イボ(疣贅)の完全ガイド:皮膚科専門医が教える原因、種類、最新治療法と保険適用【科学的根拠に基づく全知識】
皮膚科疾患

イボ(疣贅)の完全ガイド:皮膚科専門医が教える原因、種類、最新治療法と保険適用【科学的根拠に基づく全知識】

突然、皮膚に現れる「イボ」。多くの人が一度は経験する身近な皮膚トラブルですが、その正体や適切な対処法について、正確な情報を持っている方は少ないのではないでしょうか。「これは何だろう?」「うつるのかな?」「どうすれば治るの?」といった不安や疑問を感じながらも、放置してしまったり、自己流で対処しようとして悪化させてしまったりするケースも少なくありません。この記事は、そのような皆様の不安を解消し、信頼できる情報に基づいて最善の選択をするための一助となることを目指しています。JAPANESEHEALTH.ORG編集委員会は、日本皮膚科学会の公式ガイドライン1やコクラン・レビュー2といった最高レベルの科学的エビデンスに基づき、イボに関するあらゆる情報を網羅的かつ深く掘り下げて解説します。この記事を読めば、イボの根本的な原因から、多岐にわたる種類の見分け方、最新の治療法の比較検討、そして日本の医療保険制度における適用の可否まで、その全知識を体系的に理解できることをお約束します。

この記事で得られること:信頼できるイボ情報のすべて

  • イボの正体(ウイルス性 vs 非ウイルス性)と、魚の目・タコとの医学的な違いを明確に理解できます。1, 3
  • 尋常性疣贅、足底疣贅、老人性イボなど、様々な種類のイボを写真や特徴から見分ける具体的な方法を学べます。4
  • 液体窒素療法、サリチル酸外用、レーザー治療といった主要な治療法について、科学的根拠(エビデンス)、メリット・デメリット、そして日本における保険適用の有無を公平な視点で比較検討できます。1, 5, 2
  • イボの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)と、子宮頸がんなどを予防するHPVワクチンの重要性について、日本の現状を踏まえた最新の知識を得られます。6, 7
  • 日常生活におけるイボの感染予防策や、治療後の再発を防ぐための具体的なセルフケア方法がわかります。8

1. イボ(疣贅)とは?— 正しい医学的定義と一般的な誤解

多くの人が「イボ」と一括りにしてしまいがちですが、医学的にはその原因や性質によって厳密に分類されます。正確な知識を持つことが、適切な対応への第一歩です。

1.1. 「イボ」と医学用語「疣贅(ゆうぜい)」

一般的に「イボ」と呼ばれるものの多くは、医学的には「疣贅(ゆうぜい)」と診断されます。特に、皮膚にできる小さな隆起物のうち、ウイルス感染が原因で生じるものを指す場合が多いです。1 最も代表的な原因ウイルスは「ヒトパピローマウイルス(Human Papillomavirus: HPV)」であり、このウイルスには200種類以上の型が存在します。1 感染したHPVの型や感染部位によって、イボの見た目や性質は多種多様に変化します。

1.2. 魚の目・タコとの決定的な違い

イボ、特に足の裏にできる足底疣贅は、しばしば「魚の目(鶏眼)」や「タコ(胼胝)」と混同されます。しかし、その原因は全く異なります。3 魚の目やタコは、特定の部位への継続的な圧迫や摩擦といった物理的な刺激によって角質が厚くなることで生じます。一方、ウイルス性のイボはHPVの感染が原因です。3 見分けるポイントとして、イボの表面を削ると点状の出血が見られることがあります。これは、ウイルスによって異常に増殖した毛細血管の断面であり、魚の目やタコには見られない特徴です。4

1.3. 自己判断は危険?悪性の可能性について

ほとんどのイボは良性の皮膚腫瘍ですが、ごくまれに悪性の皮膚がん(特に有棘細胞癌など)がイボと似た見た目を呈することがあります。4 自己判断で「ただのイボだろう」と放置したり、市販薬で対処しようとしたりすることで、悪性腫瘍の発見が遅れるリスクもゼロではありません。特に、イボが急に大きくなる、色が変わる、出血しやすい、形が不規則であるといった場合は、決して自己判断せず、速やかに皮膚科専門医の診察を受けることが極めて重要です。

2. イボの根本原因:あなたのイボは「うつる」タイプ?

