脳出血とは?脳梗塞との違いと症状・前兆・治療をガイドラインで解説
この記事でわかること
目次
- 脳出血(脳内出血)とは?脳梗塞・くも膜下出血との違いと起こる仕組み
- 出血部位(被殻・視床・皮質下・小脳・脳幹)で症状と重さが変わる
- 受診の目安:「FAST」のサインが一つでもあれば、意識があっても今すぐ119番
- 発症直後の治療 — 血圧管理と手術の判断基準
- 血圧管理 — 日本脳卒中学会のガイドラインが示す基準
- 日本と米国のガイドライン比較 — 「一致」ではなく、それぞれの基準
- 手術の判断基準 — 場所によって「する」「しない」が分かれる
- 検査でどう確定診断するのか、入院後は何を管理しているのか
- 発症後、症状が数日かけて変化するのはなぜか
- 意識が戻らないとき、治療方針はどう決まるのか
- 危険因子 — 高血圧・抗血栓薬・脳アミロイド血管症・飲酒・喫煙
- 後遺症とリハビリ、そして再発予防
- 入院にかかる費用の目安
- よくある質問
- 参考文献
結論から言うと、脳出血(脳内出血)は脳の中の細い血管が破れて血のかたまり(血腫)ができる病気で、国立循環器病研究センターは「脳梗塞よりも後遺症が残ることが多く、死亡率も脳梗塞より高い」としています[1]。原因の大半は高血圧で、出血する場所(被殻・視床・皮質下・小脳・脳幹)によって症状も重さも変わります[5]。
この症状、いつ受診すべきか確認しますか?
回答に合わせて必要な質問だけを表示します。診断は行いません。
症状はいつから続いていますか?
回答により質問数が変わります・途中でいつでも記事に戻れます
循環器病研究振興財団(国立循環器病研究センターの医師が執筆)の資料が示す通り、顔のゆがみ・片腕の麻痺・ろれつが回らないの一つでも突然現れたら、意識がはっきりしていても、たとえ症状がいったん軽くなっても、自分で車を運転せず、ためらわずに119番です[2]。日本脳卒中学会のガイドラインによれば、急性期は血圧をできるだけ早く安定させることが治療の柱で、出血の場所によっては手術が検討されます[9]。高血圧対策の続きは既存記事、退院後の生活は別記事に譲り、ここでは「発症直後に何が起きていて、何をすべきか」だけに絞って整理します。
要点まとめ
- 循環器病研究振興財団の資料によれば、脳出血は血管が「破れる」病気、脳梗塞は血管が「詰まる」病気。脳卒中のうち脳梗塞が4分の3を占め、脳出血とくも膜下出血が残りを占めるとされています[2]。
- 厚生労働省の人口動態統計によれば、2024年の脳内出血による死亡数は32,561人(脳血管疾患全体102,808人の一部)です[4]。
- 船橋市立医療センターの資料によれば、出血部位別の頻度は被殻35〜45%、視床25〜33%、皮質下(脳葉)10〜20%、小脳5〜10%、脳幹(橋)4〜9%です[5]。
- 循環器病研究振興財団の資料によれば、危険信号は「顔・腕・言葉」+発症時刻(FAST)。一つでも当てはまれば119番、自分での運転は禁止です[2]。
- 日本脳卒中学会・協会の資料によれば、受診の目安は意識障害・片麻痺・経験したことのない激しい頭痛のいずれかが突然出たとき。様子見せず今すぐ救急要請です[3]。
〈編集方針〉JHO編集部がAIツールの支援を受け、国立循環器病研究センター・日本脳卒中学会・厚生労働省・大学病院などの公的情報源と照合して作成しました。最終確認は人の目で行っています。医師による個別診断・治療方針の決定の代わりにはなりません。数値・分類はガイドラインの改定により変わることがあります(2026年7月時点の情報です)。
🖨️ 発症時刻の確認シート — 家族が救急隊・医師に伝える3つの時刻
日本脳卒中学会監修の資料は、脳卒中を疑ったら次の3つの時刻を確認するよう勧めています[3]。同資料は「治療は早く開始するほど効果があります」としており、時刻の情報は症状そのものと同じくらい重要になります。
- ①発症した時刻(本人の症状が出現した時刻)
- ②発見した時刻(周りの人が症状に気づいた時刻)
- ③最後に無事だった時刻(何事もなく普段どおりだった、確認できる最後の時刻)
本人が眠っている間に発症した場合など、①が分からないことは珍しくありません。その場合は③をできるだけ正確に伝えてください[3]。スマートフォンのメモや家族への電話履歴の時刻を、そのまま救急隊に見せるだけでも十分です。
脳出血(脳内出血)とは?脳梗塞・くも膜下出血との違いと起こる仕組み
国立循環器病研究センターの資料によれば、脳卒中は「脳の血管の病気」の総称で、血管が詰まる「脳梗塞」と、血管が破れる「出血性脳卒中」に分かれ、出血性脳卒中はさらに脳の内部で起こる「脳出血」と、脳の表面で起こる「くも膜下出血」に分類されます[1]。循環器病研究振興財団の資料(国立循環器病研究センターの医師が執筆)では、このうち脳梗塞が脳卒中の4分の3を占め、最も重症になりやすいのはくも膜下出血だと説明されています[2]。
