妊娠糖尿病の検査、全解説:いつ、なぜ、どうやって?費用から診断基準まで【産婦人科医・糖尿病専門医 監修】
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妊娠糖尿病の検査、全解説:いつ、なぜ、どうやって?費用から診断基準まで【産婦人科医・糖尿病専門医 監修】

妊娠という喜ばしい期間中に、「妊娠糖尿病」という言葉を耳にすると、多くの妊婦さんが不安や戸惑いを感じることでしょう。しかし、この状態について正しく理解することは、その不安を和らげ、母子ともに健やかな妊娠期間を過ごすための第一歩となります。本稿では、日本の主要な医学会の最新ガイドラインに基づき、妊娠糖尿病の検査に関するあらゆる側面を、専門的かつ分かりやすく解説します。

この記事の科学的根拠

この記事は、引用された研究報告書で明示されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会: 本記事における妊婦の糖代謝異常スクリーニング、診断基準、および管理に関する指針は、同学会が発行する『産婦人科診療ガイドライン―産科編2023』に基づいています33
  • 日本糖尿病学会: 妊娠糖尿病の定義、診断基準、および治療法に関する記述は、同学会が発行する『糖尿病診療ガイドライン2024』に準拠しています34
  • 日本糖尿病・妊娠学会: 診断基準の統一化や、杉山隆医師、平松祐司医師らが主導した『妊娠糖尿病既往女性のフォローアップに関する診療ガイドライン』など、出産後のフォローアップに関する専門的な推奨事項は、同学会の見解を基にしています1935

要点まとめ

  • 妊娠糖尿病(GDM)は、妊娠中のホルモン変化が主な原因で起こる一時的な糖代謝異常であり、誰にでも起こりうる一般的な状態です。個人の食生活の失敗ではありません。
  • 日本では、リスクの有無にかかわらず全ての妊婦を対象に、妊娠初期と中期の2段階で行う標準化されたスクリーニング検査が強く推奨されています。
  • 診断は、国際基準に基づいた「75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)」によって明確に行われ、基準値を1つでも超えると診断されます。
  • 管理の基本は「食事療法(分割食など)」と「運動療法」です。これらで血糖値が管理できない場合、胎盤を通過せず赤ちゃんに安全な「インスリン注射」が用いられます。
  • 出産後はほとんどの場合で血糖値は正常に戻りますが、将来の2型糖尿病のリスクを評価し予防するために、産後の再検査と長期的な健康管理が極めて重要です。

妊娠糖尿病(GDM)とは何か?不安を解消する正確な知識

妊娠糖尿病(Gestational Diabetes Mellitus, GDM)とは、妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病には至っていない糖代謝異常のことです1。これは、妊娠前から糖尿病と診断されていた「糖尿病合併妊娠」や、妊娠中に診断された明らかな糖尿病とは明確に区別されます3。最も重要な点として、妊娠糖尿病と診断された女性の多くは、出産後に血糖値が正常に戻る一時的な状態であることが挙げられます1。この診断は、妊娠期間中の特別な健康管理が必要であることを示すサインであり、適切に対応することで、母子ともに安全な出産を迎えることが可能です。

なぜ起こるのか?妊娠の生理現象であり、個人の失敗ではない

妊娠糖尿病の診断を受けると、「自分の食生活が悪かったのではないか」「甘いものを食べ過ぎたせいだ」と自身を責めてしまう方が少なくありません6。しかし、その主な原因は個人の生活習慣ではなく、妊娠に伴う生理的な変化にあります。妊娠すると、胎盤から赤ちゃんの発育を促すための様々なホルモンが分泌されます。これらのホルモンには、血糖値を下げるインスリンの働きを弱める(インスリン抵抗性を高める)作用があります1。さらに、胎盤ではインスリンを分解する酵素も作られるため、妊娠中はインスリンが効きにくい状態になりがちです5。通常、母体はインスリンの分泌量を増やしてこの変化に対応しますが、もともとインスリンの分泌能力に余力がない場合、血糖値が上昇し、妊娠糖尿病を発症します。多くの医療専門家が指摘するように、これは「ママの食生活のせいじゃなくてホルモンの問題」なのです6。この医学的事実を理解することは、不必要な罪悪感から解放され、前向きに治療に取り組む上で極めて重要です。この状態は、妊娠という特別な体の変化に対応する過程で起こるものであり、誰にでも起こりうるのです。