イボの原因は、大きく分けて「ウイルス性」と「非ウイルス性」の2つに大別されます。この違いを理解することは、他者への感染を防ぎ、適切な治療法を選択する上で非常に重要です。

2.1. ウイルスが原因の「ウイルス性疣贅」

いわゆる「うつるイボ」の正体は、このウイルス性疣贅です。そのほとんどはヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって引き起こされます。1

ヒトパピローマウイルス(HPV)とは

HPVは非常にありふれたウイルスで、皮膚や粘膜に感染します。前述の通り200以上の型が確認されており、感染する型によって尋常性疣贅(一般的なイボ)や尖圭コンジローマ(性感染症の一種)など、異なる種類の病変を引き起こします。1 また、一部のハイリスク型HPV(16型、18型など)は、子宮頸がんや中咽頭がんなどのがんの原因となることが知られています。9

主な感染経路:小さな傷からの侵入

HPVは、皮膚にできた目に見えないほどの小さな傷から侵入し、皮膚の一番下の層である基底細胞に感染します。3 ウイルスはそこで増殖し、数ヶ月から数年の潜伏期間を経て、皮膚を押し上げるようにしてイボを形成します。感染経路は、直接的な皮膚の接触のほか、ジムの床やプールの更衣室、温泉の足ふきマットなどを介した間接的な接触も考えられます。4 自身のイボを触った手で他の部位を掻くなどして、体内で感染が広がる「自家接種(Autoinoculation)」も一般的です。8

2.2. 加齢や紫外線が原因の「非ウイルス性」のイボ

一方、「うつらないイボ」も存在します。これらはウイルス感染とは無関係で、主に加齢や体質、紫外線などが要因となって発生します。

脂漏性角化症(老人性イボ)

中年以降の顔や頭部、体幹によく見られる、褐色から黒色の盛り上がったイボです。4 主な原因は加齢や長年の紫外線曝露と考えられており、ウイルス性ではないため他人に感染する心配はありません。美容的な観点から治療を希望する方が多いですが、医学的に必須の治療ではありません。3

軟性線維腫(首イボ・スキンタッグ)

首や脇の下、鼠径部など、皮膚が擦れやすい部分にできる、小さく柔らかい皮膚の突起物です。4 これらも加齢や摩擦、肥満などが関係していると考えられていますが、感染性はありません。3

3. 【種類別】イボ(疣贅)の完全見分け方ガイド

イボは種類によって見た目や好発部位、治療法が異なります。以下の表は、ご自身の症状を客観的に把握し、専門医に相談する際の参考としてご活用ください。ただし、最終的な診断は必ず皮膚科専門医による診察が必要です。

表1:イボの種類別 特徴・原因・見分け方一覧表
種類(和名・英名) 主な見た目の特徴 よくできる場所 主な原因(ウイルス型など) 感染性(うつるか?) 特記事項(痛み、がん化リスク等)
尋常性疣贅
(Verruca Vulgaris)
表面がザラザラした硬い丘疹。点状の黒い点(血栓化した毛細血管)が見えることがある。 手足、指、膝、顔などどこにでもできる。 HPV-2, 27, 57型など10 あり 通常は無症状だが、場所にっては圧迫痛を感じることがある。
足底疣贅
(Verruca Plantaris)
足裏にでき、体重で圧迫され平坦か、内側に食い込むように増殖。皮紋が途絶える。 足の裏、特に体重がかかる部位(踵、指の付け根) HPV-1, 4型など11 あり 歩行時に強い痛みを伴うことが多く、魚の目と間違われやすい。
青年性扁平疣贅
(Verruca Plana)
肌色〜淡褐色の平坦な隆起。数mm程度で、多発しやすい。 顔、手の甲、腕 HPV-3, 10型など あり 若い女性の顔によく見られる。自然治癒することも少なくない。
尖圭コンジローマ
(Condyloma Acuminatum)
カリフラワー状、ニワトリのトサカ状の柔らかい隆起。 外陰部、肛門周囲、膣、尿道口 主にHPV-6, 11型(低リスク型)12 あり(性感染症) 性行為で感染。再発しやすく、がん化リスクは低いが注意が必要。
脂漏性角化症
(Seborrheic Keratosis)
褐色〜黒色で、やや盛り上がり、表面はザラザラしている。大きさは様々。 顔、頭部、体幹 加齢、紫外線 なし 「老人性イボ」とも呼ばれる。美容的な問題が主で、がん化はしない。
軟性線維腫
(Soft Fibroma / Skin Tag)
1〜数mmの柔らかい皮膚の突起。肌色〜褐色。 首、脇の下、鼠径部など皮膚が擦れる部位 加齢、摩擦、肥満 なし 「首イボ」「アクロコルドン」とも呼ばれる。美容的な問題が主。
伝染性軟属腫(水いぼ)
(Molluscum Contagiosum)
光沢のあるドーム状の小さな丘疹。中央がやや凹んでいるのが特徴。 小児の体幹、四肢、顔 ポックスウイルス科の伝染性軟属腫ウイルス(MCV)3 あり HPVが原因ではない例外的なウイルス性イボ。アトピー性皮膚炎の子供に多い。

