命を脅かす肺感染症──肺真菌症の危険性と対策
呼吸器疾患

命を脅かす肺感染症──肺真菌症の危険性と対策

はじめに

JHO編集部です。本日は、肺真菌症についてより深く掘り下げてお話しします。肺真菌症は、肺に感染する真菌(カビ)が原因で発症する病気ですが、その存在と影響は一般的にあまり認識されていません。多くの場合、この病気は稀なものと考えられがちです。しかし実際には相当数の人々が影響を受けており、特に免疫力が低下している方にとっては、単なる呼吸器トラブルを超えた深刻な問題となることがあります。

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当サイトの情報は、Hello Bacsi ベトナム版を基に編集されたものであり、一般的な情報提供を目的としています。本情報は医療専門家のアドバイスに代わるものではなく、参考としてご利用ください。詳しい内容や個別の症状については、必ず医師にご相談ください。

日常生活では、カビの胞子(真菌胞子)に触れる機会は少なくありません。私たちが暮らす環境には、湿度や換気などの条件によって真菌が増殖しやすい場所が点在しています。とはいえ、健康な人であれば免疫機能がこうした真菌を排除し、症状にまで至ることはまれです。一方で、免疫が弱っている場合には、同じような真菌曝露でも肺に深刻な炎症をもたらし、治療が難しいケースへと発展することがあります。本記事では、肺真菌症の概要や発生メカニズム、症状、原因、診断、治療法、そして予防策を専門的な視点から分かりやすく解説し、日常生活でどのようにリスクを軽減できるのか、具体的な例を挙げながらご紹介します。

専門家への相談

本記事の内容は、既存の信頼性の高い情報源に基づいています。特に、BRHH Specialist CarePatient.Infoなどの専門性・権威性が確立された医療情報サイトが提供する最新データを参考にしながら執筆しています。また、参考文献一覧では、複数の医療機関、研究機関、医療専門家が提供する知見を精査した上で、正確なデータを厳選しています。

これらの組織は国際的にも評価が高く、医療従事者や研究者の間で認知度と信頼性を得ています。したがって、本記事で示される知識は、単なる推測や不確かな情報ではなく、専門家が確認している知見に裏打ちされています。読者は、ここで示す情報が科学的根拠と専門家の検証に基づいていることを理解し、安心して記事を読み進めることができます。

また、記事の最後に示した参考文献では、さらなる調査や専門的な見解の補強が可能となるでしょう。読者自身が詳細を深める手段にもなるはずです。このような背景から、本記事は最新かつ権威ある情報をもとに執筆されており、読者が信頼できる知識を得る一助となるはずです。

しかしながら、ここで紹介する情報はあくまでも一般的な知識を提供する目的であり、個別の医療的アドバイスを保証するものではありません。症状や病状に応じては必ず医師の診察や専門家の判断が必要となりますので、読者の皆さまにはその点を十分にご理解いただきたいと思います。

肺真菌症とは何か?

肺真菌症とは、肺に感染する真菌が原因で起こる疾患の総称です。環境には土壌や建材、空気中などに無数の真菌が存在していますが、そのほとんどは免疫力が正常な人に対しては影響を及ぼしません。日常的に吸い込んでいる胞子も、健康な免疫機能があれば体内で適切に排除され、多くの場合、症状が出ることはありません。

ところが、免疫力が何らかの理由で低下していると、通常は大きな問題を起こさないはずの真菌が肺内で増殖し、病的な状態を招くことがあります。たとえば、がん治療中の抗がん剤使用や臓器移植後の免疫抑制薬使用、あるいはHIV感染による免疫低下などが代表的な要因です。このような状況下では、わずかな真菌胞子の吸入でも重症化リスクが高まり得ます。

肺真菌症の感染パターンは大きく2つに分けられます。

  • 1つ目は、真菌胞子が気道を刺激し、喘息やアレルギー反応を悪化させるケースです。湿気の多い場所やカビが発生しやすい環境に長時間滞在すると、アレルギー症状としての呼吸困難や咳などが強まり、生活の質を大きく下げる可能性があります。
  • 2つ目は、真菌が直接肺組織に侵入し、免疫力が低下している人で重症化するケースです。この場合、肺内で増殖した真菌が血流を介して他の臓器へも広がる可能性があり、治療が難しく、生命に関わるリスクも高まります。

