この記事の要点まとめ
- 喉の違和感は非常にありふれた症状ですが、その原因は風邪のような一時的なものから、逆流性食道炎、ストレス、さらには食道がんや咽喉頭がんといった生命を脅かす病気まで多岐にわたります45。
- 「食べ物が飲み込みにくい(嚥下困難)」「原因不明の体重減少」「持続する声がれ」などは、がんの可能性も示唆する「危険なサイン(レッドフラグ)」であり、直ちに専門医の診察を受ける必要があります56。
- 原因として最も多いものの一つが、胃酸が食道や喉に逆流する「胃食道逆流症(GERD)」や「喉頭咽頭酸逆流症(LPR)」です。特に日本においては、食生活の欧米化やピロリ菌感染率の低下により、GERDの患者数が増加傾向にあります78。
- 検査をしても明らかな異常が見つからない場合、「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」と診断されることがあります。これはストレスや自律神経の乱れが大きく関与しており、適切な治療法が存在します910。
- 症状に応じて「耳鼻咽喉科」「消化器内科」「心療内科」など、受診すべき診療科が異なります。本記事のガイドを参考に、適切な専門医を選ぶことが早期解決への第一歩です。
【この記事の監修者】
川合 正和 医師(医学博士)3
専門分野:消化器内科、内視鏡診断・治療
所属学会・資格:日本消化器内視鏡学会 専門医・指導医3、日本消化器病学会 専門医など
川合医師は、長年にわたり消化器疾患の臨床現場で数多くの患者様の診断と治療に携わってこられました。特に、逆流性食道炎や食道がんなどの診断に不可欠な内視鏡検査において、豊富な経験と高い専門性をお持ちです。本記事の医学的正確性と信頼性は、川合医師の監修によって保証されています。
第1章:「レッドフラグ」- 直ちに医療機関を受診すべき危険なサイン
喉の違和感の多くは緊急を要するものではありませんが、中には重篤な病気が隠れているサインの場合があります。以下の症状は「レッドフラグ(危険信号)」とされ、自己判断せずに速やかに専門医の診察を受けることが極めて重要です。この章では、ご自身の状態をチェックできるよう、具体的な症状とその意味を解説します。
危険信号(レッドフラグ) | 詳細な説明と注意すべき理由 | 推奨される行動 | 参考文献 |
---|---|---|---|
食べ物が飲み込みにくい (嚥下困難 – Dysphagia) | 特に固形物が胸や喉でつかえる感じがし、その症状が徐々に悪化する場合。これは食道や喉が物理的に狭くなっている可能性を示唆し、食道がんや咽頭がん、良性腫瘍、食道狭窄などが原因として考えられます。 | 直ちに消化器内科または耳鼻咽喉科を受診してください。 | 6 |
原因不明の体重減少 | 意図的なダイエットや運動をしていないにも関わらず、過去6ヶ月から12ヶ月で体重が5%以上減少した場合。これはがんを含む多くの慢性疾患や全身性疾患に共通する警告サインです。 | まずは内科を受診し、全身的な評価と必要な検査を受けてください。 | 5 |
持続する声がれ (嗄声 – さ声) | 風邪でもないのに声のかすれや声質の変化が2〜3週間以上続く場合。声帯ポリープ、声帯麻痺、そして喉頭がんなど、声帯に直接的な異常が生じている可能性があります。 | 耳鼻咽喉科を受診し、喉頭内視鏡(ファイバースコープ)による声帯の詳しい検査が必要です。 | 5 |
飲み込むときの痛み (嚥下痛 – Odynophagia) | 単なる「つかえ感」とは異なり、飲み込む際に明確な痛みや灼熱感を伴う場合。これは重度の炎症、潰瘍、または感染症(カンジダ性食道炎など)の存在を示唆します。 | 耳鼻咽喉科または消化器内科を受診してください。 | 11 |
首にしこりを触れる (頸部腫瘤) | 首の周りに、これまでなかったしこりや硬い部分を触れる場合。痛みがあってもなくても、甲状腺の病気、リンパ節の腫れ、または悪性腫瘍の転移などの可能性があります。 | 耳鼻咽喉科または内分泌内科での精査が必要です。 | 9 |
血痰(けったん) | 咳をした際に痰に血が混じる、または唾液に血が混じる場合。少量であっても、気道や食道からの出血を示している可能性があり、常に医学的な評価が必要です。 | 呼吸器内科、耳鼻咽喉科、または消化器内科を受診してください。 | 12 |
片側だけの症状 | 喉の違和感や痛みが、左右両側ではなく片側だけに集中している場合。これは局所的な病変(例:扁桃がん、下咽頭がん)を示唆することがあり、両側性の症状よりも注意が必要です。 | 耳鼻咽喉科での詳細な診察が推奨されます。 | 6 |