3.1. ウイルス性疣贅の詳細

ウイルス性疣贅は、その名の通りウイルス感染によるものであり、放置すると自身や他人に感染を広げる可能性があります。早期の適切な治療が推奨されます。

  • 尋常性疣贅 (Verruca Vulgaris): 最も一般的なタイプのイボで、子供の手足によく見られます。表面は硬く、ザラザラしています。1
  • 足底疣贅 (Verruca Plantaris): 足の裏にできるため、体重で圧迫されて平らになりますが、内部に深く食い込んでいるため、歩行時に強い痛みを伴うことがあります。1
  • 青年性扁平疣贅 (Verruca Plana): 主に顔や手の甲にできる、平らで小さなイボです。若い人に多く、一度に多数発生することがあります。1
  • 尖圭コンジローマ (Condyloma Acuminatum): 主に性行為によって感染する性感染症(STI)の一種です。外陰部や肛門周囲に特徴的なカリフラワー状の病変を形成します。13
  • 伝染性軟属腫(水いぼ) – HPVではない例外: これはHPVではなく、伝染性軟属腫ウイルス(MCV)によって引き起こされます。3 主に子供に見られ、光沢のある小さな丘疹が特徴です。プールなどで感染することがあります。

3.2. 非ウイルス性のイボの詳細

これらは感染の心配はありませんが、見た目が気になったり、悪性腫瘍との見分けがつきにくい場合があるため、専門医への相談が推奨されます。

  • 脂漏性角化症 (Seborrheic Keratosis): 「老人性イボ」とも呼ばれ、加齢とともに出てくるシミが盛り上がったようなものです。良性ですが、時に皮膚がんとの鑑別が必要になります。4
  • 軟性線維腫 (Soft Fibroma / Skin Tag): 首や脇の下にできる小さな皮膚の突起で、「首イボ」や「アクロコルドン」とも呼ばれます。こちらも良性です。4

4. 日本の疫学データ:イボはどれくらい一般的なのか?

イボは非常にありふれた疾患ですが、その実態はあまり知られていません。日本のデータを基に、その疫学的な側面を見ていきましょう。

  • 日本における有病率: 2021年の調査に基づく日本の尋常性疣贅の推定有病率は3.4%と報告されています。14 また、ある地域の皮膚科外来を受診した患者の4.5%がウイルス性疣贅と診断されたという報告もあります。15 これは決して稀な疾患ではないことを示しています。
  • 好発年齢と性別: 日本の地域調査では、ウイルス性疣贅の好発年齢は8歳にピークが見られ、若年層に多いことが示されています。15 性差はほとんどありません。
  • 日本と欧米で異なる原因ウイルス型: 興味深いことに、尋常性疣贅の原因となるHPVの主要な遺伝子型は、地域によって異なります。欧米ではHPV-2, 27, 57型が一般的ですが、2006年の日本の大規模な調査では、HPV-1, 4, 65型が優勢であることが示されました。11 このような知見は、将来的な治療法やワクチン開発において重要な意味を持つ可能性があります。

5. 皮膚科での診断プロセス:専門医はこうして見極める

正確な診断は、適切な治療への第一歩です。皮膚科専門医は、専門的な知識と機器を用いて、イボの種類を慎重に見極めます。

  • 視診とダーモスコピーによる観察: まず、医師は病変の形、色、大きさ、場所などを詳細に観察します(視診)。さらに「ダーモスコピー」と呼ばれる特殊な拡大鏡を用いることで、皮膚の表面構造や血管のパターンをより詳しく調べることができます。1 ウイルス性イボに特徴的な点状の黒い点(血栓化した毛細血管)は、ダーモスコピーで明瞭に観察できます。10
  • 確定診断のための病理組織検査: 診断が困難な場合や、悪性の可能性が否定できない場合には、病変の一部を切り取って顕微鏡で調べる「病理組織検査(生検)」が行われます。10 これにより、確定診断が可能となります。

