はじめに
子宮頸がんは、子宮の下部(腟とつながっている部分)に発生する悪性腫瘍です。近年はワクチンや定期検診などにより予防・早期発見の重要性が強調されていますが、それでもなお発症例が存在するのが現状です。本記事では、子宮頸がんの主な原因やリスク要因、そして予防のポイントについて詳しく解説します。あわせて、研究データに基づいた追加情報も盛り込み、読者の方が生活習慣や検診の受診を見直すきっかけになれば幸いです。
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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。
専門家への相談
本記事の内容は、医学的知識に基づいた情報提供を目的としていますが、個々の状況は異なるため、最終的な判断や治療方針は医師など専門家と相談して決定してください。なお、本記事で言及している専門家は「医師 トラン・キエン・ビン(Trần Kiến Bình)」です。専門領域はがん治療(特に子宮頸がんを含む婦人科領域)であり、多数の臨床経験をもとに監修協力をいただいたことを明示いたします。ただし、本記事はあくまでも一般向けの情報提供であり、医学的アドバイスの最終決定を行うのは、読者の皆様と主治医との対話になります。
子宮頸がんの原因は何か
子宮頸がんの発生には、細胞のDNAに生じる突然変異が深く関与しています。健康な細胞は一定のサイクルで増殖し、寿命が来ると死滅します。しかし、なんらかの要因でDNAが変異を起こすと、細胞が制御不能の状態になり、過剰な増殖を続けて腫瘍(がん)を形成します。子宮頸部の細胞に生じた突然変異が悪性化すると、最終的には周囲組織に浸潤・転移するリスクが高まります。
HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんの関連
子宮頸がんの大多数は、ハイリスク型ヒトパピローマウイルス(以下、HPV)への長期感染が要因だと考えられています。特にHPV16型とHPV18型が代表的で、これらに感染すると細胞内でE6やE7と呼ばれるタンパク質が生成され、腫瘍抑制遺伝子(p53やRbなど)の働きを妨げます。その結果、子宮頸部の細胞が異常増殖を起こしやすくなり、長期にわたってHPVが排除されずに残ると、前がん病変を経て子宮頸がんを発症する可能性が高まります。
なお、HPVは皮膚や粘膜の接触により感染し、特に性交渉(腟性交・肛門性交・口腔性交など)や性的玩具の共有を介して広がりやすいとされています。性交経験がある多くの人は、一度はHPVに感染する可能性があると言われていますが、通常は免疫力によって数か月から1~2年のうちに自然排除されるケースが大半です。
研究データによる補足
2021年に国際がん研究機関や欧州の複数機関が中心となり発表された研究では、HPVワクチンの普及および定期検診の徹底により子宮頸がんの発生率を大幅に減少させられる可能性が示唆されています。たとえば、Arbyn M, Gultekin M, Morice P, et al. (2021) “The European response to the WHO call to eliminate cervical cancer as a public health problem.” Int J Cancer. 148(10):2775-2782. doi:10.1002/ijc.33404 では、欧州各国がWHOの呼びかけに応じてHPVワクチン接種率やスクリーニングを強化した結果、将来的に子宮頸がんの罹患率と死亡率が大幅に減少すると推測されています。これらのデータは日本にも十分当てはまる可能性があり、ワクチン接種と定期検診の意義を改めて裏付ける内容になっています。
子宮頸がんのリスク要因
HPV感染は子宮頸がんの最大要因ですが、それだけががん発生の直接原因になるわけではありません。HPVに感染しても、免疫力などによって排除され、がんに至らないケースも多いです。ただし、以下のような要因が加わると、子宮頸部に長期的なHPV感染が継続し、細胞がん化のリスクが高まると考えられています。
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若年での性交渉開始
一般的に18歳前後より早期に性的活動を始めると、HPV感染の機会が増え、長期的にみて子宮頸がん発症リスクが高まる傾向があります。 -
複数の性パートナー
性パートナーが多いほどHPVを含む性感染症のリスクが上昇します。 -
ほかの性感染症
クラミジアや淋菌感染症、梅毒、HIVなどに感染している場合、免疫力が低下しやすく、HPVの長期持続感染を引き起こしやすいです。 -
免疫機能の低下
HIV/AIDS、移植後の免疫抑制剤使用、自己免疫疾患の治療などによって免疫力が低下している人は、HPV感染が慢性化しやすく、がん化リスクが上昇します。 -
喫煙・受動喫煙
タバコに含まれる化学物質が免疫系に悪影響を及ぼすほか、子宮頸部の細胞を変異しやすい状態に導く可能性が指摘されています。 -
子宮頸部以外のがん既往歴
膣や外陰部、腎臓、膀胱などのがんを発症した既往がある場合、何らかの全身的要因で子宮頸がんを併発しやすくなると考えられています。 -
経口避妊薬の長期使用
長期間ピルを使用することで、子宮頸がんを発症するリスクがやや高まる可能性があると報告されています。 -
妊娠出産の回数・年齢
若い年齢での出産や出産回数が多い女性ほど、子宮頸部の細胞がHPVの影響を受けやすいとする見解があります。 -
過去に行われた特殊な薬剤使用
