頭皮の乾癬:原因、症状から日本の最新治療、日常ケアまで専門家が徹底解説
皮膚科疾患

頭皮の乾癬:原因、症状から日本の最新治療、日常ケアまで専門家が徹底解説

頭皮の乾癬(かんせん)は、フケのような見た目から誤解されがちですが、実際は免疫系が関わる慢性の皮膚疾患です。この病気は、見た目への影響や不快な症状から、多くの患者さんの自信や日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。しかし、適切な知識と治療、そして日々の丁寧なケアによって、症状を良好にコントロールすることは十分に可能です。この記事では、JAPANESEHEALTH.ORG編集部が、日本の皮膚科専門医の監修のもと、頭皮の乾癬に関する包括的で信頼性の高い情報をお届けします。原因や症状の正しい理解から、日本国内で受けられる最新の治療選択肢、そしてご自身でできる悪化予防策まで、E-E-A-T(専門性・権威性・信頼性)の基準を厳守し、患者さんのあらゆる疑問や不安に寄り添いながら、詳細に解説していきます。

要点まとめ

  • 頭皮の乾癬とは: 他人にうつらない慢性の炎症性皮膚疾患で、赤い発疹(紅斑)と銀白色の鱗屑(りんせつ)が特徴です。日本の乾癬患者の約66%が頭皮に症状を持つと報告されています1
  • 原因と悪化要因: 遺伝的素因と免疫系の異常が根本にあり、ストレス、不規則な生活、感染症、皮膚への物理的刺激(掻くことなど)が症状を誘発または悪化させます23
  • 日本の治療選択肢: 治療は外用薬(ステロイド、ビタミンD3誘導体)、光線療法、内服薬、そして効果の高い生物学的製剤(注射薬)まで多岐にわたります。治療法の選択は、症状の重症度や患者さんのライフスタイルに応じて個別化されます4
  • 日常ケアの重要性: 症状をコントロールし悪化を防ぐためには、正しいシャンプー方法、頭皮の保湿、刺激を避けること、そしてバランスの取れた生活習慣が不可欠です。特に「掻かない」ことは、悪循環を断つために極めて重要です35
  • 専門医への相談: 頭皮の乾癬が疑われる場合や、現在の治療で満足のいく効果が得られない場合は、自己判断せず皮膚科専門医に相談することが正しい治療への第一歩です。

1. 頭皮の乾癬を正しく理解する

頭皮の乾癬を克服するための第一歩は、その正体を知ることから始まります。どのような症状があり、何が原因で、他の頭皮トラブルとどう違うのかを正確に理解することが、適切な対処へと繋がります。

主な症状と見た目の特徴

頭皮の乾癬は、単なるフケ症とは一線を画す、特徴的な症状を示します。主な症状には、境界が比較的はっきりとした赤い発疹(紅斑 – こうはん)があり、その上を厚い銀白色のフケのような鱗屑(りんせつ)が覆っている状態が挙げられます26。この鱗屑はポロポロと剥がれ落ち、まるで大量のフケのように見えることがあります。多くの場合、強いかゆみを伴い、時には痛みや灼熱感を感じることもあります2。病変は生え際に沿って現れることが多いですが2、頭皮全体に広がり、額、首、耳の後ろにまで及ぶこともあります。かきむしることで出血したり、一時的に髪が抜けたりすることがありますが、乾癬自体が永続的な脱毛を引き起こすことは稀です。ただし、長期間にわたって激しく掻き続け、頭皮に瘢痕が残る場合はこの限りではありません7

乾癬の種類と頭皮への影響

乾癬にはいくつかの種類(病型)がありますが、頭皮に最も一般的に見られるのは「尋常性乾癬(じんじょうせいかんせん)」です。これは日本における乾癬の全症例の約90%を占める最もありふれたタイプです2。この記事で解説する症状や治療法は、主にこの尋常性乾癬を対象としています。その他、膿疱性乾癬や乾癬性紅皮症といった特殊な病型もありますが、これらが頭皮だけに限定して発症することは少なく、全身症状の一部として現れることがほとんどです2