6. イボ治療の最前線:科学的エビデンスに基づく選択肢のすべて

イボの治療には様々な選択肢がありますが、残念ながらHPVに対する特異的な抗ウイルス薬は存在しません。1 治療の基本方針は、ウイルスに感染した細胞を物理的または化学的に破壊するか、あるいは患者自身の免疫反応を賦活化してウイルスを排除することです。ここでは、日本皮膚科学会のガイドラインと国際的な科学的エビデンスに基づき、主要な治療法を客観的に比較します。

表2:イボ治療法の包括的比較表
治療法(和名・英名) JDAガイドライン推奨度1 国際的エビデンスの概要 保険適用4 作用機序 長所(メリット) 短所・副作用
液体窒素凍結療法
(Cryotherapy)
A(強く推奨) 有効だが、エビデンスは限定的。サリチル酸に対する優位性は示されていない。2 あり -196℃の液体窒素で感染細胞を凍結・壊死させる。 手技が簡便で、多くの医療機関で実施可能。日本の標準治療。 強い痛みを伴う。水疱、血豆、色素沈着、瘢痕のリスク。
サリチル酸外用
(Topical Salicylic Acid)
A(強く推奨) 非常に高いエビデンス。プラセボに対し有意に高い治癒率(75% vs 48%)を示す。5 あり(処方の場合) 角質溶解作用により、感染した角質を徐々に剥がし取る。 自宅で治療可能。痛みがほとんどない。 毎日継続する必要がある。治癒までに時間がかかる。周囲の皮膚への刺激。
ヨクイニン内服療法
(Oral Coix Seed Extract)
B(行うことを考慮) エビデンスは不十分。 あり 免疫賦活作用などが考えられるが、詳細なメカニズムは不明。 副作用が少ない。子供や痛みに弱い人に適する。 効果発現が遅く、効果がない場合もある。
レーザー治療
(Laser Therapy)
B(行うことを考慮) 難治例に有効な場合があるが、大規模な比較試験は少ない。 原則自費 炭酸ガスレーザー等で組織を蒸散・焼灼する。 1回の治療で除去できる可能性がある。治癒が早い場合がある。 費用が高い。瘢痕や色素沈着のリスク。痛みを伴う。
接触免疫療法
(Contact Immunotherapy)
B(行うことを考慮) 多発性や難治性のイボに有効とされるが、エビデンスレベルは中程度。 自費 SADBEなどの化学物質で人工的にかぶれさせ、免疫反応を誘導してウイルスを攻撃させる。 痛みを伴わない。多発例に有効。 治療できる施設が限られる。かゆみ、湿疹、色素沈着のリスク。
その他(ブレオマイシン局注など) C1など ビタミンD3外用薬やブレオマイシン局所注射など、様々な治療法が試みられている。16 自費 様々(細胞増殖抑制、免疫調節など) 難治例に対する選択肢となる。 エビデンスが確立していないものが多く、副作用のリスクも考慮が必要。

6.1. JDA推奨度A:日本の標準治療

日本皮膚科学会のガイドラインで最も強く推奨されている治療法です。

  • 液体窒素凍結療法 (Cryotherapy): 日本の臨床現場で最も一般的に行われている治療です。1 手技が簡便で保険適用である点が普及の大きな理由と考えられます。しかし、強い痛みを伴うこと、そして2012年のコクラン・レビューでは、その有効性のエビデンスは限定的で、サリチル酸に対する明確な優位性は示されなかったことも知っておくべきです。2
  • サリチル酸外用療法 (Topical Salicylic Acid): 国際的には最もエビデンスレベルが高い治療法の一つです。2002年のBMJに掲載されたシステマティック・レビューでは、サリチル酸の高い治癒率(75%)が報告されています。5 自宅で痛みを伴わずに治療できる大きな利点がありますが、毎日根気よく続ける必要があります。

