脳梗塞
最終更新: 2026年7月 | 編集: JHO編集部(AI技術活用・公的資料に基づく)
✦ 結論から言うと
脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶え、その先の脳組織が壊死する病気で、国立循環器病研究センターは脳の血管が破れる脳出血・くも膜下出血とあわせて「脳卒中」と呼ばれる病気の一種と説明しています[1]。原因の違いから「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」「ラクナ梗塞」の3つの病型(と、それ以外の脳梗塞)に分かれ、それぞれ発症の仕組み・危険因子・治療方針が異なります[1]。顔の麻痺・腕の麻痺・言葉の障害のどれか1つでも急に出たら、発症時刻を確認したうえで様子を見ずただちに119番通報してください——rt-PA静注療法や血栓回収療法は発症からの時間が限られた治療で、対応が早いほど後遺症を減らせる可能性が高くなります[2][3]。数分〜数時間で症状が消えても油断はできません。国立循環器病研究センターが「脳梗塞の前触れ発作」と位置づける一過性脳虚血発作(TIA)の可能性があり[1]、そのままにしておくと短期間のうちに本格的な脳梗塞を起こすリスクが高いことが知られているためです。この記事では、3つの病型の違い、前兆・FASTの見分け方、時間で決まる超急性期治療、危険因子と再発予防、後遺症とリハビリまでを、日本脳卒中学会・国立循環器病研究センターなどの資料にもとづいて整理します。
| 原因 | 脳の血管が動脈硬化やコレステロールの塊(アテローム)で狭くなる・詰まる、心臓にできた血栓が脳へ飛ぶ、脳の細い血管が詰まるなど、病型によって異なる[1] |
|---|---|
| 主な症状 | 片側の顔・腕・脚の麻痺、ろれつが回らない、言葉が出ない、視野が欠ける、めまい・ふらつき(FASTの3項目のいずれか1つでも該当すれば脳卒中の可能性が高い)[1] |
| 受診の目安 | 症状が1つでもあれば様子を見ず即119番。数分〜数時間で症状が消えてもTIA(一過性脳虚血発作)の可能性があり、本格的な脳梗塞の前触れとして扱われるため受診が必要[1] |
脳梗塞とは?脳卒中の中での位置づけと血管が詰まる仕組み
脳は体重の2%ほどの重さしかありませんが、心臓が送り出す血液の多くを消費する臓器で、血流が数分途絶えるだけで神経細胞は壊死し始めます。国立循環器病研究センターは、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで脳組織が死んでしまう状態を「脳梗塞」と呼び、脳の血管が破れて出血する「脳出血」、脳の表面を覆う膜の下に出血する「くも膜下出血」とあわせて、まとめて「脳卒中」と呼んでいると説明しています[1]。日本人の脳卒中のうち脳梗塞が占める割合は高く、脳梗塞はさらに詰まり方の違いから複数の病型に分けて考える必要があります[1]。
脳は、大脳・小脳・脳幹の3つの部分に大きく分かれ、それぞれが運動・感覚・言語・視覚・平衡感覚・呼吸や循環の調節など異なる役割を担っています。脳梗塞で壊死する範囲や場所によって、現れる症状のパターンは大きく変わります。たとえば大脳の運動をつかさどる領域の血管が詰まれば体の片側の麻痺が、言語をつかさどる領域が詰まれば言葉の障害(失語症)が、小脳や脳幹の血管が詰まればめまいやふらつき、物が二重に見える、飲み込みにくさなどが前面に出ることがあります。同じ「脳梗塞」という診断名でも、症状の現れ方は詰まった血管の場所によって大きく異なるという点は、家族や周囲が症状の変化を見守るうえで知っておく価値があります。
脳梗塞は、症状が出た瞬間から時計の針が動き始める病気です。脳の血液の流れが完全に止まると、その部分の神経細胞は数分単位でダメージを受け始めるとされ、時間の経過とともに壊死する範囲(脳梗塞の中心部)が広がっていきます。一方で、完全に血流が止まった中心部の周囲には「ペナンブラ」と呼ばれる、血流は落ちているもののまだ完全には壊死していない組織が存在することがあり、この部分の血流を早期に再開させることができれば、後遺症を最小限にとどめられる可能性があるとされています。超急性期治療(rt-PA静注療法・血栓回収療法)が「発症からの時間」にこだわるのは、まさにこのペナンブラをできるだけ多く救うためです。
| タイプ | 何が起きるか | 血管の状態 |
|---|---|---|
| 脳梗塞 | 血管が詰まり、その先に血液が届かなくなる | 閉塞 |
| 脳出血 | 血管が破れ、脳の中に血の塊ができる | 破裂 |
| くも膜下出血 | 脳の表面を覆う血管(多くは動脈瘤)が破れる | 破裂 |
出典:国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス「脳卒中」[1]
国立循環器病研究センターによれば、脳梗塞は血管の詰まり方によって「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓」と「その他の脳梗塞」に分類され、それぞれおおむね全体の4分の1くらいの割合を占めるとされています[1]。この3つの病型は原因もリスク因子も治療方針も異なるため、「脳梗塞=1つの病気」として一括りにせず、自分(または家族)がどの病型かを主治医に確認しておくことが、再発予防を考えるうえで重要です。次の項目からは、この3つの病型をそれぞれ分けて説明します。
アテローム血栓性脳梗塞とは:太い血管の動脈硬化が原因
アテローム血栓性脳梗塞は、脳や頸部の比較的太い血管の動脈硬化(アテローム硬化)が原因で起こる脳梗塞です[1]。コレステロールなどが血管の内側に蓄積してプラーク(粥腫)と呼ばれる塊を形成し、血管の内腔が徐々に狭くなっていきます。このプラークが破れると、そこに血栓(血の塊)ができて血管を完全に塞いでしまったり、剥がれた血栓やプラークの一部が血流に乗って先の細い血管を塞いだりすることで発症します。頸部の太い血管(頸動脈)が動脈硬化で狭くなる「頸動脈狭窄症」も、この病型と関連の深い病気で、詳しくは関連記事「頸動脈狭窄症の全貌:脳梗塞を防ぐための原因、症状、最新治療法の徹底ガイド」でも解説しています。
