この記事の科学的根拠
この記事は、入力された研究報告書で明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下は、参照された実際の情報源と、提示された医学的指導との直接的な関連性を含むリストです。
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会 (JSOG): この記事における流産の定義、主な原因、および日本国内での分類に関する指針は、JSOGが公表したガイドラインに基づいています1。
- 厚生労働省 (MHLW): 流産を経験した女性の心理的影響に関するデータ、特に自己責任を感じる割合や必要な支援についての記述は、厚生労働省の調査研究事業報告書を典拠としています2。
- 米国産科婦人科学会 (ACOG): 超音波診断基準や治療選択肢に関する国際的な標準についての解説は、ACOGの実践報告に基づいています3。
- 英国王立産婦人科医協会 (RCOG): 反復流産や心理的サポートの重要性に関する記述は、RCOGのガイドラインを参考にしています45。
- The Lancet誌: 流産の発生率や危険因子に関する最新の包括的な概要は、2024年にThe Lancet誌に掲載されたレビュー論文に基づいています6。
要点まとめ
- 妊娠初期の流産は、確認された妊娠の約15%で起こる一般的な現象であり、その主な原因(約60-80%)は、偶然に生じる「胎児の染色体異常」です。
- 流産の原因は母親の日常的な活動(仕事、軽い運動など)とはほとんど関係がなく、「自分のせいだ」と責める必要は全くありません。
- 主な兆候は性器出血と腹痛ですが、出血があっても必ずしも流産とは限らず、自己判断せずに産婦人科医に相談することが最も重要です。
- 流産と診断された後の対処法には、自然に待つ方法、薬物を用いる方法、外科的処置があり、医師との相談の上で選択されます。
- 流産後の悲しみや罪悪感は、厚生労働省の調査でも多くの女性が経験する正常な感情です。一人で抱え込まず、パートナーや専門家の支援を求めることが大切です。
妊娠初期の流産とは?まず知っておきたい基本的な事実
流産という言葉には、重く、辛い響きがあります。しかし、医学的な観点からその実態を正確に知ることは、不必要な不安や誤解を解き、ご自身の状況を冷静に理解するための第一歩となります。
医学的な定義
公益社団法人 日本産科婦人科学会(JSOG)は、「流産」を「妊娠22週未満で妊娠が中断すること」と定義しています1。このうち、妊娠12週未満で起こるものを「早期流産」と呼び、流産全体の大部分を占めます。一方で、妊娠12週以降22週未満の流産は「後期流産」と区別されます。
流産の確率:決して珍しいことではありません
流産は、決してまれな出来事ではありません。日本産科婦人科学会(JSOG)によると、産婦人科で確認された妊娠のうち、およそ15%が流産に至ると報告されています1。これは、妊娠した女性の6人から7人に1人が経験する計算になります。さらに、この確率は母親の年齢とともに上昇する傾向があり、例えば40歳以上の女性では、その割合が40%以上に達することもあります13。これらの事実は、流産がいかに多くの女性にとって身近な経験であるかを示しており、決してあなた一人が特別なわけではないことを物語っています。
なぜ流産は起きるのか?知っておくべき主な原因
流産を経験したとき、「あの時、無理をしたからだろうか」「食生活が悪かったのかもしれない」と、自分自身を責めてしまう女性は少なくありません。しかし、医学的な事実は、その考えが正しくないことを明確に示しています。
最大の原因:「胎児の染色体異常」
妊娠初期における流産の最も一般的な原因は、「胎児(赤ちゃん)自身の染色体異常」です。これは、全初期流産の約60%から80%を占めると考えられています17。染色体は、体の設計図ともいえる遺伝情報を含んでおり、受精の瞬間にその数が偶然に多かったり少なかったりすることがあります。このような染色体異常を持つ受精卵は、残念ながら生命を維持し、成長していく力を持っておらず、妊娠の早い段階で自然に淘汰されます。