呼吸困難 | 息切れ感、息を吸うときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という音(吸気性喘鳴)がする場合。特に喉の腫れを伴う場合は、喉頭蓋炎など気道を閉塞させる救急疾患の可能性があり、命に関わります。 | 直ちに救急外来を受診するか、救急車を呼んでください。 |
第2章:症状で分類する原因 – あなたの喉が伝えたいこと
レッドフラグに当てはまらない場合、喉の違和感の原因は多岐にわたります。ここでは、あなたが感じている具体的な症状の種類から、考えられる主な原因を探っていきます。これにより、どの専門科を受診すべきかのヒントが得られます。
もし感覚が「イガイガ・ヒリヒリする」なら:主に炎症や粘膜の刺激
このタイプの違和感は、喉の表面にある粘膜が何らかの原因で炎症を起こしたり、刺激を受けたりしていることを示唆します1。
- 主な原因:
もし感覚が「詰まる・圧迫感がある・締め付けられる」なら:最も一般的で多様な原因
これは喉の違和感として最もよく訴えられる症状で、原因の範囲も物理的なものから機能的なものまで非常に広いです13。
- 主な原因:
- 逆流性食道炎 (GERD) / 喉頭咽頭酸逆流症 (LPR):胃酸が食道や喉まで逆流し、粘膜を刺激したり、喉の筋肉を反射的に収縮させたりすることで、詰まり感や圧迫感を生じさせます。これは最も一般的な原因の一つです5。
- 咽喉頭異常感症 (ヒステリー球):検査では異常が見つからないにもかかわらず、喉に球があるような感覚が続く状態です。ストレスや不安が大きく関与していると考えられています1。
- 甲状腺疾患:甲状腺が腫れる「甲状腺腫」や、自己免疫疾患である「橋本病」などが、物理的に気道を圧迫したり、違和感を生じさせたりすることがあります4。
- 頚椎(首の骨)の問題:加齢による変形性頚椎症や椎間板ヘルニアなどが、喉の感覚を支配する神経に影響を与え、関連痛として喉の違和感を感じさせることがあります4。
もし感覚が「食べ物が飲み込みにくい」なら:嚥下障害の可能性
ここでは、「何となく喉に違和感がある」という感覚と、「実際に食べ物が通りにくい・詰まる」という「嚥下困難」とを明確に区別することが重要です。後者はより深刻な病気のサインである可能性があります。
- 主な原因:
もし感覚が「何かが張り付く感じ」なら:粘液や表面の問題
痰がからむ、あるいは何かが喉にへばりついているようなしつこい感覚です。
- 主な原因:
- 後鼻漏(こうびろう):慢性副鼻腔炎(蓄膿症)やアレルギー性鼻炎により、鼻水が喉の奥に流れ落ちることで、常に粘液が喉にあるように感じられます4。
- 喉頭咽頭酸逆流症 (LPR):逆流した胃酸から粘膜を守るために、喉が過剰に粘液を分泌し、それが張り付いているように感じられることがあります。
- 声帯ポリープなど:声帯にできたポリープなどが、異物感や痰がからむ感覚の原因となることもあります。
あなたの主な症状が… | そして、こんな症状を伴うなら… | 考えられる主な原因 | 最初に受診すべき診療科(推奨) | 関連する可能性のある他の診療科 | 参考文献 |
---|---|---|---|---|---|
「つかえ感・圧迫感・球のような異物感」、食事とはあまり関係ない | 不安感が強い、ストレスを感じている、食事中は症状が和らぐ、レッドフラグはない | 咽喉頭異常感症(ヒステリー球) | 耳鼻咽喉科(まず物理的な異常がないかを除外するため) | 心療内科・精神科(身体的な異常が除外された場合) | 5 |
胸のあたりから喉へこみ上げるような「灼熱感・つかえ感」 | 胸やけ、酸っぱいものがこみ上げる(呑酸)、食後や横になった時に悪化する | 胃食道逆流症 (GERD) | 消化器内科(必要に応じて胃カメラ検査を行うため) | 耳鼻咽喉科、内科 | 16 |
「喉の痛み・イガイガ感」 | 発熱、咳、鼻水、倦怠感、首のリンパ節の腫れ | 急性咽頭炎・扁桃炎(ウイルス性または細菌性) | 耳鼻咽喉科 または 内科 | – | 16 |
「つかえ感・首の腫れぼったさ」 | 体重の変化(増加または減少)、動悸、倦怠感、皮膚の乾燥、手の震え | 甲状腺疾患(甲状腺腫、橋本病など) | 内分泌内科 | 内科 | 4 |
「喉に粘液がへばりつく感じ」、頻繁な咳払い | 鼻水、鼻づまり、顔面(特に頬や額)の痛み | 慢性副鼻腔炎(後鼻漏) | 耳鼻咽喉科 | – | 4 |
