妊娠中の腹痛と胎動痛のすべて:いつ安心できて、いつ病院へ行くべきか?
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妊娠中の腹痛と胎動痛のすべて:いつ安心できて、いつ病院へ行くべきか?

妊娠おめでとうございます。新しい命を育む日々は、喜びに満ち溢れる一方で、これまでに経験したことのない身体の変化に戸惑いや不安を感じることも少なくありません。特に「お腹の痛み」や「胎動の変化」は、多くの妊婦さんが経験し、そのたびに「これは正常なことなの?」「赤ちゃんは大丈夫?」と心を悩ませる最も一般的な懸念事項の一つです。一人で不安を抱え込んでしまうこともあるでしょう。この記事は、そんなあなたの最も信頼できる伴走者となることを目指して作成されました。日本産科婦人科学会(JSOG)の最新ガイドラインや第一線の科学的研究に基づき、私たちは明確な道筋を示します。それによって、妊娠期における正常な変化と、直ちに医療的介入を必要とする危険な兆候とを、ご自身で区別できるようになることを目的としています。私たちの願いは、あなたが正しい知識を身につけ、自信と平穏をもってマタニタニティ期間を過ごされることです。


この記事の科学的根拠

この記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に、提示される医学的指導に直接関連する実際の情報源のみを記載します。

  • 日本産科婦人科学会(JSOG): この記事における切迫早産や常位胎盤早期剥離に関する診断および管理の指針は、JSOGが発行した「産婦人科診療ガイドライン―産科編2023」に基づいています。1
  • Ishibashi M, et al. (福島医学雑誌): 妊娠中の一般的な腹痛の原因としての便秘に関する記述は、日本人妊婦の34.1%が医学的介入を必要としたというデータを示した、この2024年の研究に基づいています。2
  • 日本医療機能評価機構 (JCHO): 常位胎盤早期剥離の発生頻度(0.49-1.29%)に関する具体的な統計は、この機関が発表したデータに基づき、その危険性を文脈化するために使用されています。3
  • 厚生労働省 (MHLW): 妊娠中の一般的な症状への対処法や、休息や医療機関への相談を検討すべき状況に関する政府の公式な推奨事項は、同省の資料を参考にしています。4
  • Lee SJ, et al. (JAMA): 胎児が感じる「痛み」に関する科学的議論についての記述は、このテーマに関する体系的な学術レビュー研究を参考にしています。5

要点まとめ

  • 妊娠中の腹痛や胎動痛の多くは、子宮の増大や赤ちゃんの成長に伴う生理的なものであり、心配いりません。
  • 「円靭帯痛」や「便秘」、「胎動痛」は一般的な良性の痛みですが、その特徴を知ることが安心につながります。
  • 激しい持続痛、周期的で強まる痛み、出血を伴う腹痛、胎動の急な減少は危険なサインであり、直ちに医療機関への連絡が必要です。
  • 「常位胎盤早期剥離」と「切迫早産」は、母子ともに危険が及ぶ可能性のある産科救急疾患であり、その兆候を見逃さないことが極めて重要です。
  • 自身の体の変化に注意を払い、少しでも不安があれば、ためらわずに担当の医師や助産師に相談することが、安全な妊娠期間の鍵となります。

胎動とは?赤ちゃんの元気なサインを理解する

胎動(たいどう)とは、子宮の中で赤ちゃんが動くのを、お母さん自身が感じることです。これは、お腹の赤ちゃんが元気に成長していることを示す、心強いサインの一つです。初めての妊娠である初産婦(しょさんぷ)さんの場合、一般的に妊娠20週前後で感じ始めると言われています。一方、出産経験のある経産婦(けいさんぷ)さんは、より早く妊娠16週から18週頃に気づくこともあります。胎動は、妊娠期間を通じて変化していきます。最初は「ポコポコ」とした小さな気泡のような感覚かもしれませんが、赤ちゃんが大きくなるにつれて、手足を伸ばしたり、体を回転させたりすることで、よりはっきりと力強い「キック」や「パンチ」として感じられるようになります。