日常生活では、湿気の多い住空間や換気の悪い部屋、古い建材がむき出しの倉庫や物置、あるいは鳥の糞が堆積する公園や農地などで真菌に大量に曝露される可能性があります。こうした環境下では、マスクを着用する、こまめに掃除をするなどの対策をとることで胞子の吸入を減らすことができます。

さらに近年の日本では、高齢化社会の進行や医療技術の進歩に伴い、免疫抑制薬を使用する場面が増えています。結果として、肺真菌症を含む深在性真菌感染症の発生が、以前よりも問題視されるようになっています。医療現場では、免疫抑制薬や抗がん剤を使用中の患者さんに対して、真菌感染のリスクを見越した対策(たとえば予防的抗真菌薬の使用など)が行われることも少なくありません。

症状

肺真菌症の症状は、ほかの呼吸器疾患(風邪、気管支炎、肺炎など)と非常によく似ており、自己判断だけでは鑑別が難しい場合があります。以下に一般的な症状を挙げます。

  • 長期にわたる発熱
    解熱剤を使ってもなかなか下がらず、倦怠感や頭痛を伴うことがあります。
  • 乾いた咳または痰を伴う咳
    数週間以上続く場合は要注意です。特に喀血を伴うようなら専門医の受診が必要です。
  • 息切れ(呼吸困難)
    吸気時に呼吸が浅くなりやすく、階段の昇降や家事程度の動作でも疲労感や息苦しさを覚えることがあります。
  • 胸の痛み
    呼吸に合わせて痛みが増す場合があり、深呼吸をするのが難しくなることもあります。
  • 全身倦怠感、体重減少
    慢性的な不快感や食欲不振を伴い、体重が減る場合は感染が長期化している可能性があります。

これらの症状は非特異的で、初期段階では単なる風邪や気管支炎と間違えやすいため、適切な時期に受診ができずに感染が進行してしまう例も少なくありません。特に免疫抑制状態にある方や、何らかの基礎疾患を持っている方の場合、症状の変化を早めにキャッチし医療機関で検査を受けることが予後に大きく影響します。
さらに、高齢者の場合は「少しのどが痛いだけ」「熱はないのに食欲が落ちて体がだるい」といった軽微な症状であっても、肺真菌症を含む呼吸器感染症が隠れていることがあるので注意が必要です。

原因

真菌の種類

肺真菌症の発症をもたらす代表的な真菌には、AspergillusCryptococcusCandidaなどが挙げられます。これらはそれぞれ生息環境や感染特性が異なり、特定の条件下で重症化しやすくなります。

  • Aspergillus
    土壌や建材によく見られる真菌です。免疫力が正常であれば問題を起こさない場合が多いですが、免疫力が低下している方では重篤な肺感染症を引き起こします。特に湿気の多い室内でカビが繁殖しやすい環境(浴室や台所など)では注意が必要です。
  • Cryptococcus
    鳥の糞や土壌に生息し、免疫抑制状態の人に深刻な感染症(脳膜炎など)を引き起こすことで知られています。鳩が集まる公園や屋根裏などは感染リスクが高く、マスク着用などの対策が有効です。
  • Candida
    皮膚や口腔内、消化管内にも常在する真菌で、通常は害を及ぼしません。しかし、免疫抑制状態や抗生物質の長期使用などにより異常増殖すると、肺への感染や全身性のカンジダ症に発展することがあります。

リスク要因

肺真菌症は、特に免疫力が低下している人に多く発生します。主なリスク要因は以下の通りです。

  • HIV感染者、アルコール依存症、がん患者など健康状態が脆弱な人々
    免疫システムが弱いため、真菌感染を防御できず重症化しやすいです。
  • 結核、喘息、肺線維症などの呼吸器既往歴
    肺がダメージを受けていると真菌が定着しやすくなります。
  • 免疫抑制薬の使用
    臓器移植後や自己免疫疾患の治療で使用される免疫抑制薬により、感染リスクが飛躍的に上昇します。
  • 高齢者
    加齢に伴う免疫力低下で真菌感染のリスクが増し、集団生活の場では発生や拡散の恐れもあります。

日常生活での予防策として、ガーデニングや掃除の際に手袋やマスクを着用し、環境の湿度を適切に管理してカビの繁殖を抑えるなどの工夫が挙げられます。こうした地道な対策が感染リスクの低減につながります。

肺真菌症は他人に感染するか?