日本での妊娠糖尿病の頻度は?あなたは一人ではありません

妊娠糖尿病は、決して珍しい状態ではありません。日本の妊婦のおよそ8%から12%、つまり12人に1人から8人に1人が経験すると報告されています89。この数字は、多くの女性が同じ経験を共有していることを示しており、診断を受けても孤立感を感じる必要はないことを意味します。適切な情報を得て、医療チームと共に管理していくことで、多くの仲間とともにこの道のりを歩んでいるのだと理解することが、心の支えとなるでしょう。

日本におけるGDM検査プロセス:ステップ・バイ・ステップガイド

日本の産科医療では、妊娠糖尿病を早期に発見し、適切に管理するために、体系化された検査プロトコルが確立されています。ここでは、その全貌を段階的に、そして分かりやすく解説します。

日本の標準:なぜ全ての妊婦がスクリーニングを受けるのか

日本の主要な診療ガイドラインでは、危険性の有無にかかわらず、全ての妊婦に糖代謝異常のスクリーニング検査を行うことが強く推奨されています3。その理由は、妊娠糖尿病には自覚症状がほとんどないためです12。もし肥満や家族歴などの高い危険性を持つ妊婦のみを対象に検査を行うと、多くの症例が見逃されてしまう可能性があります3。母子双方の健康を守るため、全ての妊婦を対象とした普遍的なスクリーニングが、日本の標準的な産科医療の根幹をなしているのです。

2段階アプローチ:スクリーニングから診断へ

日本の検査プロセスは、大きく分けて2つの段階で構成されています3

  1. スクリーニング検査:妊娠糖尿病の「可能性」がある人を見つけ出すための最初のふるい分け検査。
  2. 確定診断検査:スクリーニングで陽性となった人に対して、妊娠糖尿病であるかどうかを最終的に診断するための精密検査。

この2段階のアプローチを理解することは、スクリーニングで陽性となってもすぐにパニックに陥る必要はなく、次の精密検査で正確な状態を確認するという流れを冷静に受け止める助けになります。

第1段階:スクリーニング検査(妊娠初期・中期)

妊娠期間中、通常2回のタイミングでスクリーニングが行われます。

妊娠初期のスクリーニング

初回の妊婦健診など、妊娠の早い段階で「随時血糖検査」が行われます。これは食事時間に関係なく採血し、血糖値を測定するものです14。この初期検査の主な目的は、妊娠前から存在していたが見逃されていた糖尿病(「妊娠中の明らかな糖尿病」)を早期に発見することにあります3。多くの施設では、血糖値が95mg/dLまたは100mg/dL以上の場合に陽性と判断されます3

妊娠中期のスクリーニング(妊娠24~28週)

妊娠初期の検査で陰性だった方も、妊娠が進むにつれてインスリン抵抗性がさらに増大するため、妊娠24週から28週の間に再度スクリーニングが行われます1。この時期には「50gグルコースチャレンジテスト(50gGCT)」が一般的です。これは、ブドウ糖50gを含む甘い液体を飲み、1時間後に採血して血糖値を測定する検査です14。この検査で血糖値が140mg/dL以上の場合、陽性と判断され、次の確定診断検査に進みます14。重要なことは、これらのスクリーニング検査での陽性結果は、あくまで「妊娠糖尿病の疑いがある」ことを意味するだけで、確定診断ではないという点です。

第2段階:確定診断検査(75g OGTT)

スクリーニングで陽性となった場合、妊娠糖尿病の診断を確定するために「75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)」が行われます。これは、日本における妊娠糖尿病診断のゴールドスタンダード(最も信頼性の高い基準)です。