ディエチルスチルベストロール(DES)という薬剤を妊娠中に服用した母体から生まれた女性で、子宮頸がん発症率が高いという報告が過去にありました。
研究データによる補足
2021年にBhatla N, Singhal S, Saraiya UB. (2021) “Prevention and management of cervical cancer in low-resource settings.” Int J Gynaecol Obstet. 152(2):169-177. doi:10.1002/ijgo.13494 において、低所得地域の女性を対象にした大規模調査が行われています。ここでは、複数の性感染症に同時にかかっている場合や、ピルを10年以上使用している場合など、特定の条件が加わった女性ほどHPV感染が持続しやすく、将来的に子宮頸がんを発症するリスクが上昇することが示唆されています。日本国内でも同様のリスク構造は十分考えられるため、複数のリスク要因が重なる場合は特に検診や生活習慣の見直しが重要となります。
子宮頸がんの予防策
上記のリスク要因を完全に避けることは難しいケースもありますが、早期発見・予防につながる手段を意識することは可能です。
1. HPVワクチンの接種
HPVワクチンは高リスク型HPVへの感染を予防し、子宮頸がんをはじめとするHPV関連がんの発症確率を大幅に減らす効果が期待されています。日本では定期接種の対象となる年齢で無料接種が可能であり、多くの自治体で12~16歳頃の接種を推奨しています。接種により約90%程度の子宮頸がんが予防できると報告されており、近年は接種後の副反応についても専門家が継続して調査を行い、安全性を確認しています。
また、世界保健機関(WHO)は2021年に「子宮頸がん撲滅戦略」を打ち出し、HPVワクチン接種率を向上させることで、将来的に子宮頸がんの公衆衛生上の脅威を大幅に減らせるとしています。
2. 定期的なスクリーニング検査
ワクチン接種をしたとしても、すべてのHPV型を完全に防げるわけではありません。また、既にHPVに感染している可能性も否定できないため、定期的な子宮頸がん検診が推奨されています。具体的には、以下のような検査方法があります。
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HPV検査
子宮頸部から採取した細胞を調べて、ハイリスク型HPVの有無を判定します。HPV感染が陽性の場合は、その後のフォローアップが重要になります。 -
細胞診(パップテスト)
子宮頸部の細胞に異常がないかを調べる検査です。前がん病変や初期がんが見つかる場合もあるため、早期治療に繋げやすくなります。
3. 安全な性交渉の実践
HPVは性交渉を介して感染するケースが多いため、コンドームの使用やパートナー数をむやみに増やさないなどの配慮が大切です。もちろんコンドームでは100%感染を防げるわけではありませんが、性感染症リスクを減らす手段の一つになります。また、性交渉時に痛みや出血などの異常がある場合は早めに婦人科を受診し、必要に応じて検査を受けることが推奨されます。
4. 喫煙習慣の見直し
喫煙は免疫力を低下させるだけでなく、子宮頸部の細胞をがん化しやすい状態に導く可能性があると懸念されています。禁煙することで、子宮頸がんを含むさまざまながんのリスクが下がるだけでなく、全身的な健康改善が期待できます。家族や周囲の人が喫煙者である場合も、受動喫煙を避ける努力が望まれます。
5. 定期的な婦人科受診
日本では会社や自治体による健(検)診がある場合が多いため、定期的に婦人科を受診して検査を受けることが重要です。多くの場合、子宮頸がんは初期症状が軽微または無症状で進行するため、症状が出てからでは治療のタイミングを逃しやすいのが特徴です。定期検診は早期発見と早期治療への道をひらく、最も確実な対策の一つです。
まとめ
子宮頸がんの主な原因は、ハイリスク型HPVによる持続感染です。感染そのものは性交渉を介して広がりやすく、日本国内でも多くの女性が一生のうちに一度はHPVに接触すると言われています。ただし、HPVに感染しても多くは自然に排除されるため、必ずしもがんになるわけではありません。がんへ進行するかどうかは、免疫状態や生活習慣、喫煙、早期性交渉開始などの複数のリスク要因が重なって影響を与えます。
予防策としては、HPVワクチンの接種と定期的な子宮頸がん検診が非常に有効です。さらに安全な性交渉を行い、免疫力を保つためにも禁煙を含む健康的な生活を心がけることが大切です。早期に発見すれば治療の選択肢が増え、良好な予後が見込めるケースが多いがんでもあるため、「自分には症状がないから大丈夫」という思い込みで検診を先延ばしにしないでください。
最後に大切な一言:
本記事で紹介した内容はあくまで一般的な健康・医療情報であり、すべての個人に一律で当てはまるわけではありません。子宮頸がんをはじめとする婦人科領域の問題は個々の事情や体質によって異なるため、実際の診断・治療方針については必ず医師に相談し、専門的なアドバイスを受けてください。
参考文献
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医師によるアドバイスを受けましょう:
本記事は各種文献や専門家の知見を参考に作成しており、あくまで一般的な健康情報として提供しています。症状や疑問点がある場合は、必ず医師や専門家に直接ご相談ください。子宮頸がんの予防と早期発見のためには、定期検診やワクチン接種、生活習慣の改善が不可欠です。一人ひとりが情報を正しく理解し、適切に行動することが、子宮頸がんを遠ざける大きな一歩となります。