学校で流行る感染症のすべて:症状・予防法から法律で決まった出席停止期間まで徹底解説
小児科

学校で流行る感染症のすべて:症状・予防法から法律で決まった出席停止期間まで徹底解説

お子さんが学校や保育園で熱を出したとき、多くの保護者様が「これは何の病気だろう?」「どのくらい休ませればいいのだろう?」「法律や学校の決まりはどうなっているの?」といった不安や疑問に直面します。インターネット上には多くの情報が溢れていますが、その正確性や信頼性を見極めるのは容易ではありません。この記事は、そのような保護者様の不安を解消し、信頼できる正確な情報を提供することを目的としています。小児科専門医の監修のもと、日本の法律である学校保健安全法に基づき、子どもたちが学校でかかりやすい感染症について、その法的な分類から、各疾患の具体的な症状、家庭でのケア、そして最も効果的な予防法までを網羅的かつ徹底的に解説します。本稿を読むことで、保護者の皆様は、学校感染症に関する公的なルール、主要な感染症の詳細な知識、そして実践的な予防と対策を明確に理解することができます。この記事が、お子様の健康を守り、保護者の皆様が自信を持って的確な判断を下すための一助となることを目指します。

この記事の科学的根拠

この記事は、明示的に引用された最高品質の医学的根拠にのみ基づいて作成されています。以下は、本稿で提示される医学的指導に直接関連する主要な情報源のリストです。

  • 文部科学省 (MEXT): 本記事における出席停止基準や学校における感染症対策の基本的な考え方は、文部科学省が発行する公式な指針である「学校において予防すべき感染症の解説」に準拠しています1
  • 厚生労働省 (MHLW): 感染症の法的定義、公衆衛生に関するガイドライン、および保育所における対応については、厚生労働省の公式発表と「保育所における感染症対策ガイドライン」を基にしています2
  • 日本小児科学会 (JPS): 各疾患の臨床的な特徴、治療、ケアに関する記述は、日本の小児医療における最高権威の一つである日本小児科学会の専門的な見解やガイドラインに基づいています3
  • 国立感染症研究所 (NIID): 各感染症の疫学的データや詳細なウイルス・細菌学的情報については、国立感染症研究所(2025年より国立健康危機管理研究機構へ統合予定4)の公開情報を参照しています。

この記事の要点まとめ

  • 学校を休むルールは、学校保健安全法という法律で定められており、これに基づく休みは「欠席」扱いになりません。
  • 感染症は危険度や感染力に応じて「第一種」「第二種」「第三種」「その他」に分類され、それぞれ出席停止の基準が異なります。
  • インフルエンザは「発症後5日、かつ解熱後2日(幼児は3日)」、新型コロナは「発症後5日、かつ症状軽快後1日」が基準です。
  • 溶連菌や手足口病など、法律で一律の基準がない病気は、本人の全身状態と医師の判断で登園・登校を決めます。
  • 感染予防には「手洗い」「咳エチケット」「環境整備(清掃・換気)」が基本であり、ワクチンは最も効果的な防御策です。

基本知識:日本の学校感染症ルールを理解する

お子さんの感染症で学校を休む際、そのルールが個々の学校の独自の判断ではなく、国が定めた法律に基づいていることを知ることは、保護者の皆様にとって非常に重要です。

法的根拠:「学校保健安全法」とは

学校生活における感染症の予防や、感染した際の出席停止のルールは、「学校保健安全法」およびその施行規則によって明確に定められています5。これは、子どもたち自身の健康を守ると同時に、学校内での集団感染(アウトブレイク)を防ぎ、安全な教育環境を維持するための重要な法律です。したがって、定められた期間、学校を休むことは、個人の回復のためだけでなく、他の生徒を守るための社会的な責任でもあります。

【重要】「出席停止」と「欠席」は違います

保護者の皆様が最も安心すべき重要な点として、学校保健安全法に基づいて学校を休む「出席停止」は、成績評価などで不利になる可能性のある「欠席」扱いにはなりません16。これは、病気の治療に専念し、感染拡大を防ぐために休むことが、子どもの権利として保障されていることを意味します。内申点への影響などを心配することなく、お子様の回復を第一に考えてください。