脳出血が起こる仕組みについて、船橋市立医療センター脳神経外科の説明書はこう記しています。「高血圧が持続すると直径100〜200μの脳内小動脈(穿通動脈)に動脈硬化が進展し、動脈壊死が生じる。ここに形成された微小動脈瘤が破綻し脳内出血となる」[5]。つまり、長年の高血圧で弱った細い血管に小さなこぶ(微小動脈瘤)ができ、それが破れて周囲の脳組織に血液が流れ出す、という順番です。流れ出た血液は「血腫」というかたまりになり、周りの正常な脳を圧迫します。
脳梗塞とはっきり違うのは頭痛の出方です。日本脳卒中学会監修・日本脳卒中協会協力の資料は、脳卒中の5大症状として「片方の手足・顔半分のマヒ・しびれが起こる」「ろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない」「片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける」「力はあるのに立てない、歩けない、フラフラする」「経験したことのない激しい頭痛がする」の5つを挙げ、いずれも「突然」現れる点を強調しています[3]。循環器病研究振興財団の資料は「頭痛を伴う脳卒中の多くは、くも膜下出血」で、その痛みは「金属バットで殴られたような頭痛」「人生最大の頭痛」と表現されるほど激烈だと説明しています[2]。脳出血でも頭痛は起こりえますが、くも膜下出血ほど突然かつ最大強度で始まることは多くない、と考えられています。慶應義塾大学病院の医学研究に基づく患者向け情報サイトKOMPASも、脳出血は脳梗塞に比べて「頭痛は…多くみられます」としつつ、意識障害・運動障害・構音障害・感覚障害・平衡障害を一般的な脳卒中症状として挙げています[7]。
数の面でも3つは大きく違います。厚生労働省の令和6年(2024)人口動態統計(確定数)によると、脳血管疾患による死亡数は102,808人で、その内訳は脳内出血32,561人(人口10万対の死亡率27.1)、くも膜下出血11,062人(同9.2)、脳梗塞56,129人(同46.7)でした[4]。これは「発症した人の数」ではなく「亡くなった人の数」である点に注意が必要です。
| 項目 | 脳梗塞 | 脳出血(脳内出血) | くも膜下出血 |
|---|---|---|---|
| 脳卒中に占める割合 | 4分の3(最多)[2] | 残りを脳出血とくも膜下出血が占める[1] | |
| 2024年の死亡数(厚労省) | 56,129人[4] | 32,561人[4] | 11,062人[4] |
| 血管の異常 | 詰まる[1] | 脳の内部で破れる[1] | 脳の表面で破れる[1] |
| 頭痛の特徴 | 頭痛を伴うことは比較的少ない[2] | 脳梗塞より頭痛が多くみられるとされる[7] | 「金属バットで殴られたような」突然の激痛が典型[2] |
| 国循の説明 | 脳出血は「脳梗塞よりも後遺症が残ることが多く、死亡率も脳梗塞より高い」[1] | 「脳卒中の中では死亡率が高く、重症の脳卒中」[1] | |
出典:国立循環器病研究センター病院「脳卒中」[1]/循環器病研究振興財団[2]/厚生労働省「令和6年人口動態統計(確定数)」[4]
今の血圧・脈拍を確かめる
数値を入れると、日本高血圧学会の血圧値の分類と「次にすること」を表示します。記録はこの端末の中だけに保存され、登録は不要です。
身長と体重からBMIも調べる
血圧手帳(この端末に保存)
これは診断ではありません。入力された数値を日本高血圧学会の血圧値の分類(高血圧の基準は診察室 140/90mmHg以上・家庭 135/85mmHg以上)に当てはめて「受診の目安」を機械的に示すもので、医師の診察に代わるものではありません。日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では、降圧目標は年齢によらず診察室 130/80mmHg未満・家庭 125/75mmHg未満とされています。脈拍の目安は学会の分類ではなく一般的な参考範囲です。
出血部位(被殻・視床・皮質下・小脳・脳幹)で症状と重さが変わる
脳出血は「どこで」出血したかによって、出る症状も、命に関わる危険度も大きく変わります。船橋市立医療センターの資料は、好発部位別の頻度を次のように示しています[5]。
| 出血部位 | 頻度の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 被殻出血(外側型) | 35〜45% | 最も頻度が高い部位です[5]。運動の指令が通る経路の近くにあるため、手足の麻痺が出やすいと考えられます。 |
| 視床出血(内側型) | 25〜33% | 感覚の中継点である視床が障害される部位で、しびれや感覚障害、意識障害が出やすいと考えられます。出血が視床から被殻にかけて広がるものは「混合型」と呼ばれます[5]。 |