検査手順

この検査は、より正確な結果を得るために、前日の夜から食事を抜いた空腹の状態で実施されます。検査当日は、まず空腹時の採血を行い、その後ブドウ糖75gを含む甘い液体を飲みます。そして、飲んだ1時間後と2時間後に再度採血を行い、計3回の血糖値を測定します5

患者さんの体験

多くの経験者がブログなどで語っているように、この検査で飲むブドウ糖液は非常に甘く、時に炭酸が含まれていることもあり、吐き気を感じることがあります16。医療機関によっては、飲みやすいように冷やして提供されることもあります17。検査には合計で2時間以上かかるため、リラックスして過ごせるように本などを持参すると良いでしょう。

診断基準

日本の主要な医学会(日本産科婦人科学会、日本糖尿病学会、日本糖尿病・妊娠学会)は、2015年に診断基準を統一しており、現在では以下の基準が全国的に用いられています218。75gOGTTにおいて、下記の基準値のうち1つでも満たした場合に、妊娠糖尿病と診断されます15

表1:日本における妊娠糖尿病(GDM)の診断基準(75g OGTT)
測定タイミング 血糖値の基準値
空腹時(採血1回目) $ \geq 92 $ mg/dL
1時間後(採血2回目) $ \geq 180 $ mg/dL
2時間後(採血3回目) $ \geq 153 $ mg/dL
診断ルール: 上記3つの基準値のうち、1つ以上を満たした場合に妊娠糖尿病と診断される。

出典:日本産科婦人科学会、日本糖尿病学会、日本糖尿病・妊娠学会の診療ガイドライン3
この統一された明確な基準の存在は、日本国内のどこで検査を受けても同じ質の診断が受けられることを保証するものであり、本記事が提供する情報の信頼性の根幹をなしています。海外では複数の基準が混在し混乱を招くことがありますが、日本ではこの単一の基準が標準医療として確立されているため、患者さんは安心して検査結果を受け止めることができます。

診断と危険性の理解

診断が確定した後、それがどのような意味を持つのか、またどのような危険因子が関連しているのかを理解することは、今後の管理計画を立てる上で非常に重要です。

GDMか「妊娠中の明らかな糖尿病」か?

妊娠中の糖代謝異常のスクリーニングでは、GDMだけでなく、より重度の、妊娠前から存在した可能性のある糖尿病が発見されることがあります。日本のガイドラインでは、これを「妊娠中の明らかな糖尿病」というカテゴリーで明確に区別しています3。この診断は、GDMとは異なる、より厳格な管理と長期的な追跡調査が必要となるため、両者の違いを理解しておくことが重要です。

表2:GDMと「妊娠中の明らかな糖尿病」の違い
病態 診断基準 意味合い
妊娠糖尿病(GDM) 75g OGTTで以下の1つ以上を満たす:
– 空腹時 $\geq 92$ mg/dL
– 1時間値 $\geq 180$ mg/dL
– 2時間値 $\geq 153$ mg/dL
妊娠中に初めて発見または発症した糖代謝異常。
妊娠中の明らかな糖尿病 以下のいずれかを満たす:
– 空腹時血糖値 $\geq 126$ mg/dL
– HbA1c $\geq 6.5\%$
– 随時血糖値 $\geq 200$ mg/dL(症状あり)
妊娠前から存在した1型または2型糖尿病が、妊娠中に初めて発見された可能性が高い状態。

出典:日本糖尿病学会、日本糖尿病・妊娠学会の診療ガイドライン3

どのような人が危険性が高いのか?

妊娠糖尿病は誰にでも起こりうるものですが、特定の要因を持つ人は発症する危険性が高まることが知られています。これらの危険因子を把握することは、自身の状況を理解し、将来の妊娠計画にも役立ちます。日本糖尿病学会などが挙げる主な危険因子は以下の通りです3

  • 肥満:妊娠前のBMI(体格指数)が高い場合
  • 家族歴:両親や兄弟姉妹に糖尿病の人がいる場合
  • 高齢妊娠:35歳以上での妊娠など
  • 既往歴:過去の妊娠でGDMと診断されたことがある場合
  • 巨大児の出産歴:以前の出産で4000g以上の赤ちゃんを産んだことがある場合
  • 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の診断を受けている場合