原因と悪化させる要因

なぜ頭皮の乾癬が発症するのか、その根本原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています2

根本原因

  • 遺伝的素因: 乾癬になりやすい体質は遺伝することが分かっています2。しかし、これは決して運命的なものではありません。例えば、親が乾癬であっても、その子供が発症する確率は約5%に過ぎないというデータもあります3。遺伝はあくまで一つの要因であり、それだけで発症が決まるわけではないことを理解し、過度に心配する必要はありません。
  • 自己免疫反応: 本来、体を守るはずの免疫システムに異常が生じ、健康な皮膚細胞を誤って攻撃してしまうことが、乾癬の根本的なメカニズムと考えられています。この攻撃により皮膚細胞のターンオーバーが異常に速まり、未熟な細胞が次々と積み重なって、特徴的な厚い鱗屑を形成します8

誘因・悪化要因

もともと乾癬の素因を持っている人に、以下のような様々な要因が加わることで、発症したり症状が悪化したりします2

  • 生活習慣: 肥満、不規則な食生活、喫煙、過度の飲酒などが挙げられます2
  • ストレス: 精神的なストレスは、免疫バランスを乱し、症状を悪化させる代表的な要因です2
  • 感染症: 特に溶連菌による扁桃腺炎などが、乾癬の引き金になることがあります2
  • 皮膚への刺激(ケブネル現象): 頭皮を強く掻いたり、硬いブラシでゴシゴシこすったりすると、その物理的な刺激を受けた部位に新たな発疹が出現することがあります。これは「ケブネル現象」と呼ばれ3、なぜ頭皮を優しく扱うべきかを説明する重要なメカニズムです。掻くという行為が直接的に病状を悪化させることを知ることは、かゆみの悪循環を断ち切る上で非常に大切です9
  • 特定の薬剤: 一部の薬が症状に影響を与えることがあります2
  • その他: ホルモンバランスの変化(妊娠・出産など)、乾燥する季節(特に冬)、そして頭皮特有の刺激(洗浄力の強いシャンプー、ドライヤーの熱、ヘアカラー剤など)も悪化要因となり得ます23

2. 日本における頭皮の乾癬の診断

頭皮の乾癬の症状は、他のありふれた頭皮トラブルと似ているため、自己判断は禁物です。正確な診断を下し、一人ひとりに合った最適な治療計画を立てるためには、皮膚科専門医による診察が不可欠です5

皮膚科専門医による診断の重要性

頭皮の赤みやかゆみ、フケなどの症状が現れた際、「たかがフケ症だろう」と市販のシャンプーで対処しようと考える方は少なくありません。しかし、もしその原因が乾癬であった場合、一般的なフケ対策では根本的な改善は期待できません。むしろ、不適切なケアによって症状を悪化させてしまう可能性もあります。皮膚科専門医は、専門的な知識と経験に基づき、乾癬と他の疾患とを正確に見分け、科学的根拠に基づいた治療法を提案してくれます。

診断方法

皮膚科では、主に以下の方法を組み合わせて診断を行います。

  • 視診・問診: 医師が直接、頭皮の状態を観察します。発疹の色や形、鱗屑の状態、病変の分布などを詳しく見ることで、乾癬に特徴的な所見(臨床像)があるかを確認します10。併せて、家族に乾癬の人がいるか(家族歴)、いつからどのような症状があるか、悪化させる要因に心当たりはあるかといった問診も重要な診断材料となります11
  • ダーモスコピー: ダーモスコープという特殊な拡大鏡を用いて皮膚の表面を観察する検査です。血管のパターンなど、肉眼では見えない詳細な構造を調べることで、診断の精度を高めることができます12
  • 皮膚生検: 非常に稀なケースですが、視診だけでは診断が確定できない場合や、他の重篤な病気を除外する必要がある場合に行われることがあります10。局所麻酔の後、病変部のごく小さな皮膚組織を採取し、顕微鏡で病理組織学的に調べる確定診断法です。

鑑別診断:頭皮の乾癬と間違いやすい他の頭皮トラブル

頭皮の乾癬と症状が似ているため、見分ける必要がある代表的な疾患がいくつかあります。特に「脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)」は最も鑑別が重要です13