公的分類:第一種・第二種・第三種感染症の違い

学校保健安全法では、感染症をその危険性や感染力に応じて3つの主要なカテゴリーに分類しています。厚生労働省や文部科学省の公式資料によると、その定義は以下の通りです16

  • 第一種感染症: エボラ出血熱、ペスト、痘そうなど、感染力が極めて強く、命に関わる非常に危険な感染症です。日本国内での発生はほとんどありません。出席停止の基準は「治癒するまで」とされています。
  • 第二種感染症: インフルエンザ、麻しん(はしか)、水痘(みずぼうそう)など、飛沫感染や空気感染によって人から人へ広がりやすく、学校で集団発生を起こす可能性が高い感染症が含まれます。「空気感染又は飛沫感染するもので、児童生徒等のり患が多く、学校において流行を広げる可能性が高い感染症」と定義されており、疾患ごとに具体的な出席停止期間が定められています。
  • 第三種感染症: 腸管出血性大腸菌感染症(O157など)やコレラなど、特定の条件下で学校教育活動を通じて流行を広げる可能性がある感染症です。出席停止の基準は「医師において感染のおそれがないと認めるまで」とされています。
  • その他の感染症: 上記の分類には含まれないものの、学校で流行が起こった場合にその拡大を防ぐ必要がある感染症です。溶連菌感染症、手足口病、RSウイルス感染症など、子どもたちが日常的にかかる多くの病気がこのカテゴリーに該当します1。これらの疾患には、法律で定められた一律の出席停止期間はありませんが、感染力や症状に応じて、学校医や主治医の判断により出席停止の措置がとられることがあります。

出席停止期間の正しい数え方

保護者の方が最も混乱しやすいのが、出席停止期間の数え方です。特に「解熱した後〇日」という基準は間違いやすいため、正確な考え方を理解しておくことが重要です。公的なルールでは、「症状が始まった日」や「解熱した日」を0日目とカウントし、その翌日を1日目として数えます78
具体例:インフルエンザで小学生が月曜日に解熱した場合

  • 月曜日(解熱した日) → 解熱0日目
  • 火曜日 → 解熱後1日目
  • 水曜日 → 解熱後2日目

この場合、小学生の基準である「解熱した後二日を経過するまで」を満たすため、もし水曜日まで再発熱がなければ、木曜日から登校が可能となります。この数え方は、他の感染症でも同様に適用されます。

学校感染症 早見表

多忙な保護者の方が、必要な情報を一目で把握できるよう、主要な感染症の情報をまとめました。詳細な情報は、この後の各疾患の解説をご覧ください。

疾患名 法的分類 主な症状 出席停止の基準(要約)
インフルエンザ 第二種 38℃以上の高熱、咳、頭痛、関節痛、倦怠感 発症後5日経過、かつ解熱後2日(幼児は3日)経過するまで1
新型コロナウイルス 第二種 発熱、咳、喉の痛み、倦怠感 発症後5日経過、かつ症状軽快後1日経過するまで9
麻しん(はしか) 第二種 高熱、咳、鼻水、目の充血、特有の発疹 解熱後3日経過するまで1
水痘(みずぼうそう) 第二種 かゆみを伴う全身の水疱性の発疹 全ての発疹がかさぶたになるまで1
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ) 第二種 耳下腺(耳の下)の腫れと痛み 腫れが出てから5日経過し、全身状態が良好になるまで1
咽頭結膜熱(プール熱) 第二種 高熱、喉の痛み、目の充血 主な症状がなくなってから2日経過するまで1
溶連菌感染症 その他 発熱、喉の強い痛み、体や手足の発疹、いちご舌 適切な抗生物質を飲み始めてから24時間経過し、元気な状態になるまで10
手足口病 その他 手のひら、足の裏、口の中の水疱性の発疹 熱がなく、普段通り食事ができれば登園・登校可(一律の基準なし)11
ヘルパンギーナ その他 突然の高熱、口の中の奥にできる水疱 熱がなく、口の痛みがなくなり食事ができれば可(一律の基準なし)12
RSウイルス感染症 その他 鼻水、咳から始まり、時に「ゼーゼー」する呼吸困難 咳などの呼吸器症状がひどくなく、全身状態が良ければ可(一律の基準なし)13
感染性胃腸炎 その他 嘔吐、下痢、腹痛、発熱 嘔吐・下痢がなくなり、普段の食事が摂れるようになるまで6