これらの要因に当てはまる場合でも、必ずしもGDMを発症するわけではありませんが、妊娠初期から意識的に健康管理を行うことが推奨されます。

診断後の生活:実践的な管理ガイド

妊娠糖尿病と診断された後、多くの妊婦さんは「これからどうすればいいの?」という疑問を抱きます。幸いなことに、その管理方法は確立されており、医師や栄養士などの医療チームと協力しながら実践することで、母子ともに健康な状態を維持することが可能です。

管理の柱:あなたのアクションプラン

治療の基本は、血糖値を安定させ、急激な上昇を防ぐことです。日本のガイドラインでは、以下の4つを柱とした管理が推奨されています。

  1. 食事療法
    これが管理の最も重要な基礎となります。目標は、適切な栄養を確保しつつ、血糖値の乱高下を避けることです。特に日本では「分食(ぶんしょく)」という考え方が重視されます。これは、1日の食事を3回の主食と2~3回の間食に分け、1回あたりの食事量を減らすことで、食後の急激な血糖上昇を抑える方法です17。炭水化物を完全に抜くのではなく、玄米や全粒粉パンなどの血糖値を上げにくい「複合糖質」を選び、食事の最初に野菜を食べる「ベジファースト」を心掛けることが推奨されます25
  2. 運動療法
    食後30分程度のウォーキングなど、中等度の有酸素運動は血糖値のコントロールに非常に効果的です21。運動は、必ず主治医に相談し、許可を得てから安全な範囲で行うことが重要です。
  3. 自己血糖測定
    診断後は、自宅で血糖値を測定し、記録することが求められます。通常、起床時(食前)と毎食後2時間値など、1日に数回、指先に小さな針を刺して採血し、専用の機器で測定します7。この頻繁な測定は、時に痛みや精神的な負担を伴うことがあります6。近年では、腕にセンサーを装着し、スマートフォンなどでいつでも血糖値を確認できる持続血糖測定器(FreeStyleリブレなど)も保険適用となり、GDMの管理に用いられるケースが増えています17。このような新しい技術の存在は、患者さんの負担を軽減する上で大きな進歩と言えます。
  4. 薬物療法(インスリン注射)
    食事療法と運動療法だけでは血糖値が目標範囲内に収まらない場合、インスリン注射による治療が行われます1。注射と聞くと怖いイメージがあるかもしれませんが、インスリンは日本のガイドラインで推奨される標準的で安全な治療法です21。最も重要なことは、インスリンは胎盤を通過しないため、お腹の赤ちゃんに直接影響することはないという点です1。また、この治療は妊娠期間中の一時的なもので、ほとんどの場合、出産後には不要になります。
表3:GDM食事療法のヒント(食事と間食の例)
積極的に摂りたいもの 控えめにしたいもの 賢い間食(分食)のアイデア
複合炭水化物(玄米、全粒粉パン) 単純炭水化物(白米、食パン) ナッツ類
赤身の肉、魚、大豆製品 砂糖入り飲料(ジュース、炭酸飲料) 無糖ヨーグルト
野菜(特に食物繊維の多い葉物) 菓子類(ケーキ、菓子パン) ゆで卵
原則: 食事の最初に野菜を食べる。 原則: 濃縮された糖分を避ける。 原則: タンパク質や脂質と組み合わせる。

出典:1725

患者さんの体験談:大変だと感じても大丈夫

臨床的なガイドラインが「何をすべきか」を示す一方で、実際にGDMを経験した人々の声は「それがどのように感じられるか」を教えてくれます。診断の衝撃、食事制限のストレス、そして周囲の理解を得られない孤独感は、多くの経験者が語るところです1623。例えば、良かれと思って家族から「一口くらい大丈夫だよ」と言われることが、かえって辛かったという声があります26。また、毎日の血糖測定やインスリンの自己注射に対する恐怖心や煩わしさも、大きな精神的負担となり得ます6。これらの感情は、決して特別なものではなく、多くの人が経験する自然な反応です。医療記事がこれらの困難に共感し、その感情を肯定することは、患者さんが「自分だけではない」と感じ、前向きに治療を続けるための強力な支えとなります。この記事は、あなたのその気持ちを理解し、寄り添うことを目指しています。

実践的な疑問:日本における費用と保険適用

診断と治療方針が決まると、次に気になるのが費用です。特に、日本の医療保険制度がどのように適用されるのかは、多くの患者さんにとって大きな関心事です。

GDMの検査と治療は保険適用になりますか?

