【医師が解説】その目の赤み、うつる？結膜炎の原因別症状・治療法と学校・仕事の対応ガイド

あなたの結膜炎、うつる？うつらない？30秒でわかる症状チェック

目が赤くなった時、最も気になるのは「この症状は他の人にうつるのか？」ということでしょう。以下の表は、ご自身の症状がどのタイプの結膜炎に近いかを素早く判断するための目安です。ただし、これはあくまで簡易的なチェックであり、正確な診断は必ず眼科医が行う必要があります。

出典：米国疾病予防管理センター(CDC)²¹、米国眼科学会(AAO)²⁴、および大正製薬⁶の情報を基にJHO編集委員会が作成。

第1部：【医学的深掘り】うつる結膜炎・うつらない結膜炎の正体

結膜炎の適切な対処は、その原因を正確に理解することから始まります。ここでは、それぞれのタイプがなぜ、どのようにして発症するのか、その科学的背景を詳しく解説します。

1.1 ウイルス性結膜炎：最も警戒すべき感染力の強いタイプ

ウイルス性結膜炎は、結膜炎の中でも特に感染力が強く、しばしば地域的な流行を引き起こすため、社会全体で警戒が必要なタイプです。数多くのウイルスが原因となり得ますが、臨床的に最も重要なのはアデノウイルスです。米国眼科学会（AAO）と眼科医向け情報サイトEyeWikiによると、感染性結膜炎の大多数はウイルスによるものであり、その中でもアデノウイルスが65%から90%を占めるとされています²⁵。

1.1.1 流行性角結膜炎（はやり目、EKC）

「はやり目」として広く知られる流行性角結膜炎（Epidemic Keratoconjunctivitis, EKC）は、アデノウイルスによって引き起こされる代表的なウイルス性結膜炎です。この病気は感染力が極めて強く、家庭内、学校、職場などで容易に集団発生します。日本の国立感染症研究所（NIID）の報告によると、アデノウイルスのD種に属する8、19、37型、そして近年では53、54、56型といった新しい血清型がEKCの主要な原因となっています¹⁴¹⁹。特に、2023年に発表された最新の研究では、日本国内で遺伝子組換えによる新たな株（例：85型）が継続的に出現していることが指摘されており、診断と感染制御に新たな課題を投げかけています¹⁵。

EKCの潜伏期間は約1週間で、急な目の充血、多量の目やに、涙、異物感といった症状で発症します。特徴的なのは、耳の前にあるリンパ節（耳前リンパ節）の腫れと圧痛です⁸。発症から約1～2週間後に、角膜（黒目）の表面に点状の混濁（多発性角膜上皮下浸潤）が現れることがあります。この混濁は数ヶ月から1年以上続くこともあり、視力低下やまぶしさを引き起こす可能性があるため、特に大人の場合は注意深い経過観察が必要です⁶¹⁵。

1.1.2 咽頭結膜熱（プール熱、PCF）

咽頭結膜熱（Pharyngeal Conjunctival Fever, PCF）は、その通称「プール熱」が示すように、主に夏にプールを介して子供たちの間で流行する感染症です。日本の厚生労働省（MHLW）によると、これはアデノウイルスの3型などが原因で、結膜炎の症状に加えて、39度前後の発熱とのどの痛み（咽頭炎）という3つの主症状を特徴とします²⁰。潜伏期間は5～7日で、感染経路は咳やくしゃみによる飛沫感染、そしてウイルスが付着した手で目をこすることによる接触感染です。

1.1.3 その他のウイルス

• 急性出血性結膜炎（AHC）: エンペロウイルス70型やコクサッキーウイルスA24変異株によって引き起こされ、結膜（白目）に出血を伴うのが特徴です。潜伏期間が約1日と非常に短く、爆発的に流行することがあります。
• ヘルペス性結膜炎: 単純ヘルペスウイルス（HSV）が原因で、通常は片目にのみ発症します。再発を繰り返すことが多く、角膜に特徴的な樹枝状の病変（樹枝状角膜炎）を引き起こすことがあるため、専門的な治療が不可欠です。

1.2 細菌性結膜炎：黄色い膿が特徴

細菌性結膜炎は、ブドウ球菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌などが原因で起こります²⁶。ウイルス性と比べて感染力はそれほど強くありませんが、体力が落ちているときや、目に傷があるときに発症しやすくなります。最大の特徴は、黄色や緑色がかった、膿性のドロっとした目やにです。朝起きると、この目やにでまぶたが開けにくくなることもあります。通常、抗菌目薬による治療によく反応し、数日で改善が見られます⁴。ただし、新生児における淋菌やクラミジアによる結膜炎は、重篤な視力障害につながる可能性があるため、緊急の治療が必要です。