「胎動痛」― なぜ赤ちゃんが動くと痛いの?医学的メカニズムを解明

「赤ちゃんが元気なのは嬉しいけれど、時々痛くて声が出てしまう」。これは多くの妊婦さんが経験する「胎動痛(たいどうつう)」と呼ばれるものです。この痛みは実際に存在し、明確な生物学的根拠に基づいています。重要なのは、この痛みが胎児自身が「苦痛を感じている」ために生じるのではなく、成長した赤ちゃんの動きが母体に及ぼす物理的な影響によるものであるという点です。

  • 物理的な圧迫: 妊娠後期になると、赤ちゃんの成長に対して子宮は手狭になってきます。赤ちゃんが手足を伸ばしたり、体を回転させたりする力強い動きは、お母さんの肋骨、膀胱、胃、横隔膜といった敏感な内臓や骨格に直接的な衝撃を与えます。これが、突き刺すような鋭い痛みの原因となります。6
  • 赤ちゃんの成長: 妊娠週数が進むにつれて、赤ちゃんの筋肉や骨格系は著しく発達します。これにより、一つ一つの動きがより力強くなり、お母さんが感じる衝撃も大きくなるのです。
  • 胎児のストレス反応: 胎児が人間と同じように「意識的」な痛みを感じるかについては、科学的な議論が続いています。5 しかし複数の研究が、強い刺激に対して胎児が明確な生化学的・ホルモン的な反応(胎児ストレス反応)を示すことを明らかにしています。7 時折見られる非常に激しい動きは、こうした反応の一部である可能性があり、お母さんの体はそれを痛みとして知覚するのです。

妊娠中の腹痛:心配ない痛みと注意すべき痛みの見分け方

妊娠中の腹痛は、すべてが危険な兆候というわけではありません。痛みの種類とその特徴を理解することは、不必要な不安を和らげ、本当に注意が必要な時を見極めるために非常に重要です。以下の表は、一般的な痛みの種類を区別するための目安としてご活用ください。

妊娠中によく見られる腹痛の種類の比較
痛みの種類 典型的な感覚 時期 伴う症状 評価
円靭帯痛 (えんじんたいつう) 下腹部の片側または両側が、急に「チクチク」「ピキッ」と痛む。鋭いが持続はしない。 妊娠初期〜中期 立ち上がる、咳をするなど、急に体勢を変えた時に起こりやすい。 通常は良性。子宮を支える靭帯が伸びるために起こる生理的な痛み。安静にすると治まります。8
便秘・ガスによる痛み 下腹部全体が重く、鈍い痛み。張っている感じがする。 妊娠全期間 排便が困難、お腹がゴロゴロ鳴る。 通常は良性。ホルモンの影響で腸の動きが鈍くなるため。日本人妊婦の約34.1%が便秘で医療的介入を必要とするという報告もあります。2
胎動痛 (たいどうつう) 肋骨や膀胱、胃などを内側から「蹴られる」「突かれる」ような局所的な鋭い痛み。 妊娠中期〜後期 痛みと同時に赤ちゃんの明確な動きを感じる。 通常は良性。赤ちゃんが元気に動いている証拠です。
前駆陣痛 (ぜんくじんつう) お腹が「キューッ」と不規則に硬くなる感じ。痛みはないか、あっても軽い生理痛程度。 妊娠後期 不規則で、痛みの強さや間隔は変化しない。姿勢を変えたり休んだりすると治まる。 通常は良性。出産に向けて子宮が収縮の練習をしている状態です。
危険なサイン 我慢できないほどの激しい痛み、持続する痛み、または周期的で徐々に強くなる痛み。 全期間 性器出血、発熱、嘔吐、めまい、胎動の減少など。 産科救急。直ちに医療機関への連絡が必要です。

危険な腹痛のサイン:ためらわずに受診・連絡すべき5つの症状

あなたの体は、重要なサインを送っています。もし以下に挙げる症状のいずれかがみられた場合、それは赤ちゃんやあなた自身の健康に関わる緊急事態の可能性があります。「様子を見よう」「考えすぎかもしれない」とためらわず、直ちにかかりつけの医療機関に連絡してください。これは日本の産科専門家たちの指針に基づく重要な推奨事項です。14