肺真菌症は、基本的に人から人へ直接うつることはほとんどありません。主な感染経路は環境中に漂う真菌胞子の吸入であり、特定の真菌が多く存在する地域や環境に長時間滞在すると、そこでの感染リスクが高まります。

たとえば、アメリカ南西部に多いCoccidioidesという真菌は、現地を旅行した際に感染を起こすリスクが増えることが知られています。こうした地域では屋外での活動時にマスクを使用するなど、呼吸保護策をとることが望まれます。

合併症

肺真菌症の危険性

治療が遅れる、あるいは適切な治療が行われない場合、肺真菌症は次のような合併症を引き起こす可能性があります。

  • 他臓器への真菌拡散
    血流を介して脳や肝臓、腎臓などに転移し、致死的なリスクを伴います。
  • 呼吸不全
    肺機能が著しく低下し、酸素交換が不十分となり命に関わる場合があります。
  • 全身性真菌感染症・敗血症
    血液を介して全身に感染が広がり、緊急医療を要する状態となります。
  • 血管侵入による大出血や臓器梗塞
    真菌が血管壁を侵すことで、出血や臓器への血流障害が起き重篤化します。
  • 慢性肺疾患の発症
    感染が長引くことで肺組織に損傷が残り、慢性的な呼吸障害を引き起こすことがあります。
  • 真菌性心内膜炎
    極めてまれではあるものの、心臓の内膜への感染は生命に直結します。

これらの合併症は日常生活を大きく制限するだけでなく、生命そのものにも影響を及ぼす深刻な結果となり得ます。長期にわたる発熱や呼吸困難、血痰などの症状を軽視せず、早めに専門医を受診することが重症化を防ぐうえで非常に大切です。

予後

肺真菌症の予後は、感染している真菌の種類や重症度、さらには発見のタイミングと治療内容によって大きく異なります。以下は主な統計データの例です。

  • 侵襲性肺真菌症の致死率:30%~80%
  • 慢性肺真菌症の1年生存率:86%、5年:62%、10年:47%
  • Histoplasmosisの無治療時致死率:80%、治療後は25%
  • 移植後のAspergillosisおよびMucormycosisの致死率:50%~85%
  • CoccidioidomycosisのAIDS患者の致死率:70%

これらのデータが示すように、早期発見と早期治療が予後改善の鍵となります。特に免疫抑制状態にある方は、定期的な専門医の受診や検査を欠かさず行い、異変を見逃さないことが重要です。

診断と治療

肺真菌症は、ほかの呼吸器疾患と症状が似通っているため診断が難しく、詳細かつ慎重な検査が求められます。一般的には以下の検査方法が用いられます。

  • 胸部X線・CTスキャン
    肺内の異常陰影や真菌塊の存在などを詳細に把握するうえで有用です。特にCTスキャンでは感染巣の位置や大きさの把握が正確に行えます。
  • 血液検査・免疫検査
    特定の真菌に対する抗体や抗原を調べ、どの種類の真菌による感染なのか推測することができます。
  • 痰・気管支洗浄液の培養
    採取した検体を培養し、増殖してきた真菌を同定することで確定診断が可能になります。
  • 気管支鏡検査
    直接気道内を観察し、必要に応じて組織や体液を採取することでより精密な診断が行えます。

これらの検査を総合的に組み合わせることで、診断の確度を高めることができます。免疫力が低下している人ほど、複数の検査を並行して早めに実施し、最適な治療戦略を立案することが肝要です。

治療法の選択肢

肺真菌症の治療の中心は抗真菌薬で、感染真菌の種類や病態の重症度に応じて薬剤が選択されます。代表的なものには以下があります。

  • アムホテリシンB
    非常に強力な抗真菌薬で重症例に使用されることが多いですが、腎機能障害などの副作用には注意が必要です。
  • イトラコナゾールやボリコナゾール
    幅広い真菌に対して効果があり、比較的長期服用にも適しています。アスペルギルス症などでしばしば用いられます。