多くの患者さんが当初、頭皮の乾癬を重度のフケ症と誤認しています14。脂漏性皮膚炎は黄色っぽく、ベタついた脂っぽい鱗屑が特徴ですが、乾癬の鱗屑はより乾燥しており、銀白色で、病変部の赤み(紅斑)の境界がより明瞭であるという違いがあります15。この二つの一般的な状態を明確に区別することは、患者さんが適切な医療を求める上で極めて重要です。

表1: 頭皮の乾癬と間違いやすい他の頭皮トラブル(注:本表は情報提供を目的としており、専門的な医学的診断に代わるものではありません)
疾患名 主な症状・特徴 乾癬との主な違い
頭皮の乾癬 境界明瞭な赤い発疹(紅斑)。厚く、乾燥した銀白色の鱗屑。強いかゆみ。生え際、額、耳の後ろにも見られる。 鱗屑が厚く、銀白色で乾燥している。病変の境界がはっきりしている。ケブネル現象が見られることがある。
脂漏性皮膚炎 赤みのある発疹。黄色みを帯びた、湿り気のあるベタベタした鱗屑。皮脂の多い頭皮、顔、胸などに好発。 鱗屑が脂っぽく、より黄色い。病変の境界が乾癬ほど明瞭ではない。乾癬のような厚い鱗屑は稀。
アトピー性皮膚炎 乾燥した皮膚、強いかゆみ、赤み。掻きこわすとじくじくしたり、小さなブツブツができたりする。アレルギー素因を持つ人に多い。 激しいかゆみが主症状。皮膚は全体的に乾燥し、慢性的に掻くことで苔癬化(皮膚が厚く硬くなる)が見られることがある。乾癬のような典型的な鱗屑はない。
頭部白癬(しらくも) 円形の脱毛斑、鱗屑、毛穴に黒い点々(毛が根元で折れるため)が見られる。かゆみを伴う。子供に多い。 円形に脱毛することが特徴的。確定診断には真菌検査が必要。鱗屑の性状が異なる。

3. 日本の医療機関で行われる頭皮の乾癬治療

現在の医学では乾癬を完治させる方法はまだ見つかっていませんが、症状をコントロールし、快適な日常生活を送るための効果的な治療法が数多く開発されています316。治療の原則は、個々の患者さんの症状の重症度、病変の範囲、ライフスタイル、そして治療に対する希望を考慮して、最適な方法を組み合わせる「個別化医療」です5。医師と患者さんが治療目標(例:かゆみをなくしたい、フケをなくしたい、半袖が着られるようになりたい16)を共有し、二人三脚で治療を進めることが非常に重要です。

A. 外用療法(塗り薬・シャンプー)

外用療法は、頭皮の乾癬治療の基本となります。しかし、髪の毛が邪魔をして薬剤が直接皮膚に届きにくいという難点があります2。そのため、ローション、フォーム(泡)、ゲル、シャンプーといった、髪の間を通り抜けて頭皮に浸透しやすい剤形が主に用いられます3。治療効果を最大限に引き出すためには、髪をかき分けて薬剤を直接頭皮に塗布するなど、正しい使い方を医師から指導してもらうことが大切です。

  • ステロイド外用薬: 炎症やかゆみを強力に抑え、皮膚細胞の異常な増殖を抑制します2。非常に強いものからマイルドなものまで様々な強さのランクがあり、症状に応じて医師が選択します17。クプロピオン酸クロベタゾール配合のシャンプー剤なども利用可能です35
  • 活性型ビタミンD3外用薬: カルシポトリオール、マキサカルシトールなどがあり、皮膚細胞の増殖を抑制し、正常な分化を促す作用があります217
  • 配合薬: ステロイドとビタミンD3を組み合わせた薬剤で、両者の利点を併せ持ち、高い治療効果と副作用軽減が期待できます5
  • その他の外用薬:
    • サリチル酸: 厚い鱗屑を溶かして柔らかくする作用(角質融解作用)があり、他の薬剤の浸透を助けます5
    • コールタール製剤: 炎症、かゆみ、鱗屑を抑える効果があります5。日本では処方薬としての使用は稀ですが、その効果を求める声もあり、一部の患者さんは輸入されたシャンプーなどを利用しているようです18
    • タザロテン: レチノイド(ビタミンA誘導体)の一種で、細胞の増殖を調整します5
    • カルシニューリン阻害薬: タクロリムスなどがあり、主に顔など皮膚の薄い部位に使用されますが、頭皮にも選択肢となり得ます17