この問いに対する答えは、日本の医療制度の仕組みを理解することで明確になります。

  • 通常の妊婦健診(にんぷけんしん):妊娠は病気ではないという考え方から、定期的な妊婦健診そのものは健康保険の適用外となり、原則として自己負担です27。しかし、各自治体から交付される「妊婦健康診査受診票(補助券)」を利用することで、費用の大部分が公費で助成されます28。初期の血糖スクリーニング検査は、この健診の一部として扱われることが多いです。
  • GDMの確定診断検査と治療:スクリーニング検査の結果、GDMが疑われたり、診断が確定したりした場合、そこから先の検査(75gOGTTなど)や治療(専門医の診察、栄養指導、インスリン処方、管理入院など)は、「病気の治療」と見なされ、健康保険が適用されます2930。この場合、患者さんの自己負担は原則として3割となります。

具体的には、75gOGTTの費用は3割負担で3,000円程度が目安とされています29。この「通常の健診」と「病気の治療」の境界を明確に理解することで、費用の見通しが立てやすくなり、安心して必要な医療を受けることができます。

出産後:生涯にわたる健康への意識

妊娠糖尿病の管理は、出産をもって終わりではありません。むしろ、それはご自身の長期的な健康を見つめ直すための重要なスタート地点となります。

極めて重要な産後の再検査

出産後、ほとんどの女性は血糖値が正常に戻りますが、それを確認するための再検査が不可欠です。日本の主要な医学会は、出産後6週から12週の間に、再度75gOGTTを受けることを強く推奨しています1119。この検査は、ご自身の体が正常な糖代謝能力を取り戻したかを確認し、将来の危険性を評価するための重要な指標となります。

将来の2型糖尿病の危険性を理解する

妊娠糖尿病を経験した女性は、将来的に2型糖尿病を発症する危険性が、経験しなかった女性に比べて約7倍高いと報告されています1。また、次回の妊娠でGDMを再発する確率も約48%と高い傾向にあります3。この事実は、決して怖がらせるためのものではありません。むしろ、この知識を持つことで、予防のための行動を早期に始めることができるという、強力な「エンパワーメント・ツール(力を与える道具)」となるのです。

長期的な健康のための予防プラン

将来の健康を守るために、今日から始められるシンプルで効果的な行動計画があります。

  • 母乳育児:可能であれば、母乳で赤ちゃんを育てることは、母子双方の将来の糖尿病の危険性を低下させる可能性が示唆されており、弱く推奨されています1
  • 健康的な生活習慣の継続:妊娠中に身につけたバランスの取れた食事や運動習慣を、出産後も続けることが最も効果的な予防策です19
  • 定期的な検診:産後の再検査で異常がなかった場合でも、その後は1年から3年ごとに定期的に糖尿病の検診(空腹時血糖値やHbA1c検査など)を受けることが推奨されます31。ある産婦人科医は、「お子さんの誕生月に毎年検診を受ける」と決めると忘れにくい、という実用的な助言をしています17
表4:GDM経験者のための産後ヘルスチェックリスト
いつ? 何をすべきか なぜ重要か
出産後6~12週 75g OGTTを受ける。 血糖値が正常に戻ったかを確認するため19
出産後ずっと 健康的な食事と運動を続ける。 将来の2型糖尿病の危険性を大幅に低減するため19
授乳期間中 可能であれば母乳育児を行う。 母子双方に保護的な効果が期待できるため1
1~3年ごと 糖尿病のスクリーニング検査を受ける。 糖尿病予備群や初期の糖尿病を早期に発見するため31
健康に関する注意事項
妊娠糖尿病の管理は、専門的な医療知識を必要とします。食事療法、運動療法、およびインスリン治療を含むすべての治療計画は、必ず産婦人科医や糖尿病専門医の指導のもとで行ってください。自己判断で治療を中断したり、食事内容を極端に変更したりすることは、母体および胎児に危険を及ぼす可能性があります。血糖測定値に異常が見られた場合や、体調に変化を感じた場合は、速やかにかかりつけの医療機関に相談してください。