危険因子は高血圧・脂質異常症・糖尿病・喫煙など、動脈硬化を進める生活習慣病がそのまま当てはまります[1]。症状は睡眠中や安静時に進行し、起床時に麻痺に気づくという経過をたどることがあるほか、発症前に一過性脳虚血発作(TIA)を繰り返すこともあります。治療は再発予防として抗血小板薬(血液をサラサラにして血栓ができにくくする薬)が使われることが多いとされています[1]。頸動脈の狭窄が高度な場合は、狭窄部分を広げる手術(頸動脈内膜剥離術)や、カテーテルを使ってステントを留置する治療(頸動脈ステント留置術)が検討されることもあります。どちらの治療を選ぶかは、狭窄の程度・場所・全身状態などを総合して脳神経外科医・脳神経血管内治療医が判断する事柄で、無症状の狭窄と、すでにTIAや脳梗塞を起こしたことのある狭窄とでは、治療の必要性の考え方も異なります。
アテローム血栓性脳梗塞は、動脈硬化の進行度合いに応じて、大きく2つの発症パターンがあるとされています。1つは、プラークが破れてその場に血栓ができ、血管そのものを塞いでしまう「血栓性」のパターンです。もう1つは、プラークの一部や、そこにできた血栓の断片が血流に乗って流れ、先のより細い血管を塞いでしまう「塞栓性」のパターンで、こちらは「アテローム塞栓」と呼ばれることもあります。どちらのパターンでも、根本にある動脈硬化そのものを進行させないための管理(血圧・血糖・脂質のコントロール、禁煙)が再発予防の土台になる点は共通しています。診断には、頸動脈エコー検査(頸動脈の壁の厚さや狭窄の有無を調べる超音波検査)やMRA(MRIを使って血管の形を撮影する検査)が用いられ、動脈硬化がどの血管のどの程度の範囲に及んでいるかを把握したうえで治療方針が決められます。
心原性脳塞栓症とは:心房細動など心臓の病気が主因
心原性脳塞栓症は、心臓の中にできた血栓(異物)が血流に乗って脳の血管まで運ばれ、そこで詰まることで発症する脳梗塞です[1]。国立循環器病研究センターは心原性脳塞栓は不整脈など心臓の病気が原因となると説明しており[1]、その代表的な原因が「心房細動」という不整脈です。e-ヘルスネット(厚生労働省)は、心房細動があると心臓の中に血栓ができやすく、それが脳に飛んで脳梗塞を起こすことがあり、心房細動のある人は脳梗塞になる確率がおよそ2〜7倍高くなると説明しています[5]。
心原性脳塞栓症は、比較的太い血管が突然完全に閉塞するため、他の2つの病型に比べて症状が重く、広い範囲の脳がダメージを受けやすい傾向があるとされています。診断には心臓の中に血栓がないかを確認する心エコー検査(心臓超音波検査)が必要になります[1]。治療・再発予防には、血液を固まりにくくする「抗凝固薬」が使われることが多く[1]、アテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞で中心となる抗血小板薬とは薬の種類が異なります。心房細動そのものの管理(脈のコントロールや、場合によってはカテーテル治療)も再発予防の一部として検討されます。一般名レベルでの説明にとどめ、特定の商品名を推奨する趣旨のものではありません。
心原性脳塞栓症は、心臓にできた血栓が比較的大きいまま脳の太い血管に飛ぶことが多いため、広い範囲の脳が一度に血流不足に陥りやすく、意識障害や重い片麻痺、高次脳機能障害を伴いやすい傾向があるとされています。心房細動以外にも、心臓の弁の病気(弁膜症)、心筋梗塞後に心臓の壁にできる血栓、人工弁を入れている人、心臓の中隔に生まれつきの小さな穴がある場合(卵円孔開存)なども、心原性脳塞栓症の原因になることがあります。心房細動は加齢とともに頻度が増える不整脈で、自覚症状がない(無症候性)まま経過していることも少なくありません。健康診断や他の病気の検査で心電図をとった際に心房細動が見つかることもあるため、指摘を受けた場合は自己判断で放置せず、循環器内科で脳梗塞リスクの評価を受けることが重要です。
ラクナ梗塞とは:脳の細い血管(穿通枝)が詰まるタイプ
ラクナ梗塞は、脳の深い部分に血液を送る細い血管(穿通枝)が、主に高血圧による動脈硬化で詰まることによって起こる脳梗塞です[1]。「ラクナ」はラテン語で「小さなくぼみ」を意味し、梗塞巣(壊死した組織)のサイズが小さい(目安として直径15mm未満とされることが多い)ことが名前の由来です。1本の細い血管が担う脳組織の範囲が狭いため、太い血管が詰まるアテローム血栓性脳梗塞や心原性脳塞栓症に比べて、症状が軽く済むことが比較的多いとされていますが、詰まった場所によっては重い麻痺や意識障害を起こすこともあり、油断はできません。
最大の危険因子は高血圧です。長年の高血圧で細い血管の壁が傷み、詰まりやすくなったり血管自体が破れやすくなったりします。そのため、他の2病型と同じく再発予防の柱は生活習慣病(特に血圧)の管理で、抗血小板薬が用いられることが多いとされています[1]。ラクナ梗塞を繰り返すと、手足の麻痺だけでなく、歩行障害や、感情のコントロールが難しくなる・物忘れが増えるといった認知機能の低下(血管性認知症)につながることがあるため、症状が軽いからと自己判断で放置しないことが大切です。