| 皮質下出血(脳葉出血) | 10〜20% | 大脳の表面に近い場所での出血。高齢者では脳アミロイド血管症が原因のことがあり、多発したり再発したりする傾向があるとされています[6]。 |
| 小脳出血 | 5〜10% | MSDマニュアル プロフェッショナル版は、直径3cmを超える小脳血腫は正中偏位や脳ヘルニアを起こす可能性があり、外科的血腫除去術で救命できる場合が多いとしています[8]。 |
| 脳幹出血(橋出血) | 4〜9% | 頻度は最も低い一方で重症になりやすい部位。船橋市立医療センターの資料では、一般に橋出血には手術適応はないとされています[5]。 |
出典:船橋市立医療センター脳神経外科「疾患別説明書:脳内出血(ICH-46)」[5]
循環器病研究振興財団の資料によれば、視床や被殻など脳の深い場所の出血は、右脳が障害されれば左半身の運動麻痺・感覚障害・左側への注意力低下・両目の左半分の視野欠損が、左脳が障害されれば同様の右半身の症状に加えて言葉が出にくくなる・理解しにくくなるといった言語障害が出やすいとされています[2]。循環器病研究振興財団の同じ資料は、小脳が障害されると遠近感やバランス感覚が鈍くなり、めまいや吐き気が現れることがあるともしています[2]。
受診の目安:「FAST」のサインが一つでもあれば、意識があっても今すぐ119番
すぐに救急要請が必要なサイン(FAST)
日本脳卒中学会監修・日本脳卒中協会協力の資料は、脳卒中発症の合言葉を「ACT FAST」だとし、次のように説明しています[3]。
- F(Face・顔):同学会の資料によれば「突然」の顔の歪み[3](左右非対称にゆがんでいないか、顔を見て確認します)
- A(Arm・腕):同学会の資料によれば手の力が入らない[3](片側の腕だけ上げにくい、力が入らないかを確認します)
- S(Speech・言葉):同学会の資料によればろれつが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない[3]
- T(Time・時刻):同学会の資料によれば症状が出た時刻を確認する。この後の治療方針を左右する情報になります[3]
日本脳卒中学会・協会の資料はこれに加えて、片方の目が見えない・物が二つに見える・視野の半分が欠ける、力はあるのに立てない・歩けない・フラフラする、経験したことのない激しい頭痛も、脳卒中の5大症状として気に留めるべきだとしています[3]。
なお、顔の麻痺だけが単独で起こり、腕や言葉には異常がない場合、脳卒中以外に顔面神経麻痺(末梢性、いわゆるベル麻痺など)が原因のこともあります。両者の見分け方は「顔面神経麻痺の全知識:原因、脳卒中との違い、標準治療から食事療法・リハビリまで徹底解説」で詳しく解説していますが、自己判断はせず、いずれにしても医療機関の受診が必要です。
ここでの受診の目安の基準は単純です。日本脳卒中学会・協会の資料が示す通り「顔・腕・言葉」の異常が突然現れたら、それだけで脳卒中を疑い、症状が出た時刻を確認して、すぐに救急車を呼ぶこと[3]。日本脳卒中学会・日本脳卒中協会の資料は「たとえ症状がすっかりよくなったとしても、それは脳卒中の前触れであったかもしれません。そのまま様子をみるのではなく、すぐに病院を受診することが大切です」としています[2]。
そして、家族が一番やってしまいがちな判断ミスがこれです。循環器病研究振興財団の資料は「歩ける状態であっても、救急車を呼びましょう。決して自分一人で車を運転して病院に行こうとしないでください。その道中で症状が急速に悪くなってしまうかもしれませんし、事故を起こしてしまうかもしれません」と明記しています[2]。意識があるから大丈夫、歩けるから救急車を呼ぶほどではない——という判断は、この資料が名指しで戒めている考え方です。119番するかどうかを、症状の重さで自己判定しないことが、受診の目安の一番の基準になります。
発症直後の治療 — 血圧管理と手術の判断基準
日本脳卒中学会のガイドラインによれば、脳出血の急性期治療は、大きく分けて「血圧を安定させる」「必要なら手術で血腫を取り除く」の2本柱です[9]。
血圧管理 — 日本脳卒中学会のガイドラインが示す基準
日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会の「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕」は、脳出血急性期の血圧高値についてこう推奨しています。「脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140mmHg未満へ降圧することは妥当である(推奨度B エビデンスレベル高)。その下限を110mmHg超に維持することを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)。降圧目標は治療開始24時間以内および7日間まで維持することは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)」[9]。同ガイドラインはあわせて、「降圧療法に伴う急性腎障害を回避するためには収縮期血圧降下幅が90mmHg超の強化降圧療法は勧められない」ともしています[9]。本邦の研究(SAMURAI-ICH)では、短時間作用型カルシウム拮抗薬ニカルジピンの持続静注で血圧を安定的にコントロールする方法の安全性が示された、と同ガイドラインは解説しています[9]。