1.3 アレルギー性結膜炎：うつらないが、厄介なかゆみ

アレルギー性結膜炎は、ウイルスや細菌とは異なり、他人にうつることはありません。これは、花粉、ハウスダスト、ダニ、ペットのフケなどの特定のアレルゲン（アレルギーの原因物質）に対して、体の免疫システムが過剰に反応することで引き起こされます¹⁷。日本眼科アレルギー学会の診療ガイドラインによると、この病気は生活の質（QOL）を著しく低下させる主要な原因の一つです¹⁸。最大の特徴は、我慢できないほどの激しい目のかゆみです。目をこすればこするほど症状が悪化し、白目がブヨブヨと腫れてしまうこと（結膜浮腫）もあります。コンタクトレンズの汚れが原因で起こる巨大乳頭結膜炎も、この一種です。

第2部：【実践的ガイド】結膜炎と診断されたら、まず何をすべきか

結膜炎、特に感染性のものと診断された場合、医学的な治療と並行して、社会生活における適切な対応が求められます。ここでは、子供と大人、それぞれの立場から具体的な行動指針を示します。

2.1 子供の場合：学校保健安全法と親の対応

お子さんが「はやり目」と診断されたとき、保護者の方は戸惑うかもしれませんが、日本の法律は子供たちと社会を守るために明確なルールを定めています。

出席停止の期間はいつまで？

日本の学校保健安全法施行規則では、流行性角結膜炎（はやり目）と咽頭結膜熱（プール熱）は「第三種の感染症」に分類されています¹⁹。これは、「飛沫感染または接触感染により学校で流行を広げる可能性がある病気」を指します。法律上の出席停止期間は、「医師において感染のおそれがないと認めるまで」と定められています。つまり、「発症後〇日間休む」といった固定の日数はなく、あくまで眼科医による専門的な判断に委ねられます。一般的には、症状が改善し、他者への感染力がなくなったと医師が判断するまで、約1～2週間の自宅療養が必要となることが多いです²。

登園・登校許可証は必要？

多くの場合、お子さんが学校や保育園に復帰する際には、医師が発行する「登園・登校許可証」またはそれに類する書類の提出が求められます。これは、お子さんが完全に回復し、集団生活に戻っても安全であることを証明するためのものです¹。ただし、この書類の要否や書式は、自治体や各施設の方針によって異なる場合があるため、診断を受けたら速やかにお子さんが通う学校や保育園に連絡し、必要な手続きを確認することが重要です。こども家庭庁も、感染症罹患後の登園再開にあたっては、医師の意見書に基づき判断することを推奨しています。

2.2 大人の場合：仕事と日常生活の注意点

大人であっても、ウイルス性結膜炎に感染した場合の対応は基本的に子供と同じです。法律による明確な出勤停止義務はありませんが、感染拡大を防ぐ社会的責任が伴います。特に、医療従事者、介護職員、教員、保育士、飲食業の従業員など、人と密接に接触する職業の方は、職場に報告し、感染拡大の危険性がなくなるまで休務することを強く推奨します³⁰。これは、日本の社会で重視される「他人に迷惑をかけない（迷惑をかけない）」という文化的な価値観にも沿った行動です。デスクワーク中心の仕事であっても、共有のパソコンやドアノブなどを介して感染を広げる可能性があるため、上司と相談の上、在宅勤務への切り替えや休暇の取得を検討すべきです。

第3部：【治療法のすべて】市販薬から専門治療まで

結膜炎の治療は、原因を特定し、それに合った最適な方法を選択することが不可欠です。自己判断による不適切な対処は、症状を悪化させたり、回復を遅らせたりする可能性があります。

3.1 医療機関での専門的な治療法

眼科医は、問診と診察（細隙灯顕微鏡検査など）に加え、必要に応じて迅速診断キットを用いて原因を特定します。治療法は原因によって大きく異なります。

• ウイルス性結膜炎:
  残念ながら、アデノウイルスに対する特効薬は現在のところ存在しません⁷。治療の基本は、体の免疫力がウイルスを排除するのを助ける対症療法となります。炎症を抑え、細菌による二次感染（混合感染）を防ぐために、抗炎症薬の点眼薬や抗菌点眼薬が処方されます。米国眼科学会（AAO）のガイドラインでは、重度の炎症や角膜混濁が見られる場合には、慎重な判断のもとでステロイド点眼薬が使用されることがあるとされていますが、ウイルスの活動を活発化させる危険性もあるため、専門医による厳密な管理が必要です²⁴。
• 細菌性結膜炎:
  抗菌点眼薬が治療の第一選択となります。原因菌に合わせて、ニューキノロン系、アミノグリコシド系、マクロライド系などの広域スペクトラムを持つ抗菌薬が処方されます²⁶。通常、治療を開始すれば数日で症状は劇的に改善します。
• アレルギー性結膜炎:
  治療の柱は、抗アレルギー点眼薬です。これには、ヒスタミンの作用をブロックする「抗ヒスタミン薬」と、アレルギー反応を引き起こす化学伝達物質の放出自体を抑える「メディエーター遊離抑制薬」があります¹⁷。日本眼科アレルギー学会のガイドラインでは、この2つの作用を併せ持つ配合剤が広く用いられているとされています¹⁸²⁸。かゆみが非常に強い場合には、ステロイド点眼薬や免疫抑制点眼薬が短期的に使用されることもあります。