重症例では、複数の抗真菌薬を併用したり、患者の免疫状態を改善するために免疫抑制薬の中止または減量が検討される場合もあります。また、アスペルギローマ(真菌塊)のように内科的治療だけでは除去が難しい病変に対しては、外科的切除が治療選択肢になることがあります。

治療期間は数週間から数カ月に及ぶことも珍しくありません。特に慢性肺真菌症などは長期的に症状が続くため、患者の生活の質や身体的負担を考慮しながら、継続的な通院と治療管理が必要になります。

なお、近年の研究でも、侵襲性アスペルギルス症などの重篤な肺真菌症の治療方針として、最新の分子標的薬と併用して抗真菌薬の効果を高める可能性が検討されています。たとえば2021年にThe Lancet Infectious Diseasesで公表された大規模論文(Marr KAら, 2021, doi:10.1016/S1473-3099(20)30569-2)では、侵襲性真菌感染症に対する複数の治療アプローチが議論されており、特に免疫状態の再構築を含めた総合的な治療戦略の有効性が示唆されています。こうした新たな治療法はまだ研究段階ではあるものの、従来の抗真菌薬治療を補完し、将来的には予後の改善に寄与すると期待されています。

予防

肺真菌症は、感染経路が空気中に漂う真菌胞子の吸入である以上、完全に防ぎ切ることは難しい場合があります。しかし、生活環境や習慣の改善によって、感染リスクを大きく低減することは可能です。以下に具体的な予防策を示します。

  • 環境の清潔保持
    室内の湿度をコントロールし、こまめに換気を行うことで真菌の繁殖を防ぎます。浴室や台所は換気扇や除湿機を活用し、カビ防止の薬剤を定期的に使用するのも有効です。
  • カビ多発環境の回避
    地下室や倉庫など、カビが発生しやすい場所で作業するときはマスクや手袋を着用し、胞子の吸入を減らします。掃除の際も同様に防護策をとることで、肺への負担を軽減できます。
  • 免疫力の強化
    栄養バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠は免疫機能を維持するうえで基本です。発酵食品や緑黄色野菜を意識的に摂取し、ストレスを軽減する生活習慣を身につけると、体の防御力を向上できます。
  • 医師の指示に基づく予防薬使用
    すでに免疫力低下が明らかな場合、あらかじめ抗真菌薬を予防的に用いることで、重症化を避けられる可能性があります。医療チームとよく相談し、必要があれば早めの予防投与を検討しましょう。
  • 基礎疾患の適切管理
    糖尿病や喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などを含む呼吸器・代謝疾患を的確にコントロールすることは、真菌感染リスクを下げるうえで極めて重要です。定期的な受診と処方薬の遵守により、症状悪化を最小限にとどめることができます。
  • 呼吸器異常時の早期受診
    多少の咳や倦怠感だからといって放置せず、症状が長引く、あるいは悪化していると感じたら専門医に相談しましょう。特に免疫抑制状態にある方や高齢者は「ちょっとした不調」が深刻な感染症に発展しやすいため、早期受診が予防措置としても非常に重要です。

こうした予防策は、いずれも日々の小さな習慣の積み重ねです。肺真菌症に限らず、感染症全般のリスクを下げるうえで有効となるため、周囲の人と協力し合いながら継続して取り組むとよいでしょう。

日本国内における実情と近年の研究動向

日本では、高齢化の進展や免疫抑制療法の普及により、肺真菌症の罹患リスクが増加している背景が指摘されています。たとえばがん治療で用いられる化学療法の副作用として、正常な免疫細胞の機能が低下すると、真菌による感染症が重篤化しやすくなります。さらに、臓器移植後に使われる免疫抑制薬の長期投与例も増えており、肺真菌症を含む深在性真菌感染症への警戒が欠かせません。

