持続血糖測定(CGM)完全ガイド:費用・保険適用から機種比較、かぶれ対策まで専門家が徹底解説
糖尿病

持続血糖測定(CGM)完全ガイド:費用・保険適用から機種比較、かぶれ対策まで専門家が徹底解説

近年、糖尿病管理の現場は大きな変革期を迎えています。その中心にあるのが「持続血糖測定(CGM)」技術です。従来の指先穿刺による血糖測定が「点」であるならば、CGMは24時間の血糖変動を「線」として捉え、血糖管理を根本から変える可能性を秘めています。しかし、その多機能性や専門用語の多さ、そして費用や保険適用といった現実的な問題から、導入をためらったり、十分に活用しきれていないと感じたりする方も少なくありません。本記事は、JapaneseHealth.org編集部が、糖尿病と共に歩むすべての方々、そしてそのご家族や医療関係者の皆様に向けて、信頼できる情報源に基づき、CGMに関するあらゆる疑問に答えることを目的とした総合的なガイドです。日本糖尿病学会(JDS)の公式な指針1や国内外の最新の研究報告23を基に、CGMの基本原理から、日本国内で利用可能な主要機種(フリースタイルリブレ、デクスコムG7など)の徹底比較、複雑な保険適用のルール、そして多くの利用者が悩む「センサーかぶれ」のような皮膚トラブルへの具体的な対策まで、専門的知見を交えて深く、そして分かりやすく解説します。私たちの目標は、読者の皆様が本記事を通じてCGMに関する正確な知識を身につけ、ご自身の治療や生活に最も合った選択を主体的に行えるようになることです。この記事が、より質の高い糖尿病管理への一助となることを心より願っています。


この記事の科学的根拠

本記事は、入力された研究報告書に明示的に引用されている最高品質の医学的根拠にのみ基づいています。以下に示すリストには、実際に参照された情報源と、提示された医学的ガイダンスとの直接的な関連性のみが含まれています。

  • 日本糖尿病学会(JDS): 本記事におけるCGMの適正使用、Time in Range(TIR)の目標値に関する指針は、日本糖尿病学会が発行した「持続グルコースモニタリングデバイス適正使用指針」に基づいています1。これは日本国内におけるCGM診療の最も権威ある基準です。
  • 北里大学の研究報告: CGMの臨床的意義、特にTIRと合併症リスクとの関連性に関する解説は、北里大学医学部から発表された学術的レビュー論文の知見を参考にしています2
  • 米国糖尿病学会(ADA): CGMの適応対象拡大など、国際的な最新動向については、米国糖尿病学会が発行する「Standards of Care in Diabetes—2025」の勧告を反映しており、本記事のグローバルな視点を担保しています3
  • 皮膚科学関連の研究: CGMセンサーによる接触皮膚炎の原因(イソボルニルアクリレート)に関する科学的解説は、日本の皮膚科学会で報告された症例研究に基づいています4

要点まとめ

  • CGMは、皮下の間質液中のグルコース濃度を5分ごとなど、継続的に測定し、血糖変動を「見える化」する画期的な技術です。
  • 従来のHbA1cに加え、血糖値が目標範囲内にあった時間を示す「Time in Range (TIR)」が新たな管理指標として重要視されています。日本糖尿病学会はTIR70%以上を目標として推奨しています1
  • 日本国内では主にAbbott社の「フリースタイルリブレ」、Dexcom社の「デクスコムG7」、Medtronic社の「ガーディアンコネクト」が利用可能で、それぞれ機能、費用、保険適用条件が異なります。
  • CGMの保険適用は、1型糖尿病か2型糖尿病か、インスリン治療の有無などによって複雑に定められています。自己負担額は月々数千円から一万円を超える場合もあります。
  • 多くの利用者が経験するセンサーによる皮膚の「かぶれ」は、予防策と適切な対処法で管理可能です。原因物質を理解し、皮膚保護剤などを活用することが推奨されます4