この「140mmHg未満」という数値は治療の目標値であり、患者さんやご家族が自己判断で血圧の薬を調整するための基準ではありません。用いる薬の種類・量・投与の仕方は、入院先の医師がその場で判断します。
日本と米国のガイドライン比較 — 「一致」ではなく、それぞれの基準
脳出血の血圧管理は、日本と米国のガイドラインがそれぞれ独自に数値を検証してきた分野です。それぞれの基準をそのまま並べると、次のような違いが見えてきます。
| 項目 | 日本(日本脳卒中学会 2021〔改訂2025〕) | 米国(AHA/ASA 2022) |
|---|---|---|
| 急性期の降圧目標 | 収縮期血圧140mmHg未満へできるだけ早期に降圧(推奨度B、エビデンスレベル高)[9] | 中等症以下でSBP150〜220mmHgの場合、140mmHgを目標に130〜150mmHgの範囲を維持することは安全で妥当な可能性がある(Class 2b)[10] |
| 下げすぎへの注意 | 降圧幅が収縮期血圧90mmHg超になる強化降圧は急性腎障害の観点から勧められない(推奨度D)[9] | SBP150mmHg超の中等症以下で130mmHg未満まで下げることは有害の可能性があるという区分(Class 3:Harm)[10] |
| 維持期間 | 治療開始24時間以内および7日間までの維持が妥当(推奨度B)[9] | 資料に記載なし |
出典:日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕改訂のポイント」[9]/米国心臓協会・米国脳卒中協会(AHA/ASA)「2022 Guideline for the Management of Patients With Spontaneous Intracerebral Hemorrhage」臨床アップデート資料[10]
両者とも「140mmHg未満」という数値自体は近い位置にありますが、down-side(下げすぎ)に対する評価の立て付けは同じではありません。日本のガイドラインは急性腎障害という合併症の観点から降圧幅を問題にしているのに対し、米国のガイドラインは130mmHg未満という具体的な下限値そのものを「潜在的に有害(potentially harmful)」というグレードで明示しています[9][10]。数値が近いからといって両者の推奨の組み立てが同じだと言い切ることはできないため、ここでは両者の関係を一言でまとめることは避け、それぞれの原文の推奨度をそのまま並べました。
手術の判断基準 — 場所によって「する」「しない」が分かれる
船橋市立医療センターの資料は、脳出血への外科的治療についてこう説明しています。「急性期の手術は、主に救命のために行われる。出血により失われた機能が回復するわけではない。一般的には橋出血には手術適応はなく、被殻出血・小脳出血・皮質下出血に対して手術を行うことがある」[5]。船橋市立医療センターは、手術の種類として、開頭脳内血腫除去術、定位的血腫吸引術、内視鏡を使用した血腫吸引術、減圧手術(外減圧術・内減圧術)、水頭症に対する脳室ドレナージ術を挙げています[5]。
MSDマニュアル プロフェッショナル版は、手術で救命できるかどうかが出血の場所によって大きく3つに分かれると整理しています。この3つを混同しないことが、家族が手術方針を理解するうえでの最重要ポイントです[8]。
| 血腫の場所 | MSDマニュアル プロフェッショナル版の記述 |
|---|---|
| 小脳血腫(直径3cm超) | 「直径が3cmを超える小脳血腫は,正中偏位または脳ヘルニアを引き起こす可能性があり,そのため外科的血腫除去術により救命できる場合が多い」[8] |
| 大きな皮質下血腫(大脳皮質に近い出血) | 「大きな皮質下血腫の早期除去も救命につながりうるが,再出血が高頻度でみられ,ときに神経脱落症状を悪化させることがある」[8] |
| 大脳深部の血腫(被殻・視床など) | 「大脳深部の血腫の早期除去は,手術死亡率が高く,神経脱落症状が通常重度であることから,適応となることはほとんどない」[8] |
出典:MSDマニュアル プロフェッショナル版「脳内出血」[8]