「固形物が飲み込みにくい」、食べ物がつかえる | 体重減少、嘔吐、長年の逆流症の既往 | 食道運動障害、食道狭窄、食道がん | 消化器内科 | 耳鼻咽喉科(喉頭の評価のため) | 1 |
第3章:「ストレスだけ」ではない – 咽喉頭異常感症(ヒステリー球)の深層
内視鏡などの検査を受けても「特に異常はありません」と言われたにもかかわらず、喉の違和感が消えない――。これは多くの患者さんが経験する「診断の旅路」です。このような場合に考えられるのが「咽喉頭異常感症」で、古くは「ヒステリー球」とも呼ばれていました。この病名は、症状が「気のせい」や「想像」であるかのような誤解を与えがちですが、実際には明確な医学的メカニズムが関与する実在の疾患です17。
咽喉頭異常感症(Globus Pharyngeus)とは?
咽喉頭異常感症は、国際的には「Globus Pharyngeus」として知られ、その診断には以下の特徴があります912:
- 喉に痛みはないが、球や塊があるような異物感が持続または断続的に存在する。
- 食事や水分を摂取している時には、その症状が軽快または消失する。
- 唾液を飲み込む時(空嚥下)に、最も症状を強く感じる。
- 嚥下困難や嚥下痛は伴わない。
- 内視鏡検査などで、症状を説明できる器質的な疾患(がんや炎症など)が見つからない(除外診断)。
この症状は、かつて「ヒステリー球(Globus Hystericus)」と呼ばれていましたが、精神疾患との関連を不当に強調し、患者にスティグマ(偏見)を与えるため、現在ではこの名称は医学的には使用されません17。
なぜ「異常なし」なのに症状が続くのか?考えられるメカニズム
咽喉頭異常感症の発症には、単一の原因ではなく、複数の要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
- 上部食道括約筋の過緊張:喉と食道の境目には、胃の内容物が逆流しないように普段は閉じている筋肉(上部食道括約筋)があります。ストレスなどによってこの筋肉が過度に緊張し、痙攣(けいれん)することで、喉が締め付けられるような、あるいは球があるような感覚が生じるという説が有力です18。
- 知覚過敏:通常であれば気にならない程度の喉への刺激(わずかな胃酸の逆流や粘液など)に対して、脳が過敏に反応し、強い不快感として認識してしまう状態です19。これは、過敏性腸症候群(IBS)など他の機能性疾患とも共通するメカニズムです。
- 自律神経の乱れと心理的要因:ストレス、不安、抑うつ気分、あるいは生活上の大きな出来事が引き金となり、自律神経のバランスが乱れることが、症状を誘発または増悪させる最大の要因と考えられています1020。日本では、このメカニズムが「自律神経の乱れ」として広く認識されています。
科学的根拠に基づく治療法
原因が複雑であるため、治療も多角的なアプローチが必要となります。
- 安心感の提供と説明(Reassurance):治療の第一歩であり、最も重要な要素です。医師が診察と検査の結果、喉にがんなどの危険な病気はないことを明確に説明し、この症状が良性であることを患者が理解するだけで、不安が軽減し、症状が大幅に改善することが少なくありません12。
- 言語聴覚療法 (Speech and Language Therapy):言語聴覚士の指導のもと、喉や首周りの筋肉の緊張を和らげるリラクゼーション法、正しい嚥下方法、声の衛生指導(頻繁な咳払いを避けるなど)を学び、実践します6。
- 薬物療法:不安感が非常に強い場合や、抑うつ状態が背景にある場合には、抗不安薬や、神経の過敏性を調整する目的で低用量の抗うつ薬(アミトリプチリンなど)が処方されることがあります17。
- 漢方医学(Kampo)からのアプローチ:日本では、咽喉頭異常感症の治療に漢方薬が頻繁に用いられます。特に、不安やストレスに伴う「気」の滞り(気の巡りが悪い状態)を改善する目的で、「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」が第一選択薬として広く処方されます21。この処方は、喉のつかえ感や異物感、動悸、めまいなどの症状に効果が期待できるとされています22。
第4章:胃と喉の密接な関係 – 逆流性食道炎(GERD/LPR)の役割
喉の違和感を引き起こす物理的な原因の中で、最も頻度が高いものの一つが胃酸の逆流です。この章では、日本の最新の診療ガイドラインに基づき、この問題について詳しく解説します。
GERDとLPRの違いとは?