  1. 我慢できないほどの激しい痛み、または持続する痛み: 歩いたり話したりすることが困難になるほどの痛みや、体を折り曲げないと耐えられないような激痛。
  2. 性器出血を伴う腹痛: 出血量が少量でも多量でも、また色が鮮血でも茶褐色でも、腹痛とともに出血がある場合は常に注意が必要です。
  3. 規則的で、徐々に強くなる周期的な痛み: 例えば10分おきに痛みが来て、その間隔が次第に短くなり、痛みの強さが増していく場合。これは切迫早産や陣痛の可能性があります。
  4. 胎動の急な減少または消失: いつも活発に動いていた赤ちゃんが、急に静かになり、呼びかけたり体を揺すったりしても1〜2時間以上全く動きを感じない場合。これは赤ちゃんからのSOSサインかもしれません。
  5. 全身症状を伴う腹痛: 腹痛に加えて、38度以上の発熱、悪寒、繰り返す嘔吐、めまい、失神といった他の症状が見られる場合。

特に注意すべき産科救急疾患:常位胎盤早期剥離と切迫早産

腹痛を引き起こす産科の緊急事態の中で、特に知っておくべき二つの疾患があります。

  • 常位胎盤早期剥離(じょういたいばんそうきはくり): これは、赤ちゃんが生まれる前に胎盤が子宮の壁から剥がれてしまう、非常に危険な状態です。日本の妊婦さんにおいて約0.5%から1.3%の頻度で発生し、周産期死亡の主要な原因の一つとされています。3 典型的な症状は、ナイフで刺されたような持続的な激痛、お腹が板のように硬くなる(板状硬)、そして性器出血です(出血がない場合もあります)。これは母子ともに命に関わる状態で、一刻を争う救急対応が必要です。1
  • 切迫早産(せっぱくそうざん): 妊娠37週未満で出産に至る可能性がある状態です。日本における早産の割合は約5.7%です。9 症状には、規則的なお腹の張りや痛み、下腹部痛、骨盤への圧迫感、出血、水っぽいおりもの(破水の可能性)などがあります。早期に発見し、適切な治療を受けることで、妊娠期間を延長させることが期待できます。1

胎動や腹痛への対処法とセルフケア

医師の診察を受け、痛みが危険なものではないと判断された場合、以下のセルフケアを試すことで、不快感を和らげることができるかもしれません。410

  • 姿勢を変える: 体の左側を下にして横になると、大きな血管への圧迫が減り、血流が改善されることがあります。抱き枕などを使って、お腹や背中をサポートするのも良いでしょう。
  • 深呼吸とリラックス: 腹式呼吸を意識し、ゆっくりと深く息を吸い、吐き出すことを繰り返します。ヨガや瞑想も有効です。
  • 温かいお風呂に入る: 38〜40度程度のぬるめのお湯に浸かることは、筋肉の緊張を和らげるのに役立ちます。ただし、熱すぎるお湯は避けてください。
  • 体を温める: 腹巻きをしたり、温かい飲み物を飲んだり、腰にカイロや温かいタオルを当てたりするのも効果的です。ただし、お腹に直接カイロを当てるのは避けましょう。
  • 赤ちゃんに話しかける: 優しくお腹を撫でながら赤ちゃんに話しかけてみましょう。これにより赤ちゃんが体勢を変え、痛みが和らぐことがあります。

よくある質問

胎動が激しいと、赤ちゃんは苦しんでいますか?

いいえ、その逆であることがほとんどです。活発な胎動は、赤ちゃんの神経系や筋肉が順調に発達している健康な証拠です。赤ちゃんが元気いっぱいに動いていると考えてよいでしょう。

胎動の強さと赤ちゃんの性別や性格は関係ありますか?

これについては、いかなる科学的根拠も存在しません。これらは古くから伝わる民間伝承のようなものです。胎動の感じ方や強さは、赤ちゃんの成長具合、胎盤の位置、お母さんの体格や脂肪の厚さなど、多くの要因によって決まります。11

胎動カウントはどのように行えばいいですか?

