喜一憂する。趣味や友人との交流に関心を失い、社会的に孤立していく(NCNP)[4](NCNP)[27]。
3.2. 心理・情緒面の症状(本人が抱える苦しみ)
- NCNPのこころの情報サイトによれば、思考の占拠: 常に食べ物やカロリー、体重、体型のことで頭がいっぱいになり、他のことを考える余裕がなくなる(NCNP)[4]。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、自己評価の歪み: 自分の価値が体重や体型によって決まるという考えに囚われる。自己評価が極端に低く、強い無価値感に苛まれる(NCNP)[4]。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、感情の不安定さ: 飢餓状態や血糖値の乱高下、心理的ストレスから、気分の浮き沈みが激しくなり、些細なことでイライラしたり、落ち込んだりする。強い不安感や抑うつ状態を伴うことも多い(NCNP)[4]。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、病識の欠如: 周囲がどれだけ心配しても、本人は「自分は病気ではない」と強く思い込むことがあります(NCNP)[4]。これは摂食障害、特に神経性やせ症の治療を最も困難にさせる中核的な症状の一つです。この「病識の欠如」は単なる「頑固さ」ではなく、飢餓が脳機能に与える影響などから生じる、病気そのものの一部だと考えられています(摂食障害全国支援センター)[8]。
3.3. 身体面の症状(生命を脅かす医学的合併症)
- NCNPのこころの情報サイトによれば、全身症状: 著しい体重減少、極度の倦怠感、寒がり(低体温)、血圧の低下(立ちくらみ)、心拍数の低下(徐脈)、むくみ(NCNP)[4]。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、内分泌・代謝系: 女性では無月経(NCNP)[4]。若年での骨粗鬆症。低血糖(摂食障害全国支援センター)[8]。
- 日本摂食障害学会のガイドによれば、電解質異常: 嘔吐や下剤の乱用による低カリウム血症は、致死的な不整脈や心停止を引き起こす最も危険な合併症の一つです[6]。
- NCNPのこころの情報サイトによれば、消化器系: 慢性的な便秘、胃もたれ、腹痛[4]。嘔吐による胃酸で歯が溶ける(酸蝕歯)[4]。
すぐに受診・救急要請が必要なサイン
| 領域 | チェック項目 |
|---|---|
| 食生活と行動 | 以前と比べて食べる量が極端に減った、または増えた |
| ご飯やパン、揚げ物など、特定の食べ物をかたくなに避けている | |
| 食べ物のカロリーや成分表示を過度に気にしている | |
| 食事の後に、理由なくトイレに長時間こもることが増えた | |
| 体型を隠すような、ゆったりした服装ばかり着るようになった | |
| 誰にも見られないように、一人で隠れて食べることがある | |
| 体重を減らすために、過剰な運動をすることがある | |
| こころと感情 | 食べ物や体重、体型のことで頭がいっぱいになっている |
| 体重計の数字によって、その日の気分が大きく左右される | |
| 周囲から「痩せすぎだ」と心配されても、自分では太っていると感じる | |
| 自分の価値は、痩せているかどうかで決まるように感じる | |
| 以前よりもイライラしやすくなったり、気分が落ち込んだりすることが増えた | |
| からだの変化 | 短期間で体重が大きく減った、または増減を繰り返している |
| 立ちくらみやめまいが頻繁に起こる | |
| 常に体がだるく、疲れやすい | |
| とても寒がりになった | |
| (女性の場合)月経が不順になったり、止まったりしている |
出典:国立精神・神経医療研究センター 摂食障害情報ポータルサイト「摂食障害のサイン」[27]に基づき編集部が作成。複数当てはまる場合、専門機関への相談を検討する目安としてご活用ください。
第4節: 摂食障害の原因―なぜ、人は摂食障害になるのか?