重要: この胎児の染色体異常は、全くの偶然によって起こる偶発的な現象です。母親の年齢が上昇するとその発生頻度が上がることが知られていますが、それは卵子の老化に伴う自然な変化であり、個人の行動や生活習慣とは全く関係がありません。したがって、流産の原因のほとんどは、お母さんのせいではないのです。
母体の要因:関連が指摘されていること
ごく一部のケースでは、母体側の健康状態が流産のリスクを高める要因となることがあります。これには以下のようなものが含まれます7。
- 子宮の形態異常:子宮筋腫や子宮奇形など、受精卵が着床し育つ環境に問題がある場合。
- 内分泌系の異常:コントロールされていない重度の糖尿病や甲状腺機能の異常など。
- 自己免疫疾患:特に、血栓ができやすくなる抗リン脂質抗体症候群(APS)など。
- 血液凝固異常:血液が固まりやすい体質。
ただし、これらの要因が原因となるのは流産全体の中では少数派であり、多くの初期流産は前述の胎児染色体異常によるものです。
生活習慣との関連についての誤解と真実
多くの女性が心配する「仕事のストレス」「軽い運動」「性交渉」といった日常的な活動が、直接的に流産を引き起こすことは医学的にほぼないと考えられています。一方で、流産のリスクをわずかながらも高める可能性が指摘されている生活習慣には、喫煙、過度のアルコール摂取、非常に高用量のカフェイン摂取などがあります6。しかし、これらの要因があったとしても、それが直接の原因だと断定することは困難です。ほとんどの場合、流産の根本的な原因は胎児側にあります。
流産の医学的な分類:あなたの状況はどれにあてはまりますか?
医師から告げられる診断名に戸惑うことがあるかもしれません。流産は、その進行状況によっていくつかの種類に分類されます。ご自身の状況を理解するための一助として、代表的な分類を知っておきましょう。
分類名 | 主な特徴 | 備考 |
---|---|---|
化学流産 (かがくりゅうざん) | 妊娠検査薬では陽性反応が出るが、超音波検査で胎嚢(たいのう、赤ちゃんを包む袋)が確認される前に妊娠が終了する状態。 | 自覚症状は通常の月経とほとんど変わらないことが多い8。医学的には流産の回数に含めないのが一般的。 |
稽留流産 (けいりゅうりゅうざん) | 胎児は子宮内で亡くなっているが、出血や腹痛などの自覚症状がなく、子宮内に留まっている状態。 | 妊婦健診の超音波検査で偶然発見されることが多い。症状がないため、診断を受けた際の衝撃が大きい傾向にある9。 |
進行流産 (しんこうりゅうざん) | 出血や腹痛が始まり、流産が進行している状態。子宮の収縮が起こり、胎嚢などが子宮の外へ排出されつつある。 | この状態になると、妊娠の継続は困難となる。 |
完全流産 (かんぜんりゅうざん) | 子宮内の胎嚢などが完全に出てしまい、出血や腹痛が治まっている状態。 | 超音波検査で子宮内がきれいになっていることを確認する。 |
不全流産 (ふぜんりゅうざん) | 子宮内の内容物の一部は排出されたが、一部がまだ子宮内に残っている状態。 | 出血が続いたり、感染の原因になったりするため、子宮内をきれいにする処置が必要になることがある。 |
特に、化学流産は妊娠検査薬の精度が向上したことで認識されるようになりましたが、非常に早期の段階での妊娠の不成立を指します10。また、稽留流産は自覚症状がないまま進行するため、診断を受け入れるのが精神的に難しい場合があります。
流産の兆候(サイン):何に注意すべきか
「この症状は大丈夫だろうか」と不安になるのは当然のことです。流産の可能性を示すサインを知っておくことは大切ですが、同時に、症状だけで自己判断しないことも非常に重要です。
主な医学的サイン:性器出血と腹痛
妊娠初期の流産における最も一般的な兆候は、性器出血と下腹部痛です9。
- 性器出血:色は茶褐色のおりもの程度のものから、鮮血まで様々です。量は少量から月経のように多い場合まであります。
- 下腹部痛:月経痛のような鈍い痛みから、周期的な強い痛みまで、痛みの感じ方には個人差があります。