一日の中で、ご自身がリラックスできる静かな時間帯を選びます。横になるか、ゆったりと座り、赤ちゃんの動きに集中してください。一般的に推奨される「10カウント法」は、赤ちゃんが10回動くのに何分かかったかを計測する方法です。ほとんどの場合、1〜2時間以内に10回の動きが感じられます。もし、いつもより明らかに動きが少ない、または長時間動きを感じない場合は、念のため医療機関に連絡してください。

結論:赤ちゃんと自分の体を信じ、専門家と連携しよう

妊娠は、絶え間ない変化の連続です。本稿で詳述したように、妊娠中に経験する腹痛や胎動の変化の大部分は、生理的で正常な過程の一部です。しかし、最も重要なのは、あなた自身があなたの体の「専門家」であるということです。ご自身の直感を信じてください。危険な兆候に関する知識を身につけることは、不安を煽るためではなく、あなたが主体的に、そして自信を持って行動できるようにするためです。

この情報は、あなたが判断を下すための一助となるものです。もし、どんなに些細なことであっても懸念や不安があれば、決して一人で抱え込まず、かかりつけの医師や助産師(じょさんし)に相談することをためらわないでください。12 専門家との密な連携と信頼関係こそが、健やかで安全なマタニティライフを送るための鍵となるのです。

免責事項本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。妊娠中の痛みや症状でお悩みの際は、必ず担当医や助産師などの専門家にご相談ください。

参考文献

  1. 日本産科婦人科学会. 産婦人科診療ガイドライン―産科編2023. 2023. Available from: https://www.jsog.or.jp/medical/410/
  2. Ishibashi M, Hashimoto F, Kouchi Y, et al. Constipation in Mid-Pregnancy and Its Association with Lifestyle and Awareness in Japan. Fukushima J Med Sci. 2024;70(1):36-46. doi:10.5387/fms.2023-25. PMID: 38267029. Available from: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10867430/
  3. 林 昌子. データベースからみた常位胎盤早期剥離. 関東連合産科婦人科学会誌. 2017. Available from: https://jsog-k.jp/journal/lfx-journal_detail-id-20521.htm
  4. 厚生労働省. 妊娠中・産後の症状等に対して考えられる措置の例. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/gimu/w_sochi.html
  5. Lee SJ, Ralston HJ, Drey EA, Partridge JC, Rosen MA. Fetal pain: a systematic multidisciplinary review of the evidence. JAMA. 2005;294(8):947-954. doi:10.1001/jama.294.8.947. PMID: 16118385. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16118385/
  6. Benesse Corporation. 【医師監修】胎動が痛いくらい激しいとき、逆に弱いとき、おなかの赤ちゃんは大丈夫?. たまひよ. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://st.benesse.ne.jp/ninshin/content/?id=37808
  7. Van de Velde M, De Buck F. Management of fetal pain during invasive fetal procedures. A review. Best Pract Res Clin Anaesthesiol. 2004;18(2):289-302. doi: 10.1016/j.bpa.2003.11.006. PMID: 15264504. Available from: https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15264504/
  8. 二宮レディースクリニック. 妊娠初期に腹痛が起こるのはなぜ?考えられる原因や対処方法. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://ninomiya-lc.jp/column/early-pregnancy-abdominal-pain/
  9. 日本産科婦人科学会. 早産・切迫早産. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://www.jsog.or.jp/citizen/5708/
  10. 厚生労働省. 働きながら安心して 妊娠・出産を迎えるために. 2019. Available from: https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/document/data/pamphlet_2019_02.pdf
  11. ミネルバクリニック. 胎動の強さと性別に関係はある?. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. [注:これは一般的な信念に関する参考情報であり、直接の科学的典拠ではありません。]
  12. 国立成育医療研究センター. 産科. [インターネット]. [引用日: 2025年7月24日]. Available from: https://www.ncchd.go.jp/hospital/about/section/perinatal/san/
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