4.1. 複雑に絡み合う要因:生物・心理・社会モデル
摂食障害がなぜ発症するのか、その原因を一つに特定することはできません。国際的なレビューによれば、生物学的要因(遺伝的・体質的ななりやすさ)、心理的要因(性格特性や考え方の癖)、そして社会的・文化的要因(環境や時代の価値観)という三つの側面が、パズルのように複雑に絡み合って発症に至ると考えられています(Treasureら, Nature Reviews Disease Primers)[52]。この「生物・心理・社会モデル」は、摂食障害を多角的に理解するための基本的な枠組みです。「何が原因だったのか」と一つの犯人探しをすることは、本人や家族を不必要に追い詰め、罪悪感を増大させるだけで、回復の妨げになりかねません。大切なのは、過去の原因追及に固執するのではなく、今ある苦しみを理解し、未来の回復に向けて何ができるかを考えることです。
4.2. 生物学的要因:遺伝的素因
摂食障害は、家族内で発症しやすい傾向があることが知られており、国際的なレビューによれば、遺伝的な脆弱性が発症リスクに関与していると考えられています(Treasureら)[52]。近年の遺伝学的研究では、神経性やせ症の発症に精神面だけでなく代謝面に関わる遺伝的要因も関与している可能性が示唆されており、神経性やせ症を単なる「心の病」ではなく代謝系の体質的な特徴も背景にある疾患として捉える見方が広がりつつあります(Watsonら, Nature Genetics)[53]。
4.3. 心理的要因:パーソナリティ特性と併存する精神疾患
- NCNPのこころの情報サイトによれば、性格特性: 完璧主義で何事も「白か黒か」で判断しがち、自分に厳しく、他者からの評価を過度に気にする、物事にこだわりやすい(強迫性)、自己評価が低い、感情を表現したりコントロールしたりするのが苦手、といった性格特性がリスク因子として知られています(Treasureら)[52]。
- 摂食障害全国支援センターの解説によれば、併存する精神疾患: 摂食障害は、他の精神疾患を併存していることが非常に多いです。特に、うつ病、双極性障害、不安症(社交不安症やパニック症など)、強迫症、パーソナリティ障害などが併存しやすく、これらが摂食障害の症状を悪化させたり、治療を複雑にしたりする要因となります(摂食障害全国支援センター)[8]。
4.4. 社会・文化的要因:「痩せ礼賛文化」とメディアの影響
個人の内的な要因に加え、その人が生きる社会や文化のあり方も、摂食障害の発症に深く関わっています。現代日本社会には、「痩せていることが美しい」「痩せていることは自己管理ができている証拠であり、成功の象徴である」といった価値観、すなわち「痩せ礼賛文化」が根強く存在します(日本精神神経学会)[30]。テレビ、雑誌、広告、そして近年では特にSNSなどのメディアは、加工され、理想化された身体のイメージを絶え間なく発信し、この価値観を増幅させています(兵庫教育大学の研究)[31]。
神戸親和大学の研究者が行った質的調査は、日本の若者の痩身願望が、集団の中での調和を重んじる文化的価値観と強く結びついている点を指摘しています。インタビュー調査では、「特別に痩せたいわけではないが、周りのみんなと同じくらいには痩せていたい」「集団の中で自分だけが太って見られたくない」といった声が聞かれます[32]。他者からの視線を強く意識し、周囲との同質性を保つことで安心感を得ようとする心理が、痩せることへの強力な動機となっていることを示唆しています。空腹による気分の不安定さと食行動の関係については「空腹イライラ」を克服するための究極ガイドでも解説しています。
第5節: 科学的根拠に基づく治療法―回復への道のり
摂食障害は、意志の力だけで治せるものではなく、科学的根拠に基づいた専門的な治療が必要です。NCNPの摂食障害情報ポータルサイトが示すように、回復への道のりは一人ひとり異なり、時間がかかることもありますが、適切な治療と支援を受ければ、多くの人が回復し、自分らしい生活を取り戻すことが可能です[33]。
5.1. 治療の基本方針:多職種チームによる包括的アプローチ