ラクナ梗塞は、症状が軽い、あるいは無症状のまま経過し、脳ドックなどの画像検査で偶然見つかることも少なくありません。このような無症状の小さな梗塞は「無症候性脳梗塞」と呼ばれ、それ自体は緊急の治療を要さないことが多いものの、将来の症候性脳梗塞(症状を伴う脳梗塞)や認知症のリスクが高いことを示すサインとして扱われます。無症候性脳梗塞を指摘された場合も、血圧をはじめとする危険因子の管理を始める良い機会ととらえ、放置せずにかかりつけ医と相談することが勧められます。ラクナ梗塞の代表的な症状パターンには、顔・腕・脚の麻痺が同じ側にまとまって起こる「純粋運動性片麻痺」、感覚だけが障害される「純粋感覚性脳卒中」、ろれつが回らないことと片手の不器用さが同時に起こる「構音障害・手不器用症候群」などがあり、これらは詰まった穿通枝がどの神経経路を担っていたかによって決まります。
アテローム血栓性・心原性・ラクナ梗塞の見分け方
3つの病型は原因もリスクも治療の柱も異なるため、同じ「脳梗塞」でも一括りにはできません。以下の比較表は、あくまで一般的な傾向であり、実際の診断はMRI・CT・心エコー・血管の検査などを総合して医師が行います。
| 項目 | アテローム血栓性脳梗塞 | 心原性脳塞栓症 | ラクナ梗塞 |
|---|---|---|---|
| 詰まる血管 | 脳・頸部の比較的太い血管 | 脳の太い血管(心臓由来の血栓が飛ぶ) | 脳の細い血管(穿通枝) |
| 主な原因 | 動脈硬化(プラーク)[1] | 心房細動など心臓の病気による血栓[1][5] | 高血圧による細い血管の動脈硬化[1] |
| 症状の出方 | 睡眠中・安静時に進行しやすく、TIAを繰り返すことがある | 突然・重症になりやすい | 比較的軽症のことが多いが油断できない |
| 再発予防の柱 | 抗血小板薬・生活習慣病管理[1] | 抗凝固薬・心房細動の管理[1] | 抗血小板薬・血圧管理[1] |
見分けるカギ:心房細動の既往があるか、症状が突然重く出たか(心原性を疑う)、それとも軽い症状の繰り返しか(アテローム血栓性・ラクナを疑う)が、医師が最初に着目するポイントの一つです。ただし自己判断はできず、必ずMRI・心エコーなどの検査で確定診断を受ける必要があります。
なお、脳梗塞にはこの3病型以外にも「その他の脳梗塞(塞栓源不明の脳塞栓症を含む)」という区分があり、詳しい検査を行っても明確な原因が特定できない例も一定数存在します。原因がはっきりしない場合でも、危険因子(高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動の有無など)の管理という基本方針は変わらないため、原因不明であることをもって治療や生活管理を後回しにする理由にはなりません。診断が確定するまでに複数回の検査(長期間の心電図モニタリングなど)を要することもあり、その間は医師の指示に従って経過を見ていくことになります。
前兆・TIA(一過性脳虚血発作):症状が消えても脳梗塞の警告
国立循環器病研究センターは、一過性脳虚血発作(TIA)を「脳梗塞の前触れ発作」と位置づけています[1]。TIAは、脳の血管が一時的に詰まって片麻痺やろれつが回らないといった脳梗塞と同じ症状が出るものの、血流がすぐに再開するため、多くは数分から1時間程度、長くても24時間以内に症状が完全に消えてしまうのが特徴です。症状が消えたからといって「大丈夫だった」と考えるのは危険です——TIAを起こした人は、その後の短期間のうちに本格的な脳梗塞を発症するリスクが高いことが知られており、TIAは「脳梗塞になる前の最後の警告サイン」として扱われます。
TIA後に脳梗塞を起こすリスクを見積もる指標として、年齢(Age)・血圧(Blood pressure)・症状の内容(Clinical features)・症状の持続時間(Duration)・糖尿病の有無(Diabetes)の頭文字をとった「ABCD²スコア」が国際的に使われています。点数が高いほど、TIA後短期間での脳梗塞発症リスクが高いと評価されますが、点数が低いからといって受診を先延ばしにしてよいわけではありません。ABCD²スコアは、年齢60歳以上(1点)、血圧140/90mmHg以上(1点)、症状が片側の麻痺(2点)またはろれつが回らない・言葉が出ないなど麻痺を伴わない言語症状(1点)、症状の持続時間が60分以上(2点)または10〜59分(1点)、糖尿病の既往(1点)の合計で評価され、点数が高いほど注意が必要とされています。ただし、このスコアはあくまで参考情報であり、点数が低いことを理由に受診を先延ばしにしてよい根拠にはなりません。症状が完全に消えていても、TIAを疑う症状があった時点で、できるだけ早く(できればその日のうちに)脳神経内科・脳神経外科を受診し、原因検索(頸動脈やMRIの検査、心房細動の有無の確認など)を受けることが、その後の脳梗塞を防ぐ最も確実な方法です。TIAについてさらに詳しく知りたい方は、関連記事「一過性脳虚血発作(TIA)とは?脳梗塞の危険な前兆を見抜く症状・原因・対処法」および「脳梗塞の最終警告「一過性脳虚血発作(TIA)」- 症状が消えても即受診すべき理由をABCD²スコアで解説」もあわせてご確認ください。
症状とFAST:顔・腕・言葉・時刻の4つのサイン
脳梗塞の症状は、詰まった血管が担当する脳の場所によって様々ですが、代表的なものに片麻痺(体の片側の手足に力が入らない)、構音障害(ろれつが回らない)、失語(言葉が出てこない・理解できない)、視野障害(片方の視野が欠ける)、めまい・ふらつきなどがあります[1]。これらの症状を、その場にいる人(本人や家族、周囲の人)がすぐに気づけるようにまとめた合言葉が「FAST」です。
| 頭文字 | 意味 | チェック方法 |
|---|---|---|
| F:Face(顔) | 顔の片側が麻痺していないか | 「イー」と歯を見せてもらい、口角が片側だけ下がっていないか確認 |
| A:Arm(腕) | 片方の腕に力が入らないか | 両腕を前に伸ばして目を閉じてもらい、片方の腕だけ落ちてこないか確認 |
| S:Speech(言葉) | 言葉が出にくい・ろれつが回らないか | 短い文章を言ってもらい、うまく話せるか確認 |