胃酸の逆流に関連する病態には、主に二つのタイプがあります。
- 胃食道逆流症(GERD):胃の内容物(主に胃酸)が食道へ逆流することで、胸やけや呑酸(どんさん:酸っぱいものがこみ上がること)といった典型的な症状を引き起こす状態です。内視鏡で食道にびらんや潰瘍などの炎症が見られる「びらん性GERD」と、症状はあるが炎症が見られない「非びらん性胃食道逆流症(NERD)」に分けられます7。
- 喉頭咽頭酸逆流症(LPR):逆流した胃酸が、食道を越えてさらに上の喉頭(こうとう:のどぼとけの部分)や咽頭(いんとう:鼻の奥からのどまでの部分)まで到達する状態です。LPRは、胸やけなどの典型的なGERD症状を伴わないことが多く、声がれ、長引く咳、そして本稿のテーマである「喉の違和感」といった、喉の症状だけを訴えるのが特徴です5。
なぜ逆流が喉の違和感を引き起こすのか?
胃酸が喉の症状を引き起こすメカニズムは、主に二つ考えられています18。
- 直接的な刺激:胃酸やペプシン(タンパク質分解酵素)といった攻撃的な胃の内容物が、食道よりもはるかにデリケートな喉の粘膜に直接触れることで、化学的な火傷のような状態(炎症)を引き起こし、腫れや痛み、違和感を生じさせます。
- 迷走神経反射:食道の下部に逆流した酸が迷走神経を刺激し、その信号が脳を経由して喉の筋肉に伝わることで、筋肉が反射的に収縮し、喉が締め付けられるような、あるいは何かが詰まっているような感覚を引き起こします18。
日本消化器病学会の「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021」においても、喉頭炎、慢性的な咳、そして喉の違和感(咽喉頭異常感)は、GERDの食道外症状として明確に関連が認められています2324。
診断と「PPIのパラドックス」
診断の基本は、症状の問診と胃内視鏡検査(胃カメラ)です16。内視鏡検査では、逆流性食道炎の有無や重症度を評価し、同時に食道がんなどの他の病気がないかを確認します。より詳細な検査として、24時間にわたって食道内のpHを測定し、酸逆流の頻度や時間を客観的に評価する検査もあります18。
治療の中心は、胃酸の分泌を強力に抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)です。しかし、ここで知っておくべき重要な点、いわゆる「PPIのパラドックス」が存在します。PPIは胸やけには非常に高い効果を発揮しますが、LPRによる喉の症状(違和感や咳)に対する効果は、期待されるほど高くないことが多くの研究で示されています18。これは、喉の症状の原因が強力な「酸」だけでなく、酸性度の低い胃液や胆汁などの「非酸逆流」、そして逆流物そのものの物理的な刺激や、粘膜の知覚過敏など、複数の要因が関与しているためと考えられています。
この事実は、治療がうまくいかない場合に重要です。「PPIを飲んでも喉の違和感が良くならないから、診断が間違っているのではないか」と考えるのではなく、「酸以外の要因が関与しているのかもしれない」と理解し、医師と次の治療戦略を相談することが大切です。
日本のガイドラインが示す追加的治療選択肢
PPIの効果が不十分な場合、日本の診療ガイドラインでは以下のような治療法が検討されます12。
- 消化管運動機能改善薬(Prokinetics):胃の内容物の排出を促進し、逆流そのものを減らします。
- アルギン酸塩:服用すると胃の中でゲル状の層を形成し、物理的に胃の内容物が逆流するのを防ぎます。
- 漢方薬:特に日本のガイドラインでは、PPI抵抗性のGERD(特に非びらん性GERD)に対して、漢方薬の「六君子湯(りっくんしとう)」が有効な選択肢として言及されています7。