摂食障害は、心の問題と身体の問題が複雑に絡み合った側面が強く、治療には多角的なアプローチが不可欠です。現在の標準的な治療は、精神科医や心療内科医、小児科医、内科医といった医師に加え、公認心理師/臨床心理士、管理栄養士、看護師、精神保健福祉士など、様々な専門家が連携してチームを組む「包括的治療」です(摂食障害全国支援センター)[35]。治療の基本は外来通院ですが、身体的な危険が切迫している場合や、精神的に著しく不安定な場合などには、入院治療が選択されます(NCNP)[33]。
5.2. 身体的治療と栄養療法:生命の安全確保
治療の第一歩は、何よりもまず生命の安全を確保することです。特に、神経性やせ症で著しい低体重状態にある患者の場合、厚生労働科学研究のガイドラインによれば、認知機能の低下などから心理療法の効果も限定的になるため、低栄養状態を改善するための身体的治療が最優先されます[25]。
- 日本摂食障害学会のガイドによれば、再栄養療法: 栄養状態を回復させるプロセスです。原則として、本人の口から食事を摂る「経口摂取」が優先されますが、本人が全く食べられない場合や身体的な状態が極めて悪い場合には、鼻から胃へチューブを入れて栄養剤を投与する「経管栄養」が選択されることもあります[6]。
- 日本摂食障害学会のガイドによれば、再栄養症候群(Refeeding Syndrome)への注意: 長期間にわたる飢餓状態の人が急激に栄養を摂取すると、「再栄養症候群」という致死的な合併症を引き起こす危険があります。急な糖質の投与によって体内の代謝バランスが劇的に変化し、血液中のリン、カリウム、マグネシウムといった電解質が急激に細胞内に取り込まれることで、血中の濃度が危険なレベルまで低下するために起こります(日本摂食障害学会)[6]。その結果、心不全、呼吸不全、意識障害などを引き起こし、命に関わることがあります。家族などが善意から「とにかく食べなさい」と大量に食事をさせることは危険です。安全な体重回復のためには、専門家の管理下で摂取カロリーを少量から開始し、血液検査で電解質などを注意深く監視しながら段階的に増やしていくという、慎重な医学的管理が必要です(日本摂食障害学会)[6]。
- 日本摂食障害学会のガイドによれば、電解質管理: 嘔吐や下剤の乱用がある患者では、体内の電解質バランスが崩れがちです。特に血液中のカリウム濃度が低下する「低カリウム血症」は、致死的な不整脈の直接的な原因となるため、定期的な血液検査と、必要に応じたカリウムの補充が不可欠です[6]。
5.3. 心理療法:回復の核となるアプローチ
5.3.1. 摂食障害に特化した認知行動療法 (CBT-E)
英国のクリストファー・フェアバーン教授らによって開発された、摂食障害に特化した認知行動療法です。摂食障害の症状を維持させているメカニズム(自己評価が体重や体型に過度に影響されていること、極端な食事制限、出来事や気分への対処としての食行動など)に焦点を当て、それを修正していくという考え方です(日本精神神経学会)[10]。CBT-Eは成人の摂食障害、特に神経性過食症に対して数多くのランダム化比較試験で有効性が証明されている、最もエビデンスレベルの高い治療法の一つです。この実績に基づき、日本では2018年から神経性過食症に対するCBT-Eが健康保険の適用対象となりました(日本精神神経学会)[10]。治療は構造化されており、通常は約20回(約5ヶ月)のセッションで構成されます(摂食障害全国支援センター)[35]。患者はまず、食事やそれに伴う思考・感情を記録する「セルフモニタリング」を行い、自身の問題を客観的に把握することから始めます。日本でも専門家による日本語版マニュアルが整備され、治療者を養成するための研修会がNCNPなどを中心に活発に開催されています(NCNP)[37]。
5.3.2. 家族療法 (Family-Based Treatment, FBT)
「モーズレイ法」としても知られ、特に思春期の神経性やせ症の患者に対する第一選択の治療法として国際的に推奨されています(国際研究)[39]。摂食障害を「本人の問題」や「親の育て方の問題」と捉えるのではなく、家族全員で病気に立ち向かう「治療チーム」として機能することを目指す点にあります。治療の初期段階では、両親がリーダーシップを発揮し、本人の体重を回復させることに全責任を負います。日本の医療文化や家族観の中でFBTをそのまま導入するには課題もあり、まだ広く普及しているとは言えませんが、日本の状況に合わせて修正した形での導入や、入院治療とFBTを組み合わせる試みなども報告されています[39]。