なぜ今、CGMが糖尿病管理の新たな標準となりつつあるのか

指先穿刺の痛みからの解放を超えて

糖尿病管理における長年の課題は、血糖値の正確な把握でした。多くの患者さんにとって、それは1日に何度も指先に針を刺し、血液を採取するという痛みを伴う行為を意味していました5。しかし、持続血糖測定(CGM)の登場は、この常識を覆しました。CGMは単に指先穿刺の回数を減らすだけでなく、これまで捉えることが難しかった食後や夜間、運動時といった様々な状況下での血糖の微妙な動きを24時間「見える化」します6。これにより、患者さん自身が自分の体の中で何が起きているのかを深く理解し、食事や運動、インスリン量の調整をよりきめ細かく、根拠を持って行えるようになります。これは、治療の受け身の姿勢から、主体的に管理に参加する姿勢への大きな転換を促すものです。

日本における糖尿病の現状とCGMの重要性

厚生労働省が実施した2019年の「国民健康・栄養調査」によると、日本国内で「糖尿病が強く疑われる者」の割合は男性で19.7%、女性で10.8%にのぼり、成人の間で深刻な健康課題であり続けています7。良好な血糖管理は、網膜症、腎症、神経障害といった細小血管障害や、心筋梗塞、脳卒中などの大血管障害といった深刻な合併症を予防するために不可欠です。CGMは、無自覚性低血糖(特に夜間の危険な低血糖)のリスクを低減させ、血糖の大きな変動(血糖スパイク)を抑制することで、長期的な合併症リスクの低減に大きく貢献することが、数多くの研究で示されています28。日本糖尿病学会もその重要性を認識し、CGMの適正使用に関する指針を公表し、その普及を後押ししています1

持続血糖測定(CGM)の基本:仕組みと重要指標を理解する

CGMはどのように機能するのか?

CGMシステムは、主に3つの部分から構成されています。まず、腹部や腕などに装着する「センサー」。このセンサーには、皮下に留置される非常に細く柔らかい電極が付いており、血液中ではなく細胞の周りを満たす「間質液」中のグルコース濃度を電気化学的に測定します。次に、その測定データを無線で送信する「トランスミッター」。そして、データを受信し、グルコース値を表示する「受信機(リーダー)」または専用アプリをインストールしたスマートフォンです9

間質液グルコース vs. 血糖値:知っておくべき「タイムラグ」と「誤差」

ここで重要なのは、CGMが測定しているのは血液中のグルコース濃度(血糖値)そのものではなく、間質液中のグルコース濃度であるという点です。血液中のグルコースが間質液に移行するには少し時間がかかるため、CGMの測定値と、指先穿刺で測定する血糖値(SMBG: Self-Monitoring of Blood Glucose)との間には、通常5〜10分程度の「タイムラグ」が存在します10。血糖値が急激に変動している時(食後や運動後など)には、この差が大きくなる可能性があります。また、センサーの精度には限界があり、SMBGとの間には一定の「誤差」が生じます。このため、CGMの数値が急激に低い、または高い場合や、自覚症状とCGMの数値が一致しない場合には、必ずSMBGで血糖値を確認し、それに基づいてインスリン投与などの治療判断を行うことが、日本糖尿病学会の指針でも強く推奨されています1

HbA1cだけでは不十分?血糖管理の新指標「Time in Range (TIR)」とは

長年、糖尿病管理の「ゴールドスタンダード」とされてきた指標は、過去1〜2ヶ月の平均血糖値を反映するヘモグロビンA1c(HbA1c)でした。しかし、HbA1cはあくまで平均値であり、日々の血糖の変動幅や、危険な低血糖・高血糖の頻度を評価することはできません。例えば、平均値は同じでも、血糖値が常に安定している人と、高血糖と低血糖を激しく繰り返している人では、合併症のリスクや生活の質(QOL)は大きく異なります11

TIR, TBR, TARの定義と日本糖尿病学会が推奨する目標値

そこでCGMの普及とともに重要視されるようになったのが、**Time in Range(TIR)**という指標です。これは、1日のうちで血糖値が目標範囲内(通常70〜180mg/dL)に収まっていた時間の割合を示すものです。これに関連して、目標範囲より低い時間(Time Below Range, TBR, 70mg/dL未満)と、高い時間(Time Above Range, TAR, 180mg/dL超)も評価されます。
日本糖尿病学会は、多くの成人1型および2型糖尿病患者の目標として、以下を推奨しています1

  • TIR (70-180 mg/dL): 70%以上
  • TBR (<70 mg/dL): 4%未満
  • TAR (>180 mg/dL): 25%未満