第5章:あなた自身でできること – 受診の準備とセルフケア
専門医の診察を受けることは最も重要ですが、それと並行してあなた自身ができることもたくさんあります。ここでは、受診をより有意義にするための準備と、症状を和らげるための具体的なセルフケア方法を解説します。
受診前の準備:「症状日誌」のススメ
医師に症状を的確に伝えることは、正確な診断への近道です。受診前には、ぜひ「症状日誌」をつけてみましょう。以下の項目を記録しておくと、診察がスムーズに進みます。
-
- どんな症状か?:(例:「喉にビー玉が詰まっている感じ」「首を絞められているような圧迫感」など具体的に)
- いつから始まったか?:
- どんな時に症状が出るか?:(例:食後、横になった時、ストレスを感じた時、朝起きた時など)
– 症状の持続時間は?:(例:一日中続く、数分で消えるなど)
- 症状を悪化させるものは?:(例:コーヒー、脂っこい食事、お酒など)
- 症状を和らげるものは?:(例:食事をすると楽になる、温かい飲み物を飲むと和らぐなど)
- これまで試した薬や対処法は?:
科学的根拠に基づくセルフケア戦略
原因に応じて、有効なセルフケアは異なります。ご自身の症状から考えられる原因に合わせて、以下の対策を試してみてください。
逆流性食道炎(GERD/LPR)が疑われる場合の生活習慣改善
生活習慣の改善は、薬物療法と同等、あるいはそれ以上に重要です12。
- 就寝時の工夫:上半身を15〜20cm程度高くして寝ることで、夜間の逆流を防ぎます。枕を高くするだけでなく、ベッドの脚の下にブロックを置くか、傾斜枕を使用するのが効果的です。
- 食事のタイミング:就寝前の3時間以内は食事を避ける。胃が空の状態で就寝することが重要です。
- 食事の内容:脂肪分の多い食事、チョコレート、柑橘類、炭酸飲料、コーヒー、アルコール、香辛料の多い食事は、胃酸の分泌を増やしたり、食道の括約筋を緩めたりするため、症状を悪化させることがあります。これらを避けるか、量を減らしましょう。
- 体重管理:肥満、特に腹部の脂肪は腹圧を上昇させ、逆流の大きな原因となります。適度な運動とバランスの取れた食事による減量は非常に効果的です。
- 服装:腹部を強く締め付けるベルトや服装は避けましょう。
ストレスや咽喉頭異常感症(ヒステリー球)が疑われる場合の対策
自律神経のバランスを整え、心と体の緊張をほぐすことが中心となります。
- 深呼吸とリラクゼーション:意識的な腹式呼吸や瞑想、ヨガなどは、副交感神経を優位にし、心身をリラックスさせる効果があります10。
- 定期的な運動:ウォーキングなどの軽〜中等度の運動は、ストレスホルモンを減少させ、気分を改善する効果が証明されています。
- 睡眠の質の確保:規則正しい時間に就寝・起床し、寝る前はスマートフォンやPCの使用を避けるなど、睡眠環境を整えましょう。
- 咳払いを避ける習慣:喉の違和感があると無意識に咳払いをしがちですが、この行為自体が喉の粘膜を傷つけ、症状を悪化させる悪循環につながります。違和感を感じたら、咳払いをする代わりに、一口水を飲むように心がけましょう25。
すべてのタイプに共通する喉のケア
以下のケアは、原因に関わらず喉の健康を保つために有効です25。
- 十分な水分補給:一日を通してこまめに水分を摂り、喉の粘膜を潤しましょう。
- 加湿:特に空気が乾燥する季節には、加湿器を使用して室内の湿度を50〜60%に保つのが理想的です。
- 禁煙と節酒:タバコは喉の粘膜に対する最悪の刺激物の一つです。アルコールもまた、脱水を引き起こし、逆流を助長することがあります。
よくある質問 (FAQ)
Q1: 喉の違和感で病院に行ったら、どんな検査をするのですか?