学校感染症 完全ガイド(法的分類別)

ここからは、子どもたちが実際にかかりやすい主要な感染症について、法的分類に沿って詳しく解説していきます。

第二種感染症:集団発生のリスクが高い病気

第二種感染症は、学校での流行を防ぐために、法律で明確な出席停止基準が設けられています。

インフルエンザ

  • どんな病気?: インフルエンザウイルスによる急性の呼吸器感染症で、冬に流行のピークを迎えます。
  • 主な症状: 38℃以上の突然の高熱、頭痛、関節痛・筋肉痛、全身の倦怠感といった全身症状が強く現れるのが特徴です。その後、咳、鼻水、喉の痛みなどの呼吸器症状が続きます6
  • 潜伏期間と感染経路: 潜伏期間は通常1〜3日。感染者の咳やくしゃみに含まれるウイルスを吸い込むことによる「飛沫感染」が主です6
  • 合併症と注意点: 小児では、まれにインフルエンザ脳症や肺炎といった重篤な合併症を引き起こすことがあります。
  • 【最重要】出席停止の基準: 文部科学省の定める基準は「発症した後五日を経過し、かつ、解熱した後二日(幼児にあっては、三日)を経過するまで」です1。小学生以上と未就学児(幼児)で解熱後の日数が異なる点に注意が必要です。
  • 家庭でのケアと治療: 安静にして十分な睡眠をとることが大切です。高熱で汗をかくため、こまめな水分補給を心がけましょう。医療機関では抗インフルエンザ薬が処方されることがあります。
  • 予防法: 毎年のワクチン接種が最も有効な予防策です。

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)

  • どんな病気?: SARS-CoV-2ウイルスによる呼吸器感染症です。季節を問わず流行の波が見られます。
  • 主な症状: 発熱、咳、喉の痛み、倦怠感が主な症状ですが、頭痛、鼻水、味覚・嗅覚障害なども見られます。
  • 潜伏期間と感染経路: 潜伏期間は1〜7日程度。主に「飛沫感染」と「接触感染」で広がります。
  • 【最重要】出席停止の基準: 2023年5月以降、第二種感染症に位置づけられ、基準は「発症した後五日を経過し、かつ、症状が軽快した後一日を経過するまで」と定められました9。ここでいう「症状が軽快」とは、解熱剤を使用せずに解熱し、咳などの呼吸器症状が改善傾向にある状態を指します7
  • 家庭でのケアと治療: 多くの場合は自宅療養で回復しますが、呼吸が苦しそうな場合は速やかに医療機関に相談してください。
  • 予防法: ワクチン接種、手洗い、換気が有効です。

麻しん(はしか)

  • どんな病気?: 麻しんウイルスによる感染症で、感染力が非常に強く、重篤な合併症を引き起こすことがあります。
  • 主な症状: 38℃以上の高熱、咳、鼻水、目の充血(カタル期)が数日続いた後、一旦解熱傾向になったのち再び高熱となり、同時に全身に特有の赤い発疹が出現します6
  • 潜伏期間と感染経路: 潜伏期間は約10〜12日。空気中に漂うウイルスを吸い込む「空気感染」が主な経路で、感染力は極めて強力です。
  • 合併症と注意点: 肺炎や中耳炎、そして1,000人に1人の割合で脳炎を合併すると言われています。
  • 【最重要】出席停止の基準: 「解熱した後三日を経過するまで」が出席停止となります1
  • 予防法: MR(麻しん風しん混合)ワクチンの2回接種が、ほぼ唯一の確実な予防法です。

水痘(みずぼうそう)