3.2 日本で買える市販薬（OTC医薬品）の賢い選び方

緊急時や症状が軽い場合、市販薬（OTC）は便利な選択肢となり得ます。しかし、選択を誤ると効果がないばかりか、症状を悪化させる可能性もあります。あなたは薬局の棚の前で、ロート製薬や参天製薬（サンテ）の様々な製品を前にして、どれを選ぶべきか迷った経験はありませんか？以下の比較表は、あなたの判断を助けるためのガイドです。

【重要】市販の抗菌目薬は「細菌性結膜炎」および「ものもらい（麦粒腫）」にのみ有効です。ウイルス性やアレルギー性の結膜炎には効果がありません。

注意：上記はあくまで一例です。購入の際は、必ず薬剤師に相談し、製品の添付文書をよく読んでください。

第4部：【最強の予防策】家庭と個人でできる感染対策

「病は治療よりも予防が肝心」。これは結膜炎においても真実です。特に感染力の強いウイルス性結膜炎は、日々の僅かな注意でその拡散を大きく防ぐことができます。米国疾病予防管理センター（CDC）も、基本的な衛生管理の重要性を強調しています²²。

4.1 感染してしまった人のための対策

もしあなたが感染性結膜炎と診断されたら、以下の行動を徹底してください。

• 目を触らない、こすらない: 手についたウイルスや細菌がもう片方の目や他人にうつる最大の原因です。
• 頻繁な手洗い: 石鹸と流水で、少なくとも20秒間、指の間や爪の先まで丁寧に洗いましょう。アルコールベースの手指消毒剤も有効です。
• タオルの共有は厳禁: 顔や手を拭くタオルは、家族とは完全に別のものを使用してください。ペーパータオルの使用が最も安全です。
• 点眼薬の共用を避ける: 家族であっても、点眼薬を共有してはいけません。
• コンタクトレンズの使用を中止する: 医師が許可するまで、コンタクトレンズの装用は中止してください³¹。
• 適切な休養: 医師の指示に従い、学校や仕事を休み、自宅で療養に専念しましょう。

4.2 家族・同居人のための感染拡大防止策

家族に感染者が出た場合、以下の対策で家庭内感染を防ぎましょう。

• 感染者との接触後の手洗い: 感染者の目に触れたり、点眼を手伝ったりした後は、必ず手を洗いましょう。
• 身の回りの物の分離: 枕カバー、シーツ、洗面用具、化粧品などを感染者と共有しないようにします。
• 共有部分の消毒: ドアノブ、スイッチ、蛇口、電話機など、皆が頻繁に触れる場所を消毒用アルコールなどで定期的に拭きましょう¹⁰。
• 入浴順の工夫: 感染者が最後に入浴するようにし、浴槽のお湯は毎日入れ替えるのが望ましいです。

よくある質問（FAQ）

結論：自己判断は危険、専門医への相談が最善の道

本記事では、結膜炎の多様な原因、それぞれの特徴的な症状、そして科学的根拠に基づいた治療法と実践的な対応策を包括的に解説してきました。重要なポイントは、結膜炎と一括りにせず、その原因が「ウイルス性」「細菌性」「アレルギー性」のいずれであるかを正しく見極めることです。特にアデノウイルスによる「はやり目」は、その強い感染力から、学校保健安全法に基づく出席停止措置が取られるなど、社会的な対応が求められる深刻な疾患です¹。

市販薬は手軽な選択肢ですが、その使用は限定的であり、誤った使用は回復を遅らせるだけでなく、耐性菌の出現などの新たな問題を引き起こす可能性も否定できません。目の赤み、かゆみ、目やにといった症状に気づいたら、最も確実で安全な行動は、速やかに眼科を受診することです。専門医による正確な診断こそが、適切な治療への第一歩であり、あなた自身の健康、そして家族や社会を感染から守るための最善の策と言えるでしょう。この記事が提供する情報が、皆様の賢明な判断の一助となることを心より願っています。