頭皮への正しい塗り方のコツ

  • 髪の毛ではなく、頭皮に直接薬剤を塗ることを意識しましょう。髪をしっかりかき分けて、地肌に薬を届かせるのがポイントです19
  • 指の腹で優しくすり込むように塗布し、マッサージします。
  • 塗布後は、手をきれいに洗いましょう5
表2: 日本における頭皮の乾癬治療に用いられる主な外用薬
種類 一般名(主な商品名) 作用 頭皮用剤形 主な特徴・注意点
ステロイド外用薬 例:クロベタゾールプロピオン酸エステル (デルモベート)、ベタメタゾン吉草酸エステル (アンテベート)、モメタゾンフランカルボン酸エステル (フルメタ) 炎症・かゆみを抑え、細胞増殖を抑制する ローション、フォーム、ゲル、シャンプー 様々な強さがある。副作用(皮膚萎縮など)を避けるため医師の指示通り使用する。
活性型ビタミンD3外用薬 カルシポトリオール (ドボネックス)、マキサカルシトール (オキサロール)、タカルシトール (ボンアルファ) 細胞増殖を抑制し、正常な分化を促す ローション、軟膏、クリーム 使い始めに刺激感が出ることがある。推奨された量を超えて使用しない。
配合薬 (ステロイド + VitD3) カルシポトリオール/ベタメタゾンジプロピオン酸エステル (ドボベット、コムクロシャンプー) 両成分の作用を併せ持ち、効果を高め、刺激を軽減する ゲル、軟膏、フォーム 利便性が高く効果的。治療期間を守ることが重要。
サリチル酸 (主に配合剤やシャンプーの成分として) 厚い鱗屑を柔らかくし、剥がれやすくする(角質融解) シャンプー、軟膏 他の薬剤の浸透を助ける。高濃度では刺激の可能性あり。

B. 光線療法(紫外線治療)

光線療法は、外用薬だけでは十分な効果が得られない場合や、病変が広範囲にわたる場合に選択されます2。特殊な紫外線を患部に照射することで、皮膚での過剰な免疫反応を抑え、細胞増殖を正常化させます2

  • ナローバンドUVB療法: 現在、最も広く用いられている安全で効果的な紫外線療法です2
  • エキシマレーザー/ターゲット型光線療法: 患部にのみ集中的に紫外線を照射できるため、正常な皮膚への影響を最小限に抑えることができます20。頭皮のように範囲が限られた病変に特に有効で、櫛(くし)のような形をした照射装置を用いることもあります5
  • PUVA療法: 光感受性を高める薬を内服または外用した後にUVAを照射する方法ですが、近年はナローバンドUVBが主流となっています16

治療は通常、週に1〜3回程度の通院が必要です2。副作用として日焼けのような赤みやヒリヒリ感が出ることがあります5

C. 内服療法(飲み薬)

中等症から重症の乾癬で、外用薬や光線療法で効果が不十分な場合に用いられます2

  • レチノイド(アシトレチン): ビタミンA誘導体で、皮膚細胞の増殖と分化を正常化させます。催奇形性があるため、妊娠を計画している女性には使用できません2
  • 免疫抑制薬(シクロスポリン、メトトレキサート): 過剰に働く免疫系を抑制します221。高い効果が期待できますが、腎機能や血圧などへの影響を定期的にチェックする必要があります。
  • PDE4阻害薬(アプレミラスト): 免疫細胞内の情報伝達を調整することで炎症を抑える、比較的新しいタイプの飲み薬です。一般的に副作用が少ないとされています2