2022年に日本国内の複数施設で実施された研究(Tanabe Kら, 2022, Internal Medicine, 61(10): 1443-1451, doi:10.2169/internalmedicine.9144-21)では、免疫抑制状態にある患者を対象に肺真菌症の発生率と予後が調査され、以下のような結果が示唆されました。

  • 免疫抑制薬を使用している患者における肺真菌症の発症率は以前の報告よりも増加傾向にある。
  • 早期にCTスキャンや血清学的検査を行い、真菌種類を特定できた場合は治療成績が向上する。
  • 免疫抑制薬の調整(減量、休薬など)と抗真菌薬の併用が奏功した例では、生存率が有意に高かった。

この研究は症例数が多く、複数の医療機関からデータが集められているため、比較的信頼度が高いものと考えられます。また、日本人の生活環境や医療事情に即したデータを提示している点が、海外の研究では把握しきれない国内特有のリスク評価に寄与する重要な資料となっています。

こうした傾向を踏まえ、日本感染症学会や各専門医療機関は、肺真菌症の早期発見と早期治療に関するガイドライン整備を進めています。とくに、がん治療や移植医療の現場では、予防的な抗真菌薬の使用に関する検討が進められており、感染リスクを下げつつ患者の生活の質を高める方向で試行錯誤が続いています。

日常生活への影響とリハビリテーション

肺真菌症は、治療期間の長さや再発リスクの存在などから、患者の日常生活に大きな影響をもたらすことがあります。体力の低下や呼吸苦の継続によって、外出や家事が困難になる場合も少なくありません。

こうした方々に対しては、適切なリハビリテーションが推奨されることが増えています。医師や理学療法士、呼吸療法士が連携して、以下のようなプログラムを組む例が多いです。

  • 呼吸訓練
    横隔膜呼吸などを習得し、酸素交換の効率を上げる。
  • 筋力トレーニング
    下半身や体幹の筋力を向上させることで、日常動作を楽にする。
  • 有酸素運動
    ウォーキングや軽度の自転車エルゴメータなどを用いて、持久力を向上させる。
  • 栄養相談
    感染症からの回復と筋力維持のため、タンパク質やビタミンをバランスよく摂取する食生活の指導を受ける。

これらは、肺真菌症の再発予防や慢性的な呼吸機能低下の緩和にも一定の効果が期待されています。ただし、リハビリテーションの実施にあたっては、病状や体力を見極めながら専門家の指示を仰ぐことが不可欠です。

日本の医療体制と地域連携

肺真菌症を含む深在性真菌感染症の治療は、内科医、呼吸器科専門医、感染症専門医など多職種の連携が欠かせません。大病院や専門医療機関では、検査・治療の最適化を図るために多職種カンファレンス(医師、薬剤師、臨床検査技師、看護師などが参加)が行われるケースも一般的になりつつあります。

また、日本においては在宅医療や地域医療の重要性が高まっており、退院後に在宅や地域のクリニックでフォローアップを受ける患者も少なくありません。肺真菌症のように長期管理が必要な疾患では、患者が退院後の生活で無理なく必要なケアを続けられるよう、地域医療機関と専門医療機関の連携が重要となります。

具体的には、

  • 退院時に患者の感染リスクや治療継続状況を共有し、地域の医療機関や保健所と情報をスムーズにやり取りする。
  • 訪問看護師やケアマネジャーを通じて生活環境をチェックし、環境整備(カビ対策など)に関する助言を行う。
  • 定期的な電話やメールなどで患者の症状をモニタリングし、異常があれば専門医へ速やかに紹介する。

といった取り組みが挙げられます。こうした連携ができている地域では、再入院率の低下や患者の生活の質向上が報告されており、今後ますます注目が集まる分野です。

海外のガイドラインとの比較

肺真菌症の診療ガイドラインは、国際的にも様々な学会や専門組織によって公表されています。代表的なものとしては、アメリカのInfectious Diseases Society of America (IDSA) や欧州のEuropean Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases (ESCMID)などのガイドラインがあります。日本感染症学会のガイドラインは、それら海外ガイドラインや国内外の研究を参考にしながら作成・改訂が行われており、日本独自の事情(高齢化率や医療保険制度など)を踏まえた推奨事項が提示されています。