三者三様である点に注意してください。同じ「手術」でも、小脳血腫は救命につながることが多く、皮質下血腫は救命につながる可能性があるが再出血のリスクも高く、被殻や視床のような脳の深い場所の血腫は早期の手術がむしろ勧められないケースが多いという、正反対に近い扱いです[8]。手術はほとんど行われない、という情報だけを切り取って覚えてしまうと、小脳出血や皮質下出血で手術によって救命できる場面まで諦めてしまいかねません。どの分類に当てはまるかは医師がCT画像で判断するため、家族はうちの場合はどの部位に当たるかを医師に直接確認することが大切です。橋出血に手術適応がないとされているのも、脳幹という生命維持の中枢に近く、手術そのものの危険性が高いためだと考えられます[5]。
つまり「手術をする・しない」は医師の匙加減ではなく、出血の場所と大きさという客観的な基準にもとづいた判断です。手術をしない方針になったとしても、それは治療を諦めたという意味ではなく、血圧管理・全身管理を含む内科的治療の方が救命・機能温存の見込みが高いと判断された結果だと理解しておくと、医師からの説明が受け止めやすくなります。
検査でどう確定診断するのか、入院後は何を管理しているのか
脳出血かどうかは、症状の観察だけでは脳梗塞と見分けがつきません。船橋市立医療センターの資料は「脳内出血の診断は、神経症候とCTでほぼ可能である。必要に応じてMRI、MRA、脳血管撮影(DSA)などを行う」としています[5]。慶應義塾大学病院の研究に基づくKOMPASも、頭部CTは発症直後から出血を明瞭にとらえられるため診断の中心になるとしています[7]。船橋市立医療センターの資料によれば、血管の奇形や動脈瘤が疑われる場合には、MRAや脳血管撮影で原因をさらに調べることがあります[5]。
「手術をしない」方針になった場合でも、病室では多くの管理が同時並行で行われています。船橋市立医療センターの資料は、脳出血の全身管理として次の項目を挙げています。「呼吸管理、循環管理(心臓・不整脈・血圧の管理)、感染症の管理(肺炎、尿路感染症、敗血症)、輸液・栄養管理、糖尿病の管理、消化管出血の管理、深部静脈血栓症・肺塞栓症の管理、褥瘡の管理、けいれん発作の管理」[5]。同資料(船橋市立医療センター)によれば、薬物療法としては脳のむくみ(脳浮腫)を抑える抗脳浮腫療法が行われます[5]。使用する薬剤の種類・量は病状によって医師が個別に判断するもので、この記事では具体的な用量には触れません。
面会時に「点滴や検査ばかりで、脳出血そのものへの治療をしていないのでは」と感じるご家族もいますが、上記の全身管理そのものが、二次的な合併症で命を落とすことを防ぐための治療です。船橋市立医療センターの資料が挙げる項目の通り、肺炎や深部静脈血栓症は、脳出血そのものと同じくらい生命に関わりうる合併症です[5]。
発症後、症状が数日かけて変化するのはなぜか
「昨日は落ち着いていたのに、今日は急に悪くなった」という経過は、脳出血では珍しくありません。船橋市立医療センターの資料は、発症から急性期にかけての経過を6つのパターンに整理しています[5]。
| 経過パターン | 特徴 |
|---|---|
| 劇症型 | 発症直後から意識障害・呼吸障害をきたし、瀕死の状態となる(大出血または脳幹の圧迫)[5] |
| 数時間悪化型 | 発症後数時間の経過で悪化する(出血の持続、再出血、二次性出血)[5] |
| 急性期悪化型 | 発症直後は軽度〜中等度だったが、数日〜2週間以内に悪化する(脳浮腫、出血の緩徐増大、再出血、水頭症、全身状態の悪化)[5] |
| 急性期安定・不変型 | 発症後、症状がほとんど変化しない(止血)[5] |
| 急性期改善型 | 発症後急性期に症状が改善してくる(小出血)[5] |
| 急性期変動型 | 発症後、症状が変動する(全身的要因や薬物療法の効果などの力関係が微妙に変化)[5] |
出典:船橋市立医療センター脳神経外科「疾患別説明書:脳内出血(ICH-46)」[5]
つまり、発症直後に軽く見えても数日以内に悪化する型があり、逆に発症直後は重くても徐々に安定していく型もあります。船橋市立医療センターの資料は、最重症の場合「発症直後から意識障害・呼吸障害が強く、数日以内に死亡することが多い」とし、急性期を乗り切っても「亜急性期・慢性期に全身合併症のために死亡することもある」としています[5]。医師が毎日決まった時間に診察や検査を繰り返すのは、こうした変化を早期に捉えるためだと考えられます。日々の説明で「今日はこう」「明日はまた違うかもしれない」と幅を持たされるのは、医師が曖昧にしているのではなく、この病気の経過そのものの性質だと理解しておくと、家族としても心構えがしやすくなります。
船橋市立医療センターの資料によれば脳出血の原因は高血圧が大半を占めますが[5]、同資料は、脳動静脈奇形、脳動脈瘤の破裂(脳動脈瘤破裂のうち19%は脳内出血をともなうとされています[5])、脳腫瘍からの出血(脳内出血のうち脳腫瘍からの出血の可能性は2〜6%[5])、血友病などの出血性素因といった、高血圧以外の原因も挙げています[5]。年齢や持病によっては、CTやMRIに加えてこうした原因を調べる検査が追加されることがあります。