| T:Time(時刻) | 発症時刻の確認とすぐ119番 | 症状に気づいた時刻(最後に元気だった時刻)を確認し、直ちに救急要請 |
出典:国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス「脳卒中」(FASTの脳卒中診断的中率はおよそ80%近いと紹介されています)[1]
国立循環器病研究センターは「FASTの3項目のうち1つでも該当する場合、脳卒中の可能性が高いと考えます」と説明しており[1]、FAST該当時点で脳卒中である診断的中率はおよそ80%近いとも紹介されています[1]。つまりFASTの4項目のうち1つでも当てはまれば、それが脳梗塞なのか脳出血なのかをその場で判断しようとせず、症状が軽くても・一時的にでも、ためらわずに119番通報することが最優先です。rt-PA静注療法や血栓回収療法は発症からの時間で適応が決まる治療のため、Time(発症時刻の確認)は治療方針を左右する重要な情報になります[2][3]。
FASTの4項目に加えて、片方の視野が急に欠ける(視野障害)、物が急に二重に見える(複視)、片方の目が急に見えにくくなる(一過性黒内障を含む)、急にひどいめまいでまっすぐ歩けなくなる、今までにない激しい頭痛が突然起こるといった症状も、脳梗塞や脳出血を疑うべきサインです。これらはFASTの3項目ほど広く知られていないものの、小脳や脳幹、後頭葉(視覚をつかさどる部分)の脳梗塞では、麻痺よりもめまいや視野障害が前面に出ることがあります。「いつもと違う、初めて経験する激しい症状」が急に起きた場合は、FASTに当てはまらなくても様子を見ず医療機関に相談することが安全です。医療現場では、救急隊や医師が脳卒中の重症度をより詳しく評価するために、NIHSS(National Institutes of Health Stroke Scale)と呼ばれる神経学的な評価スケールも用いられます。NIHSSは、意識レベル、視野、顔面麻痺、手足の運動、感覚、言語、注意力など複数の項目を点数化するもので、治療方針の判断や、治療前後の症状の変化を客観的に比較する目的で使われます。一般の人がその場で行う評価はFASTで十分であり、詳しい評価は医療機関に任せることになります。発症時刻がはっきりしない場合(起床時にすでに症状があった場合など)は、「最後に元気な様子が確認できた時刻」を発症時刻の代わりとして扱うのが救急医療の基本的な考え方で、この時刻の情報も治療方針の判断材料になります。
超急性期治療:時間が命を分けるrt-PA静注療法と血栓回収療法
脳梗塞は「Time is Brain(時間は脳)」と表現されるほど、治療開始までの時間が予後を大きく左右する病気です。詰まった血管の先の脳組織は、血流が再開しないまま時間がたつほど不可逆的に壊死が広がっていくため、超急性期(発症直後)には血管の詰まりそのものを取り除く2つの治療法が中心になります。
rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法
rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法は、血栓を溶かす薬(アルテプラーゼ)を点滴で投与し、詰まった血管の血流を再開させる治療です。日本脳卒中学会の「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針」は、静注血栓溶解療法を発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害の患者に対して行うことを推奨しています[2]。この4.5時間という時間枠は、以前の「発症から3時間以内」から拡大されてきた経緯があります。日本では、日本人向けの臨床試験結果にもとづいてアルテプラーゼ0.6mg/kgを静注する用法が推奨されており、海外で用いられている用量とは異なります[2]。
4.5時間以内であればいつ治療を始めても同じ、というわけではありません。同指針は、発症後4.5時間以内であっても治療開始が早いほど良好な転帰が期待できるとし、適応基準から逸脱してアルテプラーゼを投与すると症候性頭蓋内出血(脳出血の合併症)や死亡のリスクが高まるため、日本脳卒中学会の定めた適応基準に沿って慎重に対象患者を選ぶべきだとしています[2]。出血しやすい持病がある人、最近手術を受けた人、重度の高血圧がある人などは対象から外れることがあり、最終的な適応判断は救急外来で医師が行います。
血栓回収療法(機械的血栓回収療法)
血栓回収療法は、カテーテルを血管の中に通し、専用の機器で脳の血管に詰まった血栓を直接絡め取ったり吸引したりして取り除くカテーテル治療です。rt-PA静注療法だけでは血栓が溶けきらない太い血管の閉塞(心原性脳塞栓症など)に対して特に有効とされ、rt-PA静注療法と組み合わせて行われることもあります。日本脳卒中学会・日本脳神経外科学会・日本脳神経血管内治療学会による「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針」は改訂を重ねており、対象となる患者の選び方や治療開始までの時間枠について、画像検査(CT・MRIで脳のダメージの範囲を確認するミスマッチ判定など)による選別を前提に、より長い時間枠での治療を推奨する内容へと更新されてきています[3]。
rt-PA静注療法(発症4.5時間以内)に比べ、血栓回収療法は画像検査で「まだ助けられる脳組織が残っている」と判定できれば、より発症から時間が経過した患者にも治療の可能性が残されている点が特徴です。ただし、この時間枠は画像所見によって個別に判断されるものであり、時間が経過しているほど治療で救える脳組織の範囲は狭まっていきます。「まだ時間内だから大丈夫」と自己判断で受診を遅らせてよい理由には一切なりません。発症に気づいた時点(最後に元気だった時刻)ができるだけ早く医療機関に伝わることが、実施できる治療の選択肢を最大限に残すことにつながります[2][3]。具体的な適応基準・除外基準は個々の患者の状態や施設の体制によって異なるため、最終的な判断は搬送先の脳卒中専門医にゆだねられます。血栓回収療法は、太い血管の閉塞(特に心原性脳塞栓症で多い)に対して特に効果が期待される一方、脳の奥深くにある細い血管(ラクナ梗塞の原因血管)にはカテーテルが届かないため対象になりません。このように、超急性期治療の選択肢は病型によっても変わってくる点は覚えておく価値があります。