  • どんな病気?: 水痘・帯状疱疹ウイルスによる感染症で、特徴的な発疹が出ます。
  • 主な症状: 発熱とともに、かゆみを伴う赤い小さな発疹が全身に現れます。発疹は数時間で水ぶくれ(水疱)になり、その後かさぶた(痂皮)へと変化していきます。新しい発疹と古い発疹が混在するのが特徴です6
  • 潜伏期間と感染経路: 潜伏期間は約2週間。空気感染、飛沫感染、接触感染で広がります。
  • 【最重要】出席停止の基準: 「すべての発しんが痂皮化(かさぶたになること)するまで」です1。水ぶくれが残っている間は感染力があるため、登校できません。
  • 予防法: 定期接種である水痘ワクチンの2回接種で、重症化をほぼ防ぐことができます。

流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)

  • どんな病気?: ムンプスウイルスによる感染症で、耳の下にある唾液腺(耳下腺)が腫れるのが特徴です。
  • 主な症状: 片方または両方の耳下腺の腫れと痛み、発熱が主な症状です。顎の下(顎下腺)が腫れることもあります。
  • 潜伏期間と感染経路: 潜伏期間は2〜3週間。飛沫感染、接触感染で広がります。
  • 合併症と注意点: 無菌性髄膜炎が最も多い合併症です。また、永続的な聴力障害(ムンプス難聴)を引き起こす可能性があり、特に注意が必要です1
  • 【最重要】出席停止の基準: 「耳下腺、顎下腺又は舌下腺の腫脹が発現した後五日を経過し、かつ、全身状態が良好になるまで」とされています1
  • 予防法: 任意接種のおたふくかぜワクチンが有効です。日本小児科学会は2回接種を推奨しています3

咽頭結膜熱(プール熱)

  • どんな病気?: アデノウイルスによる感染症で、夏にプールを介して流行することが多いため「プール熱」と呼ばれます。
  • 主な症状: 発熱、喉の強い痛み(咽頭炎)、目の充血・目やに(結膜炎)が3大症状です6
  • 潜伏期間と感染経路: 潜伏期間は5〜7日。飛沫感染、接触感染(タオルの共用など)で広がります。
  • 【最重要】出席停止の基準: 「主要症状が消退した後二日を経過するまで」です1。熱が下がり、喉の痛みや目の充血が改善してから2日間は休む必要があります。
  • 予防法: 特効薬やワクチンはなく、手洗いやタオルの共用を避けることが予防の基本です。

百日咳

  • どんな病気?: 百日咳菌による呼吸器感染症で、特有のけいれん性の咳が長く続くのが特徴です。
  • 主な症状: 初めは風邪のような症状ですが、次第に咳が激しくなり、息継ぎができないほどの短い咳が連続する「スタッカート」や、咳の後に息を吸う際に笛のような音(ヒュー)がする「ウープ」が見られます。特に乳児では無呼吸発作を起こす危険があります。
  • 潜伏期間と感染経路: 潜伏期間は5〜10日。飛沫感染で広がります。
  • 【最重要】出席停止の基準: 「特有の咳が消失するまで、又は五日間の適正な抗菌性物質製剤による治療が終了するまで」と定められています1。マクロライド系の抗生物質による治療で、感染力をなくし、出席停止期間を短縮できることが現代の基準として重要です。
  • 予防法: 定期接種の5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)に含まれています。

その他の注意すべき感染症

このセクションで扱う疾患は、法律で一律の出席停止期間が定められていないため、保護者の判断が難しいものばかりです。しかし、医学界や保育の現場では、子どもの安全と集団生活の秩序を守るための一般的なコンセンサスが存在します。ここでの基本原則は、「子どもの全身状態が良好で、普段通りの生活が送れるか」という点と、「主治医の専門的な判断」です10

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(溶連菌感染症)