D. 注射療法(生物学的製剤)

生物学的製剤は、乾癬の病態に深く関わる特定のサイトカイン(免疫系の情報伝達物質)であるTNF-α、IL-17、IL-23などをピンポイントでブロックする最先端の治療薬です2。中等症から重症の患者さんで、既存の治療法で効果が不十分な場合や、副作用で使用できない場合に適応となります222
この治療を開始するには、日本皮膚科学会が承認した医療施設である必要がありますが16、近年では連携(病診連携)により、維持期にはかかりつけのクリニックで治療を継続することも可能になるなど、患者さんの利便性を高める動きが進んでいます2324。実際に日本人の患者さんを対象とした研究では、例えばIL-17A阻害薬であるイキセキズマブにおいて、52週後には患者の約7割で症状が90%以上改善(PASI 90)するなど、非常に高い有効性が示されています25。自己注射が可能な薬剤も多く、通院負担を軽減できるというメリットもあります。

表3: 日本の乾癬治療で用いられる主な生物学的製剤の標的と特徴
標的分子 一般名(主な商品名) 投与方法 主な特徴
TNF-α インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ) 点滴または皮下注射 皮膚と関節の両症状に有効。結核のスクリーニングが必要。
IL-17A セクキヌマブ(コセンティクス)、イキセキズマブ(トルツ) 皮下注射 効果発現が速く、皮膚症状に高い効果。カンジダ感染症のリスクがややある。
IL-17受容体 ブロダルマブ(ルミセフ) 皮下注射 難治例にも高い効果。まれに自殺念慮のリスクが報告されているため注意が必要。
IL-23 グセルクマブ(トレムフィア)、リサンキズマブ(スキリージ) 皮下注射 効果の持続期間が長く、投与間隔が8〜12週と長い。
IL-12/23 ウステキヌマブ(ステラーラ) 皮下注射 皮膚と関節の両症状に有効。投与間隔が長い。
IL-17A/F ビメキズマブ(ビンゼレックス) 皮下注射 IL-17AとFを両方阻害し、非常に高い効果を示す。カンジダ感染症のリスクがややある。

E. 市販薬(OTC)について知っておくべきこと

現時点(2025年6月)で、日本国内において乾癬の治療薬として承認されている市販薬(OTC医薬品)は存在しません2627。保湿クリームや一部のフケ用シャンプーは、乾燥や軽い鱗屑を和らげるのに役立つかもしれませんが、乾癬の根本的な炎症を治療するものではありません。もし乾癬が疑われる場合は、自己判断で市販薬に頼るのではなく、必ず皮膚科を受診し、正しい診断と処方を受けることが重要です。

4. 日常生活でできる頭皮ケアと悪化予防

医療機関での治療と並行して、日々のセルフケアを丁寧に行うことが、症状を安定させ、悪化を防ぐために非常に重要です。ここでは、頭皮への刺激を最小限に抑えるための具体的な方法をご紹介します。

正しいシャンプー方法と頭皮への刺激を避けるコツ

毎日のシャンプーは、頭皮を清潔に保つために必要ですが、やり方を間違えると症状を悪化させる引き金にもなります。

  • シャンプーの選び方: 処方された薬用シャンプーがある場合は、医師の指示に従います。それ以外の日は、低刺激性でマイルドな洗浄力のシャンプーを選びましょう。
  • 洗い方:
    1. ぬるま湯(熱すぎるお湯は避ける)で頭皮と髪を十分に予洗いします。
    2. シャンプーを手のひらでよく泡立て、爪を立てずに指の腹で優しくマッサージするように頭皮を洗います35。鱗屑を無理に剥がそうとゴシゴシこするのは絶対にやめましょう。
    3. すすぎ残しがないよう、丁寧に洗い流します。薬用シャンプーの場合は、指定された時間(通常は数分間)泡を置くことで効果が高まることがあります18
  • 乾かし方: 洗髪後は、柔らかいタオルで優しく押さえるように水分を拭き取ります。ドライヤーは冷風モードを使うか、頭皮から離して短時間で使用し、乾かしすぎないように注意しましょう。

かゆみの悪循環を断ち切る: かゆみは乾癬の最も辛い症状の一つです2。しかし、掻くことでケブネル現象が起こり、症状が悪化し、さらにかゆみが増すという悪循環に陥ります39。この連鎖を断ち切ることが治療の鍵です。「掻かないように」と我慢するだけでなく、かゆみをコントロールするための適切な外用薬を処方してもらうなど、積極的に医師に相談しましょう。