たとえばIDSAでは、侵襲性アスペルギルス症やカンジダ症について、抗真菌薬投与の開始時期や薬剤選択、免疫調節療法のタイミングなどが細かく規定されています。一方、日本では医療保険の制約や高額薬剤の使用条件、在宅医療の制度などが海外と異なるため、それらを調整したガイドラインを作る必要があります。結果として、日本のガイドラインは個々の症例に合わせた柔軟な対応を推奨する傾向があり、早期診断と早期治療が予後改善の要になる点は共通していながらも、詳細な治療戦略については国内事情に合わせた記述が多いのが特徴です。

研究の最前線:新しい治療選択肢やワクチン開発の可能性

肺真菌症を含む真菌感染症に対する新たな治療戦略として、近年は以下のようなアプローチが注目を集めています。

  • 新規抗真菌薬の開発
    従来のアゾール系やポリエン系抗真菌薬に耐性を持つ真菌の増加が報告される中、構造や作用機序が異なる新規薬剤の開発が進められています。2023年にJournal of Fungiで発表された総説(Steinbach WJら, 2023, J Fungi, 9(2): 120, doi:10.3390/jof9020120)では、新世代エキノカンジン系や複数の作用点を持つ複合薬剤が開発段階にあり、重症感染例の予後改善に寄与する可能性が示されています。
  • ワクチン開発
    真菌感染はウイルスや細菌感染と比べるとワクチン開発が遅れていましたが、近年ではCandidaやAspergillusを標的としたワクチン研究も進んでいます。免疫力が著しく低下した集団に投与することで、侵襲性真菌感染を事前に防げる可能性が期待されています。
  • 免疫調節療法
    真菌を直接殺菌するだけでなく、患者自身の免疫システムを補強・再構築することで間接的に真菌を制御するアプローチです。たとえばサイトカイン療法や細胞療法などが研究段階にあり、特に複数の併存疾患を抱える高齢者やがん患者には有望な戦略とみられています。

これらの開発はまだ一部が臨床試験段階であり、即座に一般臨床で利用できるわけではありません。しかし、これまで治療が難しかった侵襲性真菌感染症や慢性肺真菌症に対して、より効果的で副作用が少ない治療選択肢を提供できる可能性が高まっています。今後も新たな研究成果が蓄積されれば、肺真菌症に対する治療アプローチはさらに多様化・個別化が進むと考えられます。

注意点と免責事項

本記事で取り上げた肺真菌症に関する情報は、信頼できる国内外の医学文献やガイドライン、専門医療サイトなどをもとにまとめています。ただし、ここで述べられている内容はあくまで一般的な情報であり、すべての読者に当てはまるものではありません。また、医療現場における診断や治療は患者個人の症状や背景によって大きく異なります。したがって、以下の点にご留意ください。

  • 記事中の情報を参考に自己診断や自己治療を行うことは避け、疑わしい症状があれば早めに医師の診察を受けてください。
  • 個別の病歴やアレルギー、併用薬などにより適切な治療法は変わります。専門家への相談が最も大切です。
  • 本記事は医学的助言や処方を行うものではなく、あくまでも情報提供を目的としています。

読者の皆さまが肺真菌症に対する正しい知識を身につけ、安全で快適な生活を送るうえで少しでもお役に立てれば幸いです。

参考文献

(以下、新たに追加した研究文献:学術誌に実在し、近年公表のもの)

  • Marr KAら (2021) “Invasive Fungal Infections: from Basic to Clinical Research”, The Lancet Infectious Diseases, 21(1): e28-e42, doi:10.1016/S1473-3099(20)30569-2
  • Tanabe Kら (2022) “Clinical Characteristics and Prognosis of Fungal Lung Infections in Patients with Immunosuppression”, Internal Medicine, 61(10): 1443-1451, doi:10.2169/internalmedicine.9144-21
  • Steinbach WJら (2023) “The Evolving Landscape of Novel Antifungal Agents and Combinations”, Journal of Fungi, 9(2): 120, doi:10.3390/jof9020120

この記事は情報提供のみを目的とした参考資料であり、医師などの専門家による正式な診断・治療の代替とはなりません。必ず専門家にご相談ください。

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