意識が戻らないとき、治療方針はどう決まるのか
集中治療室で意識が戻らない家族を前にすると、「もう望みがないのでは」と考えてしまうのは自然なことです。ここは日本のガイドラインの公開情報だけでは判断材料が乏しい領域ですが、米国のガイドラインは、まさにこの場面についての推奨を示しています。
AHA/ASAの2022年版ガイドラインの臨床アップデート資料は、脳出血の重症度スコア(ICHスコアなど)について、治療の初期評価の一部として全体的な臨床重症度の指標を測定することは推奨される(1)としつつも[10]、重症度スコアを「唯一の根拠(sole basis)」として個々の予後予測や生命維持治療の制限に用いるべきではないという区分(Class 3:Harm)を設けています[10]。生命維持治療を続けるか止めるかという、より個別具体的な判断の条件については、この記事のもとにした資料だけでは家族向けに正確に要約しきれないと判断し、ここでは踏み込みません。担当医・医療チームと直接話し合ってください。
これはあくまで米国のガイドラインが示す考え方であり、日本の医療現場での運用が同じだと決めつけることはできません。ただ、「発症直後の数値だけで見通しを決めつけない」という姿勢は、家族が医師とどう話すかを考えるうえで参考になる視点だと考えられます[10]。意識の回復にかかる時間や見込みは、出血の場所・大きさ・年齢・持病など複数の要因が絡み合うため、担当医に直接、経過を見ながら継続的に確認していくことをおすすめします。
危険因子 — 高血圧・抗血栓薬・脳アミロイド血管症・飲酒・喫煙
脳出血のリスクを高めることが分かっている要因を、基準となる数値とあわせて整理します。それぞれの対策の詳しい実践方法は、後述する関連記事に譲ります。
| 危険因子 | 分かっていること |
|---|---|
| 高血圧 | 船橋市立医療センターの資料は「原因の大半は高血圧性である」としています[5]。循環器病研究振興財団の資料も「生活習慣病の中でも特に高血圧、飲酒の影響が強い」と説明しています[2]。 |
| 抗血栓薬の服用 | 船橋市立医療センターの資料は「抗凝固薬であるワーファリンを服用していると、脳内出血を起こす危険性は8〜11倍になる」としています[5]。国立循環器病研究センターの研究(JSDB登録9,810例の解析)では、脳出血発症時、ワルファリン使用者は非使用者と比べて入院時の重症度や院内死亡率が統計学的に有意に高かった一方、直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)や抗血小板薬の使用者では「全ての評価項目において、抗血栓薬を内服していない例と統計学的に有意な差がみられませんでした」とされています[11]。 |
| 脳アミロイド血管症(CAA) | 和歌山県立医科大学附属病院紀北分院の資料は、「発症頻度は加齢とともに増加し、わが国の剖検例の検討では、60歳代で33%、70歳代で53%、80歳代で54%、90歳以上で74%に認められました」としています[6]。高血圧性出血が脳の深部に多いのに対し、CAAは「脳の表面に近い場所(皮質〜皮質下)に出血します」という特徴があるとされています[6]。 |
| 飲酒 | 循環器病研究振興財団の資料が高血圧と並ぶ影響因子として挙げています[2]。船橋市立医療センターの資料も、アルコール常飲者は出血が止まりにくい傾向があるとしています[5]。 |
| 喫煙 | MSDマニュアル プロフェッショナル版は「動脈硬化による高血圧性脳内出血に寄与する是正可能な危険因子としては,喫煙,肥満,高リスクの食事(例,飽和脂肪酸,トランス脂肪酸,およびカロリーが高い食事)などがある」としています[8]。 |
出典:船橋市立医療センター脳神経外科[5]/国立循環器病研究センター プレスリリース[11]/和歌山県立医科大学附属病院紀北分院[6]/循環器病研究振興財団[2]/MSDマニュアル プロフェッショナル版[8]
高血圧対策の具体的な数値目標や生活習慣の改善法は、この記事では踏み込みません。すでに公開している別記事「高齢者の脳出血、最大の原因は高血圧。専門ガイドラインが示す究極の予防策のすべて」で、予防に焦点を絞って詳しく解説していますので、そちらをあわせてお読みください。血圧そのものの基準について詳しく知りたい方は、高血圧の基礎知識もあわせてご覧ください。
後遺症とリハビリ、そして再発予防