  • どんな病気?: 「溶連菌」という細菌による感染症で、主に喉に感染します。
  • 主な症状: 突然の発熱、強い喉の痛み、嘔吐、体や手足に見られる細かい赤い発疹、舌が赤くブツブツになる「いちご舌」が特徴です。
  • 合併症と注意点: 治療が不十分だと、心臓や腎臓、関節に影響を及ぼすリウマチ熱や急性糸球体腎炎といった深刻な合併症を引き起こす可能性があります14。処方された抗生物質は、症状が改善しても必ず最後まで飲み切ることが非常に重要です。
  • 登園・登校の目安: 医学的なコンセンサスとして、「適切な抗菌薬(抗生物質)による治療を開始してから24〜48時間が経過し、解熱して全身状態が良好であれば」登園・登校が可能とされています10

手足口病・ヘルパンギーナ

  • どんな病気?: いずれもエンテロウイルス属のウイルスによって引き起こされる夏風邪の一種です。
  • 主な症状:
    • 手足口病: その名の通り、手のひら、足の裏、口の中に水疱性の発疹が出ます。発熱は軽度か、ない場合もあります11
    • ヘルパンギーナ: 突然の高熱と、喉の奥にできる小さな水疱・潰瘍が特徴で、強い痛みを伴います15
  • 登園・登校の目安: これらの疾患には、法律による一律の出席停止期間はありません。症状が治まった後も、数週間から1ヶ月にわたり便からウイルスが排出され続けるため、流行阻止を目的とした長期の欠席は現実的ではありません16。したがって、登園・登校の判断は、本人の体調が回復しているかどうかが最も重視されます。具体的には、「発熱がなく、口の痛みがなくなり普段通りに食事が摂れ、本人が元気に過ごせる状態」であれば、発疹が残っていても登園・登校は可能というのが一般的な見解です1117

RSウイルス感染症

  • どんな病気?: RSウイルスによる呼吸器感染症で、特に乳幼児において重症化しやすいことで知られています。
  • 主な症状: 鼻水、咳といった風邪様の症状から始まり、次第に咳がひどくなり、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜんめい)を伴う呼吸困難(細気管支炎)や肺炎を引き起こすことがあります。
  • 登園・登校の目安: この疾患にも一律の基準はありません。判断の鍵は呼吸器症状の重症度です。「激しい咳や喘鳴がなく、呼吸が落ち着いており、全身状態が良好であれば」登園・登校は可能とされます13。ただし、特に生後6ヶ月未満の乳児や、心臓・肺に基礎疾患のある子ども、早産児は重症化リスクが高いため、医師による慎重な判断が必要です。

感染性胃腸炎(ノロウイルス、ロタウイルスなど)

  • どんな病気?: ウイルスや細菌が原因で起こる胃腸の病気で、冬に流行することが多いです。
  • 主な症状: 突然の嘔吐、下痢、腹痛、発熱が主な症状です。脱水症状に注意が必要です。
  • 登園・登校の目安: 文部科学省の解説では、「その他の感染症」の例として挙げられており、その基準は「嘔吐、下痢等の症状が治まり、普段の食事がとれること」とされています16。症状がなくなった後も、しばらくは便中にウイルスが排出されるため、登園・登校再開後も丁寧な手洗いを徹底することが重要です。
  • 予防法: ロタウイルスには定期接種のワクチンがあります。

究極の予防・ケアマニュアル

感染症から子どもを守るためには、日々の生活における予防策と、病気にかかった際の適切なケアが不可欠です。ここでは、科学的根拠に基づいた最も効果的な方法を解説します。