特に高齢者や合併症リスクが高い患者さんでは、低血糖を避けるためにより緩やかな目標(例:TBR 1%未満)が設定されることもあります12

なぜTIRが合併症予防に重要なのか?科学的根拠を解説

TIRの重要性は、数多くの科学的根拠に裏打ちされています。北里大学の研究者らによる2023年の学術的レビューによると、TIRの割合が高いほど、糖尿病性網膜症や腎症といった細小血管合併症の発症および進展リスクが低いことが示されています2。具体的には、TIRが10%改善する(例:60%から70%へ)と、臨床的に意味のあるレベルで合併症リスクが低下すると報告されています。これは、TIRがHbA1cでは捉えきれない「血糖変動の質」を反映しているためです。安定した血糖値を長く維持することが、血管へのダメージを減らし、長期的な健康を守る鍵となるのです。

【徹底比較】日本で利用可能な主要CGMシステム

現在、日本国内で保険適用のもと利用できるCGMシステムは、主に3つのメーカーから提供されています。それぞれの製品には特徴があり、個々のライフスタイルや治療目標によって最適な選択は異なります。

isCGM vs. rtCGM:スキャン式とリアルタイム式の違い

CGMは大きく分けて2つのタイプがあります。

  • isCGM (Intermittently Scanned CGM): 「スキャン式CGM」または「FGM (Flash Glucose Monitoring)」とも呼ばれます。センサーは常にグルコース値を測定・記録していますが、その数値を表示させるためには、利用者がリーダーやスマートフォンをセンサーにかざす(スキャンする)必要があります。Abbott社のフリースタイルリブレがこのタイプに分類されます。能動的な操作が必要な反面、アラート機能が限定的であるため、「アラート疲れ」が少ないという側面もあります。
  • rtCGM (Real-Time CGM): 「リアルタイムCGM」は、測定したグルコース値を自動的に5分ごとなど、常に受信機やスマートフォンに送信し続けます。これにより、利用者は何もしなくても常に現在のグルコース値と変動傾向を知ることができます。また、事前に設定した上限値・下限値を超えると自動で警告音(アラート)を発する機能が充実しており、無自覚性低血糖の予防に特に有効です。Dexcom社のデクスコムG7やMedtronic社のガーディアンコネクトがこのタイプです13

主要3大メーカー:Abbott, Dexcom, Medtronicの戦略

各メーカーは異なるアプローチで市場に製品を提供しています。

  • Abbott (アボット): 「フリースタイルリブレ」で市場をリード。使いやすさと比較的手頃な価格設定で、CGMの普及に大きく貢献しました。特に2型糖尿病患者や、初めてCGMを使用する層に広く受け入れられています14
  • Dexcom (デクスコム): 高精度なrtCGMで知られ、特に厳格な血糖管理が求められる1型糖尿病患者や小児患者から高い評価を得ています。他社製品(インスリンポンプなど)との連携にも積極的です15
  • Medtronic (メドトロニック): インスリンポンプとCGMを連携させた「SAP (Sensor Augmented Pump)療法」のパイオニア。CGMが測定した血糖値に応じて、インスリン注入を自動で調整する先進的なシステムを提供しています。

詳細比較表:機能、精度(MARD)、センサー寿命、アラート機能

表1:日本国内における主要CGMシステムの比較
項目 FreeStyleリブレ2 (Abbott) Dexcom G7 (Dexcom) ガーディアンコネクト (Medtronic)
種類 isCGM (オプションでrtCGM機能) rtCGM rtCGM
センサー精度 (MARD) 9.3% 8.2% (成人) 約8.7%
センサー寿命 最長14日間 最長10日間 最長7日間
キャリブレーション(較正) 原則不要 原則不要 必要 (1日2回以上)
アラート機能 高/低グルコース値 (必須)、シグナルロス 高/低グルコース値 (必須/任意)、上昇/下降速度、緊急低値アラート 高/低グルコース値、上昇/下降速度、予測アラート
データ共有機能 リブレLinkUpアプリ経由 フォローアプリ経由 ケアリンクコネクトアプリ経由

注: MARD (Mean Absolute Relative Difference)は、CGMの測定値と基準となる血糖値測定器との平均絶対相対差を示す指標で、数値が低いほど精度が高いことを意味します。上記データは各社公表値や臨床研究に基づきます1315

【最重要】費用と保険適用の全知識:あなたの自己負担額はいくら?