6.2. JDA推奨度B:有効性が期待される治療

有効性を示す報告があるものの、推奨度Aの治療法ほどエビデンスが強固ではない選択肢です。

  • ヨクイニン内服療法 (Oral Coix Seed Extract): ハトムギの種子から作られる生薬で、古くからイボの治療に用いられてきました。1 免疫力を高める効果などが期待されますが、科学的根拠は十分とは言えません。副作用が少ないため、子供や痛みに弱い人に試されることがあります。
  • レーザー治療 (Laser Therapy): 炭酸ガスレーザーなどでイボを焼灼・蒸散させる治療法です。1 難治性のイボに有効な場合がありますが、保険適用外で高額になることが多く、瘢痕のリスクも伴います。
  • 接触免疫療法 (Contact Immunotherapy): SADBEなどの化学物質を塗布して意図的にかぶれ(接触皮膚炎)を起こし、その免疫反応を利用してイボを排除する治療法です。1 痛みがなく、多発性のイボに有効ですが、実施できる施設が限られています。

6.3. その他の治療選択肢

上記以外にも、活性型ビタミンD3外用薬、抗がん剤であるブレオマイシンの局所注射、MMRワクチンやビタミンD3の局注など、様々な治療法が研究・試行されています。16 これらは主に難治例に対する選択肢となりますが、多くは保険適用外であり、有効性や安全性に関するエビデンスもまだ確立されていないのが現状です。

7. 日本の読者必見:イボ治療と公的医療保険(保険適用)

治療法を選択する上で、費用は重要な要素です。日本の公的医療保険がどこまでカバーするのかを正確に理解しておきましょう。

  • 保険適用になるケースと治療法: ウイルス性疣贅(尋常性疣贅、足底疣贅など)と診断された場合、その治療は原則として保険適用となります。4 具体的には、液体窒素凍結療法、サリチル酸外用薬(処方)、ヨクイニン内服薬などが保険診療の範囲内で行われます。3
  • 自費診療になるケースと費用の目安: 加齢による脂漏性角化症や軟性線維腫(首イボ)など、美容的な目的での除去は原則として自費診療です。4 また、ウイルス性イボの治療であっても、レーザー治療や接触免疫療法、その他エビデンスが確立していない特殊な治療は自費診療となるのが一般的です。費用は医療機関や治療範囲によって大きく異なりますが、数万円以上になることもあります。
  • 医療機関で確認すべきこと: 治療を始める前に、 proposed治療法が保険適用か自費診療か、自費の場合は総額でどのくらいの費用がかかるのかを、必ず医療機関に直接確認することが大切です。

8. 特別な注意:HPV、性感染症、がんのリスクと予防

一部のイボは、単なる皮膚トラブルにとどまらず、性感染症やがんのリスクといった、より深刻な健康問題と関連しています。

8.1. 尖圭コンジローマと性感染症(STI)としての側面

外陰部や肛門周囲にできる尖圭コンジローマは、主にHPV-6型および11型によって引き起こされる性感染症(STI)です。12 国際的なガイドラインでも、診断・治療には専門的なアプローチが推奨されています。13 2023年の厚生労働省の報告によると、日本国内でも依然として発生が見られます。17 パートナーへの感染を防ぐためにも、早期の診断と治療、そして完治するまでの性交渉を控えることが重要です。

8.2. HPVとがんのリスク:正しい知識

HPVの中には、持続的に感染することでがんを引き起こす「ハイリスク型」が存在します。代表的なのがHPV-16型と18型で、これらは子宮頸がんの主な原因です。9 ICO/IARCの2023年の報告によると、日本では毎年多くの方が子宮頸がんに罹患し、命を落としています。9 また、中咽頭がん、肛門がん、陰茎がんなどもHPVとの関連が指摘されています。

8.3. 日本におけるHPVワクチン:知っておくべき事実

これらのHPV関連がんの多くは、ワクチンで予防することが可能です。

  • ワクチンで予防できるイボとがん: 日本で現在使用されているHPVワクチン(サーバリックス、ガーダシル、シルガード9)は、子宮頸がんの原因となるハイリスク型HPVの感染を高い確率で予防します。18 特にガーダシルとシルガード9は、尖圭コンジローマの原因となるHPV-6型と11型の感染も予防できます。18
  • 日本の接種率の経緯と現状(積極的勧奨の中止から再開まで): 日本のHPVワクチン接種率は、2013年に副反応に関する報道が過熱し、国が積極的な接種勧奨を中止したことで、70%以上から1%未満へと激減しました。7 その後、ワクチンの安全性と有効性に関する科学的エビデンスが改めて示され、2022年4月から積極的勧奨が再開されましたが6、接種率は依然として低い水準にあります。この「ワクチン・ギャップ」が将来の日本の公衆衛生に与える影響が懸念されています。