しかし、ここで強く強調したいのは、妊娠初期の出血が必ずしも流産を意味するわけではないということです。受精卵が子宮内膜に着床する際に起こる「着床出血」や、妊娠は継続しているものの出血が見られる「切迫流産」の可能性もあります1。切迫流産の場合は、安静にすることで妊娠を継続できる可能性があります。したがって、出血が見られた場合は、量や色にかかわらず、まずはかかりつけの産婦人科に連絡し、指示を仰ぐことが不可欠です。
その他の可能性のあるサイン
一部の女性は、「つわり(悪心)や胸の張りが急になくなった」といった、妊娠初期症状の突然の消失を経験することがあります。これは流産の一つのサインである可能性もありますが、妊娠週数が進むにつれて症状が自然に軽くなることも多いため、これだけで流産と判断することはできません11。
診断と対処法:もし兆候が見られたら
流産の兆候に気づいた時、冷静でいることは難しいかもしれませんが、適切な行動をとることが重要です。
まずは落ち着いて、かかりつけの産婦人科へ連絡を
自己判断で様子を見たり、インターネットの情報だけで一喜一憂したりせず、まずはかかりつけの医療機関に電話で連絡してください。現在の症状(いつから、どのような出血や痛みがあるかなど)を伝え、医師の指示に従いましょう。
病院で行われる診断
医療機関では、主に以下の検査によって診断が行われます。
経腟超音波検査(経膣エコー):腟から細い器具を挿入し、子宮内の様子を直接観察します。胎嚢の有無や大きさ、胎児の心拍が確認できるかなどを調べます。米国産科婦人科学会(ACOG)のガイドラインでは、例えば胎児の頭殿長(CRL)が7mm以上あるにもかかわらず心拍が確認できない場合などに、流産の確定診断がなされます3。
血液検査:血中のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)という妊娠ホルモンの値を測定します。妊娠が正常に継続していればhCG値は上昇しますが、その値が伸び悩んだり、減少したりしている場合は、流産の可能性が考えられます。
流産と診断された後の選択肢
稽留流産や不全流産と診断された場合、子宮内の組織をどうするかについて、いくつかの選択肢があります。どの方法を選ぶかは、医学的な状況、週数、そして何よりもご自身の心身の状態や希望を考慮し、医師と十分に話し合って決定します。
- 待機的管理 (Expectant management):手術や薬を使わず、自然に子宮内容物が排出されるのを待つ方法です。
- 薬物による管理 (Medical management):子宮の収縮を促す薬(例:ミソプロストール)を用いて、子宮内容物の排出を促す方法です。
- 外科的処置 (Surgical management):子宮内容除去術(掻爬術または吸引法)という短い手術で、子宮内の組織を取り除く方法です。
それぞれの方法には利点と欠点があり、医師から詳しい説明を受けることが重要です3。
流産を経験した後の心のケア:あなたは一人ではありません
流産の経験は、身体的な負担だけでなく、心にも深い傷を残すことがあります。その悲しみや喪失感は、経験した人でなければわからないほど大きいものです。しかし、その感情はあなただけのものではなく、多くの女性が共有するものであることを知ってください。
悲しみ、罪悪感…多くの人が抱える感情(厚労省調査より)
2021年に厚生労働省が実施した大規模な調査研究は、流産・死産を経験した女性たちの心の声を浮き彫りにしました2。それによると、
- 55.5%の女性が「自分を責めた」
- 67.6%が「亡くなった子のことを考えて悲しくなった」
- 63.1%が「気持ちの浮き沈みが激しくなった」
と回答しています。このデータは、あなたが今感じているかもしれない罪悪感や深い悲しみが、決して異常なことではなく、あまりにも正常で、多くの人が経験する感情であることを示しています。自分を責める必要は全くありません。
パートナーとの関わり方と男性の悲しみ
同じ厚生労働省の調査では、73.3%の女性が「パートナーも悲しんでいた」と回答する一方で、悲しみを感じていた男性の41.7%が「誰にも相談・打ち明けをしなかった」と答えています2。悲しみは女性だけのものではありません。パートナーもまた、表現の仕方は違えど、同じように喪失感を抱えています。この辛い時期を乗り越えるためには、お互いの気持ちを率直に話し合い、支え合うことが何よりも大切です。