CGMの導入を検討する上で最も大きな関心事の一つが費用です。日本の医療保険制度は複雑であり、自己負担額を正確に把握することは容易ではありません16

CGMの保険適用:複雑なルールをチャートでわかりやすく解説

CGMの保険適用は、「糖尿病のタイプ(1型か2型か)」と「インスリン治療の有無」によって大きく異なります。2024年時点での基本的なルールは以下の通りです。

表2:CGM保険適用の対象患者
対象患者 isCGM (リブレ等) rtCGM (デクスコム等)
1型糖尿病患者 適用 適用
2型糖尿病患者 (インスリン治療中) 適用 適用
2型糖尿病患者 (インスリン治療なし) 原則適用外 (一部例外あり) 原則適用外
その他の糖尿病 (妊娠糖尿病など) 原則適用外 原則適用外

*インスリン治療を行っていない2型糖尿病患者さんでも、血糖コントロールが極めて不安定な場合や、頻回な低血糖がある場合など、医師が医学的に必要と判断した際に保険適用となるケースがあります。詳細は主治医にご確認ください。

診療報酬点数から自己負担額を計算する方法(具体例付き)

保険診療におけるCGMの費用は、診療報酬点数に基づいて計算されます。1点は10円です。
例えば、「C150血糖自己測定器加算」の「3 持続血糖測定器によるもの」が適用される場合、月々の点数が定められています。

  • isCGM (リブレ等): 1,140点/月
  • rtCGM (デクスコム等): 1,230点/月

これに加えて、センサーやトランスミッターなどの材料費が「C152 在宅使用特定保険医療材料料」として加算されます。

【具体例】3割負担のAさんがisCGM(リブレ)を使用する場合

  1. 技術料: 1,140点 × 10円 = 11,400円
  2. 自己負担額: 11,400円 × 0.3 (3割負担) = 3,420円/月

これに診察料やその他の検査料、薬代などが加わります。機種や個人の状況によって費用は変動するため、これはあくまで目安です。正確な費用については、必ず医療機関の窓口でご確認ください17

保険適用外(自費診療)の場合の選択肢と費用相場

インスリンを使用していない2型糖尿病患者さんや、糖尿病予備群、健康管理目的でCGMを使用したい場合は、自費診療となります。一部のクリニックでは、「血糖値スパイク検査」や「短期CGM体験プログラム」などを自費で提供しています18
費用は医療機関によって大きく異なりますが、センサー1個(2週間分)と診察料、データ解析料などを含めて、2万円〜4万円程度が相場です。健康への投資として価値を見出す人も増えています。

【実践ガイド】CGMを100%活用するためのヒントと注意点

装着と日常生活:痛み、入浴、運動、睡眠への影響と対策

CGMセンサーの装着は、専用の器具を使って簡単に行え、ほとんど痛みを感じません。センサーは耐水性があるため、装着したままシャワーや入浴、水泳も可能です(各製品の仕様をご確認ください)19。しかし、激しい運動や接触プレーのあるスポーツでは、センサーが剥がれたり破損したりする危険性があります。その場合は、市販の保護フィルムやテープで補強することが有効です。また、睡眠中に寝返りなどでセンサーを圧迫すると、一時的に血流が悪化し、実際よりも低い偽の低血糖アラート(圧迫低血糖)が出ることがあります。アラートが鳴った際は、慌てずに姿勢を変えて数分待つか、SMBGで確認することが大切です。

データとの賢い付き合い方:「データ疲れ」を乗り越えるための心理的アプローチ

24時間絶え間なく表示される血糖データは、時に大きなストレスとなることがあります。数値のわずかな上下に一喜一憂し、常にアプリをチェックしてしまう「データ疲れ(alarm fatigue)」は、多くのCGMユーザーが経験する問題です10。大切なのは、完璧を目指さないことです。血糖値は食事や運動だけでなく、ストレス、睡眠、体調など様々な要因で変動します。個々の数値に振り回されるのではなく、TIRの改善といった長期的な傾向に目を向けましょう。アラートの設定を自分に合わせてカスタマイズし、夜間は緊急性の低いアラートをオフにするなどの工夫も有効です。時には意識的にスマートフォンから離れ、データから「休息」することも、CGMと長く付き合っていくための重要な戦略です。