9. イボの予防とセルフケア:感染拡大を防ぐために

ウイルス性イボの感染拡大を防ぐためには、日々のセルフケアが重要です。

  • 自己接種(Autoinoculation)の防止: イボをいじったり、掻きむしったりすると、ウイルスが周囲の皮膚に広がり、新しいイボができてしまう「自己接種」を引き起こします。8 イボは絶対に触らない、いじらないことを徹底しましょう。カミソリでの自己処理も、皮膚に微細な傷を作り感染を広げるため危険です。
  • 日常生活でできる具体的な予防策:
    • 皮膚を清潔に保ち、保湿を心がけて、皮膚のバリア機能を維持する。
    • プールや公衆浴場、ジムなど、裸足になる場所では自分専用のサンダルを使用する。
    • タオルや足ふきマットの共用を避ける。
    • 家族にイボがある人がいる場合は、特に注意する。
    • 小さな傷でも放置せず、清潔に保つ。

10. よくある質問(FAQ)

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Q1: 治療は1回で終わりますか? 痛いですか?
いいえ、多くの場合、イボ治療は1回では終わりません。4 特に液体窒素凍結療法やサリチル酸外用療法は、1〜2週間に1回の通院を数ヶ月間続ける必要があります。4 治療期間はイボの大きさ、場所、深さによって大きく異なります。痛みに関しては、液体窒素凍結療法は施術中および施術後に強い痛みを伴うことが一般的です。4 一方、サリチル酸外用やヨクイニン内服はほとんど痛みがありません。治療法の選択にあたっては、痛みの程度も医師と相談することが重要です。
Q2: 治療すれば、もう再発しませんか?
残念ながら、治療しても再発する可能性はあります。4 治療は目に見えるイボを取り除くものですが、周囲の皮膚に潜伏しているウイルスを完全に取り除くことは困難な場合があるためです。再発を防ぐためには、根気よく治療を続けること、そして前述のセルフケアを実践して自己接種を防ぐことが大切です。8
Q3: 治療の跡は残りませんか?
治療法によっては跡が残る可能性があります。4 液体窒素凍結療法では、治療後に色素沈着(シミのような跡)や色素脱失(色が白く抜ける)、稀に軽い瘢痕(きずあと)が残ることがあります。レーザー治療も瘢痕のリスクを伴います。1 治療跡が心配な場合は、事前に医師とそのリスクについて十分に話し合うことが推奨されます。
Q4: イボは、がんに変わることがありますか?
尋常性疣贅や脂漏性角化症といった一般的なイボが、がん化することは通常ありません。4 しかし、前述の通り、一部の皮膚がんがイボと似た見た目をすることがあります。また、尖圭コンジローマの原因となる低リスク型HPVは通常がん化しませんが、ハイリスク型HPVに同時感染している場合は、子宮頸がんや肛門がんなどのリスクとなり得ます。9 いずれにせよ、診断は専門医に委ねるべきであり、自己判断は禁物です。

11. 結論

イボ(疣贅)は、ウイルス感染から加齢まで、多様な原因によって生じる極めて一般的な皮膚疾患です。その多くは良性ですが、中には感染性を持つものや、痛みなどの症状を伴うもの、さらには性感染症やがんのリスクと関連するものも存在します。本記事で詳述したように、治療法には液体窒素凍結療法やサリチル酸外用、レーザー治療など様々な選択肢があり、それぞれに科学的根拠、メリット・デメリット、そして日本における保険適用の状況が異なります。最も重要なことは、自己判断で放置したり、不適切な処置をしたりせず、皮膚の異常に気づいた際には速やかに皮膚科専門医に相談することです。専門医による正確な診断のもと、ご自身のライフスタイルや価値観に合った最適な治療法を選択することが、安全かつ効果的な治癒への最短の道です。この包括的なガイドが、皆様のイボに関する不安を解消し、より良い健康への一歩を踏み出すための信頼できる羅針盤となることを心より願っています。

免責事項
この記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。健康上の問題や症状がある場合は、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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  18. ResearchGate. (PDF) The effects of human papillomavirus vaccination in Japan [インターネット]. [引用日: 2025年6月17日]. 以下より入手可能: https://www.researchgate.net/publication/390697490_The_effects_of_human_papillomavirus_vaccination_in_Japan
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