A1: まずは詳細な問診(症状の性質、始まった時期、生活習慣など)が行われます。その後、受診した診療科や疑われる原因によって検査は異なりますが、一般的には以下のものが考えられます。
・耳鼻咽喉科の場合:口の中から喉を観察し、さらに鼻から細いファイバースコープを入れて、肉眼では見えない喉の奥(咽頭・喉頭)を詳しく観察します。これにより、ポリープ、がん、炎症の有無などを確認します16。
・消化器内科の場合:口または鼻から内視鏡(胃カメラ)を挿入し、食道、胃、十二指腸を観察します。逆流性食道炎の有無や程度、食道がんなどの病気がないかを直接確認できます16。
・その他の検査:甲状腺疾患が疑われる場合は、血液検査や首のエコー(超音波)検査が行われます。必要に応じて、アレルギー検査や頚椎のレントゲン撮影などが追加されることもあります。
Q2: 「咽喉頭異常感症(ヒステリー球)」は自然に治りますか?
A2: 症状の程度や背景にあるストレスの状況によりますが、自然に軽快することも少なくありません。特に、検査で重篤な病気が否定されたという「安心感」が、症状改善の大きなきっかけになることがあります12。しかし、症状が長引く場合や、日常生活に支障をきたすほど強い場合は、専門的な治療(カウンセリング、リラクゼーション法、漢方薬、薬物療法など)を受けることで、より早く、より確実に改善する可能性が高まります。放置せずに、まずは専門医に相談することが大切です。
Q3: 喉の違和感は新型コロナウイルス感染症の後遺症でも起こりますか?
A3: はい、その可能性はあります。新型コロナウイルス感染症の後遺症(Long COVID)として、咳、痰、息切れなどと並んで、喉の痛みや違和感が続くという報告があります。厚生労働省の調査などでも、後遺症の一つとして認識されています26。メカニズムはまだ完全には解明されていませんが、ウイルス感染による持続的な炎症、免疫系の異常、あるいは自律神経系の機能不全などが関与している可能性が考えられています。もしコロナ感染後に喉の症状が長引く場合は、後遺症を診ている専門外来や、まずは耳鼻咽喉科に相談してみるのが良いでしょう。
Q4: 日本ではなぜ逆流性食道炎(GERD)が増えているのですか?
A4: 日本におけるGERDの増加には、主に二つの大きな理由が指摘されています78。
1. 食生活の欧米化:高脂肪食や肉中心の食事が増えたことで、胃酸の分泌が促進されたり、胃の内容物が排出されるまでの時間が長くなったりして、逆流が起こりやすくなりました。
2. ヘリコバクター・ピロリ菌感染率の低下:衛生環境の改善により、ピロリ菌の感染者が減少しました。ピロリ菌は胃に持続的な炎症(萎縮性胃炎)を引き起こし、胃酸の分泌を低下させることが知られています。そのため、ピロリ菌感染者が減った結果、胃酸を強力に分泌できる「健康な胃」を持つ人が増え、皮肉にもそれが胃酸逆流のリスクを高めているという側面があります。
結論
喉の違和感という一つの症状が、いかに多様な原因から生じるか、そしてその背後にある人々の深い不安について解説してきました。本記事で強調したい最も重要なメッセージは、「自己判断で放置しない」ということです。多くの場合、喉の違和感は生命に関わるものではありません。しかし、その中には食道がんや咽頭がんといった見逃してはならない病気の初期症状が隠れている可能性もゼロではありません。本記事で紹介した「レッドフラグ」に一つでも当てはまる場合は、ためらわずに専門医を受診してください。
また、検査で異常がないと診断されたとしても、あなたの苦痛が「気のせい」だということでは決してありません。咽喉頭異常感症や逆流症は、生活の質を大きく損なう辛い症状であり、適切な治療やセルフケアによって改善が可能です。この記事が、あなたがご自身の状態を正しく理解し、不安の霧の中から一歩を踏み出し、適切な医療へと繋がるための羅針盤となることを、JHO編集部一同、心から願っています。
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