よくある質問

Q1: 妊娠糖尿病の検査は痛いですか?
A1: 検査には採血が伴うため、針を刺す際にチクッとした軽い痛みを感じます。特に確定診断の75gOGTTでは3回採血を行いますが、痛みは一時的なものです。多くの医療機関では、患者さんの負担を軽減できるよう配慮しています。
Q2: 診断されたのは、私の食生活が悪かったからですか?
A2: いいえ、決してそうではありません。妊娠糖尿病の主な原因は、胎盤から出るホルモンの影響でインスリンが効きにくくなるという、妊娠に伴う生理的な変化です1。もちろん、健康的な食生活は重要ですが、診断されたことをご自身で責める必要は全くありません。
Q3: 甘いものが全く食べられなくなるのですか?
A3: 「全く食べられない」わけではありません。重要なのは量とタイミング、そして種類です。管理栄養士と相談しながら、血糖値が上がりにくいタイミングで、適切な量の間食(分食)を摂ることが推奨されます。ジュースや菓子パンなど、急激に血糖値を上げるものは控える必要があります17
Q4: 診断されたら、必ず入院やインスリン注射が必要になりますか?
A4: いいえ、必ずしもそうではありません。管理の基本は食事療法と運動療法です。多くの方は、これらの生活習慣の改善だけで血糖値を良好にコントロールできます。インスリン注射が必要になるのは、生活習慣の改善だけでは血糖値が目標値まで下がらない場合に限られます1
Q5: 出産後も糖尿病は治らないのですか?
A5: ほとんどの場合、出産して胎盤が排出されると血糖値は正常に戻ります。しかし、GDMを経験した方は、将来2型糖尿病になる危険性が高いことが分かっています1。そのため、出産後も定期的な検診を受け、健康的な生活を続けることが非常に重要です。

結論

妊娠糖尿病の診断は、多くの妊婦さんにとって不安な出来事かもしれません。しかし、本記事で詳述したように、その原因は妊娠特有の生理的な変化であり、誰にでも起こりうることです。日本には、全ての妊婦さんを対象とした信頼性の高い標準的な検査体制が整っており、早期発見と適切な管理が可能です。管理の中心は食事と運動であり、これらは赤ちゃんとご自身の健康を守るための積極的なステップです。必要に応じて用いられるインスリン治療も、確立された安全な方法です。そして何より重要なのは、この経験を、出産後も続くご自身の生涯の健康について考えるきっかけとすることです。正しい知識を力に変え、医療チームと手を取り合って、心安らかで健やかなマタニティライフ、そしてその先の未来を歩んでいきましょう。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  33. 産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2023. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.jsog.or.jp/activity/pdf/gl_sanka_2023.pdf
  34. 糖尿病診療ガイドライン2024 – 糖尿病情報センター – 国立国際医療研究センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://dmic.ncgm.go.jp/medical/130/05.html
  35. 妊娠糖尿病既往女性のフォローアップに関する診療ガイドラインが公開されました. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.ouhp-dmcenter.jp/project/donats/%E5%A6%8A%E5%A8%A0%E7%B3%96%E5%B0%BF%E7%97%85%E6%97%A2%E5%BE%80%E5%A5%B3%E6%80%A7%E3%81%AE%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E8%A8%BA/
  36. 2023 年 10 月 27 日 公益社団法人日本産科婦人科学会 理事長 加藤 聖子 先生 秋涼の候、益々ご清. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://www.jsog.or.jp/news_r/2710/
  37. 妊娠糖尿病既往女性のフォローアップに関する診療ガイドライン. [インターネット]. [引用日: 2025年6月23日]. Available from: https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00808/
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