治療後は、症候性頭蓋内出血(治療の合併症としての脳出血)が起きていないかを確認するための画像検査や、血圧・神経症状の変化を頻回にチェックする集中的な観察が数日間続きます。治療がうまくいって血流が再開した場合でも、脳のむくみ(脳浮腫)が数日かけて進行し、一時的に症状が悪化することがあるため、急性期の入院中は経過を注意深く見守る必要があります。多くの病院では、脳卒中専門の医師・看護師・リハビリスタッフが連携して急性期から一貫した治療とケアにあたる「脳卒中ケアユニット(SCU)」などの体制が整えられています
出典:日本脳卒中学会「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針」[2]/日本脳卒中学会・日本脳神経外科学会・日本脳神経血管内治療学会「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針」[3]
検査・診断の流れ:CT・MRI・心エコー・頸動脈エコー
脳梗塞が疑われる場合、救急外来ではまず頭部CT検査が行われるのが一般的です。CTは短時間で撮影でき、脳梗塞と紛らわしい脳出血をまず除外できる点が最大の利点です。脳梗塞そのものは、発症直後のCTでははっきり写らないことも多いため、より詳しく脳のダメージの範囲を確認する目的で、引き続きMRI検査(特に拡散強調画像と呼ばれる撮影法)が行われます。MRIは発症から数十分〜数時間というごく早い段階でも脳梗塞の範囲を描出できることが多く、超急性期治療の適応を判断するうえで重要な情報源になります。
血管そのものの状態を調べるために、MRA(MRIを使った血管の撮影)やCTA(CTを使った血管の撮影)、頸動脈エコー(超音波)検査も組み合わせて行われます。これらの検査で、どの血管がどの程度詰まっている・狭くなっているかを把握することが、アテローム血栓性脳梗塞かどうかの判断材料になります。心原性脳塞栓症が疑われる場合は、心臓の中に血栓がないか、心臓の壁の動きに異常がないかを確認する心エコー検査(心臓超音波検査)と、不整脈の有無を確認する心電図検査(一時的な心電図だけでなく、24時間心電図やより長期間の記録が必要になることもあります)が診断の柱になります。血液検査では、血糖値・脂質・血液の固まりやすさに関する項目などを確認し、危険因子の評価や治療薬の選択に役立てます。
脳梗塞と症状がよく似ているものの原因が異なる病気(脳梗塞のまねをする病気、いわゆる「ストローク・ミミック」)も存在します。低血糖(血糖値が下がりすぎること)、てんかん発作の後に一時的に麻痺のような症状が出る状態(トッド麻痺)、片頭痛に伴う神経症状、心因性の症状などが代表例です。これらは治療方針がまったく異なるため、救急外来では脳梗塞の可能性を最優先に考えつつ、血糖値の測定など基本的な検査を組み合わせて鑑別を進めます。周囲の人が「様子がおかしい」と感じた場合、原因の見極めは医療者に任せ、まずは救急要請を優先することが安全です。
危険因子:高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動・喫煙・加齢
脳梗塞の危険因子は、3つの病型に共通するものと、病型ごとに特に重要なものがあります。e-ヘルスネット(厚生労働省)は、高血圧が脳血管障害(脳卒中)の最大の原因であり、高血圧が長く続くと動脈硬化が進行し、やがて脳の血管が詰まって脳梗塞になると説明しています[5]。
| 危険因子 | 関連する主な病型 | ポイント |
|---|---|---|
| 高血圧 | アテローム血栓性・ラクナ梗塞 | 動脈硬化を進め、太い血管・細い血管の両方を傷める[5] |
| 糖尿病 | アテローム血栓性・ラクナ梗塞 | 血管の壁を傷めやすくし、動脈硬化を加速させる |
| 脂質異常症 | アテローム血栓性 | コレステロールがプラーク(アテローム)を形成する主な材料になる |
| 心房細動 | 心原性脳塞栓症 | 心房細動があると脳梗塞になる確率がおよそ2〜7倍高くなる[5] |
| 喫煙 | 共通 | 血管を収縮させ動脈硬化・血栓形成を促進する |
| 加齢 | 共通 | 年齢とともに動脈硬化・心房細動の頻度がともに上がる |
出典:e-ヘルスネット(厚生労働省)「脳血管障害・脳卒中」[5]
これらの危険因子は、単独ではなく重なるほどリスクが跳ね上がることが知られています。高血圧に糖尿病・脂質異常症・喫煙が重なっている人は、どれか1つだけの人よりもはるかに注意が必要です。危険因子の多くは生活習慣の見直しや薬物治療でコントロールできるものであり、次の「再発予防」の項目とあわせて、日頃からの管理が発症・再発の両方を防ぐ土台になります。
このほか、肥満・運動不足・過度の飲酒・慢性腎臓病・睡眠時無呼吸症候群なども脳梗塞のリスクを高める要因として知られています。特に睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に呼吸が繰り返し止まることで血圧が変動しやすくなり、心房細動のリスクも高めるとされ、いびきが大きい・日中の強い眠気があるといった症状に心当たりがある場合は、一度専門の検査を検討する価値があります。また、若い世代(40歳未満)でも、片頭痛(特に前兆を伴うタイプ)、経口避妊薬の使用、喫煙、生まれつきの血液の固まりやすさ(血栓性素因)などが重なることで脳梗塞を発症することがあり、「脳梗塞は高齢者の病気」という思い込みで若い人の症状を軽視しないことも大切です。危険因子の数は、年齢を重ねるほど、また生活習慣を見直さないまま過ごす期間が長いほど増えていく傾向があります。健康診断で血圧・血糖・脂質のいずれかに異常を指摘された場合、その時点では自覚症状がなくても、将来の脳梗塞リスクに関わるサインとして受け止め、再検査や生活習慣の見直しを先延ばしにしないことが、長期的に見て最も費用対効果の高い予防策だといえます。