5.3.3. その他の有効な心理療法
患者の年齢、病型、併存疾患、本人の希望などに応じて、他にも様々な心理療法が選択されます。成人の神経性やせ症向けに開発された「モーズレイモデルの神経性やせ症治療(MANTRA)」や「摂食障害専門家による支持的精神療法(SSCM)」、より深層の心理的葛藤に焦点を当てる「力動的精神療法(FPT)」などがあります(摂食障害全国支援センター)[35]。
5.4. 薬物療法:補助的な役割
摂食障害の治療において、薬物療法は中心的な役割を担うものではなく、あくまで補助的な対症療法として位置づけられています(厚生労働科学研究)[25]。摂食障害そのものを根本的に治す薬は、現在のところ存在しません。神経性過食症や過食性障害における抑えがたい過食衝動を軽減する目的で、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)という種類の抗うつ薬が有効な場合があります。また、摂食障害に併存するうつ病や不安症、強迫症の症状が重い場合には、それらの治療のために薬物療法が行われます。神経性やせ症に対しては、体重増加に直接的な効果が証明された薬は確立されていませんが、強すぎる不安やこだわり、不眠といった周辺症状を和らげる目的で、薬物療法が限定的に検討されることがあります(厚生労働科学研究)[25]。
5.5. 入院治療が必要となる基準
治療は基本的に外来で行われますが、以下のような場合には、生命の安全確保や集中的な治療のために、入院が必要となります(NCNP)[33]。
- 厚生労働科学研究のガイドラインによれば、著しい低体重(例:成人の場合、標準体重の75%以下、BMIが14−15kg/m2を下回るなど)や、短期間での急激な体重減少がある場合[25]。
- NCNPの摂食障害情報ポータルサイトによれば、低血糖、重度の電解質異常、不整脈、腎不全、意識障害など、重篤な身体合併症を認める場合(NCNP)[33]。
- NCNPの摂食障害情報ポータルサイトによれば、自殺念慮が強く、実行に移す危険性が高い場合や、自傷行為が頻繁に見られる場合(NCNP)[33]。
- NCNPの摂食障害情報ポータルサイトによれば、外来治療では過食や嘔吐などの症状が全くコントロールできず、行動制限を含む治療環境が必要な場合(NCNP)[33]。
| 疾患 | 年齢層 | 第一選択の治療法 | 第二選択/併用療法 |
|---|---|---|---|
| 神経性やせ症 | 児童・思春期 | 家族療法 (FBT)[39] | 認知行動療法 (CBT-E)、個人精神療法、身体管理・栄養療法 |
| 成人 | CBT-E/MANTRA/SSCM[35] | 力動的精神療法 (FPT)、薬物療法(対症療法として) | |
| 神経性過食症 | 全年齢 | CBT-E[10] | 薬物療法(SSRIなど)[25]、対人関係療法 (IPT) |
| 過食性障害 | 全年齢 | CBT-E | 薬物療法(SSRIなど)[25]、対人関係療法 (IPT) |
出典:日本精神神経学会 精神神経学雑誌[10]、NCNP摂食障害全国支援センター「心理療法」[35]の情報を統合
日本と国際基準(APA/WHO)のガイドラインの比較
摂食障害の診断・治療について、日本の専門家は日本精神神経学会が公表する翻訳ガイドラインを通じて国際基準を参照していますが、制度や保険適用の面では独自の違いがあります。
| 項目 | 国際基準(APA・WHO) | 日本の実務 |
|---|---|---|
| 診断分類 | DSM-5-TR(APA、2022年)/ICD-11(WHO、2019年承認・2022年発効)で過食性障害・ARFIDを独立疾患として明記[9] | 日本精神神経学会がDSM-5病名・用語翻訳ガイドラインを公表し、同じ分類・診断基準を採用[21] |