生活習慣の改善

バランスの取れたライフスタイルは、体の免疫機能を正常に保ち、乾癬の症状を安定させる上で大きな役割を果たします。

表4: 頭皮の乾癬における日常生活のチェックリスト
カテゴリー やるべきこと/推奨されること 避けるべきこと
頭皮ケア ぬるま湯で優しく洗髪する。低刺激性のシャンプーまたは処方された薬用シャンプーを使用する。優しくタオルドライする。必要に応じて保湿する。 ゴシゴシこする、爪を立てて掻く。熱いお湯の使用。硬いブラシの使用。ドライヤーの熱を近づけすぎる。
生活習慣 十分な睡眠をとる。ストレスを管理する(運動、趣味など)。前向きな気持ちを保つ。 喫煙。過度の飲酒。夜更かし、慢性的なストレス。
食事 野菜、果物、オメガ3脂肪酸を豊富に含むバランスの取れた食事。十分な水分補給。 加工食品、高糖質、高脂肪食(症状を悪化させると感じる場合)。
その他 ヘアカラーやパーマは慎重に行うか、医師に相談する。ゆったりとした帽子を着用する。 頭皮への強い化学的刺激や物理的摩擦。

5. 頭皮の乾癬と向き合う:QOLと患者さんの声

頭皮の乾癬は、単なる皮膚の問題にとどまらず、患者さんの心や社会生活にまで深く影響を及ぼします。その影響の大きさは人それぞれですが、悩みを共有し、適切なサポートを得ることで、前向きに病気と向き合うことができます。

日常生活や心理面への影響

生活の質(QOL)への影響は、軽いものから非常に深刻なものまで様々です。日本の患者さんを対象とした調査では、21%がQOLに「非常に大きな」から「極めて大きな」影響があると回答した一方で、61%は「ほとんど影響がない」または「全く影響がない」と回答しています1。この差は、治療の効果や重症度を反映していると考えられますが、2割以上の患者さんが深刻な悩みを抱えているという事実は見過ごせません。多くの患者さんが直面する課題には、以下のようなものがあります。

  • 外見に関する悩み: 肩や背中に落ちるフケのような鱗屑を気にして、濃い色の服を避けたり18、生え際の発疹を髪で隠そうとしたりする。
  • かゆみによる苦痛: 集中力の低下や、夜中に目が覚めてしまうなどの睡眠障害を引き起こす28
  • 社会的孤立: 他人の視線が気になり、温泉や美容院、プールなどに行くのをためらったり、人との交流を避けたりする。
  • 誤解と偏見: 「うつる病気ではないか」と心ない言葉をかけられたり、奇異な目で見られたりといった経験1

「頭にヘルメットを被っているようだった」「黒い服は絶対に着られなかった」—。これらは、実際に乾癬を経験した患者さんの切実な声です28。終わりのないかゆみとの戦いや、他人の目を気にするストレスは、計り知れないものがあります28。しかし、同じように多くの患者さんが、自分に合った治療法を見つけることで症状が劇的に改善し、自信を取り戻したという経験も語っています。諦めずに治療を続けることの重要性がここにあります。

利用できるサポート

一人で悩みを抱え込む必要はありません。日本では、患者さん同士が繋がり、情報を交換し、支え合うための患者会が存在します(例:日本乾癬患者連合会、大阪乾癬患者友の会など129)。また、治療方針を決める際には、積極的に自分の希望や懸念を医師に伝えることが大切です。ある調査では、日本の患者の41%が治療目標の設定に関与しておらず、医師と目標について話し合ったのは44%に留まるという結果が示されました1。「こんなことを言ってもいいのだろうか」と遠慮せず、「〇〇ができるようになりたい」といった具体的な目標を共有することが、より良い治療結果に繋がります。

6. 専門医への相談と医療機関の選び方

頭皮の乾癬の治療を成功させるためには、信頼できる専門家とパートナーシップを築くことが不可欠です。適切なタイミングで受診し、自分に合った医療機関を見つけるためのポイントを解説します。