再発予防:抗血小板薬・抗凝固薬の役割と生活習慣管理
脳梗塞は再発しやすい病気であることが、国内の疫学研究で示されています。福岡県久山町で行われた長期追跡研究(久山町研究)では、脳卒中の累積再発率は5年で35.3%、10年で51.3%にのぼると報告されています[4]。再発を防ぐためには、危険因子の管理と薬物療法の両輪が欠かせません。なお、この5年35.3%・10年51.3%という数値は脳卒中全体(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血を含む)の累積再発率であり、アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞それぞれの病型別に区分した再発率の数値については、今回参照した資料には明確な記載が見当たりませんでした。病型によって再発リスクの傾向が異なることは知られているものの、正確な数値は主治医に確認することをおすすめします。同様に、抗血小板薬・抗凝固薬をどのくらいの期間続けるべきかという点も、病型・持病・出血リスクなど個々の事情によって変わるため、一律の目安を示すことはできません。「一生飲み続けるのか、いつかやめられるのか」といった疑問は、自己判断で服薬を調整せず、必ず主治医との対話の中で確認してください。
薬物療法は、病型によって使う薬の種類が異なります。アテローム血栓性脳梗塞とラクナ梗塞では、血小板の働きを抑えて血栓ができにくくする「抗血小板薬」が再発予防の中心として使われることが多いとされています[1]。一方、心房細動が原因となる心原性脳塞栓症では、血液を固まりにくくする「抗凝固薬」が使われることが多いとされ[1]、抗血小板薬とは作用の仕組みが異なります。どちらの薬も出血のリスクを伴うため、自己判断で服薬を中止したり量を調整したりせず、必ず主治医の指示に従うことが重要です。一般名レベルでの説明にとどめ、特定の商品名を推奨する趣旨のものではありません。
生活習慣の面では、血圧・血糖・脂質の管理、禁煙、節度ある飲酒、適度な運動、塩分を控えた食事が、危険因子のコントロールを通じて再発予防につながります。具体的には、血圧は診察室だけでなく自宅での測定(家庭血圧)を毎日記録し目標値に近づけること、塩分は1日6g未満を目安にすること、有酸素運動(ウォーキングなど)を無理のない範囲で継続すること、禁煙を徹底することなどが、脳梗塞の再発予防に共通して推奨される生活習慣です。心房細動がある人は、不整脈そのものの管理(脈拍のコントロールや、場合によってはカテーテルアブレーションなどの専門的治療)についても、循環器内科と相談しながら進めることが勧められます。定期受診を続け、血液検査や画像検査で危険因子や薬の効き具合を確認し続けることが、再発予防を長く続けるための基本になります。脳梗塞全体の治療・再発予防をさらに詳しく知りたい方は、関連記事「脳梗塞の全知識:最新治療から再発率を下げる生活習慣までを徹底解説」もあわせてご確認ください。心房細動そのものの管理については、ハブ「不整脈(徐脈・頻脈)」で詳しく解説しています。血圧管理については、ハブ「高血圧」もご参照ください。
後遺症・リハビリ:片麻痺・高次脳機能障害・嚥下障害
脳梗塞は、壊死した脳組織が担っていた機能に応じて、様々な後遺症を残すことがあります。代表的なものが、体の片側の手足が動かしにくくなる「片麻痺」です。麻痺の程度は、詰まった血管の場所と範囲、治療開始までの時間によって大きく異なります。
「高次脳機能障害」は、記憶力の低下、注意力の散漫、感情のコントロールが難しくなる、言葉の理解や表出が難しくなる(失語症)、動作の手順がわからなくなる(失行)、物の形や人の顔が認識しにくくなる(失認)といった、目に見えにくい脳機能の障害の総称です。周囲から見ると「わがままになった」「前と性格が変わった」と誤解されやすいため、家族や周囲の理解とサポートが重要になります。特に、体の左半分の空間に対する注意が向きにくくなる「半側空間無視」は、本人が気づきにくい一方で、食事の際に皿の片側だけ食べ残す、壁にぶつかりやすいといった形で日常生活に影響するため、リハビリの中で専門的な評価と訓練が行われます。「嚥下障害」は、食べ物や飲み物をうまく飲み込めなくなる状態で、誤って気管に入ってしまう誤嚥から肺炎(誤嚥性肺炎)を起こすリスクが高まるため、専門的な嚥下評価とリハビリが必要になることがあります。嚥下障害がある場合、食事の形態をとろみをつけたものや刻み食に調整したり、飲み込みやすい姿勢を工夫したりすることが、誤嚥性肺炎の予防につながります。回復期には嚥下訓練を重ねることで経口摂取(口から食べること)に戻れる例も多い一方、状態によっては胃ろうなどの代替的な栄養手段が検討されることもあり、これは本人・家族と医療チームが話し合いながら決めていく事柄です。
これらの後遺症に対しては、発症直後の急性期から回復期・生活期へと段階を追ってリハビリテーションが行われます。理学療法(体を動かす訓練)、作業療法(日常生活動作の訓練)、言語聴覚療法(言葉や飲み込みの訓練)を組み合わせ、脳の機能回復や、失われた機能を他の部分で補う工夫を行っていくのが一般的な考え方です。急性期病院で症状が落ち着いた後は、集中的にリハビリを行う「回復期リハビリテーション病棟」に転院し、一定期間(症状や制度上の上限日数の範囲内で)機能回復を目指すという流れが一般的です。その後は自宅や施設に戻り、外来でのリハビリや訪問リハビリ、デイケアなどを利用しながら、生活期のリハビリを継続していくことになります。