| 神経性過食症へのCBT-E | 数多くのRCTで有効性が確認され、複数国のガイドラインで第一選択に位置づけ[10] | 2018年より健康保険の適用対象となり、NCNPが治療者研修を実施[10][37] |
| 思春期神経性やせ症への家族療法(FBT) | 国際的に第一選択として推奨[39] | 家族観・医療体制の違いから普及は限定的で、日本向けに修正した実践や入院治療との併用が模索されている段階[39] |
診断基準そのものは国際基準と日本で大きく異ならない一方、CBT-Eの保険適用やFBTの普及度など「制度としてどこまで実装されているか」には差があります——この違いは、他の情報源では整理されていない点です。
第6節: 日本国内の相談先と支援リソース
摂食障害からの回復には、専門的な支援が不可欠です。幸い、日本国内には信頼できる相談先や支援機関が複数存在します。一人で抱え込まず、これらのリソースを活用することが大切です。
6.1. 最初のステップ:どこに相談すればよいか?
摂食障害の専門的な診療は、主に精神科や心療内科で行われます(厚生労働科学研究)[13]。小児や思春期(中学生・高校生など)の場合は、まずかかりつけの小児科に相談し、そこから専門医を紹介してもらうという流れも一般的です。精神科や心療内科を標榜するすべての医療機関が摂食障害の専門的な治療に対応できるわけではないため、受診前に病院のウェブサイトで治療実績を確認したり、電話で問い合わせたりすることをお勧めします。どこに相談すればよいか分からない場合は、下記の公的な専門機関に問い合わせるのが最も確実な方法です。
6.2. 公的機関と専門施設
- 国立精神・神経医療研究センター (NCNP) 摂食障害情報ポータルサイト: 一般の方向け、および医療専門職向けに、摂食障害の病態、症状、治療法、支援情報などを網羅したウェブサイトを公開しています[8]。
- 摂食障害全国支援センター(NCNPの厚労省委託事業): 日本全国の摂食障害支援体制の整備と連携を推進する中心的役割を担い、「摂食障害相談ほっとライン」(047-710-8869、火・木9時〜15時)を運営しています[12]。
- 摂食障害支援拠点病院: 厚生労働省の「摂食障害治療支援センター設置運営事業」に基づき、各都道府県に設置が進められている、地域における摂食障害支援の中核となる病院です[42]。専門的な医療の提供だけでなく、地域の医療機関からの相談や患者・家族からの相談窓口の設置、関係機関との連携調整の役割を担っています。お住まいの地域、または近隣の拠点病院に相談することは、適切な治療への最も確実な近道の一つです。
6.3. 孤立を防ぐために:患者会・家族会・自助グループ
摂食障害の苦しみは、しばしば深い孤立感を伴います。同じ病気や悩みを抱える仲間と出会い、体験や感情を分かち合うことは、スティグマを和らげ、「自分だけではない」という安心感を得て、回復へのモチベーションを高める上で非常に有効です(摂食障害全国支援センター)[43]。NCNPの摂食障害情報ポータルサイトでは、全国の患者会・家族会・自助グループの一覧を紹介しています(摂食障害全国支援センター)[43]。参加を検討する際は、現在治療を受けている主治医とよく相談することが望ましいとされています(摂食障害全国支援センター)[43]。
患者・家族団体としては、一般社団法人日本摂食障害協会(JAED)や、当事者主体のピアサポート団体NABA(日本アノレキシア・ブリミア協会)など、全国規模で活動する組織も存在します。こうした団体の詳しい連絡先や活動状況は、NCNPの摂食障害情報ポータルサイトに掲載されている一覧から最新の情報を確認することをお勧めします(摂食障害全国支援センター)[43]。地域によっては保健所や精神保健福祉センターが独自の家族教室を開催している場合もあるため、お住まいの自治体の窓口に問い合わせてみるのも一つの方法です。
6.4. 職場・学校との連携
治療を続けながら仕事や学業を両立させることは、本人にとって大きな負担になりがちです。診断書をもとに、勤務先の産業医や学校の保健室・スクールカウンセラーと情報を共有し、通院日への配慮や業務・学業量の一時的な調整について相談することも、回復を後押しする現実的な対応の一つです。無理に「普段通り」を演じ続けることは症状の悪化につながりやすいため、信頼できる第三者(人事担当者、担任教員など)に病状の一部だけでも伝え、味方になってもらうことを検討してみてください。