医療機関とのデータ共有:診察をより有意義にするための準備

CGMのデータは、診察時に医師や医療スタッフと共有することで、その価値を最大限に発揮します。多くのCGMシステムは、クラウドを介してデータを医療機関と共有する機能を持っています(例: リブレView, Dexcom Clarity)20。診察前には、自分のデータレポート(特にTIRや平均グルコース値、低血糖・高血糖の頻度やパターンがわかるサマリーレポート)に目を通しておきましょう。「最近、朝方に低血糖が多いようです」「この食事をとると、2時間後に血糖値が200mg/dLを超えます」といった具体的な情報や質問を用意しておくことで、医師はより的確なアドバイスを提供でき、診察がより有意義なものになります。

【トラブル解決】CGMユーザー最大の悩み「皮膚トラブル(かぶれ)」徹底対策

CGMの継続を妨げる最大の要因の一つが、センサーを固定する粘着テープによる皮膚トラブル(接触皮膚炎)です。かゆみ、赤み、水ぶくれなどの症状は、生活の質を著しく低下させます21

なぜ「かぶれ」は起きるのか?原因物質イソボルニルアクリレートと日本人の肌質

近年の研究で、フリースタイルリブレなどのCGMセンサーの粘着剤に含まれる化学物質「イソボルニルアクリレート」が、アレルギー性接触皮膚炎の主要な原因であることが特定されています4。この物質に対するアレルギーを獲得してしまうと、同じセンサーを使い続けることが困難になります。また、日本人は欧米人と比較して皮膚の角質層が薄い傾向があり、外部からの刺激に敏感な場合があることも、トラブルの一因と考えられます。

予防が第一:装着前にできる皮膚保護テクニック

皮膚トラブルを未然に防ぐことが最も重要です。以下のステップを徹底しましょう。

  1. 毎回装着部位を変える: 同じ場所に連続して装着するのを避け、腹部、腕の左右など、ローテーションさせましょう。
  2. 清浄と乾燥: 装着部位をアルコール綿でよく拭き、皮脂や汚れを取り除きます。その後、アルコールが完全に乾くまで待ちます。
  3. 皮膚保護剤の使用: これが最も効果的な対策の一つです。スプレータイプ(例: 3Mキャビロン非アルコール性皮膜)やワイプタイプの皮膚保護剤を装着部位に塗布し、薄い保護膜を形成させます。この膜が皮膚と粘着剤の直接の接触を防ぎます。

日本の薬局で買える!おすすめの皮膚保護剤・テープ・剥離剤リスト

これらの製品は、マツモトキヨシやウエルシアといった大手ドラッグストアの介護用品コーナーや、Amazon.co.jp、楽天市場などのオンラインストアで入手可能です。

  • 皮膚保護剤: 3M キャビロン非アルコール性皮膜、アルケア リモイスコート
  • 保護フィルム (センサーの上から貼る): ニトムズ 優肌パーミロール、エアウォールUV
  • 剥離剤 (剥がす時): 3M キャビロン皮膚用リムーバー、アルケア リモイスクレンズ

YouTubeなどでは、実際のユーザーがこれらの製品を使った具体的な対策法を動画で紹介していることもあり、参考になります22

かぶれてしまった時の対処法:ステロイド外用薬の適切な使い方

もし赤みやかゆみが出てしまった場合は、まずセンサーを剥がし、その部位を優しく洗浄してください。症状が軽い場合は、市販の弱いステロイド外用薬(例: ベトネベートクリームSなど)を短期間使用することで改善することがあります。しかし、症状が強い場合や、改善しない場合は、自己判断で続けずに、必ず皮膚科を受診してください。より強力なステロイド外用薬や抗アレルギー薬の内服が必要となる場合があります。医師に相談する際は、使用しているCGMの製品名を伝えることが重要です。

CGMの未来:血糖値測定はどこへ向かうのか

FreeStyleリブレ3の登場と期待される変化

海外ではすでに、次世代機である「FreeStyleリブレ3」が承認・使用されています23。リブレ3は、センサーサイズがさらに小型化され、スキャン不要のrtCGMとして機能します。精度も向上しており、日本での承認が待たれます。このような技術革新により、CGMはさらに使いやすく、生活に溶け込んだものになっていくでしょう。