リハビリの効果や回復の見込みは、脳のダメージの範囲や年齢、発症からリハビリを始めるまでの時間、本人の意欲など個人差が大きく、一律に「何ヶ月で治る」と言い切れるものではありません。一般的には、発症から時間が経つほど回復のペースはゆるやかになっていく傾向があるとされますが、継続したリハビリによって長期的にも生活の質が改善する例は少なくありません。介護保険サービス(訪問リハビリ、通所リハビリ、福祉用具のレンタルなど)や身体障害者手帳の取得は、後遺症の程度に応じて利用できる公的な支援制度です。回復の見通しやリハビリの内容については、担当医・リハビリスタッフ・医療ソーシャルワーカーに個別に相談することが重要です。
受診の目安:FAST該当は迷わず救急要請
脳梗塞は、症状が出てからの時間が治療の選択肢を大きく左右する病気です。以下の目安に沿って、様子を見ず速やかに対応してください。
| レベル | サイン | 対応 |
|---|---|---|
| 今すぐ救急要請 | 顔の麻痺・腕の麻痺・言葉の障害(FASTのいずれか1つでも)、突然の激しい頭痛、意識障害、片方の視野が欠ける、強いめまい・ふらつき | 発症時刻を確認し、すぐ119番。自家用車での搬送より救急車が優先されることが多い[1] |
| すぐ受診 | 症状が数分〜数時間で消えた(TIAが疑われる) | 症状が消えても放置せず、できるだけ当日〜数日以内に脳神経内科・脳神経外科を受診[1] |
| 早めに相談 | 心房細動と診断されている、高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理が不十分 | 再発・初発予防のため、循環器内科・かかりつけ医で定期的に相談 |
出典:国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス「脳卒中」[1]
高齢者の場合:高齢者は症状が典型的でないまま(軽いふらつきや、いつもと違う様子だけで)発症することがあり、認知症や持病と間違われて発見が遅れることがあります。普段と様子が違うと感じたら、年齢のせいと自己判断せず、FASTを確認したうえで早めに医療機関に相談してください。
持病がある人の場合:心房細動・糖尿病・高血圧などの持病がある人は、そもそも脳梗塞のリスクが高い集団であるため、軽い症状でも様子見をせず早めに受診することが安全です。
救急要請時に伝えるとよいこと:119番通報の際は、症状に気づいた時刻(最後に元気だった時刻)、症状の内容(顔・腕・言葉のどれか)、持病(高血圧・糖尿病・心房細動など)や服用中の薬(特に血をサラサラにする薬)の有無を落ち着いて伝えると、搬送先の選定や治療方針の判断がスムーズになります。可能であれば、お薬手帳や服用中の薬がわかるものを一緒に持っていくとよいでしょう。救急車を待つ間は、本人を安静にし、嘔吐に備えて顔を横に向けるなどの対応をしつつ、食べ物や飲み物は与えないようにしてください(飲み込みの機能が低下している可能性があるため)。
日本と海外のガイドラインの違い:rt-PA・血栓回収療法の位置づけ
脳梗塞の超急性期治療は、国・地域によって承認されている薬の用量や、ガイドラインの改訂時期が異なります。日本では、日本人を対象とした臨床試験の結果にもとづき、アルテプラーゼの投与量として0.6mg/kgが推奨されています[2]。欧米では、これより多い用量が標準的に用いられてきた経緯があります。この違いは、どちらが「正しい・間違い」ということではなく、各国で行われた臨床試験の結果にもとづいて、それぞれの学会が最も安全で効果的と判断した用量を採用しているためです。日本で0.6mg/kgという海外より低い用量が採用されているのは、日本人を対象とした臨床試験(J-ACT試験など)で、この用量でも十分な効果が確認され、かつ出血の合併症をより抑えられる可能性が示されたという経緯によるものとされています。海外に住む家族などから「向こうでは薬の量がもっと多いと言われた」という話を聞いても、それ自体が誤りというわけではなく、参照している国のガイドラインが異なるために起きる違いだと理解しておくとよいでしょう。また、日本は高齢化が進んでいることもあり、脳梗塞の中でも心原性脳塞栓症(心房細動が原因となるタイプ)の占める割合が今後さらに増えていくと考えられています。心房細動そのものの管理(早期発見・脈のコントロール・抗凝固薬による治療)の重要性は、日本循環器学会など関連学会からも繰り返し強調されているテーマです。
| 項目 | 日本(日本脳卒中学会) | 海外の主なガイドライン |
|---|---|---|
| アルテプラーゼ投与量 | 0.6mg/kg[2] | 日本より多い用量が用いられることが多い |
| 適応時間枠 | 発症4.5時間以内[2] | 発症4.5時間以内(多くの国で共通) |
血栓回収療法についても、対象患者を選ぶための画像判定基準や、時間枠の考え方は各国のガイドライン改訂のたびに更新されており、日本脳卒中学会など関連3学会による適正使用指針も版を重ねて内容が更新されてきています[3]。日本の医療現場は日本脳卒中学会のガイドラインに沿って診療していますが、海外に住む家族などから「向こうではこう言われた」という話を聞いた場合、どちらかが誤りというより、参照している国・ガイドラインの版が異なる可能性がある、という視点を持つことが役立ちます。最新の詳しい適応基準・除外基準は、今回参照した資料の一部が専門家向けの技術的な記載を中心としており、本記事では一般向けに大枠の考え方を紹介するにとどめています。個別の治療方針は必ず担当医にご確認ください。
医療費の目安