大学生の場合は、学生相談室や保健管理センターが窓口になることが多く、休学・復学の制度や、単位取得における配慮(欠席時の課題代替など)について相談できる場合があります。就労中の場合は、傷病手当金や休職制度の利用について、勤務先の人事・労務担当や産業保健スタッフに早めに相談しておくと、治療に専念する期間を確保しやすくなります。経済的な不安が受診をためらわせる要因になっている場合は、まず摂食障害相談ほっとラインや自治体の福祉窓口に相談し、利用できる制度がないか確認することをお勧めします。
第7節: ご家族と周りの方々へ―正しい理解とサポート
摂食障害からの回復において、ご家族やパートナー、友人といった身近な人々の理解とサポートは、何にも代えがたい力となります。しかし、どのように関わればよいのか分からず、戸惑いや無力感を感じることも少なくないでしょう。ここでは、本人を支える上での大切な心構えをお伝えします。
7.1. 本人への望ましい関わり方と避けるべき対応
【望ましい対応】
- NCNPのこころの情報サイトによれば、病気として理解する: 最も重要なことは、本人の不可解に見える言動(食べない、過食する、嘘をつくなど)を、本人の「性格の問題」や「わがまま」と捉えるのではなく、「病気の症状」として理解することです(NCNP)[4]。
- 非難しない、ジャッジしない: 「なぜ食べないの?」「また食べたの?」といった食事に関する詰問や、体重・体型に関するコメントは、本人の罪悪感や不安を煽るだけで逆効果です。
- 感情に寄り添う: 本人が抱える不安に、評価や否定をせずに耳を傾け、共感的に受け止める姿勢が、本人の安心感につながります。
- 一貫した態度を保つ: 家族内で対応方針を話し合って統一し、毅然とした態度と温かい愛情の両方を持って見守りましょう。
【避けるべき対応】
- 日本摂食障害学会のガイドによれば、本人や家族を責める: 「あなたのせいでこうなった」といった非難は、誰のためにもなりません。原因探しではなく、未来志向で回復を支えることにエネルギーを注ぎましょう[6]。
- 日本摂食障害学会のガイドによれば、食事を無理強いする・監視する: 無理に食べさせようとすることは、食事をめぐる争いを激化させ、本人の自律性を損ない、信頼関係を壊すことにつながります[6]。
7.2. 治療を支える上での家族の役割
かつては家族が病気の原因と見なされることもありましたが、現在ではその考え方は否定されています。むしろ、家族は「回復を支える最も重要な治療資源」と位置づけられています。特に思春期患者への家族療法(FBT)では、家族が治療の主体的な役割を担います。
7.3. 支援者自身の心の健康を保つために
摂食障害の支援は長期にわたることが多く、支援者自身が心身ともに疲弊してしまうことが少なくありません。支援者が倒れてしまっては、本人を支え続けることはできません。家族会に参加して同じ経験を持つ仲間と悩みを分かち合ったり、専門家に相談して自身の心のケアを行ったりするなど、支援者自身が社会的に孤立せず、助けを求めることが極めて重要です。
「見守る」ことは「何もしない」ことではありません。本人のペースを尊重しながらも、体重や身体症状の急変には注意を払い続け、危険なサイン(本記事内の受診の目安を参照)が見られたときには速やかに医療機関につなぐという役割を、支援者は担い続けることになります。この役割は決して一人で抱えるものではなく、主治医・心理士・栄養士を含む治療チーム全体で分担するものだと理解しておくことが、支援を長続きさせる鍵になります。
治療期間の統計的な平均値や、地域ごとの拠点病院の最新の設置状況、自助グループの活動頻度など、頻繁に更新される個別情報については、今回参照した資料に明確な記載が見当たらないものがあります。最新の状況は、摂食障害全国支援センターまたはお近くの拠点病院に直接お問い合わせください。
よくある質問
家族として、本人にどのように接すれば良いですか?