和歌山県立医科大学附属病院紀北分院の資料によれば、脳出血の後遺症は、出血した場所と大きさによって片麻痺、失語、視野の欠損、高次脳機能障害などさまざまな形で現れるとされています[6]。船橋市立医療センターの資料は、回復の経過を3パターンに分類しています。3か月以内の亜急性期にほとんど症状が消失する亜急性期回復型(小出血や出血部位がsilent areaにある場合に多い)、ほぼ半年以内に症状がほぼ消失する慢性期回復型、ほぼ半年経過しても症状が残存する症状固定型です[5]。どのパターンをたどるかは、出血の量・場所・発症からリハビリ開始までの時間など複数の要因が関係すると考えられ、一律に「何か月で治る」と言い切れるものではありません。
慶應義塾大学病院の研究に基づくKOMPASによれば、発症早期からのリハビリテーションとして、症状に応じて体位変換、他動運動、ベッド挙上、車いすへの移動、立位バランス訓練、歩行訓練へと段階的に進めていくとされています[7]。慶應義塾大学病院の研究に基づく同サイトは一方で、「一度死んでしまった脳細胞を生き返らせる治療法はありません」とも明記しています[7]。同研究に基づくサイトは手術についても「救命が主な目的であり、運動麻痺や感覚障害が改善するわけではありません」と説明しており[7]、手術=機能回復という誤解は、この段階で解いておく必要があります。
後遺症の中でも家族が戸惑いやすいのが失語です。循環器病研究振興財団の資料は、「左脳には言語中枢があるため、左脳が障害された場合は、言葉が理解できにくくなったり、言いたいことが言えなくなったり、文字の読み書きができなくなったりする、といった症状がみられることがあります」と説明しています[2]。本人が話せなくても、理解する力まで失われているとは限らず、逆に言葉は出せても理解が難しいこともあります。どちらのタイプかによって、家族の接し方(ゆっくり短く話しかける、はい・いいえで答えられる質問にするなど)も変わってくるため、リハビリを担当する言語聴覚士に本人のタイプを確認しておくと役立ちます。高次脳機能障害についても、和歌山県立医科大学附属病院紀北分院の資料が脳出血の症状の一つとして名前を挙げていますが[6]、具体的にどの能力(記憶・注意・判断など)にどの程度影響が出るかは出血の場所や大きさによって個人差が大きく、この記事の元にした資料には一律の内訳は示されていません。気になる変化があれば、退院後のフォローアップの際に担当医やリハビリ担当者に相談することをおすすめします。
退院後の在宅ケア、家族の支え方、公的な介護保険・障害福祉サービスの使い方は、この記事の範囲を超えるため別記事に譲ります。麻痺やしびれのリハビリを東洋医学的な視点から補いたい場合は「脳卒中後の麻痺・しびれに。日本脳卒中学会が認める鍼灸と自宅でできる東洋医学的リハビリ」もあわせてご覧ください。
入院にかかる費用の目安
脳出血の入院は集中治療室での管理から始まることが多く、家族にとっては症状そのものと同じくらい、費用の見通しが大きな不安になります。日本には高額療養費制度など、自己負担を一定額に抑える公的な制度があります。
| 適用時期 | 年収の目安 | 計算式 | 100万円の場合 |
|---|---|---|---|
| ~2026年7月診療分 現行 | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% | 87,430円 |
| 2026年8月診療分から 見直し後(第1段階) | 年収約370万~770万円(区分ウ) | 85,800円+1%(PDF原文の表記) | 約92,940円<br><small>(編集部試算)</small> |
| + 年間上限 53万円(新設) | |||
※「100万円の場合」の金額のうち、現行(~2026年7月)欄は出典PDFに記載の計算例そのものです。2026年8月欄について、出典PDFに印字されているのは「85,800+1%」という表記のみです。1%を乗じる基準額(現行の267,000円に相当する部分)と、100万円の場合の約92,940円は、PDFに印字されておらず、現行制度と同じ計算方法にもとづくJHO編集部試算です。正確な金額は加入されている健康保険組合等にご確認ください。
※ 制度は改定されることがあります。受診・手術の時期によって自己負担額が変わるため、最新の情報は
厚生労働省の高額療養費制度ページで必ずご確認ください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」(令和7年12月16日) (PDF)
|JHO確認日:2026-07-16
入院費用の具体的な内訳、申請の流れ、リハビリ期・在宅期にかかる費用まで含めた解説は、退院後の生活と公的制度をまとめた関連記事で扱っています。脳の血管が詰まる脳梗塞との症状の違いをさらに詳しく知りたい方は、脳梗塞の解説もあわせてお読みください。
🖨️ 医師に伝える・聞くためのメモ
- 症状に気づいた時刻/最後に普段どおりだった時刻(分かる範囲で)
- 本人が現在服用している薬(特にワーファリンなどの抗血栓薬・抗凝固薬は必ず伝える)
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症など、これまでにかかったことのある病気