感染予防の三本柱

米国疾病予防管理センター(CDC)などの国際的な保健機関も推奨する、感染予防の基本は以下の3つです18

  1. 衛生管理 (Hygiene)
    • 正しい手洗い: 感染予防の基本中の基本であり、最も効果的な方法です19。石鹸と流水を用いて、指の間、爪、手首までを20秒以上かけて丁寧に洗うことが推奨されます。「外から帰った後」「食事の前」「トイレの後」「鼻をかんだ後」など、こまめな手洗いを習慣づけましょう。共有の布タオルは感染源になりうるため、ペーパータオルや個人用のタオルを使用するのが理想的です20
    • 咳エチケット: 咳やくしゃみをする際は、飛沫が周囲に飛び散るのを防ぐため、ティッシュやハンカチ、あるいは腕の内側(肘)で口と鼻をしっかりと覆いましょう。マスクの着用も有効です18
  2. 健康的な生活習慣 (Healthy Lifestyle)
    • 栄養・睡眠・運動: 免疫システムを正常に機能させるためには、バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動が不可欠です21。特定の食品が免疫力を劇的に高めるという科学的根拠はありませんが、日々の健康的な生活習慣が、感染症にかかりにくい、またかかっても重症化しにくい体を作ります。
  3. 環境整備 (Environmental Controls)
    • 清掃・消毒: ドアノブ、手すり、電気のスイッチ、おもちゃ、机など、多くの人が頻繁に触れる場所(高頻度接触面)は、ウイルスの温床になりやすいです。アルコールや次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒剤を用いて、定期的に清掃することが感染リスクを低減させます1
    • 換気: 室内にウイルスが滞留するのを防ぐため、定期的な換気は非常に重要です。特にインフルエンザや新型コロナウイルスのような呼吸器系ウイルスの対策として、1〜2時間に一度、数分間、対角線上にある2か所の窓を開けて空気の流れを作ることが効果的とされています18

最大の防御策:予防接種(ワクチン)

手洗いや換気といった一般的な予防策も重要ですが、個々の感染症に対する最も効果的で確実な防御策は、予防接種(ワクチン)です20。ワクチンは、麻しん、水痘、百日咳など、かつては多くの子どもの命を脅かした重篤な感染症から、私たちを守ってくれる現代医療の最大の成果の一つです。日本の予防接種法に基づいて行われる「定期接種」は、対象年齢になれば公費で受けることができます。お子さんの母子健康手帳を確認し、接種漏れがないか、かかりつけ医と相談しましょう。

表:学校で問題となる感染症に関連する日本の小児予防接種スケジュール

日本の厚生労働省が定めるスケジュールに基づき、この記事で解説した感染症に関連する主要なワクチンをまとめました22。任意接種も、子どもの健康を守る上で非常に重要です。

予防する疾患名 関連ワクチン 接種区分 標準的な接種時期
ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ 5種混合 (DPT-IPV-Hib) 定期 生後2か月から開始。追加接種あり。
麻しん風しん MRワクチン 定期 計2回接種(1期:1歳、2期:小学校入学前の1年間)
水痘(みずぼうそう) 水痘ワクチン 定期 計2回接種(1歳代に2回)
ロタウイルス胃腸炎 ロタウイルスワクチン 定期 生後2か月から開始(飲むタイプのワクチン)
肺炎球菌感染症 小児用肺炎球菌ワクチン 定期 生後2か月から開始。追加接種あり。
日本脳炎 日本脳炎ワクチン 定期 3歳から開始。追加接種あり。
インフルエンザ インフルエンザワクチン 任意 毎年1~2回接種(生後6か月から推奨)
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ) おたふくかぜワクチン 任意 2回接種を推奨(1歳、小学校入学前など)

よくある質問 (FAQ)