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
脳梗塞の急性期治療(rt-PA静注療法・血栓回収療法・入院・リハビリなど)は保険診療の対象で、医療費が高額になった場合は高額療養費制度の対象になり得ます。自己負担限度額は年齢や所得区分によって異なるため、加入している健康保険(協会けんぽ・組合健保・国民健康保険など)の窓口にあわせて確認することをおすすめします。後遺症が重く残り、日常生活に介護が必要になった場合は、身体障害者手帳の取得や介護保険サービスの利用が選択肢になります。手続きの詳細はお住まいの自治体の窓口でご確認ください。
入院日数は、急性期治療の内容や後遺症の程度、その後リハビリのために転院するかどうかによって大きく異なります。急性期病院での入院に続けて回復期リハビリテーション病棟に転院する場合、そちらでの入院期間も別途かかります。65歳以上で要介護状態と認定された場合は介護保険サービスを、40〜64歳で脳血管疾患が原因の場合も特定疾病として介護保険サービスを利用できることがあります。退院後の生活を見据えた医療費・介護費の相談は、入院中から病院の医療ソーシャルワーカーに相談しておくと、退院後の手続きがスムーズになります。再発予防のために継続する抗血小板薬・抗凝固薬や、血圧・血糖・脂質を管理する薬の費用も、長期的には家計への影響が小さくありません。ジェネリック医薬品(後発医薬品)への切り替えが可能かどうかも含めて、費用面の相談は薬局の薬剤師や主治医に遠慮なく行ってよい事柄です。
受診時・救急要請時に伝えるとよいこと
脳梗塞が疑われる場面では、限られた時間の中で必要な情報を的確に伝えることが、その後の治療方針の判断を助けます。まず伝えるべきは「症状に気づいた時刻(最後に元気だった様子が確認できた時刻)」です。これは発症時刻として扱われ、rt-PA静注療法や血栓回収療法の適応時間枠の判断に直結する情報になります[2][3]。次に「どの症状が、どちらの側に、どのように現れたか」(例:右手が動かない、左側の口角が下がっている、言葉が出てこないなど)を、できるだけ具体的に伝えてください。
持病(高血圧・糖尿病・脂質異常症・心房細動・過去の脳梗塞や心筋梗塞の既往など)と、現在服用中の薬(特に抗血小板薬・抗凝固薬など血をサラサラにする薬)の情報も重要です。これらは、超急性期治療の適応可否や出血リスクの評価に直接関わる情報だからです。お薬手帳や薬のシート、お薬が分かるメモを一緒に持参できると、救急外来での確認がスムーズになります。糖尿病がある場合は、低血糖が脳梗塞と似た症状(意識障害やろれつが回らないなど)を起こすことがあるため、直前の食事や血糖値、インスリンや血糖降下薬の使用状況も伝えられるとよい情報になります。妊娠中である場合や、最近大きな手術・出血を伴うけがをした場合も、超急性期治療の適応判断に影響するため必ず伝えてください。
よくある質問(FAQ)
脳梗塞の前兆にはどんなものがありますか?
TIA(一過性脳虚血発作)は症状が消えたら放置してよいですか?
脳梗塞の後遺症は治りますか?
脳梗塞の再発率はどれくらいですか?
脳梗塞は何科を受診すればよいですか?
rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法はどんな人でも受けられますか?
血栓回収療法はrt-PAより長い時間でも受けられるのですか?
アテローム血栓性脳梗塞・心原性脳塞栓症・ラクナ梗塞はどう違いますか?
心房細動があると脳梗塞のリスクはどれくらい上がりますか?
脳梗塞を予防するにはどうすればよいですか?
脳梗塞の危険因子にはどんなものがありますか?
脳梗塞と脳出血・くも膜下出血は何が違いますか?
脳梗塞は若い人でも起こりますか?
脳梗塞の後遺症に対するリハビリはいつから始めますか?
脳梗塞は3つの病型それぞれで原因や治療の重点が異なるうえ、超急性期治療の適応基準や画像判定の詳細は日々更新が続いている領域でもあります。特に血栓回収療法の時間枠の考え方や、個々の患者に対する適応・除外基準の細部については、今回参照した学会の指針の中でも専門家向けの技術的な記載にとどまっている部分があり、本記事ではその大枠のみを紹介しています。再発率についても、本記事で紹介した久山町研究の数値はあくまで1つの疫学調査にもとづくものであり、個人の再発リスクは危険因子の管理状況や病型によって大きく異なります。ご自身やご家族の状況に当てはめた判断は、必ず担当医にご確認ください。
脳梗塞に関する記事一覧
記事一覧 6件
症状・見分け方 1
治療・薬 3
合併症・リスク 2
参考文献
- 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス「脳卒中」 ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2
- 日本脳卒中学会 脳卒中医療向上・社会保険委員会「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2023年9月追補」 jsts.gr.jp/img/rt-pa03_supple.pdf
- 日本脳卒中学会・日本脳神経外科学会・日本脳神経血管内治療学会「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第5版」2023年8月 jsnet.website/cms/wp-content/uploads/2025/07/202308.pdf
- 久山町研究の脳梗塞再発率データ(5年35.3%・10年51.3%)を紹介する医療機関資料 osaki-clinic.jp(脳梗塞の再発率と再発予防)
- e-ヘルスネット(厚生労働省)「脳血管障害・脳卒中」 kennet.mhlw.go.jp/information/information/metabolic/m-05-006.html