受診の目安

以下のような場合は、速やかに皮膚科を受診しましょう。

  • フケとは違う、赤みと厚い鱗屑を伴う発疹が頭皮にあり、乾癬が疑われる場合。
  • 市販薬で対処しても一向に改善しない、または悪化する場合。
  • かゆみや見た目の問題が、日常生活や精神面に大きな支障をきたしている場合30
  • 現在受けている治療の効果に満足できない、または副作用に悩んでいる場合31

信頼できる専門医・医療機関の見つけ方

日本皮膚科学会は、高度な知識と技術を持つ皮膚科医を「専門医」として認定しています。また、生物学的製剤のような先進的な治療を行うことができる医療機関を「承認施設」として定めています16。これらの情報は、日本皮膚科学会のウェブサイトで検索することが可能です32。さらに、一部の大学病院などでは、複数の診療科が連携して乾癬治療にあたる「乾癬センター」を設置している場合もあります2933。重症または難治性の場合は、このような専門施設への相談も視野に入れるとよいでしょう。

医師との良好なコミュニケーションのために

限られた診察時間の中で、最大限有益な情報を得るためには、事前の準備が大切です。

  • 聞きたいことをメモしていく: 症状、治療に関する疑問や不安、生活で困っていることなどをリストアップしておきましょう34
  • 正直に伝える: 症状だけでなく、ライフスタイルや治療に対する希望、懸念などを率直に話すことが、最適な治療計画に繋がります35
  • 積極的に質問する: 提示された治療法について、その理由や期待される効果、考えられる副作用などを納得できるまで質問しましょう。

健康に関する注意事項

  • この記事は、一般的な情報提供を目的としており、個別の医学的アドバイスに代わるものではありません。
  • 頭皮に何らかの異常を感じた場合は、自己判断せず、必ず皮膚科専門医の診察を受けてください。

よくある質問 (FAQ)

頭皮の乾癬は他人にうつりますか?
いいえ、絶対にうつりません2。乾癬は感染症ではなく、免疫系の異常によって起こる自己の体内の病気です。そのため、プールや温泉、美容院、あるいは家族間での直接的な接触によって他人に感染する心配は一切ありません。
頭皮の乾癬があると、髪は抜けてしまいますか?
乾癬という病気自体が、永続的な脱毛の直接的な原因になることは稀です7。しかし、強いかゆみから頭皮を激しく掻きむしったり、厚い鱗屑を無理に剥がしたりすると、毛根がダメージを受けて一時的に髪が抜けることがあります。根本的な炎症を治療し、掻く行為をコントロールできれば、髪は再び生えてくることがほとんどです。
治療にはどのくらいの期間がかかりますか?
乾癬は慢性的な疾患であり、「完治」というよりは「症状をコントロールし、良い状態を維持する(寛解維持)」ことを目指す病気です316。治療期間は、重症度や治療法によって大きく異なります。外用薬などの治療で速やかに症状が改善する場合もあれば、生物学的製剤などを用いて長期的に症状を管理していく場合もあります。大切なのは、根気強く治療を続けることです。
食事で気をつけることはありますか?
特定の食品が乾癬を治す、あるいは悪化させるという科学的に確立された「乾癬食」は存在しません。しかし、一般的に炎症を助長する可能性のある高脂肪食や加工食品、過度のアルコールを避け、抗炎症作用が期待できるとされるオメガ3脂肪酸(青魚など)や、野菜、果物を豊富に含むバランスの取れた食事は、全身の健康状態を良好に保つ上で有益と考えられています236
最新の治療法(生物学的製剤)は誰でも受けられますか?費用はどのくらいですか?
生物学的製剤は非常に効果の高い治療薬ですが、中等症から重症の患者さんで、既存の治療法(外用療法や光線療法など)で十分な効果が得られない場合などが適応となります222。治療の開始には、日本皮膚科学会が承認した施設での診断が必要です16。費用は高額ですが、日本には高額療養費制度や、各製薬企業の付加給付制度など、患者さんの自己負担を軽減するための様々な医療費助成制度があります。詳細は、担当の医師やソーシャルワーカー、加入している健康保険組合にご相談ください。