針を刺さない「非侵襲性血糖測定」技術の最前線

究極の目標は、皮膚に針を刺すことなく、完全に非侵襲で血糖値を測定する技術です。AppleやSamsungといった巨大テック企業も開発にしのぎを削っており、光や微弱電流、呼気などを用いてグルコース値を測定する研究が進められています24。実用化にはまだ多くの課題がありますが、将来的には腕時計やスマートリングで血糖値を常時モニタリングできる日が来るかもしれません。

結論

持続血糖測定(CGM)は、もはや一部の患者さんだけのものではなく、多くの糖尿病患者さんの生活の質を向上させ、合併症を予防するための標準的なツールとなりつつあります。TIRという新たな指標は、私たちに血糖管理の「質」を教えてくれ、食事や運動への気づきを与えてくれます。
確かに、費用、保険適用の複雑さ、皮膚トラブルといった課題は存在します。しかし、本記事で解説したように、これらの課題の多くは、正確な知識と適切な対策によって乗り越えることが可能です。
最も重要なことは、CGMから得られる豊富なデータを、ご自身の主治医や医療チームとの対話のツールとして活用することです。データに基づいた具体的な相談は、あなたに最適な治療方針を見つけ出すための最短距離となります。CGMという強力なパートナーと共に、ご自身の糖尿病管理を新たなレベルへと引き上げ、より健康で安心な毎日を送られることを、JAPANESEHEALTH.ORG編集部一同、心から応援しています。

よくある質問

CGMを装着したまま、MRIやCT、レントゲン検査を受けられますか?

いいえ、できません。多くのCGMシステム(特にトランスミッター部分)には金属部品が含まれており、MRI検査を受けると機器の故障や火傷の原因となるため、絶対に装着したまま検査室に入らないでください。CT検査やレントゲン検査の場合も、機器の性能に影響を与えたり、画像にアーチファクト(偽の影)を生じさせたりする可能性があるため、検査前に必ず取り外す必要があります。検査を受ける際は、事前に医師や放射線技師にCGMを装着していることを必ず伝えてください2

CGMのデータは家族や介護者と共有できますか?

はい、主要なCGMシステムには、データを遠隔で共有する機能があります。例えば、Abbott社の「リブレLinkUp」25やDexcom社の「フォロー」といった専用アプリを使えば、患者さんのグルコース値を家族や介護者が自身のスマートフォンでリアルタイムに確認できます。特に、お子様や高齢の親御さんの血糖管理において、夜間の低血糖などを離れた場所から見守ることができるため、非常に安心感が高い機能です。

CGMの数値と指先で測る血糖値(SMBG)が違うのはなぜですか?どちらを信じればいいですか?

数値が異なる主な理由は2つあります。一つは、CGMが測定しているのは「間質液グルコース」であり、SMBGが測定する「血糖値」とは5〜10分の「タイムラグ」があるためです。もう一つは、両方の測定方法に固有の「測定誤差」があるためです。治療に関する重要な判断(インスリン投与など)を下す際や、低血糖症状があるのにCGMの数値が高いなど、自覚症状と測定値が一致しない場合は、必ずSMBGで再測定し、その数値を優先してください。これは安全な糖尿病管理における非常に重要な原則です110

保険適用外でもCGMを使う価値はありますか?

価値があるかどうかは、個人の目的や経済状況によります。インスリン治療を受けていない方や糖尿病予備群の方が自費でCGMを使用する主な目的は、食事や運動、生活習慣が血糖値にどのような影響を与えるかを「見える化」し、生活習慣病の予防や改善に役立てることです18。例えば、「ラーメンを食べた後に血糖値がどこまで上がるのか」「ウォーキングが血糖上昇をどの程度抑えるのか」を自分の体で体験的に学ぶことができます。短期的な使用(例:2週間)でも多くの気づきを得られるため、健康への投資として非常に価値が高いと考える人も増えています。

        免責事項本記事は情報提供のみを目的としており、専門的な医学的助言に代わるものではありません。健康上の懸念がある場合、またはご自身の健康や治療に関する決定を下す前には、必ず資格のある医療専門家にご相談ください。

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