神経性やせ症と神経性過食症の違いは何ですか?
過食してしまうのは意志が弱いからですか?
子どもの摂食障害はどこに相談すればいいですか?
再発したら、また最初から治療をやり直すのですか?
SNSは見ない方がいいのでしょうか?
第8節: 再発と長期的な回復のプロセス
摂食障害からの回復は、一直線に進むものではありません。症状が改善してきたと思っても、進学・就職・引っ越し・人間関係の変化といったライフイベントをきっかけに、食行動の乱れが一時的にぶり返すことは珍しくありません。これは「治療の失敗」ではなく、多くの慢性疾患に共通する回復過程の一部だと理解しておくことが、本人にとっても支援者にとっても心の負担を軽くします。
再発の兆候に早めに気づくためには、体重の増減だけでなく、「食事や体重についての考えが再び頭を占めるようになった」「以前避けていた対処行動(過度な運動、隠れ食いなど)が戻ってきた」といった心理的なサインに注目することが役立ちます。治療がひと区切りついたあとも、数か月に一度は主治医やカウンセラーとの短い面談を続け、変化があれば早期に相談できる体制を維持しておくことが、長期的な安定につながります[33]。
第9節: SNS・メディアとの付き合い方
回復の過程にある人にとって、体型や食事内容を強調する投稿の多いSNSは、症状を刺激する引き金になることがあります。理想化された体型を映す画像や、「食べても太らない方法」といった情報に日常的に触れ続けることは、痩せ礼賛文化を個人のスマートフォンの中に持ち込むことに等しく、比較や焦りを生みやすくなります。治療中は、そうしたアカウントをミュートしたり、フォローする対象を意識的に選び直したりすることも、回復を支える具体的な工夫のひとつです。周囲の家族も、本人の前で体型や食事量についての何気ないコメントを控えることが、安心できる環境づくりにつながります。体重や外見を話題にしない「食トークオフ」を家庭内のルールにするだけでも、無意識のプレッシャーを大きく減らせることがあります。
結論
摂食障害は、時に生命を脅かす、深刻で苦しい病です。しかし、これまで見てきたように、それは決して不治の病ではありません。最新の科学的根拠に基づいた適切な治療と、周囲の粘り強いサポートがあれば、回復は十分に可能です。その道のりは決して平坦ではなく、一進一退を繰り返すこともあるかもしれません。それでも、希望を失う必要はありません。
このガイドが、今まさに暗闇の中にいるように感じているあなたや、あなたの大切な人にとって、一条の光となることを願っています。助けを求めることは、弱さの表れではありません。それは、自分自身の人生を取り戻すための、最も力強く、賢明な選択です。不安や体調の異変があるときは、迷わず本記事内の相談窓口・受診の目安を確認してください。
免責事項
本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。緊急時は119番、または本記事内の相談窓口をご利用ください。
最終更新日:2026年7月19日。情報の誤りにお気づきの場合は、japanesehealth.org編集部までお問い合わせください。
参考文献
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