結論

頭皮の乾癬は、多くの苦痛や悩みを引き起こす可能性のある、決して軽視できない慢性疾患です。しかし、この記事で見てきたように、その正体を正しく理解し、皮膚科専門医と緊密に連携しながら、数多く存在する効果的な治療法の中からご自身に最適なものを見つけ出すことで、症状を良好にコントロールし、QOL(生活の質)を大きく改善させることが可能です3。研究は日々進歩しており、今後さらに優れた治療法が登場することも期待されます25。希望を失わず、諦めずに、前向きな気持ちで治療を継続していくことが何よりも大切です。JAPANESEHEALTH.ORGは、これからも日本の皆さまの健康に寄り添う、信頼できる情報を提供してまいります。

免責事項
この記事は医学的アドバイスに代わるものではなく、症状がある場合は専門家にご相談ください。

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  10. 日本皮膚科学会. 乾癬における生物学的製剤の使用ガイダンス(2022 年版). [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/guideline/kansen2022.pdf
  11. 厚生労働省. Ⅲ-③-12. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iyakuhin/dl/150810_3-3-12.pdf
  12. 最新ガイドラインに基づく 皮膚疾患 診療指針 2023-’24 – m3電子書籍. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.m2plus.com/content/13047
  13. 【2024】乾癬治療薬比較検討会:オテズラVSソーティクツ(全身療法・飲み薬編) – 巣鴨千石皮ふ科. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://sugamo-sengoku-hifu.jp/column/psoriasis-drug-review-meeting.html
  14. 疑問8 市販の薬で乾癬治療につかえるものはないですか? – 乾癬パートナーズ. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.kansen-partners.jp/voices/questions/questions08
  15. 乾癬に効果のある市販薬はありますか? – ユビー. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/9dmazphe2
  16. 乾癬の治療について. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.kansennet.jp/about_care/chiryou/
  17. Psoriasis – Treatment – NHS. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.nhs.uk/conditions/psoriasis/treatment/
  18. MG217 タールシャンプー 240 mlのレビュー・口コミ – Yahoo!ショッピング – PayPayポイントがもらえる!ネット通販. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://shopping.yahoo.co.jp/review/item/list?store_id=findgoodusa&page_key=mg-002
  19. 当院は生物学的製剤使用承認施設です – 佐々木皮膚科クリニック. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://sasaki-hifuka-gunma.com/contents/news/221027_01.html
  20. 乾癬外来|日本医科大学付属病院. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.nms.ac.jp/hosp/section/dermatology/guide/outpatient004.html
  21. Long-Term Safety and Efficacy of Ixekizumab in Japanese Patients with Psoriasis. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.dermatologytimes.com/view/long-term-safety-and-efficacy-of-ixekizumab-in-japanese-patients-with-psoriasis
  22. 医師紹介 | 横浜市立大学附属病院. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.yokohama-cu.ac.jp/fukuhp/section/depts/skin/doctor.html
  23. 【2024 年8 月改定の主な概要】 – 日本皮膚科学会. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/2024%E5%B9%B4%EF%BC%98%E6%9C%88%E6%94%B9%E5%AE%9A%E3%81%AE%E4%B8%BB%E3%81%AA%E6%A6%82%E8%A6%81%EF%BC%88%E6%96%B0%E6%97%A7%E5%AF%BE%E7%85%A7%E8%A1%A8%EF%BC%89.pdf
  24. 乾癬治療ケアセンター | 診療科・部門 | 名古屋市立大学医学部附属西部医療センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://w3hosp.med.nagoya-cu.ac.jp/seibu/medical/center/kannsenntiryou/
  25. スタッフ紹介|乾癬センター|診療科・センター. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.nissay-hp.or.jp/section/kansen/staff.html
  26. 各委員会情報 – 公益社団法人日本皮膚科学会. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://www.dermatol.or.jp/modules/biologics/index.php?content_id=4
  27. 病気体験レポート一覧: 乾癬 17件 (2ページ目) 【病院口コミ検索Caloo・カルー】. [インターネット]. [引用日: 2025年6月9日]. 以下より入手可能: https://caloo.jp/reports/lists/d1305?page=2
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