保護者の皆様から特によく寄せられる質問について、専門的な見地からお答えします。

Q: 兄弟が感染症にかかりました。元気な子は登園・登校できますか?
A: 原則として、症状が出ていない健康な兄弟姉妹は登園・登校することが可能です。ただし、インフルエンザや水痘のように家庭内での感染率が非常に高い病気の場合、潜伏期間中である可能性も考慮されます。そのため、兄弟が感染症にかかっている旨を事前に学校や園に伝え、登園・登校中も体調の変化に注意深く観察することが大切です10。自治体や園の方針によっては対応が異なる場合もあるため、確認しておくとより安心です。
Q: 登園・登校の再開に「治癒証明書」や「登園許可証」は必要ですか?
A: これは疾患の種類や、お住まいの自治体、そして通っている園・学校の方針によって大きく異なります。インフルエンザや新型コロナウイルス感染症では、多くの自治体で医師の証明書は不要とし、保護者が記入する「罹患報告書」や「経過報告書」で対応するようになっています。一方で、麻しんやおたふくかぜなど、一部の感染症では医師による「治癒証明書」や「登園許可証」が求められることがあります。混乱を避けるためにも、必ず事前に園・学校のルールを確認してください17
Q: とびひ(伝染性膿痂疹)や水いぼ(伝染性軟属腫)は休む必要がありますか?
A: 文部科学省の解説によれば、これらは通常、学校保健安全法に基づく出席停止の対象とはなりません1。したがって、基本的には学校を休む必要はありません。ただし、他の子どもへの感染を防ぐため、患部をガーゼや包帯、あるいは衣服で適切に覆い、直接的な接触を避ける配慮が求められます。特にプールの授業など、肌の露出が多い活動は、医師や学校の判断で制限される場合があります。
Q: 濃厚接触者の扱いはどうなっていますか?
A: 2023年5月に新型コロナウイルスが5類感染症へ移行したことに伴い、法律に基づく「濃厚接触者」の特定は原則として行われなくなりました。これに伴い、特定の感染者の接触者であるという理由だけで、症状のない人が一律に行動制限を求められることはありません23。これは他の多くの感染症でも同様です。ただし、家族が感染している場合は感染リスクが高い状況にあることに変わりはないため、手洗いの徹底や健康観察に努めることが推奨されます。

結論

お子さんが学校で感染症にかかることは、集団生活を送る上で避けがたい側面もあります。しかし、保護者の皆様が学校保健安全法という公的なルールを正しく理解し、各疾患の症状や適切な対応を知っておくことで、慌てずに最善の行動をとることができます。この記事で解説したように、出席停止はペナルティではなく、お子様の回復と集団の安全を守るための重要な制度です。日々の予防策を徹底し、いざという時には本稿の情報を参考に、かかりつけ医と連携しながら、自信を持って対応してください。JAPANESEHEALTH.ORGは、これからも日本の皆様の健康と安心のために、科学的根拠に基づいた信頼できる情報を提供し続けます。

免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康に関する懸念や、ご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

参考文献

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  16. もりのぶ小児科. 手足口病・ヘルパンギーナについて. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.nobu-kids.jp/topics/3498
  17. 学校保健ポータルサイト. I 最近流行した感染症、これから流行が懸念される感染症とその対応. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.gakkohoken.jp/special/archives/107
  18. エムズこどもクリニック瑞江. 【手足口病・ヘルパンギーナの登園基準と当院の許可証対応】. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.ms-kodomo.clinic/news/%E3%80%90%E6%89%8B%E8%B6%B3%E5%8F%A3%E7%97%85%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%91%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%83%BC%E3%83%8A%E3%81%AE%E7%99%BB%E5%9C%92%E8%A8%B1%E5%8F%AF%E8%A8%BC%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84
  19. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). Everyday Actions for Schools to Prevent and Control the Spread of Infections. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.cdc.gov/orr/school-preparedness/infection-prevention/actions.html
  20. 有明みんなクリニック 田町芝浦院. 子供の感染症予防とケア:お母さんのためのガイドライン. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://tamachi-shibaura.child-clinic.or.jp/%E5%AD%90%E4%BE%9B%E3%81%AE%E6%84%9F%E6%9F%93%E7%97%87%E4%BA%88%E9%98%B2%E3%81%A8%E3%82%B1%E3%82%A2%EF%BC%9A%E3%81%8A%E6%AF%8D%E3%81%95%E3%82%93%E3%81%AE%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AE%E3%82%AC%E3%82%A4/
  21. 茨城県教育委員会. 学校において 予防すべき感染症の解説. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/wp-content/uploads/2023/03/kansen.pdf
  22. 富士フイルム. 子どもが病気にならない5つの感染症対策. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://sp-jp.fujifilm.com/hydroag/column/007jokin_natsukansen.html
  23. 厚生労働省. 健康・医療 予防接種・ワクチン情報. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html
  24. 法政大学. 学校保健安全法に定める感染症への対応について. [インターネット]. [引用日: 2025年6月22日]. Available from: https://www.hosei.ac.jp/application/files/1617/1255/0517/58ver.6.pdf
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