専門家やサポートグループに相談する
悲しみを一人で、あるいは二人だけで抱え込む必要はありません。英国王立産婦人科医協会(RCOG)のガイドラインでも、心理的なサポート(Tender Loving Care – 愛情のこもった支持的なケア、と表現されることもあります)の重要性が強調されています4。日本国内にも、流産・死産を経験した方々のためのピアサポートグループ(同じ経験を持つ人々が支え合うグループ)や、専門のカウンセリング機関が存在します。地方自治体が提供する相談窓口もあります。辛い時には、ためらわずに専門家の助けを求めてください。
次の妊娠に向けて
辛い経験の後、未来について考えるのは難しいかもしれません。しかし、多くの女性が流産を乗り越え、その後に無事に出産を迎えています。ここでは、次の妊娠に向けた情報を提供します。
体の回復と次の妊活のタイミング
流産後の体の回復には個人差がありますが、通常は1〜2回の月経周期を経て、子宮の状態は妊娠可能な状態に戻ります。次の妊娠をいつから試みるかについては、かつては数ヶ月間あけることが推奨されていましたが、最近の研究では、心身の準備が整えば、早期に妊活を再開しても問題ないとされています。ただし、必ず医師の診察を受け、体の回復状態を確認した上で判断することが重要です。
不育症(反復流産)について
もし流産を2回以上繰り返す場合は、「不育症(反復流産)」の可能性があります。これは、妊娠はするものの、流産や死産を繰り返して元気な赤ちゃんを得られない状態を指します。不育症の場合は、前述の母体側の要因(免疫異常、内分泌異常、子宮形態異常など)が隠れている可能性があり、専門的な検査や治療が必要となることがあります4。もし該当するようであれば、不育症を専門とする医療機関に相談することをお勧めします。
よくある質問
妊娠初期の出血は、すべて流産のサインなのでしょうか?
いいえ、そうとは限りません。妊娠初期の出血は、受精卵が子宮に着床する際の「着床出血」や、妊娠は継続しているものの出血が見られる「切迫流産」など、流産以外の原因でも起こることがあります1。特に少量の茶色い出血などは、問題ない場合も少なくありません。しかし、自己判断は危険です。出血があった場合は、量や色にかかわらず、必ずかかりつけの産婦人科に連絡して指示を仰いでください。
仕事が忙しかったり、ストレスを感じたりしたことが流産の原因になりますか?
流産後、次の妊娠は可能ですか?また、流産しやすくなりますか?
はい、多くの場合、次の妊娠は可能です。一度の流産が、その後の妊娠に大きく影響することはまれです。流産は非常に一般的な現象であり、ほとんどの女性が流産経験後に健康な赤ちゃんを出産しています。ただし、流産を2回以上繰り返す「不育症」の場合は、原因を調べるための詳しい検査が推奨されることがあります4。不安な点があれば、医師にご相談ください。
結論
妊娠初期の流産は、深い悲しみと喪失感をもたらす辛い経験です。しかし、医学的な事実として、そのほとんどは偶然に起こる胎児の染色体異常が原因であり、決してあなたのせいではありません。この知識は、不必要な自責の念からあなたを解放するための一助となるはずです。
出血や腹痛などの兆候に気づいた際には、自己判断をせず、速やかに医療機関に相談することが最も重要です。そして、もし流産と診断された場合でも、その悲しみはあなた一人で抱え込む必要はありません。厚生労働省の調査が示すように、多くの女性が同じような感情を経験しています2。パートナーや家族、友人、そして専門のサポート機関と気持ちを分かち合うことが、心の回復への大切な一歩となります。
JAPANESEHEALTH.ORG編集部として、この記事があなたの不安を少しでも和らげ、正確な知識をもってご自身の体と心に向き合うための一助となることを心から願っています。
参考文献
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