- 医師への質問例:「出血の場所はどこですか」「手術の対象になりますか、ならないとすればなぜですか」「血圧の目標値はどのくらいですか」「今後どのくらいの頻度で経過を教えてもらえますか」
脳出血発症後の意識回復の見込みや、後遺症が残るかどうかの個別予測については、年齢・出血量・部位・発症から治療開始までの時間など多くの要因が絡み合うため、この記事で一律の数字を示すことはできません。担当医が実際の画像所見と経過を踏まえて説明する内容が、どの記事よりも正確な情報源になります。また、米国ガイドラインで紹介した重症度スコアの運用方針についても、日本国内での標準的な運用を直接示す一次資料は今回確認できておらず、あくまで米国側の推奨として紹介しました。
よくある質問
手術はどんなときに行われますか?
後遺症は必ず残りますか?
再発しますか?
意識不明の状態が続いていますが、いつ目を覚ますのでしょうか?
手術をしない場合、入院期間はどのくらいですか?
参考文献
- 国立循環器病研究センター病院「脳卒中」 https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke-2/
- 公益財団法人循環器病研究振興財団(国立循環器病研究センター 脳血管内科部長 古賀政利ほか執筆)「健康で長生きするために156 脳卒中・心筋梗塞の前触れと早期対策」 https://www.jcvrf.jp/general/pdf_arekore/arekore_156.pdf
- 日本脳卒中学会監修・日本脳卒中協会協力「脳卒中の予防・発症時の対応」 https://www.jsts.gr.jp/common/asset/pdf/onset.pdf
- 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況 第6表 死亡数・死亡率(人口10万対),死因簡単分類別」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/dl/h6.pdf
- 船橋市立医療センター脳神経外科「疾患別説明書:脳内出血(ICH-46)」 https://www.mmc.funabashi.chiba.jp/neurosurgery/uploads/ICH-46.pdf
- 和歌山県立医科大学附属病院紀北分院「高齢者の脳出血(脳アミロイド・アンギオパチー)」 https://www.wakayama-med.ac.jp/med/bun-in/shinryo/pdf/kohoshi_1108.pdf
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「脳梗塞、脳出血(脳卒中)」 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000326/
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「脳内出血」 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/07-神経疾患/脳卒中/脳内出血
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕改訂のポイント」 https://www.jsts.gr.jp/img/guideline2021_kaitei2025_kaiteikoumoku.pdf
- Greenberg SM, et al.; American Heart Association/American Stroke Association「2022 Guideline for the Management of Patients With Spontaneous Intracerebral Hemorrhage」臨床アップデート資料 https://www.heart.org/-/media/Files/Professional/Quality-Improvement/Hemorrhagic–Stroke/2022-Guideline-for-the-Management-of-Patients-With-Spontaneous-ICH-Clinical-Update-Slides.pdf
- 国立循環器病研究センター プレスリリース「抗血栓薬内服中の患者が脳出血を発症した場合の重症化リスクを解明」 https://www.ncvc.go.jp/pr/release/pr_44966/
更新日:2026年7月25日。本記事の内容に誤りや古い情報があった場合は、記事下部の問い合わせ窓口からお知らせください。事実を確認のうえ訂正いたします。
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